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第2〜3章のポイント

1.世界で[情報管理課1]拡大する財政赤字

● 90年代にかけて財政再建に努めてきた日本を含む主要国の財政収支は近年悪化。特に、2001年の世界同時減速を契機にアメリカ、ドイツ、フランスで財政赤字が拡大。
● 財政赤字は、一般には金利上昇を通じて、資本蓄積が低下することにより経済成長に悪影響をもたらし、また、債務残高増加を通じた財政の硬直化を招くおそれがある。慢性的な財政赤字は景気局面によってさらに問題を悪化させるおそれがあり、各国で財政赤字削減に向けた取組が行われている。
● 財政赤字削減に関する取組としては、財政収支等に関する数値目標の設定、歳出増加の抑制、予算制度改革等がある。

2.アメリカの財政赤字削減の取組:高水準の財政赤字と対応策

● アメリカは90年代後半に財政収支が黒字化。その主な要因は財政ルールに基づき歳出を抑制したこと、長期的な景気拡大を背景に個人所得税収が増加したこと。
● 2001年度以降、再び財政収支は赤字化。その要因は、景気後退や減税政策による歳入減や国防を中心とした歳出増加。財政赤字に対する資金調達の近年の特徴は、海外からの資金流入の増加に依存する傾向が強まっていること。
● 今後の見通しとして、ブッシュ政権は、裁量的支出の伸びを抑えることなどにより今後5年間で財政赤字を半減させるとしている。ベビーブーム世代が引退期を迎える2010年以降については社会保障給付の増加が財政ひっ迫要因として作用。

3.欧州の財政赤字削減の取組:単一通貨ユーロとしての財政規律

● ドイツ、フランス等は、90年代に、経済通貨統合に向けたマーストリヒト条約で規定された財政基準を達成するため、歳出抑制と増税等により、財政赤字削減に取り組んだ。その結果、景気回復等もあり、各国の財政収支は改善し基準達成。
● 2001年の景気減速をきっかけに、独仏の財政赤字は、2002年以降、安定・成長協定で定められた基準であるGDP比3%を超えて悪化。今後は歳出の伸びの抑制や社会保障改革等により、2005年までに同3%以下にするとしている。
● イギリスでは、90年代後半以降、公的部門の借入を投資目的に限定するゴールデンルールに基づき、財政赤字削減に努めてきた。しかし、最近では教育や社会保障分野への政府支出が増加しており、財政赤字は拡大傾向。

4.2004年の世界経済は着実に回復

● 対イラク軍事行動収束後、先行きに対する不透明感が払拭され、2003年後半には、アメリカでは個人消費や企業設備が増加するなど景気は力強く回復。アジアでは、好調な対米輸出等を背景とした中国の高成長が、他のアジア諸国・地域に波及し、地域全体が回復。欧州でも世界経済の回復を受け、緩やかに回復。
● 2004年の世界経済は全体として成長が加速する見込み。回復の勢いを増すアメリカが引き続き世界経済を牽引し、アジアやヨーロッパでも自律的な回復が加速するものと期待される。下方リスクとしては、アメリカの財政赤字と経常収支赤字の動向とそれに関連する為替変動、中国経済の動向等が挙げられる。

第2章 財政赤字削減に取り組む欧米の最新事情

 80年代にアメリカは巨額の財政赤字と経常収支赤字という双子の赤字という深刻な問題に直面した。これは国際金融市場を通じてドル安圧力としても作用し、財政赤字縮小へ向けて真剣な取組が模索されることとなった。アメリカ以外の先進諸国も財政赤字に悩まされる傾向にあり、マクロ経済的に健全な水準まで財政赤字を縮小させることが重要な政策目標として認識された。
 90年代に入り、欧米諸国において財政赤字削減に向けた積極的な取組が行われた。世界的な景気回復に助けられる局面もあり90年代後半には欧米主要国の財政収支は大きく改善した。例えば、アメリカでは、財政再建への取組と長期的な好況により、財政収支は90年代末に約25年ぶりに黒字化した。
 しかしながら、2000年末のITバブル崩壊をきっかけに世界経済が同時減速を経験するなかで、世界各国において再び財政収支が悪化している。ユーロ圏では、EUは通貨統合のための財政規律を加盟国に課していることから、ドイツとフランスの財政赤字が基準違反の状態にまで悪化したことはEUの制度上の問題ともなっている。
 本章では、世界の主要国における財政収支の80年代以降の動向を概観するとともに、最近、財政赤字の拡大が著しいアメリカ及びユーロ圏のうちドイツ、フランスの今後の財政赤字削減に向けた取組と見通しなどについて紹介する(1)。財政赤字縮小のためには積極的な歳出削減・歳入拡大努力が必要不可欠であるが、政策努力のみでの目標達成は難しく、結果としての財政収支は景気循環的な要因にも大きく左右されてきたことが確認できる。


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