第2章 ポストコロナに向けたデジタル化(第3節)
第3節 オンラインプラットフォーム関連ビジネスの動向及び政策対応~中国を中心に~
近年、電子商取引をはじめとしたデジタル市場が世界的に急速に発展し、新たな成長産業として期待されてきた。そのサービスを提供するオンラインプラットフォーム企業118(以下、「PF企業」という)も急速に成長したが、少数の企業が市場シェアの大半を占める寡占状況となっており、それに伴う課題や規制の必要性も認識されるようになっている。本節では、導入として欧米諸国におけるPF企業に対する規制の議論を紹介する。また、中国においても、20年秋頃から規制の動きが強まっており、市場の現状及び規制の動向について紹介する。
1.欧米諸国におけるオンラインプラットフォーム企業の規制の動き
(1)オンライン市場の動向に関する近年の議論
オンライン市場の急速な拡大に伴い、その市場構造の寡占化も顕著となっている。こうした状況に鑑み、欧米諸国では、寡占的な市場構造の柱となっているPF企業の存在が、市場の競争環境や消費者便益、さらには経済成長の観点からどのように評価できるか、議論が行われている119。
PF企業に対する肯定的な評価としては、消費者の利便性を飛躍的に高め、国境間取引を容易にし、人々の生活に不可欠な存在となっていることが指摘されている。また、プラットフォームを媒介として財やサービスの販売を行う小規模事業者のスタートアップとなっていることや、経営のハードルを低下させ、イノベーションの潜在的な源泉となっていること、消費者がPF上で商品の比較検討を行いやすい環境となることで、事業者間の競争を通じた資源再配分を促し、既存の事業者の生産性を高めていることも指摘120されている。
これに対し、PF企業が経済成長にもたらす弊害も指摘されている。例えば、PF事業は、ネットワーク効果や規模の経済の存在、限界費用が非常に小さいこと、データ利用が収穫逓増であることなどにより寡占化が進みやすいため、巨大PF企業とその他の事業者の格差が拡大し、PF企業が支配的地位を濫用するリスク121が指摘されている。加えて、プラットフォーム利用者から収集した検索履歴や個人情報等のデータの利用方法が不透明であることから、利用者の同意の有無にかかわらず、そうした情報が第三者に利用されたり、プラットフォーム利用時に表示される広告の設定に活用されるなど、利用者のプライバシーが侵害される可能性もあるとされている。
こうした問題意識を踏まえ、世界各国の競争政策当局や独立系の研究機関は17年頃以降、デジタル市場での競争に関するレポートを相次いで公表している。そのうち、19年に公表された、アメリカのスティグラー委員会による最終報告書では、市場の寡占化が経済成長、特にイノベーションに及ぼす影響を議論し、寡占PF企業は自社にとって都合の良くない新技術(イノベーション)に対してはこれを阻害ないしそうした技術を開発した企業をM&Aを通じて支配下に置くことがあると指摘している122。
この結果、ベンチャー投資家はPF企業が提供するコアサービスと直接競合する分野(キルゾーン)の事業への投資を避ける傾向がみられ、これによりアメリカでは中期的にスタートアップの減少などビジネスダイナミズムが低下したとの見方123もある。また、英国政府のレポートでは、グーグルやフェイスブックといったPF企業を名指しし、こうした企業自身が限られたリソースのもとで画期的なサービスを提供することで成長してきたが、今後は自らが巨大となり競争を阻害することで、イノベーションも起こりにくくなる可能性を指摘している。
過去5年間に公表された18の競争政策当局等による22のレポートを概観したLancieriらの論文では、これらのレポートは共通してオンライン市場での競争促進を強化すべき、との方向性で一致している一方、どのような政策手段を用いるかは見解が分かれることが指摘されている124。上述のスティグラー委員会の報告書では、法規制の強化を通じたM&Aの監視強化の必要性も指摘されている。
(2)欧米でのオンライン市場への政策対応に関する議論の動向
こうした議論を踏まえ、プラットフォーム利用者の保護や権利侵害可能性、オンライン市場での様々な課題への対応として、先進諸国では対応策導入に向けた具体的な動きがみられる。
