序
我が国は未曽有の国難にある。2011年3月11日の東日本大震災における地震、津波の被害、原子力発電所の事故や、それに伴うサプライチェーンの寸断や電力不足等に加え、経済の停滞や財政悪化等、震災発生前からの課題もあり、まさに複合危機ともいうべき状況に陥っている。
大震災に際し、我が国国民は、世界各国の人々から温かい援助を受け、多くの厚意に接した。他方、我が国が困難な事態に陥っているときも、世界経済の動きはとどまることなく、日々進み続けているのもまた現実である。アメリカ経済は、2008年9月のリーマン・ショックを契機とする世界金融危機から回復し、ヨーロッパ経済もドイツやフランスを中心に全体としては持ち直している。中国は、東日本大震災の前年、2010年に、我が国を追い抜いて世界第二の経済大国となり、更に高成長を続けている。一方、原油価格の高騰やヨーロッパのソブリン・リスク問題等、世界経済が直面するリスク要因も山積している。
今後、我が国が東日本大震災による打撃から立ち直り、再生する上で、こうした世界経済の流れを無視することはできない。成長戦略、エネルギー・環境戦略、財政運営戦略、いずれにおいても、世界経済の進んでいる方向を的確にとらえ、我が国の進むべき道を見定めていくことが必要不可欠である。また、世界経済の大きな流れに乗って、復興と再生に弾みをつけることも重要である。
今般の「世界経済の潮流」では、我が国再生の戦略を立案する上で不可欠な材料を供するため、第1章では、新興国の台頭により歴史的転換期にある世界経済の構造がどのような方向に向かいつつあるのか、今後10~20年を見据えた分析を行い、また、第2章及び第3章では、世界経済の景気動向や今後の見通し、リスク要因を検討している。我が国の進路誤りなきを期す上で、本分析が重要な役割を果たすものと確信する。