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3.アジア経済

(1)景気の拡大テンポが緩やかになる中国経済

12年以降、中国の実質経済成長率は前年比8%を割り込み、14年1~3月期は同7.4%と6四半期ぶりの低い伸びになった(第1-2-3-1図)。

景気の拡大テンポが緩やかになっている背景の一つとしては、中国政府が雇用確保を前提としつつも、中長期的な安定成長のため、金融リスクの管理強化を含む構造改革に取り組んでいることなどが挙げられる。

こうした中、金融市場に不安定性がみられるなど、先行きをめぐるリスクもみられている。以下では、中国経済の現状について、マクロ経済運営の状況等を踏まえて概観する。

第1-2-3-1図 実質経済成長率:14年1~3月期は7.4%まで低下
(i)構造改革も重視する経済運営

13年3月に正式に発足した習近平指導部は、経済の持続的で健全な発展を目指し、経済構造の転換等を重視しており、13年11月の三中全会1別ウィンドウで開きます においては、市場に資源配分の決定的な役割をゆだねるなど、改革方針の決定を行った。

この方針の下、14年3月の全国人民代表大会2別ウィンドウで開きます(以下、「全人代」という。)においても、最優先課題を重要分野(金融制度等)の改革と定め、14年の成長目標を前年比7.5%前後と設定した。政府はこの目標値について、経済構造の調整・最適化と雇用確保のための合理的な成長率と説明した。また短期的には、経済の安定成長のために、政策の事前調整あるいは微調整を適時、適切に実施するとした(第1-2-3-2表)。

第1-2-3-2表 14年全人代での主な決定内容
(ii)景気は内外需ともに緩やかに

景気の拡大テンポが緩やかになっていることは、多くの指標にも表れている。PMI等の景気動向指標やいわゆる「李克強指数3別ウィンドウで開きます」の試算例等からも確認できる(前掲第1-1-3-16図、第1-2-3-3図)。

第1-2-3-3図 李克強指数(試算例):13年秋以降、緩やかに

また、需要項目別にみても、14年に入ると内外需ともに伸びが低下している。特に内需鈍化の背景には、過剰生産能力の廃棄等の構造調整策が強化されていること、大型の景気対策が行われていないこと、指導部の倹約令により高額消費が抑制されていることなどがある。

特に景気対策について、李克強総理は14年4月上旬に発言し、経済成長率の一時的な振れに応じての短期的で強力な刺激策は採用せず、中長期的に持続的で健全な発展に重点を置くとした。今後もマクロ経済運営は、成長率を合理的な範囲4別ウィンドウで開きます に収めるための微調整的なものになると考えられ、すなわち、景気の大幅な悪化は回避する一方、構造改革や金融リスク管理による多少の景気減速は甘受するとみられる(第1-2-3-4表)。

第1-2-3-4表 14年以降の主な政策対応:微調整的な内容にとどまる5別ウィンドウで開きます

以下では、主な需要項目である投資、消費、輸出入の動向について、詳細にみることとする。

(ア)投資:伸びが鈍化

固定資産投資の伸び6別ウィンドウで開きます は、11年以降低下傾向であったものの、前年比20%台を維持し続けてきたが、13年11月に同比19.9%と20%台を割り込み、14年4月には同17.3%と伸びは鈍化してきている(第1-2-3-5図)。投資の伸びが鈍化した背景には、先にも述べた過剰生産能力の抑制を目指す政府対応等7別ウィンドウで開きますが挙げられる(第1-2-3-6表)。

第1-2-3-5図 固定資産投資:伸びが鈍化
第1-2-3-6表 過剰生産能力業種8別ウィンドウで開きます

投資の主な分野9別ウィンドウで開きますをみると、13年夏以降、インフラ関連投資の伸びは堅調な一方、製造業は伸びが低下し、特に14年に入ると15%台にまで低下し、これが投資の伸びを抑制する要因の一つとなっている(前掲第1-2-3-5図)。12年前半においても、投資の伸びが低下した10別ウィンドウで開きますが、この時期は、インフラ関連投資が前年比でマイナスとなった一方、製造業の伸びは全体を上回っていたことが、今回の投資の伸びの低下と異なる点といえる。

