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第1章 先進国経済:金融危機による景気後退の深刻化

第2節 アメリカの景気後退の深刻化と金融危機の長期化

1.厳しさを増すアメリカ経済

●内需の低迷により成長率は大幅なマイナス
   アメリカの景気は後退しており、金融危機と実体経済の悪循環により深刻な状況にある。08年の実質経済成長率は1.1%となり、前回の景気後退期に当たる01年(0.8%)以来の低成長となった。四半期別の動きをみると、08年7〜9月期以降、3四半期連続のマイナス成長となり、特に08年10〜12月期以降は、第二次石油危機後のスタグフレーション下にあった1982年1〜3月期(前期比年率▲6.4%)以来の大幅なマイナス成長が続いている(第1-2-1図)。
   需要項目別にみると、内需は08年4〜6月期以降、4四半期連続のマイナスが続いており、09年1〜3月期は前期比年率▲7.5%となるなど、80年4〜6月期(同▲11.3%)以来の大幅なマイナスとなっている。住宅投資では06年1〜3月期以来、13四半期連続で二けたのマイナスの伸びが続いている。GDPの7割を占める個人消費は、原油価格高騰等に伴う物価上昇の影響や、雇用情勢の急激な悪化等により、08年7〜9月期、10〜12月期と、3〜4%台の大幅なマイナスとなったが、09年1〜3月期は、特殊要因や前期までの大幅減に対する反動等により前期比年率1.5%となり、3四半期ぶりにプラスに転じている。また、設備投資についても、機械・ソフトウェア投資、構築物投資等、構成項目が総じて大きく落ち込んだことなどから、09年1〜3月期には前期比年率▲36.9%となり、過去最大の大幅なマイナスとなった。このため、内需は、08年7〜9月期には前期比年率▲1.5%、同年10〜12月期には同▲5.9%、09年1〜3月期には同▲7.5%と、大きく減少している。
   一方、外需については、07年半ば以降、ドルの減価の影響等もあって輸出が伸びるとともに、民需の低迷から輸入が大きく減少したため、1%前後から2%を超えるプラスの寄与が続いてきた。この間、内需については上述のようにほぼマイナスの伸びが続くなど低迷しており、アメリカ経済は外需依存型の成長パターンだったといえる。08年10〜12月期には、海外需要の減退による輸出の減少が民需の低迷による輸入の減少を上回ったことから、外需の前期比年率寄与度は▲0.2%となったが、09年1〜3月期には同2.2%となるなど、再びプラスとなっている。

●需要低迷を反映し、生産活動は大きく縮小
   内外における需要の大幅な低下を受けて、生産は大幅に減少している。07年12月をピークに生産は減少に転じ、09年1〜3月期には02年1〜3月期以来の生産水準まで低下している。特に、自動車部門は、自動車販売の不振もあり、08年春以降、前年同月比で二けたのマイナスが続くなど大幅な生産調整が行われている。また、比較的安定していたハイテク部門についても、08年秋以降、減産が続いている。
   製造業の出荷・在庫バランス(出荷の前年比−在庫の前年比)をみると、07年末以降、出荷は前年比で増加していたものの在庫の伸びが加速したことから、出荷・在庫バランスはマイナスに転じた(第1-2-2図)。さらに08年半ば以降は、厳しい生産調整を受けて、在庫の圧縮が続いているものの、出荷が前年比でマイナスに転じたことから、出荷・在庫バランスは大幅なマイナスで推移しており、在庫の調整局面が続いている。ただし、09年に入ると、出荷・在庫バランスのマイナス幅が縮小に向かっており、在庫調整の進展の動きもみられる。
   企業の設備稼働率も大幅に低下している(第1-2-3図)。製造業では、近年8割近くまであった稼働率が、09年4月には65.7%と1948年の統計開始以来の最低水準を更新した。特に販売が大きく低迷している自動車産業については、一時、4割を下回る水準(09年1月:37.8%)まで低下した。こうした中、企業マインドについては、08年を通じて景況判断の境目となる基準を大きく下回っており、過去最悪の水準にまで急速に悪化した(第1-2-4図)。09年に入ってからは、製造業部門を中心にマインドの改善が続くものの、依然としてその水準は低い。

●急速に悪化した雇用情勢
   景気後退の深刻化は、雇用情勢にも現れている。非農業部門雇用者数は、08年9月以降、減少幅が急激に拡大しており、08年11月以降6か月連続で前月比50万人超の減少となった。また、失業率についても、08年半ば以降急上昇し、09年4月には8.9%と、83年9月(9.2%)以来の高水準となっている。こうした雇用情勢の急速な悪化は、所得の減少を通じて、個人消費を抑制することが懸念される(詳細については、後述の「3.雇用情勢の悪化と政策対応」「4.消費の減少」を参照)。

●縮小する貿易収支赤字
   内外の需要が低迷する中、貿易収支赤字は、このところ急速に縮小している。08年の貿易収支赤字(国際収支ベース、季節調整済)の推移をみると、10月までは毎月600億ドル前後の水準が続いていたが、11月には424億ドル、12月には399億ドルとなるなど、大きく減少している。09年2月には、前月比▲27.9%の261億ドルとなり、99年11月以来の低い水準となった(第1-2-5図)。08年8月以降、輸出、輸入ともに減少傾向が続いているが、輸入額の減少幅の方が輸出額の減少幅よりも大きいため、貿易収支の赤字幅は縮小している。輸入額が大幅に減少している要因としては、アメリカの景気後退が急速に深刻化し、国内需要が海外需要以上に減少していることに加え、08年夏を境に原油価格が大きく下落したことから、原油・石油製品を中心に工業原材料の輸入額が大幅に減少していることなどが挙げられる。

●経済指標は歴史的にみて長く深い景気後退を示唆
   今回の景気後退は、過去の景気後退と比べ、どの程度深刻なものとなっているのであろうか。まず、景気後退の長さについてみると、現在の景気後退期間は07年12月から始まっており、09年5月で17か月目となり、これまで戦後最長とされていた第一次石油危機後の景気後退(73年11月〜75年3月、16か月)、第二次石油危機後のスタグフレーションと金融引締めによる景気後退(81年7月〜82年11月、16か月)を超える景気後退となっている。また、景気後退の深さについても、過去の景気後退局面における経済指標の動きと今回の景気後退を比較してみると、今回の主要な経済指標(実質経済成長率、住宅着工件数、鉱工業生産指数、失業率)は、いずれも、第一次石油危機後の景気後退時と同等か、もしくはこれを上回る速さで悪化している(第1-2-6図)。アメリカ経済の先行きについては、金融市場の動揺が継続していることなどから、景気後退が長期化するリスクが高い。


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