(欧州委員会)
欧州委員会は、20年12月15日に新しいデジタル規制である「デジタルサービス法(Digital Services Act)」及び「デジタル市場法(Digital Markets Act)」法案を公表した125。同法案では、PF企業に係る問題点として、(1)利用者(事業者)との取引における不公正な慣行、(2)EU市民の個人情報保護の必要性、(3)支配的地位の濫用、(4)デジタル社会に適合しない消費者保護ルール、(5)租税回避等の諸点を挙げている。そのうえで、デジタルサービス法では違法取引への対応や、データ保護の観点からの規制を行うことを主目的とする一方、デジタル市場法ではデジタル市場へのアクセスをコントロールすることができるPF企業に対し、禁止行為等に係る事前ルールを課すことで、デジタル市場でのプレーヤーに対等な機会を保証することを主目的としている。同法案には、ルールに従わない場合は売上の10%までの罰金を科すことや、最も強い措置として構造分離などの手段にも言及するなど、強い措置が含まれている点が特徴である。同法案は、欧米諸国のなかでは他国に先駆けて、巨大化したPF企業に対する具体的な規制策を盛り込んだ点が注目されているが、実態として、どこまで巨大PF企業の行動に踏み込めるか試行的な取組段階である、との見方もある。
(英国等)
オーストラリア、英国及びアメリカでは、競争政策の強化の観点に加え、競争政策を補完するような規制政策についても様々な議論が行われている。例えばオーストラリア競争・消費者委員会の報告書では、市場環境の透明性が低い場合や、競争環境は損なわれないものの消費者の厚生を損なう可能性のある市場慣行がある場合等には、競争政策の補完的な役割を規制当局が果たすことが望ましい、と指摘している。こうした組織の役割には、参入障壁を低くしイノベーションを促すことが含まれているとの見方がある126。
英国政府は、20年11月末に市場支配的地位にあるPF企業の行動規制の導入強化を目的としたデジタル市場ユニット(Digital Markets Unit)の設置を決定し、21年4月に設置された。同ユニットの活動内容はPF企業の行動規範(code of conduct)の制定や、データ管理に係る政策及び分離政策を含む競争促進策を実施することとされている127。
(アメリカ)
上院司法委員会では19年以降、オンラインでの競争に関する委員会を設置して報告書を取りまとめた128。報告書ではGAFAの支配的地位やビジネス慣行が経済に及ぼす影響の調査や、現行の競争法制がこうした事業者の市場支配力に適合したものなのかどうかを議論している。この報告書では、市場そのものよりも個別企業(GAFA)に焦点を当て、GAFAの存在が、起業、オンライン上のプライバシーを損ねたエビデンスが存在するとし、その結果イノベーションが減少し消費者の選択幅が狭まったと指摘している。PF企業の構造分離、事業者の対等な待遇の義務付け、データポータビリティの要請、独占禁止法の強化など様々な政策の可能性を勧告している。
各国が直面している課題や法・規制制度は異なるものの、多くの国々がPF企業への対応の強化を検討し始めた背景には、各国が共通して、従来型の競争政策ではデジタル時代に十分な対応ができないことへの危機感があると考えられる。各国の政策当局が直面している課題の多くは国境をまたぐものであり、それゆえに各国政府が協調して解決策を模索することが有益と考えられる。英国での専門家パネルのレポート129では、各国がグローバルPF企業に対して共通したアプローチを取ることで、世界中の消費者がこうしたPF企業がもたらすイノベーションの恩恵を受けることができると指摘している。
欧米諸国でのこうした議論や政策の動きの背景には、PF企業の巨大化が、経済活動や民主主義に悪影響を及ぼすとの問題意識がある。例えば、上述のデジタルサービス法案では、超大規模PF企業が一定の社会的責任を負っているとの考え方を前提に、EU内でのサービス利用に起因する重大なシステミックリスク130の特定や評価義務を課している。他方、中国では欧米と異なる独自のPF企業が発展し巨大化しているが、足下では中国政府も競争法制の強化を行っており、欧米と類似の方向性がみられるものの、欧米の規制拡充の趣旨とは必ずしも合致していない可能性もある。以降、中国の独自PF企業の発展の状況や足下の政策の動きなどを紹介していきたい。
