第1章 感染症持続下の世界経済(補論)
(補論)各国・地域における感染状況と活動抑制措置(21年春頃までの動向)
第1節でみたように、新型コロナウイルスの感染拡大は各国経済に大きな影響を与えた。この補論では、各国・地域における感染拡大と制限措置の再導入の状況をみていく。
(感染状況)
19年12月に中国(湖北省武漢市)において初の感染者が確認された新型コロナウイルス感染症は、20年3月中下旬には欧米を中心に、6~7月にはアメリカやインドを中心に感染が拡大した(補論第1図)。その後、新規感染者数の増加に一旦落ち着きがみられたが、10~12月にかけて新規感染者数が急増した。21年に入り、一部の国では落ち着きがみられたものの、依然として再拡大が継続している国もあり、現在も世界各地で猛威を振るっている。
20年秋以降の新規感染者数の動向を振り返ると、まず、アメリカにおいては、夏の感染拡大のピークから一旦は減少に転じ、9月中旬から21年1月上旬にかけて再度拡大したが、1月中旬以降は減少した。
ヨーロッパにおいては、フランスやスペインでは20年7月中旬以降、ドイツや英国では10月に入ってから再拡大がみられた。英国では、12月に変異株が確認されると感染が急拡大し、また、この変異株は世界中で拡散を続けている。21年に入り、英国のように感染が落ち着いた国もみられたが、ドイツやフランス、イタリアのように新規感染者数が増加ないし横ばいとなっている国もある。
新興国(アジア除く)においては、これまで感染者数が多かった南米(ブラジル、コロンビア等)に加え、その他の地域(ロシア等)でも秋以降顕著な感染拡大がみられ、20年12月には南極大陸を含む全ての大陸で感染者が確認された。21年に入ってからはブラジルでの感染拡大が顕著となっている。
アジアにおいては、状況は国によって多岐にわたる。中国や台湾では抑制が継続している(後掲補論第7図、第9図)。韓国では20年12月にかけて再拡大の動きがみられたが21年に入ってからは減少に転じた(後掲補論第8図)。タイでは12月後半から再拡大の動きがみられたものの、21年2月中旬以降は減少傾向にある(後掲補論第10図)。インドネシアでは20年春からの拡大傾向が21年1月まで継続していたものの、それ以降は減少傾向にある(後掲補論第11図)。インドでは20年9月をピークに減少に転じたものの、21年3月に入り再拡大した(後掲補論第12図)。
(各国の制限措置の動き)
欧米では20年秋頃に感染が再度拡大し、特に欧州ではそれに伴って全国的な制限措置が導入された。秋以降の各国の制限措置の強さをオックスフォード大学が公表している指標でみると、前節でみたとおり、ドイツ、フランス及び英国では10月頃から全国的に厳しい制限措置が導入されたことが分かる(補論第2図)。この指標によれば、ドイツ及び英国は20年春頃と同程度の制限措置が導入されたこととされているが、秋頃の制限措置の導入に際しては、生産活動等については自粛する必要はないとアナウンスされるなど、実質的には20年春頃よりも秋以降の方が規制が緩やかな傾向がみられた。なお、フランスでは12月頃から徐々に制限措置の緩和が進められたものの、年末年始以降は維持されており、20年夏頃に比べれば引き続き経済活動等が制限されている。アメリカについては、20年秋以降はやや制限措置が強まったものの、欧州主要国に比べると比較的緩和された状態となっている。
(訪問・滞在時間の推移)
感染状況や制限措置に強く影響を受けるとみられる小売店・娯楽施設とターミナル駅の訪問・滞在時間の推移を秋以降についてみると、フランス及び英国では全国的に制限措置が導入された20年10月頃から大きく減少した(補論第3図)。ドイツも10月頃から制限措置が導入されていたものの、小売店の閉鎖は12月16日から開始されたこともあり、他の欧州主要国並みに減少したのは12月半ばになってからとなった。なお、フランスも英国も12月にかけて制限措置が緩和されたこともあり、12月に訪問・滞在時間は一度増加した。ただし、英国では全国的な制限措置が21年1月に再度導入され、フランスでは緩和措置の進展が止まり、1月末には食料品以外を取り扱う大型商業施設が閉鎖されるなど制限が強化されたため、2月は小売店・娯楽施設の訪問・滞在時間は再び減少した。しかしながら、英国やドイツでは3月から制限措置の緩和が始められたため、小売店・娯楽施設及びターミナル駅の訪問・滞在時間は徐々に増加している。アメリカの小売店・娯楽施設及びターミナル駅における訪問・滞在時間も総じてみると、21年2月中旬頃までは徐々に減少していたものの、ニューヨーク州やカリフォルニア州等で制限措置が緩和されたこともあり2月下旬には増加に転じている。韓国や台湾については、特に欧州に比べると20年秋以降は大きな減少はみられなかった。ただし、韓国は感染拡大により制限措置を導入したことで20年11月末頃から減少したものの、21年初からは制限措置が徐々に緩和されたこともあり再び増加傾向にある。