製造業投資を業種別にみると、生産能力の過剰問題が度々指摘されている11別ウィンドウで開きます鉄金属加工業は前年比マイナスで推移しており、過剰設備の問題を背景に製造業で投資抑制の動きがみられている(第1-2-3-7図)。

第1-2-3-7図 業種別投資:鉄金属加工業が前年比マイナスに
第1-2-3-8図 不動産新規着工面積:14年に入り再びマイナスに

また、不動産開発投資12別ウィンドウで開きますの伸びは、13年を通して安定的に推移してきたが、14年に入って低下し、14年4月においては前年比16.4%にまで減速し、製造業と並んで固定資産投資の伸びを抑制する分野となっている(前掲第1-2-3-5図)。

不動産の新規着工面積の推移をみると、不動産価格の高騰や、政府による「新型都市化」の推進を図る中で、伸び率は12年にマイナスで推移した後、13年にはプラスに転じていたが、14年に入って再び大きくマイナスとなり、不動産開発投資の減速を裏付けている(第1-2-3-8図)。

不動産価格については、13年秋以降、高騰する不動産価格に対して沿岸の大都市を中心に不動産価格抑制策が強化された。その後、価格の上昇幅は次第に緩やかなものとなり、全国70都市でも、前月比で価格が低下ないしは横ばいとなっている都市も増えてきている(第1-2-3-9図)。当局は「総じて安定的で小幅に上昇しているが、上昇幅は縮小」と評価している13別ウィンドウで開きます。ただし、11年後半から12年前半のように、価格がマイナスに転ずる都市が増えれば、財政や金融を通じて経済全体にマイナスの影響を与える可能性があり、速過ぎる価格調整が起きないか、その波及等、今後の動向には注意が必要であろう。

第1-2-3-9図 不動産価格(新築住宅販売価格):上昇幅は緩やかに
(イ)消費:伸びはやや低下

13年初めから消費の伸びは一段と低下し、14年に入ってからもその傾向が続いている(第1-2-3-10図)。

投資の伸びの鈍化に比べると、その低下幅は小さいものの、経済成長への寄与率14別ウィンドウで開きますでは、13年には既に消費よりも投資の寄与が高くなっており、加えて14年4月には政府から鉄道投資の促進等が公表されるなど、経済における消費のシェアの低下が示唆される。

またサービス消費の伸びをみても、消費全体を上回るも、11年以降鈍化傾向となっている(第1-2-3-11図)。

第1-2-3-10図 社会消費品小売総額:伸びがやや低下
第1-2-3-11図 サービス消費:鈍化傾向

消費が抑制されている背景としては、これまでの消費刺激策の終了による影響のほか、習近平指導部発足後の綱紀粛正策の強化及び所得の伸びの鈍化が考えられる。

まず、綱紀粛正強化の経緯をみると、12年12月に共産党が「八項規定」を制定したことに始まり、13年に入ってからは、政府部内や軍においても綱紀粛正を求める各種規則の制定が続いた(第1-2-3-12表)。そのため、社会消費品小売総額の中でも、特に接待向けのレストラン等を含む飲食サービスの伸びが大幅に減少した。そのような風潮は一般国民にも広まっており、企業が「年会」(忘年会、新年会)の開催を取りやめたり、旧正月を祝う爆竹の売行きが減少するといった動きがみられ、14年の春節期間の小売総額は前年比13.3%増と、伸びとしては過去10年で最低となった。

第1-2-3-12表 いわゆる「倹約令」:消費抑制要因に

三中全会や全人代においても引き続き、「三公経費(接待費、海外出張費、公用車の購入・維持費)」や「楼堂館所(大楼、礼堂、賓館、招待所=大きな建物)」への支出抑制がうたわれており、今後も政府の消費や投資等にマイナスの影響を及ぼすものと考えられる15別ウィンドウで開きます