2.中国におけるインターネット産業の発展
中国では、近年、経済活動のオンライン化が急速に発展し、電子商取引、モバイル決済等が生活に浸透している。さらに、こうしたオンライン化は、20年の感染症流行下において一層進展している。これらのサービスを提供するアリババ集団、テンセント等のPF企業も急成長し、例えば、20年末時点の香港証券取引所131の時価総額で、首位(テンセント)と第2位(アリババ集団)を占めるまでとなっている。中国政府も、15年にインターネットと様々な産業を融合させ、新たな産業モデルの創出を図る「インターネットプラス」戦略132を発表するなど、インターネットを活用したイノベーションや成長を目指しており、こうした政策の方向性もインターネット産業の発展を後押ししたとみられる。同時に、インターネット産業が急速に発展を遂げる中で課題やリスクも生じており、中国政府は、電子商取引やインターネット金融の健全な発展を促すべく取組を進めてきているが、さらに、20年秋頃からPF企業に対する規制を強めている。
(1)インターネット小売
中国では、インターネット利用者数が10年の4.6億人から20年に9.9億人となり、インターネットの普及が進むなかで(第2-3-1図)、インターネット小売市場が急速に発展している。19年時点で、インターネット小売総額の規模は世界第1位となっている133(第2-3-2図)。インターネット小売総額(財・サービス)の推移をみると、10年の0.5兆元から20年に11.8兆元と20倍以上に増加し、小売総額に占める割合では3.3%から30%に拡大している。第2位のアメリカでも小売総額に占める割合は拡大を続けているものの、10年の4.5%から19年に11.0%であり、それと比較しても急速な拡大ぶりとなっている(第2-3-3図)。
このように巨大に成長した中国の市場において、少数のPF企業が市場を寡占している。B to C市場のサイト別シェア134をみると、19年時点で、第1位がアリババの天猫(TMALL)の50.1%、第2位が京東の26.5%、第3位が拼多多(Pinduoduo)の12.8%と、上位3社で約9割を占めており、かつアリババが市場の過半を占める圧倒的なシェアとなっている。
また、この数年で、越境Eコマースも急速に拡大しており、越境EC取引額135は、15年の360億元から19年には1,862億元と約5倍となっている(第2-3-4図)。
なお、このようにインターネット小売市場が急速に拡大する中で、法整備も進められており、18年に電子商取引に携わる事業者の義務や消費者の権利保護等を定めた「電子商取引法」136が可決、19年から施行されている。
(2)インターネット金融
インターネット小売の普及に際し、当初、その決済手段としてオンライン決済が導入され、その後モバイル決済へと進展し、急速に社会に普及した。オンライン決済の利用者数は、10年末の1.4億人から、20年末には8.5億人へと増加している(第2-3-5図)。また、非銀行決済機関による電子決済件数及び金額は、13年の193億件及び10.4兆元から19年には7,200億件及び249.9兆元と大きく増加した。なお、金額では銀行が圧倒的に多いが137、件数では非銀行決済機関が14年以降銀行を上回り、19年時点で76.3%となっており、かつ、小口の決済が多くなっている(第2-3-6図)。電子決済の社会への浸透ぶりについては、18年7月及び20年12月に、中国人民銀行が「現金は最も基本的な決済手段であり、いかなる機関も個人も支払いを拒絶してはならない」旨の公告を出していることからもうかがえる。公告発出の背景として、インテリジェントサービスの利用拡大が生活や消費の様式に変化をもたらす中で、中国人民銀行は多様な支払い方法の発展を奨励するが、それと同時に、現金の使用可能性を担保するとともに、人民元の法的地位を維持する必要もあるとしている。