第2章 世界経済が直面する主なリスク(第3節)
第3節 英国のEU離脱問題:世界経済の新たなリスク
2016年6月23日、英国において同国のEU残留・離脱を問う国民投票が行われた。結果は、離脱支持が52%、残留支持が48%となり、英国はEUを離脱する方向となった。直後の金融市場は世界的な株価下落とポンドやユーロの下落を中心とした為替の変動に見舞われたが、その後落ち着きを取り戻した。ただし、現段階では、英国の離脱に向けた具体的な道筋や、離脱後の英国とEUの新たな経済関係は見えておらず、不確実性の高まりが英国経済及び世界経済に与える影響が懸念されている。
また、今回の英国での選択の背景にはグローバル化の進展に対する英国国民の不安の高まりがあると言われている。グローバル化のメリットを生かしながら成長してきた英国での出来事をきっかけに、国境を越えた自由な貿易・投資や人の移動などを通じて経済成長を追求するという世界経済の枠組みに対する懐疑的な見方が広がることが懸念される。本節では、英国での国民投票の結果が英国及び世界経済に与える影響について検討を行う。
1.国民投票での離脱の選択と不確実性の高まり
(1)国民投票の結果を受けた国際金融市場の変動
投票日直前及び投票日に行われたいくつかの世論調査の結果では残留支持が優勢となっていた。そのため、現地時間6月24日早朝(日本時間同日昼)にかけて行われた開票作業で離脱支持が大勢を占めることが明らかになるに従い1、世界的にリスク回避の動きが急速に広がり、株価は世界的に下落、通貨はポンド、ユーロを中心に大幅に下落した(第2-3-1図、第2-3-2図)。
このような状況を受け、BOE(イングランド銀行)総裁、G7財務大臣・中央銀行総裁、ECB(欧州中央銀行)、FRB(連邦準備制度理事会)、日本の財務大臣・日本銀行総裁等が声明を発表するなど、各国政府等は直ちに協力体制を確認した。一方、英国のキャメロン首相は24日に辞意を表明、EU理事会に対する離脱の意思の通知を次期首相に委ねる方針を明らかにし、翌週開催されたEU首脳会議でその方針が受け入れられたことから、英国とEUの関係は当面現状が維持されることになった。
その後、国際金融市場は落ち着きを取り戻した。英国の株価(FTSE100指数)は、ポンド安を受けた輸出関連株の上昇や、BOEのカーニー総裁による金融緩和を示唆する発言(6月30日)等を受けて反発し、国民投票前の水準を回復した。また、金融市場の不安心理の高まりを反映するシカゴ・オプション取引所のVIX指数は投票結果を受けて一時的に上昇したものの、その後低下した(前節第2-1-4図)。さらに、アメリカの銀行間取引金利とアメリカの短期国債金利の差を示すTEDスプレッドも落ち着いた動きで推移するなど、世界金融危機等の過去の金融危機と比較すると、市場の変動はこれまでのところ小規模なものにとどまっている(第2-3-3図)。
(2)不確実性の高まりによる経済的影響
今回の英国国民投票立法(European Union Referendum Act 2015)には、その結果の取扱に関する定めは設けられておらず、法的には単なる参考意見に過ぎないと解釈されている2。そのため、離脱の意思の通知に向けた英国の国内手続きや通知のタイミングは現時点では決まっていない。また、EU条約によれば英国のEU離脱は第2-3-4表のように進むことになるが、これまでに前例のないプロセスであり、不透明な部分も多い。このように、(1)離脱の通知に向けた英国国内での手続きやEU理事会への通知のタイミング、(2)英国とEUの離脱交渉の動向(英国とEUの将来的な関係にどこまで踏み込むかを含む)、(3)離脱後の英国とEUの経済関係、(4)離脱後の英国とEU以外の各国との経済関係等、不確定要素は多岐にわたっている3。最初に、このような不確実性の高まりによる影響について検討を行う。