21年に入ってからは、ワクチン接種も徐々に進展してきたものの、欧州諸国で感染力が強いとされる変異株により感染が拡大したことで再度の制限措置導入や延長等もあったことから、欧州では訪問・滞在時間は低位で推移している。ただし、欧州以外の国については徐々に以前の水準に戻りつつある。
2.各国・地域における感染状況及び活動抑制措置
(1)アメリカ
アメリカでは、20年4月下旬以降、新規感染者数が減少傾向に転じ、各州において段階的に経済活動の再開が進められたが、20年後半には感染が再拡大し、個別の州や地域において再び制限措置が実施された(補論第4図、補論第5表、補論第6表)。ニューヨーク州では、11月13日、22時以降の飲食店やスポーツジム等の営業が禁止となり、州内で特に感染が拡大していたニューヨーク市内では、12月14日以降、日中も含め飲食店の店内営業が禁止となった。カリフォルニア州では、州内58郡中41郡(州内の人口の94%を占める)において、11月17日に飲食店の店内営業が禁止となり、同月21日からは22時以降の外出が禁止された。12月6日には、同州内5地区中2地区(州内の人口の85%を占める)において、日中を含め不要な外出が制限され、飲食店の営業禁止(デリバリーや持ち帰りは可)等の措置が講じられた。
このように、アメリカでは、感染が拡大する州において個別の制限措置が実施されたものの、20年春のような連邦政府による制限措置は実施29されず、また、フロリダ州30のように、秋以降に経済活動の再制限が実施されなかった州もあるなど、秋以降の制限は、春の感染拡大時と比べれば限定的なものとなった。また、前述のニューヨーク州やカリフォルニア州における制限措置も、21年1~2月以降、緩和されてきている。
(2)アジア
(中国)
中国では、感染症の大規模な流行が抑制された後も、散発的に集団感染の発生がみられてきたが、特に21年に入り河北省等を中心に感染が拡大し、1月中旬には、新規感染者数は20年7月以来となる100人超の水準で推移し、20年4月以来となる死者も発生した(補論第7図)。感染拡大地域では都市封鎖や大規模なPCR検査等の防疫措置が採られ、新規感染者数は減少傾向となったが、春節(21年は2月11~17日)に伴い人の移動が増加する時期を控え、感染拡大を防ぐため、中国政府は、1月25日、春節期間の移動を控える(地域の感染リスクに応じて4段階で制限)よう求める通知を発出した。これに伴い、中国交通運輸部によれば、春節期間中の旅客数は、20年比で57.9%減、19年比で71.5%減と大きく減少した。こうした中、2月7日に、新規感染者数の国内症例は20年12月中旬以来の0人となり、その後おおむね0人で推移していたが、3月末に小規模な集団感染が再び発生している。
(韓国)
韓国では、20年3月後半以降、感染症の防疫対策として「社会的距離の確保」を実施しており、感染症の流行状況に応じてそのレベルを調整し、防疫措置の強化・緩和を行っている31。8月中旬から感染再拡大を受けてレベルを引き上げた後、10月中旬に最も低い「1段階」に緩和したが、11月以降、新規感染者が再び増加傾向に転じた(補論第8図)。これに伴い、11月後半から再度徐々にレベルを引き上げたが、新規感染者数は12月に入ると過去最多であった2月末を超える1,000人超となり、12月8日から、首都圏では「2.5段階」、その他の地域では「2段階」に引き上げられた。「2.5段階」の措置内容は、21時以降の飲食店の店内営業禁止、50人以上の集会・イベントの禁止、企業に対する1/3以上の在宅勤務の勧告等となっているが、さらに、首都圏では、屋内外を問わず5人以上の私的な集まり(結婚式と葬式以外)を禁止する一段と厳しい措置も採られた。21年1月に入り、新規感染者数は減少傾向に転じたものの、同レベルは2月14日まで維持された。2月15日に、首都圏、その他の地域ともに0.5段階引き下げられたが、首都圏における5人以上の集まりは引き続き禁止とされている。2月以降も集団感染が相次ぐなどし、新規感染者数は横ばいで推移しており、政府は累次にわたり現行レベルの延長を発表している32。
(台湾)
