第2章 経済を支えるための政策対応(第4節)
第4節 雇用支援策と労働市場の動向
感染症拡大の防止策として、各国において都市封鎖を始めとする各種の措置が実施されると、対人サービスを中心に消費が低迷し、また、サプライチェーンの寸断等により生産が低迷するなど、実体経済に甚大な影響が及んだ。特に、休業を余儀なくされたことが、雇用・所得面に甚大な影響を与えた。この状況を踏まえ、各国は、給与補助や復職支援給付、失業保険給付をはじめとした既存の雇用対策について要件緩和など内容を拡充して柔軟に活用するとともに、アメリカや英国では新規のスキームを導入するなど(特にアメリカでは中央銀行の役割を拡げた新たなアプローチを展開)、雇用支援策を緊急かつ大規模に実施した。
1.アメリカ
アメリカでは、新型コロナウイルス感染拡大への対策として各州で休業措置が採られたことにより、多くの労働者が一時帰休(レイオフ)とされるなど、労働市場は大きな影響を受けた。これに対し、政府はCARES法をはじめとする各種対策により、給与保護プログラム(PPP:Paycheck Protection Program)や失業手当の拡充といった措置を講じ、労働市場の下支えを図った。ここでは、アメリカにおける労働市場の動向と雇用支援策について確認する。
(i)労働市場の動向
各州で休業措置が採られていた時期のアメリカの労働市場の動向をみるにあたり、雇用統計及び週次失業保険統計について、基本的な概念や集計方法も含め確認する。
(ア)雇用統計(Employment Situation)
雇用統計は、事業所調査(CES:Current Employment Statistics)と家計調査(CPS:Current Population Survey)からなり、毎月、原則、雇用統計調査対象週の3週間後の金曜日(通常、第一金曜日)に公表される。事業所調査では雇用者数(農業部門を除く)等のデータを、家計調査では就業者数等のデータを集計して公表しているが、両調査で捉えられる内容には違いが存在する。
事業所調査は、約14.5万の事業所及び政府関連機関を調査対象とする。毎月12日を含む給与支払期間127内に給与が支払われた者(実際に労働したかどうかは問わない)を雇用者として計上している。このため、ここでの雇用者には、農業部門や自営業者は含まれない。
一方の家計調査は、約6万の世帯を調査対象とする。毎月12日を含む週において仕事を有していた者を就業者として計上し、農業部門や自営業者も含まれる128。現在仕事がなく、過去4週間に求職活動をしていた者のうち仕事があればすぐに就業できる者、及び、一時帰休の者(求職活動の有無は問わない)は、失業者として計上される。レイオフ以外の一時的な休業(季節休暇、陪審制度等への参加、子ども・親戚の介護休暇等)をしている者は、失業者ではなく就業者に分類される。労働力人口に占める失業者の割合が、失業率として定義される。
雇用統計の動きをみると、雇用者数は3月に137万人減、4月に2,079万人減と極めて大幅に減少し、過去10年にわたる雇用者の増加とほぼ同じ人数が一挙に減少したが、その後、5月には273万人増と増加に転じ、6月は478万人、7月は173万人と増加した(前掲第1-2-30図)。失業率は、3月に4.4%、4月に14.7%と急速に上昇した後、5月は13.3%、6月は11.1%、7月は10.2%と低下している(前掲第2-2-8図)。
(イ)週次失業保険統計(Unemployment Insurance Weekly Claim Report)
週次失業保険統計は、各州の失業保険データを基にした統計で、毎週木曜日に公表される。市場の注目度が高いのが、新規失業保険申請件数と失業保険継続受給者数である。新規失業保険申請件数は、統計発表の前週一週間中に新たに申請された失業保険の件数であり、実際に受給資格を満たすかどうかは問われない。失業保険継続受給者数は、統計発表の2週前時点における失業保険の受給者数である。受給資格を得た者が手当を受給するためには毎週州に対する受給申請が必要であり、失業保険継続受給者数は、この申請数を集計している。
新規失業保険申請件数は、19年平均が週22万件だったところ、20年3月15~21日の週にかけて331万件と急激に増加すると、翌週の3月22~28日の週には687万件まで達した。その後は減少が続いたものの、7月以降は減少と増加を繰り返し、横ばいで推移している。一方、継続受給者数は、19年平均が170万件だったところ、3月15~21日の週にかけて306万件と急増し、5月3~9日には2,491万件まで達した。その後、5月19~25日の週以降は微減が続いているものの、足元8月9~15日の週において1,484万件と、高止まりしている。
週次失業保険統計は、4月12~18日の週以降、通常の新規失業保険申請件数及び継続受給者数に加え、パンデミック失業支援及びパンデミック緊急失業補償(詳細は(ii)参照)の受給者数のデータを公開している。通常の失業保険手当は5月3~9日の週にピークを迎えた後、横ばいから緩やかに減少、パンデミック失業支援は6月21~27日の週にピークを迎えた後、緩やかに減少、パンデミック緊急失業補償は緩やかに増加となっており、失業保険支給全体としては、6月14~20日にピークを迎えた後、緩やかに減少している(後掲第2-4-8図)。
(ウ)雇用統計における失業率の過小推計問題
前述のとおり、20年4月の失業率は14.7%と、48年1月の統計開始以来過去最高の水準となった後、20年5月は13.3%と低下した。ただし、雇用統計の結果をみる上では留意が必要な点がある。