英国経済への影響に関しては、第一に、先行き不透明感の高まりにより、家計や企業の活動が慎重化する可能性がある。英国では、実質経済成長率(前期比)が13年1~3月期以降プラスで推移するなど、個人消費にけん引されながら景気回復が続いていた。失業率が05年以来の水準まで低下するなど、雇用・所得環境の改善も続いていたことから、国民投票前の段階では引き続き景気回復が続くと見込まれていた。ただし、設備投資は15年10~12月期以降2四半期期連続で減少するなど、国民投票を控えて企業部門には慎重さがみられるようになっていた(第2-3-5図)。
BOEは8月4日、国民投票後、企業を中心に景況感の悪化等がみられるとし、政策金利の引き下げや資産買入れ枠の拡大等を内容とする追加金融緩和策を発表した4。これまでの好調な経済状況と先行きの景気悪化懸念に直面し、BOEは難しい政策対応を迫られることになる(BOEの政策金利、マネタリーベースの推移は第1-3-1図参照)。例えば、ポンド安による輸入物価の上昇を通じ、想定を上回ってインフレが加速した場合は金融引き締めを強いられる可能性もある。財政政策によって景気を下支えする方法も考えられるが、英国の財政状況や5、今後EU離脱に向けて景気が減速した場合は税収が減少する可能性があることにかんがみれば、財政出動の余地は必ずしも大きくないとみることもできる(第2-3-6図)。
第二に、世界から英国への資金の流れが変化し、英国の実体経済に影響を及ぼす可能性がある。英国の経常収支赤字のGDP比はG7諸国の中で最も大きく、近年は5%を超えている(第2-3-8図)。この赤字は他国からの短期・長期の資金の流入によりファイナンスされているが、英国経済の将来見通しが悪化することで、そのような資金が急速に減少する可能性がある。
海外からの投資資金の一部は不動産市場に流入しており、ロンドンを中心とした不動産価格の上昇にも寄与してきたと考えられる(第2-3-9図)6。足下ではポンド安の機会をとらえた海外からの投資資金の流入と将来の価格低下を示唆する動きが入り混じった状況7がみられるが、今後成長見通しの悪化とともに海外からの投資が減少し、不動産価格の大幅な下落が起こった場合、金融システムや実体経済に影響が及ぶ可能性がある。
英国のEU離脱問題に伴う不確実性の高まりは、EU経済全体にも影響を及ぼす可能性がある。ユーロ圏経済は実質経済成長率が13年第2四半期以降プラスで推移するなど、緩やかな回復を続けているものの、アメリカや英国と比較すると回復の勢いは弱い(第2-3-10図)。今回の英国での投票結果を受け、英国以外のEU諸国においても企業や家計のマインド悪化の兆しがみられている。また、英国経済が減速した場合は、貿易・投資を通じてEU経済全体にその影響が波及することにもなる(章末参考参照)。
加えて、一部のEU諸国においては、景気が減速することで金融機関の抱える脆弱性が顕在化する可能性があることに注意が必要である。16年2月にはあるドイツの主要銀行の債券利払いが滞るとの不安から、欧州の金融市場が大きく変動する局面があった8。また、南欧諸国では銀行の不良債権処理が依然として進んでいない(第2-3-11図)。英国の国民投票後には、これらの銀行の株価の下落やCDSプレミアムの上昇がみられた9。
各国経済が下振れリスクに直面する中、EUの共通政策により各国に課されている各種の制約が認識されやすい状況が生まれている。金融システムに関しては、EUでは、16年1月より、加盟国政府が銀行再生・破たん処理を行う際には株主や債権保有者に損失の一部を負担させるルールを導入しており、このことが各国政府による不良債権処理を困難にしているとの指摘がある10。マクロ政策面では、ECBがマイナス金利政策や量的緩和政策等の非伝統的な金融政策を導入する中、マイナス金利が金融機関の収益を圧迫しているとの指摘もある。財政政策面では、財政安定化・成長協定によって各国の財政赤字や政府債務残高の数値的な上限が定められており、各国政府による政策対応に制約が課されている。スペインとポルトガルは欧州委員会によって財政基準違反を指摘された11。また、EU域内の移民の増加に伴う摩擦は各国でみられており、EU域外からの難民受け入れ問題と合わせ、EU加盟各国は難しい対応を迫られている。