台湾では、いち早く感染症流行を抑制し、20年4月末から生活・経済の正常化を開始した。6月以降は、ソーシャルディスタンスを確保していれば公共交通機関等でマスクを外すことも可とした。また、ビジネス目的など一部海外との往来も再開し、外交目的や居留証所持者等一部の入境者については陰性報告を免除するなど、一部条件の緩和も実施した。しかし、秋冬期になり、世界的な感染再拡大や台湾域内における輸入症例の増加を受け、11月18日、12月から21年2月までの間、台湾に入境・トランジットを行う場合は身分や目的にかかわらず全ての旅客に対し搭乗前3営業日以内の陰性報告を求めることや、医療・介護施設、公共交通機関、教育学習施設等においてマスクの着用を義務化する内容の防疫措置の強化を発表した。さらに、21年1月からは、外交目的や居留証所持者等のみ入境を許可し、トランジットも一時停止した。しかしながら、20年12月に約8か月ぶりに域内感染が発生、また、21年1月中旬に病院において集団感染が発生し、1月に域内の新規感染者数は19人となり、規模は小さいながら感染再拡大がみられた(補論第9図)。こうした中、1月19日、中央感染症指揮センターは、大規模な集会について開催の必要性の再検討を呼びかけた。その後、2月中旬に新規感染者数はゼロとなり、その後も低水準を維持している。3月からは、マスク着用の義務化等は継続とされたものの、トランジットの停止を含む入境制限の一部については解除された。
(タイ)
タイでは、20年4月末以降、新規感染者数はおおむね一桁台で推移し、感染拡大が抑制される中、20年3月下旬に発出された非常事態宣言の延長は続いているものの、7月以降おおむね全ての商業活動が再開されていた。しかしながら、12月中旬に首都バンコク近郊の県で集団感染が発生し、新規感染者数は過去最多であった3月末を大きく超えて急増し、21年1月4日には1,000人超となった(補論第10図)。政府は、1月3日、首都バンコクを含む28都県に対し、パブやバー等の娯楽施設の閉鎖や、飲食店での酒類の提供の制限など、経済活動制限の再強化を要請し、これを踏まえ、バンコクでは、21時以降の店内飲食禁止等の措置も実施した。その後、新規感染者数は一旦減少傾向となり、バンコクでは、1月21日からスパ・マッサージ施設や運動場等の営業再開を認め、2月1日から店内飲食を23時まで許可、さらに同月23日から飲食店での酒類の提供を認めるなど徐々に制限を緩和している。新規感染者数は、1月末から2月初旬にかけて再び増加がみられたものの、その後は減少傾向となり、2月20日以降は一時的な増加を除きおおむね100人未満で推移している。
(インドネシア)
インドネシアでは、20年3月半ばから21年1月にかけて、拡大ペースに変化はあるものの、感染拡大が続いてきた(補論第11図)。20年4月以降、防疫対策として「大規模な社会制限(PSBB)」を地域ごとに実施しているが、感染拡大ペースの変化に応じて、制限の緩和・強化を行っている。ジャカルタ首都特別州では、6月からPSBBの移行期間として制限を大きく緩和したが33、感染拡大が続いたため、9月14~10月11日まで移行期間を停止し、飲食料品、エネルギー、通信等の生活基盤分野以外の事業所は在宅勤務を原則とし(出勤する場合も25%まで)、店内飲食を不可とするなど再強化を実施した。12月1日、政府は、人の移動による感染拡大を防ぐため、年末年始の連休の短縮・分散等を全国的に実施し、さらに21年1月には、感染者が特に多いジャワ島(ジャカルタが所在)やバリ島の対象地域において社会活動の制限を行うことを発表した。これに伴い、ジャカルタ首都特別州では1月11日に再び移行期間の停止を発表し、在宅勤務の比率を75%以上とするなど規制を再強化した。2月9日、政府は、地域の感染状況に応じて対策をより集中的に実施するため、ジャワ島及びバリ島の一部地域において小規模な地域単位での活動制限の導入を指示し、同時に、県・市単位では、在宅勤務の比率を75%以上から50%以上に緩和するなど、一部制限措置を緩和することとした。こうした中、新規感染者数は1月の1万人超から減少傾向に転じ、3月末には4,682人となっている。
(インド)
インドでは、20年6月以降、感染が特に深刻な地区(封じ込めゾーン:containment zones)以外の地域では段階的に活動制限の緩和を進めている。9月には、5か月半ぶりにメトロ(都市高速鉄道)の運行を再開、100人以内の集会を許可するなどし、さらに10月には、映画館や劇場について収容率50%以内とするなど一定の条件付きではあるが、活動制限はほぼ解除された。その後、各種条件も徐々に緩和され、21年2月以降は、映画館の全面的な再開が認められたほか、集会の許容人数も地方政府の規定に委ねるなどとされた。活動再開を進める中、新規感染者数は、20年9月に10万人近くまで増加したが、その後は減少傾向となり、21年1月半ばから2月半ばには1万人強となった。しかしながら、その後一部の州を中心に感染が再び急拡大し、21年3月31日時点で5.3万人まで増加している(補論第12図)。新規感染者の半数以上を占めるマハーラーシュトラ州では、集会や夜間の活動等の制限が実施されている。
