第2章 2025年後半の世界経済の動向(第4節)

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第4節 世界経済の見通しとリスク

本節では、前節までの各地域の経済動向の分析を踏まえ、世界経済の見通しとリスクについて議論する。

1.世界経済の見通し

(2026年の世界経済は成長と減速で国際機関の見方が分かれる)

2026年の世界経済の見通しについて、国際機関の見方はやや分かれている。IMFが2026年1月に公表した見通しでは、2026年の世界全体の実質GDP成長率は3.3%と2025年の実績見込み3.3%と同程度の成長が続くとした。一方、OECDが2025年12月に公表した見通しでは、世界経済は2025年の3.2%成長から2026年は2.9%成長に減速すると見込んでいる(第2-4-1図)。

中国やユーロ圏の経済見通しについては、両機関ともおおむね共通した見方をしている。中国については、米国の関税措置の影響による輸出の下押し、不動産市場の調整の継続やこれまで講じてきた各種財政措置の効果のはく落による内需の抑制から、実質GDP成長率が4%台半ばまで減速すると共通して予測されている。ユーロ圏については、米国関税措置の影響はあるものの、これまでの利下げによる金融環境の改善やドイツを始めとする公的支出の拡大が成長を押し上げることで2025年と同程度の実質GDP成長率を維持する見通しとなっている。

見方が分かれるのが米国経済の見通しである。IMFは、高い貿易障壁による影響が徐々に減退する中で、減税を始めとする財政政策や政策金利の引下げが景気を支え、2026年の実質GDP成長率は2.4%と2025年の実績見込み2.1%よりも上昇すると予測している。一方、OECDは、雇用の増勢鈍化の継続や移民純流入の急激な減速、関税引上げの価格転嫁、国防を除く裁量的支出の大幅な削減129により、2026年の実質GDP成長率は1.7%まで減速すると予測している。こうした米国経済に対する見方の違いが世界経済の成長見通しの差をもたらしている。

なお、予測の前提としている米国の関税措置について、IMFは2025年12月末時点、OECDは11月中旬時点の関税率の継続を前提としている。11月から12月にかけて追加関税等の大きな動きはなかったことから、両者の見通し期間における米国の関税率の前提は同程度と考えてよいだろう。もっとも、同じ関税率を前提としても、予測結果は今後の各国の通商政策動向によって左右されることは言うまでもない。

第2-4-1図 世界及び各国・地域の実質GDP成長率見通し

2.先行きのリスク要因

(通商政策等の米国の政策動向)

世界経済の先行きを見通す際のリスク要因として、順不同で5点指摘したい。

第一は米国の政策動向である。第1章でみたように、米国の第二次トランプ政権は2025年1月の発足以降、累次の関税措置を導入してきた。2025年後半には、10月末の米中首脳会談に基づく関税率引下げの動きもみられたが、11月から新たに中型・大型トラック等、2026年1月には限定的ながら半導体への関税措置を導入するなど、品目別に関税措置を拡大する動きも続いている。加えて1月には、トランプ大統領はデンマーク、ドイツ、フランス、英国等欧州8か国に対して、米国によるグリーンランドの購入に向けた合意が成立するまで追加関税を課す意向を表明し、その後撤回するといった米欧間の緊張が高まる局面もあった。

また、第二次トランプ政権は、通商政策以外にも不法移民対策の強化や大型減税の継続・拡大130等の様々な政策転換を進めている。厳格な移民政策による影響は、雇用者数の増勢の鈍化といった形で米国経済に表れつつある。米国は世界のGDPの約4分の1を占める。こうした様々な米国の政策転換は、米国経済だけでなく世界経済に大きな影響を及ぼす。

また、経済だけでなく安全保障に関する米国の政策転換も世界経済に影響を及ぼすだろう。例えば、欧州における防衛費拡大の動きには、トランプ政権が欧州地域の安全保障における米国の役割を見直す意図を明確に示したことが背景の一つとなっている。防衛費増額による公的投資の拡大は、経済的にみれば需要拡大であり、財政面では収支悪化に伴う長期金利の変動要因となる。米国の政策転換は、その内容によっては世界経済の先行きに対するリスク要因となり得る点には注意が必要である。