EUの共通政策は各国の政策に規律と信頼を与えるとともに、欧州統合という大きな目標に向けた歩みを進めるプロセスでもある。一方、共通政策と各国固有の事情に即した政策のバランスが崩れることにより、EU統合に対する懐疑論の高まりを通じて欧州経済が不安定化するリスクもある。英国のEU離脱に向けた議論が進む中、17年にかけてEU各国においても主要な政治イベントが予定されていることから、欧州全体の動向を注視していく必要がある(第2-3-12表)。
さらに、英国を発端とする不確実性の高まりが世界経済全体に波及していく可能性も考えられる。世界の主要国の英国向け輸出比率(輸出総額比及びGDP比)はそれほど大きくないことから、貿易を通じた直接的な影響は限定的であると考えられる(第2-3-13図)。しかしながら、世界経済に弱さがみられる中、金融資本市場の変動や不確実性の高まりが各国の景気を下押しする可能性には十分な注意が必要である。
主要国のうち、アメリカでは、ISM(サプライマネジメント協会)が英国国民投票の直後に実施した緊急調査において、英国のEU離脱問題が16年後半の企業業績に与える影響は限定的との見方が示されたものの、為替変動を通じた影響に対しては警戒感が示された(第2-3-14図)。
日本経済に関しても、金融資本市場のリスク回避に伴う円高方向の動きが再び生じた場合、それが企業の収益や家計マインドに影響を与えることが懸念される。また、英国経済だけでなく世界経済全体が減速するような場合には、日本の輸出も押し下げられる可能性がある。加えて、英国に進出している日本企業への影響も懸念される。
EU離脱問題に伴う先行き不透明感の高まりによる影響から、英国経済は今後回復が緩やかになることが見込まれる。IMFが国民投票後(7月19日)に公表した世界経済見通しでは、17年の英国の実質経済成長率が、前回(4月公表)の2.2%から1.3%へと下方修正された。17年の世界全体の成長率は3.5%から3.4%へと若干の下方修正となっているが、金融資本市場の不安定さが拡大し、金融環境の引き締まりやマインドの悪化が一層進むことにより、同年の世界全体の成長率が2.8%へと低下する「深刻シナリオ」も提示された(第2-3-15表)。同じく7月19日に欧州委員会が公表した経済見通しでは、17年の英国の実質経済成長率が前回(5月公表)の1.9%から▲0.3~1.1%に、ユーロ圏が前回(5月公表)の1.7%から1.3~1.5%へと下方修正された。その他の各種機関も不確実性の高まりが英国を中心に景気を下押しするとの試算を公表している(章末参考参照)12。
2.国民投票に至った背景と離脱による長期的影響
(1)今回の国民投票の背景
前述のとおり、近年の英国経済は比較的順調な回復を続けていた。14年、15年にはG7の中でトップクラスの実質経済成長率を記録し、経済規模(ドル換算)は14年以降フランスを上回り、世界第5位となっていた。失業率は世界金融危機以前の水準まで低下し、依然として高い水準にある他の多くのEU諸国とは一線を画している(第2-3-16図)。
近年の英国経済の回復の特徴として、以下を指摘することができる。第一に、生産性の伸びが停滞する中、労働投入の増加が成長を下支えしており、外国人労働者の増加がその一部を構成した。英国には従来から旧植民地諸国等から多くの移民が流入していたが、04年のEU拡大を受け、ポーランド、ルーマニア等の東欧諸国からの移民の流入が急増した13。英国政府は08年にEU域外からの移民を技能レベルによって5段階に階層化する制度を導入し(第3章)、移民流入の抑制を図ったが、14、15年の移民流入者数は年60万人(人口の約1%)を超えて推移した(第2-3-17図、第2-3-18図、第2-3-19図)14。外国人労働者が全雇用者数に占める割合も急増し、16年には11.3%に達している(第2-3-20図)。OECD (2016)は、14年、15年の英国の実質経済成長率の約3分の1が外国人労働者数の増加によるものであったと分析している(第2-3-21図)。英国への外国人労働者流入者数や総人口に占める割合は他のEU主要国と比較しても高水準となっている(第2-3-22図)。
