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2.ヨーロッパ経済

ヨーロッパ経済は、英国の実質経済成長率が13年1~3月期以降5四半期連続でプラス成長となり、ユーロ圏の実質経済成長率も13年4~6月期以降4四半期連続でプラスとなるなど、全体としては持ち直している。ただし、ユーロ圏内では、ドイツは14年1~3月期に予想以上の成長率となった一方、イタリアはマイナスに転じるなど回復ペースにばらつきがみられている。

本節では、ユーロ圏主要国及び英国の景気情勢とそれぞれの回復の要因について分析するとともに、政府債務問題の現状を確認する。

(1)ヨーロッパ経済の概況

(i)ユーロ圏の経済概況:競争力回復の鍵は労働市場改革

ユーロ圏では、11年10~12月期以降、南欧諸国等における住宅バブル崩壊の後遺症や財政緊縮の影響等により景気低迷が続いていたが、13年4~6月期から4四半期連続で実質経済成長率がプラスとなるなど、持ち直しの動きが続いている(第1-2-2-1図)。

第1-2-2-1図 ユーロ圏の実質経済成長率:4四半期連続のプラス成長

需要項目別の内訳をみると、個人消費や固定投資もプラスに寄与しているものの、景気回復の最大の要因は輸出(財・サービス)の増加であることが分かる。ただし、圏内主要国の輸出の動きには違いがあり、ドイツとスペインはユーロ圏全体を上回る動きをみせている一方、フランスとイタリアが足を引っ張る形になっている(第1-2-2-2図(1))。貿易統計(財のみ)の輸出の動きをみても、フランス及びイタリアは14年に入ってからも12年の水準付近にとどまっているのに対し、特にスペインは13年以降高水準で推移している(第1-2-2-2図(2))。

第1-2-2-2図 ユーロ圏主要国の輸出:ドイツ、スペインは好調

このようにフランス及びイタリアの輸出の回復が遅れている要因の一つとして、輸出競争力の低下が指摘されている。圏内貿易において輸出競争力の格差となる単位労働コストをみると、ドイツでは低水準となっており、スペインは低下しているのに対し、フランス及びイタリアは上昇傾向にある(第1-2-2-3図)。また、圏外貿易の競争力を示す実質実効為替レートでも、スペインは大幅に低下しているのに対し、フランス及びイタリアはほとんど低下していない(第1-2-2-4図)。

第1-2-2-3図 単位労働コスト:スペインは低下
第1-2-2-4図 実質実効為替レート:スペインは大幅に低下

ドイツの労働コストが低水準となっているのは、03~05年にかけて行われた労働市場改革1別ウィンドウで開きますによるものである。スペインの労働コストが大幅に低下した背景には、12年2月に解雇手当の引下げ等を含む労働市場改革のための緊急措置が決定されるなど、早期に労働市場柔軟化のための取組が進められたことがある(第1-2-2-5表)。イタリアでも、12年7月に不当解雇の解雇補償金による解決を可能にする法改正等が行われたものの、裁判所の判断による部分が大きいため、これまでのところその効果がみられていない。14年2月に誕生したレンツィ新政権は更なる労働市場改革を実施することを発表している。フランスでは、13年から賃金の法人税額控除制度が導入されており、13年7月から解雇回避のための労働条件の不利益変更も可能になったことから、今後、効果が発現することが期待される。

第1-2-2-5表 フランス・イタリア・スペインの主な労働市場改革

各国の労働市場改革の進ちょく度をみるため、OECDが公表している雇用保護法制指標を08年と13年とで比較してみると、スペインは一般労働者、有期労働者のいずれも大きくスコアが低下しており2別ウィンドウで開きます、労働市場改革が大幅な賃金抑制につながったと評価されている3別ウィンドウで開きます(第1-2-2-6図)。イタリアも前述の法改正もあり一般労働者の解雇の困難さのスコアはかなり低下しているが、水準としては依然として高く、OECD平均を上回っていることから、更なる保護規制緩和が必要と考えられる。

第1-2-2-6図 OECD雇用保護法制指標:スペインはいずれも低下

フランスとイタリアの労働コストが高い背景には、社会保障の企業負担の高さもあり、特にフランスの高さは顕著である(第1-2-2-7図)。これに関し、フランスは14年1月に、企業の税・社会保障負担を軽減する代わりに、企業に雇用拡大を約束させる「責任協定」を発表し、15年1月から法定最低賃金で働く給与所得者に対する企業の社会保険料を全額免除することなどにより総額300億ユーロの社会保険料軽減を行うとしている。

