第1章 感染症持続下の世界経済(第2節)

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第2節 欧米における支援策の動向

以下では、アメリカ及び欧州において、20年秋以降に成立した施策を中心に、その内容を整理する1

1.アメリカ

アメリカでは、20年3月から4月にかけて、累次の経済対策が実施された。5月以降は、共和党・民主党間で合意がなされず追加対策の成立は見送られていたが、12月になると、失業手当の拡充措置2の期限が近付いたことなどから、超党派議員による追加対策案が公表されるなど、再び追加対策に関する議論が活発となり、12月27日には、8,677億ドル(約90兆円、対GDP比4.1%)の追加対策(Coronavirus Response and Relief Supplemental Appropriations Act,2021)が成立した。これには、1人当たり最大600ドル(約6万円)の現金給付の再実施3、失業手当の週300ドル(約3万円)上乗せ等の拡充措置、雇用維持により返済免除となる中小企業向け融資(PPP:Paycheck Protection Program(給与保護プログラム))の再実施4、航空会社・空港・交通機関等に対する給与支払支援等が含まれている(第1-2-1表)。

また、21年3月11日には、バイデン新政権の下で、総額1.9兆ドル規模(約200兆円、対GDP比8.9%)の「米国救済計画(ARP:American Rescue Plan)」が成立した。本対策には、20年12月に成立した失業手当の拡充措置の更なる延長、現金給付(1人当たり最大1,400ドル)の再実施、児童税額控除の拡大、州・地方政府向け支援、中小企業向け支援、教育機関向け支援等が盛り込まれている(第1-2-2表)。

第1-2-1表 追加経済対策(2020年12月27日成立)の概要
第1-2-2表 追加経済対策(2021年3月11日成立)の概要

2.欧州

(1)ドイツ

ドイツ政府は、段階的な経済活動の再開以降も、感染症の影響を受ける企業や自営業者を支援するため、つなぎ支援(Überbrückungshilfe)や11月・12月臨時経済支援(Novemberhilfe、Dezemberhilfe)を始めとする対策を実施した。

つなぎ支援は、対象月の売上が一定以上減少した企業に対して、固定費の一定割合を給付する制度である。20年6~8月を対象期間とした第1期では、原則として4~5月の平均売上が前年比60%以上減少した中小企業が対象であり、経済安定化基金(WSF)5へのアクセスの規模基準((ア)総資産が4,300万ユーロより多いこと、(イ)売上が5,000万ユーロより多いこと、(ウ)年間平均従業員数が249人より多いことの3つのうち2つを満たしていること6)を満たす企業や、年間売上高が7億5,000万ユーロより大きい企業等は対象外とされた。この条件を満たした企業のうち、6~8月の各月の売上が前年比40~50%、50~70%、70%超減少した企業に対して、順に該当する月の固定費のそれぞれ最大40%、50%、80%が支給される(上限は1か月当たり5万ユーロ)。

また、9~12月を対象期間とした第2期では、(ア)4~8月のうち2か月連続で売上高が前年同月比50%以上の減少、(イ)4~8月の平均売上高が前年同期比30%以上の減少のいずれかに該当する企業を対象に、9~12月の各月の売上が前年比30~50%、50~70%、70%超減少した企業に対して、順に該当する月の固定費のそれぞれ最大40%、60%、90%が支給され(上限は1か月当たり5万ユーロ)、第1期から給付要件の緩和及び支給額の拡充がなされた(第1-2-3表)。

さらに、11月に導入された経済活動の再制限の影響を受けた事業者を支援するため、12月には、20年11月~21年6月を対象期間とする第3期も実施することが公表された。第3弾では、20年の売上が7億5,000万ユーロ以下の企業のうち、20年11月~21年6月の各月の売上が19年同月比で30%以上減少した企業を対象に、売上が30~50%、50~70%、70%超減少した月に対して、順に該当する月の固定費の最大40%、60%、100%が支給される(上限は1か月当たり150万ユーロに拡充)。第2期と比べて支給期間が長期化し、支給上限額が引き上げられたほか、支給要件が簡素化された。さらに、第3期の支給条件や支給内容等を維持しながら、支給対象期間を21年7~9月まで延長する第4期の実施も公表された。

