第2章 2025年後半の世界経済の動向(第3節)
第3節 欧州の景気動向
本節では、主に2025年後半のユーロ圏及び英国経済の動向を概観する。
1.ユーロ圏経済の動向
(ユーロ圏では、景気は持ち直しの動き)
ユーロ圏では、景気はこのところ持ち直しの動きがみられる。2025年7-9月期の実質GDP成長率は、前期比年率1.1%となり、2025年4-6月期から伸び率は加速した(第2-3-1図)。

2025年4-6月期には米国の通商政策に伴う駆け込み需要のはく落からユーロ圏全体の実質GDP成長率は減速したが、7-9月期は個人消費の伸びが鈍化する中、政府消費と総固定資本形成が成長に寄与した(第2-3-1図(1))。国別寄与度をみると、2024年7-9月期から2025年1-3月期まで、ユーロ圏の3.7%の経済規模にすぎないアイルランドによる押上げが大きく寄与59している(第2-3-1図(2)、第2-3-2図、コラム3参照)。これは第1章でみたとおり、米国のトランプ大統領による医薬品に関する関税措置への言及に伴い、医薬品企業が多く集積するアイルランドから米国への駆け込み輸出が発生したことによるものだが、2025年4-6月期以降はその寄与はなくなり、ユーロ圏の成長はフランスとスペイン60の寄与が大きくなっている(第2-3-1図(2))。

コラム3 アイルランド経済の動向と統計上の留意点
アイルランドは、歴史的には米国や英国に向けた移民流出国であったが、1990年代後半のITブーム等に伴う急成長(「ケルトの虎」と呼ばれた。)とともに移民流入が多くなり、また、若年人口比率や高等教育進学率も高いことから、労働者の獲得の面で米国等の多国籍企業にとって魅力的な進出先となっている。またEU加盟国であり、約4億5,000万人の消費者市場に障壁なくアクセスできるというメリットがある。さらには英国のEU離脱により、英語を母国語とするアイルランドのEU域内における存在感は大きく高まっている(もう一つの英語公用語国であるマルタの経済規模はアイルランドの25分の1にすぎない。)。EU加盟国でありながら英語圏という希少性は、多国籍企業の欧州本部の設置先として優位性を高めている。
加えて、アイルランドは1990年代以降、法人税率を12.5%61という欧州でも極めて低い水準に設定し、積極的な外資優遇策を展開してきた。これにより、米国を中心とする多国籍企業(IT、製薬、医療機器、金融等)の欧州拠点・本社機能が次々とアイルランドに集積した。
こうした企業集積を背景として、アイルランド経済は外需主導型の構造を持っている。実質GDP成長率を寄与度分解すると純輸出と総固定資本形成の寄与が非常に大きく62、民間消費や政府消費といった国内最終消費の寄与は極めて限定的である(図1)。

特に、総固定資本形成の内訳をみると、無形固定資産(知的財産権等)が大きな比重を占めており、多国籍企業による国際的な知的財産権の移転等63がGDPの変動要因となっている(図2)。国際的な会計上の知財移転は総固定資本形成としてGDPに計上される一方64、国内の雇用や生産を直接押し上げる効果は少ないため、アイルランドの実体経済への影響は、極めて限定的である。

次に輸出面をみると、名目GDPに占める財輸出の比率は約6割とユーロ圏の他国と比較しても突出して高く、アイルランド経済が輸出依存度の高い構造となっている(図3)。その中でも医薬品の占める割合は約4割65であることから、医薬品輸出のGDPに対する比率は24%となり、GDPの約4分の1を占める大きさになる。したがってアイルランドの経済成長率は、国内経済の動向以上に、製薬業の世界的需要動向に左右されやすいこととなる。

2015年から2024年の医薬品の輸出動向をみると、輸出重量は1.25倍の増加にとどまる一方、名目輸出額では約2.5倍に増加している。重量の伸びを大きく上回る金額の伸びは、輸出される医薬品の単価が上昇していることを示している(図4)。
特に米国向けは2020年以降の輸出額の伸びが顕著であり、2024年には輸出額が2015年の約3倍に達している。米国の医薬品価格66はOECD33か国平均の約2.8倍との分析67もあり、米国市場の価格上昇も、アイルランドの輸出額の増加に寄与していると考えられる。第1章で確認したように、現状、医薬品は関税引上げの適用除外の扱いが続くため米国の関税措置による景気下押しは限定的だが、不確実性の高い状態は続いている。医薬品への本格的な関税導入を含め、今後の米国通商政策の動向によっては輸出の下押しリスクが高まる点に留意が必要である。

このように、アイルランド経済は多国籍企業、とりわけ知的財産権の移転や医薬品輸出の影響を受けやすい。これらはGDPを構成する投資や付加価値として直接計上されるが、一時的かつ巨額に変動することがあり、GDP統計は実体経済の動き以上に変動しやすい構造となっている。また、その変動率の高さがユーロ圏全体の統計にも強い影響を与えている。ユーロ圏の2025年1-3月期の実質GDP成長率(2.3%)のうち、アイルランドのGDP成長率(33.2%)の寄与率は56.4%に達した(表5)。アイルランド一国のGDPシェアはユーロ圏全体の3.9%にすぎない一方、その成長率の振れ幅の大きさにより、ユーロ圏全体のGDP成長率の半分以上も押し上げたことになる。