第一に、雇用統計における雇用状態の分類の問題である。米労働省は、3~5月の雇用統計において、労働者による雇用状態の誤申告があったことから、実際よりも失業率が低い数値となっている可能性を指摘した。雇用統計においては、調査期間中、労働を行わず今後呼び戻されることが期待される場合は、「一時帰休(レイオフ)による失業」との分類となり、3~5月の雇用統計において多数存在した。しかし、同月の雇用統計においては、「雇用されているが、休職している」者も多数存在した。雇用統計の調査は、「新型コロナウイルス感染に関連する事業停止による休職は、一時帰休による失業に分類する」という方針で行っているが、全てのケースにおいてそのように分類されているわけではないことが推測される。仮定の計算として、調査上、「雇用されているが、休職している」者のうち、その理由として「他の理由129」とする者について、20年5月の数値と16~19年の5月の平均値との差分を、「失業者」と分類し直すと、失業率は4月が5%pt程度、5月が3%pt程度上昇することなる130。
第二に、非労働力化の問題である。3~5月の雇用統計では、失業者の増加に加え、非労働力人口の増加が顕著となっている。非労働力人口は3月に176万人、4月に657万人増加した(第2-4-1図)。これは、世界金融危機時に雇用者数が減少し始めた08年2月から、雇用者数減少が止まった10年9月にかけての535万人増を上回る規模となっている。これに伴って、労働参加率も20年2月の62.5%から、3月の62.0%、4月の59.7%と大きく低下した。また、非労働力人口のうち、現在職を求めている者131の人数と割合も上昇しており、いずれも10年9月を上回っている。このことから、労働市場の厳しい状況や外出制限・移動制限等に伴う求職活動の難しさにより、労働市場から退出した者が大きく増加した可能性が考えられる。
米大統領経済諮問委員会(CEA:Council of Economic Adviser)の元委員長のファーマン氏とハーバード・ケネディ・スクールのパウエル氏は、米国の失業率が公式の数値よりも更に高水準となっている可能性について指摘132した。ファーマン氏らは、上述の雇用統計の雇用状態の分類問題や非労働力化により、公式の失業率が実態よりも低い水準となった可能性を指摘した上で、これらを勘案133し、より現実に即するよう再計算した失業率を「現実的失業率」とした。推計の結果、「現実的失業率」は20年5月の時点で17.1%と、公式の失業率が示すよりも高水準にある可能性が示された(第2-4-2図)。
また、ファーマン氏らは、米国労働省が公表した失業率について、一時帰休された全ての人々が、新型コロナウイルス感染拡大が収まった後に即再雇用されると仮定した場合の失業率を「完全再雇用失業率」と呼び、5月は7.1%と推計した。これは、新型コロナウイルスの感染が拡大する以前の水準よりも高い数値であり、一時帰休の影響を排除してもなお、失業率は景気後退期の水準にある可能性を示している。
(エ)雇用統計と失業保険関連データの相違
雇用統計データと失業保険関連データは、ともにアメリカの労働市場を見る上で重要な統計であるが、調査対象や手法が異なるため、両者のデータの関係性には乖離が生じることがある。実際、20年3月以降、両者のデータには乖離がみられており、特に5月においては、市場では、新規失業保険申請件数等の動きを踏まえ、雇用統計における失業率は4月から更に上昇するとの予想がなされていたが、実際の雇用統計の結果では低下に転じた。
雇用統計と失業保険申請データを比較するため、失業率と新規失業保険申請件数で相関分析を行うと、1969年以降、2000年以降ともに両者の間には強い相関がみられる(第2-4-3図、第2-4-4図)。しかし、20年3月及び4月のデータを示す点は、近似直線から大きくずれており、失業率に対して新規失業保険申請件数が多いことがわかる。その背景として、CARES法による対策により、失業手当が拡充されたことが影響している可能性が挙げられる。従来、失業手当を受給する条件は州により定められるが、多くの州において、求職していることが必要とされていた。CARES法の施行後は、求職していることという要件が大半の州において外され、雇用統計の「失業者」には分類されないが失業手当を受給する者が一定数存在するようになったと考えられる。また、CARES法施行により、個人事業主、ギグワーカー、独立請負労働者が受給の対象に加わったことも、これまでの雇用統計と失業保険申請データの相関関係から外れる一因となったと考えられる。
(ii)感染拡大を受けて採られた労働市場関連の施策の内容と効果
次に、3月27日に成立したCARES法を始めとする各種対策に含まれている労働市場関連の主な施策の内容と効果について確認する。
(ア)失業手当の拡充
CARES法では、失業手当を拡充する措置として、以下の3つの制度が盛り込まれた(第2-4-5図)。
・パンデミック失業補償(PUC:Pandemic Unemployment Compensation)
全ての失業保険受給者を対象に、1人当たり週600ドル支給額を上乗せするものであり、期間は最大4か月、20年7月末までとされる。本措置は、8月8日に署名された大統領令により、8月1日以降、上乗せ額を週300ドルに減額して延長されることとなった。
・パンデミック緊急失業補償(PEUC:Pandmic Emergency Unemployment Compensation)