(3)欧州
(ドイツ)
ドイツでは、20年4月に入り新規感染者数の増加傾向が緩やかになったことを受け、4月15日に、連邦政府は各州政府との間で制限措置の緩和に係る合意事項を発表した。その後も、新規感染者数の減少傾向が継続したことから、5月6日、連邦政府は、各州政府との間で更なる制限措置の緩和に係る合意事項を発表した。これらを受け、各州において順次経済活動の再開が進められたものの、6月に入って一部の地域で感染者数が増加したことから(補論第13図)、6月17日、連邦政府は、各州政府との間で、接触制限措置を引き続き延長すること、大規模なイベントについては10月末まで開催禁止を継続することなどを発表した。さらに、7月中旬以降、新規感染者数が再び増加したことを受け、7月16日には、局地的な集団感染が発生した際の措置に関する連邦政府と各州の合意事項について発表し、(1)集団感染発生の際には、集団感染が発生したクラスターや接触者のクラスターについて、隔離措置、接触追跡、検査の実施等の措置を採ること、(2)7日間累積で10万人あたり50人以上の新規感染者数の増加がある場合、又は、実際の感染拡大に対する不確実性が存在する場合、早期にその地域に対して局地的に制限措置を採ることなどを決定した。
10月下旬には、1日当たりの新規感染者数が1万人を超えるなど、感染が春の水準を上回って拡大したことを受け、11月からは再度の制限措置が実施されている。ドイツ全土の平均で、感染事例の75パーセント以上が感染経路不明である状況を踏まえ、ドイツ政府は11月2日から、公共空間における接触制限34、飲食店(配達、受取サービスを除く。)の閉鎖、不要不急の旅行の自粛要請35及びレジャー・余暇施設の閉鎖等の再度の制限措置36を実施した(補論第14表)。この措置の期間は、当初11月30日までの予定であったが、メルケル首相と各州首相による協議を踏まえ、11月26日に12月20日までの延長、12月2日に21年1月10日までの再延長が発表された。また、12月16日からは、それまでの制限措置に加えて、接触制限の厳格化、小売店(食料品や生活必需品の販売を除く。)の閉鎖及び学校・保育園の閉鎖等の制限措置の強化が実施された。この強化措置も当初は21年1月10日までの期間の予定であったものの、1月5日に1月末まで延長することが発表された。さらに、その後も変異株の感染が広がりつつあることや、2月下旬以降新規感染者数が増加傾向にあることを踏まえて、1月19日、2月10日、3月3日、3月22日にそれぞれ制限の延長が発表され、制限措置の実施期間は4月18日までとなった。
ドイツへの欧州域外37からの渡航については、20年7月2日より、EUの勧告に基づき8か国38を対象として制限を解除した。続いて、10月1日には欧州域外に対する一律の渡航警告を解除し、以後は欧州域内の国と同様、感染状況に応じた入国時の条件39を適用するとした。11月8日からは、国外のリスク地域からの入国・帰国者に対する新たな検疫措置を実施し、(1)ドイツ入国前10日以内に感染者数の多い地域に滞在履歴がある場合は原則10日間の隔離義務、(2)リスク地域から入国・帰国したことについて管轄の保健局への連絡義務、(3)リスク地域からの入国・帰国に際して所在追跡表の提出を求めることとした。
(フランス)
フランスでは、20年4月初旬に新規感染者数が一度目のピークを迎えた後、緩やかな減少傾向に転じたことを受け(補論第15図)、政府は、5月以降、段階的に制限措置を緩和してきたが、夏のバカンスの後、新規感染者数が急速に増加したことから、9月下旬以降再び対策を強化した。強化に当たっては、5月の段階的解除の際に定めた基本方針を念頭に、地域ごとの対策を採ることとし40、全土を5段階の警戒ゾーンに分類して、分類に応じて規制に強弱をつける枠組みを発表した(補論第16表)。警戒ゾーンへの分類は、(1)10万人当たりの新規感染者数、(2)65歳以上の高齢者10万人当たりの感染者数、(3)集中治療室における新型コロナウイルス感染者の割合、の3つを基準に随時見直され、指定状況を示すマップが政府のSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)やホームページを通じて広報された。