第2章 経済を支えるための政策対応(第2節)

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第2節 各国政府及び中央銀行の対応

先述のとおり、感染症の急速な拡がりとそれに伴い緊急的に講じられた都市封鎖により、生産活動の停止を余儀なくされるとともに、生産活動再開の見通しが極めて不確実な状況において、各国政府は、緊急に様々な対策を打ち出してきた。

本節においては、先進諸国において講じられたこうした対策について、政府による財政政策(裁量的財政政策を中心に)及び中央銀行の対策に大別して整理する。特に、こうした対策には、生産活動が再開された時にすぐに復帰できることを目的として、企業の倒産の防止及び雇用関係の維持の2点に注力してきたことに特色があると考えられることから、前者については第3節で、後者については第4節で、より具体的に整理する。

1.財政政策

先進諸国においては、おおむね3月から迅速かつ包括的に、そしてかつてない大規模な対策が講じられてきた。その後も、経済活動の再開状況やコロナ後の経済社会の変化を見据えて、各種対策の延長、拡充、終了や中期的な視点の政策を実施してきている。

(1)アメリカの経済対策

アメリカでは、感染症の拡大を受け、20年3月以降、累次の経済対策を実施した。

まず、3月6日、83億ドル規模の追加予算(Coronavirus Preparedness and Response Supplemental Appropriations Act, 2020)が成立した(第1弾)。これには、ワクチンや治療薬の研究開発といった治療法研究(予算規模30億ドル超(以下、括弧内の金額は予算規模を示す。))、マスクや医薬品の購入といった医療体制支援(約10億ドル)、感染拡大の影響を受けた中小企業への低利融資(約10億ドル)などの施策が盛り込まれた。

第1弾の対策が成立した後も追加の対策が検討される中、3月13日、トランプ大統領は、国家非常事態を宣言し、500億ドルの追加対策の実施を表明した。本追加対策は主に3つの施策から成る。一つ目は「連邦政府の資金の活用」であり、州や地方政府が感染症対策のために420億ドルの資金を利用することが可能となるほか、連邦政府による学生ローンの利払い免除や、原油価格の低下を受けた大量の原油購入等が実施される23。二つ目は「医療提供者支援」であり、柔軟かつ迅速な医療を可能にするため、遠隔治療や感染が拡大する州における他州の医師による治療を可能にするための規則の撤廃等が実施される。そして三つ目は「迅速な検査拡大」であり、新たな検査キットの承認、グーグルによるネット診断用ウェブサイト構築、ウォルマート等でのドライブスルー検査の導入等が可能となる。

続く3月18日には、「新型コロナウイルス対策法(Families First Coronavirus Response Act)」が成立し、1,919億ドル規模の対策が実施されることとなった(第2弾)。第1弾の対策では治療法研究や医療体制支援が中心だったのに対し、第2弾の対策は、個人への支援を柱としている。具体的には、従業員が、感染、感染者の介護、子供の世話を理由に休業となった場合に、その従業員への給与支払の分だけ税額を控除する制度の導入(約1,050億ドル)や、失業保険の拡充のための各州への財政支援(50億ドル)、新型コロナウイルスの検査無料化24(588億ドル)、フードスタンプ(低所得者向けの食料配給券)の受給要件厳格化25の停止(212億ドル)などの施策が盛り込まれている。また、財務省は同日、4月15日が納付期限となっていた所得税及び法人税について、7月15日まで納税を猶予する措置を公表した。財務省は、本措置により3,000億ドルの流動性が確保されるとしている。

3月27日には、経済対策法(Coronavirus Aid, Relief, and Economic Security Act(以下「CARES法」という。))が成立した(第3弾)。CARES法は、総額2兆2,240億ドル26(対GDP比10.4%)の非常に大規模な対策となっており、(ア)個人向け給付:1人当たり最大1,200ドル、子ども1人当たり500ドル27(2,930億ドル)、(イ)失業手当の拡充:失業手当の週600ドル上乗せ、対象者の拡大・受給期間の延長(詳細は後述)(2,680億ドル28)、(ウ)影響を受けた企業・州・政府のための安定化基金設置:FRBファシリティへの拠出、航空会社向け融資等(5,000億ドル)、(エ)中小企業支援:給与保護プログラム(雇用を維持すれば返済が免除となる中小企業向け融資(詳細は後述、3,490億ドル)、経済的損害災害融資(中小企業向け融資及び助成金、100億ドル)等、目玉となる様々な対策を含むものとなった(第2-2-1表)29

4月24日には、4,834億ドル規模の追加策(Paycheck Protection Program and Health Care Enhancement Act)が成立した。これは、第3弾の対策に含まれていた給与保護プログラムと呼ばれる中小企業向け融資について、申請が殺到し受付開始13日後の4月16日に融資枠が枯渇したことを受け、その融資枠を3,100億ドル拡充するほか、中小企業の運転資金融資(経済的損害災害融資:EIDL)への追加予算措置(600億ドル)、医療体制支援に関する追加予算措置(750億ドル)を内容とするものである。

経済対策については、共和党・民主党ともに更なる追加策を提案しているが、規模や内容に関して合意がなされない状況となっている。民主党は、総額3兆ドル規模とされる追加対策法案(Heroes ActThe Health and Economic Recovery Omnibus Emergency Solutions Act)を公表し、法案は5月15日に下院を通過した。しかし、共和党は同法案に反対しており、成立には至っていない。一方の共和党は、7月27日、1兆ドル規模の追加対策法案(HEALS ActHealth, Economic Assistance, Liability Protection and Schools Act)を公表したが、失業手当の上乗せ措置の延長の内容等をめぐり、民主党の同意が得られない状況となった(失業手当の上乗せ措置の詳細については、「第4節 雇用支援策と労働市場の動向」を参照)。

そのような中、8月に入っても両党間で合意に達しなかったことから、トランプ大統領は8月8日、追加策に関する大統領令に署名をした。これにより、(ア)失業手当の上乗せ措置を週300ドルに減額した上で延長の他、(イ)9~12月に発生する従業員の給与税30の納税猶予31、(ウ)住宅からの強制立ち退き回避のための支援措置の検討32、(エ)連邦機関が融資する学生ローンの支払期限の12月末までの延長33といった措置が、法律の成立を経ることなく実施されることとなった(第2-2-2表)。ただし、本措置については、予算の編成権を議会に与える米国憲法に違反しているとの指摘があり、今後、法廷闘争となった場合、大統領令による連邦政府の支出は差し止められる可能性がある。また、差し止められなかったとしても、争点となっている失業手当の上乗せ措置については、1か月余りで財源が尽きるとみられた。

その後、9月8日、上院共和党は追加対策法の修正案を公表したが、民主党は本法案に対して反対する旨を表明しており、追加対策法案の成立に向けた動きは今後も続けられる見込みとなっている。

第2-2-1表 CARES法の主な内容
第2-2-2表 大統領令(8月8日署名)の主な内容

(2)ヨーロッパの経済対策

(ドイツ)

ドイツ政府は、3月に入り感染者数が急速に増加してきたことから、3月16日に発表した市民生活に必要不可欠な店舗・施設(食料品店や薬局等)以外の大半の閉鎖、レストランの営業時間制限等の封鎖措置に先立ち、3月13日、(ア)従業員操業短縮制度の拡充(次節にて後述)、(イ)納税が困難な納税者に対する納税猶予等税関連の流動性支援、(ウ)ドイツ復興金融公庫(KfW:Kreditanstalt für Wiederaufbau)に対する4,650億ユーロ規模の企業向け信用保証枠の設定、(エ)欧州の結束強化34の4つの柱からなる緊急対策パッケージ(Ein Schutzschild für Beschäftigte und Unternehmen)を発表した。