アイルランド政府や国際機関も、こうした多国籍企業の活動がGDP統計の変動に及ぼす影響の大きさを認識し、より実態を反映する指標として修正GNI(GNI*)68等の活用を推奨している69。修正GNIは、知的財産移転や航空機リース等、必ずしもアイルランド経済の実態を反映しているとは言えないGDPを膨らませる要因を除外する指標であり、アイルランドの国内居住者の所得をより適切に把握することができる。
実際、アイルランドの1人当たりGDPは、ユーロ圏においてルクセンブルクに次ぐ第2位であるのに対し、修正GNIを用いた場合にはドイツに次ぐ第7位となる。この差は、多国籍企業による会計的な取引がGDPを押し上げていることを示している(図6)。

アイルランド経済の成長及び統計動向については、依然として多国籍企業、特に製薬業の寄与が極めて大きい。そのため、GDP等従来の経済指標は実体経済の動向とは関連の薄い会計上の取引の影響を受けやすく、経済実態を精緻に把握するためには修正GNI等補助的な指標の併用が重要である。加えて、最近では米国の関税措置を主因とした輸出の変動が極めて大きく、アイルランドのGDP統計の振れ幅を更に大きくしている。ひいては、アイルランド経済の統計的変動がユーロ圏全体のGDP統計にも波及しており、ユーロ圏GDPを評価する際にはこのような外部要因の影響を十分に考慮する必要がある。
(個人消費は持ち直しの動きが続く)
ユーロ圏の個人消費は、2024年以降、持ち直しの動きが続いている(第2-3-3図)。一方で、足下の動きについて実質小売販売額(自動車除く)を確認すると、米国の政策動向を受けた不透明感の高まりから消費者信頼感(消費者マインド)が停滞していることを背景に、2025年5月以降横ばいで推移している(第2-3-4図、第2-3-5図)。



次にユーロ圏全体の自動車新規登録台数を確認すると、高額商品購買意欲の低迷が続く中(第2-3-5図(2))、感染症拡大前の2019年の水準を下回る傾向が継続している(第2-3-6図)。

実質家計可処分所得は増加しているものの、家計の先行き景況感の悪化、貯蓄志向の高まりにより(第2-3-5図(1)、第2-3-7図)、貯蓄率は上昇傾向となっており、2019年平均を上回る高水準となっている(第2-3-8図)。
以上のとおり、消費者マインドが停滞し、貯蓄率が高い状況ではあるが、欧州委員会70は、2025年秋の経済予測において、貯蓄率が2027年まで緩やかに低下するとの予測の下、民間消費が経済成長を安定的に支えると見通している。


(設備投資は持ち直している)
ユーロ圏の設備投資は持ち直している(第2-3-9図)。足下では2023年後半以降に減少がみられた機械・機器投資に持ち直しの動きがみられる。
ユーロ圏では、2021年2月に感染症拡大からの経済回復支援を目的とした「復興・強靭化ファシリティ(Recovery and Resilience Facility)71」(以下「RRF」という。)が設立され、以降EU加盟国へ助成金や融資を提供している。RRFの助成金割当の70%は「人口」、「1人当たりGDP」、「2015年から2019年の平均失業率」、30%は「2020年の実質GDPの落ち込み」、「2020年から2021年の実質GDPの累積損失」により決定される。以上のような基準により、EUにおいて比較的失業率が高く、感染症拡大時の経済的損失が大きかったイタリア、スペインではRRF割当額対GDP比が大きくなっており、他の主要国に比べて設備投資の著しい増勢がみられる(第2-3-9図(3)、第2-3-10図)。こうしたRRFによる支出の下支えもあり、ユーロ圏の設備投資は2021年以降増加傾向となっている。


先行きも期待感がみられている。ユーロ圏主要国の中でもドイツでは、企業の借入金利の上昇や、中国等の主要輸出相手国における需要低下に伴う財輸出の減少を背景に、企業の設備投資マインドが低下し、2023年以降は民間部門を中心に設備投資が弱含んでいる(第2-3-11図(1))。こうした状況も背景に、ドイツ政府は2025年3月に「インフラ分野における投資需要の高まり72」と「安全保障構造の根本的な変化73」を理由に基本法(ドイツの憲法)を改正し、(1)交通インフラ等を含む各種インフラや気候変動対策を対象にした特別基金74、(2)名目GDP比1%を超える防衛費、の2点について「債務ブレーキ」75の対象外とすることを決定した76。2025年7月には「投資ブースター」と呼ばれる投資促進税制77を開始したこともあり、企業の景況感には改善がみられ(第2-3-11図(2))、政策効果の発現時期には留意する必要があるものの、ドイツの設備投資は回復していくことが期待される(第2-3-12図、第2-3-13表)。
ユーロ圏の設備投資については、今後、こうしたドイツにおける政策効果の発現や、RRF等のEU基金による下支えから、公的投資を中心に持ち直しが続くことが期待される。



(財輸出は足下でおおむね横ばいで推移)
次に、ユーロ圏の輸出動向について、財・サービス別の動きをみると、サービス輸出が2021年以降継続して増加傾向にある一方、財輸出は、中国の需要減退や欧州自動車産業の競争力低下78を背景に、2022年7-9月期以降停滞している(第2-3-14図)。
財輸出の2025年の動向を確認すると、4月以降米国向け駆け込み輸出のはく落がみられたものの、足下ではおおむね横ばいで推移している(第2-3-15図)。第1章でみたとおり、EUと米国間においては、2025年7月27日に関税協議合意がなされたものの、米国側の対応により貿易動向が変動する状況は継続しており、米国の通商政策の動向による影響は予断を許さない。


