第2章 ポストコロナに向けたデジタル化(第1節)

[目次]  [戻る]  [次へ]

第1節 デジタル化の進展とコロナの影響

デジタル化(デジタル技術の応用)の進展は経済活動や社会活動に様々な影響を及ぼしているとされている。国際的にも、比較可能な基準で「デジタル経済」の計測を進める動きがあるが、デジタル経済の定義や計測の具体的な方法に関してはいまだ確立された方法は存在しない75。例えばアメリカ商務省はその定義の中に、(1)コンピューターネットワークの稼働に必要なインフラ、(2)(1)のネットワークを用いて行われる電子取引(いわゆるEコマース)、(3)デジタル経済の利用者が創造・アクセスするコンテンツ(いわゆるデジタルメディア)の3つが含まれるとしている76。中国信息通信研究院の定義では、デジタル産業(電子情報製造業、ソフトウェア・情報技術サービス、情報通信サービス等)及び産業のデジタル化(各産業部門へのデジタル技術・製品の応用により生み出される付加価値)77から構成されている。

定義が確立されていない一方、コロナ禍でデジタル化の進展が加速し、デジタル経済の広がりがみられることも指摘されている。本節では、こうしたデジタル経済の動向を、いくつかの利用可能な指標を用いて概観する。

1.オンライン販売

感染拡大に伴う各種の経済活動の制限措置により、店舗で人を介して財やサービスを販売する形態が制約を受ける中、対人接触の無い(少ない)オンラインによる販売が、各国において拡大した。

アメリカでは、小売売上高のうちオンライン等の無店舗販売について、感染拡大に伴う経済活動の制限措置の影響により小売売上高の全体が大きく落ち込んだ2020年3月(前月比14.7%減)及び4月(同14.7%減)においても、それぞれ前月比5.0%増、9.4%増と増加した。感染拡大が一時収まった8月頃においても、無店舗販売は堅調に推移し、21年1月時点において、コロナ前の20年1月対比で28.7%増となっている(第2-1-1図)。

第2-1-1図 アメリカの小売売上高(オンライン等の無店舗販売)

ドイツでは、小売売上高のうちオンライン・通信販売について、同じく感染拡大に伴う経済活動の制限措置の影響により小売売上高が落ち込んだ20年3月(前月比1.4%減)及び4月(同6.2%減)においても、それぞれ前月比6.4%増、16.9%増と増加した。感染拡大が一時収まり経済活動が段階的に再開された7~10月においては、それぞれ4.6%減、4.6%増、4.7%減、7.0%増と変動しつつも堅調に推移した。21年1月時点においては、コロナ前の20年1月対比で34.1%増と、コロナ後の水準で最も高くなっている(第2-1-2図)。

第2-1-2図 ドイツの小売売上高(オンライン・通信販売)

英国では、クレジットカード等による消費動向78をみると、対面販売については、感染拡大に伴う経済活動の制限措置の影響により20年3~4月に対前年比で大きく減少し、5月以降は持ち直しの動きがみられたものの、9月になっても対前年比でプラスに回復することは無く、10月以降は感染再拡大の影響もあり再度落ち込むこととなった。一方、オンライン販売については、3~4月に対前年比で減少し5月以降は持ち直しの動きがみられたという点は対面販売と同様であるが、6月には対前年比でプラスに回復し、7月以降も前年を上回って推移した(第2-1-3図)。

第2-1-3図 英国のクレジットカード消費動向(オンライン販売)

中国では、インターネット小売(財・サービス)についてみると、感染拡大に伴い景気が減速した20年1~2月は前年比3.0%減であり、小売全体(社会消費品小売総額)の減少幅(前年比20.5%減)と比べ小幅にとどまった。また、小売全体が20年通年でも前年比3.9%減と前年の水準に戻っていないのに対し、インターネット小売は4月に年初来累計前年比1.7%増と早期にコロナ前の水準に戻し、その後も高い伸びが続いている(第2-1-4図)。

第2-1-4図 中国の小売売上高(インターネット小売)