また、近年の取組により、現金拒否の問題は総じて軽減されてきたが、一部の商人や機関はコスト管理等を理由に、現金の受取になお消極的であるとしている。さらに、感染症流行が現金授受の環境に新たな影響をもたらし、現金拒否の問題がよみがえっているとし、具体例として、非接触等の新たな消費様式では現金支払のニーズを考慮しておらず、特に高齢者の消費や支払いの障壁となっていることなどを挙げている。他方で、中国人民銀行は、14年からデジタル通貨に関する研究を進めているとしていたが、20年以降、各地で実証実験を実施しており、さらに、20年10月に示された「中国人民銀行法」の改正案において、「人民元は実物形式とデジタル形式からなる」と規定し、法整備も進めるなど、デジタル通貨の導入に向けた準備が進んでいる。
オンライン決済においても、少数のPF企業が寡占しており、第三者決済機関におけるモバイル決済額のシェア138をみると、19年第4四半期時点で、第1位がアリババの支付宝(Alipay)の55.1%、第2位がテンセントの财付通(Tenpay)の38.9%と、両社で全体の9割以上を占めている。
その後、PF企業は、オンライン決済以外にも、融資、資産運用、保険など、その他の金融サービスも発展させている。例えば、資産運用では、アリババは、13年、支付宝の口座に預けている資金を運用できる資産運用商品として「余額宝」の販売を開始した。操作が簡易で利便性が高いことや、銀行預金金利より利回りが高いこと139などもあり、資産残高は急速に拡大し、ピークの18年3月期には約1.7兆元に達した140(第2-3-7図)。アリババは、その後、消費者金融サービス等も展開しており、14年に設立された金融子会社であるアント・グループの営業収入総額の内訳をみると、17年時点では電子決済54.9%、貸出24.8%、投資商品16.0%と、電子決済が過半以上を占めていたが、20年上半期には、電子決済は35.9%に低下し、貸出が39.4%、投資商品15.6%と、貸出が最大となっている。
このほか、インターネット金融の中で、一時急拡大がみられたのが、P2Pレンディング(インターネット上のプラットフォームを介した個人間の金銭貸借)である(第2-3-8図)。P2Pプラットフォーム数は、14年1月時点の651件からピークには3,605件となり、残高は309億元から1.1兆元まで拡大した。しかしながら、不正等が横行したことから、16年に規制が強化され、20年11月にはプラットフォーム数はゼロとなった。
この背景として、当初、インターネット金融は、銀行から融資を受け難い小規模・零細事業者や個人の資金需要を満たすという包摂金融の観点から期待されていたものの、新たな金融サービス形態が急速に拡大する中で課題やリスクも生じたことから、15年以降、中国政府は、インターネット金融の健全な発展に向けた取組を開始した141。電子決済についても、当初は第三者決済機関が銀行と直接連携してサービスを提供していたが、中国人民銀行は、17年8月に第三者決済機関との清算機関として「網聯」を設立し、18年6月以降は全ての決済業務を「網聯」を通じて行うこととするなど、管理強化が行われている。
(3)経済に占める位置づけ
中国では、近年、経済成長率は緩やかに低下しているが、インターネット産業が急速な発展を遂げる中で、情報通信・ソフトウェア・ITサービス業の成長率(15年以降公表)は、前年比で10%を超える高い伸びで推移しており、18年には27.8%増まで高まり、その後伸び幅は縮小したものの、20年も16.9%増と高い伸びを維持した。また、中国国家統計局が16年から「三新(新産業、新業態、新ビジネスモデルを中心とする経済活動142)」経済の付加価値額を公表しているが、19年時点で名目GDPの16.4%を占めている。内訳は、一次産業が0.7%、二次産業が7.1%、三次産業が8.6%となっている(第2-3-9図)。
また、電子商取引関連(関連の情報技術等の間接的就業者を含む)の就業者数は、14年の2,690万人から19年に5,126万人に増加し、前年比では15年をピークに低下しているものの、19年も8.3%増と依然高い伸びとなっている(第2-3-10図)。また、就業者全体に占める割合も14年の3.5%から19年に6.6%へと高まっている143。
