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第2章 新興国経済:金融危機の影響と今後の展望

第2節 新興国経済の動向

2.中・東欧経済の動向

●多くの国で景気は後退し、一部では急速に深刻化
   世界金融危機の影響は、中・東欧経済(7) にも現れている。中・東欧経済の状況は一様ではないが、07年夏以降の金融市場の混乱を受けて景気は減速し、08年9月に世界金融危機が発生すると、株価や通貨が急落し、景気は急速に悪化した。10〜12月期には金融危機の深刻化や世界的な貿易の縮小の影響等から、生産や輸出が大幅に減少、多くの国で景気は後退した。特に、バルト三国(エストニア、ラトビア、リトアニア)では景気は急速に深刻化しており、また、ハンガリー、ウクライナ、ラトビア、ルーマニアのように、金融危機の影響からIMFによる金融支援を受ける国も出てきている(第2-2-22図第2-2-23表)。

●世界金融危機の影響と中・東欧経済のぜい弱性
   中・東欧経済が金融危機の影響を受けた背景には、金融と貿易の両面におけるぜい弱性があると考えられる。中・東欧経済の先行きをみる上では、こうした経済構造上の問題に留意することが重要である。以下、順にみていく。

(1)金融面でのぜい弱性

(i)経常収支赤字と西欧先進国によるファイナンス構造
   中・東欧諸国は、経常収支が大幅な赤字で推移してきた。この経常収支赤字のファイナンスを、主に西欧先進国(8) からの資本流入によりまかなってきたとみられる。資本流入の内訳をみると、銀行融資や本支店間の振替を含む「その他投資 (9)」が西欧先進国の金融機関がレバレッジを拡大させ始めた05年頃から増大してきた(10) (第2-2-24図)。中・東欧諸国には外貨準備が少ない国も多く(前掲第2-2-23表)、短期資金の引揚げに対してぜい弱であるとみられ、金融危機の深刻化により西欧先進国からの資金がさらに引き揚げられた場合、金融面での不安定性が高まることが懸念される。
   中・東欧諸国が西欧のどの国からの借入れに依存していたかをみると、例えばバルト三国はスウェーデンから、チェコ、ルーマニア等はオーストリアからの借入れが多くなっている。また、多くの国で自国のGDP規模以上の借入れを行っている(第2-2-25表)。

(ii)国内の金融セクターと住宅バブル
   国内に目を向けると、中・東欧諸国の金融セクターは、預貸率(11) が高い国も多く、こうした国々では、銀行が貸出の原資を銀行間の短期金融市場や西欧先進国の金融機関に依存していた(第2-2-26図)。
   貸出の内訳をみると、ここ数年、バルト三国を中心に企業向けや住宅ローンが名目GDPの伸びを上回る著しい伸びを示しており、景気拡大と同時に国内でバブルが形成されていた可能性が考えられる。現下の局面では金融危機の影響に加えて、国内でもバブルが崩壊し、景気の悪化に拍車をかけている(第2-2-27図)。
   また、外貨建て債務の割合が高い国(12)では、通貨の急落によって自国通貨建てでの返済負担が増加することも、状況を深刻化させていると考えられる(第2-2-28図)。

(2)貿易面でも西欧に依存

   次に、実体経済面、とりわけ貿易における影響をみると、中・東欧諸国の輸出は、EU域内向けが7〜8割であり、輸出の名目GDP比はEU平均(31.5%、07年)と比べても高い国が多い。また、輸出の最終需要地はEU域内、特にユーロ圏が多く、貿易面でもこうした国との結び付きが強い。金融危機による西欧先進国の需要減退の影響を受け、08年9月以降は多くの中・東欧諸国で輸出や生産が減少している。特に、輸出に占める自動車のシェアが高いポーランド、チェコ、ハンガリー等では、輸出の落ち込みが▲15〜▲10%程度と顕著である(第2-2-29表)。

●経済政策運営上のジレンマ
   なお、金融危機下で自国通貨が売り込まれたことなどから、中・東欧諸国では、通貨ユーロの早期導入論が高まっている。しかし現実には、景気の悪化や財政赤字の拡大等に伴い、ユーロ導入のための収れん基準(13)を満たすことが更に困難になっているとみられる。ユーロ導入により外貨建て債務の解消や自国通貨の安定を図りたい中・東欧諸国の意向に対し、欧州委員会は今のところ同基準の緩和には慎重な態度を崩していない。

●中・東欧諸国の景気回復は西欧先進国次第
   09年4月に入ると、中・東欧諸国の株式、為替市場等の急激な変動は一服しつつあるものの(第2-2-30図第2-2-31図)、上述のような様々な不安定要素を抱えているため、今後も、リスク懸念の高まりから資金の流出が加速し、通貨安・株安が更に進む可能性も考えられる。また、貿易面でも中・東欧諸国の景気が自律的に回復することは難しいため、主要な輸出先である西欧諸国の内需の回復を待つことになる可能性が高い。
   このように、中・東欧経済は様々な困難に直面しているが、この地域は安価で良質な労働力(14) を有しており、EU域内市場の統合が進む中で魅力的な生産拠点であることなどから、潜在的な成長力はあると考えられる。当面はEUやIMF等による金融支援を受けながら経済を安定化させつつ、中長期的にはこうした素地も活かして成長の芽を育てていくことが望まれる。


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