次に、所得の伸びをみると、11年や12年といった以前の水準に比べて、13年以降は低い伸びにとどまっている(第1-2-3-13図)。

特に都市部(可処分所得)の伸びが緩やかになっており、都市部の消費が振るわない背景の一つとなっている。

なお、農村部(現金収入)の伸びも以前に比べて鈍化しているが都市部に比べて小幅にとどまっており、13年以降、農村部の伸びは都市部を一貫して上回っている。これは、13年の農村部の消費が、都市部と異なり、横ばいを維持していることと整合的である。

第1-2-3-13図 所得の伸び:農村部は都市部を上回る傾向
(ウ)輸出:13年後半に持ち直したものの、14年に入ると低下

輸出は欧米の景気回復等を受けて13年後半に持ち直し、景気に寄与してきた(第1-2-3-14図(1))。しかし、14年1~3月期は輸出水増しの影響16別ウィンドウで開きますを考慮しても、伸びは低下している。輸出数量をみても、金額同様に13年後半に持ち直したものの、14年1~3月期は伸びが鈍化し、輸出金額の約4割を占めている電気機器・一般機械や約1割を占めている紡績用繊維製品の数量が低下していることが特徴として挙げられる(第1-2-3-14図(2))。

第1-2-3-14図 輸出:14年1~3月期に伸びは低下

一方、輸入は、13年は前年比8%程度の伸びを示していたものの、14年1~3月期には同2%程度まで落ち込み、数量でも伸びが低下しており、経済の減速が表れている(第1-2-3-15図(1))。輸入数量の内訳をみると、全体の約2割を占める電気機器等は大きく低下しており、特に、PC部品等や液晶パネルの下落が顕著となっている(第1-2-3-15図(2))。輸入単価についても同時期は更に低下している。鉄鋼や液晶パネルを始めとした過剰生産品目・業種といわれる品目の動向をみると、こうした品目では在庫が増加傾向にあり、輸入の落ち込みも目立っている(第1-2-3-15図(3))。

ただし、14年1~3月期の貿易動向は、アメリカの寒波等による一時的な要因に影響されていることに留意が必要である。

第1-2-3-15図 輸入動向:電気機器等は減少、過剰業種の輸入減も目立つ
(iii)物価は安定的に推移する中、金融環境に対する政策動向に変化の兆し
(ア)物価動向

消費者物価上昇率は、13年後半に食品価格が高まり、全体もやや高まりをみせたが、14年目標(3.5%前後)を下回って推移しており、コアも安定して推移している(第1-2-3-16図)。

一方、生産者物価上昇率は12年初より前年比マイナスで推移している(第1-2-3-17図)。これは、輸出の伸びに以前ほどの勢いがないこと、鉄金属・非鉄金属を始めとした設備過剰業種の製品等が価格を下押ししていることなどが影響していると考えられる。

第1-2-3-16図 消費者物価上昇率:2%台の安定した伸びが続く
第1-2-3-17図 生産者物価上昇率:マイナスで推移
(イ)金融環境と金融政策の動向

消費者物価上昇率は安定して推移している状況の下、13年は第1節でみたシャドーバンキングの影響17別ウィンドウで開きます等から、13年6月には短期金利が高騰し、13年末や14年に入っても、資金需要が高まる時期や一部のデフォルト懸念の高まり等により、再び短期金利は高騰し、金融市場が不安定化する局面がみられた(第1-2-3-18図)。

第1-2-3-18図 短期金利(SHIBOR):金利は季節的要因等で高まる局面も

また、マネーサプライの動向をみても、その伸びは鈍化しており、金利上昇の背景の一つと考えられる18別ウィンドウで開きます(第1-2-3-19図)。社会融資総量19別ウィンドウで開きますでは13年1~3月期をピークとして低下しており、特に信託貸出がシャドーバンキング規制の影響等により減少している(前掲第1-1-3-17図)。同様に、マネーサプライは緩やかに低下している。

