補論 財政指標の解説
財政収支に関する議論では、一般政府部門(中央政府、地方政府、社会保障基金)の歳入から歳出を控除したものを財政収支ととらえることが多いが、本章で触れられているように様々な概念の財政指標が目的に応じて用いられている。以下では、それらについて簡単に紹介する。
●構造的財政収支と循環的財政収支
財政収支は、税収など景気変動に応じて変動する部分である「循環的財政収支」と、循環的財政収支を除いた部分である「構造的財政収支」に分けることができ、構造的財政収支は、財政政策のスタンスを表すものと考えられる。
循環的財政収支赤字は、不況期には税収が減少し、失業手当等の歳出も増加することから拡大するが、景気がよくなると縮小する。一方、構造的財政収支赤字は、景気がよくなっても解消されない赤字であり、政府が歳出削減策ないし歳入増加策を実施しない限り改善しないと考えられる。
循環的財政収支や構造的財政収支は、OECDやIMFなどが推計しているが、推計する機関によりかなり異なることがある。これは循環的財政収支などの推計にあたっての前提等の違いによるものと考えられる。
●基礎的財政収支(プライマリー・バランス)
基礎的財政収支とは、借入を除く税収等の歳入から過去の借金への元利払いを除いた歳出を差し引いた財政収支のことである(内閣府(2001))。利払い費は金融情勢という不確定要素に左右されるので、これを控除した財政収支のほうが、中期的な歳出や債務残高の管理には適しているという見方もある。基礎的財政収支が均衡しているということは、新たな借入れは、過去の借入の元利支払のためだけに支払われていることを意味する。もし名目経済成長率と名目利子率が等しければ、基礎的財政収支の均衡を維持することによって、債務残高とGDPの比が一定水準に保たれることになる。したがって、債務残高のGDP比が持続的に高まることがないという意味で財政の持続可能性について議論する場合に、基礎的財政収支が注目されることがある。
●政府の範囲
財政収支を議論するときに、政府活動の範囲をどのようにとらえるかという問題が生ずる。例えば、社会保障基金については、将来の高齢化による年金給付増加のために備えて積み立てたものと考えられる。したがって、社会保障基金の収支が黒字である場合は、一般政府の財政収支赤字はみかけ上、小さくなり、財政収支をみるうえでは、社会保障基金を含まないベースでみることも必要であるとの見方もある。
また、公的企業等を政府活動の範囲に含めるかどうかについては、公的企業の経営が悪化し、中央政府・地方政府から補助金が投入されることもありえるので、公的企業の財務状況を念頭に置いておくことは重要であるとの指摘がある。
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