第1-2-2-7図 ユーロ圏主要国の企業の社会保障負担比率:フランスの高さは顕著

このように、スペインでは労働市場改革により競争力が回復したが、雇用環境は大幅に悪化し、失業率はピーク時から若干低下したものの依然25%を超える高水準となっている(第1-2-2-8図)。これに対し、スペイン政府は13年12月に「安定雇用・就業機会促進法」を決定し、パートタイム雇用促進等による雇用拡大を目指している。フランスやイタリアでもこれまでに特に若年者の雇用促進政策が実施されているが、失業率は上昇傾向となっており、雇用を確保しながらどのように労働市場改革を進めるかが共通の課題となっている。

第1-2-2-8図 ユーロ圏主要国の失業率:フランス・イタリアも上昇傾向

競争力の回復のほか、輸出先の多様化もドイツ及びスペインの輸出の回復に寄与していると考えられる。ユーロ圏外向け輸出比率の変化をみると、ドイツ、スペインはフランス、イタリアよりも拡大幅が大きい(第1-2-2-9図)。さらに、各国の仕向地別輸出比率をみると、各国ともアジアの比率が大きくなっており、スペインではアジアに加えアフリカ向けの比率も高まっている(第1-2-2-10図)。

第1-2-2-9図 ユーロ圏主要国の圏外輸出比率:ドイツ、スペインの拡大幅が大きい
第1-2-2-10図 ユーロ圏主要国の仕向地別輸出比率:スペインではアジア向けに加えアフリカ向けも増加

ユーロ圏の輸出の推移を仕向地別にみると、好調な英国を含む非ユーロ圏EUや中国、アメリカ向け等が13年半ば以降増加している(第1-2-2-11図)。ロシアを始めとする非EU欧州向け輸出が減少しているのは懸念材料ではあるが、引き続き圏外輸出の増加がユーロ圏の景気回復をけん引することが期待される。

なお、フランス及びイタリアの輸出が不振である理由として、零細企業が多いこともよく挙げられるが、零細企業の占める割合はスペインもそれほど変わらない。スペインでは輸出企業数が増加しており(13年は前年比11.7%増)、これもスペインの輸出が拡大している一因と考えられている4別ウィンドウで開きます

第1-2-2-11図 ユーロ圏の仕向地別輸出:非ユーロ圏EUや中国が増加傾向
(ii)英国の経済概況:好調な個人消費を支える所得改善と資産効果

英国は、13年1~3月期に実質経済成長率がプラスに転換した後、前期比年率3%程度の増加が続いており、景気は回復している(第1-2-2-12図)。特に個人消費が10四半期連続の前期比プラスとなっており、景気回復のけん引役となっている。ここでは、個人消費の増加の背景にある家計の所得環境改善、住宅価格上昇に焦点をあて、英国経済の状況を概観したい。

第1-2-2-12図 英国の実質経済成長率:景気は回復

まず、家計の所得環境の改善の背景には、賃金の上昇と物価の安定がある。賃金の動向をみると、12年以降は伸びが低かったが、13年後半より持ち直しが鮮明となっている。同時に物価上昇が穏やかになっていることから、実質賃金についても徐々に前年比プラスに近づいている(第1-2-2-13図)。

第1-2-2-13図 英国の実質賃金:持ち直し

こうした賃金上昇は雇用環境の改善からもたらされている。労働市場環境を表す失業率と欠員率の関係(UV曲線)の動きをみると、13年6月以降、失業率の低下、欠員の増加傾向が明らかであり、雇用環境が回復局面にあることがわかる(第1-2-2-14図)。特に賃金の上昇に関係が強いとされる短期失業率が急速に低下しており、賃金の上昇圧力となっている(第1-2-2-15図)。また、内容としてもパートタイム比率の低下、特に非自発的パートタイマーの減少を伴っており、こうした雇用の質の改善も平均賃金が増加する要因となっている。

一方、金融危機前の失業者の水準と比べると、長期失業者の水準は依然高く、UV曲線が危機後に上方シフトしていることがはっきりとみてとれる。こうしたことを受け、イングランド銀行(BOE:Bank of England)も13年8月時点では中長期的な均衡的失業率が高くなっていることを想定し、英国の歴史的な水準からすれば高い失業率7%というしきい値を設けたフォワードガイダンス(将来の政策指針)を発表した。しかしながら、13年後半以降、期待したよりも早く長期失業率が低下し始め、BOEがフォワードガイダンスを見直す原因の一つとなった。このように構造的失業の増加といった構造的な課題を抱えているものの、13年後半以降の労働市場の回復ペースはかなり速い。