(労働需要は減少傾向にあるものの、依然として高い水準にある)
ユーロ圏の労働需要を求人率から確認すると、2022年4-6月期をピークに求人率は低下傾向にあるものの、感染症拡大前の5年間平均と比較すると依然として高い水準にある。一方、失業率は足下で6.4%と横ばいで推移しており、ユーロ導入以来の低水準が継続している(第2-3-16図)。

労働参加率の傾向については、上昇傾向にあり、足下では75.8%と感染症拡大前の2019年の水準を上回って推移している(第2-3-17図(1))。一方、労働力人口の増勢は鈍化しており、外国出身者(ユーロ圏内を含む出生国以外で働く労働力)の寄与が大きくなっている(第2-3-17図(2))。

また、賃金動向をみると、ユーロ圏の名目賃金上昇率は2021年7-9月期以降堅調に推移してきたが、2024年1-3月期以降横ばいで推移している(第2-3-18図(1))。
欧州中央銀行(以下「ECB」という。)が各国の団体交渉協定を基に公表している賃金トラッカーによれば、2026年の賃金上昇率は2023年から2025年と比較して、緩やかに推移することが見込まれる(第2-3-18図(2))。

(消費者物価上昇率は2%程度で安定的に推移)
消費者物価上昇率(総合)は、2025年2月以降2%程度79で安定的に推移している(第2-3-19図)。2022年2月に起きたロシアのウクライナ侵略を契機にエネルギー、食料品価格が物価の主な上昇要因となっていたが、足下ではおおむね横ばいで推移している(第2-3-20図)。エネルギー価格については2023年後半以降消費者物価の低下に寄与していたが、足下ではマイナス寄与は縮小している(第2-3-19図、第2-3-20図(1))。


なお、ECBが2025年12月の政策理事会において、「不安定な貿易環境の影響により、インフレ見通しは依然として不透明である。米国による関税の引上げでユーロ圏の輸出需要が減少し、過剰生産を抱える国々からの輸出がユーロ圏に流れ込む場合、インフレの低下圧力を強める可能性がある」との認識を示すなど、米国の通商政策を受けた中国80からの輸入増加によるユーロ圏内の物価への影響が懸念されている。ただし、これについて、中国の輸入割合が増加している自動車の消費者物価を例にみると、現時点では価格に大きな変動はみられていない(第2-3-21図、第2-3-22図、第2-3-23図)。



(ECBは2025年6月の利下げを最後に4会合連続で政策金利を据え置き)
ECBは、消費者物価上昇率が安定的に2%台に落ち着いてきたことを受けて2024年6月以降、政策金利の引下げを継続してきたが、2025年6月に7会合連続となる0.25%ポイントの引下げを行って以降は、4会合連続で政策金利を据え置いており、現在の預金ファシリティ金利は2.00%となっている81(第2-3-24図)。ECBは、2025年2月に中立金利の範囲を1.75%~2.25%と推計したが、ECBのラガルド総裁は不確実性が高い現状において中立金利は機能しないとの認識を示している。

また、経済の見通しについては、2025年12月の理事会において、経済成長は回復しているとの認識を示し、サービス業主導の成長が当面継続するとしている。さらに、今後はドイツを中心とするインフラや防衛分野における政府の大幅な支出が経済成長を押し上げると見通している。今後の金融政策については、依然として良い立ち位置(in a good place)にあるとして、あらゆる選択肢を排除せず、データに依拠し、会合ごとに適切な政策スタンスを決定するアプローチをとるとしている。
Box. デジタルユーロ導入と決済手段の動向
ユーロ圏においては、ECBが2020年10月に中央銀行デジタル通貨(Central Bank Digital Currency)(以下「CBDC」という。)である「デジタルユーロ」の発行の可能性に関する報告書を公表して以降、現金に代わる電子決済手段として、デジタルユーロの導入に向けた検討が進められてきた。CBDCは個人や一般企業を含む幅広い主体の利用を想定した「一般利用型CBDC」と金融機関間の大口資金決済に利用することを主な目的とした「ホールセール型CBDC」に大別される82が、デジタルユーロは前者の「一般利用型CBDC」である。
2025年10月、ECB理事会は、2023年11月に開始したデジタルユーロ決済に関するルールブック案の検討等の段階が終了し、技術開発や立法準備等の段階に進む決定を公表した。2026年中に法律が制定されれば、2027年に試験運用を開始し、2029年にデジタルユーロが発行される可能性があるとしている83。
ECBがデジタルユーロの導入を進める背景の一つに、決済手段におけるデジタル決済の増加がある。ユーロ圏ではデジタル決済の利用が増え、現金取引が減少している(図1)。一方、デジタル決済のシステムは非欧州企業のカードやプロバイダーに依存していることから、現金を補完する公共のデジタル決済手段の必要性が高まっており、デジタルユーロにより、高いプライバシー性を保持しながら、インターネットへの接続がなくても現金のように支払うことを可能にするとしている(表2)。


