第I部 第1章のポイント
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第I部 世界に学ぶ−日本経済が直面する課題への教訓 |
第1章 活力を高める税制改革 −アメリカ、イギリス、スウェーデン
2001年以降、欧米先進諸国では複数年にわたる大型減税が相次いで実施に移された(第II部参照)。特にアメリカでは、2001年7月より10年にわたる大規模な減税計画が実施され、2002年3月には、租税特別措置を含む景気刺激パッケージが成立した。こうした現ブッシュ政権の経済政策が、80年代のレーガン政権期のそれと類似していること、90年代にアメリカが長期にわたる好景気を達成したこと等から、レーガン政権期の税制改革がこのところ改めて注目を集めている。
80年代にアメリカのレーガン政権、イギリスのサッチャー政権下で実施された「小さな政府」指向の税制改革は、その後の先進諸国における税制改革に大きな影響を与えた。こうした税制改革に共通しているのは、税率の引下げ等によって、民間の経済活動を活性化させ、経済の活力を高めようとする考え方であった。
税制は、所得の再分配や経済の安定化などに重要な役割を果たしている(1)。また、資源配分の観点からは、一般に、税引後の所得・収益や価格・費用に「税のくさび」(課税による経済活動の限界的な経済厚生の低下分)をもたらして家計や企業の活動に影響を与え、本来の市場メカニズムの働きを阻害する。したがって、経済全般にわたって「税のくさび」を低下させ、市場メカニズムによる効率性を達成し、中長期的な活力を最大限高めていくことが望ましい(2)。市場経済における家計や企業の選択を歪めない税制は中立的な税制と呼ばれる(3)。完全な中立性を保つことは現実には難しく、限界的な税負担を引き下げることによって経済活力を引き出していくことが政策課題となる。
80年代以降の先進諸国の税制改革は、税率の引下げ等により税制の中立化を進め、市場メカニズムを活用して中長期的な活力を高める方向を基本としている。ただし、なかには特定の分野に限って「税のくさび」を低下させ、経済活性化を図ろうとした税制もみられる。例えば、現在アメリカやフランスで一時的に認められている特別減価償却の制度は、税制面から限界的な投資費用を軽減して投資活動への誘因(インセンティブ)を高め、短期的な投資の増加を図ろうとするものである。
本章では、これまで積極的に税制改革に取り組んでいるアメリカ、イギリス、スウェーデンの3か国(4)を取り上げ、80年代以降の税制改革を概観し、税制改革による経済活性化の効果にかかる実証分析を紹介する。