第1-2-2-14図 英国のUV曲線:雇用環境は回復
第1-2-2-15図 英国の期間別失業:短期は急速な低下、長期は低下も高水準

次に、消費者物価の動向をみると、11年にVAT税率が引き上げられるなど財政緊縮による押上げ要因もあったが、そうした影響のはく落もあり、13年10月以降消費者物価上昇率は低下している(第1-2-2-16図)。最近の物価動向の特徴としては、ポンド高や国際価格の安定による原料価格の低下、政策後押しによる公共料金の引下げがエネルギー価格の上昇率の低下をもたらしていること、さらに、これらが企業コストの低下を通じて物価全体に波及していることが挙げられる。

先行きについても、BOEがほかの主要国に先んじて金融政策引締めに転じると見込まれている中でのポンド高基調の継続、14年年初からの公共料金の引下げの効果が継続すると考えられることから、物価上昇率については現在の水準の近傍で安定的に推移していくことが期待できる。ただし、賃金に持ち直しの動きがみられることから、今後、コスト面からの物価上昇圧力となり得ると考えられる。

最後に、賃金、物価といった要因に加え、消費者マインドの改善も進んでいる。この背景としては、政府が10年以降の財政緊縮に取り組み、財政再建が進展したこともあると考えられる。

第1-2-2-16図 英国の消費者物価:低下

次に、住宅価格の上昇による資産効果をみる。住宅価格は、金融危機による急落後、政府の景気刺激策等から一時持ち直したものの、10年以降は欧州政府債務危機等による先行き不安や景気停滞の影響から横ばいとなった。しかしながら、欧州政府債務危機の影響が和らぎ、景気が持ち直しに向かった12年後半頃から価格は上昇している。特に13年以降は上昇幅を増しており、1年間で10%程度上昇した(第1-2-2-17図)。

第1-2-2-17図 英国の住宅価格:都市部が上昇

その要因としては、まず12年7月に導入されたFLS(Funding for Lending Scheme、融資促進のための資金調達スキーム)や低金利の継続等のBOEの金融政策や13年4月以降に順次実施された政府の購入支援策(Help to buy)による政策面からの需要促進が挙げられる。

また、価格上昇には全体の3割程のウェイトのロンドンやその周辺のイングランド南東部に大きな偏りがみられ、全体の上昇分の半分程度がこの地域に起因している(前掲第1-2-2-17図)。こうした都市部において上昇が特に著しい要因としては、移民等の流入人口の増加等によって世帯数が増加している一方で用地不足、建築規制の厳しさ等から供給が慢性的に不足していることが指摘できる(第1-2-2-18図)。また、特にロンドンにおいては、近隣のヨーロッパ、中東、アジア、ロシアからの資本の流入によって価格が押し上げられている面もある。

英国においては、歴史的にみても住宅価格の上昇が資産効果をもたらす傾向があり、13年以降の住宅価格の急速な上昇は、現下の個人消費の拡大のきっかけの一つとなったと考えられる。13年以降の個人消費の増加の要因を振り返ると、住宅価格の上昇、緊縮財政の緩和、家計のバランスシート調整の進展等を背景に個人消費が持ち直したことが景気回復の端緒となり、遅行して雇用環境が改善したことが、現下の堅調な英国経済を支えていると考えられる。

第1-2-2-18図 英国の世帯数の増減と住宅着工数:供給が不足
(iii)ECB・BOEの金融政策

欧州中央銀行(ECB:European Central Bank)は、13年10月の消費者物価上昇率が大幅に低下したことを受け、11月の政策理事会において政策金利を25bps引き下げて、過去最低水準の0.25%としたほか、無制限流動性供給措置の1年延長を決定した以降は、政策金利を据え置いている(第1-2-2-19図)。一方、金融市場における不安が後退する中、危機時に導入された3年物流動性供給オペ(LTRO:Long Term Refinancing Operations)に対する早期返済が進んでおりECBのバランスシートは縮小している(第1-2-2-20図)。