当初、101県のうち、最も警戒レベルが低い「緑ゾーン」に32県が、次に警戒レベルが高い「警戒ゾーン」に53県が、その次に警戒レベルが高い「警戒強化地域」にパリ市を含む11の自治体広域連合41とパリ近郊3県42が、更に警戒レベルが高い「警戒最大化ゾーン」に2か所が分類された43。しかしながら、約2週間後には、パリ市及び周辺3県が警戒強化地域から警戒最大化ゾーンに移行するなど、警戒レベルを強化する方向での分類の見直しが続いた。10月14日には、全土が最も警戒レベルが高い「衛生緊急事態」に分類されるとともに、イル・ド・フランス地域圏及び8つの都市圏(16県)44について夜間外出禁止令が発令され、さらに、10月22日には、夜間外出禁止令の対象地域が54県と1海外県に拡大された。こうした対策の強化に乗り出すも感染拡大の勢いは衰えず、10月下旬からはその勢いが急速に強まったため、10月30日には、全土に外出制限が導入された。この外出制限は、3月に導入した外出制限と異なり、学校は閉鎖されず(保育園、小学校、中学校、高校は継続するが、大学等の高等教育機関はオンライン)、宿泊施設も営業可能とされた45(補論第17表)。
こうした取組によって、新規感染者数が増加傾向から横ばいに転じるなど、一定の奏功をみせたことと、クリスマスシーズンにおける制限措置によって経済的な影響が大きい小売業を中心に、制限解除への見通しを求める声が高まったことから、11月24日に大統領が声明を出し、感染状況に応じて3段階に分けて規制を緩和していくロードマップが公表された。11月28日を開始時期とする第1段階の規制緩和(営業時間を21時までに制限しつつ商店の営業を許可)は予定通り実施されたものの、その後、経過観察の2週間で感染状況が横ばいの状況にとどまっていたことから、12月15日を開始時期とする第2段階の解除は予定より小幅な緩和となり、映画館、劇場、美術館等の再開(21時まで)が見送られたほか、12月31日の夜間外出禁止解除も見送られた。その後、英国で新型コロナウイルスの変異株の感染が拡大したことから、英国との国境を封鎖したものの、フランスにおいても感染者が増加した。このため制限解除へのロードマップはなし崩しになり、21年1月末には食料品以外を取り扱う2万平方メートル以上の商業施設が閉鎖されるなど、一部制限が強化された。フランス政府は、2月下旬時点の状況について、変異株の感染割合が加速度的に増加していることから、第2波から抜け出していないとして、全国的な制限措置を継続し、地域によっては週末に外出禁止令を導入した。その後も変異株の感染拡大が加速したことから、第3波がやってきたとして、3月20日以降、イル・ド・フランスの8県46と、オー・ド・フランスの5県47、アルプ・マリティム県、ウール県、セーヌ・マリティム県の16県について、生活必需品以外の小売店の休業や、日中の外出制限措置を導入した。この1週間後には3県48を対象地域に追加し、4月3日からは全土に対象を拡大した。
4月末になると、感染者数が持続的に減少しているとして、4段階に分けて規制を緩和するロードマップを再び公表し、5月3日を開始時期とする第1段階の規制緩和(地域間の移動制限解除)は予定通り実施された。計画では、5月19日に第2段階として大型ショッピングセンターを含む全ての小売店の営業再開、飲食店の屋外(テラス)営業、美術館、映画館、劇場の営業再開が、6月9日に第3段階として飲食店の店内営業の再開が、6月30日に第4段階として夜間外出禁止令が解除される予定となっている。なお、制限の解除は全国一律で実施することを予定しているものの、制限緩和の各段階において、感染が広がる地域においては「急ブレーキ」をかけるとしている。また、「パス・サニテール(衛生パスポート)49」を導入して、大規模イベントへの参加や旅行に当たって提示を求めることを想定するなど、新たな防疫措置の導入を準備している。
欧州域外50からのフランスへの渡航については、EUが提示したリストから感染が拡大していたアルジェリアを除いた13か国を対象として7月1日から入国制限を解除したのを皮切りに、EU理事会の勧告、感染状況の推移及び相互主義の尊重を考慮しつつ、少なくとも15日ごとに解除対象国リストを更新する方針が採られている。8月1日にはアメリカ等にも解除対象国が拡大され、11月11日以降は、日本を含む16か国についてフランスへの渡航に当たって検査が求められる国のリストから除外されるなど、感染が拡大している一部の国を除いて制限を緩和する方向であったが51、12月頃から、英国で感染力が高いといわれる新型コロナウイルス変異株の感染が拡大したことから、12月21日に英国からフランスへの入国を制限する措置を採った。この際、フランス政府が人だけでなく貨物についても制限し、2日間に渡って英国と欧州の物流の大動脈であるドーバー海峡をフェリーで渡る貨物トラックの入国を禁止したことから、一時的に陸路での流通に混乱が生じた52。その後も変異株への感染が拡大したため、まず欧州域外から、次いで欧州域内からの入国についても検疫を強化し、1月31日からは欧州域外の国及びフランスの海外領土との間で、特別な事情がない限り出入国を禁止した。
