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第2章 新興国経済:金融危機の影響と今後の展望

   新興国経済 (1)は、2002年以降、世界経済が持続的に拡大する中で、急速な経済成長を遂げ、世界経済に占めるウェイトを一段と高めてきた。とりわけ、BRICsと呼ばれる国々の成長は目覚ましく、その中でも、中国、インド、ロシアの3か国については、世界全体を大幅に上回る成長を遂げてきており、世界経済における影響力を急速に高めている(2) 。こうした高成長を背景に、08年9月の金融危機発生以前には、一部のエコノミストの間で、新興国経済は、先進国経済が減速しても、その影響を受けず、高い成長を維持し、世界経済をけん引するといった、いわゆる「デカップリング論」も議論されていた。
   しかしながら、世界金融危機発生以降の新興国経済の動向をみると、欧米諸国発の金融危機の影響を強く受け、多くの国で深刻な景気後退に陥っている。金融面では、欧米金融機関のレバレッジ解消を受けた資金の引揚げや質への逃避等による影響、実体経済面では、欧米の景気後退による輸出の急速な減少や一次産品価格の下落の影響が顕著に現れている。顧みれば、グローバル化による活発な貿易・投資や欧米市場との強い結び付きこそが新興国の高成長の原動力でもあった。世界金融危機は、改めてその事実を認識させたともいえる。
   本章では、まず、第1節において、新興国経済が金融危機の影響を受けることとなったメカニズムを分析する。その上で、第2節において、新興国経済の現状と金融危機の影響について、アジア、中・東欧、中南米の各地域に分けて概観する。さらに、新興国の中でも、特に経済規模の大きい中国、インド、ロシアの3か国を個別に取り上げ、最近の経済動向と金融危機の影響を分析する。中国、インドが減速しつつも相対的に高い成長率を維持する一方で、ロシアについてはマイナス成長に落ち込むなど、経済状況に顕著な差異が生じている。また、中国の内需主導型経済成長への転換を始め今後の持続的な経済成長に向けた課題についても分析を行う。

第1節 新興国経済が金融危機の影響を受けた背景

   新興国経済は、世界金融危機の影響を強く受けており、輸出の大幅な減少から、景気は急速に減速し、多くの国において深刻な景気後退に陥っている。金融面でも、新興国の金融機関はアメリカの証券化商品をほとんど保有しておらず、金融危機の直接的な影響は軽微であったにもかかわらず、これまで拡大を続けてきた先進国からの資金フローが逆流し、株価・通貨の急落や対外的な借入制約に直面している。
   このように新興国経済が金融危機の影響を強く受けることとなった背景には、グローバル化の進展に伴い、新興国についても、世界経済や世界の金融市場との結び付きが一段と強まっていることがある。実体経済の面では、貿易や投資の拡大、金融面では、国際的な資金フローの拡大等を通じて、欧米との相互依存を深めていたことが、今回の欧米発の金融危機の新興国への伝ぱを引き起こしたと考えられる。


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