第1-2-2-19図 ECBの政策金利:13年11月以降は据置き
第1-2-2-20図 ECBのバランスシート:LTROの早期返済により縮小

その後政策理事会は、政策措置そのものは据え置く中、14年1月の政策理事会において、「緩和的金融政策スタンスを必要な限り維持すること」、また「政策金利が相当の期間(extended period of time)、現在の水準、もしくはそれを下回る水準に維持される見通し」を「強調する」との文言を用いて、13年7月に示したフォワードガイダンス(将来の政策指針)を強化した。また、政策理事会後の記者会見にて、ドラギ総裁は(1)望ましくない短期金融市場の緊張、(2)中期的物価上昇率見通しの悪化のいずれかのシナリオが起こった場合、必要に応じた行動をとる準備があることについても言及した。

ユーロ圏の消費者物価上昇率は13年10月以降、1%を割り込んだ水準が続いているものの、ECBによる追加策は講じられていない(第1-2-2-21図)。もっとも、14年4月の政策理事会においては、低水準の物価上昇率が過度に長期化するリスクに対して、「非伝統的措置を講じることに理事会が全員一致している」とし、非伝統的措置実施の可能性について言及した。また、理事会後の会見にてドラギ総裁は追加緩和策として、量的緩和、マイナス金利、固定金利・無制限流動性供給の延長等、具体的に言及し、理事会メンバー間で踏み込んだ議論が行われたことを明らかにした。さらに、5月の政策理事会後の会見では、「次回(6月)行動を起こすことに異論はない」と追加緩和を強く示唆しており、今後のECBの対応とその影響を注視する必要がある。

第1-2-2-21図 ユーロ圏消費者物価上昇率とECB政策金利:物価は低下

一方、BOEは、13年8月に物価及び金融の安定に重要なリスクとならない限り、現時点の緩和的政策を続けると表明した。具体的には、失業率が7.0%を下回るまで、現在の0.5%の政策金利を維持するとする、フォワードガイダンスを導入した。このフォワードガイダンスには、(1)中期的(18~24か月先)に消費者物価上昇率が2.5%を上回ると予想される場合(物価目標は2%)、(2)中期的なインフレ期待が十分に抑制されない場合、(3)金融緩和姿勢が金融システムの安定にとって重大な脅威になると(BOEの金融安定委員会が)判断した場合、とする3つの解除条項(Knock-out)を設けていた。

しかし、しきい値として設けた失業率が7%に近づいた一方、経済には依然解消されるべきスラック(経済余剰)が存在していると判断し、14年2月の政策決定会合においてBOEは、このしきい値に到達した後の指針を示す形で、13年8月に設定したフォワードガイダンスの修正を行った。

修正フォワードガイダンスでは、失業率がしきい値に達したとしても、将来における金融政策はより広範な経済指標を基に、経済における(1)回復の持続性、(2)需給に応じた生産性の向上、(3)物価及びコスト圧力を勘案したうえで遂行すると表明した。その他、危機対応として行った資産購入プログラムの解消の時期、規模、ペースも考慮することが示された。

すなわち、(1)政府の経済政策を支援し、2%のインフレ目標を達成するため政策を遂行する、(2)現在のスラックを2~3年で解消するため、また物価上昇率を目標近傍に維持するため、利上げペースは緩やかとなる、(3)もっとも、この先数年の政策金利は経済の回復状況による、(4)スラックが適切な水準に回帰し、物価上昇率が目標レンジ内に維持されても、政策金利の適切な水準は危機前に金融政策委員会が設定した5%以下が望ましい、(5)BOEによる資産購入残高は利上げ開始まで維持する、(6)金融政策が金融システムへのリスクに対して役割を担う場合は、金融安定委員会(FPC:Financial Policy Committee)や他当局による政策によっても抑制できない限りにおいてのみである、との認識を示した。

BOEのバランスシートをみても、資産購入プログラムによって購入された資産は上記の方針のとおり緩和的姿勢が維持されている(第1-2-2-22図)。一方、失業率は13年12月~2月は6.9%、14年1~3月期は6.8%としきい値とされていた7.0%を割り込んで低下している。

第1-2-2-22図 BOEのバランスシート:資産購入残高を維持し緩和政策を継続

このように中央銀行による緩和政策が続く中、ヨーロッパの企業による資金需要や銀行による貸出条件の推移についてみると、危機時に大幅に厳格化がみられた南欧諸国においても貸出条件が大幅に緩和している姿が認められる。また需要面からみても、13年半ば以降、各国で回復の動きがみられる(第1-2-2-23図)。