さらに、20年には、感染症流行下において、社会経済活動のオンライン化が一層進展している。例えば、インターネット普及率は、19年6月の61.2%から20年12月に70.4%に上昇した。特に、これまで都市部に比べて普及が遅れていた農村部での上昇が著しく、19年6月の39.8%から20年12月時点55.9%と16.1%ポイントの上昇となった(前掲第2-3-1図)。また、ライブコマース(インターネット上でライブ動画を配信し、商品の宣伝、販売を行う)、オンライン教育、オンライン医療等、新たな業態やサービスも普及した。例えば、ライブコマースの利用者数は、20年3月の2.6億人から12月に3.9億人に増加した。また、電子商務センターの推計144によると、ライブコマースの市場規模は19年の4,437.5億元から20年に9,712.3億元(インターネット小売の約8%に相当)に拡大の見込みとなっている。中国政府も、9月21日に、近年、オンラインショッピングやモバイル決済、オンラインとオフラインの融合などの新業態・新モデルによる「新型消費」が急速に発展してきたところ、特に、感染症流行により従来の接触を伴うオフライン消費が打撃を受ける中で、新型消費が重要な役割を担うようになったとの認識を示し、発展の妨げとなっている課題を解消し一層の発展を図る方針を発表している。
(4)最近の規制の動き
以上のように、近年、インターネット産業は急速な成長を遂げてきたところであるが、20年秋頃からPF企業に対する規制強化の動きが相次いでいる。さらに、20年12月の中央経済工作会議では、21年の経済運営における重点任務の一つとして独占禁止強化と資本の無秩序な拡大防止が挙げられ、PF企業のイノベーション発展、国際競争力の増強を支持しつつ、データ規則の整備、独占認定、データ収集使用管理、消費者権益保護等の法律規範を整備するなどとした。また、金融イノベーションについて、周到かつ慎重な監督管理を前提として行わなければならないとした。
(ア)独占禁止強化等の動き
中国では、08年8月に独占禁止法が施行されたが、20年から施行後初の改正に向けた動きが進展している。20年1月に独占禁止法の改正案が発表され、パブリックコメントが実施されたが、同案で新たに盛り込まれた点の一つとして、インターネット分野の経営者の市場での支配的地位の認定基準が初めて明確にされた。具体的には、インターネット分野の経営者の市場支配的地位の認定において、ネットワーク効果、規模の経済(economies of scale)、ロックイン効果、関連データの把握・処理能力などの要素も考慮すべきであるとされた。また、11月10日に「プラットフォーム経済分野の独占禁止指針」案が公表、パブリックコメントに付された後、21年2月7日から施行された。独占禁止法では、市場支配的地位を有する事業者が、不公平な価格行為、原価割れ販売、取引拒否、取引制限、抱き合わせ販売・不合理な取引条件付加、差別的待遇等の市場支配的地位の濫用行為を行うことを禁止しているが、同指針では、その各項目につき、PF企業において現れ得る形態や考慮すべき要素を細分化して示している。例えば、原価割れ販売では、競合他社の排除を狙ったコストを下回る価格での販売等、取引制限では、競合プラットフォームに出店させない(「二者択一」)など、差別的待遇では、ビッグデータやアルゴリズムを基に支払い能力、好み、使用習慣に基づき取引価格や条件に差異を設けること等を示している。
こうした法規制の強化に向けた動きに加えて、独占禁止法等に基づくPF企業への処分等も相次いでいる。20年12月14日、中国国家市場監督管理総局は、アリババ、テンセント等の傘下企業3社に対し、企業の株式買収を実施した際に、独占禁止法で定める企業結合(事業者集中)の申告を怠ったとして罰金を科すことを発表した。12月24日、同局は、アリババ集団に対し、「二者択一」等独占が疑われる行為について立件に向け調査を開始したことを発表した。さらに、12月30日、中国国家市場監督管理総局は、「独身の日」145前後のオンラインセールに際して、事前に一旦値上げして値引き額を大きく見せかけるなどの不当な価格操作を行い、価格法に違反したとして、アリババや京東等の傘下企業3社に罰金を科すことを発表した。