通常の失業保険の受給期間が終了した人に対する、給付期間の延長にあたるもので、州の失業率が高水準であるときの給付期間延長である追加給付(EB:Extended Benefits)に優先して支給される。期間は最大13週間、20年12月末までとされる。これにより、給付期間(州により異なる)は、おおむね26週間から39週間に拡大されることとなった。
・パンデミック失業支援(PUA:Pandemic Unemployment Assistance)
通常の失業保険の対象134ではない個人事業主、ギグワーカー、独立請負業者等と、CARES法の成立時点で既に失業手当を受給しているなどして、上述のPEUCを活用してもパンデミック失業支援以外の失業保険給付が39週間に満たない失業者を対象としたものである。給付期間は他の失業手当給付と合わせて最大39週間、20年12月末までとされており、アメリカ議会予算局によれば、20年度の平均給付額は週366ドルとなる見込みである。
失業手当の受給者数は、ピーク時の6月には3,000万人を超える人数となっており、PUCによる失業手当の上乗せ分だけで名目所得の4.7%相当に達するなど、多数の米国民に失業手当拡充の恩恵が行きわたっていると考えられる。また、4月後半以降は、PUAによる受給者も増加し、従来は失業手当の対象ではなかった個人事業主等にも支援が及んでいる(第2-4-6図、第2-4-7図)。その結果、アメリカにおける5月以降の雇用者報酬等は感染症拡大前の水準を下回っているものの、失業手当の拡充等の効果により、個人所得全体で見れば19年平均を上回る水準となっており、消費の下支えにも一定の効果があったと考えられる(第2-4-8図)。
ただし、失業手当の拡充は、就業者にとってみれば働くインセンティブを低下させ、失業者の増加に寄与している面もあると考えられる。CARES法施行前の失業手当は週平均378ドルとなっており、PUCによる週600ドルの上乗せが行われることにより、平均賃金(20年3月時点で週978ドル)と同程度の手当を受けられることとなった。業種別の平均賃金をみると、20年3、4月において雇用者数が大きく減少した業種(レジャー・接客業、小売業等)は相対的に平均賃金が低くなっており、多くの労働者にとって、失業手当の給付額が賃金を上回り就労インセンティブが阻害されている可能性がある(第2-4-9図)。
週600ドル上乗せ措置(PUC)の期限が20年7月末までとなる中、民主党は、本措置を21年1月まで延長させることを盛り込んだ追加対策案を提示し、同案は5月15日に下院において可決されたが、CBOは、民主党案を受け、週600ドルの上乗せ措置が仮に21年1月まで延長された場合、受給者のうち6人に5人が、就労により得られる給与よりも多くの失業手当を受給するとの試算を公表した。一方の共和党は、就労インセンティブが低下するのを防ぐ観点から、8~9月においては失業手当の上乗せ措置を週200ドルに減額して延長し、10~12月においては州による従来の支給額と上乗せ分の合計として、失業前の賃金の70%(最大週500ドル)を支給する案135を7月27日に提示した。上乗せ措置の期限である7月末を過ぎてもなお、失業手当の拡充を含む追加対策案に関し両党の間で合意に至らなかったことを受け、トランプ大統領は8月8日、追加策に関する大統領令に署名をした。これにより、失業手当の上乗せ措置については、上乗せ額を週600ドルから週300ドルに減額した上で延長(8月1日から遡って適用)されることとなった(第2-4-10図)が、本措置は1か月あまりで財源が尽きるとみられる。9月8日、共和党は、追加対策法の修正案を公表し、失業手当の上乗せ措置については、週300ドルに減額したうえで、12月27日まで延長(8月から遡って支給)する案を公表した。本法案に対し、民主党は反対を表明しており、失業者への手当の拡充と就労インセンティブの維持に関する議論は、今後も継続して行われていくと考えられる。
(イ)給与保護プログラム(PPP:Paycheck Protection Program)
給与保護プログラムは、20年2月15日以降に発生した従業員の給与、不動産ローン、家賃・リース契約、共益費等の支払のために、主に中小企業を対象に136、一事業者あたり人件費の2.5か月分(最大1,000万ドル)までの融資を提供するもので、条件を満たせば全部又は一部が返済免除となる。融資を受けてから24週間の間に上記費用に充てることとされ、かつ、融資額の60%以上137が給与支払に充てられることとなっており、従業員数を維持した場合には返済が免除となる(借入時点で一時帰休を行っていても、12月31日までに再雇用すれば可)。従業員数が減少した場合には返済免除額が減少となる。アメリカにおいて本プログラムのような雇用維持を促進する施策が広く活用されることは異例であり、今般の対策における特徴的な点として指摘することができる。
CARES法により施行された給与保護プログラムは、当初、融資枠が3,490億とされており、20年4月3日に申込受付が開始となったものの、申請が殺到し、4月16日にプログラムの財源が枯渇した。4月24日に追加対策法が成立し、融資枠が3,100億ドル拡大されると、再び申請件数が増加し、申請期限である8月8日までに、5,250億ドルの融資が承認された(第2-4-11図)。
融資件数の融資金額別内訳をみると、約3分の2の企業において、5万ドル以下の融資を受けている(第2-4-12図)。業種別では、ヘルスケア・社会福祉、専門・科学・技術サービス、建設、製造といった分野が多くの融資を受けており、20年3、4月において雇用者数が大きく減少した飲食・宿泊業や小売業への融資額は、それらを下回っている138(第2-4-13図)。
