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第2章 2008年の経済見通し


第4節 世界経済の連関

2.2000年代に入って連関の強まっている主要地域の景気変動

   次に、近年における世界の各地域の景気とアメリカ景気との連関をみてみよう。

2000年代に入って連関の強まっている主要地域の景気変動

   近年における世界経済の成長率の推移をみてみると、02年以降のアメリカ経済の回復・拡大が、先進国を中心に世界経済全体の成長率を大きく左右してきたことが分かる。新興国・途上国についても、全体としてみれば、アメリカ景気の動きと相似している(第2-4-10図)
   また、より長期でみても、アメリカが景気後退に陥った年(図では、景気後退の影響が暦年ベースのアメリカの成長率に明確に現れている年として、1980年、82年、91年、01年を景気後退の年として示した。)においては、先進国、新興国・途上国、その合計としての世界経済全体としても減速している(第2-4-11図)
  各国の成長率のアメリカとの相関をみても、2000年代は、80年代、90年代と比べてもアメリカを軸にして景気循環の連動性が高いものとなっている(第2-4-12表)
  このように2000年代において世界景気が連動している背景としては、経済のグローバル化により各国景気の連動性が高まった面と、2000年代固有の要因があると考えられる。まず、2000年代においては、アメリカ景気が回復・拡大する一方で中国を始めとするBRICs等の新興国で景気拡大が顕著であったことや、第1章でみたように、世界的に潤沢な資金供給が長期金利を抑制したことが世界の多くの国で住宅ブームを生じさせるなどして世界景気を下支えしてきた面があると考えられる。また、アメリカ以外の世界の主要な地域において景気を押し下げるような大きな固有のショックがあまり生じてこなかったため、結果的に各地域の景気の連動性が高くなっている面も大きいと考えられる(これに対し、90年代は、アメリカが120か月に及ぶ戦後最長の景気拡張期間を経験したのに対して、アジアでは、日本のバブル崩壊やアジア通貨危機等から、日本やNIEs、ASEANとアメリカの景気はむしろ逆相関となっている。)。

世界経済の直面する三つのショック((1)アメリカの実体経済の減速、(2)国際的な金融資本市場の混乱、(3)資源・商品価格に先導された物価上昇)

  では、08年の世界経済はどうだろうか。第1章でみた世界的に潤沢な資金供給については、グローバルな資金供給を支えたアジア新興国や中東の貯蓄超過、世界的な金融緩和は継続しており、今後も世界景気を下支えしていく可能性が高いと考えられる。一方、世界経済に大きな影響を与えうる三つのショックの影響をどう考えるかが重要であると考えられる。
  第一は、アメリカ実体経済の減速の影響、特に貿易面を通じた波及である。アメリカの景気は弱含み、後退局面入りの懸念も生じており、これまでみてきたように各地域ともアメリカ向けの輸出の減速が顕著となっている。世界経済で大きなシェアを占めるアメリカの景気減速は、こうした貿易面の結び付き等を通じて、世界の各地域に共通する景気の押下げ要因として作用していると考えられる。また、既にみたように、日本を含む東アジアは、中間財、資本財を中国に供給することにより、中国をハブとした国際分業関係を形成している。アジア各国からの中国向けの輸出は全体としては堅調に推移しているが、中国のアメリカ向けの輸出の減速を受けて、今後アジア各国から中国向けの輸出に影響が出てくる可能性もあると考えられる。
  第二に、サブプライム住宅ローン問題に端を発する国際的な金融資本市場の混乱が、国により程度の相違はあるものの、各国の実体経済に直接に影響すると考えられる。本章でみてきたように、中国等のアジアでは、金融面からの混乱の波及は限定的と考えられるが、ヨーロッパでは金融資本市場の混乱が波及し、景況感を悪化させている。
  世界経済が直面している以上の二つのショックは、基本的にはアメリカ発のものであり、既に世界の多くの地域の経済を減速させる方向に作用してきていると考えられる。加えて、現在世界経済が直面している第三の大きなショックは、原油価格を始めとした資源・商品価格の高騰である。これは、上記二つのショックと異なり、影響の方向性が国、地域によって異なる。すなわち、交易条件の変化を通じて、これら産品の輸入国から輸出国への所得移転をもたらし、輸入国の景気を抑制する一方で輸出国の景気を押し上げるため、世界景気の連動性を低める方向に作用する可能性もある。しかし、これまで本章でみてきたように、世界経済の中でも大きなウェイトを占めるアメリカ、ヨーロッパ、アジアいずれの地域においても、国際的な資源・商品価格の上昇を受け、消費者物価が上昇し、消費者のマインドが悪化しているため、これまでのところ、物価面からのショックは、こうした主要な地域の景気を押し下げる方向に作用していると考えられる。
  現在世界経済が直面している以上の三つの大きなショックを総合的に勘案すると、全体としては、08年は、世界の主要な地域の景気を押し下げる方向に作用する可能性が大きく、結果的に、各地域の景気が連動性をある程度は保ちつつ減速していく可能性があると考えられる。以上を踏まえて、次節では、当面の世界経済の見通しをみていきたい。


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