第1-2-3-19図 信用創造:伸びは低下

このような状況下において、当局は大幅な政策変更をしていない。預金準備率を12年5月、政策金利を12年7月に引き下げたのを最後に変更されておらず20別ウィンドウで開きます、資金需給の調整は短期金融市場における公開市場操作等による微調整が行われている21別ウィンドウで開きます

また、当局の対応として人民元の動向をみてみると、14年2月以降急速に人民元安に転じている。さらに、変動幅22別ウィンドウで開きますを14年3月に約2年ぶりに拡大した23別ウィンドウで開きます後は、市場レートは一段と元安方向で推移している(第1-2-3-20図)。

第1-2-3-20図 人民元レート:14年2月以降減価

これら一連の当局の対応と短期金利の動向をみると、以下の3つの特徴が挙げられる(第1-2-3-21図)。

第一に、13年6月に短期金利が高騰して以降、当局の資金供給(ネット)による金融緩和的な状態の下、金利が安定していた局面(13年7~11月)、第二に、年末や春節休暇等の資金需要時24別ウィンドウで開きますやデフォルト懸念により金利が上昇していた局面(13年12月末や14年1~2月春節期間及び3月末)、第三に、当局の資金吸収(ネット)により引締め的な中でも金利が低下していた局面(14年2~3月)25別ウィンドウで開きますである。

なお、4月以降の資金需給調整は中立的となっている。

第1-2-3-21図 短期金利、人民元と資金調節の動向:引締めから中立的に

以上みたような流動性の問題や金融政策の有効性を更に高めるため、また持続可能な経済発展を遂げるために、金融制度改革等の構造改革が重視され始めている。一方、過剰設備業種やシャドーバンキング問題等、中国経済をめぐる経済情勢は難しい局面にもあり、中国経済がソフトランディングするには、構造改革と成長の下支えという政府の政策運営がバランスをとりつつ、円滑に進展することが鍵と考えられる。

(2)景気が持ち直している韓国、台湾

韓国及び台湾では、いずれも景気は持ち直している。その根拠としては、実質経済成長率が韓国では13年4~6月期以降安定して推移し、台湾でも13年10~12月期に前期比年率7.6%と高まってきていること、韓国では自動車や電気機械、台湾では電子部品がそれぞれ輸出をけん引していることなどが挙げられる。

一方、14年1~3月期の中国向け輸出が、中国経済の成長率の低下によって影響を受けるなどの懸念材料もある。

以下では、韓国及び台湾の内外需の動向について、電子・電気分野を中心に概観する。

(i)外需を中心に持ち直し

韓国の実質経済成長率は13年4~6月期以降は、政府の景気刺激策による公的支出や民間消費を中心とする内需26別ウィンドウで開きますや輸出に支えられ、前期比年率3%台後半から4%台の経済成長が続いている(第1-2-3-22図(1))。

台湾では、13年以降の成長率には変動がややあるものの、13年10~12月期に前期比年率7.6%と、輸出が主なけん引役として、韓国同様に景気は持ち直している(第1-2-3-22図(2))。

第1-2-3-22図 実質経済成長率:持ち直し
(ii)電子部品を中心とするIT財の生産・輸出動向

韓国、台湾は、電子・電気分野(以下IT財)を主力輸出製品の一つとしている点で共通しているが27別ウィンドウで開きます、IT財の輸出環境をうかがう指標の一つとして、世界の半導体出荷状況をみると、13年後半以降上向いてきたが、14年に入り、やや一服感がみられる(第1-2-3-23図)。

第1-2-3-23図 世界の半導体出荷:アジア太平洋地域にはやや一服感

韓国、台湾のIT財を含む輸出動向をみると、両者ともに半導体を中心に13年半ばから11月まで堅調に推移し輸出をけん引してきたが、世界の半導体出荷と同様に、13年末以降一服感が出ている。これはITサイクルの影響や、中国における春節に備えての在庫積み増し需要の反動等28別ウィンドウで開きますとみられている(第1-2-3-24図)。