本プログラムは、前述のとおり、返済免除の要件として雇用を維持することが挙げられている。当初は6月末時点で雇用者数を維持することが要件となっていたが、6月5日、「給与保護プログラム柔軟化法(Paycheck Protection Program Flexibility Act)」が成立し、融資の利用や雇用維持の期限が12月末までに延長となった。給与保護プログラムは、一時帰休となった従業員の復職や、企業による新たな従業員の雇用により、雇用者数の増加に寄与すると考えられるが、そのような雇用下支え効果は、12月末にかけて徐々に現れてくることが見込まれる。
本プログラムについては、7月27日に公表された共和党案において、対象を縮小したうえで再度実施する措置が盛り込まれた。具体的には、CARES法による融資枠の残りに新たな融資枠600億ドルを追加し、20年第1四半期もしくは第2四半期において収益が前年同期比で50%以上減少した、従業員300人以下の企業に対象を限定した上で、給与保護プログラムによる融資を再度実施(融資の金額や返済免除の要件は変更なし)し、2度目の融資を受けられるようにするものである。本措置を含む追加対策案は、共和党・民主党間で合意に至っていないが、同様の内容が実施される場合には、より小規模かつ感染症の影響を受けた中小企業の雇用支援に資することが期待される。
2.ヨーロッパ
(ドイツ)
ドイツの失業率(ILO基準)は、リーマンショックを契機とする雇用情勢の悪化により、08年の終わりにかけて上昇したが、後述するように、従業員操業短縮手当や労働時間口座制度139等の各種支援策により、他の欧州諸国と比較して抑制されていた。その後、欧州債務危機に見舞われるが、政府による各種支援策が機能したことにより、また、その後は好調な雇用・所得環境に支えられたことにより、19年半ばまで一貫して低下傾向で推移した。しかしながら、世界貿易の縮小等の影響を受けてドイツの景気は弱含み140、失業率は19年6月~8月までの3.0%を底に上昇に転じ、その後も、感染症の拡大に起因する経済活動の停滞により上昇傾向が継続し、20年8月には4.4%まで達するなど、ドイツの雇用情勢の先行きは不透明感が増している(第2-4-14図)。
ドイツの労働市場について供給面からみると、就業者数は19年以降、増加傾向で推移してきたが、20年2、3月の4,274万人をピークに減少に転じ、8月時点では横ばいで推移している(第2-4-15図)。また、業種別に就業者数の伸びをみると、特にサービス業・鉱工業(除建設業)の寄与度は低下している(第2-4-16図)。一方、失業者141数は、19年5~7月の134万人を底に増加傾向に転じ、20年8月は196万人まで増加した(第2-4-15図)。一方で、需要面からみると、求人数は、18年9月をピークに横ばいで推移したが、19年は景気が弱含み企業が採用活動を控えたことから減少傾向となった。さらに、20年3月半ば以降の感染拡大を受けて、求人数は急速に減少したことから、企業が採用活動を一層控えたと考えられる(第2-4-17図)。政府は様々な企業支援策を導入し、封鎖措置も5月から段階的に解除され経済活動は再開し始めているが、感染の第2波及びそれに伴う再封鎖に対する懸念が根強いことを踏まえると、そうした先行きの不透明感が重しとなり、雇用情勢の改善に時間を要する可能性がある。
ドイツの雇用・失業対策についてみると、3月13日、ドイツ政府は、新型コロナウイルスの影響により操業短縮を余儀なくされた企業や従業員を支援するため、従業員操業短縮手当(Kurzarbeitergeld)142の支給要件の緩和を発表した。この緩和では、支給要件の10%以上の賃金減少に関して、それが「事業所内の3分の1以上の従業員が対象の場合」から「従業員の10分の1以上が対象の場合」に引き下げ、操業短縮分の社会保険料をドイツ連邦雇用庁が全額肩代わりするなどとした。また、4月22日には、50%以上の操業短縮をされた労働者に対して、操業短縮手当の受給4か月目以降は操業短縮に伴う賃金減少分の70%(子を有する場合は77%)、受給7か月目以降は80%(子を有する場合は87%)補てんに拡充することについて、連立与党間で合意した143(第2-4-18図)。さらに、8月25日、操業短縮手当の給付期間を12か月から最大24か月に拡大することなどが、連立与党で合意された。こうした政府の緩和措置を受けて、操業短縮手当の新規申請労働者144数は、20年3月に264万人、4月は803万人と急増した(第2-4-19図)。同手当への20年1月から7月までの累積新規申請者数は約1,200万人となっており、ドイツ全体における19年の雇用者数が約4,100万人いることから、単純計算で少なくとも4人に1人が同手当へ申請したことが分かる。また、同手当を申請している業種別人数の比率を確認すると、製造業が29.5%145、卸売・小売業が16.5%、宿泊・飲食サービス業が9.1%を占める(第2-4-20図)。これは、製造業については3月半ば以降に自動車工場等の閉鎖が実施されたこと、サービス業については3月半ば以降の政府による店舗・施設の閉鎖や、外出制限等が実施されたことにより、企業活動や市民の消費行動が大幅に抑制されたためであると考えられる。
こうした各種支援策により、失業率(ILO基準)は、足下で上昇しているものの、昨年来の低水準を維持している。また、失業給付申請数は、20年4月は、前月から約37万件増加し、20年5月は、増加ペースが鈍化したものの約24万件増加した。さらに、失業登録者数146が労働力人口に占める割合を示す失業給付申請率147は、失業給付申請数の増加を受け、20年3月には5.0%であったが、20年4月には5.8%に、20年5月には6.3%に急増した(第2-4-21図)。