続いて3月23日には、感染症の影響を受ける企業や雇用を支援するため、総額7,560億ユーロの緊急対策パッケージを公表し、1,560億ユーロ35を補正予算に計上した。1,560億ユーロのうち、500億ユーロを小規模事業者に対する直接給付に、77億ユーロを失業給付金基金等の失業・高齢者支援に、35億ユーロをワクチン開発や治療法の開発促進等の医療費支援に、550億ユーロを感染症への緊急対策用予備費に充てることとした。また、本来健全であった企業の流動性と支払い能力の確保を目的として、6,000億ユーロの企業救済基金「経済安定化基金(WSF:Wirtschaftsstabilisierungsfonds36」を設立した。このほか、財務省がKfWへの信用保証額の枠について、3,570億ユーロを増額し、保証額の枠の合計は8,220億ユーロ規模となっている。

6月3日、1,300億ユーロ規模の経済対策が連立与党で合意され、29日に成立した。同対策は、「経済危機対策パッケージ(Konjunktur- und Krisenbewältigungpaket)」と「未来パッケージ(Das Zukunftspaket)」で構成されている。経済危機対策パッケージは、感染症からの危機に対し経済回復を図る施策で800億ユーロ規模からなり、200億ユーロを付加価値税率の一時的引下げ37、43億ユーロを子育て世帯への現金給付38、250億ユーロを中小企業の資金繰り支援等に充てることとした。未来パッケージは、ドイツの経済基盤を長期的に強化する施策で500億ユーロ規模からなり、20億ユーロをAI戦略の推進、90億ユーロを国家水素戦略の推進39、22億ユーロを電気自動車購入支援40、50億ユーロを25年までの5Gネットワーク整備等に充てることとした。

さらに、8月25日、操業短縮手当の給付期間を12か月から最大24か月に拡大するなど、業績が低迷する企業への支援策の延長等が、連立与党で合意された。

このほか、ドイツ政府は、従業員操業短縮手当制度の拡充やスタートアップ企業への融資等41の対策を次々と表明した。

(フランス)

フランス政府は、減速した経済の早期回復に向けて大規模な経済対策を進めており、第一次~第三次補正予算に基づき、総額1,360億ユーロ規模の財政出動を実施した。

3月に成立した第一次補正予算については、総額約450億ユーロであり、感染症が急拡大した3月半ばに、封鎖措置の開始に伴い編成された。これは主に、行動制限に起因する消費の落ち込みや休業を命じる政令により、売上が減少した事業者を財政的に支援するための施策であり、その多くが従業員に支払う一時帰休(部分的失業)手当の補てん、小規模事業者向けの給付金、法人税の猶予に充てられた。また、この第一次補正予算とは別に、資金の流動性を確保するため、事業主や法人に対する銀行融資に3,000億ユーロ規模の政府保証を付与することも決定された。

4月に成立した第二次補正予算においては、対策規模が約450億ユーロから約1,120億ユーロに増額された。主な内容は、一時帰休手当及び小規模事業者向け給付金の予算が大幅に増額されたほか、中堅企業支援のための経済社会開発基金(FDES:Fonds de dévéloppement économique et social)の増額や中小企業向け特別融資枠の設置、法人税及び社会保険料の納税猶予等が決定された。また、個人向け支援として、低所得世帯や生活保障手当受給世帯に対する給付金の設置も行われた。医療関連対策費も増額され、医療従事者への特別手当の支給が盛り込まれた。

7月に成立した第三次補正予算においては、対策規模が約1,120億ユーロから約1,360億ユーロ規模に増額された。主に、一時帰休手当補助や小規模事業者向け給付金の予算が更に増額されたほか、打撃を受けた観光部門向けに現金給付の対象企業を拡大した42。また、自動車部門向けに需要を喚起するとともに、国内で保有される自動車の買い換えを促進し、グリーン化を進める目的で補助金を新設又は増額する経済支援策が追加された。

9月には、1,000億ユーロの追加経済対策が表明された43。主な内容は、グリーンテクノロジーへの支援や航空・自動車産業のデジタル化・エコ化投資支援等のエコロジー関連に300億ユーロ、先端技術開発支援や国内生産回帰等の企業競争力関連に340億ユーロ等が盛り込まれた。

(英国)

英国では、20年3月11日、92年以来最大となる300億ポンド規模の景気刺激策を盛り込んだ20年度予算を公表した。300億ポンドのうち、120億ポンドを感染症対策費とし、50億ポンドを医療体制の強化等に、70億ポンドを疾病手当支給の制度変更等を含む労働者や中小企業向けに、支援を行うこととした。

17日には、資金難に陥っている大企業向けに、イングランド銀行(BOE)がコマーシャルペーパーを買い入れる3,300億ポンドの信用保証枠を設定したほか、感染症拡大防止のための封鎖措置の影響を受けやすい小売・接客業等の特定事業者における納税免除や助成金給付を公表した。

さらに、20日には一時帰休中の従業員給与補助のスキーム(Coronavirus Job Retention Scheme)を、26日に個人事業主の所得補助のスキーム(Self-Employment Income Support Scheme)を公表した。

7月8日、300億ポンドの追加経済対策(「Plan for Jobs」)を公表した。この対策には、一時帰休後の従業員の復職支援(Job Retention Bonus)や若年層向け雇用者基金の設立、飲食、宿泊、旅行業における付加価値税率の約半年間20%から5%への引下げ、8月の月~水曜日の1か月間の外食代の50%(1回の食事につき1人当たり10ポンドを上限)支援(Eat Out to Help Out44等が含まれている。

9月24日には、冬季経済計画(「Winter Economy Plan」)を公表した。上述の従業員給与補助のスキームが10月末で終了することを受け、労働時間を短縮している従業員への給与補助(Job Support Scheme45を11月から開始することのほか、上述の個人事業主の所得補助のスキームや付加価値税率の引下げの期間延長等、雇用を守り、企業を支援し続ける対策を実施することとした。

このほか、慈善団体への支援や医療体制の更なる強化、中小企業、スタートアップ企業等への融資等、次々と対策を表明46した。

(EU)

ヨーロッパにおいては、各国政府のみならず、EUにおいても各種経済対策が講じられている。

EUは、ヨーロッパにおける感染症の急拡大を受け、3月10日に加盟国首脳による臨時会議を開催した。首脳陣は、欧州経済への影響を最小限に抑えるため、防疫、医療体制、研究開発、社会経済への影響に対する対応の4つの分野について、各国で協力し必要な全ての対策を採ることで一致した。特に経済面については、EUの財政や補助金のルールを柔軟に運用することで、主に中小企業や感染症による打撃が大きい部門の流動性不足の緩和に向けた支援を行うとの方向性を共有した。この方向性を踏まえ、大きく以下二つの対策が講じられた。

一つは、4月9日にユーロ圏財務相会合(ユーログループ)において合意に至った、総額5,400億ユーロ規模に上るセーフティネットである。加盟国政府に対しては、救済基金である欧州安定メカニズム(ESM:European Stability Mechanism)を活用し、ユーロ圏全体で最大2,400億ユーロ規模の信用枠を設定した47。また、企業の資金繰り支援策としては、欧州投資銀行(EIB)を通じて最大2,000億ユーロ規模の融資を可能にするための信用保証を供与することとした。さらに、雇用・所得対策として、EU域内の企業が従業員の労働時間を短縮した場合に、加盟国政府が減額分の賃金を補てんするための原資をEUが当該国政府に低金利で貸し出す「SURE48」と称する枠組を設定し、最大1,000億ユーロ規模の資金を準備した。このセーフティネットの導入により、加盟国政府、企業、労働者に対する柔軟な支援が可能となった。