韓国では14年1~3月期において電気機械に含まれる液晶パネルの輸出に一服感があったことで、輸出全体の伸びもやや低下し、台湾ではパソコン、携帯電話、液晶パネル等の輸出不振が依然として続いており、それが全体の伸びを押し下げる要因となっている。

第1-2-3-24図 品目別輸出動向:半導体に一服感

国・地域別動向をみても、韓国では13年後半は、寄与の高い中国及び欧米向けを中心に輸出は持ち直し、台湾では韓国よりやや遅れるも10~12月期に中国向けを中心に持ち直したが、14年に入ると中国経済の減速等の影響により一服感も出ている(第1-2-3-25図)。

第1-2-3-25図 国・地域別輸出動向:14年1~3月期では、ともに欧米向けがプラスに寄与 中国向けは韓国でプラスに、台湾でマイナスに寄与

ここで、両者の中国輸出との相関について、過去10年間の変化をみてみると、両者ともに、世界金融危機前の04年からの5年間と危機後の5年間では、両者ともに中国とのサプライチェーンの構築による連関がより一層深まっていたことが分かる(第1-2-3-26表)。

第1-2-3-26表 中国輸出と韓国・台湾の中国向け輸出との相関係数:中国との連関がより深化

両者とも輸出依存度29別ウィンドウで開きますが高いことから、引き続きIT財の世界需要動向や、中国経済の動向に注視する必要があろう。

(iii)消費者物価上昇率は引き続き安定、金利も据置きが続く

韓国の物価上昇率は、農作物価格、燃料価格の低下及び安定により、インフレ目標の下限(2.5%)を下回る状態が続いている(第1-2-3-27図)。こうした物価の低位安定により、政策金利は13年5月の利下げを最後に2.5%で据置きが続いている(第1-2-3-28図)。

台湾では、14年3月以降、豚肉等の生鮮食品以外の食品の価格上昇があるものの、おおむね1%余りの水準で安定しており、政策金利も11年6月の利上げを最後に1.85%で据置きが続いている。

第1-2-3-27図 消費者物価上昇率:安定して推移
第1-2-3-28図 政策金利:据置きが続く

(3)ASEAN諸国の景気は総じて足踏み状態

ASEAN諸国30別ウィンドウで開きますの経済は、13年に入ってから内需を中心に総じて持ち直しの動きが続いていたが、後半に入り持ち直しの動きが緩やかになり、14年に入ると景気は足踏み状態となっている(第1-2-3-29図)。

総じてみると、内需の動向は各国でばらつきがみられるものの、外需は世界経済の回復により13年末にかけて成長に対する寄与をおおむね高めてきたが、14年に入ると鈍化する動きがみられた。

以下、各国の内外需及び物価と政策金利の動向についてみてみたい。

(i)内需の動きは各国でばらつき

ASEAN諸国の内需は、消費は国によって政策の違い等からばらつきがみられ、投資は総じて鈍化傾向にあるといえる。

第1-2-3-29図 実質経済成長率:景気は総じて足踏み状態

インドネシアでは、民間消費及び政府消費は比較的堅調に推移しているが、13年に入り伸びが鈍化した総固定資本形成は、政策金利の引上げや総選挙による政治の先行き不透明感の影響もあり、13年以降鈍化傾向となっている。

タイでは、自動車購入支援策31別ウィンドウで開きますの12年末終了による駆込み需要の反動減により、13年半ばから弱い動きとなっていたが、11月の反政府デモ隊による大規模な抗議運動に始まる政情不安32別ウィンドウで開きますも重なり、消費及び投資ともに一段と弱い動きとなっている。また、内需の鈍化に伴い輸入も低迷している。

マレーシアでは、民間需要は消費、投資ともに底堅く推移したが、公共投資が財政再建等から伸び悩んだことで、13年4~6月期以降資本形成の伸びは一桁にとどまっている。

シンガポールでは、12年4~6月期以降内需の寄与の低い状態が続いており、景気の持ち直しは主に外需に依存している。民間消費はローン規制等により車販売を中心として小売販売が伸び悩み、拡大テンポは緩やかになっている。総固定資本形成もアメリカの量的緩和縮小の影響により金利が上昇したことが影響し、13年に入って低迷している。