(重要物資に対する各国の輸出管理措置)

第二は、経済安全保障に関する動向である。通商政策にも関連するが、近年、経済安全保障の観点から軍民両用(デュアルユース)品目等の重要物資について輸出管理を強化する動きが主要国に広がっている。第1章でも触れたように、2025年4月には中国が一部のレアアースを輸出管理の対象に加えたことから、一時的ではあるが世界的にレアアース磁石の供給が滞る事態が生じた。また、同年10月には、米国の中国資本企業を対象に含む輸出管理規則の適用拡大に端を発して、中国がレアアース関連の追加的な輸出管理措置の導入や中国資本の大手半導体メーカーの輸出を一時停止したとされる事態も生じるなど、輸出管理措置の報復によるサプライチェーンの寸断、重要物資の供給途絶リスクが顕在化した。重要鉱物について、レアアース磁石であればEVのモーター等様々な製品に不可欠な素材となっており、かつその生産が中国等の特定国に集中しているため、輸出管理により供給が長期間途絶するような事態となれば、川下製品の生産活動の停滞や、製品価格の高騰を通じて各国経済を下押しするリスクがある。国際情勢の変化に伴い、各国は経済安全保障の強化に力を入れている。経済安全保障は一国にとって中長期的に望ましいことであっても、短期的には世界経済に対して負の影響を与えることもあり得る。こうした視点も含め、各国の経済安全保障政策の動向を注視していく必要があろう。

(金融資本市場の変動)

第三は、マーケットの動向である。2025年前半、特に4月にはトランプ大統領による前例のない相互関税の発表等を受け、世界の株価、金利、為替、国際商品市況が一時パニック的に乱高下する局面がみられた。また、米国の株価は同年4月を底に上昇基調を続けているが、AI導入による生産性向上への期待を背景としたテクノロジー・AI関連銘柄の株価上昇が主因となっており、仮に期待された生産性向上が実現しない場合には株価の再評価が生じる可能性があるとの指摘131もある。S&P500指数の1年先予想株価収益率(PER)をみると、2000年頃のいわゆるITバブル期に迫る水準まで上昇しており、株価の割高感は強まってきている(第2-4-2図)。もっとも、テクノロジー銘柄が含まれる情報技術セクターについてみると、2000年前後のITバブル期では株価全体の2倍を超える突出した予想PERとなっており、振り返ってみればバブルと称されるほどのIT株価であったのに比べると、現在の情報技術関連株価は全体のPER上昇をけん引してはいるものの、AIバブルと言えるほどの極端な高騰にはみえない132

第2-4-2図 1年先予想PERS&P500)

今のところ、株式市場の不安や警戒感を示すとされるVIX指数や債券市場の不安定さを示すとされるMOVE指数を始め、金融資本市場のボラティリティを示す指標に顕著な高まりはみられていないが(第2-4-3図、第2-4-4図)、今後も金融資本市場の変動による世界経済への影響には十分留意する必要がある。

第2-4-3図 VIX指数
第2-4-4図 MOVE指数

(中国における不動産市場の停滞の継続に伴う影響)

第四は、中国経済の減速リスクである。第2節で述べたように、中国では不動産市場の停滞が長引いており、住宅価格の動向をみても、投資の状況をみても、回復の兆しは表れていない。内需は下押しされ、経済成長のペースも四半期ベースでは前年比5%を下回る程度に減速している。中国政府は不動産市場の安定化に向けて様々な措置を講じてきているが、不動産市場の停滞とそれに伴う不動産価格の下落は融資の不良債権化など金融面での影響もあり、一筋縄ではいかない。さらに、中国は人口減少局面に入っており構造的・長期的に住宅需要に下押し圧力がかかる中での対応となっていることも解決を困難にしているとみられる。不動産市場の停滞が長期化すれば、投資の抑制はもとより、負の資産効果を通じた家計消費の抑制を通じて中国の景気を一層下押しするおそれがある。世界第2位の経済規模を有し、貿易投資を通じて我が国を含め世界各国とつながりの深い中国経済の更なる減速は、世界経済の先行きを下押しするリスクとなるだろう。