なお、他の主要国でもCBDCの検討は進められているが、国によって検討状況は大きく異なる(表3)。中国では既に越境決済が行われる等、最も実証実験が進んでおり、ユーロ圏は中国に次いでCBDCの正式発行に近づく可能性がある。

コラム4 ドイツの電気自動車
第1章で述べたとおり、米国の関税措置によって、ドイツ系メーカーの自動車販売は米国市場で急速に減少している。また中国向け輸出も落ち込んでいることから、ドイツでは自動車産業の低迷がみられる。本コラムでは、ドイツの電気自動車(EV85)の生産動向とドイツ経済への影響について検討する。
EU域内の新車登録台数の内訳をみると、2024年にはHEV、PHEV、BEVの販売シェアが、ガソリン車とディーゼル車を抜いて過半を占める状態となり、さらに2025年には新車の4台に1台がPHEV、BEVとなった(図1)。

この背景には、欧州委員会は2035年までにHEVを含む内燃機関(ICE)車86の新車販売を原則禁止する方針87を打ち出しており、各国による購入補助金や税制優遇措置88によりEVへの切り替え政策がある。このような情勢を受けて、ドイツ国内においても内燃機関車からEVへの生産切り替えを進めているものの、EVの生産シェアは2024年で33.2%、2025年(1月から10月累計)では、39.8%といまだ5割に届いておらず、EV化への対応が構造的な課題となっている(図2)。
こうした状況を踏まえ、ドイツのメルツ首相は、EUに対して2035年までに内燃機関車の新車販売を禁止する計画の緩和を求め、2025年12月に、欧州委員会は緩和方針を発表した。

一方で中国は、リチウムやコバルト等EVバッテリーの主要原材料89の供給国90であることから(図3)、中国系メーカーは相対的に安価なバッテリーを生産でき91、価格競争力の高い車種を投入して海外市場での存在感を急速に拡大している。EU域内の中国系自動車メーカーの登録台数は2025年に前年比約2.8倍となった(図4)。欧州委員会は2024年から中国から輸入されるBEVに最大45%の関税を課している92が、PHEVにはこの関税が適用されないため、HEVやPHEVが伸びをけん引していると考えられる。


さらに最近では、中国はレアアースや半導体に関する輸出管理措置(第1章Box参照)を強化しており、ドイツの自動車製造のサプライチェーンに関連する様々な品目にも影響を及ぼしている。他国への依存度が高い鉱物資源の供給リスクは、米中間の貿易競争等、不安定な地政学的環境の下で一段と高まっている。このような状況を受け、欧州委員会は2023年に「欧州半導体法93」、2024年には「重要原材料法94」を制定し、第三国依存からの脱却を図っているが、構造的な問題は解決できていない。
その象徴的な事例であるネクスペリア社(オランダに本社を持つ中国資本企業)の半導体の輸出規制については、ドイツの自動車産業にも波及し、主要生産拠点では一部ラインの停止や短時間労働の検討が進められている95。業界団体は、操業停止が広がる可能性を警告しており、世界的なサプライチェーンの脆弱性が改めて浮き彫りになっている。
EV化の進展、中国メーカーの台頭、鉱物資源の供給リスクという複数の構造的要因により、ドイツの自動車メーカーでは雇用調整が始まっている。2024年にはドイツのフォルクスワーゲン社(Volkswagen)(以下「VW」という。)が操業以来初となる国内工場閉鎖を発表し、その後も各社で人員削減が発表96される等、雇用調整が業界全体に及び始めている。実際の自動車製造業の雇用者数の推移をみると、2024年初めには約78万人であったが、同年後半から減少が加速し、2024年12月には約76万人、2025年8月には約71万人まで減少している(図5)。対象は派遣や契約社員のみならず、正規雇用にも及んでいる。

EV化や自動運転関連のハードウェア・ソフトウェア分野の進展により、国際競争が激化し、ドイツの自動車関連企業が保有していた内燃機関を始めとする従来からの技術的優位性が揺らいでいる。こうした動きは、雇用調整の圧力を高める要因となっており、関連する労働者や地域経済への影響が懸念される。自動車産業を中心に、構造的な課題が顕在化しており、今後も米国の政策動向や地政学的リスクの高まりに注意しつつ、時代に即した産業構造の転換とサプライチェーンの強靭化が求められる状況である。
2.英国経済の動向
(英国では、景気の持ち直しが緩やかになっている)
英国経済の動向を実質GDPの推移から概観97する。英国では2022年後半以降、急激な物価上昇と政策金利引上げ等により、実質GDPはおおむね横ばいで推移してきたが、消費者物価上昇率の低下に伴う実質賃金の上昇等を受けて内需が持ち直したことに加え、好調な輸出がけん引する形で外需も堅調に推移し、実質GDP成長率は2024年1-3月期以降、7四半期連続でプラスを記録している98。ただし、2025年7-9月期には外需が増加からおおむね横ばいに転じたことに加え、実質賃金上昇率の鈍化や失業率の上昇とともに内需も横ばい傾向となったことで実質GDP成長率の伸びは鈍化しており、景気の持ち直しが緩やかになっている(第2-3-25図)。

