第2章 主要地域の経済動向と構造変化(第5節)

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第5節 2017年以降の国際金融市場・商品先物市場の動向1

1.国際金融市場の動向

(1)株式市場

17年半ばまでの主要国の株価について確認する(第2-5-1図)。アメリカ及び欧州(英国及びドイツ)では、アメリカの新政権の経済政策への期待への高まり等から、上昇基調となる局面もあり、過去最高値圏での水準で推移している。また、中国では経済新区(雄安新区)の計画等といった好材料があった一方で、金融当局による規制強化懸念等が意識される局面もみられたが、足元では持ち直している。

第2-5-1図 主要国の株式市場
第2-5-1図 主要国の株式市場

(2)債券市場

次に17年半ばまでの債券市場について確認する(第2-5-2図)。アメリカでは、同年3月及び6月のFOMC前の利上げ観測等から上昇していた金利は、FOMC後には利上げペースが加速されないとの見方もあり低下に転じ、金利は緩やかな低下基調となっている。また、欧州(英国及びドイツ)では、ECBが金融緩和を急がないとの見方もあり、金利は低下傾向となった。

第2-5-2図 主要国の債券市場(10年物国債金利)
第2-5-2図 主要国の債券市場(10年物国債金利)

(3)為替市場

17年半ばまでの為替市場について確認する(第2-5-3図)。ユーロについては、大きな動きはみられず、同年3月のオランダ及び4月のフランスでの選挙動向等が意識される中で、ユーロ高が進んだ。一方で、ポンドについては、6月の英国総選挙の結果、ポンド安が進む展開となった。円については、一時買われる局面もあったが、アメリカの利上げ期待等を受けて、売り戻されている。

第2-5-3図 対ドル為替レートの推移
第2-5-3図 対ドル為替レートの推移

2.商品先物市場の動向

(1)原油先物市場

17年半ばまでの原油先物市場について確認する(第2-5-4図)。16年11月のOPEC総会による原油の協調減産が合意2された後、原油価格は上昇し、17年以降も協調減産が順調に実施されているとの見方から、原油価格は堅調に推移していた。しかしながら、OPEC加盟国等が原油生産量を減少させる一方で、安定した原油価格を背景にアメリカの原油生産量が増加していることなどから、協調減産が世界的に増加傾向にある原油在庫を調整できていないとの見方もあり、原油価格は下落傾向をみせ始めた。なお、この価格下落の背景には、16年末から投機筋の買建玉がやや増加する一方で売建玉が大きく減少したことから買い圧力が高まっていたが、17年3月には両建玉の動きが反転し、売り圧力が高まった状況が確認できる(第2-5-5図)。その後、大きく下落した原油価格は、一時は持ち直す局面もみられたが、17年5月25日に開催されたOPEC総会等においてOPEC加盟国及び非加盟国による原油の協調減産の期限延長の決定内容(詳細はコラム「17年以降の原油市場の動向」を参照)に、市場が期待していた原油減産量の拡大がなかったこともあり、原油価格は下落基調をたどっている。

第2-5-4図 原油先物市場
第2-5-4図 原油先物市場
第2-5-5図 原油先物市場の投機筋の動き
第2-5-5図 原油先物市場の投機筋の動き

コラム2-5:2017年の新興国における資金流出入や株式・債券市場の動き

16年11月に実施されたアメリカ大統領選挙の結果、トランプ氏がアメリカ合衆国大統領に就任することが決まり、同大統領による税制改革やインフラ投資といった経済政策への期待等から、アメリカの金融市場を中心に、株高、金利高及びドル高が急激に進む状況がみられた。このような状況を背景として、債券を中心に新興国からの資金流出がみられたが、17年に入ると次第に落ち着きがみられ始め、再び新興国へ資金が流入する状況に戻ってきている(図1)。17年3月のFOMCでは、政策金利であるフェデラルファンド金利の誘導目標水準が0.25%ポイント引き上げられたが、今後の利上げペースしだいでは、新興国への資金流入が続く可能性もあるとみられる。(注1)

(注1)17年6月のFOMCにおいても政策金利が引き上げられたが、図1で用いたIIFのデータが5月推計値までであるため、6月以降の新興国への資金流出入は明らかでない。

図1 新興国への資金流出入
コラム2-5 図1 新興国への資金流出入

コラム2-6:2017年以降の原油市場の動向

2016年11月30日、オーストリアのウィーンにおいて第171回OPEC総会が開かれ、8年ぶりに原油の協調減産について合意が行われた。その合意内容としては、OPEC全体の生産量の日量を16年10月の約3,370万バレルに対して、約120万バレル引き下げ、3,250万バレルとしたうえで(注1)、OPECの加盟国別に減産量が割り当てられた(イランを除き4.6%前後の減産)。また、減産期間は17年1月から6か月間とされ、さらに市場の状況や見通しを踏まえ半年延長するかを検討することとされた。その後、16年12月10日に開かれたOPEC及びロシアなどOPEC非加盟国との会合において、ロシアを含む非加盟国全体で日量55.8万バレルの減産を行うことが合意された。本コラムでは、17年から実施されている協調減産の進捗に加え、協調減産の中で増加傾向となっているアメリカの原油生産状況、さらに最近、新たに合意された協調減産の延長について整理していく。