もう一つは、7月21日に欧州理事会において合意に至った、「次世代のEU」と称する7,500億ユーロ規模(対GDP比4.6%)の復興基金である。この基金のうち中核を成す部分は、「復興・強靭化ファシリティ」と呼ばれる加盟各国のコロナ危機からの経済復興と構造改革を促進するための基金である。各国は、回復・強靭計画(21~23年)を作成し、欧州委員会の承認を受けることにより、EUから資金提供を受けることができ、7,500億ユーロのうち6,725億ユーロ(うち補助金3,125億ユーロ、融資3,600億ユーロ)がこれに充当されることとなった(第2-2-3表)。この他の主な使途として、次世代の医療、環境、デジタル化に関する研究開発の支援に50億ユーロ、環境対策やデジタル化を推進するための民間投資の活性化に56億ユーロ、農業の基盤強化のための農村開発に75億ユーロ、気候変動対策に100億ユーロが充当されることとなった。EUは、同基金を織り込んだ1兆8,500億ユーロ規模となる21~27年の次期中期予算(多年度財政枠組:Multiannual Financial Framework49)を活用し、特にグリーンディール政策やデジタル化といった重要課題への積極的かつ充実した投資を予定しているが、これは、感染症の拡大による景気後退からの復興のみならず、中期的視点でのEU全体の公正な市場環境の整備や競争力強化も目的としており、MFF及び復興基金は、次世代のヨーロッパ経済の発展を達成するための起爆剤としての役割が期待されている。

なお、復興基金は、その資金調達面でも注目され、欧州委員会が債券を発行して市場から資金を調達する50という初めての方式が採用されることとなった。

また、復興基金は、合意に至る交渉経過にも注目が集まった。まず、イタリアやスペイン等の南欧を中心とする諸国は、3月来、欧州委員会が債券を発行して資金調達をするためのEU共同債を要請していた。しかしながら、加盟国全体での共同債は、財政状況が健全で信用度が高い国が独自に発行する債券よりも利回りが高くなる傾向にあること、また、共同債の返済原資となるEU予算の拠出金はそうした国ほど負担が大きいことから、ドイツ、オランダ、オーストリア、スウェーデン、デンマークの反発を招き、4月23日の欧州理事会では、復興基金の創設自体は基本合意に至ったものの、その規模や財源について折り合えなかった。ところがその後、ドイツが、コロナ禍を受けEUの一体性を重視する姿勢を見せ、共同債の発行について歩み寄りの姿勢を見せることとなり、合意に向けた情勢が変化した。5月18日、ドイツのメルケル、フランスのマクロン両首脳は5,000億ユーロ規模の復興基金51の創設を共同提案し、5月27日、欧州委員会は4月の欧州理事会の結果とドイツ及びフランスの共同提案を踏まえ、復興基金及び同基金を織り込んだMFFの原案を発表するに至った。同案は、いわゆる倹約4か国52の根強い反発により、6月19日に開催された欧州理事会では合意に至らなかったが、7月17~21日に改めて開催された理事会での協議の末、内容を一部見直した上で合意に至った。中でも注目された見直しは、同基金を構成する返済不要の補助金と要返済の融資の割合であり、欧州委員会による当初案の5,000億ユーロ対2,500億ユーロから、補助金の比率を引き下げ、3,900億ユーロ対3,600億ユーロに変更された53

第2-2-3表 EU復興基金及び中期財政枠組の内訳

2.中央銀行の対応

先進諸国においては、おおむね3月中に緊急的に様々な対策が講じられてきた。その手法は、政策金利の引下げを始めとした従前からの金融政策手法のみならず、2008年の世界金融危機時に活用された手法を今回の危機に適用したもの、さらには、中央銀行が政府と連携して中小企業向け金融仲介を開始するといった新たな取組も開始されている(企業の資金繰り支援や雇用支援に関するものについては、第3、4節で紹介する)。

(1)FRB

FRBは、世界経済の減速及び貿易政策の不確実性の高まりによる景気下振れリスクへの備えとして、19年後半に0.25%ポイントずつ3回の利下げを行った後、20年初めにかけて政策スタンスを維持していた。しかし、20年2月以降、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大と、更なるアメリカ経済の減速懸念の高まりを受け、FRBは累次の緊急対応措置を実施した(第2-2-4表)。

第2-2-4表 FRBによる感染症拡大の影響への対応(2020年)
(政策金利の0%近傍への引下げ)

FRBは、19年7月、9月、10月のFOMC会合において、政策金利であるフェデラル・ファンド金利(FF金利)の誘導目標範囲をそれぞれ0.25%ポイントずつ3会合連続で引き下げた後、19年12月、20年1月のFOMC会合では据置きとしていた。

その後、感染症の拡大を受け、2月28日、パウエル議長が「政策ツールを用いて、経済を支えるために適切に行動する」とする旨の緊急声明を公表すると、市場では3月のFOMC会合において0.5%ポイントの大幅利下げが行われるとの観測が広まった。3月3日、FRBは、臨時のFOMC会合を開催し、FF金利の誘導目標範囲を0.5%ポイント引き下げ、1.00~1.25%とするとともに、2月の緊急声明と同様、「適切に行動する」として、更なる利下げも辞さない姿勢を示した。3月15日、FOMCは2回目の臨時会合を開催し、FF金利の誘導目標範囲を1.0%ポイント引き下げて0.00~0.25%とし、事実上のゼロ金利政策を導入した。また、会合の声明文では今後の政策金利について「アメリカ経済が最近の出来事を乗り越え、雇用の最大化と物価の安定という目標の達成に向けた軌道に乗ることを確信するまで、この誘導目標範囲を維持する」とし、当面の間ゼロ金利を維持するという姿勢を示すことで、市場の期待に働きかけた。その後、3月23日のFOMC臨時会合、4月、6月、7月、9月の定例会合では、FF金利の誘導目標範囲を据え置いている54(第2-2-5図)。なお、9月のFOMC会合では、今後の政策金利について「労働市場の状況が、委員会が最大雇用と評価する水準に達し、物価上昇率が2%に上昇し、当面の間2%を緩やかに超える軌道に乗るまで、この誘導目標範囲を維持することが適切だと予測する」とし、8月に決定した平均物価上昇率目標55を声明文に盛り込んだ。

9月のFOMC会合においては、参加者による政策金利見通し(第2-2-6表)が公表され、参加者17人中13人が、23年末まで現在の政策金利の誘導目標範囲の水準が維持されることが適切との見通しを表明した56

第2-2-5図 政策金利の推移
第2-2-6表 FOMC参加者による政策金利見通し(中央値)から算出される各年間の利上げ/利下げ回数見込み
(量的緩和の再開と無制限化)

FRBは、19年7月末、17年10月以降進めてきたバランスシートの縮小を停止した。その後、19年9月中旬に生じた短期金利の急騰を受けて、10月以降、FRBは、準備預金を潤沢な水準に増加させるため、短期国債(T-Bill)の購入を実施した57。FRBの対応により短期金利が落ち着くと、20年1月28~29日のFOMC会合後の記者会見において、パウエル議長は、短期国債の購入を20年第2四半期まで継続し、準備預金が安定的に十分な水準に達した場合、短期国債購入を減額する方針を示していた。

しかし、感染症拡大による金融市場のひっ迫を受け、FRBは3月12日、米国債の購入について、短期債に限定されていた対象を、中長期債に拡大することを決定した58。3月15日のFOMC臨時会合においては、米国債と不動産担保証券(MBS)の円滑な市場機能を支えるため、今後数か月にわたり、米国債の保有額を少なくとも5,000億ドル、MBSの保有額を少なくとも2,000億ドル増加させることを決定した59。さらに、3月23日のFOMC臨時会合では、米国債及びMBSの保有額を、市場が円滑に機能するために必要な水準まで増加させるとして、保有額について、目安を提示せず無制限化した量的緩和を実施するとともに、資産購入対象に商業用不動産担保証券(CMBS)を追加することを決定した。量的緩和について、4月28~29日の会合では「市場が円滑に機能するために必要な水準まで増加させる」とし、続く6月9~10日の会合では「市場が円滑に機能するため今後数か月間は少なくとも現在のペースで増加させる」とし、同日にニューヨーク連銀が公表した声明文等の中で、米国債は月800億ドル、MBSは月400億ドル、今後数か月間は継続してそれぞれ保有額を増加させる予定であることが明示された。