また、11月2日以降の経済活動の再制限の影響を受けた事業者に対しては、11月、12月臨時経済支援が創設された(第1-2-4表)。11月臨時経済支援では、(ア)休業要請の対象となった事業者、(イ)それらの事業者との間で売上の80%以上を生み出している事業者等を対象に、都市封鎖による休業日数に応じて、前年11月の売上の75%が支給される。ただし、支給額は、操業短縮手当、つなぎ支援等の同期間のその他の支援額や、11月の売上が前年11月の売上高の25%を超える場合はその部分と相殺され、休業対象となっている事業者に事業収入がある場合でも、給付と併せて前年11月の売上高を超える収入を得ないようにしている。また、経済活動の制限の期限が当初予定されていた11月末から延長されたことを受けて、11月臨時経済支援と同様の支給条件で、12月の都市封鎖による休業日数に応じて前年12月の売上の75%を支給する12月臨時経済支援も実施されている。なお、12月臨時経済支援が終了する21年1月以降は、前述したつなぎ支援第3期により、支援が継続される。

このほか、自営業者に対する特別給付7等の対策が行われている。

第1-2-3表 ドイツの中小企業等向け給付:つなぎ支援
第1-2-4表 臨時経済支援

(2)フランス

フランス政府は、欧州理事会において「次世代のEU」と称する7,500億ユーロ規模の復興基金の設立が合意に至ったことを受けて、20年9月3日に、2030年に新たなフランスを構築することを目標に掲げた「フランス・リランス(France Relance、フランス再起動)」計画と題する1,000億ユーロ規模の経済対策を発表した8。本計画は、感染症の影響から国民生活を保護するだけでなく、これを機に構造改革を促進して、EU加盟国として欧州全体の国際的な競争力を高めることを企図したもので、EU復興基金から費用の40%の提供を受ける予定となっている。本計画はエコロジー、競争力、結束を主眼にしており、これらに適うものであれば支援の対象とし、幅広い案件、対象者を支援できる仕組みとしている。具体的には、脱炭素社会を目指したグリーンテクノロジーへの支援、企業の競争力強化を目指した中小企業のデジタル化や先端技術採用支援、航空・自動車産業支援、輸出企業支援、世代間や企業規模間の不平等を是正するための若者の就職支援、企業の雇用維持支援等に対して、幅広く包括している。また、一部の経済対策は、08年の国際的金融危機の後にイノベーションと投資を促進するべく設けられた枠組みである「未来への投資プログラム(du Programme d’investissements d’avenir:PIA)」の第4回プログラムに位置付けられおり、既存の支援の枠組みを活用して実施されている9

また、9月下旬から制限措置を再強化したことに合わせて第四次補正予算を編成し、売上が減少した事業者を財政的に支援するために、従業員に支払う一時帰休手当の補てん、小規模事業者向けの給付金(連帯基金)、社会保険料の支払免除といった、これまでに採った措置を拡充したほか、新たに企業の賃料を支援する措置を公表した。

一時帰休手当については、経済活動の再開に伴って6月から給付額が引き下げられており、10月に更なる引下げが予定されていたが、これが延期となったほか10、休業や営業時間短縮措置の対象となった事業所と、制限の対象とならなくとも感染の再拡大によって打撃を受けていると考えられる、ホテル、レストラン、カフェ、観光、イベント、スポーツ、文化分野については、政府の補てん率を100%(給付額は額面給与の約7割)とする措置が採られた。