(消費は持ち直している)
英国の個人消費を実質GDPの家計消費からみると、2022年10-12月期以降は弱い動きが続いていたものの、2023年10-12月期以降、持ち直しの動きに転じている。2023年の後半以降は消費者物価上昇率の鈍化と名目賃金の上昇を受けて実質賃金の上昇率がプラスで推移しており、サービス、半耐久消費財、耐久消費財の消費は堅調に推移している。総じてみれば、消費は持ち直している(第2-3-26図)。

次に、実質小売販売額(自動車除く)の動向を確認すると、2021年秋以降、感染症収束に伴う経済活動の再開とウクライナ侵略に伴うエネルギー価格等の高騰を受けた消費者物価の上昇により、実質小売販売額は低下傾向が続いてきた。2023年後半以降は消費者物価上昇率の鈍化と名目賃金上昇を受けて実質賃金の上昇率がプラスで推移しており、実質小売販売額も持ち直している(第2-3-27図)。

また、自動車の新規登録台数をみると、感染症拡大による供給制約が既に解消されていた2024年も年間を通じて2019年(感染症拡大前)を下回る水準が続いているものの、2025年7月以降は2019年に迫る水準となり、2025年10月には14.5万台と2019年10月の14.3万台を上回ったことから、回復の兆しがみられる(第2-3-28図)。2025年7月から始まった英国政府のEV購入助成制度99により、PHEVやBEV等の購買需要が喚起されたことで、当該車種において前年比30%を超える販売台数の伸びを記録したことが全体の販売台数増加の主因とみられる。

こうした消費の持ち直しを説明する要因として、実質賃金の動向が挙げられる。2022年4-6月期以降は消費者物価上昇率が名目賃金上昇率を上回ったことで実質賃金上昇率はマイナスで推移していたが、その後消費者物価上昇率が徐々に鈍化したことを受け、2023年4-6月期以降実質賃金上昇率はプラスで推移していることが確認できる(第2-3-29図)。もっとも、足下では消費者物価上昇率が名目賃金上昇率に迫る4%前後の伸びとなっていることから、実質賃金上昇率も1%を割り込む水準となっている。

消費者マインドを示す消費者信頼感指数を確認すると、家計の先行きに対する消費者信頼感は消費者物価上昇率の鈍化傾向を受けて2024年初来改善が続き、DIは2024年6月にはプラスとなった(第2-3-30図(1))。経済見通しは2024年12月以降、米国の政策動向を受けた先行き不透明感も重なり悪化したが、2025年5月の英米通商合意を機に改善した。その後は、同年11月末に英国政府が公表する2025年秋季予算での負担増政策(後述)に対する警戒感等から、家計の先行き、経済見通し、高額商品購買意欲全ての項目で悪化がみられたが、前年比でみれば全体DIはマイナス18ポイント前後でおおむね横ばいの傾向が続いている。英国の消費者マインドの改善ペースが弱い背景には、依然として高い水準にとどまる政策金利100と、これに伴うローン金利の高止まりもあいまって、高額商品購買意欲の改善の動きが鈍いことがあると考えられる(第2-3-30図(2))。

消費者マインドの改善ペースが弱く、家計貯蓄率は感染症拡大前(2016~19年平均)を上回る水準で引き続き推移している。家計貯蓄率は感染症収束に伴い低下していたが、2022年半ば以降は緩やかな上昇傾向に転じ、2025年4-6月期には10.7%となっている(第2-3-31図)。経済の先行きに対する見方が慎重になっていること(第2-3-30図(2))や依然として高い水準の政策金利、米国の政策動向に伴う先行き不透明感等が、貯蓄志向の高まりにも現れていると考えられる。

以上のように、経済見通しの悪化や家計の先行き不透明感から消費者マインドの改善ペースには引き続き弱さがみられるものの、実質賃金がプラスで推移する中、実質小売販売額や自動車新規登録台数は堅調に推移している。総じてみれば、英国の消費は持ち直しているといえよう。
(設備投資はおおむね横ばいとなっている)
設備投資についても、政策対応を受けた101脱炭素化やデジタル化に向けた設備投資需要から、2021年以降、知的財産生産物投資、機械・機器投資及び構築物投資のいずれも持ち直してきた(第2-3-32図)。2022年以降の政策金利引上げの継続やウクライナ侵略等に伴う経済の先行き不透明感から、2023年半ば以降は機械・機器投資及び知的財産生産物投資の伸びが減速した。
2024年7月にスターマー政権が発足し、先行き不透明感の緩和や政策金利の引下げを受けた借入負担の軽減もあいまって持ち直しの動きがみられたが、米国の政策動向の影響を受けた不透明感の高まりから、英国の設備投資はおおむね横ばいとなっている。

設備投資マインドをみると、2025年1月以降は国民保険料の雇用主負担の増加に伴う企業負担の増加や、米国の政策動向の影響を受けた不透明感の高まり、世界経済の減速懸念から、DIは投資意欲が横ばいであることを意味するゼロ以下に悪化し、米国との関税協定に合意した後も、足下にかけて設備投資マインドに大きな改善はみられない(第2-3-33図)。

(財輸出は弱含み、サービス輸出はおおむね横ばいとなっている)
続いて、輸出の動向を確認すると、2020年1月のEU離脱とその後の感染症拡大があいまって、2020年4-6月期に財輸出、サービス輸出がともに大きく減少した。その後、対GDP比(2024年)で12.8%を占める財輸出は、2022年後半の一時的な増加を除き102減少傾向にある。2024年10-12月期には、米国向け輸出の増加を背景に一時的に増加に転じたものの、その後は弱含んでいる103。対GDP比(2024年)で16.6%を占めるサービス輸出も、感染症収束を受けた海外からの観光客の回復等から好調に推移していたが、2025年7-9月期以降はおおむね横ばいとなっている104(第2-3-34図)。