(フランス)
フランスの失業率は、リーマンショックと欧州債務危機を契機とする雇用情勢の悪化により、08年半ば以降上昇傾向に転じた(第2-4-22図)。12年に発足したオランド政権は、失業対策や経済政策を重大な公約に掲げ、各種対策を講じたが、失業率は13~16年にかけて10%台で高止まりとなっていた。その後、17年に成立したマクロン政権が、企業の柔軟性と国際競争力を高めるための労働法典改正を行ったことで、失業率は徐々に改善し、20年2月には7.6%にまで低下した。
しかしながら、感染症の拡大に起因する経済活動の停滞により、4月には8.8%と前月比で1%ポイント以上上昇した。5月、6月は一時帰休制度の活用等によりそれぞれ8.2%、7.7%と低下した。
この背景となる、感染症拡大以降のフランスの労働市場についてみると、就業者数は、19年以降、横ばいから増加傾向で推移してきたが、20年2月の2,740万人をピークに減少に転じている(第2-4-23図)。それとは対照的に、失業者数は、20年1月まで減少傾向で推移していたが、2月、3月の225万人を底に、4月は前月比16%増となる262万人へと急増した。これは、感染症の拡大に伴い3月中旬以降にフランス全土で封鎖措置が採られたことで企業が活動制限を余儀なくされたことによるもので、新規就業者数が減少するとともに一時的な失業者が増加し、4月の失業率の急上昇につながった。その後、一時帰休制度の活用や労働市場からの退出者の増加、また、5月以降封鎖措置が段階的に解除され経済活動が再開したことなどにより、5~6月にかけては改善の様相をみせており、6月の就業者数は2,750万人まで増加し、失業者数は230万人まで減少し、その結果、失業率は先述のとおり7.7%に低下した。しかしながら、8月は新規感染者数が再び拡大傾向にあり、感染の第2波に対する懸念が高まっていることを踏まえると、企業が雇用に対する慎重な姿勢を強め、雇用情勢が再び悪化する可能性がある。
フランスでは、企業が従業員に支払う一時帰休手当を政府が補てんする制度(後述)があり、感染症の影響により多くの企業がこの制度を活用していることから、雇用情勢の悪化がある程度抑制されていると評価できる。しかしながら、同制度により現状の雇用を維持することはできた一方で、新規採用を行う体力がない企業の存在により労働市場全体で求人が減少したことから失業率の上昇につながった、との可能性が指摘されている。
フランスの雇用政策についてみると、失業対策として、国の機関である雇用センター(Pôle emploi)が求職者登録、失業保険給付、職業紹介等の業務を行っている。求職者は、まず雇用センターで求職者リストに登録を行い、個々の置かれている状況によりカテゴリーA~Eに分類される(第2-4-24表)。直ちに職に就ける状態(カテゴリーA~C)にある求職者と分類された場合は、個別就職計画の作成が義務づけられ、同計画に基づいて就職活動の各種支援が行われる148。
フランスの失業保険制度についてみると、雇用復帰支援手当149と、同手当が受けられない者に支給される特別連帯手当で構成されている。求職者は、雇用センターで求職者リストに登録し一定条件150を満たせば、雇用復帰支援手当を受給できる151。
また、労働者が手当を受給できる他の制度として、一時帰休(部分的失業)制度がある。これは、雇用・所得環境の保護を目的として、経済情勢等に起因する操業短縮あるいは一時停止を理由に雇用主が労働時間の削減や事業所の一時閉鎖を行った場合、従業員が手当を受け取れる制度である。この制度を利用すると、従業員は雇用主から減少した賃金相当額が支給され、雇用主には政府と全国商工業雇用連合(UNEDIC)が運用する失業保険会計から一定額の補てんがなされる。
一時帰休(部分的失業)制度については、感染症の拡大により幅広い部門の事業者及び労働者に甚大な影響が生じたことを受け、フランス政府は3月に制度を改正し内容の拡充を行った。雇用主に対する補てんについては、従来、従業員1人1時間当たり約7ユーロであったが、この改正により、従業員に支払った手当の100%(ただし、当該従業員の額面給与の70%及び法定最低賃金152の4.5倍を上限とする。)の補てんを行うこととなった(第2-4-25表)。また、審査に要する期間については、従来の最長15日から最長2日へと短縮され、期間内に当局から回答がない場合、申請は認められたものとされた。
同制度は、雇用主と従業員間の雇用契約は一時的に中断されるが解消はされないため、従業員の雇用・所得及び雇用主の労働力が保護されることに加え、失業率上昇の抑制にもつながると評価される。3月以降、感染症の影響を原因とする一時帰休手当の申請件数は急増し、受給者数は4月に880万人に達したが、5月以降は経済活動の再開に伴い減少に転じ、6月時点で450万人となっている(第2-4-26図)。
なお、6月に制度を再改正し、雇用主が国から受け取る補てんの割合を100%から85%に引き下げ、さらに10月1日以降については、雇用主が従業員に支払うべき最低金額を額面給与の70%から60%へ、補てんの割合を85%から60%へと引き下げる方針を表明した。これは、政府と失業保険会計の財政負担を減らすこと、また、5月からの段階的な制限解除に伴い通常業務への復帰を促すことを目的としたものである。一方で、航空機・自動車・観光・イベント等の早期の回復が見込めない部門については、大量解雇を回避するため、7月1日より長期的な一時帰休制度の利用を可能にする特別制度(長期部分雇用制度)を導入した。これにより、通常の利用期間は最長6か月であるのに対し、上記部門の対象者は最長2年までの利用が可能となった。