連帯基金については、経済活動の再開に伴って6月から対象業種が全業種から観光セクターに絞られていたが11、10月以降は、従業員数の上限が20人から50人に拡大されたほか、夜間外出禁止エリアにあるか休業措置を受けていることを条件に全業種を対象に拡大された。また、段階的に封鎖措置を解除するにあたって、12月1日以降は、観光セクター等のみならず、その川上や川下にあって影響を受けると考えられる業種も、前年同期と比較して売上高が50%以上減少していることを条件に助成の対象とするなど、助成を強化している。その際、休業措置の対象と観光セクターについては、給付額の上限を月額1万ユーロから20万ユーロに引き上げた。その後、変異株の感染拡大に伴って12月15日の制限緩和が予定より小幅なものとなり、スキーリゾート等の再開の目処が立たなくなったほか、21年1月末からは、食料品以外を取り扱う大型ショッピングセンターにも休業措置の対象とするなど再び制限が強化されると、これら制限措置の影響を受ける業種や地域についても月額で上限20万ユーロの助成の対象とした。

社会保険料の支払免除については、2~5月に実施された際は、ホテル、レストラン、観光等のセクターに属する従業員250人以下の企業が対象であったが、20年10月30日の外出制限導入の際は、これらセクターの企業のうち売上が50%以上減少している企業と、休業措置の対象となっている従業員数50人以下の全ての企業も対象とするとともに、事業活動が上記セクターの川上や川下にあって影響を受けるセクターに属する従業員250人以下で売上が50%以上減少している企業も対象に含めるなど、対象を拡大した。

この他、新たに、不動産の貸主が従業員250人未満の企業の賃料を放棄した場合、賃料の50%に相当する額の税額控除を貸主に認める措置(従業員250~5,000人の企業については賃料の2/3を上限に税額控除)を21年に導入することが発表された。

(3)英国

英国政府は、20年初秋以降も、感染者数が再び増加する中で、雇用維持と医療強化を目的とした追加の経済対策を行っている。

イングランドで2度目の都市封鎖実施が表明された10月31日、10月末で終了を予定していた雇用維持スキーム(Coronavirus Job Retention Scheme12を11月末まで延長・拡充することが併せて表明された。人件費の政府補助率は、20年3月の開始時の80%から段階的に引き下げられ、10月には60%としていたが、11月には再度80%に引き上げられ、これに伴い上限額についても1,875ポンドから2,500ポンドに引き上げられた。雇用主からみると、社会保険料を支払う点は3月の開始時と異なる13ものの、政府からの補助率は開始時と同じとなった。21年3月3日、雇用維持スキームを最終的に9月末まで継続することに改め、補助率については6月まで80%とし、7月に70%、8~9月に60%に、段階的に引き下げることとした14(第1-2-5図)。

第1-2-5図 英国の雇用維持スキーム

雇用維持スキームの申請数から、一時帰休者の人数についてみると、20年4~5月にかけて800万人以上が一時帰休となった15。その後、経済活動の再開とともに、一時帰休者は、6月末に約680万人、7月末に約540万人、8月末に約380万になり、徐々に減少した。10月末には、約240万人となったが、イングランドでの11月及び21年1月からの都市封鎖を受け、11月末、21年1月末には、それぞれ約390万人16、約490万人となり、10月末と比較して増加したことからも、雇用維持スキームの延長は雇用維持に効果的であったと考えられる(第1-2-6図)。

第1-2-6図 英国の一時帰休者の推移

自営業者に対しても同様に、20年11月2日及び5日、所得補助スキーム(Self-Employment Income Support Scheme)の拡充により、20年11月~21年1月分の補助にあたる3回目の給付においては、当初の予定を変更し、過去3年間の平均所得の80%(上限7,500ポンド)を支給することとした17。さらに、21年3月3日、4回目の給付について、3か月の平均所得の80%の支給を維持することとともに、最終的に21年9月末まで継続し、追加支給することとした。5回目の給付については、売上高の減少に応じた支給とし、20年4月~21年4月の売上が30%以上減少した場合には平均所得の80%(上限7,500ポンド)を支給するが、30%未満の減少であった場合には平均所得の30%(上限2,850ポンド)を支給することとした。なお、民間シンクタンクのResolution Foundationは、自営業者の失業規模が、雇用者の失業規模より大きくなっていることを考慮すると、3回目の給付率の拡充は歓迎されると指摘している18。しかし、別の調査19によると、20年5月には、感染症拡大前に自営業をしていた人の9%が失業中もしくは経済活動をしていないと回答していたのに対し、21年1月には14%に増加している。これは、自営業者向け支援が継続される中、自営業の失業者や経済活動を実施していない人が、感染症危機の期間が長引くとともに増加していることを示しており、今後も自営業者の失業者数の推移には留意する必要がある。