これらの量的緩和措置に加え、各種資産購入や流動性供給、中小企業等資金繰り支援の措置等60により、FRBのバランスシートは大幅に拡大した。バランスシートの規模は、3月19日に過去最高の4.7兆ドルに達すると、その後毎週過去最高を更新し、5月20日には7兆ドルを超えた。

しかし、3月後半以降金融市場が徐々に落ち着きを取り戻していったことを背景に、FRBは、4月以降、米国債及び政府機関債の購入額を段階的に減少させている61(第2-2-7図)。また、ニューヨーク連銀は、レポ取引による短期金融市場への資金供給について、レポ市場環境の安定化を踏まえ、5月4日以降、オペの回数と金額を半減させており62、バランスシートの拡大ペースは減速している。さらに、他国中央銀行との通貨スワップ協定の利用が減少したことなどから、バランスシートの規模は、6月10日に7兆2,200億ドルに達した後、減少に転じ、その後はおおむね横ばいで推移している。

これらの対応を経て、7月28~29日のFOMC会合では、足元で多くの市場機能は大幅に改善し、安定していると評価した。

第2-2-7図 FRBのバランスシート(資産側)
(金融市場への流動性供給)

FRBでは、金融市場の混乱に伴う流動性のひっ迫を受け、金融システムの安定性を保つため、従来の伝統的な金融政策だけでなく、積極的な流動性供給策を講じている。具体的には、08年9月以降の世界金融危機時に講じた以下の措置を今般改めて導入した。

(i)コマーシャルペーパー(CP)63購入

財務省とニューヨーク連銀が特別目的事業体を設立し、CP資金調達ファシリティ(CPFF:Commercial Paper Funding Facility)を通じて、企業からCPを購入する。最大購入額は定められていない。ファシリティによる購入期間は、21年3月17日までとされている。20年7月31日時点でのCP保有残高は3億3,661万ドルとなっている64

(ii)大手証券会社向け

ニューヨーク連銀が、プライマリーディーラー信用ファシリティ(PDCF:Primary Dealer Credit Facility)を通じて、プライマリーディーラー(大手証券会社)に対し、最長90日の資金を公定歩合で融資する。担保は、FRBの公開市場操作における全ての適格担保証券に加え、投資適格社債、国際機関債、CP、地方債、不動産担保証券(MBS)、資産担保証券(ABS)65、株式等とする。最大貸出額は公表されていない。ファシリティによる新規融資受付期間は、3月17日のファシリティ設立公表時点で最低6か月とされていたが、7月28日に12月31日まで延長されることが公表された。7月31日時点での貸出残高66は11億8,760万ドルとなっている。

(iii)MMF67向け

MMFが保有する資産を銀行が買い取り、その資産に対しボストン連銀がMMMF流動性ファシリティ(MMLF:Money Market Mutual Fund Liquidity Facility)を通じて、融資(ノンリコースローン)する。担保は、米国債、政府機関(GSE:Government Sponsored Enterprises)債、資産担保コマーシャルペーパー(ABCP)68、CP、短期地方債とする。最大貸出額は公表されていない。ファシリティによる新規融資受付期間は、3月23日のファシリティ設立公表時点で9月30日までとされていたが、7月28日に12月31日まで延長されることが公表された。7月31日時点での貸出残高は136億8,771万ドルとなっている。

(iv)ABS投資家向け

財務省とニューヨーク連銀が特別目的事業体を設立し、ターム物資産担保証券ローンファシリティ(TALF:Term Asset-Backed Securities Loan Facility)を通じて、資産担保証券(ABS:Asset-Backed Securities)を担保にノンバンクなどに融資(ノンリコースローン(3年))を行う。担保は、自動車ローン、学生ローン、クレジットカード債権、レント債権、設備ローン、保険料ローン、SBA保証付きローン、レバレッジローン、商業用不動産担保証券(CMBS)を裏付けとする資産担保証券とする。最大融資額は1,000億ドルである。ファシリティによる新規融資受付期間は、3月23日のファシリティ設立公表時点で9月30日までとされていたが、7月28日に12月31日まで延長されることが公表された。7月31日時点での貸出残高は16億1,945万ドルとなっている。

(その他の措置)

FRBでは、上記のほか、中小企業等への資金繰り確保策(後述)や地方政府への支援策、国際的なドルの流動性供給策等、今回の危機に対応した新規の措置を講じた。

(i)地方債

財務省とニューヨーク連銀が特別目的事業体を設立し、地方自治体流動性ファシリティ(MLF:Municipal Liquidity Facility)を通じて、地方債を引き受ける。購入最大額は5,000億ドルとなっている。適格発行体は、州政府(ワシントンDCを含む)、人口25万人以上の都市政府、人口5万人以上の郡政府(ただし、各州少なくとも2つの都市又は郡は、人口の制限を受けずに地方自治体流動性ファシリティを利用可能)及び公益事業体となっている。ファシリティによる購入期間は、4月9日のファシリティ設立公表時点で9月30日までとされていたが、6月9日に12月31日まで延長されることが公表された。7月31日時点での債券保有残高は12億ドルとなっている。

(ii)大手銀行に対するレバレッジ規制の緩和

FRBは、4月1日、大手銀行に対するレバレッジ規制(補完的レバレッジ比率(SLR:Supplementary Leverage Ratio)規制)の緩和を公表した。補完的レバレッジ比率規制とは、資産規模に応じて一定比率以上の資本を保有することを総資産2,500億ドル以上の銀行に義務付けるものである。FRBは、銀行がFRBに預ける準備預金及び米国債を比率計算から除外する(計算上の資産規模を減らす)ことにより、保有すべき資本額を減らして融資を促した。

(iii)国際的なドルの流動性供給

2月下旬以降、金融市場環境が大きく引き締まる中、ドル資金に対する需要が大幅に増加した。これに対し、FRBは、ドル資金の流動性を支えるため、各国の中央銀行と協調しながらドルを供給する施策を行った。FRBは、3月15日にカナダ銀行、イングランド銀行、日本銀行、欧州中央銀行、スイス国民銀行と、ドル・スワップ協定69を通じた流動性供給の拡充を公表した70。また、19日には、オーストラリア、ブラジル、韓国、メキシコ、シンガポール、スウェーデン、デンマーク、ノルウェー、ニュージーランドの中央銀行と新たにドル・スワップ協定を締結し、少なくとも6か月、総額4,500億ドルの供給を行うことを公表した(その後、FRBは7月29日、ドル・スワップ協定を21年3月末まで継続する旨を公表した)。さらに、20年3月20日には、15日に拡充を公表した5つの中央銀行とのドル・スワップ協定について、更なる拡充を公表した71

また、FRBは3月31日、ニューヨーク連銀に口座を持つ海外中央銀行や国際機関(FIMA:Foreign and International Monetary Authorities)に対し、米国債を担保にドルをオーバーナイトで供給(ロールオーバー(借換)も可能)するFIMAレポ・ファシリティの設置を公表し、ドルの更なる流動性供給策を実施した(その後、FRBは7月29日、FIMAレポ・ファシリティを21年3月末まで継続する旨を公表した)。

これらの対応を経て、20年7月28~29日のFOMC会合では、足元で多くの市場機能は大幅に改善し、安定していると評価した。

(FOMC参加者の経済見通し)

