世界経済の潮流　2002年春

第I部　世界に学ぶ－日本経済が直面する課題への教訓

第１章　活力を高める税制改革　－アメリカ、イギリス、スウェーデン

第１節　税制改革の取組みと経済成長

　80年代以降、欧米先進諸国では、①課税ベースの拡大を図りつつ、②所得・法人税率の引下げに取り組んでいる。これは、課税ベースの拡大によって政府活動に必要となる一定の税収を確保しつつ、税のくさびは低下させ中長期的な活力を高めようとの考え方に基づいている。
　このように取り組まれた税制の中立化が経済成長に与えた影響を定量化するのは困難であるが、少なくとも税率の引下げは経済成長にプラスの効果を与える可能性が高い。ＯＥＣＤ諸国をサンプルとした比較分析でも、税率が高いほど、経済成長率は低くなる傾向にあるとされている(5)。
　先進諸国の中でも、アメリカ、イギリス、スウェーデンの３か国については、個人（労働）所得税率を引き下げるとともに、それぞれ86年、88年、91年に税率区分を大幅に削減して２段階とするなど、個人（労働）所得税のフラット化を図ったことが注目される(6)。個人（労働）所得税のフラット化は、限界的な所得に対する税負担を軽減する効果があるが、３か国の労働コスト（社会保障費を含む）に対する限界税率（追加的な所得に対する税負担の大きさ）は、80年代を経て低下している。アメリカにおける所得階層別の税負担をみてみると、80年代を通して個人所得の平均税率をほぼ一定とするなかで、中・高所得層の限界税率が大幅に引き下げられている（第I-1-1図）。
　一般に、労働所得税は所得再分配の観点から複数の税率区分からなる累進課税とされているのが通例である。しかし、累進課税は追加的な労働に対する報酬を低下させ、労働意欲を阻害する。したがって、累進課税のフラット化は、税制をより中立化し、努力に報いることによって労働への誘因を高めるものでもある。
　法人税率についても、同様に税率の引下げが図られている。こうした動きは、限界税率を下げることによって、活力を引き出そうという考え方に即している。構造改革の進展もあり労働や資本の移動性は高まっており、限界税率の低いところへ生産要素が流れやすくなっている。
　一方、付加価値税については、アメリカでは連邦レベルでは導入されていないが、イギリス、スウェーデンでは、所得・法人税率の引下げに対応して、税率の引上げと課税ベースの拡大が図られている。2001年の付加価値税率（標準税率）はそれぞれ、17.5％、25％となっている。
　90年代に入り、これら３か国は良好な経済パフォーマンスを示しており、それまでのトレンドを上回る成長を示している（第I-1-2図）。高い成長率の実現には、80年代以降にこれら３か国で実施された大胆な規制緩和や労働市場改革などが重要な役割を果たしたと考えられるが、税制改革による経済活力の高まりも役割を果たしたと考えられる。

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