また、その他の雇用維持支援や企業の資金繰り支援として、20年秋頃より、地域ごとで行動制限措置が採られたことを受け、イングランドにおいて、ローカルCOVID警報レベル(詳細は(補論)各国・地域における感染状況と活動抑制措置を参照)に応じた休業措置対象事業者に対する助成金の給付(Local Restrictions Support GrantClosed))や、休業措置対象ではないものの打撃を受けた事業者に対する助成金の給付(Local Restrictions Support GrantOpen))等を行っている(第1-2-7表)。

休業措置対象事業者に対する助成金については、20年11月5日からのイングランドでの都市封鎖に先立ち、それまで21日ごとに最大1,500ポンドの給付20としていたところを、給付サイクルを14日ごとに変更し、11月5日から12月1日までの都市封鎖期間に、最大3,000ポンドの給付を受け取ることができるようにした(Local Restrictions Support GrantClosedAddendum)。また、21年1月6日からのイングランドでの都市封鎖時には、1回目には42日間で最大4,500ポンドを、2回目には44日間で最大4,714ポンドの給付を行った。さらに、1月のイングランドでの都市封鎖を受けて、課税評価額に応じて最大9,000ポンドの給付(Closed Businesses Lockdown Payment)のほか、食事を提供しないパブ向けの支援(Christmas Support Payment for wet-led pubs)として12月に1,000ポンドの給付を行い、4月以降の事業活動再開に向け、飲食・宿泊・娯楽業向けに最大18,000ポンド、生活必需品以外を扱う小売店向けに最大6,000ポンドの給付(Restart Grants)を行っている。

休業対象ではないものの打撃を受けた事業者に対する助成金については、都市封鎖終了に伴う20年12月2日から、それまで28日ごとに最大2,100ポンドの給付21としていたところを、給付サイクルを14日間にすることとした。

第1-2-7表 英国(イングランド)の主な企業給付支援(雇用維持スキーム、所得補助スキームを除く)

さらに、11月25日、歳出計画(Spending Review 2020)22において、医療体制強化等の公共サービスに、20年度中に380億ポンドを、21年度に550億ポンドを追加支出することとした。また、失業者の増加23への対応として、100万人を超える長期失業者の再就職支援に向こう3年間で29億ポンドを充てることとしている。

21年3月3日には、21年度予算において、650億ポンドの追加経済対策を表明した。主な対策としては、前述した雇用維持スキーム及び所得補助スキームの延長、事業活動再開給付に加え、飲食、宿泊等への付加価値税(VAT)率の引下げ期間の延長と段階的な引上げ24、特定事業者を対象とした事業用固定資産税の免税延長等が挙げられる。こうした経済対策と併せて、将来の財政健全化に向けた取組として、法人税率(現行一律19%)について、23年4月から企業収益に応じ最高25%まで引き上げることも併せて表明した25

なお、企業の倒産件数は、前述のとおり、経済対策の効果もあり、引き続き低い水準で推移しているものの(コラム図4)、雇用情勢については、20年秋以降20年末にかけて失業率が上昇していることや、政府支援は時限措置であることから、今後は政府の支援策だけで雇用を維持することは難しいとみられる。また、20年6月末までに一時帰休となった累計960万人のうちの61%にあたる590万人が、オートメーション化による雇用喪失のリスクが高い業界で占められているとの調査結果もあり26、感染症による事業活動縮小や倒産等による雇用喪失だけでなく、感染症によって加速されたオートメーション化27により雇用喪失の可能性があることには、留意が必要である。

