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第3章 世界経済の見通しとリスク

第4節 世界経済全体の見通しとリスク

2.経済見通しに係るリスク要因

 見通しに係るリスクは、以下の上振れ、下振れの両方があるが、リスクは下方に偏っている。

●下振れリスク

(i)ギリシャ財政危機のコンテイジョン(伝染)
 ギリシャ財政危機に端を発した金融資本市場の混乱により、他のヨーロッパ諸国の財政状況や、ヨーロッパ諸国の金融システムに対する懸念が高まり、金融資本市場の変動が深刻化する可能性がある。株価の下落が一層進めば、資産効果を通じて世界各国の個人消費の伸びを抑制するほか、好転しつつある家計や企業のマインドを低下させるおそれがある。また、ユーロの下落により、EU向け輸出の割合が2割を占めるアメリカ、中国等で輸出が減速する可能性がある。こうしたことから、ヨーロッパを震源に、再び景気が世界的に低迷するおそれがある。

(ii)緊急避難的な財政・金融政策の拙速な転換による景気の腰折れ
 世界金融・経済危機の発生後、各国政府・中央銀行が行ってきた、前例のない規模の財政拡大、金融緩和は、各国経済を下支えしてきたが、これらの政策を転換していく過程で、財政再建や金融引締めを開始するタイミングが早すぎたり、速度が速すぎたりした場合には、景気回復を阻害する可能性もある。

(iii)原油価格の上昇
 原油価格は、10年に入り、緩やかな上昇基調で推移し、4月には85ドル超となり、5月半ばには70ドル程度となっている。景気の回復に伴って原油価格が上昇していく場合には、交易条件の悪化を通じて、原油輸入国(特にアメリカ)の消費を押し下げるおそれがある。

●短期的な上振れリスク

(i)アメリカにおける消費の高い伸び
 アメリカでは、10年に入ってから貯蓄率が低下し、家計のバランスシート調整が十分に進まないまま消費の伸びが高まってきている。こうした状況が今後も続く場合には、アメリカ向け需要の拡大により、短期的には、世界経済の景気回復が加速する可能性がある。
 ただし、中期的には、アメリカの経常収支赤字が再び拡大するなど、グローバル・インバランスの問題が深刻化し、新たなリスクを生む可能性がある。

(ii)中国、インドを中心とした新興国における資産価格等の上昇
 中国では、緩和的な金融政策が続いてきたことや、海外からの資本流入を背景に、資産価格が上昇している。インドにおいても、需要の回復などから物価が上昇するなど、アジア新興国を中心に、資産価格の上昇や物価の上昇がみられる。資産価格の上昇が、今後も続く場合には、資産効果を通じて短期的には成長率を高める要因となる。
 ただし、中期的には、資産価格の上昇やインフレの進行を放置した場合、後で大幅な金融引締めを行わざるを得なくなり、資産価格が急激に下落し、実体経済に悪影響を及ぼす可能性がある。


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