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第1節 世界経済の概観

1.世界経済の動向:引き続き弱い回復が続く中、一部に底堅さもみられる世界経済

世界経済は、12年に入ると各国・地域で景気減速の動きに広がりがみられた。しかし、新興国も含め世界的な金融緩和や各種政策対応がとられてきた結果、同年後半になるとアメリカの雇用や消費を中心に実体経済面での底堅さがみられ始めるとともに、13年に入って日本も持ち直しの動きが徐々に強まっている。

一方、ヨーロッパ経済は金融市場の緊張緩和はみられたものの、同年後半以降更に景気が落ち込み弱い動きがなお続いている。新興国でも中国では景気の拡大テンポは依然緩やかなものとなっており、インドやブラジルなどでは景気減速の動きが止まる様子をまだみせていない。このように世界経済全体としては弱い回復が続く中、各先進国、新興国を個別にみると景気にばらつきがみられるようになっている。本節では、こうした状況を踏まえて、12年後半以降の世界経済の動向とその背景について概観する。

(1)先進国間、新興国間でもばらつきがみられる景気動向

(i)12年以降の世界経済の動向

世界全体の貿易量と生産量をみると、いずれも12年はヨーロッパ経済を中心とする不安定な状況を反映して一進一退でおおむね横ばいで推移していたが、13年に入ってから底堅さがみられつつある(第1-1-1図)。

一方で、各国・地域の実質経済成長率をみると、アメリカでは振れを伴いながらも緩やかに回復しており、日本も12年10~12月期以降成長率が持ち直している。一方、ユーロ圏は6四半期連続のマイナス成長となるなど弱い動きとなっている。新興国についてみると、中国は成長率の低下は止まったものの、8%台を超える水準にあった11年に比べると依然緩やかな成長となっている。その他の新興国は引き続き伸びが低下しており、新興国間でも成長率の格差がみられる(第1-1-2図)。

このように、世界全体としては弱い回復が続く中、13年初めからは底堅い動きもみられ始めている。ただし、各国・地域間ではばらつきがみられる状況である。

第1-1-1図 世界の生産・貿易動向:13年初めからは底堅い動きも
第1-1-2図 主要国の実質経済成長率:ばらついている

世界的な景気のばらつきの要因として、まず輸出についてみると、先進国ではユーロ圏は12年中大きく失速し弱い動きとなった反面、アメリカでは一進一退ながらも底堅い動きをみせている(第1-1-3図(1))。新興国のうち、中国は、12年にはほかの新興国同様減速傾向にあったが、13年に入ってやや持ち直している(第1-1-3図(2))。一方、ロシアやブラジルは中国等の資源需要の鈍化等を背景に低迷し、前年比で伸びの低下が続いてきた。ただし、12年夏以降、欧州政府債務危機が落ち着きをみせ始めたことなどを背景に下げ止まりの兆し、ないしは横ばいの状況がみられる。

第1-1-3図 主要国の輸出動向:中国はやや持ち直し

次に、内需のうち消費の動向をみてみよう。消費はユーロ圏では雇用情勢の悪化やマインドの冷え込みにより引き続き減少しているが、アメリカでは逆に雇用情勢の改善等を背景に緩やかに増加している(第1-1-4図)。新興国では総じて堅調に推移しているが、中国では所得の伸び悩み等から、13年に入ってから一服感がみられている。

第1-1-4図 個人消費の動向:新興国は総じて堅調

こうした消費動向に影響すると考えられる雇用情勢についてみると、先進国ではアメリカは改善傾向にあるものの、政府債務危機下で景気の低迷が続くユーロ圏では引き続き悪化しており、両国・地域間の消費の動きと整合的である。新興国の動きはまちまちであるが、総じてみれば12年中はおおむね足踏み状態となっているものの、先進国に比べ水準としては良好な状況にある(第1-1-5図)。