第二に、海外からの直接投資の流入が続いている。英国は従来から積極的に対内直接投資を受け入れており、その残高のGDP比はG7中最大となっている(第2-3-23図)。海外からの投資の大きな部分は金融業等のサービス部門に向かっており、多様な人材の集積と相まって、ロンドンの国際金融センターとしての地位を一層強固なものにすることに貢献したとみられる。また、製造業の投資は地方における雇用の創出や輸出の増加にも寄与してきた。政府による法人税率の引き下げも直接投資の流入を後押ししたと考えられる(第2-3-24図)。以上からは、英国経済がグローバル化のメリットを最大限に生かしながら成長してきたことがみてとれる。
一方で、急速に増加する移民に対する英国国民の懸念は年々高まっていった15。失業率の全国的な低下にも関わらず、地方中小都市を中心に、移民に仕事を奪われるとの懸念が拡大したと言われている。加えて、EU統合の深化により国家主権が次第に失われているとの認識の高まりや16、EU主導で導入される規制がビジネスの障害になっているとの意識、EUへの拠出金17やEUの複雑な官僚機構に対する不満等が英国におけるEUに対する懐疑的な見方の拡大につながったと言われている。
キャメロン首相はEU残留・離脱を問う国民投票を17年末までに行うとの公約を掲げ、15年の総選挙に勝利するとともに、16年2月にはEU側との交渉により、移民の扱い等に関して英国を特例扱いするとの合意を引き出した18。しかしながら、国民投票前の各種調査によれば、ロンドンなどの大都市部の住民、若年層、比較的所得の高い層、そして英国からの独立を目指すスコットランド地域の住民19等の多くがEU残留を支持する一方、地方中小都市の住民、高齢者、比較的所得の低い層の多くが離脱を支持するという傾向は変わらなかった(第2-3-26図)。実際の投票結果からも、平均所得の低い投票区ほど離脱に投票した人の割合が高かったとの分析結果が示されている20。
(2)英国のEU離脱に伴う長期的影響
次に、英国のEUからの離脱に伴う長期的な影響について検討を行う。
EU条約では、欧州単一市場を支える最も基本的な原則として、(1)関税や数量制限等の禁止、税関検査や原産地証明等の廃止、非関税障壁の撤廃に向けた取組等を通じた「物の移動の自由」、(2)労働者や市民の移動や居住の自由、社会保障制度へのアクセスを認める「人の移動の自由」、(3)他の加盟国内での開業やサービスの提供を自由にする「サービスの移動の自由」、(4)直接投資、不動産投資、株式等の売買、借入れ等を自由にする「資本の移動の自由」の、いわゆる「4つの自由」が保障されている。加盟国がEUから離脱した場合、これらの自由に制限が課されることになる。一方で、拠出金を含むEU加盟国としての義務は課されなくなると共に、EUとしての意思決定への参加ができなくなる。英国の場合、共通通貨ユーロや、国境検査を免除するシェンゲン条約に不参加である他、拠出金についても一部還付の特例が認められているなど、これまでも特別な位置付けでの加盟であったが、実際にEUを離脱することによってどのような影響が生じると考えられるであろうか。
第一に、英国とEUとの間の貿易・投資に関税や通関コストが生じることによる影響が考えられる21。離脱による影響の程度は、英国とEUの間の新たな経済関係がどのようなものになるかによって異なったものとなる(第2-3-27表)。
既存の経済協定を参考にすると、EUとの間でEEA(欧州経済領域)を形成しているノルウェー等の場合、農・漁産物の一部を除き関税が撤廃されており、貿易上はEU加盟国に近い扱いとなっている。しかしながら、EEAの場合、EUとの間での人の移動の自由を認めるとともに、EUへの拠出金の支払いが課されるなど、今回の英国の離脱の選択の原因となった要素が含まれる内容となっている。
人の移動を含まない協定の例としてはカナダEU CETA(包括的経済貿易協定)がある。CETAでは一部の農産品等を除き、関税は原則撤廃されることになっている22。ただし、CETAでは英国の関心の高いサービス分野の自由化は部分的なものとなっている。また、同協定は09年に交渉開始し、14年に合意したものの、EU各国による批准が完了しておらず、依然として発効していない。CETAや、多数の個別協定の積み上げにより構成されるEUとスイスの経済協定と類似の協定を目指す場合、実現までに長い期間がかかる可能性がある点に注意が必要である。
