第2章 2025年後半の世界経済の動向(第2節)
第2節 中国の景気動向
本節では、主に2025年後半の中国のマクロ経済の動向を概観する。
(内需は伸び悩み、景気は緩やかに減速)
2025年通年の実質GDP成長率は5.0%となった。2025年3月の全国人民代表大会(以下「全人代」という。)で示された目標値の「5%程度」と一致する結果となった。他方で、年後半の伸び率を四半期ごとにみると、7-9月期は前年同期比で4.8%、10-12月期は同4.5%となり、2025年前半の5%台前半の伸びに比べて伸び率が低下している。
需要項目別にみると、外需は米国側の関税措置により対米輸出が減少したものの、ASEAN、アフリカや中南米等の地域向けが増加基調にあり、全体として緩やかな増加を維持していた。その一方で、住宅価格の下落が続き、固定資産投資は年初来累計が前年比でマイナスに転じる等の弱い動きとなっている。消費については、実質GDP成長率に対する消費の寄与が3%ポイントを下回る水準で低下している。内需の伸びは弱く、国内物価は停滞している。
中国経済は、住宅価格の下落に歯止めがかからないなど不動産市場の停滞が継続する中、内需全体が伸び悩んでおり、景気は緩やかに減速している(第2-2-1図)。

(消費は、政策効果のはく落がみられ、弱含み)
家計消費の動向について2025年の名目小売総額をみると、2025年1月から4月の前年同月比の平均は5%程度と伸び率がやや上昇した。その後、伸び率はおおむね3%程度で推移したが、足下では1%程度に低下している(第2-2-2図)。

この動きを品目別に確認すると、政府による消費財買換え支援43もあり、2024年末から高い伸びを示した家電販売額は、2025年夏以降、支援策による需要の一巡もあってその伸びが低下し、足下では前年比マイナスとなっている(第2-2-3図)。
家具についても11月に前年同月比マイナスに転じたものの、通信機器については、2025年になってから買換え支援の対象になったこともあり、2025年後半においても前年比で2桁を超える伸びは続いている。
飲食サービスについては、2025年以前から名目小売総額以上の伸びで推移していたところ、2025年5月に行われた倹約令44の改定を背景に6月以降は伸びが低下していた。10月は国慶節等の休暇シーズンもあり前年同月比は3.8%まで伸びが回復し、12月には2.2%となった。全体として、消費はこのところ弱含んでいる。

次に、自動車販売動向について確認すると、政策的な後押し45もあり、新エネルギー車の販売台数は増加し、自動車販売全体に占めるシェアも拡大している(第2-2-4図)。
自動車販売台数全体としては、2024年末から前年比2桁のプラスまで増加した後、政策効果のはく落もあって年末には前年比マイナスに転じている(第2-2-5図)。
自動車販売額についても下落傾向にあるが、2025年に販売台数が増加していた時期であっても増加していない。1台当たりの単価が下落していることを意味し、政策によって販売台数が持ち上げられても、販売側の収入増にはつながっていないとみられる。


この点について、自動車関係の物価動向を確認すると、自動車に関する生産者物価は継続的に低下している。輸送機器(自動車等)に関する消費者物価をみると、2024年は前年比5%程度のマイナスとなり生産者物価を下回って推移し、2025年に入りその低下幅は縮小しているもののマイナスが続いている(第2-2-6図)。こうした自動車関係の物価動向には、内需の弱さを背景とした自動車メーカー間による価格競争の激化46も影響しているとみられる。