こうした輸出の動きについて、相手国別の動向とともに分析すると、2024年の主要輸出相手国は、米国(構成比16.9%)、ドイツ(同8.4%)、オランダ(同7.4%)、アイルランド(同6.6%)、フランス(同6.2%)、中国(同5.0%)となっており、財輸出全体としては2023年12月以降緩やかな減少傾向にある中で、米国向け財輸出は2024年10月から2025年3月にかけて大きく増加した(第2-3-35図)。2025年1月の第二次トランプ政権発足前後に起きた、関税引上げを想定した駆け込み輸出の影響とみられる。その後は駆け込み影響のはく落で減少傾向が続いており、英国財輸出全体を下押ししている。なお、中国向け輸出は大きく変動している時期105もあるが、2023年以降は停滞しており横ばい圏内が続いている。

次に、サービス輸出の動向をみると、主要輸出相手国は米国(構成比26.7%)、ドイツ(同5.8%)、アイルランド(同5.2%)となっている。相手国別の推移をみると、米国向けが一貫して緩やかな増加傾向にあり、ドイツ向けでは足下で減少傾向がみられるものの、アイルランド向けも2024年以降増加が続いている。ただし、足下のサービス輸出全体としては、おおむね横ばいとなっている(第2-3-36図)。

先行きについては、英国は名目GDPに占めるサービス輸出の割合が財輸出より高く106、サービス輸出には追加関税が課されていないため、米国の政策動向による直接的な影響は相対的に小さいといえるものの、ユーロ圏や世界経済の変動を通じた間接的な影響には留意する必要がある。
(労働需給のひっ迫は緩和)
英国の労働市場については、まず、雇用者数は2023年以降おおむね横ばい傾向で推移していたが、2024年8月以降は減少傾向で推移している(第2-3-37図)。

労働参加率については、感染症拡大後、男性の労働参加率が精神疾患等長期疾病に伴う非労働力化等の影響を受け、2019年10-12月期から2021年1-3月期にかけて低下したこと等から、男性の労働参加率は感染症拡大前の水準には戻っていない(第2-3-38図)。しかし、全体としては2024年半ばから上昇基調にあり、ユーロ圏と比較しても高い水準を維持している。

続いて、労働需要の強さを求人率の動向から確認すると、2021年以降、経済活動の再開等を受けて労働需要が増加したことから求人率が上昇していたが、政策金利の引上げを受けた労働需要の減少により低下傾向となった。さらに、2024年10月末に公表された秋季予算において国民保険料の企業負担の増加が決定されると、人件費の高まりを嫌気して雇用を抑制する動きがみられ、2025年1-3月期の求人率は2.3%と感染症拡大前を下回る水準まで低下した(第2-3-39図)。失業率は、低水準にあった2022年に比べ、2023年に入って以降は上昇傾向にあり、感染症拡大期に迫る高さにある(第2-3-40図)。英国の労働需給は緩和傾向にある。


コラム5 英国若年層の雇用情勢と政策的課題
英国は、2020年以降実質GDP成長率が堅調に推移しているにもかかわらず、主要国の中で唯一、若年層の就業率が低下している(図1、2)。


この背景には、非労働力人口に相当する経済不活発者数の増加、企業の雇用意欲低下がある。英国では、感染症拡大以降、長期疾患107や学生であること等を理由とした経済不活発者数が増加傾向にあり、経済不活発者数全体に占める若年層の割合も足下で高止まりしている(図3)。

経済不活発者から就学等の教育要因を除いたいわゆるニート108の割合についても、2021年以降上昇傾向となっており(図4)、英国政府も若年層のニートの割合上昇を社会課題として認識し、2025年11月、その背景に関する調査を実施することを公表109した。

続いて、労働需要の動向を確認すると、2024年4月に実施された大幅な最低賃金引上げ(図5)や国民保険料の企業負担増加110に伴う企業の雇用コスト増加により、雇用を抑制する動きがみられており、英国の求人率は低下傾向にある(第2-3-39図)。イングランド銀行(以下「BOE」という。)等による企業調査によると、国民保険料の企業負担増加への対応として「従業員削減」と回答した企業は40%を超えている(図6)。


こうした企業の雇用意欲低下により、実務経験やスキルの乏しい若者の就業機会は一層低下していると考えられる。感染症拡大以降一時低下していた若年層の失業率は、2022年以降再び上昇傾向となり、足下では高止まりしている。さらに、若年層の失業者のうち12か月以上失業状態の長期失業者の割合も増加傾向となっている(図7)。