第1-2-2-23図 ユーロ圏の資金需給状況:改善傾向

(2)政府債務問題の現状

(i)南欧諸国等の現状

債務危機により不安定化していた金融市場も、ECBによる積極的な金融政策や、各国における財政健全化に向けた改革が進んでいること等を背景に落ち着きを取り戻してきており、プログラムの被支援各国(アイルランド、ギリシャ、ポルトガル、スペイン、キプロス)においても、ドイツ国債に対する国債スプレッドが縮小するなど、危機前の水準に戻ってきている(第1-2-2-25図)。これらの国では、トロイカ(EU、IMF、ECB)の監視の下、緊縮策を進めている結果、財政収支の改善が進んでいる(第1-2-2-24図)。こうした状況を受けて、各格付会社による国債格付の引上げが相次いでいるほか、国債発行による市場資金調達が可能となるなど、各国の信用回復が認められる(第1-2-26表)。

こうした中、アイルランド及びスペインについては、13年11月のユーロ圏財務相会合(ユーログループ)において、支援プログラムを予定どおり13年末で終了することが合意された。12月中旬にはユーログループ及びIMFにて対アイルランド第12次審査が承認され、その後の最終融資実施をもってプログラム終了となった。14年4~5月に行われたプログラム終了後の審査においては、景気回復や財政収支赤字の縮小が続いていることや金融セクター改革の進展が確認された。

第1-2-2-24図 被支援各国における財政状況:改善
第1-2-2-25図 被支援国の国債スプレッド:縮小傾向
第1-2-2-26表 被支援国の格付:格付け引上げが続く

金融セクターへの支援を受けていたスペインについても、13年12月31日にEU、IMFによる金融支援プログラムが終了した。14年3~4月に行われたスペインに対するプログラム終了後の審査においては、景気・雇用の回復の持続性や銀行セクター等の課題は残るものの、政策や経済調整の進展及び金融システムにおける緊張緩和等、プログラム終了の前提となった良好な傾向が続いていることが確認された。なお、両国ともESM(欧州安定化メカニズム)による予防的信用枠は設定されていないほか、支援終了後も国債発行による市場資金調達においても特段問題は生じていない。

また、ポルトガルについても、14年4~5月に最後となる第12次審査が行われ、13年の財政収支赤字が目標を上回って削減され、また14、15年についても目標達成が見込まれるなど、順調なプログラムの進行が確認された。国債発行環境の改善や経常赤字の大幅な削減等も認められており、依然として中小企業の負債を抱える企業の銀行貸出状況は厳しいとの指摘もなされているが、銀行セクターの安定化や銀行資本強化の進行、流動性の改善、不良債権の安定化も進んだと評価されている。こうしたことを受け、14年5月のユーログループにおいて支援プログラムを予定どおり終了することが承認され、同月18日に正式に終了した。なお、ポルトガルについてもESMによる予防的信用枠は設定されていない。

13年5月から支援を受けているキプロスでは、現在も引き続き資本規制が行われているものの、14年3月28日には、個人及び法人の1日の現金引出し金額の制限等、一部の資本規制の撤廃が発表された。5月の第4次トロイカ審査では、14年1~3月期は目標を上回る財政改善がみられるほか、銀行の再編計画等の進展により資本規制が緩和されるなど、プログラムは計画どおり進ちょくしているとの評価を受けた。ただし、不良債権の削減、持続的な財政の確保、社会保障改革や歳入機能強化等による制度機能強化が課題と指摘された。キプロスに対する支援は16年までを予定している。

一方、第2次支援プログラム下にあるギリシャでは、13年9月以降、14年の財政不足額等が問題となりトロイカによる審査が断続的に中断していたが、14年2月に中央政府の13年の基礎的財政収支が黒字になったことが明らかになったことから、3月に事務レベルの合意に達し、4月にユーログループがギリシャに対する融資再開を決定した。当該第4次審査においては、引き続き改革実行の重要性が強調されたものの、13年は目標を上回って基礎的財政収支が黒字となり、14年も財政目標達成が見込まれるなど、遅れはあったもののプログラムの進展が確認された。また、14年4月10日、金融支援後4年ぶりに5年国債を起債し、問題なく市場での資金調達に成功した。とはいえ、今後の融資もそれぞれ設定された条件(milestones)の履行次第であり、改革実施に係るリスクは引き続き高いといわれていることから、15年以降に追加支援が必要となる可能性は依然残っている。