Box. 中国における「内巻」について
中国では「内巻」(ネイジュアン)といわれる企業間の価格競争が激化している。
内巻とは、中国では2020年頃からインターネット上で若者の間で広まった言葉で、大学入学や就職での熾烈な競争により消耗していくこと等を指すとされ、近年では企業間競争の文脈でも用いられている。
特に自動車業界での競争が顕著であり、中でも新エネルギー車は政府の買換え支援の補助金もあり値下げ競争が激化している。2025年5月下旬の中国大手自動車メーカーによる大幅値下げの実施をきっかけに、他社も追随して業界全体の値下げ合戦となった。
こうした動きを受け、同月末に中国自動車工業協会から企業の公正な競争に向けた「公正な競争秩序を維持、業界の健全な発展を促進する提案」が発表された。これは4つの提案からなっており、(1)公正競争の原則に従い経営活動を行うこと、(2)大手企業が市場独占のため他社を圧迫しないこと、(3)製造コストを下回る価格で販売しないこと・消費者に虚偽の宣伝を行わないこと、(4)法令に則して自己点検を行うこと等を提案する内容となっている。
また、10月には国家発展改革委員会と国家市場監督管理総局から、「無秩序な価格競争の是正と市場価格秩序の維持に関する公告」が公表され、(1)過度な価格競争の疑いがある場合の注意喚起や警告、(2)改善がみられない場合の価格調査の実施、(3)法令違反の場合は処分を行う等の方針が示された。
このような動きがある中、中央経済工作会議においても「内巻」については2026年の重点分野とされ、対策を「踏み込んで行う」と昨年以上の強い表現とされている。
(可処分所得は伸びるも消費者マインドは低調)
雇用環境を都市部調査失業率からみると、2025年は5.0~5.5%の間で推移しており、全人代で示された2025年目標は「5.5%程度」となっているところ、その目標失業率をやや下回って推移している(第2-2-7図)。
中国では7月に新卒者が労働市場へ参入し、7月から8月にかけて若年を中心に失業率が上昇する傾向があるが、2025年8月の若年失業率は18.9%まで上昇したものの12月には16.5%に低下しており、2024年と同様の動きとなった。

ただし、家計に対するアンケート調査から雇用・所得環境の動向を確認すると雇用指数は下がり続けており、国家統計局による失業率の動向とはかい離がみられる(第2-2-8図)。あわせて、購買担当者の雇用景況感をみると、製造業、非製造業ともに改善と悪化の判断の境目である50を下回って推移しており、企業側のマインドは低調である(第2-2-9図)。


また、1人当たりの可処分所得は、名目・実質ともおおむね5%程度で近年伸びているが、都市部預金者アンケート調査の回答では2025年に入って消費の回答割合は低下傾向にある一方で、貯蓄の回答割合は上昇傾向にある(前掲第2-2-8図、第2-2-10図)。2025年の1人当たり消費支出の伸び率をみると5%を下回る水準で推移しており、可処分所得の伸びを下回っている(第2-2-11図)。


これらのデータからは雇用に関する家計や企業のマインドの低迷が読み取れ、政策支援がある中でも消費が伸び悩む一因となっていることが推察される。
(固定資産投資は弱い動きとなっている)
固定資産投資については2025年半ばから伸び率が低下し、1-12月期累計では前年同期比▲3.8%となり、政府による支援策がある中でも47、弱い動きとなっている(第2-2-12図)。
内訳をみると、不動産開発投資は前年比2桁のマイナスが継続し1-12月期累計では▲17.2%まで伸び率が減少している。不動産市場の停滞を反映しており、改善の兆しはみえない。インフラ投資も2025年半ばから勢いが鈍化し、1-10月期累計では▲0.1%とマイナスに転じ、1-12月期累計では▲2.2%とマイナス幅が拡大した。製造業投資は、大規模設備更新の支援48の効果もあり、2024年は9.2%と高い伸びを示して固定資産投資全体を支えてきたが、2025年半ばから増加の勢いは鈍化し、2025年1-12月期累計では0.6%と伸び率が低下した。

また、製造業投資について、主要な業種をみると、電気機械器具産業の設備投資は、2024年から伸び率の低下が始まり、2025年はマイナス10%を超えた。また、コンピュータ及び鉄金属加工産業の設備投資も2025年後半にはマイナスとなっている。その一方で買換え支援を受ける自動車産業については、2023年から2024年にかけて一旦伸び率が低下した後、2025年は伸び率が上昇し20%近傍の拡大を続けている(第2-2-13図)。政策による支援の有無によって業種の明暗が分かれている。