その後、3月12日に日本を含む7か国53との往来について不要不急の出入国を認めた。4月末に公表された段階的制限解除のロードマップでは、6月9日に第3段階としてパス・サニテールの提示により、外国からの観光客の受入れを再開する予定とされている。
(イタリア)
イタリアでは、20年3月下旬に新規感染者数が一度目のピークを迎えた後、緩やかな減少傾向に転じたことを受け(補論第18図)、イタリア政府も、欧州各国と同様、5月以降段階的に制限措置を緩和してきたが、夏のバカンスが終わった後に感染が徐々に再拡大し、10月上旬からは感染再拡大の勢いが急速に強まったことから、10月7日に緊急政令を出し、全土で屋外でのマスク着用を義務化するなどして警戒を強めた。また、10月13日には首相令を出して飲食サービス業の夜間の営業時間を制限したほか54、その後数日間のうちに重ねて首相令を発出し、夜間営業時間の短縮や55、広場を21時以降閉鎖できるようにするなど段階的に制限を強めた。しかし、その後も感染拡大が続いたことから、州知事令によって州ごとに制限を強化する動きが相次ぎ、ラツィオ州、カンパニア州で夜間外出禁止令が出たほか、カンパニア州では県をまたいだ移動制限が実施された56。政府は州ごとの措置の後を追うように、10月24日に首相令を出して、全土について、ジム、温泉、劇場、コンサートホール、映画館といった施設の営業停止と、飲食店の夜間の営業時間の制限を強化する措置を採った後57、11月3日に、全土を段階別の警戒ゾーンに分類して、分類に応じて規制に強弱をつける枠組みを発表した(補論第19表)。警戒ゾーンへの分類は、約2週間ごとに見直すとされ、指定状況と制限内容を示すマップが政府のホームページを通じて広報された。当初、20州のうち、最も警戒レベルが低い58「イエローゾーン」に14州が、次に警戒レベルが高い「オレンジゾーン」に2州が、最も警戒レベルが高い「レッドゾーン」にはロンバルディア州を含む4州が分類されたが59、11月24日までの約3週間で6回に渡り警戒レベルを強化する方向での分類の見直しが続き、最も多い時には、レッドゾーンが8州、オレンジゾーンが8州に拡大した。
その後、11月中旬に新規感染者数が2度目のピークをつけた後、急激に新規感染者数の数が減ったことを受け、他の欧州各国で規制措置が緩和されるのと歩みを同じくして、11月28日に、レッドゾーンからオレンジゾーンへ、オレンジゾーンからイエローゾーンへと警戒レベルを下げる方向での分類の見直しが行われたが、12月2日に、クリスマスと新年の休暇に向けた制限措置を発表した際には、欧州各国が制限を緩和する方向で検討したのに比べて、制限を維持又は強化する方針を打ち出した60。また、その後も繁華街での人出が減らないなど、感染者が急増する懸念が強まったことから、12月18日に緊急政令を出し、12月24日から2021年1月6日までの土日祝日と祝前日には、全土でレッドゾーンの措置を適用し、その他の曜日には、全土でオレンジゾーンの措置を適用するなど、休暇中の制限措置を強化する決定がされた。また、英国で新型コロナウイルスの変異株の感染が拡大したことから、12月20日には英国からの入国を禁止したものの、イタリアにおいても感染者が増加したことから、21年1月7日以降も全土において州・自治体をまたぐ移動を禁止するなど制限を強化した。他方で、イエローゾーンよりも制限措置が緩やかなホワイトゾーンを導入するなど、地域ごとの感染状況に応じた対策にも修正が施された。その後の警戒ゾーン分類の見直しでは、警戒レベルが下がる地域もあれば上がる地域もあるなど、収束へのめどがたたず、4月の復活祭の休暇61ではホワイトゾーンに指定されている地域を除いて全土をレッドゾーンに指定した。4月22日には緊急事態宣言を7月31日まで延長するなど、全土で感染拡大防止対策を緩和するには至っていない(補論第20表)。