FRBには、雇用の最大化と物価の安定化という目標が法定されている。雇用情勢は大幅に悪化しており、雇用者数は極めて大幅に減少し、失業率は4月に過去最大となった(第2-2-8図)。また、物価情勢については、PCE総合及びPCEコアデフレーターがともに4月以降急速に低下し、FRBが目標とする2%を大幅に下回って推移している(第2-2-9図)。

20年9月会合時点のFOMC参加者による経済見通しの中央値72を確認すると、20年の実質経済成長率は3.7%減と、感染症拡大前の19年12月時点の見通しである2.0%から大幅に下方修正されているが、21年は4.0%、22年は3.0%、23年は2.5%と回復へ向かうことが見込まれている。また、失業率は、19年12月時点の見通しから大幅に引き上げられており、20年に7.6%、21年に5.5%、22年に4.6%、23年に4.0%と、徐々に低下することが見込まれている。一方、PCE総合及びPCEコアデフレーターの見通しについては、ともに19年12月時点の見通しから引き下げられているものの、徐々に上昇し、23年に2%に到達することが見込まれている(第2-2-10表)。

第2-2-8図 失業率
第2-2-9図 PCEデフレーター
第2-2-10表 FOMC参加者による経済指標の見通し(中央値)
(平均物価上昇率目標の導入)

20年8月27日、FRBは、金融政策の見直しの成果の一つとして、長期的目標と金融政策戦略に関する声明(Statement on Longer-Run Goals and Monetary Policy Strategy73を改定し、平均物価上昇率目標を導入することを公表した。FRBは、18年11月に、アメリカ経済の構造変化を踏まえ、金融政策の戦略、手段、コミュニケーションについての幅広い見直しを行うと公表し、19年2月以降、「Fed Listens」と呼ばれるイベントを全国の地区連銀で開催して見直しに関する議論を行ってきたが、今回の改定は、それらの議論を反映したものである。

FRBは同声明文において、最大雇用が広範囲かつ包括的な目標であることを強調するとともに、政策決定は最大雇用からの不足分への評価によって行われる旨を明示した74。平均物価上昇率目標の導入について、長期的に平均2%の物価上昇を目指す75こととし、長期のインフレ目標を安定化させるため、物価が継続的に2%を下回る時期が続けば、適切な政策運営としては、当面、2%を適度に上回る物価上昇率の達成を目標とし得る旨を明示した76

こうした一連の金融政策の見直し及び声明文の改定の背景には、持続的な低金利環境77によりもたらされる金融政策の課題がある。声明文では、雇用の最大化及び物価の安定化に合致するFF金利の水準が過去の平均と比べて低下したことを指摘したうえで、政策金利は、アメリカ及び世界中において、過去よりも実効下限78制約に制限されやすい状況と指摘し、雇用や物価上昇率の下方リスクが上昇したとの認識を示した。

FRBは、約5年ごとに、公開レビューを通じて金融政策の戦略、ツール、コミュニケーションに関する見直しを実施するとしている。

(2)ECB

ECBは、19年9月に、ユーロ圏の経済状況が想定以上に弱く、物価上昇率がECBが掲げる目標79に継続的に達していないことから、それまで一旦終了していた資産購入プログラム(APP:Asset Purchase Programme。カバードボンド購入プログラム第3弾(CBPP3)80、資産担保証券購入プログラム(ABSPP)81、公的部門購入プログラム(PSPP)、企業部門購入プログラム(CSPP)82の4つのプログラムの総称)を月額200億ユーロ購入するとして再開した83

20年2月以降、感染症の世界的な拡大と、更なる世界経済の減速懸念の高まりを受け、ECBは金利の引下げこそ行っていないものの、資産購入枠の拡大やその他の流動性供給の拡大といった様々な緊急の緩和措置を実施した。

(政策金利は据置き)

ECBは、政策金利として、主要リファイナンス・オペ金利84を掲げている。政策金利は、限界貸出ファシリティ金利85を上限とし、市中銀行がユーロシステムに余剰資金を預け入れる際に適用される金利である預金ファシリティ金利86を下限とするコリドーの間で推移している87(第2-2-11図)。ECBは、16年3月以降主要リファイナンス・オペ金利を0.00%、限界貸出ファシリティ金利を0.25%としており、また、19年9月以降預金ファシリティ金利を-0.50%としている。

今回の感染症拡大の対応では、これらの金利の引下げといった対応は行っていない。

第2-2-11図 コリドー・システムによる操作目標金利の推移
(資産購入枠の拡大)

20年3月12日、ECBは、感染症拡大が続き、不確実性が高まる中で良好な資金調達環境を維持するため、20年末までの一時的措置として民間資産の購入を主体に1,200億ユーロ規模の資産購入を実施すると決定した。

3月18日には緊急会合を開催し、新たな追加対策として、パンデミック緊急購入プログラム(PEPP:Pandemic Emergency Purchase Programme)を導入することを決定した。PEPPによる購入資産規模は、7,500億ユーロとし、期間は感染症の危機が去ったと判断されるまで実施するとした。また、購入の対象資産は、民間・公的資産の両方が対象であり、APPの対象資産全てが含まれるとともに、これまで適格担保要件を満たさなかったギリシャ国債や非金融部門のコマーシャル・ペーパー(CP)を追加した。なお、6月4日の定例会合で、PEPPによる購入資産規模を6,000億ユーロ増額の1兆3,500億ユーロに拡大した(第2-2-12図)。

第2-2-12図 ECBの資産購入プログラム
(その他の流動性供給の拡大)

従前から行われている主要リファイナンス・オペ(MRO:Main Refinancing Operations)や長期リファイナンス・オペ(LTRO:Longer Term Refinancing Operations)のほか、非伝統的な手段である貸出条件付長期資金供給オペ(TLTRO:Targeted Longer Term Refinancing Operation)が実施されており、現在は第3弾となるTLTRO‐IIIが19年9月から行われている。

LTROについては、感染症が拡大する中、ECBは、20年3月12日の定例会合で、必要に応じて即時に流動性を供給できるよう、20年6月までの間、金利を引き下げ、一時的に預金ファシリティ金利(-0.50%)で実施(通常は政策金利)することとした。

TLTRO‐IIIについては、同日の定例会合において、20年6月から21年6月までの間、(i)適用金利を-0.25%(政策金利(主要リファイナンス・オペ金利)を0.25%ポイント下回る水準)、特に貸出量の基準を満たしている銀行に対しては-0.75%(預金ファシリティ金利を0.25%ポイント下回る水準)とする、(ii)融資限度額を19年2月28日時点の適格貸出残高の50%(従来30%)まで引き上げる、とした。また、4月30日の定例会合では、適用金利を引き下げ、-0.50%(政策金利を0.50%ポイント下回る水準)、特に貸出量の基準を満たしている銀行に対しては-1.00%(預金ファシリティ金利を0.50%ポイント下回る水準)とした。

さらに、4月30日の定例会合において、十分な流動性と円滑な金融市場を維持するため、パンデミック緊急長期リファイナンス・オペ(PELTROs:Pandemic Emergency Longer-Term Refinancing Operations)を新たに導入した。PELTROsは、20年5月から年末までの間、金利を引き下げ、適用金利を-0.25%(政策金利を0.25%ポイント下回る水準)とした。

加えて、6月25日には、感染症により、非ユーロ圏でユーロ流動性不足が生じるのを防ぐため、21年6月までの時限措置として、非ユーロ圏中銀向けにユーロを供給するユーロシステム・レポ・ファシリティ(EUREP:Eurosystem repo facility for central banks)を新設した。

(適格担保要件の緩和)

ユーロ圏の市中銀行がECBから資金供給を受けるにあたって、市中銀行からECBが定める適格担保の差し入れを行うことが条件とされている。適格担保は、大きく市場性資産と非市場性資産に分類され(第2-2-13表)、また、主要格付機関による格付条件を満たす必要がある。ただし、非市場性資産については、各国共通の要件を満たす必要があるものの、イタリアやギリシャといった一部の加盟国を対象に、一時的な措置として、各国の中央銀行が担保の基準を独自に設定することを容認する追加信用債権(ACC:Additional Credit Claims)を認めている。