(中東地域やウクライナを含む地政学的リスク)

第五は、地政学的なリスクである。中東地域では、2025年6月のイスラエルによるイラン核関連施設等への攻撃とそれに対するイランの報復攻撃、2025年末から2026年初にかけてのイランの反政府デモの暴力的鎮圧や同国の核問題への対応に対する米国の強い非難と両国における軍事行動の示唆など、断続的ではあるが緊張が高まる事案がみられた。一方で、2023年から続いてきたイスラエルとパレスチナ武装勢力間の衝突は、米国主導の仲裁もあって2025年10月に停戦が成立するなど、緊張緩和に向けた動きもみられている。

また、2022年2月に始まったロシアによるウクライナ侵略は2026年2月で4年になる。欧州では、それまで依存していた天然ガス等の安価なロシア産エネルギーへの依存度を引き下げる政策転換を行っており、その過程で域内の物価高騰が生じたほか、ウクライナ産小麦の供給途絶リスクから一時小麦の国際価格が高騰する局面もみられた。

こうした地政学的リスクは、何がきっかけになるか不確実であるとともに、一旦顕在化すると、原油を始めとする国際商品価格の高騰や国際資本市場の乱高下、実体経済面ではグローバルなサプライチェーンの途絶による生産・出荷の停止や物流時の航路変更等に伴うコストの上昇など、様々な経路を通じて世界経済を下振れされるリスクとなる。

政治と経済は不可分であることを改めて認識し、これらのリスク要因がどのような経済的影響をもたらし得るかを常に念頭に置きながら、世界経済の動向をきめ細かく分析し、我が国の政策運営に活かしていくことが重要と考えている。

コラム6 国際商品市況

本コラムでは、国際商品市況について、2025年後半の動向を中心に概観する。各国のエネルギー物価に影響を与える原油、天然ガスに加え、このところ価格高騰が顕著な金の価格動向を振り返る。

(i)原油

過去4年程度の原油価格(WTI)の動向を振り返ると(図1(1))、2022年2月のロシアによるウクライナ侵略を機に一時120ドル/バレルまで上昇した後、下落基調に転じていたが、2023年10月の中東情勢緊迫化を受けて再び100ドル/バレル近くまで上昇した。その後、2024年末にかけて70ドル/バレル前後で推移していたが、トランプ大統領による2025年4月2日の「解放の日」に発表された世界各国に対する相互関税とOPECプラスの自主減産縮小決定が重なり、4月4日には原油価格は前日比▲7.4%の急激な下落を記録し、62ドル/バレル台まで値を下げた。同年6月のイスラエルとイランの軍事衝突による中東地域の緊張の高まりとともに一時75ドル/バレルを超えたものの、その後の停戦発表を受けて65ドル/バレル前後まで下落した。

2025年後半の動向をみると(図2(1))、7月の米国によるロシアへの追加制裁方針や米国とEUの通商交渉合意等を受け、同30日に70ドル/バレル台まで上昇したことを除き、おおむね下落傾向で推移した。下落傾向の背景には、米中両国の景気減速を示唆する経済指標の公表など原油需要が伸び悩むとの見方、米国原油在庫の増加等に加え、10月1日に始まった米政府機関の一部閉鎖による米国経済下押しの懸念、同9日の中国によるレアアースの輸出管理強化を受けた米中間の緊張再燃、11月にIEAが公表した世界原油市場の需給ギャップ予測が拡大したことなどが挙げられる。この間、中東地域の緊張や対ロシア制裁によるロシア産原油の供給減少など原油価格を上昇させる要因も生じたが、いずれも一時的な上昇にとどまった。2025年12月末時点の原油価格は57.42ドル/バレルと2021年以来の低水準となっている。

(ii)天然ガス

天然ガス価格について、2022年初は70ユーロ/メガワット時程度であった欧州における天然ガスの先物価格(TTF)(図1(2))は、同年2月のロシアのウクライナ侵略や同年8月のノルドストリーム・パイプラインの定期修理に伴うガス供給停止により、2022年に一時300ユーロ/メガワット時を超えた。その後は欧州諸国によるガス備蓄の確保や温暖な天候にも助けられ、2023年から2025年春にかけてはおおむね50ユーロ/メガワット時を下回る水準で安定的に推移した。同年4月の米国相互関税発表後には、景気後退懸念の高まりから一時30ユーロ/メガワット時程度まで低下した。その後、年央にかけては35ユーロ/メガワット時をやや下回る水準で推移した。