(住宅価格の下落が続く)
住宅価格については、政府は不動産市場の下落に歯止めをかけようと対応しているところではあるが、70都市平均の住宅価格は下落が続いている。
2025年の都市階級別の動向をみると、新築住宅では1級都市(北京等)と2級都市(重慶等)の住宅価格が、中古住宅では1級都市の住宅価格が年初に下げ止まりの動きをみせたものの、2025年の半ば以降では新築住宅、中古住宅ともに1級都市から3級都市(地方都市)の全ての都市階級で住宅価格が下落している(第2-2-14図)。

次に、住宅需要の動向を確認すると、不動産販売面積及び販売額は、2024年9月の住宅ローン金利の引下げや2軒目住宅購入時の最低頭金比率の引下げ、10月の不動産への融資強化等の政策対応49も背景に、2024年末に前年比プラスに回復したものの、2025年に入り再びマイナスに転じ、減少幅が拡大している(第2-2-15図)。
また、不動産関連融資残高をみると、2025年に入り住宅ローン向け融資残高が前年比マイナスからプラスに転じたものの、不動産開発向け融資が低調であり、不動産融資残高全体としても減少している。資金需要は低調が続いている(第2-2-16図)。


中国では2022年から人口減少局面に入っている。このことも住宅需要の下押し圧力となっており、不動産販売面積、不動産関連融資残高、住宅価格それぞれにおいて2025年は低下傾向にあり、不動産市場の停滞に改善の兆しがみえない。
(鉱工業生産は持ち直している)
その中で鉱工業生産全体は前年比でおおむね5%の伸びとなっており、持ち直しを続けている(第2-2-17図)。主要業種の動向を確認すると、消費財買換え支援もあり、自動車生産は2024年末から伸びが加速し、2025年も2桁を超える伸びが続いている。コンピュータ・通信・その他電子器具は、2024年と同程度の高い伸びが2025年も続いている。第1章で述べたとおり、ASEAN、アフリカや中南米等向け輸出が増加基調であることも生産を後押ししている。鉄金属加工は、住宅建設等の需要は低下しているが、鉄鋼を多量に使用する自動車生産が増加し、また鉄鋼製品の輸出量50も増加していることもあり、前年比プラスを維持している。電気機械器具の生産は、米国向けの機械・電気機器・同部品の輸出減少も背景に、2025年後半は伸びが減速している。

主要製品の動向を確認すると、自動車全体の伸びを上回る勢いで新エネルギー車の生産増加が続き、また、製造業投資が減速にある中でも、産業用ロボット51の生産増加は続いている(第2-2-18図)。

製造業の稼働率と在庫の動向をみると、製造業全体では、2025年の稼働率は75%を下回る程度で推移しており、大きな変動はなく(第2-2-19図)、在庫数量についてもおおむね前年比4%増で推移し、生産の伸び率から大きなかい離はみられない(第2-2-20図)。国内需要が低調な中にあっても、輸出の増加によって過度な在庫調整は抑制されている姿がうかがわれる。


(消費者物価上昇率はゼロ近傍で推移し、GDPデフレーターはマイナスが続く)
2025年の消費者物価(CPI)上昇率は前年比ゼロ近傍で推移しており、全人代で示された2%程度の目標値を大きく下回っている。
物価の下落要因についてみると、国際的なエネルギー価格の下落や価格競争が激化している自動車(輸送機器)価格の低下もあり、これらを含む交通・通信の価格低下が下押し要因となっている。また、2025年の豚肉価格52が下方局面にあることも消費者物価の下落要因となっている(第2-2-21図)。
生産者物価(PPI)については、原油を始めとした国際商品価格の下落の影響や、企業間の価格競争も背景に、2022年10月から2年以上にわたって下落が継続している(第2-2-22図)。