第2-2-13表 ECBの適格担保規定における購入資産の概要

感染症拡大を受け、ECBは、20年4月7日に、(i)各国中央銀行が独自に受け入れ可能な担保として、感染症対応の各国政府保証債権を追加、(ii)ギリシャ国債を担保として受入れ等の担保基準の緩和措置の実施を発表した。また、4月22日の緊急理事会において、ABSを除く市場性資産について、4月7日時点で格付がBBB-以上であれば、その後、感染症の影響により第2-2-14表のSTEP5まで格下げされたとしても、適格担保として認めると発表した。

第2-2-14表 ユーロシステムにおける信用評価のフレームワーク88
(ECB参加者の経済見通しと政策効果に対する評価)

ECBは、四半期ごとにECBスタッフの経済予測を公表している。経済予測では実質経済成長率及び消費者物価上昇率(HICP)の見通しが公表される(第2-2-15表)。

20年9月のECB理事会で公表された予測値では、中央値の予測に加えて、楽観シナリオと悲観シナリオに基づく予測値も公表した。実質経済成長率については、中央値の予測では20年が-8.0%、21年が5.0%、22年が3.2%と、6月に比べて20年が上方修正された一方、21年と22年は下方修正された。この点に関して、ラガルドECB総裁は、20年9月10日の定例会合後の記者会見で、感染症の拡大とそれに伴う封じ込め措置により、製造業及びサービス業は深刻な影響を受けており、20年は大きく落ち込むとした一方、7月以降は回復しているとの見方を示した。一方、消費者物価上昇率(HICP)については、中央値の予測では20年が0.3%、21年が1.0%、22年が1.3%と目標の2%を下回る予測となった。この点に関して、ラガルドECB総裁は、原油価格の下落が要因であると説明している。

第2-2-15表 ECB参加者による経済指標の見通し

20年7月のECB理事会において、参加者はPEPPとTLTRO‐IIIが一定の効果を挙げたと指摘し、また、国によって差はあるものの、債務保証と企業の資金需要の強さを背景とした銀行貸出が拡大していると評価した一方、労働市場に関しては、様々な政策支援措置が期限切れとなった後に対する懸念等がみられた。

(3)BOE

イングランド銀行(BOE:Bank of England)は、感染症による影響が拡大し始めたことを背景に、20年3月以降、バンク・レートの引下げや資産買入の拡大を実施し、それまで目指してきた「量的引締め(QT:Quantitative Tightening)」からの方針転換を余儀なくされている。

(政策金利は引下げ)

政策金利については、バンク・レートと呼ばれる、市中銀行の準備預金への付利金利(翌日物)を用いている。感染症の感染拡大を受けて、20年3月10日、BOEは特別会合を開催し、バンク・レートを0.50%ポイント引き下げ0.25%に、また、3月19日の定例会合ではバンク・レートを0.15%ポイント引き下げ0.10%にした(第2-2-16図)。

第2-2-16図 バンク・レート(政策金利)と消費者物価上昇率の推移
(資産購入枠の拡大)

BOEは、09年3月に英国国債を対象とした資産購入(量的緩和)を開始した。BOEの量的緩和の特徴としては、(i)BOEの子会社である資産購入ファシリティ(APF:Asset Purchase Facility)を設立した上で、当該組織にBOEが融資する形で実施している点や、(ii)資産の購入に際して、毎月あるいは年間の購入額を設定する方式ではなく、あらかじめ購入上限を設定し、上限を調整する方式を採用している89点が挙げられる(第2-2-17図)。

資産購入に関しては、09年3月に開始後、12年10月に一旦停止したが、EU離脱をめぐる国民投票後に英国経済が減速したことを受けて、16年8月に再開し、併せて一定の基準を満たす非金融法人企業の社債も購入することとした。なお、この時点での資産購入の上限は4,450億ポンド、うち国債が4,350億ポンド、社債90の購入上限が100億ポンドであった。

20年3月19日、感染拡大を受けて、BOEは特別会合を開催し、国債及び社債の購入枠を合計2,000億ポンド増額し、総額6,450億ポンドに拡大することを決定した91。また、6月17日の定例会合では、国債購入枠を1,000億ポンド増額し、国債及び社債の総資産購入枠を7,450億ポンドに拡大することを決定した。

第2-2-17図 BOEの資産購入残高の推移

さらに、BOEは、3月17日、感染症拡大による英国経済への影響が不確実な中、今後数か月間にわたって経済活動が大幅に弱まる可能性に備えて、企業への流動性供給のため、財務省と共同で新たに新型コロナウイルス感染症企業調達ファシリティ(CCFF:Covid Corporate Financing Facility)を設立した。

CCFFは、英国経済に重要な貢献をする企業が発行する、最長1年が満期のコマーシャルペーパー(CP)を購入することにより、企業に資金を供給する(第2-2-18表、第2-2-19図)。なお、英国政府金融当局により規制を受けている銀行や住宅金融組合92、保険会社は対象外である。

CCFFから資金供給を受けるに当たり、企業は主要格付機関(Standard&Poor’sMoody’sFitchRatingsDBRS Morningstar)から投資適格級以上の格付が必要となる93。CCFFが購入するCPは、満期が1週間から1年までであり、20年3月1日時点で主要格付機関のうち少なくとも1社から投資適格級以上の格付を受けたCPが対象となる。CCFFにおけるCPの最大購入額は10億ポンドである。

第2-2-18表 CCFFの仕組み
第2-2-19図 CCFFの貸出残高の推移
(その他の流動性供給の拡大)

感染症拡大を受け発動された、その他の流動性供給手段としては、緊急ターム・レポ・ファシリティ(CTRF:Contingent Term Repo Facility94がある。

また、20年3月11日、感染症拡大によるリスクの高まりを背景に開催された臨時会合において、新たな資金供給スキームとして、以前導入していたターム調達スキーム(TFS:Term Funding scheme95を強化した中小企業向け追加インセンティブ付ターム調達スキーム(TFSME:Term Funding scheme with additional incentives for Small and Medium-sized Enterprises)の導入が決定された。TFSMEは、銀行や住宅金融組合に対して適格担保と引き換えに満期10年の長期資金を提供するスキームである。TFSMEの目的は、バンク・レートの引下げによる効果を実体経済に波及させること、すなわち、バンク・レートの引下げに連動して銀行が貸出金利を引き下げ、感染症による影響で資金繰りに窮する中小企業96が円滑に資金調達を行えるようにすることである。

TFSMEにおける銀行の借入可能期間は、21年4月30日までであり、借入期間は、開始当初は4年であったが、その後、10年まで延長された。借入可能額は、19年12月末時点の英国居住の家計や民間非金融機関、ノンバンク向けの貸出残高の10%97と、20年1月から12月末までの純貸出額との合計値で算出され、中小企業向けの純貸出額は実際の純貸出額に5倍を乗じた額として算出される。借入金利は、バンク・レートを採用する。手数料は、19年12月末から20年12月末までの純貸出額が(i)プラスの場合:なし、(ii)マイナスの場合:0.05%単位で変化し最大0.25%(純貸出額が5%超のマイナスの場合)としており、貸出を増やすほど、TFSMEの利用手数料が減ることになる。

(政策効果に対する評価)

8月の政策決定会合では、TFSMEを活用した資金調達が既に200億ポンドまで達しており、来年には1,000億ポンドを上回るとし、また、企業の与信需要は企業規模にかかわらず増加していると評価した一方、個人による新規借入は家計需要の弱さを背景に、引き続き感染症拡大前を下回っているといった懸念もみられた。

(参考:適格担保)

