第1章 感染症持続下の世界経済(第1節)
第1節 世界経済の動向
1.世界の経済成長
世界経済は、感染拡大防止のために経済社会活動が制限されたことにより、極めて厳しい状況に陥ったが、2020年夏以降は、世界全体としては持ち直しの動きがみられている。こうした世界経済の動きをG20の実質経済成長率からみると、感染拡大の影響により、20年はいずれの四半期もマイナス成長となったが、21年1~3月期以降は前年比でプラスとなった(第1-1-1図)。ただし、国や地域により影響を受けた期間は異なる。20年1~3月期は中国も含めてマイナス成長となったが、20年4~6月期以降、中国は前年比でプラスに転じた。一方、アメリカ、EUなど欧米諸国については、20年7~9月期に4~6月期の減少分を一定程度取り戻したものの、感染拡大前の水準には戻らず、冬に入って欧米で感染者数が増加したことや、特に欧州では再度制限措置を強化する動きもあったことから、10~12月期も引き続き前年比マイナスとなった。21年1~3月期には、EUは引き続き前年比マイナスとなった一方、中国では前年同期が大きく落ち込んだこともあり前年比で大きくプラスとなったほか、アメリカもわずかに前年比プラスとなり、世界全体として前年同期を上回る水準となった。21年4~6月期は、前年同期が低水準であることにより、前年比のプラス幅が拡大した。
2.国・地域別の経済への影響
こうした世界経済の回復の動きを国・地域別にみると、感染再拡大の動向等に応じて異なっている(第1-1-2図)。
欧米主要国では、20年4~6月期に成長率が大きく落ち込んだ後、7~9月期には前期比でプラスに転じた。10~12月期の動向は国によって異なっており、アメリカでは前期比1.2%増と持ち直しが続いた一方、欧州では、感染の再拡大に伴い経済活動の再制限が行われたことにより、ドイツでは前期比0.5%増と、それまでの落ち込みと比して弱い回復となり、フランスは同1.0%減とマイナス成長となった。21年1~3月期には、アメリカではワクチン接種が広がるなかで経済活動の再開が進展しプラス成長が続いた一方、欧州では経済活動の抑制措置が続き、ドイツが前期比2.1%減、フランスが同0.0%、英国が同1.6%減と、各国でマイナス成長もしくは横ばいとなった。21年4~6月期には、アメリカでコロナ前の水準を回復し、また、欧州においても経済活動が再開されプラス成長となった。
新興国についてみると、中国では、20年1~3月期の実質経済成長率が前年比6.8%減と大きく落ち込んだが、4~6月期には同3.2%増となり、その後も回復が続いている。その他の主な新興国をみると、欧米主要国と同様、20年4~6月期に大きく打撃を受けた後、20年7~9月期は前年比のマイナス幅が縮小した。10~12月期は、ブラジルやロシア等では前年の水準には至っていないが、インドでは前年比0.5%増と、前年を上回る水準まで回復した。21年1~3月期には、ロシアでは前年比0.7%減とマイナス幅が縮小し、インドでは前年比1.6%増とプラス幅が拡大した後、4~6月期にはロシアで前年比10.3%増と大きく上昇した。
3.欧米主要国における各需要項目の推移
欧米主要国の実質GDPの動向を需要項目別にみると、個人消費については、アメリカでは、経済再開の進展に加え、大規模な経済対策の効果もあり、21年1~3月期には感染症前の水準を超えた(第1-1-3図)。一方、欧州においては、20年7~9月期には経済の再開に伴い前期から増加したものの、秋以降、経済活動の再制限により、再び減少に転じた。21年春以降は経済活動が再び緩和へと向かい、21年4~6月期には増加している。
設備投資の動向をみると、アメリカやフランスでは、20年後半以降持ち直し、21年4~6月期に感染症前の水準を超えた。一方、英国では、感染の再拡大に伴い、21年1~3月期には輸送機器等を中心に減少し、4~6月期には増加に転じたものの低い水準となっている。
輸出入の動向をみると、アメリカでは、20年後半以降、輸入は堅調な内需を背景に拡大が続く一方、輸出は、サービス輸出の回復の遅れに加え、半導体不足を背景とした自動車・同部品の輸出の低迷もあり、21年4~6月期においても感染拡大前より約1割程度低い水準となっている。欧州では、輸出入ともに、ドイツやフランスと比較して英国の低調さが目立つが、背景には、英国のEU離脱の移行期間が20年12月末をもって終了したこともあると考えられる。
4.世界の鉱工業生産・貿易の推移
世界の鉱工業生産の推移をみると、アメリカやユーロ圏において経済活動が制限されたことなどから、20年4~5月に1月の水準と比べて1割弱の減少となった(第1-1-4図)。その後は持ち直し、20年8月には感染症前の水準を回復した後も増加が続いたが、世界的な半導体不足などの影響もあり、21年に入ってからはおおむね横ばいで推移している。
世界の財貿易量をみると、20年4~5月には1月の水準と比べて15%近く減少したが、その後持ち直し、21年に入ってからはおおむね横ばいで推移しており、鉱工業生産と類似した動きとなっている(第1-1-5図)。