(4)EU

ヨーロッパにおいては、各国政府のみならず、EUにおいても各種経済対策が講じられている。

そのうちの一つが、20年7月21日に欧州理事会において合意に至った、「次世代のEU」と称する7,500億ユーロ規模(GDP比4.6%)の復興基金である。この基金のうち、中核を成す部分は「復興・強靱化ファシリティ」と呼ばれる加盟各国のコロナ危機からの経済復興と構造改革を促進するための基金であり、7,500億ユーロのうち6,725億ユーロ(うち補助金3,125億ユーロ、融資3,600億ユーロ)が加盟国に配分されることになった(第1-2-8図)。各国は、復興・強靱計画(21~23年)を作成し、欧州委員会の承認を受けることにより、経済規模等の指標を元に定められた国別割当額の範囲内で、EUから資金提供を受けることができる(第1-2-9表)28。EUは、同基金と21~27年の次期中期予算(多年度財政枠組:MFF)を織り込んだ1兆8,000億ユーロ規模となるEU復興パッケージを活用し、グリーンディール政策やデジタル政策といったEU共通の重要課題に対して積極的に投資する計画であり、加盟各国が策定する復興・強靱計画について、少なくともその37%以上を気候変動対策に、20%以上をデジタル化に振り向けることを求めている。MFF及び復興基金は、感染症の拡大による景気後退からの復興のみならず、中期的視点でのEU全体の公正な市場環境の整備や競争力強化も目的としており、次世代のヨーロッパ経済の発展を達成するための起爆剤としての役割が期待されている。

第1-2-8図 EU復興パッケージ及び復興基金
第1-2-9表 各国への補助金割当額

なお、復興基金の資金調達方法については、欧州委員会が債券を発行して市場から資金を調達するという方式が採用されることとなった。

また、復興基金の合意に向けた調整と交渉過程は難航を極めた。加盟国全体での共同債は、財政状況が健全で信用度が高い国が独自に発行する債券よりも利回りが高くなる傾向にあること、また、共同債の返済原資となるEU予算の拠出金はそうした国ほど負担が大きいことから、財政規律を重視するオランダ、オーストリア、スウェーデン、デンマーク(いわゆる倹約4か国)の反発を招き、20年4月、6月に開催された欧州理事会では合意に至らなかった。その後、7月に改めて開催された理事会において、会期を延長して協議を重ねた末、ようやく内容を一部見直した上で基金の規模、使途等について合意に至った。中でも注目されたテーマは、同基金を構成する返済不要の補助金と要返済の融資の割合であり、倹約4か国に配慮し、欧州委員会による当初案の5,000億ユーロ対2,500億ユーロから補助金の比率を引き下げ、3,900億ユーロ対3,600億ユーロに変更された。ところが、予算の不適切な使用を防止することを目的として、EUの基本的価値の1つである「法の支配の原則」を予算配分の条件とする仕組みを導入する動きが出たことに対して、以前より同原則の観点でEUから問題提起を受けていたハンガリーとポーランドが反発し、交渉は再び暗礁に乗り上げた。一時は交渉が長引いてMFFの成立が21年に持ち越すとの観測もなされたが、EUの議長国であるドイツが妥協案を提示し、ハンガリーとポーランドがこれを受け入れたことで、12月の欧州議会及びEU理事会において最終的に承認され、21年1月より執行されることが決定した。

コラム:2020年春以降に実施された支援策の内容とその効果

20年春の感染拡大以降、欧米主要国では、経済を支えるための様々な支援策が採られてきた。本コラムでは、それら支援策を、「雇用支援策」「企業向け給付・融資等」「個人向け給付」の3つに大別し、支援策の内容とその効果について概観する。