離脱時点で英・EU間に新たな経済協定が結ばれていなかった場合、英国からEUへの輸出にはWTO原則に基づく一般的最恵国関税23が課されることになる可能性がある。EUの平均最恵国関税率は5.3%となっており、日本(4.2%)やアメリカ(3.5%)と比較して高くなっている(第2-3-28図)。英国からEU向けの主力輸出品に現在のEUの一般的最恵国関税率を当てはめた場合、鉱物性燃料類に最大8.0%、自動車に9.7%といった関税が課されることになる(第2-3-29図)。
加えて、これまでEUが世界各国との間で締結してきた自由貿易協定24等が離脱後の英国には適用されなくなり、英国とこれらの国々の間の貿易についても、関税率の上昇、非関税障壁の復活等が起こる可能性がある25。関税率の引下げ、各種の非関税障壁の撤廃、その他の市場アクセス措置の改善等、貿易・投資の自由化に向けて長い時間をかけて実現されてきた措置が失われることは世界経済にとっても大きな損失である。
第二に、サービス業への影響が考えられる。英国ではサービス業が経済成長をけん引しており、そのうち金融・保険業のGDP比はG7で最も高い7.1%に達している(第2-3-30図、第2-3-31図)。特にロンドンは80年代の「ビッグバン」以降26、ヨーロッパ随一の金融業及び関連サービス業の集積地としての地位を確固たるものとした。金融サービスの専門家2千人以上へのアンケート等を基に集計された金融センターの競争力に関する調査(16年3月公表)では、ロンドンが前年に続きニューヨークを抑え世界第1位となる一方、フランクフルトの世界ランキングは前年の第14位から第18位に低下した(第2-3-32表)。個別項目でみても、ロンドンはビジネス環境、金融部門の発展度、インフラ、人的資本、評判の全てにおいて世界第1位に評価された。多様な金融取引が行われているという面や(第2-3-33図)、グローバル企業の本社の集積状況からもロンドンはヨーロッパにおける企業活動の中心地であることがわかる(第2-3-34表)。
英国のEU離脱により、(1)いわゆる「EU金融パスポート」制度が英国に適用されなくなり、英国のみに拠点を置く金融機関がEU内で営業を行うことができなくなった場合、そのような金融機関は英国拠点の一部機能を他のEU加盟国に移転する必要が生じるほか、(2)英国においてユーロ建て金融商品の決済業務を行うことができなくなった場合、金融機関の拠点の多くが他のEU加盟国に移転する必要が生じるなど27、ロンドンの金融センターとしての機能が低下する可能性がある。
第三に、英国経済の成長を支えてきた海外からの人材の流入が減少することにより、英国経済の成長力が損なわれる可能性がある。英国政府は高度人材については引き続き積極的に受け入れるものとみられるが、それ以外の労働者の扱いを含め、今後の方針を早急に明らかにする必要がある。
英国経済の成長力の低下の影響は、英国との貿易・投資を通じて、EU経済、さらには世界経済に波及する。加えて、英国のEU離脱をきっかけに、自由かつ活発な貿易・投資等の流れが弱まることにより、世界経済全体の長期的な成長にもマイナスの影響が及ぶことも懸念される。
英国のEU離脱による貿易・投資等を通じた長期的影響について、国際機関等はマイナスの影響を予測している(章末参考参照)。そのような影響をできるだけ小さくするように英国とEUの間の協議が進むことが期待される。
(3)自由貿易や構造改革の推進に向け各国間の一層の協力が必要
今回の国民投票の結果は、グローバル化を通じた経済成長のメリットが国民全般に共有されていないという意味で、世界各国に共通の課題を投げかけているとみることもできる。英国とその他のEU諸国は知恵を出し合い、世界経済の成長に資する新たな経済関係の構築を目指すべきである。さらに、EU以外の国々を含め、主要国が協調して自由主義経済体制をより一層強固なものとしていくよう努力を続けていくことが重要である。