2025年後半は全体として小幅な値動きとなった(図2(2))。熱波による冷房需要の増加や米国による対ロシア追加制裁方針の表明など天然ガス価格を変動させるイベントはあったものの、おおむね30ユーロ/メガワット時台で推移し、12月末時点では、平年を上回る気温に伴う需給の緩みもあり30ユーロ/メガワット時を下回った。

(iii)金

金価格について、2022年初に1,800ドル/トロイオンス前後だったNY市場の金の先物価格(図1(3))は、同年2月のロシアによるウクライナ侵略を受けた有事の金買いで一時2,000ドルまで上昇した。その後はFRBの利上げにより米長期金利が上昇する中、同年秋には1,700ドルに下落した。2023年は2,000ドル前後となり、2024年は米利下げ観測や中東情勢の緊迫化などを背景に上昇し、同年末には2,700ドル前後となった。2025年4月2日のトランプ大統領による相互関税発表時は、世界経済の不確実性の高まりやマーケットでのドル下落とともに安全資産としての金需要が高まり、3,160ドルまで高騰した。その後も米国債格下げ133や鉄鋼・アルミニウム関税率引上げ発表等を受けてドル安・リスク回避が進むとともに金価格は上昇し、6月下旬に3,400ドル前後の当時の既往最高値を付けた。

2025年後半の動向をみると(図2(3))、8月の金地金が関税の対象に追加される旨の報道(9月の大統領令で相互関税の対象外と否定)や、米株安、米欧長期金利上昇、さらには9月のイスラエル軍によるガザ市地上侵攻の開始といった地政学的リスクへの警戒感も重なったことでリスクオフが強まり、9月15日に当時の既往最高値となる3,700ドルを記録した。その後も、10月6日には4,000ドル/トロイオンス、10月半ばには4,300ドル/トロイオンスと最高値の更新が続いた。また、12月にはFRBの追加利下げ決定やベネズエラ情勢の緊迫化などにより、安全資産・実物資産としての金先物買い需要が再び高まり、2025年12月26日には既往最高値の4,584ドルを付けた。

一般に、長期金利上昇(債券価格安)局面で金需要は低下し、不確実性が高まる局面では安全資産としての金需要が高まるとされる。しかしながら、2022年以降の金価格は、長期金利の変動よりも安全資産としての金需要を背景とした価格上昇が優勢であったと考えられる(図3)。

図1 国際商品市況(2022年1月~2025年6月)
図2 国際商品市況(2025年7月以降)
図3 金価格と米長期金利

129 2025年5月に米国行政管理予算局(OMB)が公表した予算教書は2026年度の国防を除く裁量的支出を前年度比2割程度削減する内容となっている。ただし、2026年1月末時点で2026年度の歳出法案の一部(国土安全保障省関係等)は連邦議会で可決・成立していない(2026年1月30日まではつなぎ予算を執行)。
130 2025年7月に成立した財政調整法(One Big Beautiful Bill Act)において、第一次トランプ政権で導入された減税策(いわゆるトランプ減税)の恒久化、チップ・残業代非課税等の新たな減税措置が決定された。詳細は、内閣府(2025)を参照。
131 IMF (2026)
132 IMF (2025a)では、現在(2025年10月初頭まで)の米国の株価はファンダメンタルズに基づいてモデルから推計される株価よりも割高であるとしつつ、ITバブル期の最盛期ほどは高騰していないとしている。
133 5月16日、格付会社ムーディーズ社は、米国の政府債務及び利払い負担の比率が過去10年以上にわたり大幅に上昇してきたことに加え、上下院で検討が進んでいた税制・歳出法案からは義務的支出や財政赤字の数年間にわたる大幅な削減が見込めないと判断し、米国債の格付けを「Aaa」から「Aa1」に引き下げた。

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