ア.雇用支援策

雇用支援策については、欧州では、一時休業中の従業員手当の一部を事業者に対して補てんする施策が拡充・新設された(表1)。一方、アメリカでは、雇用維持等により返済免除となる中小企業向け融資が新設されるとともに、レイオフによって急増した失業者に対し、失業保険給付を拡充する措置が採られた(後掲表5)。

失業率及び就業者数の動向をみると、アメリカでは、20年春にレイオフによる失業が急増するとともに、就業者が急減した(図2)。その後は改善してきているが、感染症前の水準にはいまだ達していない。要因として、育児の負担や感染への懸念を背景とした非労化からの戻りの遅れに加え、上述の失業手当の拡充措置による就労インセンティブの低下等が指摘されている。

一方、欧州では、ロックダウンが実施された中でも、失業の増加が抑制された。背景には、各国の雇用支援策(の延長)や資金繰り支援による下支え効果に加え、経済活動が大幅な落ち込みから回復しつつあることも挙げられる。就業者数は、21年入り後は持ち直しの動きがみられるものの、ドイツや英国では感染症前よりも低い水準となっている。経済活動制限下で求職活動が進みにくかったとされており、感染懸念、休業者の復職期待、学校休校による育児負担増などが背景にあると考えられる。雇用維持の支援策は一定の効果を上げたと考えられるが、支援策の継続が長期化すれば、雇用の新規創出や再配置が妨げられる可能性も指摘されている。

表1 欧米主要国における雇用支援策
図2 欧米主要国の労働市場の動向

イ.企業向け給付・融資等

欧米では、中小企業や休業措置の対象となった事業者等に対し、売上減少額や固定費等の規模に応じた給付が実施された(表3)。

欧州における企業向け給付・融資等の施策は、20年春及び秋から21年春にかけて採られた休業措置を伴うロックダウンと対応して実施された。20年春は小規模事業者等に幅広く給付を行ったが、20年夏以降、給付内容は活動制限の継続期間や対象範囲に応じて変更された。例えば、ドイツは、20年夏以降、段階的に給付内容の拡充や給付要件の緩和を実施している。

制度設計は多様であるが、アメリカ、ドイツ及びフランスで採られたように、固定費の一部を補てんすることを目的とした給付が多くみられる。加えて、アメリカ及びドイツにおいては、固定費が発生する時期よりも前払で給付や融資を行うことにより資金繰り負荷の緩和を図る取組もみられた。

これらの企業向け給付・融資や、前述の雇用支援策(及びその延長)の下支えの効果もあり(注1)、企業の倒産件数は、各国において感染症前の水準を下回って推移している(注2)(図4)。ただし、今後、感染症の影響から経済が回復し、支援策が縮小されれば、事業活動が戻らない企業が一部に出る懸念もあると考えられる。

表3 欧米主要国における企業向け給付・融資等
図4 欧米主要国の企業倒産件数

ウ.個人向け給付等

個人向け給付については、アメリカでは、高所得者を除き幅広い個人に一律給付が実施された一方、欧州では、感染症の影響が大きくニーズの高い子育て世帯、低所得世帯や学生に限定した支援が実施された(表5)。また、ドイツや英国においては、売上が減少した自営業者に対する新たな給付策も導入された。加えて、同じくドイツ及び英国では、ロックダウンの影響で消費の落ち込みが大きかった飲食サービス等に対する付加価値税率の引下げが実施された。

アメリカにおける個人向け給付の影響をみるために超過貯蓄の動向をみると、アメリカでは、20年4~6月期以降、19年同期と比較した貯蓄超過額(20年1~3月期以降の累積額)が増加している(図6)。貯蓄増加の要因を、可処分所得の増加と消費の減少に分けてみると、可処分所得の増加の影響が大きくなっており、可処分所得の増加要因をさらに細かくみると、現金給付や失業手当の拡充といった経済対策によるものが大きくなっている。なお、ユーロ圏においても、20年4~6月期以降、貯蓄の増加がみられるが、その要因は、主に消費の減少によるものとなっており、アメリカと対照的な姿になっている。