若年層の非労働力割合の増加については、現在のユニバーサル・クレジット(Universal Credit)(以下「UC」という。)111による給付制度が一因になっているとの指摘もある。UCは、非就労者や低所得者を対象とした給付金に加え、病気を理由に就労困難であることが認められた場合には追加給付が行われる。追加給付の申請者は「就労可能」または「就労不能」の2つに分類され、就労不能(追加給付受給者)と評価された者については、その後の就労支援は積極的に行われないことになる。また、英国政府の報告書では、就労意欲と支援ニーズがうまくかみ合っていないなど追加給付受給者に就労を促すインセンティブに課題があること112、就労可能となり得る者に対する必要な支援がされにくい制度設計になっていること等が指摘されている。
若年層の非労働力化への対策として、2024年11月公表の労働白書(Get Britain Working)では、若年層に給付金ではなく就労機会を提供する就労保証制度や、育成・技能訓練支援制度113を含めた雇用支援制度改革の方針が示され、2025年秋季予算において具体的な内容が公表された(表8)。リーヴス財務大臣の発言によれば、支援対象のUC受給者が正当な理由なく就労を拒否した場合は、給付を停止または減額114する方針だという。

OECD115は、若者の失業は実務経験やスキルを習得する機会が減少することで、その後の就業が更に困難となる悪循環を生む可能性があることに加え、長期的な失業は精神的な健康問題を引き起こし、就労意欲を更に低下させる可能性があると指摘している。若年層の雇用の停滞が続く場合には、人的資本の低下を通じて将来的に英国経済の成長にマイナスの影響が及ぶ可能性もある。英国の経済及び社会にとって重要な課題である。
(消費者物価上昇率はインフレ目標を上回る状態が続く)
英国の消費者物価上昇率(総合、前年比)は、ロシアのウクライナ侵略を受けたエネルギー及び食料価格高騰で2022年前半から半ばにかけて輸入物価の上昇が加速したことを主因に、2022年10月には前年比11%を記録した(第2-3-41図、第2-3-42図)。その後、政策金利引上げに伴う通貨高に加え(第2-3-43図)、エネルギー及び食料価格の下落並びに国際物流コストの低下(第2-3-44図)により輸入物価の上昇も鈍化、消費者物価上昇率は2024年9月には前年比1.7%にまで下落した。その後、エネルギー価格のマイナス寄与はく落やその他財価格のプラス寄与増大に加え、賃金上昇や2025年4月に施行された国民保険料法改正に伴う雇用者負担増分のサービス価格転嫁といった価格設定行動の変化もあいまって消費者物価は再び上昇し、2025年9月には前年比3.8%を記録した。もっとも、足下では2025年10月のエネルギー価格上限改定が前年10月に比べて小幅な引き上げにとどまり、プラス寄与が限定的であったことも影響して、消費者物価上昇率は10月同3.6%、11月同3.2%と再び鈍化がみられる(第2-3-41図)。
BOEは12月の金融政策委員会声明で、2026年4-6月期にはインフレ目標の2%近くまで低下するとの見通しを示している。




(BOEは政策金利を引下げ)
BOEは、2021年末以降、消費者物価上昇率の加速を受けて政策金利の引上げを継続してきたが、2023年秋以降は政策金利を据え置いてきた。政策金利引上げの効果もあって消費者物価上昇率は2022年末以降低下傾向となり、2024年5月以降は2%台で推移してきたことを受け(第2-3-41図)、BOEは2024年7月の金融政策委員会で政策金利であるバンク・レートを5.25%から0.25%ポイント引き下げ、5.00%とすることを決定した。以降、同年11月、2025年2月、5月、8月、12月と0.25%ポイントの引下げを段階的に行い、現在の政策金利は3.75%となっている(第2-3-45図)。

また、BOEは、金融政策目的で保有する英国債の削減を進めている。これは量的引き締めの一環で、2022年2月に満期を迎えた国債の再投資を中止して以来、現在に至るまで継続している(第2-3-46図)。2024年10月から2025年9月の1年間で保有残高を1,000億ポンド削減して5,580億ポンドとする計画を実行した後、直近では2025年9月の金融政策委員会において、2026年9月までに金融政策目的で保有する国債を700億ポンド116削減し、4,880億ポンドとする計画を公表している。
今後の金融政策については、2025年12月の金融政策委員会において、インフレ見通しの推移に応じて更なる緩和余地を判断する方針を確認するとともに、直近の経済状況に基づけば、緩やかな利下げ路線を継続する可能性が高いとの認識を示した。なお、金利水準については、現在も景気抑制的である117との認識を示唆している。