また、電子決済についても独占禁止強化の動きがみられる。21年1月20日、中国人民銀行は、非銀行決済機関の監督管理を強化する条例案を発表し、パブリックコメントに付した。同条例案では、非銀行決済分野における独占禁止規制措置を強化するとしており、非銀行決済サービス市場において、少数の決済機関による市場シェアが一定に達した場合146、中国人民銀行は、国務院独占禁止法執行機関と協議し、行政措置を採り、または警告できるとしている。また、電子決済市場全体において、非銀行決済機関による市場シェアが一定に達した場合147、国務院独占禁止法執行機関と協議し、市場支配の地位にあるか否かを審査できるとしている。また、非銀行決済機関が、安全、高効率、信頼、公平な競争の原則を遵守せず、決済サービス市場の健全な発展に深刻な影響を及ぼす場合、国務院独占禁止法執行機関に対し、市場の支配的地位の濫用の停止や決済事業の種類に基づく分割等の措置を要請できるとしている。
このほか、20年12月1日に、モバイルアプリによる個人情報収集の範囲を定める規則の草案がパブリックコメントに付され、21年3月に成案が公表、5月から施行された。草案の提示に際し、近年、モバイルアプリが広く利用され、経済・社会の発展を促し、人々の生活への貢献で重要な役割を果たしてきた一方、必要な情報の範囲を超えて利用者の個人情報を収集することが一般的に行われており、利用者が同意を拒否した場合、インストール・使用することができないことを指摘している。また、同規則は、オンライン決済、オンラインショッピング等39の一般的なアプリについて、基本機能を正常に動作させるために必要な個人情報の範囲を示し、利用者に必要以上の情報の提供を強要することはできないとしている。
(イ)金融業務に関する規制強化の動き
PF企業の金融業務に対する規制強化の動きもみられる。中国銀行保険監督管理委員会(以下銀保監会)及び中国人民銀行は、21年1月15日、商業銀行による第三者インターネットプラットフォームを通じた預金商品の販売を、マーケティングや商品の掲載等を含め、禁止する規定を発表した。この規定の趣旨は、近年、インターネット金融が発展する中で、こうした業務が急拡大してきたが、これらが関連の法規定や地方法人銀行の営業地域を地元に限定する規定等に抵触している疑いがあることや、商業銀行の流動性管理に課題をもたらしており、これらの規定により金融リスクを防ぐためとしている。
また、中国人民銀行、銀保監会、中国証券監督管理委員会、国家外国為替管理局は、12月26日、アリババ傘下の金融会社であるアント・グループに対し、市場における優位な地位を利用して同業他社を排除していることや法に基づく消費者の権利や利益を損ない苦情を招いていることなどから、行政指導を行い、決済の本来業務に戻り、取引の透明性を高め、不公正な競争をやめること等を求めたことを発表した。
なお、銀保監会は、12月31日に公表したプレスリリースにおいて、アント・グループに対する行政指導の内容において強調した際立った問題や是正改善の要求は一定の普遍性があることから、全てのインターネットプラットフォーム企業が自主点検し、可能な限り早く是正・改善すべきとした。特に、インターネット上で小口融資、保険、資産運用等を行っている機関については、当局による調査も実施する予定とした。
これまで比較的自由な環境の下で、PF企業は急速な成長を遂げてきたが、こうした規制強化の動きは、今後の成長に一定の影響を与える可能性がある。例えば、PF企業は、近年、中国の経済社会においてイノベーションをもたらしてきたが、規制が強まることによりイノベーションが阻害される懸念がある。しかしながら、デジタル経済は新たな成長の原動力となるとともに、感染症流行下でもその発展が一段と進んでいるため、成長の継続という大きな方向性は変わらないとみられる。さらに、中長期的にみれば、競争的な市場環境が整備されることにより、市場の健全な発展が促され、イノベーションが一層促進されることも考えられよう。