欧州域外62からのイタリアへの渡航については、7月1日に、EUが提示した15か国のリストから相互主義に基づいて中国を除く14か国を対象に入国制限を解除したものの63、7月9日には再び感染症の流行が深刻な国に滞在又は通過した渡航者の入国及び通過を禁止するなど、制限解除の対象を拡大する傾向にあった他の欧州諸国に比べて、慎重な対応が採られた。また、6月11日以降、欧州諸国とシェンゲン協定加盟国、英国等からの入国については制限がなかったが、これらの国における感染状況を見て、夏のバカンスシーズン中である8月14日に、クロアチア、ギリシャ、マルタ、スペインについて、これらの国で滞在又は乗り換えを行った者に対して、入国の72時間以内の陰性結果を提示するか、空港等で48時間以内に検査を受けることを義務化した。この後、9月21日には義務の対象にフランスの一部地域についても追加し64、10月7日には、フランス全土、ベルギー、オランダ、英国、チェコも加えて、水際対策を強化した。また、英国で新型コロナウイルスの変異株の感染が拡大したことから、12月20日には英国からの入国を禁止したほか、1月中旬には新たな変異株への対策としてブラジルからの入国と滞在を禁止した。また、4月29日にインド及びバングラディシュからの入国と滞在を禁止した。
(英国)
20年9月中旬以降の感染再拡大を背景に、20年秋以降にも様々な活動再抑制措置65が採られた(補論第21図、補論第22表)。具体的には、9月24日から飲食店の営業を22時までとすること、在宅勤務を再度奨励するとともに、10月1日から予定していたスポーツイベントへの一定の観客の入場を認める計画を見送ることとした。一方で、10月14日から、それまでの地域ごとの独自の活動再抑制措置に代わり、感染の警戒度を表す3段階(中、高、最高)の制度「ローカルCOVID警報レベル(Local COVID Alert Level)66」をイングランドで新たに導入することで、各地域のルールの簡素化・標準化を行った。導入当初にイングランドの多くの地域が含まれた警戒レベル「中(Tier 1)」では、それまでの地域ごとの措置を反映し、飲食店の深夜・早朝営業(22時~5時)を禁止するほか、屋内外での7人以上の集会を禁止するなどの制限が採られた(補論第23表(1))。警戒レベル「高(Tier 2)」では、加えて、屋内で異なる世帯との接触を禁止した。リバプール67が含まれた警戒レベル「最高(Tier 3)」では、警戒レベル「高」に加えて、食事を提供しないパブやバーの営業を禁止、屋外でも異なる世帯との接触禁止等の措置が採られた。あわせて、政府ホームページの専用サイトで郵便番号を入力すれば、その地域の警戒レベルと制限内容を確認できる仕組みづくりも開始することとした。首都ロンドンは、10月17日に、それまでの警戒レベル「中」から「高」に移行し、他の地域・都市も警戒レベルが引き上げられた。それでもなお増加する新規感染者数と、医療機関のひっ迫を防ぐため、11月5日~12月1日までの約1か月間、不要不急の外出制限や必需品以外の小売店やレジャー施設等の営業を禁止する2回目の都市封鎖を実施した。建設業や製造業等自宅で仕事ができない職場や学校の閉鎖をしないことが、3月に実施した1回目の封鎖措置との大きな違いである。
11月中旬をピークに新規感染者数が減少したことを受け、12月1日、予定どおり封鎖措置は終了し、12月2日から、地域ごとにローカルCOVID警報レベルに準じた措置が採られたことで(補論第23表(2))、緩和の程度は地域により異なるが、どのレベルにおいても、不要不急の外出や屋外でのスポーツ等を許可したほか、デパート等の小売店や理美容、スポーツジム等の営業が再開された。また、12月8日からワクチンの接種も始まり、活動抑制措置の緩和を後押しした。
しかし、経済活動の再開と感染力が強いとされる変異株が蔓延したことで、再び感染が拡大し、ロンドンを中心に感染拡大の急増が続いたため、12月16日からロンドン全域及び隣接する一部地域が、それまでの警戒レベル「高」から「最高」に移行した。それでもなお、変異株により感染拡大に歯止めがかからず、英国政府は実質的な都市封鎖と同等の制限となる、警戒レベル「自宅待機(Tier 4)」を「最高」の上に新設した上で、20日からロンドンを含むイングランド南部で、「自宅待機」レベルに移行した。「自宅待機」レベルでは、食料品・生活必需品以外の小売店の営業が禁止され、「自宅待機」レベル以外の地域への移動を控えるなど、実質的な都市封鎖と同程度の活動抑制措置が採られた。諸外国では変異株の自国への流入をおそれ、英国との往来を禁止したため、特に英国と欧州大陸の貿易の大動脈となるドーバー海峡では、英国からフランスへの貨物車両の入国が2日間遮断され、物流にも影響を与えた。
20年末から21年1月上旬にかけて、新規感染者数が最多更新をする日々が続いたこと、また、それによる医療機関の更なるひっ迫を受け、1月6日~3月7日の約2か月間、イングランドにおいて3回目の都市封鎖が行われた。3回目の都市封鎖下では、2回目の都市封鎖との違いとして、原則的に学校での対面での授業が停止された。