一時帰休制度の財政問題について触れると、従業員に給付される手当については、その3分の1をUNEDICが運用する失業保険会計が負担している。UNEDICが6月に公表した予測によると、雇用情勢の悪化に伴い20年の失業保険会計の赤字額は、感染症発生当初の2月時点の予測額である9億ユーロから257億ユーロに膨れ上がった。これは、失業給付の支出増加のほか、財源の一部である事業者からの失業保険料の納付猶予に伴う歳入の減少を見込んだもので、感染症の影響を大きく受けているとしている。UNEDICの失業保険会計はかねてから赤字であり、累積債務は20年末に対GDP比2.6%となる630億ユーロを超えると見込まれている。
マクロン政権は、一時帰休制度について、任期が終了する22年5月までの継続を表明しているが、一方で政府と失業保険会計の費用負担が大幅に増えていることから、上述のとおり、従業員に給付する手当の水準及び雇用主への補てん割合の引下げを予定している。しかしながら、UNEDICの雇用情勢に関する予測では、感染症拡大の影響により20年末までに90万人の雇用が失われ、20年末時点の失業保険受給者数は前年比で63万人増加し、また、失業率は19年末の8.1%に対し11%まで上昇すると見込まれているため、経済の立て直しと財政の健全化は政府の重要な課題であるが、手当水準や雇用主への補てん割合の引下げは雇用情勢の更なる悪化や労働組合の反発を招きかねず、慎重なかじ取りが要求される。
(英国)
英国の失業率(ILO基準)は、19年1月に3.9%となった後、75年以来の歴史的な低水準となる3.8~4.0%で推移していたが、20年5月に4.1%、7、8月にはそれぞれ4.3%、4.5%になり、感染症の拡大に起因する経済活動の停滞により、失業率は徐々に高まっている(第2-4-27図)。
この背景となる感染症拡大以降の英国の労働市場についてみると、就業者数は19年半ば以降増加傾向で推移してきたが、20年2月の3,307万人をピークに減少している(第2-4-28図)。一方、失業者数は、19年12月の129万人となって以降、増加傾向に転じ、20年7、8月に顕著に増加した。労働力人口と非労働力人口をみると、労働力人口は、都市封鎖を始めた20年3月をピークに減少傾向となり、非労働力人口は増加傾向となっている。これは、職を失った人の多くが、封鎖措置を背景に積極的な職探しができず、失業者としてではなく、非労働力人口として計上されたことによると考えられる。7月の失業率の悪化は、封鎖措置の段階的解除に伴う経済活動の再開により、失業中の労働者が求職活動を行い始め(非労働力人口が労働力人口に流入し)、求職者のうち仕事を得ていない人が増えたことが背景にあると考えられる。8月には再び非労働力人口が増加する中で、失業率が悪化した。このように失業率は、悪化傾向にあるものの、英国政府が、雇用維持のために様々な雇用支援策を打ち出しており、失業率の急速な悪化を防いでいると考えられる。
20年3月20日、英国財務相は、企業向け従業員給与補助として、一時休暇(furlough)中の全ての雇用者を対象に人件費の80%(上限月額2,500ポンド)を企業に支給する、コロナウイルス雇用維持スキーム(Coronavirus Job Retention Scheme)153を表明した。同スキームは、従業員を解雇せずに雇用を維持することを前提に、3月19日以前154に源泉徴収納税オンラインシステムに登録されている全従業員のうち一時休暇中の者を対象とするものであり、時短勤務や賃金引下げが行われた従業員や3月19日以降に雇った従業員は対象外となる155。英国財務相は、当初、最低3か月間(5月末まで)継続することとしていたが、4月17日に6月末まで延長し、また、封鎖措置緩和計画が発表された後の5月12日、7月末まで継続することとした。さらに、5月29日、一部運用を変更して、従業員にとって人件費の80%を保証しつつも、企業への支給額を段階的に減少し(20年9月からは人件費の70%を、20年10月は人件費の60%を企業に支給等156)、20年10月までの同スキームを継続するとした(第2-4-29図)。10月18日時点で、960万人の雇用者を含む、120万件の申請がされている(第2-4-30図)。
雇用維持スキームを申請している業種別対象者数をみると、卸売・小売及び飲食・宿泊サービスにおける対象者が多く、特に飲食・宿泊サービスにおいては、同スキームを取得する権利がある対象者の77%が申請しており、深刻さがうかがえる(第2-4-31図)。これは、3月21日からの飲食店等の休業や、3月23日からの必需品以外の店舗の休業等が影響したと考えられる。
さらに、英国政府は、20年7月8日に公表した追加経済対策(「Plan for Jobs」)において、10月末の雇用維持スキーム終了後、職場に復帰した従業員の雇用を21年1月まで維持した企業に対し、従業員1人当たり1,000ポンドを1回のみ支給する雇用維持特別手当(Job Retention Bonus)157を始め、16~24歳の若年層向けに雇用機会を提供するための雇用者向け基金(Kickstart Scheme)158や、同層向けに就職活動支援159を行うことを表明した。