主要国の世帯へのサーベイ結果によれば、欧米の主要国では、コロナ禍で貯蓄を増やした世帯が2~3割、不要不急の支出を減らした世帯が3割程度存在している(図7)。また、英国やアメリカでは、コロナ禍で増えた貯蓄を今年末までに少なくとも5割使うと回答した世帯は全体の4分の1程度、5割未満使う世帯は全体の2分の1程度となっている。調査結果を踏まえると、欧米主要国で累積された貯蓄超過額の一定程度は、21年後半に消費に向けられることが予想される。

表5 欧米主要国における個人向け給付等
図6 欧米の超過貯蓄の動向
図7 欧米主要国におけるサーベイ結果

(注1)OECDは、欧州14か国で政府支援策がなかった場合、コロナ禍の3か月間で3割の企業が流動性不足(営業費用や納税、既存債務の利払ができない状態)に直面していたと指摘されている。

(注2)ドイツでは、債務超過等に伴う支払い停止等が発生した企業は、通常3週間以内に倒産申請を行う義務があるところ、感染拡大を踏まえ、感染症が原因であり将来的に破産を回避する見通しがある場合、20年3~12月までの間申請を行う義務を一時停止する措置が採られていた。21年に入り倒産件数が増加したのは、本措置が終了したことが影響していると指摘されている。