BOEは、各種オペレーションを実行するにあたり、金融機関に適格担保を要求している。適格担保は、流動性の観点から3つに区分されており、具体的には、レベルAの適格担保はどのような市況であっても流動性が維持されると予想される資産、レベルBの適格担保は通常時において流動性があると予想される資産、レベルCの適格担保は流動性が低い資産98と定義されている(第2-2-20表)。

第2-2-20表 BOEにおける主な適格担保資産

BOEは、このように適格担保をレベル分けした上で、各オペレーションの実施に当たり要する適格担保のレベルを示しており(第2-2-21表)、また、適格担保を拡大することによっても金融緩和を行っている99 100 101

第2-2-21表 BOEにおける各オペレーションの適格担保

23 トランプ大統領は原油の大量購入について、低価格での購入は数十億ドルの節約につながるとともに、原油関連産業への支援にもなる旨を発言した。
24 民間医療保険に対し被保険者の検査費無料化を義務付けるとともに、無保険者向け公的プログラムに対し資金を拠出する。
25 アメリカ農務省は、19年12月、フードスタンプの受給要件厳格化規定を決定し、20年4月から施行される予定となっていた。
26 予算規模は、総額及び内訳ともにCBO(20年4月)による。
27 年収75,000ドル以上の個人は給付額が縮小され、年収99,000ドル以上の個人は給付対象外となる。
28 CBOは、20年9月に公表した「財政見通し改訂版(2020~2030)」において、失業手当の拡充措置による支出金額について、4月時点の推計(2,680億ドル)から1,740億ドル上方修正し、4,420億ドルとなるとの見通しを示した。
29 各対策内容の詳細は本項(2)(3)を参照。
30 労使がともに払う定率税(給与の6.2%ずつ)。社会保障費や医療費の財源となる。
31 CARES法では、雇用主及び個人事業主が支払う給与税の納税を猶予。
32 CARES法では、家賃を滞納しても120日間は延滞料の徴収を禁止し、また、期間終了後も、家主が通知して30日以内に立ち退きを要求することを禁止。
33 CARES法では、連邦機関が融資する学生ローンの支払期限を9月末まで猶予。
34 財務相と経済相は、感染症への対応として、欧州レベルで協調的かつ決定的な行動を採ることを提唱した。実際には、ドイツ政府が、欧州委員会の提案する250億ユーロ規模の「コロナ対策投資イニシアチブ」等も歓迎していることを表明した。
35 国債発行で調達する1,560億ユーロのうち、335億ユーロは税収減少の補てん分となるため、正味の補正予算の規模は1,225億ユーロとなる。
36 2008~09年の金融危機で導入された金融市場安定化基金SoFFinに対応。
37 付加価値税(VAT)率は、20年7月1日~12月31日までの間、19%から16%へ、軽減税率についても、7%から5%へ引下げ。
38 子ども一人につき300ユーロを給付。
39 再生可能エネルギー導入のための水素製造能力増強等。
40 車両価格が4万ユーロ以下の購入に際して、1台当たりの購入補助の政府負担分を3,000ユーロから6,000ユーロに引上げ。車両価格が4万ユーロ超の購入では、同負担分を2,500ユーロから5,000ユーロに引上げ。
41 例えば、4月6日、連邦政府はKfWによる新たな中小企業向けの融資プログラム(KfW-Schnellkredit 2020)を発表した。同プログラムでは、(i)対象を19年1月1日より前に営業活動を開始した従業員数が11人~250人の企業、(ii)1社当たりの与信限度額は19年の3か月分の売上高を上限とし、従業員50人超の企業は最大80万ユーロ、従業員50人以下の企業は最大50万ユーロ、(iii)利子は3%、政府保証100%、与信期間は10年と定められ、信用リスク評価は行わずに融資を受けられる。調達した資金は、資材・材料調達と運営費用に利用できる。
42 支給条件を、従業員10人以下、年間売上高100万ユーロ未満から20人以下、200万ユーロ未満に拡大。
43 このうち400億ユーロはEU復興基金からの資金を財源とし、残りの多くは21年度予算に盛り込むとしている。
44 8月31日時点、申請額は5億2,200万ポンド、延べ利用数は1億食を超えている。オープンテーブルによると、外食支援終了日の8月31日には、前年比216%増の予約がされ、8月の月~水曜日の予約件数は、前年比で平均53%増加した。7月の月~水曜日の予約件数が、前年比54%減であったことも踏まえると、外食支援は需要喚起に一定程度寄与したと考えられる。
45 10月9日、感染拡大抑制策(国や地方自治体からの休業要請等)で事業が継続できなくなった企業の従業員の給与補助を行うとして、同スキームを拡充した。また、10月22日、労働時間を短縮して働いている従業員への給与補助の制度を変更したことにより、補助を受ける対象者や企業負担額が変更となった。
46 英国では、緊急の資金の必要があり通常の議会の承認手続きでは間に合わない場合に備え、1974年緊急資金法(Contingencies Fund Act 1974)において、緊急基金(Contingencies Fund)が保有できる資金の総額を前年度に認可された支出の2%を上限と定めている。20年3月25日に成立した2020年緊急資金法(Contingencies Fund Act 2020)において、保有資金の総額を前年度に認可された支出の50%へ変更したことで、英国政府は実質2,600億ポンドまで議会に対して通知を行うだけで、緊急支出が可能となった。
47 EU加盟各国は、EUに対し自国のGDPの2%に当たる額の予備的な信用枠を申請できる。
48 Support to mitigate Unemployment Risks in an Emergency
49 21~27年度の予算は1兆ユーロ超が確保されており、その多くが各国の強靭化・災害対策強化、及びEU全体での気候変動対応、デジタルイノベーション推進に充当される計画となっている。
50 2058年末までの返済を予定。
51 融資ではなく返済不要の補助金の形式で各国に資金を配分するものとした。原資については、EU名義の下で債券を発行し金融市場から借り入れて調達した上でEUの共通予算で返済する仕組みを標榜し、この仕組みは「次世代のEU」で実現された。
52 財政規律を重視するオランダ、オーストリア、スウェーデン、デンマーク。
53 このほか、21~27年予算において、倹約4か国への「リベート」と呼ばれる拠出金の払戻しを増額したことも、合意に至った理由とされている。同払戻しについては、導入の契機を作った英国のEU離脱を機に、廃止に向けた議論も行われていた。
54 5月7日のFF金利先物市場において、FRBが20年内にマイナス政策金利を導入することを織り込む動きがみられたが、FOMC参加者はマイナス金利の導入に否定的な姿勢を示している。
55 後述(平均物価上昇率目標の導入)を参照。
56 残り4人のうち、2人は0.25~0.50%、1人は0.50~0.75%、もう1人は1.25~1.50%が適切な誘導目標範囲であるとした。
57 ただし、当該資産購入は「適切な準備預金の維持」を目的とするものであり、「金融危機後に実施された大規模資産購入プログラムと混同されるべきではない」旨が強調された。購入対象も短期国債に限定するなど、長期金利の引下げを目的としたかつての長期国債の購入とは異なるもの、と位置づけられている。
58 FRBは同日、レポ取引による短期金融市場への1.5兆ドルの資金供給を決定した。
59 資産購入の目的について、パウエル議長は記者会見において、市場機能を支えることに加え「より緩和的な金融環境を醸成することにもつながる」と発言した。
60 第2章第3節 企業の資金繰り支援策と企業の動向を参照。
61 3月19日以降、米国債については一日当たり750億ドル購入していたところ、4月2日、3日は600億ドルとし、その後徐々に額を減らした。6月9~10日のFOMC会合以降は、月800億ドルとなっている。
62 3月17日以降、翌日物については一日当たり1兆ドル(1日2回、5000億ドルずつ)実施していたところ、5月4日以降は一日当たり5000億ドル(1日1回)とした。
63 コマーシャルペーパー(CP)とは、企業が資金調達するために発行する短期の無担保約束手形。