(1)OPEC加盟国の協調減産の進捗

17年1月からの協調減産については、おおむね順調に進んでいるとみられる。OPEC加盟国全体で見ると、16年10月に1日当たり約3,402万バレル(注2)であった原油生産量は、17年4月には1日当たり約3,178万バレルにまで減少している。このため、OPEC総会で合意された1日当たりの原油生産量である3,250万バレルを既に下回る原油減産量となっており、協調減産については順調に進んでいることが確認できる(図1)。また、OPECの主要産油国6か国の原油の減産状況についてみると(図2)、17年4月時点では、原油の協調減産の対象外となったイランを除き、協調減産達成の基準となる4.6%前後の減産を実現しているとみられ、この点からも協調減産はおおむね順調に進んでいるとみられる。

図1 OPEC加盟国の原油生産量の推移
コラム2-6 図1 OPEC加盟国の原油生産量の推移
表2 OPECの主要産油国6か国における協調減産の進捗
コラム2-6 表2 OPECの主要産油国6か国における協調減産の進捗

(2)アメリカの原油生産状況

一方で、協調減産に伴い安定してきた原油価格を背景として、アメリカの原油生産量は増加している(図3)。このアメリカの原油生産量の増加については、16年半ばより持ち直してきたシェール部門の回復に加え、シェール部門以外の生産量の増加もみられることから、シェールオイル以外の原油生産地域における開発が進展した結果、17年入り後に原油生産量に反映されてきたことも考えられる(図4)。シェール部門においても、16年半ばより、シェールオイル生産の動向を捉える指標の一つであるリグ稼働数は上昇し続けており(図5)、原油価格が堅調に推移する限り、今後もシェールオイル生産量は堅調に増加していくことが予想される。このような状況から、世界の原油生産量に占めるアメリカのシェアが高まってきており(図6)、OPECの協調減産が延長されOPEC加盟国等の原油生産が抑制される傾向にある中で、アメリカの原油生産の動向は、以前にも増して世界の原油需給にも大きな影響を与えることになると考えられる。

図3 アメリカの原油生産量の推移
コラム2-6 図3 アメリカの原油生産量の推移
図4 アメリカの原油生産量の推移
コラム2-6 図4 アメリカの原油生産量の推移
図5 リグ稼働数
コラム2-6 図5 リグ稼働数
図6 アメリカ及びOPECにおける原油生産量シェアの変化
コラム2-6 図6 アメリカ及びOPECにおける原油生産量シェアの変化

(3)協調減産の延長

17年1月からの協調減産については、おおむね順調に進んでいる一方、安定した原油価格を背景として、アメリカの原油生産量が増加していることから、世界の原油生産量は、16年10月に比べると17年以降は小幅な減少にとどまっている(図7)。そのため、原油価格については、協調減産がおおむね順調に進んでいる効果もあり、16年に比べ安定して推移していると言えるが、アメリカの原油生産量が増加していることから、その上値は限定的となっている(第2-5-4図)。また、原油在庫についてみると、OECD及びアメリカともに在庫水準は17年以降も増加しており、協調減産による在庫水準の減少はそれほどみられていない(図8)。このため、アメリカの週間在庫統計(アメリカ石油協会及びアメリカ・エネルギー省がそれぞれ毎週1回公表)等で原油在庫が増加したとの報道があると、原油価格が急落する場面も見られた。17年1月以降の協調減産が16年に比べ原油価格の安定をもたらすことにある程度成功したと考えられる一方、OPEC加盟国や非加盟国にとっては、アメリカの原油生産量が増加し、世界的に過剰と言われる原油在庫の調整が進んでいないことに加え、原油価格が軟調となる局面もみられ始めたことから、協調減産延長の動きが強まっていた。このような状況の下、17年5月25日に開催された第172回OPEC総会・第2回OPEC及び非OPEC閣僚会合において、17年1月から6か月間実施されている原油生産量の協調減産について、さらに9か月間の延長が決定された(新たな協調減産措置の期限は18年3月末)。

図7 世界の原油生産量の推移
コラム2-6 図7 世界の原油生産量の推移
図8 OECD及びアメリカの原油在庫
コラム2-6 図8 OECD及びアメリカの原油在庫

(4)原油需給・原油先物価格の見通し

協調減産が18年3月末まで延長されることで、世界の原油生産量の増加に対しては、ある程度の抑制が働くとみられる。しかしながら、シェールオイル等のアメリカの原油生産量が増加基調にある中、世界的に過剰に積み上がった原油在庫の調整がある程度進展しない限り、短期的にみると原油価格の上値は抑えられる可能性が高いと考えられる。一方で、中長期的にみると、世界の原油需給については、インドや中国等の経済成長による原油需要の高まりに伴い、需給が引き締まり、原油価格も上昇していくとみられている(図9、図10)。

図9 世界の原油需給の見通し
コラム2-6 図9 世界の原油需給の見通し
表10 国際機関等による原油価格(WTI)の見通し
コラム2-6 表10 国際機関等による原油価格(WTI)の見通し

(注1)政情不安で生産が落ち込むナイジェリアとリビアは減産対象から除外され、アメリカ及び欧州による経済制裁前の原油生産量への回復を目指すイランは特例措置が認められた。また、インドネシアは減産に参加せずにOPECへの加盟が一時停止となった。

(注2)本文では、OPEC全体の生産量の日量を16年10月に約3,370万バレルと説明しているが、図1では、本コラムにおいて世界全体及びアメリカの原油生産量との比較を行うために、データ引用元を国際機関であるIEAのデータを使用していることから若干生産量の日量が異なる。


1 本節は、17年6月26日時点の内容となっている。
2 協調減産の期間は17年1月から6か月間。なお、16年12月10日には、ロシアを含むOPEC非加盟国との間でも原油の協調減産について合意された。

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