第1-1-5図 主要国の失業率:ユーロ圏は引き続き悪化

また物価についてみると、消費者物価上昇率は、12年7~9月期頃には天候要因等から一次産品価格上昇の影響が懸念されたものの、結果的には資源価格の落ち着きや景気の減速から先進国では低下傾向となった。新興国では、中国はおおむね横ばいとなっている一方、ロシアやブラジルでは食料品価格の上昇等を背景に上昇傾向にあり、実質所得の下押しとなってこれまで比較的堅調だった両国の消費にも影響が出ることが懸念される1別ウィンドウで開きます(第1-1-6図)。

第1-1-6図 主要国の消費者物価上昇率:先進国では低下傾向

次に固定資本投資についてみると、ユーロ圏では低迷する企業マインド等を背景に減少が続いているが、アメリカでは財政歳出削減の影響もありテンポは緩やかではあるが増加傾向にある。また、新興国等では、12年以降、ロシアは横ばい、ブラジルでは歯止めはかかりつつあるものの減少が目立っているなど、動きにばらつきがみられる2別ウィンドウで開きます(第1-1-7図)。

第1-1-7図 固定資本投資(民間・公的):アメリカは緩やかな増加傾向

以上のように、内外需の動向については、アメリカとユーロ圏では対象的な動きがみられるとともに、いずれの新興国でも全体的に投資面での鈍化の動きはあるものの、それぞれの資源輸出依存度等に応じて各国間で差がみられる。

一方、生産についてみると、先進国ではアメリカは緩やかながらも前期比プラスでの推移が続くが、ユーロ圏では11年10~12月期以降総じて弱い動きが続いている。また、新興国でも11年初め頃から伸びが緩やかに低下する傾向が続き、特にブラジルでは11年10~12月期以降前年割れとなる減少が目立つ。このように、先にみた内外需の動きと同様の傾向は各国の生産活動についてもみられる(第1-1-8図)。

第1-1-8図 主要国の生産:新興国は緩やかに低下

また、生産や投資活動の背景となる企業の景況感指数をみると、先進国、新興国ともに、12年半ばまで総じて低下傾向にあったが、12年後半から13年初めにかけて、各国間でばらつきが目立ってきている(第1-1-9図)。ユーロ圏では12年秋口から13年1月にかけて持ち直しの動きはみられたものの、2月以降再び悪化するなど50を下回る水準で推移しており景況感改善の足取りは鈍い。一方、アメリカは財政問題の不透明感等から一進一退とはなっているものの50を大きく上回る状況が続き、日本も12年秋からの円高修正を背景に急速に改善している。新興国では総じて50を超えた状況が続く中、12年末頃にかけてやや盛り上がる局面もみられたものの、13年に入り再び低下しており、いずれも改善の勢いを欠いた状態となっている。

第1-1-9図 先進国の景況感指数(PMI総合):日本とアメリカでは持ち直し

このように世界経済は、12年半ば頃までは先進国、新興国ともに減速の動きが広がっていた。しかし、それ以降になると復調がみられるアメリカ、日本と、低迷が続くユーロ圏との間に景気動向の差が拡大しており、新興国でも拡大テンポの鈍化に歯止めがかかってきた中国と、その他の新興国との間にばらつきが目立つようになってきている。このような先進国間、新興国間双方でみられるばらつきは今後どのようになるかについて、過去類似した局面ではどのような足取りをたどったか以下でみてみよう。

(ii)ITバブル崩壊後の世界経済の動きからの示唆

先進国、新興国ともに総じてばらつきがみられる状況は、2000年代初めのいわゆるITバブルの崩壊に伴う世界同時景気減速後の回復局面においてもみられた3別ウィンドウで開きます

ITバブルの崩壊を端緒に、アメリカの経済成長率は2000年7~9月期から鈍化し始め、更に01年9月の同時多発テロが減速の動きに拍車をかけた。この動きは、アジアやヨーロッパにまで伝播し、多くの国では01年4~6月期から7~9月期にかけて経済成長率がマイナスとなった。その後、各国ともに01年7~9月期から10~12月期に伸びが落ち込んだ後、02年にかけてはばらついた動きをみせている(第1-1-10図)。03年以降、アメリカの成長率が高まると、英国やユーロ圏の成長率もラグを伴って上昇した。この背景にあるのが輸出で、ユーロ圏の輸出はアメリカの成長にラグを伴って増加した(第1-1-11図)。一方、新興国の成長率のばらつきは完全に収束はしないが、03~04年にかけておおむね上昇する傾向がみてとれる。その背景として、やはり輸出がアメリカの回復にともなう消費や資源需要の増加等によって持ち直したことがあると考えられる。

