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第2章 新興国経済:金融危機の影響と今後の展望

第1節 新興国経済が金融危機の影響を受けた背景

1.実体経済面の影響

●貿易を通じた相互依存の高まり
   実体経済面では、グローバル化が進展する中で、貿易及び投資の拡大という形で、新興国経済と世界経済の結び付きが強まっている。
   貿易についてみると、世界貿易は、1990年代以降高い伸びを続けており、とりわけ、02年以降の持続的な景気拡大局面において大幅に伸びを高めている。その結果、貿易額(通関ベースの輸出額と輸入額の合計)の名目GDP比は01年の39.3%から08年には52.3%にまで上昇しており、各国間で需要の相互依存が高まっていることが分かる。
   こうした中で、新興国の貿易は、世界貿易の伸びを更に上回るペースで拡大しており、新興国は、貿易を通じて世界経済の影響をより強く受けるようになっている。輸出額の名目GDP比をみると、01年の28.4%から08年には34.9%まで高まっており(第2-1-1図)、地域別にみると、もともと比率の高かったアジア新興国においては、域内の分業体制の構築が進んでいることなどから、また、中・東欧では、EU拡大の進展等を受けて、比率が急速に高まっている。他方、中南米については、90年代に比率は高まったものの、2000年代に入ってからはほぼ横ばいで推移している。
   このように貿易における相互依存が高まる中で、金融危機後の世界的な景気後退の影響を受けて、新興国の輸出は、08年9月以降急減速し、前年比で減少に転じている。また、見通しについても、09年の世界貿易は、第二次石油危機直後の82年以来初めての減少となると見込まれる(3)。こうした中で、新興国の貿易についても大幅に縮小し、アジア、中・東欧の財輸出は09年は二けたのマイナス、中南米でも4%程度のマイナスとなる見込みである(第2-1-2図)。
   こうした貿易の収縮は、既に、世界中で生産の大幅な減少につながっており、とりわけ、輸出の名目GDP比の高い国において、実質経済成長率の低下が大きくなる傾向がみられる(第2-1-3図)。

●先進国の需要の影響の強まり
   また、こうした貿易を通じた新興国への影響は、金額的なインパクトが高まっているだけでなく、新興国の輸出が、先進国の需要の動向に対して敏感になっていることを通じても強まっている。欧米の輸入の伸びと新興国の輸出の伸びの相関をみると、例えば、アジアの輸出の伸びとアメリカの輸入の伸びの相関は、90年代の0.41から2000年代以降は0.84にまで高まっている(第2-1-4表)。すなわち、2000年代の新興国の輸出拡大は、先進国の需要拡大によって支えられていたと考えられ、今回、新興国が先進国発の危機の影響を強く受けたことの原因となっていると考えられる。

●直接投資を通じた影響
   さらに、貿易だけでなく、投資を通じても新興国と先進国経済との統合が進んでいる。新興国の対内直接投資受入額の推移をみると、投資自由化の進展や新興国の高い成長への期待から、90年代以降拡大傾向にあり、とりわけ、03年以降伸びが加速している(第2-1-5図)。地域別の内訳を見ると、アジアが全体の半分を占めており、また、シェアは小さいものの、このところ中・東欧の伸びが顕著に高まっている。
   こうした直接投資の拡大は、新興国における投資を加速させ、中長期的な成長力の向上にも寄与してきたと考えられるが、こうした直接投資資金の流れについても、08年9月以降、伸びが大幅に鈍化している。また、先行きについても、IMFの見通し(4) では、09年全体を通したネットの直接投資は08年の約4,600億ドルから約3,100億ドルへと3割以上減少することが見込まれており、投資を通じても、金融危機の影響は増幅されるものとみられる。


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