5.各国政府の財政状況
経済活動が堅調に推移している背景には、補論にあるように、感染拡大の抑制による制限措置の緩和に加え、各国で財政出動が行われていることがある。それに伴い、各国の財政状況は悪化する見通しとなっている(第1-1-6図)。財政収支を国別にみると、各国で実施された経済対策の影響で、いずれの国も19年から20年にかけて大幅に悪化したものの、現在行われている支援策の内容を前提とすると、21年、22年にかけて景気対策の規模が縮小すると見込まれていることから、財政収支は徐々に改善する見通しとなっている。ただし、財政均衡には遠いことから、各国の政府債務残高は、20年に悪化した後、しばらく高止まりする見通しである。
6.今後の見通し
国際機関の世界の実質経済成長率見通しをみると、IMF・OECDともに、欧米主要国で経済活動への制限措置の緩和が始まった20年6月頃における見通しが最も低かったものの、20年7~9月期の反動増が見通しより強かったことや、年末にかけてワクチン開発の進展などもあり、20年の落ち込み幅は当初見込みより徐々に縮小改定され、実績は落ち込み幅が更に小さくなった(第1-1-7図、第1-1-8図)。21年見通しは、20年の落ち込みが小さくなったのに対応して当初は上昇幅が小さく見積もられたものの、ワクチン接種の進展や各国の追加経済対策などを織り込んだことで、IMF・OECDいずれにおいても見通しが引き上げられている。その結果、直近の21年及び22年の見通しは、それぞれ、IMF(21年7月時点)は6.0%増、4.9%増、OECD(21年5月時点)は5.8%増、4.4%増となっている。
7.国際金融市場への影響
20年以降の感染拡大により、20年春頃から国際金融市場は大きく変動したものの、秋以降はワクチンの開発・接種の進展もあり、景気回復に対する期待を受けて、持ち直している。21年に入ると、アメリカでバイデン政権が発足し、大型追加経済対策への期待とそれに伴う国債増発への懸念から、21年1~3月にアメリカの長期金利が上昇傾向となり、新興国の株価については一服感がみられる局面もあった。以下では、株式市場、為替市場及び原油市場の動向を概観する。
(1)株式市場
感染拡大を受け、20年1月から3月後半にかけて主要国・新興国の株価指数は大幅に低下したものの、その後は各国の経済・金融の両面で対策が実施されたことや、段階的な経済活動の再開などもあり、20年秋にかけて持ち直しを続けた(第1-1-9図、第1-1-10図)。また、20年秋以降は新型コロナウイルスに対応したワクチンの開発が進んだことや、12月には欧州やアメリカでワクチン接種が開始されたことから景気回復期待が強まり、また、21年初めにはアメリカの追加経済対策への期待もあって、一段と株価が上昇する局面がみられた。欧米先進国株価は、21年5~6月には、アメリカの物価上昇を受けて金融政策の引締めが意識され、調整する局面も見られたものの、その後は上昇を続けている。アジア・新興国株価は、21年に入ってから、アメリカの長期金利が上昇したことなどもあり、新興国の株価上昇の動きに一服感がみられた。その後は、感染動向等に応じ動きは異なるものの、韓国やインドにおいては、おおむね上昇傾向にあり、中国では、当局による規制強化の動きなどが影響して上昇が抑えられている。
(2)為替市場
先進国通貨の対ドルレートをみると、20年夏頃から、ユーロは21年1月頃まで、ポンドは21年2月頃まで、新型コロナウイルスに対するワクチン開発や接種の進展期待に加え景気回復期待などからリスクを取る姿勢が強まり、ドル安基調となっていた(第1-1-11図)。21年2月頃からは、アメリカの長期金利が上昇したことでドル高基調に転じた。その後は、4~5月に英国の経済活動制限の緩和期待によるポンド高の動き、6月にFOMC参加者による利上げ見通しの前倒しを受けたドル高の動きが見られつつも、総じてみれば安定して推移している。
新興国通貨の対ドルレートをみると、先進国と同様に20年夏以降はドル安基調となっていたが、21年に入ってアメリカの長期金利が上昇したことや、欧米を含め各国で新型コロナウイルスの変異株による感染が拡大しリスクオフの動きとなったことなどから、ドル高基調に転じた(第1-1-12図)。
(3)原油市場
原油価格は、20年6月以降はおおむね40ドル前後で推移していたが、11月初旬にワクチン開発の進展が報じられると景気回復期待もあいまって原油価格は上昇傾向となった(第1-1-13図)。また、産油国の協調減産規模の維持やサウジアラビアの自主減産の表明も、原油の需給改善に資するとの見方から上昇傾向に寄与し、21年2月には60ドルを超えることとなった。21年3月には、IEAが供給不足に陥るとの観測を否定したことなどもあり、下落する局面もあったが、その後は上昇傾向が続いた。21年7月に入ると、変異株による感染が拡大したことや、OPECプラス会合において減産縮小が合意されたことなどもあり、価格は下落傾向となっている。