また、英国財務相は、9月24日、追加経済対策(「Winter Economy Plan」)において雇用支援スキーム(Job Support Scheme)を公表し、さらに、10月9日と22日に内容の拡充を公表した。これにより、10月末の雇用維持スキーム終了後、20年11月から21年4月までの6か月間実施160される雇用支援スキームは、2つの柱で構成されることになる(第2-4-32図)。1つ目の柱は、感染拡大抑制策(国や地方自治体からの休業要請等)で事業が継続できなくなった企業の従業員の給与補助である。休業措置により働くことのできない従業員161を対象に、給与の3分の2(上限月額2,100ポンド)を企業に支給する。2つ目の柱は、労働時間を短縮している従業員への給与補助である。同スキームで補助を受けるためには、従業員が通常の労働時間のうち少なくとも20%の時間を働く必要があり、非労働時間の給与について、企業がその5%を支払い、国は61.67%(上限月額1,541.75ポンド)を企業に支給することで、存続可能な仕事を守ることを目的としている162。
自営業者やフリーランス等の個人事業主に対しては、3月26日に、過去3年間の平均所得の80%(上限月額2,500ポンド)を支給する、コロナウイルス自営業収入支援スキーム(Self-employment Income Support Scheme)163を最低3か月間実施すると表明した。加えて、5月29日、過去3年間の平均所得の70%(3か月合計で6,570ポンドを上限)を追加支給164することを表明した。7月13日に申請が終了した1回目では、申請可能対象者の75%以上である270万件の申請がされ、8月17日に申請が開始された2回目では、1日で約30万件の申請がされている(第2-4-33図)。
さらに、9月24日、同スキームを減額して6か月間延長すること、10月22日、所得補助の割合を変更することを表明した。給付は2回に分けられ、1回目は平均所得の40%(3か月合計で3,750ポンドを上限)165を11月~21年1月分の所得補助として支給し、2回目は21年2~4月分として支給を予定している。このように、英国政府は状況を見て段階的な縮小をすることで、雇用への影響が最小限となるような設計をしている。
しかし、失業関連給付申請数は、20年4月に、前月から約86万件増え、さらに5月には増加ペースは鈍化したものの約57万件増加した166(第2-4-34図)。失業関連給付申請率167は、20年3月には3.5%であったが、失業関連給付申請数の増加を受け、4月には5.8%に、5月には7.4%に急増した後、9月には7.6%と引き続き高い水準となっている。増加の背景には、失業関連給付申請の対象として、失業だけでなく、労働時間減少に伴う所得減少168(後掲第3-3-42図)も含まれることが影響していると考えられる。
総じて、感染症対策である政府の雇用支援策により、失業率(ILO基準)は一定程度抑制されていると考えられるものの、増加傾向となっている。また、失業関連給付申請率の上昇は、労働市場の悪化を示唆しており、20年10月末に雇用維持スキームが終了した後、失業率は更に悪化する可能性がある。BOEも、20年8月、失業率が20年第4四半期に7.5%程度に上昇すると予測169している。
コラム2:10月下旬以降の欧州の景気動向と追加経済対策のアップデート
(1)10月以降に導入された活動制限と追加支援策
欧州各国では、10月以降感染拡大が急速に進み、フランスなどでは感染拡大が続いた場合の医療体制の限界が指摘されるようになった(図1)。こうした状況を受け、欧州各国では、不要不急の外出制限や飲食店の営業停止といった厳しい措置が再び採られることとなった。また、こうした活動制限措置に対応して、経済活動を支援する措置も講じることとなった。
(主要国での活動制限)
ドイツでは、11月2日から、不要不急の旅行や親族も含めて訪問自粛の要請、飲食店(注1)、劇場、映画館、ジム等のレジャー・余暇施設の閉鎖、娯楽関係のイベントの禁止等の措置を講じた。一方で、卸・小売店舗は入店制限等の措置を講じた上で営業を継続するとともに、学校は閉鎖しないこととした。この措置は、11月末までの実施を予定している。
フランスでは、10月30日から、不要不急の外出は禁止(注2)するとともに、飲食店や必需品を扱う店舗以外の閉鎖等の措置を講じた。一方で、工場、農業、公共事業の稼働は継続するとともに、学校は閉鎖しないこととした。この措置は、12月1日までの実施を予定している。
英国(イングランド)では、11月5日から、不要不急の外出の禁止、飲食店や必需品を扱う店舗の休業等の措置を講じた。一方で、工場、建設業の稼働は継続するとともに、学校は閉鎖しないこととした。この措置は12月2日までの実施を予定している。
(主要国での追加支援策)
ドイツでは、都市封鎖が全土ベースで再導入されることを受け、この影響を受けた事業者に対して、前年同月の売上の75%(上限100万ユーロ)を支給する制度を新設することとした。また、10人未満の従業員数の小規模事業者に対して、ドイツ復興金融公庫の融資を実施することとした。さらに、中小企業に対しては、6月の経済危機対策パッケージで導入された売上減少事業者に対する固定費支援(最大月額5万ユーロ)について、期間を21年6月まで延長するとともに、条件の緩和(注3)をすることとした。
フランスでは、上述の活動制限措置に対応して、連帯基金からの支給金額について、1か月につき最大1,500ユーロであったところを最大1万ユーロまで拡大させるとともに、商店、中小企業等のデジタル化支援等を実施することとした。