このように01年7~9月期あたりから02年にかけて景気にばらつきがみられたが、03年に入り、まずアメリカの成長率が徐々に回復し、その他の先進国や新興国も輸出の改善を背景に成長率の伸びが次第に回復していったとみられる。

ITバブル崩壊による景気の悪化は08年の世界金融危機による影響よりも軽微であったこと、欧州政府債務危機というような後遺症を伴わなかったことなど今回の局面とは前提条件は異なる。しかしながら、12年後半に顕在化してきた先進国と新興国ともに景気の回復状況にばらつきがみられる状況も、ヨーロッパや中国で更なる下振れが生じないのであれば、2000年代前半のように内需を中心としたアメリカ経済の回復にけん引されて今後収束に向かうことが想定される。

第1-1-10図 2000年代前半の主要国の実質経済成長率の推移:02年にかけてばらついている
第1-1-11図 2000年代前半の主要国の輸出の推移:ユーロ圏や新興国はアメリカの景気回復に伴って伸びが回復

(2)続く金融緩和と財政緊縮の動き

世界金融危機後の大規模な財政出動により、多くの先進国では財政状況が大幅に悪化した状況にある。そこでこれらの国・地域では財政再建に向けた取組を進めているが、これが依然として景気の下押し要因ともなっている4別ウィンドウで開きます(第1-1-12図(1)(2))。ただし、主要国・地域によっては財政再建のペースには変化がみられ、特にヨーロッパの一部の国では、後述するように財政再建の取組をやや緩和しつつある状況もみられる(第1-1-12図(3)(4))。

一方、11年以降、アメリカやユーロ圏等の先進国を中心に世界的に緩和的な金融政策が維持されていたが、12年に入るとアジア主要国や新興国も含めた多くの国・地域で、政策金利の引下げ等、一層の金融緩和策が採られている(第1-1-13図)。

前項でみたように12年以降も世界の景気は引き続き弱い回復にとどまっているが、アメリカを始め一部で底堅さもみえ始めている。今後はこうした金融緩和政策の効果が更に発現することが期待される。

第1-1-12図 主要先進国の一般政府財政収支(GDP比):見通しは悪化
第1-1-13図 主要国の政策金利:多くの国・地域で金融緩和

2.金融資本市場の動向:総じて落ち着きを取り戻す

(1)先進国と新興国間で動きにかい離がみられる株式・債券・為替市場

12年秋以降の金融資本市場では、ECBによる新たな国債買取プログラム(OMT:Outright Monetary Transactions)の導入、欧米における金融緩和策の継続5別ウィンドウで開きます、アメリカ経済の底堅い動き等を背景に、12年前半から夏にかけての時期と比較すると、総じて落ち着きを取り戻している。

まず株価をみると、先進国では11年半ばの水準を上回り、世界金融危機後の高値を更新した(第1-1-14図(1))。特にアメリカでは史上最高値を更新し続けており、その背景には金融緩和に加えて、好調な企業収益、雇用や住宅市場等の実体経済が改善していることが挙げられる。またヨーロッパの株価も、金融緩和の継続やマインドの底打ち等から上昇傾向にあり、ドイツも史上最高値を更新した。

一方、新興国の株価は13年初頭にかけては上昇するも、その後は低下する国もみられる(第1-1-14図(2))。12年秋からの変動幅をみると、13年に入り3回連続して利下げが実施されているインドを除き、いずれも先進国に比べて低い伸びないしは低下となっており、二けたの上昇率となっている先進国に比べて回復度合いは弱いことが分かる(第1-1-14図(3))。中国の成長率は下げ止まったものの依然緩やかなものとなっていることや、韓国では景気が足踏み状態となっていること、ブラジルやロシアも依然景気の減速局面にあることなどが背景にあるとみられる。

