目次][][][年次リスト

第2章のポイント

1.金融危機の影響を受ける新興国経済

● 新興国経済が金融危機の影響を強く受けた背景は、新興国と世界経済の結び付きの強まり。実体経済の面では、貿易や投資の拡大、欧米市場との強い結び付きを通じて、金融面では、先進国からの資金フローを通じて、先進国経済との相互依存が高まっていた。これが2000年代における新興国の高成長の原動力であると同時に、金融危機の影響が深刻化した要因。
● アジア新興国は、金融危機の影響を受け、輸出や生産が急減しているが、輸出の名目GDP比や輸出品目等の違いにより、景気への影響に差異。
● 中・東欧諸国は、大幅な経常収支の赤字を西欧の金融機関からの資金でファイナンスしてきたが、金融危機の発生により資金が逆流。多くの国で景気が後退するとともに、一部の国はIMFからの支援対象に。
● 中南米は、輸出の拡大、一次産品価格の上昇、資金流入拡大により、急速な経済成長を遂げてきたが、足元では、これらの要因が全て逆回転。とりわけ、アメリカ経済の影響が大きいメキシコでは、景気が急速に悪化。
● ロシア経済は、原油価格急落と世界金融危機により景気後退が深刻化。輸出が大幅に減少するとともに、株価やルーブルが急落。

2.世界的な景気後退と中国

● 中国経済は、世界金融危機の影響により、景気は一段と減速したが、足元では、景気刺激策の効果により、持ち直しの動き。輸出部門の生産は落ち込んでいるものの、4兆元の内需拡大策の効果により、固定投資の伸びが加速するなど、内需は堅調に推移。
● 中国が危機の影響を大きく受けた一因は、輸出・投資依存型の経済構造にある。中国のGDPに占める消費の割合は、他のアジア諸国と比べても低く、安定的な成長のためには、消費主導の成長への転換が必要。
● 消費拡大のためには、以下の2つが必要。
   (1)拡大を続けている都市部と農村部の格差の是正が必要。農村部における耐久費財の潜在的な需要は大きく、所得が高まれば、し好品の消費も拡大する可能性。
   (2)中国では、家計貯蓄率が更に上昇。過剰貯蓄の背景には、社会保障制度が未整備であり、医療費が高いことなどが挙げられ、消費拡大のためには、社会保障制度の整備が必要。

3.世界金融危機とインド

● インド経済は、金融引締めの強化に世界金融危機の影響が加わって、一段と減速。しかしながら、個人消費を中心とした内需に支えられ、相対的に高めの成長率を維持。
● 輸出の名目GDP比が低いことから、世界金融危機の貿易を通じた影響は相対的に小さい。また、近年、貿易に占める中国のシェアが上昇しており、内需の強い中国とインドの間で需要を補完する動き。
● インド経済は、今後も持続的な成長が期待され、経済規模を購買力平価で評価した場合、2013年には日本を追い抜く見込み。
● インドでは、労働力人口が安定的に拡大することが見込まれる上、資本の面でも、貯蓄率の上昇に伴って投資率が急速に上昇していることから、中長期的な潜在成長力は高まっている。
● 他方、中長期的に持続的な成長を続けていくためには、(1)格差の是正、(2)雇用機会の創出、(3)インフラの整備等の課題。


 

目次][][][年次リスト