経済活動の再開については、2月中旬に1回目のワクチン接種を終えた人数が1,500万人に達したことや、新規感染者数が減少していることなどを背景に、2月22日、英国政府はイングランドでの都市封鎖を段階的に緩和するロードマップを公表した。3月8日に学校の再開を皮切りに、ワクチン接種の進捗状況等、定められた基準に基づいて判断される。同計画に基づき、デパート等の小売店は4月12日に再開し、さらに飲食店屋内営業の再開は5月17日以降とされている(補論第24表)。また、5月7日には、5月17日からの不要不急の海外渡航を認めると発表した。海外渡航の再開に当たり、感染状況やワクチンの接種状況に応じて、各国・地域を区分し、帰国時の隔離措置の要否や内容を定めている。
国外からの流入防止策については、20年7月10日から適用された旅行回廊アプローチ(travel corridor approach)68によって、適宜対象国の除外、追加を行っており、変異株が世界的に確認される年末頃まで比較的寛容な対策を採っていた。しかし、変異株が確認された国やその周辺国を中心に、その流入を防ぐ目的で、12月24日から南アフリカ共和国を、21年1月9日からナミビア、ジンバブエ等の南アフリカ10か国を、1月15日からブラジル等の中南米及びポルトガル69を原則的に入国禁止国とした。また、21年1月18日から、イングランドへの入国者に対し、原則的に出発前72時間以内に受けた感染症検査の陰性結果証明の提示を義務付けると同時に、2月15日まで旅行回廊アプローチを一時停止したことで、一部の免除対象者を除き全ての入国者に入国後10日間の自己隔離を義務付けた。さらに2月15日以降は、自己隔離期間中の2、8日目に2回の検査の受検を義務付けるなど一層厳しく対策を行っていた。5月17日以降は、国内外のワクチン普及に伴い、一部の国・地域からの入国後の自己隔離を不要とし、さらに、そうした国・地域からの入国後の検査の受検を1回のみとするなど、一部緩和された。
なお、イングランド以外の地域においても、それぞれ活動抑制措置が採られ、順次緩和されつつある。北アイルランドでは、10月16日~11月19日の5週間、デリバリーや持ち帰りを除く飲食店の営業を禁止するとともに、在宅勤務の要請を行った。その後も、11月27日~12月10日の2週間、デリバリーや持ち帰りを除く飲食店に加え、食料品、生活必需品以外の小売店の営業を禁止するなどの活動抑制措置が採られ、さらに、12月26日~21年3月31日の3か月以上にわたり70、11月末と同等以上の活動抑制措置が採られ71、実質的な都市封鎖が2回行われた。なお、経済再開については、4月12日に不要不急の外出制限が解除され、4月30日から食料品・必需品以外の小売店、飲食店等の屋外営業が再開されている。
ウェールズでは、10月23日~11月9日の間、都市封鎖が実施された。同措置では、食品以外の小売店やデリバリー・持ち帰りを除く飲食店のほか、美容院等の接客サービス、ホテル等のイベントや観光業の営業を禁止し、通勤や運動等の限られた目的を除き外出を禁止するとした。一時的にこうした措置は解除されたものの、12月4日から飲食店の営業時間は18時までとなり、さらに、12月20日~3月12日の約3か月間、10月と同様の活動抑制措置が採られ72、2回の都市封鎖が行われた。なお、経済再開については、3月13日に不要不急の外出制限が解除され、4月12日から食料品、生活必需品以外の小売店の営業が、4月26日から飲食店の営業が再開されている。
スコットランドでは、11月2日、イングランドと異なる5段階の制限システムが導入され、感染が拡大している一部地域での活動抑制措置が強化されたものの、全土での活動抑制措置は11月まで導入されていなかった。しかし、12月26日から、島しょ部以外の全域に対して警戒レベルを4に上げたことで、食料品、生活必需品以外の小売店や持ち帰りを除く飲食店の営業を禁止したほか、スコットランド以外の地域への往来を禁止するなど、厳しい措置を採った。さらに、21年1月5日以降、4月1日までの約3か月間、都市封鎖を行った73。都市封鎖の内容は、イングランドでの3回目の都市封鎖に近いものであり、不要不急の外出制限や食料品、必需品以外の小売店やレジャー施設等の営業を禁止したほか、原則的に学校での対面での授業が停止された74。経済再開については段階的に実施され、4月2日から不要不急の外出制限が解除、4月26日から食料品、生活必需品以外の小売店、飲食店等の屋外営業が再開されている。
総じて、20年末から21年3~4月にかけて、英国全土で都市封鎖同等の厳しい措置が採られ、順次経済活動が再開している。