第1-1-14図 主要国の株価:先進国では上昇、新興国等では弱い動き

長期金利についてみると、13年に入るとイタリア総選挙やキプロス支援を巡る問題の影響等から南欧諸国等で一時やや高まりがみられたが、その後は低下し落ち着きを取り戻している(第1-1-15図)。その他の先進国はおおむね横ばいで推移し、安定している。

第1-1-15図 主要国の長期金利:12年秋以降は総じて安定

為替相場は、一部の新興国を除き、12年秋以降から13年初頭にかけて欧米の金融緩和策の影響等から増価した後、13年に入ってからはアメリカ経済の改善を背景に、総じて減価傾向で推移している(第1-1-16図)。

第1-1-16図 主要国の為替レート:総じて増価から減価傾向に

(2)比較的安定的に推移する国際商品市場

国際商品価格は、12年後半に高まる局面もみられたが、その後低下し原油価格を除き比較的安定した動きとなっている(第1-1-17図)。

原油価格は、12年末にかけて、アメリカにおける財政問題や各国景気の先行き不安等から下落したが、財政の崖の回避以降は13年2月にかけて上昇した後は各国の景気動向や投機的・地政学的要因の影響等から一進一退の動きとなっている。

農産品価格は、12年半ばにかけて干ばつの影響から上昇した後、供給懸念が若干和らぎ、大豆は12年秋頃から、小麦及びトウモロコシは12年末からやや低下し、その後はおおむね横ばいで推移している。

第1-1-17図 国際商品価格:依然として高水準ながら比較的安定

3.世界経済の見通しとリスク

(1)経済見通し(メインシナリオ)-13年後半にかけて次第に底堅さが増す

アメリカでは民需を中心に緩やかな回復傾向が続くとみられ、弱い景気が続いているヨーロッパ地域でも下げ止まりの兆しが一部に表れており、次第に底入れに向かうと期待される。中国経済もこれまでの拡大テンポの動きが安定化し、緩やかな拡大傾向に収束していくと考えられる。また、日本経済が一連の政策の効果を背景に世界経済の成長に寄与していくことが期待されている。このような主要国・地域の動きにけん引されて、貿易を通じてほかの新興国も含め世界経済は全体としても徐々に底堅さを増していくことが期待される。こうした中、13年にはおおむね2%台半ば程度の成長となることが見込まれる(第1-1-18図)。この数値は、国際機関や民間機関の見通しと比較してもおおむね整合的であるといえる(第1-1-19表、第1-1-20表)。

第1-1-18図 IMFによる各国地域の実質経済成長率見通しと世界経済へのインパクト
第1-1-19表 国際機関による見通し
第1-1-20表 民間機関による見通し

(2)経済見通しに係るリスク要因

中国では外需の停滞や不動産価格の高まりに加え、構造的な景気下押しリスクが懸念され、ヨーロッパでは政府債務危機が再燃するリスクも依然存在する。以下では、これらの世界経済へのリスク要因について概観する。なお、アメリカにおける財政問題の対応や金融緩和政策の出口のタイミングいかんによる景気への影響についても留意が必要である。

(i)中国経済の再減速

中国では、景気の拡大テンポは依然緩やかなものとなっていることに加え、ヨーロッパ経済の低迷が続くことなどにより輸出が下押しされるリスクがある。また、13年に入ってみられるようになった不動産価格の高まりが今後も継続した場合、不動産価格抑制策の強化等の実施や金融政策のかじ取りにも影響が出る可能性も考えられ、投資を中心に景気を下押しするリスクがある。加えて、人口の高齢化や賃金の上昇等の成長制約要因の強まりに対する懸念を背景に直接投資の伸び悩みが続く可能性もある。

(ii)欧州政府債務危機の再燃

ヨーロッパ地域では、被支援国の財政調整プログラムはおおむね順調に消化されており、金融資本市場も比較的落ち着きがみられるものの、一部の国々における財政の先行き不安が完全に払拭されているとまではいえず、政府債務危機は引き続きリスクとなっている。同時に、財政緊縮や高い失業率の継続等による、経済的・政治的な影響にも注視が必要である。

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