(ii)外需は中国の動向に左右

ASEAN諸国の輸出は中国経済の動向に左右される程度が大きくなってきている。韓国・台湾と同様に、相関係数を用いて確認してみると、04~08年から09~13年にかけていずれの国も相関が強まっている(第1-2-3-30表)。

このことは各国の中国向け輸出33別ウィンドウで開きますの動向とおおむね整合的であり、マレーシア等では顕著に表れている(第1-2-3-31図)。具体的には、13年4~6月期にかけて中国の輸出減速に伴って鈍化傾向にあったが、13年後半は中国輸出の回復により各国の輸出も持ち直した。14年に入ると、欧州やその他新興国向け輸出に持ち直しの動きがみられるものの、中国の輸出の減速、ひいては景気減速により、各国輸出も総じて鈍化している。

第1-2-3-30表 中国輸出との輸出相関係数:強まっている
第1-2-3-31図 輸出:中国の寄与が増加、欧米も一定の影響 34別ウィンドウで開きます 35別ウィンドウで開きます
(iii)消費者物価上昇率と政策金利の動き

消費者物価上昇率は、11年における国際的な原油価格の上昇等の物価上昇圧力が緩和されたこともあり、12年以降総じて安定的に推移していたが、13年半ば頃より高まりがみられる(第1-2-3-32図)。

特にインドネシアでは13年に入り、年初の洪水による食品価格の上昇のほか、13年6月の燃料補助金の削減によるエネルギー価格の上昇等から高伸した。そのため、インドネシアでは金融政策は引締めに転じ、13年6月より政策金利を5回引き上げている(計175bp引上げ)36別ウィンドウで開きますが、引き続き堅調な内需等を背景に高止まりしている(第1-2-3-33図)。

その他のASEAN諸国でも食品価格等を中心として上昇率がやや高まっており、また各国のドルレートも14年2月にかけて減価した後横ばい状態にあり、物価に与える影響が懸念される(第1-2-3-34図)。

第1-2-3-32図 消費者物価上昇率:高まり
第1-2-3-33図 政策金利:インドネシアは5回利上げ
第1-2-3-34図 ドルレート:減価傾向
コラム1-1:タイの政情不安が景気に及ぼす影響

13年10月末の大赦法案(注)の修正に端を発する反政府デモは、11年秋に起きた洪水による復興需要が一巡し、その反動減から回復しようとしているタイ経済に打撃となった。

当初は、デモの発生がバンコク中心であるため、地方に生産拠点を置く製造業への影響は軽微とみられていたが、12月9日の下院解散発表や、14年1月22日の非常事態宣言の発令等により政情不安が長引くにつれ、実体経済にも徐々に影響が出始めた。

第一に、観光客数が14年に入ると減少に転じている(図1)。第二に、投資も先行き不透明感等から先送りされているとみられ、民間投資指数は下落傾向が続いている(図2)。その他、内需の減退から生産や輸入も弱い動きを続けている。

また5月になると、インラック首相は人事をめぐる職権乱用により憲法裁判所から違憲判決を受け失職した。その後軍によるクーデターが発生し、一部の規定を除き憲法が停止された。

経済の先行きについては、新政権が発足すれば予算成立及びその執行が期待されるが、財政支出の伸びは弱いものとなる可能性がある。また、財輸出が世界経済の回復によって比較的堅調に推移することが期待される。

タイでは重い家計債務負担により家計消費が抑えられているため、民間消費による景気回復は困難であり、当面は輸出による回復の道に展望が偏るが、早期の政情の安定化が期待される。

