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第2章 世界経済の見通し

第2節 先行きリスク要因

 上記の中心シナリオに対して世界経済を取り巻く環境には異なる成長経路をもたらす幾つかのリスクがある。場合によっては中心シナリオが想定する成長率を下回るような事態も考えられる。

●リスク1:原油価格高騰
 2005年に入ってからも原油価格は過去最高の水準を更新し続け、世界経済に与える悪影響が懸念されてきた。ただ、各国のエネルギー効率改善に向けたこれまでの取組等もあり、現在までのところその影響は限定的なものとなっている。しかしながら、06年に入ってもイランの核開発問題に代表される地政学的リスクが引き続き存在するほか、種々の要因によって原油価格は高水準にあり、06年4月末現在70ドルを上回る水準が続いている(第2-2-1図)。第1章でみたように、原油価格の上昇が世界の物価に及ぼす影響は低下しているものの、原油価格高騰がさらに続き長期化した場合、産油国への所得移転効果による購買力の喪失や波及効果による物価上昇率の加速、政策金利の引上げによる長期金利の上昇等、様々な経路を通じて世界経済の減速を引き起こす可能性は否定できない。既に述べたように、特に現在の世界経済の回復をけん引する原動力にもなっているアメリカや中国にその影響が強く現れる場合には、世界経済全体への悪影響が懸念される。

●リスク2:アメリカ経済の失速
現在の世界経済はアメリカ経済の景気拡大に依存する形での景気回復を続けており、アメリカ経済の変調は直ちに世界経済全体に影響を及ぼすことになる。
中心シナリオでは06年のアメリカ経済は潜在成長率程度の成長を遂げることを想定している。しかし既にみたとおり、コア・物価上昇率は落ち着いた動きにとどまっているものの、失業率が5%を切って推移し、時間当たり賃金もそれに伴って上昇するなど物価上昇圧力は高まってきており、金利引上げを通じた金融政策の運営についてFRBと市場参加者との間の意思疎通に問題が生じると、予期せぬ経済の減速が発生する可能性もある。例えば期待インフレ率が急激に上昇した場合等には、長期金利の急上昇等を通じて、景気を減速させる可能性がある(第2-2-2図)
その他にも、アメリカ家計資産における不動産資産の占める割合は一貫して上昇していることから(05年末までで33.7%)、住宅価格の急激な下落が逆資産効果の発生と消費へのマイナスの影響を通じて、景気を減速させるリスクがある。
また、リスク要因1及び3として挙げている原油価格の高騰、為替レートの急激な調整等も、インフレ圧力の急激な高まりやドルの信頼性の低下をもたらすことにもなりかねない。その場合、最終的にはアメリカ経済の減速をもたらす可能性が存在し、世界経済全体にも大きな影響を与えることになる点に留意する必要がある。

●リスク3:為替レートの急速な調整と長期金利の上昇
アメリカの経常収支赤字と財政赤字、特に前者は過去の実績と比較しても持続可能でない水準に達しているとの指摘もあり、それがドルに対する信頼性を急激に損なわせる懸念も存在する(第2-2-3図)。これら双子の赤字の長期的な維持可能性については様々な解釈が可能であろうが、市場関係者の評価としてドル保有のリスクが表面化するような場合には長期金利が上昇し、世界的な資金の流れが滞り、アメリカの資金需要を支えきれなくなるおそれがある。
また、アメリカの長期金利は、政策金利の引上げにもかかわらず歴史的には依然として低い水準にあるものの、06年に入ってからは上昇傾向にあり、4月上旬には2年6か月ぶりに5%を超えた(第2-2-4図)。この背景には欧米等を中心とした政策金利の引上げや、アメリカのFOMCにおけるインフレ圧力の警戒姿勢が依然維持されていることで金利引上げの打止め時期が明確でないこと等があるとされており、長期金利は既に世界的に徐々に上昇する動きがみられる(第2-2-5図)。今後、仮に長期金利が急上昇した場合には、双子の赤字を持続不可能なものとし、アメリカ経済の失速を通して世界経済へ悪影響を与えるおそれがある。
 なお、アジア主要国でも輸出や生産の拡大により景気が堅調に推移する中、世界的な金融引締めや長引く原油価格高騰によるインフレ圧力を背景に、押並べて政策金利を引き上げている。タイ、台湾では04年後半より、韓国、マレーシア、インドネシアでは05年後半より断続的な利上げを実施している(第2-2-6図)。各国の利上げ時の中銀声明をみると、総じて原油価格高騰等による将来のインフレ圧力を懸念している。こうした措置により、各国の物価は高い水準ながらも落ち着きを取り戻しつつある。しかし、韓国では利上げ後ウォン高となり今後の輸出への影響が懸念されるなど、利上げによる為替及び景気への影響は注意が必要であろう。


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