第2章 新興国経済:金融危機の影響と今後の展望 |
第1節 新興国経済が金融危機の影響を受けた背景
2.金融面での統合の進展
●新興国への資金フローの拡大と欧米の金融機関の影響の高まり
金融面では、グローバル化の進展や金融イノベーションを背景に、国際的な資金フローが拡大しており、新興国をめぐる資金フローについても急速に拡大している。
新興国への民間資金フロー(流入)の推移を見ると、02年以降大幅に拡大しており、02年の1,480億ドル(GDP比2.4%)から、07年には約1.4兆ドル(同10.9%)へとわずか5年の間に約10倍に拡大しており、先進国等からの資金が大きな影響を与えるようになっている(第2-1-6図)。他方、新興国からの資金フロー(流出)についても、02〜07年の間に約12倍に拡大しており、まだ規模としては小さいながらも、経済の成長に伴い、新興国の金融機関や企業の活動も広がっていることが金融面からも分かる。
資金フローの内訳をみると、直接投資の他、証券投資、その他の投資といったすべての分類において、資金フローが拡大しているが、02年以降の急拡大の特徴としては、その他投資の伸びが著しいことが挙げられる。
こうしたその他投資の急拡大は、主に、海外からの銀行融資、とりわけ、欧米の金融機関による融資拡大によるものと考えられることから(5) 、金融危機発生に伴い、今回の欧米発の危機が新興国に波及する主要な経路となったと考えられる。
また、新興国の金融市場においては、海外の金融機関、特に、グローバルに活動する欧米の金融機関の活動が拡大している。外国の金融機関による新興国への債権残高(GDP比)の推移をみると、残高は03年以降高まっている。地域的にはばらつきがみられるが、とりわけ、中・東欧諸国において、残高の増加が著しく (第2-1-7図)、中・東欧諸国が、金融危機の影響を強く受けた原因となっていると考えられる(6) 。
●国際的な金融市場の連関の高まり
また、世界的な金融統合の高まりにより、世界の株式市場の相互連関が強まっている。例えば、新興国の株式市場は世界的な金融市場との連関を高めており、今回の金融危機においては、先進国発の金融危機が、新興国の株価を通じて新興国へと波及したことが指摘されている。
IMFは01年以降の新興国30か国の株価について分析し、新興国の株価の決定要因として、当該国の経済成長率や各国の金融市場の深化といった国内要因に加え、世界的な流動性、信用リスクや市場リスクに係るプレミアムといった外的要因の影響を強く受けていることを示している(7) 。こうした結果からは、金融危機発生に伴う世界的な流動性の縮小やリスクの高まりが、株価の下落という経路を通じて、新興国へと波及したことが示唆される。
●欧米発の危機の伝ぱ
今回の世界的な金融危機の発生に際して、新興国の金融機関においては、アメリカの証券化商品等の保有は限定的であり、バランスシートも比較的健全であった。また、当局も、これまでの金融危機の経験を踏まえ、為替制度の見直しや外貨準備の蓄積等を進め、金融面でのファンダメンタルズは改善していた。
しかしながら、これまでの先行研究では、ある国において発生した危機が、「共通の貸手(common bank lender)」の存在により、他の国にも伝ぱし得ることが知られている(8) 。今回の欧米発の金融危機に際しては、証券化商品の下落等による損失を被った欧米の金融機関が、先進国と新興国における「共通の貸手」となっていた結果、欧米の金融機関におけるバランスシートの圧縮の動きやリスク回避的な投資行動を通じて、新興国にも金融危機が伝ぱすることとなった(9) 。
具体的には、08年に入ってから、欧米の金融機関による「高レバレッジの解消」や「質への逃避」の動きは徐々に現れていたが、08年9月のリーマン・ショックを受けて、こうした動きが加速度的に進行し、新興国向けの証券投資やその他投資の流れが急速に逆回転した結果、新興国は、通貨や株価が急落に直面するとともに、新興国企業の対外借入れが制約を受けることとなった。先行きについても、欧米の金融機関の高レバレッジ解消の動きが続くことから、新興国への証券投資やその他投資は流出が続き、こうした資金フローを通じた新興国市場へのストレスは当面持続するものとみられる。IMFの見通し(10) でも、新興国への証券投資やその他投資は、10年においても前年比で流出が見込まれている。