図1 観光客数
図1 観光客数
図2 民間投資指数
図2 民間投資指数

(注)当初は政治対立に伴う一般市民の罪を免ずるものであったが、対象に政治リーダーを含める修正を行ったため、汚職の罪に問われ国外逃亡中のタクシン元首相の帰国を実現するものとして反タクシン派の反対運動を引き起こした。

(4)景気の底ばい状態が続くインド経済

インドでは、経済成長率は11年以降鈍化し始め、12年、13年と低成長が続いている。景気の減速が長期化している背景は、消費や投資の伸び悩みによる内需の不振が続いていることにある。一方、これまで内需とともに減速していた輸出は、13年後半に明るい動きをみせたものの、内需の減速を満たすには及ばず、景気は底ばい状態となっている。

以下、インド経済の現状について概観する。

(i)景気は下げ止まりの兆しもみられるものの、底ばい状態が続く

インドの実質経済成長率は、12年度(12年4月~13年3月)に前年比5.0%と、10年ぶりの低成長となるなど、7四半期連続で同4%台の低い成長率が続いている(第1-2-3-35図(1))。

産業別にみると、13年度に入ると天候要因に左右される農業生産は持ち直して成長を下支えしている一方、これまでインド経済をけん引してきた商業・ホテル・運輸・通信等のサービス業が低調な経済活動を反映して伸びが鈍化し、依然低迷している製造業とともに冴えない動きとなっている。また需要項目別にみても、13年後半になって中国や欧米向け輸出が増え、金輸入の禁止等から純輸出が改善する動きもあるものの、消費や投資等の内需の伸びが引き続き低迷しており、景気は底ばい状態となっている(第1-2-3-35図(2))。

第1-2-3-35図 実質経済成長率:景気は底ばい状態
(ii)政策対応

内需不振の背景には、まず、慢性的な物価上昇とそれに伴う金融引締めにより、一層の金利高になっていることが挙げられる(第1-2-3-36図)37別ウィンドウで開きます。インド準備銀行(中央銀行)は、13年9月に就任したラジャン総裁の下、インフレ抑制を重視し、同月から政策金利の利上げを行うなど金融引締めを強めてきた。

物価上昇率をみると、この数次にわたる利上げや、通貨安の進行が和らいだことなどを受け、14年に入り低下している。しかし、川下の消費者物価指数は依然として高い伸びに止まっており、こうした物価上昇が続く中、低成長率に対する政策運営は困難さを増しているといえる(第1-2-3-37図)。

第1-2-3-36図 金融政策:引締め
第1-2-3-37図 物価上昇率:消費者物価上昇率は依然高水準

また、双子の赤字が通貨安の一因となっていることからも、政府は財政赤字の削減努力を行っており、財政支出による大規模な景気刺激策は難しいとみられ、インド経済を取り巻く環境には厳しさが続いている。

14年の議会総選挙では旧野党勢力による新政権が発足したが、今後は新政権の下で、投資環境やマインドの改善等により、景気が持ち直すことが期待される。

コラム1-2:インドの政権交代

2014年の総選挙では、これまで野党だったインド人民党のナレンドラ・モディ党首が新首相となり、10年ぶりの政権交代となった。

今回の政権交代の背景には、前政権において有効な経済改革やインフラ対策が行われず成長鈍化となったことや、汚職スキャンダルが相次ぐなどの不信感が高まっていたことなどが挙げられる。改革機運が高まる中、モディ新首相はインド西部のグジャラート州首相時代に、主にインフラ整備、規制緩和、外資誘致等の数々の経済改革を進め同州の成長に貢献した実績を持つことに加え、「モディノミクス」とも呼ばれる同様の内容を政権公約としていることが選挙結果につながったとみられる(表1)。

政権発足後は公約に基づいた経済改革が進むことが期待され、インドの株価指数は史上最高値を更新するなど上昇傾向にあるが、インドが以前のような高成長に回復するかどうか、新政権のかじ取りが注目される(図1)。

表1 主な政権公約(経済改革分野)
表1 主な政権公約(経済改革分野)
図1 インド株価指数(SENSEX)
図1 インド株価指数(SENSEX)
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