3.欧州の財政政策の動向
(欧州の財政状況は悪化傾向)
以下では欧州の財政状況について確認する。
ドイツでは、2008年の世界金融危機に対応するための歳出拡大と財政悪化を踏まえ、債務ブレーキを設けることで連邦政府の構造的財政赤字を名目GDP比0.35%以内に抑えるなど、健全性を重視する財政運営を行ってきた(第2-3-47図)。しかし、2025年3月に、脱炭素化を始めとするインフラ投資を目的とする特別基金の創設(前述の第2-3-12図参照)と防衛費の増額を含めた債務ブレーキの見直しを行い、財政政策の方針を転換した。これに伴う政府投資の加速や防衛関連支出の増加により、欧州委員会の見通しでは2026年の一般政府財政赤字対GDP比は▲4.0%まで拡大し、2027年の公的債務残高は対GDP比67.0%まで増加すると予測されている(第2-3-48図)。
一方、フランスでは財政健全化が課題となっている。フランスの2024年の財政赤字は対GDP比▲5.8%と、EUの財政基準118である一般政府財政赤字対GDP比▲3%を超過しており、ユーロ圏の中でも最大の財政赤字国となっている(第2-3-47図)。さらに、公的債務残高についても、2024年末で対GDP比113.2%と高止まりしている。こうした状況を受け、バイル内閣は財政再建のため、財政収支を約440億ユーロ改善する2026年予算案を公表し、その是非を問う内閣信任投票を2025年9月8日に行った。その結果、内閣信任投票が否決されたことから、バイル内閣は総辞職し、同年9月10日にルコルニュ氏が首相に就任した。現在、フランスの国民議会119は少数与党となっていることから、緊縮的な予算案に反対する野党の協力を得て政策を進める必要があり、不安定な政局が続いている。財政健全化に向けた動きが停滞する中、フランスの長期金利は、2025年秋頃からイタリアと同水準となり、フランスの財政赤字抑制と債務管理への対応は引き続き注視する必要がある(第2-3-49図)。
イタリアの政府債務残高は、2024年対GDP比134.9%と、ユーロ圏においてギリシャに次ぐ高水準にある。こうした中、イタリアはEUの過剰財政赤字是正手続(Excessive Deficit Procedure)120の対象からの脱却を目指し、財政赤字の削減に取り組んでいる。一般政府財政赤字対GDP比は、2024年の▲3.4%から2027年には▲2.6%まで縮小する見通しであり、EUの財政基準を満たすことが見込まれている。一方で、公的債務残高は2027年にはGDP比137.2%に達する見通しであり、財政の持続可能性については、引き続き注視する必要がある。スペインは、2024年12月に成立した税制措置121や堅調なGDP成長率を背景に、2027年の財政赤字は対GDP比▲2.1%まで縮小する見通しである。公的債務残高の対GDP比は、2024年の101.6%から2027年には97.1%まで低下すると予測されている。



英国では、経済成長と財政健全化の両立が課題となる中、2025年11月に公表された2025年秋季予算122において、税制と歳出の見直しを通じた将来の歳入拡大と債務削減の道筋が示された。具体的には、所得税率区分の据置き123やEV等への走行距離課税124導入といった増税策と、行政改革125や福祉改革126を通じた歳出削減により、公的部門財政収支127(対GDP比)の赤字が2025年度の▲4.5%から2030年度に▲1.9%まで縮小するほか、2029年度における公的部門経常的収支128が217億ポンドの黒字に拡大する見通しが公表された(第2-3-50図、第2-3-51図)。
なお、スターマー政権が設定した財政健全化目標は、(1)2029年度予算での経常的収支黒字化達成と、(2)公的部門純金融負債の対GDP比を2029年度までに減少させることの2点であり、2025年秋季予算と同日に公表された予算責任局(OBR)の経済財政見通しでは、今後想定されるリスク要因や経済ショック等の不確実性も加味した(1)の達成確率を59%(2025年3月見通し時点:54%)、(2)の達成確率を52%(同51%)と評価している。2025年春季予算において、スターマー政権は社会保障給付等の見直しによる歳出削減を計画していたが、党内の反対により撤回に追い込まれたことで、市場では英国の財政健全化の取組に先行き不透明感が高まっていた。これにより、一時は長期金利の上昇が進んでいたが、2025年秋季予算で英国政府が財政ルールを遵守する姿勢が市場に示されたことで、足下では長期金利は小幅に低下している(第2-3-49図)。ただし、利払費の高止まりによる政府債務の増加は今後も続くと想定されることから、英国の財政状況と長期金利の関係には引き続き注視が必要である(第2-3-52図)。



(まとめ:欧州の景気は緩やかに持ち直していくことが期待される)
これまでみてきたように、2025年後半のユーロ圏及び英国経済は、米国の関税措置の影響を受けつつも、ユーロ圏、英国ともに2025年7-9月期の実質GDP成長率はプラスとなり、景気は総じて持ち直している。
ユーロ圏では、個人消費に持ち直しの動きがみられる中、設備投資が成長を下支えした。特に、加盟国に向けた補助金・融資制度であるRRFによる資金供給を背景に、イタリア・スペインで設備投資が顕著に増勢を示している。またドイツでは、インフラ投資を目的とする特別基金の創設と債務ブレーキの見直しを行い、拡張的な財政政策を行っている。ただし、高水準の公的債務を抱える国では財政健全化の圧力が強まりつつあり、追加的な景気刺激策は限定的となっている。
ユーロ圏と比べると、英国では、物価上昇率の鈍化と実質賃金の改善を受け、内需は回復基調を維持するものの、失業率の上昇や消費者信頼感の悪化が景気の重石となっている。また、輸出に弱さがみられるなどの違いもみられる。財政政策は緊縮的な方向にシフトしつつある。
先行きについては、ユーロ圏では、緩やかに持ち直していくことが期待される。個人消費に伸び悩みがみられるものの、政府消費や設備投資が成長を下支えしている。今後は、個人所得の動向とともに、消費者マインドの改善や貯蓄志向の弱まり等、個人消費を上向かせる状況がつくれるかがカギとなる。また、財政状況が悪化していく国が多くなっており、各国の財政政策の動向が各国の内需に与える影響にも注意が必要である。
英国では、持ち直しが続くことが期待される一方で、依然として景気抑制的とみられる金利水準であることから、その影響による景気や雇用の下振れリスクには注意する必要がある。
ユーロ圏、英国ともに、米国の政策動向やそれに伴う不確実性と世界経済の変動、また、長期金利の動向を含めた財政状況をめぐる動向を注視していく必要がある。