1 20年春から秋にかけて実施された支援策については、内閣府(2020)を参照。
2 20年3月に成立した追加対策(CARES法)により、失業手当について、給付期間の延長措置及び自営業者等への対象拡大措置が採られ、それらの期限が20年12月末となっていた。
3 20年3月に成立した追加対策(CRAES法)により、1人当たり最大1,200ドル、子供1人当たり500ドルの現金給付を実施。
4 PPPとは、人件費、不動産ローン、家賃・リース契約、共益費支払い等のため、民間金融機関が中小企業に融資を行うものであり、条件を満たせば全部又は一部が返済免除となる(中小企業庁が貸手である民間金融機関に対し免除分の金額を支払う)。従業員数500名以下の企業(個人事業主、自営業者等を含む。)を対象とし、人件費の最大2.5か月分(上限1,000万ドル)を融資する。21年1月に再開されたPPPにおいては、従業員数が300名以下で、かつ20年のいずれかの四半期で前年同期から収益が25%以上減少している企業の場合、2回目の申請を行うことが可能となった。2回目の申請では、融資額の上限が200万ドルに引き下げられ、飲食・宿泊業では人件費の3.5か月分の融資が可能となった。
5 本来健全であった企業の流動性と支払い能力の確保を目的として20年3月に設立された、6,000億ユーロ規模の企業救済基金。
6 この要件に満たない場合でも、特にインフラ関係の中小企業については対象となる可能性がある。
7 既存のつなぎ支援は固定費を基準としていたため、操業のための固定費が比較的低い、1人で活動を行う自営業者(アーティスト等)への恩恵が小さかった。そのため、つなぎ支援第3期と同時期に、(ア)19年の収入の51%以上を自営業から得ている、(イ)21年1月から21年6月までの6か月間の売上が、19年の平均月次売上の6か月分と比べて10%以上減少、の両方の条件を満たした自営業者を対象に、19年の6か月分の売上の50%(上限は7,500ユーロ)を給付する自営業者に対する特別給付制度が公表された。
8 フランス・リランス計画の発表から約2か月後には、政府ホームページに実施の経過を観察するためのダッシュボードが掲載され、エネルギー効率を高めるための住宅の改修の申請件数、電気自動車の購入支援件数、デジタル化支援申請件数等が公表されて、毎月更新されている。また、支援を受けた企業やプロジェクトの実例を積極的に掲載している。
9 PIA第1回は2010年に350億ユーロ、第2回は2014年に120億ユーロ、第3回は2017年に100億ユーロ規模で行われた。第4回PIAは200億ユーロ規模。PIAでは、航空・自動車産業を構成する大企業へは国家出資庁(APE)が出資し、中小企業へは、政府が出資する公的投資ファンドであるBPIfranceを通じて出資、融資、保証を行い、自治体への支援や住宅支援へは、政府(PIA)が国民の貯蓄預金を原資とした住宅及び地方向け貸付を行う預金供託公庫(CDC)に運用資金を提供し、CDCが投融資を行う体制ができている。
10 6月1日以降、雇用主が従業員に支払うべき最低金額(額面給与の約7割)のうち、政府による補てん率を100%から85%(70%の85%で、政府からの補てん率は給与の約6割(ホテル、レストラン、カフェ、観光、イベント、スポーツ、文化部門は補てん率100%を維持))に引き下げる措置がとられていた。10月1日からは、雇用主が従業員に支払うべき最低金額を額面給与の60%、そのうち政府による補填率を60%(額面給与の約4割)に引き下げる予定であった。
11 ただし、前年同期と比較して売上高が50%以上減少しているという要件は維持され、規模に関する要件については、従業員数の上限が10人以下から20人以下に、売上高の上限が100万ユーロ未満から200万ユーロ未満に緩和された。
12 企業向け従業員給与補助として、一時休暇中の雇用者を対象に人件費の一定率を企業に支給する制度。
13 20年3~7月は社会保険料も免除されていた。
14 これに先立ち、11月5日、英国全土を対象に21年3月末まで延長し、補助率については21年1月に見直すこと、21年2月に実施予定であった一時帰休後の従業員の復職支援(Job Retention Bonus)の開始は、雇用維持スキームが終了してから実施することとしていた。さらに、12月17日、雇用維持スキームを21年4月末まで延長し、補助率については80%を維持することを表明していた。
15 ピークは5月8日の約890万人。
16 20年3月の都市封鎖時と違い、11月は工場や建設業の稼働は継続したため、一時帰休者が大幅に増加しなかったとみられる。ピークは、11月11日の約410万人。
17 1、2回目の給付では、それぞれ、過去3年間の平均所得の80%(上限7,500ポンド)、70%(上限6,570ポンド)を支給していた。
18 Bell(2020)
19 Cominetti et al.(2021)
20 21日ごとに、事業用不動産に対する固定資産税の課税評価額5.1万ポンド未満の物件に入居する事業者に対し1,000ポンドを、同5.1万ポンド以上の物件に入居する事業者に対し1,500ポンドを給付。
21 28日ごとに、事業用不動産に対する固定資産税の課税評価額1.5万ポンド以下の物件に入居する事業者に対し934ポンドを、同1.5万ポンド超から5.1万ポンド未満の物件に入居する事業者に対し1,400ポンドを、同5.1万ポンド以上の物件に入居する事業者に対し2,100ポンドを給付。
22 感染症対応と雇用支援を優先するため、3か年の歳出計画ではなく、21年度の1年分の計画を発表した。
23 財務相は同日、議会でのスピーチで、失業率のピークは21年第2四半期に7.5%になると発言した。
24 飲食(アルコール飲料を除く)・宿泊等への付加価値税率の20%から5%への引下げを、当初20年7月15日~21年3月末までとしていたが、9月末までに延長した。その後、10月~22年3月末までは5%から12.5%に引き上げ、以降20%に戻る。
25 年間利益25万ポンド以上の企業に、法人税率25%を適用。
26 Abey, J. et al.(2020)
27 Abey, J. et al.(2020)によると、例えば、飲食店においては、携帯電話やタブレットのアプリから料理を注文する仕組みが早急に導入され、顧客は同仕組みに慣れてきており、社会的距離の確保が不要となった後も、より少ない人件費で全く異なる働き方になる可能性があるとしている。また、非食料品を扱う小売店においては、店舗ではなくオンラインでの購入がますます増え、自動化やロボットが物流を引き継ぐ可能性を指摘している。
28 欧州理事会が公表した補助金3,125億ユーロは2018年価格ベース、各国への補助金割当額は2020年価格ベースのため、金額が一致しない。

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