64 7月28~29日のFOMC会合後の記者会見において、多くのファシリティの余力が使われていないとの指摘に対し、パウエル議長は、指摘を認めつつ、余力が市場の迅速な正常化に貢献し、また今後必要性が生じた場合への備えとして重要であると述べた。
65 資産担保証券(ABS)とは、各種資産の信用力やキャッシュフローを担保として発行される証券の総称で、資産を証券化したもの。
66 ただし、これはニューヨーク連銀からSPVへの融資残高を指す。
67 MMF(MMMF:Money Market Mutual Fund)とは、高利回りの短期証券(譲渡性預金、CP、米国債等)で運用される投資信託。
68 資産担保コマーシャルペーパー(ABCP:Asset-Backed Commercial Paper)とは、金銭債権を中心とした資産を裏付けとして、特別目的会社が発行するコマーシャルペーパー。
69 ドルの協調供給は08年9月(リーマンショック時)、11年11月(欧州政府債務危機時)にも実施している。
70 ドル・スワップの取り決めに適用される金利を25bp引き下げ、新たな金利を米ドル・翌日物金利スワップ(OIS)に25bp上乗せしたものとした。
71 従来毎週行っていた期間7日のドル供給を3月23日から毎日実施し、少なくとも4月末まで継続する他、期間84日のドル供給を毎週行うとした。
72 例年、3月、6月、9月、12月のFOMC会合で、参加者の経済見通しが公表されるが、20年3月会合においては、経済見通しが日々変化する中での見通しの公表は有益でないとして、公表が見送られた。
73 2012年1月より導入。例年、毎年1月のFOMC会合において最新版が公表されるが、20年1月28~29日のFOMC会合では、金融政策の見直しの最中であったことから、公表が延期されていた。
74 改定前は「最大雇用からの乖離分への評価」とされていた。
75 パウエル議長は同日開催されたジャクソンホール・シンポジウムでの講演において、「平均を定義する特定の数式に縛られない」とし、政策スタンスについて「平均物価上昇率目標の柔軟なかたち」と述べた。平均物価上昇率目標に関する詳細は内閣府(2020)を参照。
76 ただし、2%の物価上昇率目標自体は変更されなかった。
77 パウエル議長は、2019年11月13日の議会証言において、現在の経済が低金利、低物価上昇率、低成長に特徴づけられる「新常態(new normal)」に変化した、と指摘した。詳細は内閣府(2020)参照。
78 実効下限とは、預金のコスト(マイナス金利)が現金を保有するコストを上回ることで、預金者が預金を引き出して現金保有を始める政策金利水準の下限を指す概念である。内閣府(2020)参照。
79 ECBは、消費者物価指数(HICP:Harmonized Index of Consumer Prices)の前年比が中期的に2%を下回りかつ2%近傍を維持することを目指している。
80 カバードボンド購入プログラム第3弾(CBPP3:Covered Bond Purchase Programme 3)は、銀行が発行するカバードボンドの買い入れプログラムであり、14年10月から実施されていた。カバードボンドとは銀行が公共部門への貸出や住宅ローン貸出を裏付けとして発行する債券であり、通常の社債よりも安全性は高いと考えられている。なお、これ以前にもCBPP1が09年7月から10年6月まで、CBPP2が11年11月から12年10月まで実施されているが、これらはCBPP3と比べ規模ははるかに小さく、目標額は第1弾で総額600億ユーロ、第2弾で同400億ユーロであった。
81 資産担保証券購入プログラム(ABSPP:Asset-Backed Securities Purchase Programme)は、住宅ローンや自動車ローン等の銀行貸出を証券化したABSの買い入れプログラムであり、14年11月から実施されていた。
82 16年8月に導入された企業部門購入プログラム(CSPP:Corporate Sector Purchase Programme)は、ドイツ、フランス、イタリア、スペイン、ベルギー、フィンランドの中央銀行がユーロ圏の企業が発行する社債を購入するプログラムであり、購入する社債の満期は最低6か月から最長31年とされている。
83 APPは、緩和的な政策を強化する上で必要と判断される限り維持し、最初の利上げの直前で終了することとされている。
84 主要リファイナンス・オペ金利は、市中銀行がECBから1週間、資金を借り入れる際に適用される金利である。
85 限界貸出ファシリティ金利は、市中銀行がECBから翌日物で資金を借り入れる際に適用される金利である。
86 預金ファシリティ金利は、市中銀行がECBに余剰資金を預け入れる際に適用される金利である。
87 操作金利目標は、欧州マネー・マーケット協会(EMMI:European Money Markets Institute)が算出・公表しているユーロ圏の銀行間取引で利用される翌日物金利(EONIA)である。
88 同フレームワークの資産購入への適用については、ECBは資産購入にあたり、購入対象となる資産の条件として、主要格付機関4社(DBRS MorningstarFitchRatingsMoody’sStandard&Poor’s)による格付のうち、最低1社から第2-2-14表が示すSTEP3以上を満たすことを条件としている。なお、ABSに関しては原則として第2-2-14表のSTEP2以上の格付が求められる。ただし、2番目に高い格付がBBB以上であれば、適格担保条件を満たすとしている。
89 資産購入残高が上限に達した場合、満期到来分を再投資するのみとし残高は減らさないこととされている。
90 購入する社債は主要格付機関のうち最低1社から投資適格級の格付が得られている必要がある。
91 追加購入枠の内訳に関して、3月19日に公表された声明では「増額された購入枠の多くは英国債の購入に充てる」とし、発表されなかったが、4月2日に社債購入枠の上限をこれまでの100億ポンドから200億ポンドまで拡大することが発表された。
92 住宅金融組合とは、住宅購入資金を相互に融通しあうことを目的に設立された相互組織の金融機関であり、金融サービス、特に貯蓄と住宅ローンを提供している。
93 投資適格級以上とは、短期ではA-3/P-3/F-3/R-3、長期ではBBB-/Baa3/BBB-/BBB以上の格付を指す。また、格付の評価日は20年3月1日時点であり、3月1日以降に格下げされたとしてもCCFFの参加要件は満たす。一方、企業が複数の格付機関から格付を受けている場合、そのうち1社からでも投資適格級を下回った場合、CCFFの対象外となる。
94 緊急ターム・レポ・ファシリティとは、市況やその他の要因で必要と判断された場合に導入される非常設のファシリティである。20年3月24日、BOEは銀行の資金需要に対応するため、緊急流動性ファシリティとして発動、6月30日に一定の効果を果たしたとして終了した。
95 TFSとは、市中銀行及びビルディング・ソサイエティの企業や家計に対する貸出の促進を目的としたスキームである。16年8月に開始され、BOEが市中銀行に対してバンク・レートに近い低水準の金利で適格担保と引き換えに貸し出すことにより、市中銀行の資金調達コストを削減し、貸出を促進させることを目的としたものであったが、18年2月に新規貸出は停止されている。
96 ここでの中小企業の定義は年間売上高が2,500万ポンド未満の企業を指す。
97 TFSは同5%。
98 適格担保に対する主要格付機関の格付は、レベルCの適格担保であってもA3/A-以上。
99 窓口借入ファシリティとは、市中銀行が担保資産と引き換えに国債(場合によっては現金)といった流動性の高い資産を借り入れる手段である。
100 インデックス長期レポ・オペとは、流動性が低い担保資産と引き換えに、BOEの準備金を6か月借り入れる手段である。
101 オペレーショナル・スタンディング・ファシリティとは、中央銀行が市中銀行からの申込みを受け、短期間、あらかじめ決められた金利により資金の貸付や預金受入を行う制度である。BOEでは、上限金利をバンク・レート+0.25%、下限金利をバンク・レート-0.10%に設定している。

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