いずれの国でも共通して、感染拡大に伴う各種の経済活動の制限措置により、店舗で人を介して財やサービスを販売する形態が制約を受ける中、対人接触の無い(少ない)オンラインによる販売は、増加ないし小幅な減少にとどまった。また、感染拡大が収まり、制限措置が一部緩和された時期においても、オンライン販売は対面販売に完全に代替されることはなく、堅調に推移した。こうしたことから、感染症を機にオンライン販売の利便性や重要性が一層認識され、また、感染症の収束後においてもこうした消費者の購買行動の変容は継続していくものと考えられる79

2.デジタル経済の産出額・付加価値額

アメリカにおいては、デジタル経済80による実質産出額は、05年に1.6兆ドルであったところ、18年には3.0兆ドルにまで増加し(年平均4.7%増)、産出全体に占めるシェアは、7.0%から8.1%に拡大した。中でも、Eコマースの成長が著しく、05~18年にかけて、BtoBのEコマースは2,056億ドルから8,303億ドル(年平均8.2%増)に、BtoCのEコマースは509億ドルから2,558億ドル(年平均13.2%増)に、それぞれ成長した(第2-1-5図)。また、実質の付加価値ベースでみると、デジタル経済は、05年の0.8兆ドルから18年に2.0兆ドルに増加(年平均6.8%増)し、GDPに占めるシェアは、5.6%から10.6%に拡大した(第2-1-6図)。

第2-1-5図 アメリカにおけるデジタル経済による産出額(実質)
第2-1-6図 アメリカにおけるデジタル経済による付加価値額(実質)

欧州においては、オンライン販売の売上に占める割合は、13年に14.0%であったところ、19年には18.5%にまで拡大した。また、13~19年の間に、オンライン販売を行っている企業の割合は、17.0%から20.5%へと3.5%ポイント増加した(第2-1-7図)。

第2-1-7図 欧州におけるオンライン販売の推移

中国においては、デジタル経済の経済規模(付加価値額、名目)81が05年は2.6兆元(対GDP比14.2%)であったところ、19年には35.8兆元にまで拡大し(15~19年で年平均17.1%増)、対GDP比で36.2%と大きなシェアを占めるようになっている(第2-1-8図)。

第2-1-8図 中国のデジタル経済による付加価値額(名目)

データの相違により単純な比較はできないものの、いずれの地域においても、近年、デジタル経済は拡大を続けており、マクロ経済における重要な要素に位置付けられるようになっている。


75 OECD(2020)では、計測や政策論議の基礎となるデジタル経済の定義に関して、共通に合意された定義が存在しないことを指摘している。
76 Barefoot, K. et al.(2018)
77 産業のデジタル化による付加価値は、ICT投資額及びその波及効果の推計結果をベースに資本ストックのうちICT資本ストック額を推計したうえで、成長会計の考え方に基づきICT資本蓄積による付加価値増加分を求めることなどにより、推計されている。
78 英国のバークレイズ銀行の発行するクレジットカード及びデビットカードの利用額。
79 「PwC, Global Consumer Insights Survey 2020」(PwC)によれば、パンデミック前後の消費行動を世界各国の延べ2万人を超える消費者に対し調査した結果、食料品を携帯電話によるオンラインで購入する都市部消費者が経済活動の制限前と比較して63%増加し、また、86%の都市部消費者は携帯電話によるオンラインで食料品購入を継続する可能性が高いと回答している。
80 ここでのデジタル経済は、アメリカ商務省の定義に基づき、デジタル関連インフラ、電子商取引(Eコマース)及び有償のデジタルサービスから構成されている。
81 中国信息通信研究院「中国デジタル経済発展白書」(2020)による。デジタル産業("digital industrialization"、電子情報製造業、ソフトウェア・情報技術サービス、情報通信サービス等)及び産業のデジタル化("industry digitization"、各産業部門へのデジタル技術・製品の応用により生み出される付加価値)から構成されている。なお、同機関は、世界各国のデジタル経済の経済規模の推計も公表しており、19年の対GDP比で、ドイツ63.4%、英国62.3%、米国61.0%としている。

[目次]  [戻る]  [次へ]