英国でも、活動制限措置に対応して、コロナウイルス雇用維持スキームについて、10月末で終了を予定していたが21年3月まで延長するとともに、人件費の補助率を60%(10月)にまで引き下げていたところを再度80%に引き上げ、これに伴い上限額についても1,875ポンドから2,500ポンドに引き上げることとした。また、雇用維持スキーム終了後の措置として検討されていた雇用支援スキームについて、当初11月から実施予定であったところを雇用維持スキーム終了まで延期するとともに、雇用維持スキーム終了後の復職を支援するための雇用維持一時金についてもその実施時期を未定とした。さらに、住宅ローン支払いを更に6か月間繰り延べることができることとした。
今回の活動制限措置の特徴としては、工場や建設業等の活動を継続し、学校も閉鎖しないなど、経済・社会活動への影響を限定的にするような工夫がみられることや、1か月程度と期間を区切った、厳しい制限措置としている点が挙げられる。
また、追加支援策については、春に行われていた活動制限措置に対応するために導入された政策を延長、上限金額を引き上げるなどにより拡充、もしくは既に縮小していた政府支援の範囲を元に戻すなどの内容で構成されている。各国政府ともに、制限措置の範囲を工夫しながら手厚い支援策を再開もしくは当面の継続を表明することで、企業や労働者にとっての不確実性を和らげることを意図していると考えられる。
(2)10月中下旬以降の欧州の景気動向と先行き
(先行指標や高頻度データで見た欧州の景気動向)
ユーロ圏や英国では、感染症再拡大の影響を受け、10月中旬以降公表された企業マインドの指標や、高頻度データからは、景気動向の先行き懸念がいち早く示唆されている。例えば、10月23日に公表されたユーロ圏のサービス業PMI(注4)は前月から1.1ポイント低下し、9月に続き2カ月連続で基準となる50を下回った。対照的に、製造業PMIは前月比0.7ポイントの上昇となり、4月の落ち込み以降、ペースの低下はみられるが10月も上昇トレンドが続いている。サービス業PMIの内訳をみると、10月は特に業務期待の低下が顕著であり、感染症の再拡大の動向とこれを反映して10月以降相次いで導入された各国の活動制限措置による先行き懸念を反映していると考えられる(図2)。
また、グーグルが公表している人流データの動向を、小売店・娯楽施設の訪問時間の指標を用いて確認すると、年初との比較で、ドイツでは9月に一旦同水準に戻ったもののそれ以降は低下傾向、フランスや英国では水準が戻らないまま9月以降低下ないし横ばい傾向が続き、11月に入り大きく低下した結果、11月6日時点でドイツ28%、フランス58%、英国32%のマイナスとなっている。3か国とも10月に目立って訪問時間が減少することはなかったが、既述のように10月末以降広範な行動規制が再度導入され、多くの娯楽施設や一部の小売店が休業要請対象となったことに加え、フランスや英国(イングランド)では外出規制も行われたことから、フランスでは人流が顕著に低下し、ドイツや英国でも今後一層の低下がみられることが予想される(図3)。
さらに、英国・ドイツでの外食サービス消費の動向をOpenTableが公表している、レストランの予約率の前年比の推移で確認すると、9月以降10月半ばまでは両国とも前年とおおむね同水準の予約状況であったのに対し、10月半ば以降はドイツでは下降トレンドがみられ、広範な活動制限措置が講じられた日(英国(イングランド)は11月5日、ドイツは同2日)の直前には予約率が急上昇し、その後予約がほぼゼロとなっている(図4)。こうした指標からも、20年10~12月期の消費においては都市封鎖の影響が大きいと考えられる。
(各機関での見通しの下方改定)
11月5日には欧州委員会が秋の経済見通しを公表し、20年10~12月期のユーロ圏の実質経済成長率は、主要国では各国とも下方改定された。ユーロ圏全体の見通しは前期比0.1%減と2四半期ぶりのマイナスで7月に公表された見通しからは大きく下方改定(-3.5%ポイント)され、パンデミックの再来が不確実性を高め、経済の回復を中断したと評価された。総じてみると、感染症の再拡大が顕著でより厳格な活動制限措置が講じられた国では、成長率の下方改定幅が大きい傾向にある。また、21年についても、成長率の下方改定は各国で共通にみられ、ユーロ圏の21年の成長率予測値は4.2%と、2%ポイント近く下方改定された。欧州委員会は、21年にも地域を限定した抑制策が継続することを見通しの前提としており、マクロ経済政策による下支えを織り込みつつも、夏期見通しよりも慎重な見立てとなっている(表5)。
また、BOEも11月の金融政策レポートで経済見通しを改定した。11月の見通しでは、20年10~12月期の実質経済成長率は、10月31日までに公表された制限措置を織り込んで前期比2.0%減と、再びマイナス圏に入る見通しとなった(表6)。
いずれの見通しも経済の先行きは極めて不確実とし、また欧州委員会の見通しでは、今後の回復には各国間で大きなばらつきがみられることを指摘している。他方、労働市場の先行きについては、失業率は、ユーロ圏では19年の7.5%に対し、20年は8.3%、21年は9.4%と急激に大幅な上昇がみられることは予想されていない。BOEの見通しでも、20年10~12月期の失業率見通しは6.3%と8月時点の7.5%より下方改定となっている。こうした見通しの背景には、政府による各種の雇用支援策が一定の功を奏しているとの見立てがあるものと考えられる。
(注1)レストラン、バー等。デリバリーや持ち帰りは可能。フランス、英国も同様。
(注2)通勤、通院、買い物、散歩等は可能。英国も同様。
(注3)11月9日時点において、条件緩和の具体的内容は検討中。
(注4)サービス業PMIは、(1)新規受注、(2)雇用、(3)仕入価格、(4)販売価格、(5)業務期待の5項目で構成されている。