(ii)銀行同盟の進ちょく状況

政府債務危機の根本的解決のため、ユーロ圏では銀行同盟の創設が進められており、その基礎となるのが(1)単一監督メカニズム(SSM:Single Supervisory Mechanism)、(2)単一破たん処理メカニズム(SRM:Single Resolution Mechanism)、(3)共通預金保証である。このうち、SSMについては、13年10月にSSM規則(SSM Regulation)が採択され、13年11月に発効した(第1-2-2-27表)。これにより14年11月からECBがその機能を担うこととなっており、ECBはユーロ圏内主要行について直接の監視、罰則、最終承認等の権限を保持することとなる。

これに先立ち、ECBは銀行セクターの(1)資産状況の透明性を高め、(2)必要な是正措置を特定及び実施し、(3)信頼性の向上を図るため、13年11月~14年10月にかけてユーロ圏内128行(対象行はユーロ圏内の重要(significant)と考えられる金融機関、域内銀行資産の約85%を占める)の資産内容を審査する「包括的審査(Comprehensive Assessment)」を行っている。

この包括的審査は(1)監督上のリスク評価(Supervisory Risk Assessment)、(2)資産査定(AQR:Asset Quality Review)、(3)ストレス・テスト(Stress Test)の3つで構成される。その内容は、監督上のリスク評価では、銀行のバランスシートにおける主要リスク(流動性、レバレッジ、資金調達等)について審査し、内外の要因に対するぜい弱性を量的質的な分析をもって評価を行う。AQRでは、データの質、資産価値評価、不良債権の分類、担保価値評価、引当金等について、信用及び市場エクスポージャーを対象としたリスクベース評価に基づき審査する。ストレステストでは、欧州銀行監督機構(EBA:European Banking Authority)の協力の下、ストレス下での銀行のショック吸収能力を審査するが、信用リスク、市場リスク、ソブリンリスク、証券化、資金調達等様々なリスクがカバーされ、銀行勘定及びオフバランスシート・エクスポージャーを含むトレーディング勘定ともに対象となる。包括的審査の結果は14年11月のSSM発足前に公表される予定となっており、ECBは審査を通してヨーロッパの銀行セクターの健全性と透明性、信頼性を大幅に向上できるとしている。

一方、SSMの次の段階として進められてきたSRMについては、13年7月に欧州委員会からSRM規則の提案がなされた後、12月にはEUの経済・財務相理事会(ECOFIN)で大枠について合意にこぎ着けた。その後、14年3月20日に欧州議会とECOFIN議長国とがSRM規則に関し修正の上暫定合意し、4月にはSRM規則及び銀行再生・破たん処理指令(BRRD:Bank Recovery and Resolution Directive)が欧州議会で採択され、5月にはECOFINでも正式に採択された。

このSRM規則に準拠し、破たん処理理事会(SRB:Single Resolution Board)がSSM対象行約130行に対して、破たん処理方法を直接策定することとなる。ただし、単一破たん処理基金(SRF:Single Resolution Fund)の利用に係る場合は、対象行であるなしに関わらず、SRBが所掌する。SRBが破たん処理方法を決定する際には、欧州委員会の承認が必要であるため、SRBは決定を欧州委員会に即時通報することになっている。また、SRFの利用額の変更や公的支援が生じる際等にはECOFINの承認を受ける必要がある。欧州委員会ないしECOFINは、SRBの決定に対し承認または異議を24時間以内に回答することになっており、異議が唱えられた場合は、SRBは破たん処理方法を修正することとなる。

SRM規則では、SRM参加国の全金融機関からの出資によって、少なくとも預金の1%(約550億ユーロ)を8年かけてSRFに積み立てることとされている。移行期間中はこうした基金は国別に分けられ、初年度はうち40%が相互利用可能とされ、8年かけて徐々に完全共通化に移行することとなっている。国別基金から単一基金への移行及び相互利用はSRFに関する政府間協定(IGA:Intergovernmental Agreement)に基づいて行われることとなっており、14年5月に英国及びスウェーデンを除くEU26か国がIGAへの署名を完了した。IGAは、批准手続が完了した締結国が持つ加重票5別ウィンドウで開きますの合計が90%以上となった日の2か月後に発効する。

なお、SRM規則は15年1月より施行されるが、株主や債権者等に損失を負担させるベイルインは16年1月以降に適用される見込みである。

共通預金保証については、14年4月に預金保証のための資金を銀行が積み立てることを規定した預金保証指令案が欧州議会で採択されたものの、あまり進展していない。

第1-2-2-27表 銀行同盟の進ちょく状況
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