こうした中、GDPデフレーターは2022年4-6月期から11四半期連続の下落と3年近くにわたって低下が続いており、物価上昇の兆しはみえていない(第2-2-23図)。

(内需拡大に向けた政策対応)
7月30日に開催された中央政治局会議53では、2025年下半期の経済政策の基本方針として、「引き続き内需拡大に取り組む」こととし、また2025年が現行の「第14次五カ年計画(対象期間:2021~25年)」の最終年であり、計画の達成に向けて努力する必要性が指摘された。併せて、企業の過当競争の制限や主要産業における過剰生産能力の調整といった方針も打ち出された。
7月の中央政治局会議を踏まえ、10月20日から23日にかけて中国共産党中央委員会第4回全体会議(以下「四中全会」という。)が開催された。2026年3月の全人代での決定が見込まれる「第15次五カ年計画」の策定に向けて、「共産党中央の国民経済・社会発展の第15次五カ年計画の制定に関する建議」がとりまとめられた(第2-2-24表)。
同建議では、2021年の全人代で決定した「2035年までに1人当たりGDPが中等先進国の水準に達し、社会主義現代化を基本的に実現する」との基本方針を維持した上で、計画期間における経済成長に係る目標については、「経済成長を合理的区間に維持し、全要素生産性を着実に上昇させ、住民消費率を顕著に向上させ、経済成長の主たるけん引役としての内需の役割を継続的に強化する」とした。具体的な取組としては、現代的な産業システムの構築といった供給側の取組が筆頭に掲げられたものの、消費を中心とした内需拡大に取り組む姿勢が強調された内容となっている。また、通商、経済安全保障環境の変化も踏まえ、対外開放の拡大をうたいつつ、ハイレベルな科学技術の自立・自強も強調されている。なお、5年前には、習近平総書記による建議の説明において「2035年までにGDPまたは1人当たり可処分所得の倍増を実現することは完全にあり得る」旨の言及がされたが、今回はこれらに関する具体的な言及はなされなかった。

10月の四中全会に続いて、12月10日から11日に中央経済工作会議54が開催され、2026年の経済政策の基本方針等が示された(第2-2-25表)。現状認識として、外部環境の変化による影響、国内の供給過剰と需要不足の矛盾について指摘されている。
その上で2026年の方針についてみると、財政・金融政策は「より積極的な財政政策」、「適度に緩和的な金融政策」といずれも2025年のスタンスを維持しつつ、金融政策の重要な考慮要素として経済成長の促進と物価の合理的回復について明記された。「より積極的な財政政策」については、必要な財政赤字・債務の総規模・支出総量の維持、財政支出構造の最適化、地方財政問題の重視、党・政府機関の節約等が挙げられ、「適度に緩和的な金融政策」については、 経済の安定成長促進と物価の合理的回復を金融政策の重要な考慮要素とすること、預金準備率引下げや金利引下げ等の政策手段の柔軟かつ効率的運用、金融機関による内需拡大・イノベーション・中小零細企業等への支援強化、人民元レートの合理的で均衡のとれた水準での安定等が挙げられた。
経済政策の重点項目は、その筆頭に「内需主導、強大な国内市場の建設」55を掲げ、2025年に引き続き内需拡大に取り組む姿勢を強調した。また減速が続く投資の安定化も重視することが示された56。
この方針を受け、2026年3月の全人代において、前述の「第15次五カ年計画」と合わせ、2026年の経済成長率等の主要目標や具体的な経済政策の内容が発表される見通しとなっている。

(人民元は対ドルで上昇している)
中国の政策金利と為替の動向についてみると、リバース・レポ金利(7日物)57とローンプライムレート(LPR)58が5月に引き下げられた(第2-2-26図)。2026年の中国の金融政策スタンスについては、12月の中央経済工作会議において2025年から引き続き「適度に緩和的な金融政策」とされており、更なる政策金利や預金準備率の引下げが示唆されている。

人民元の動向については、中国人民銀行による取引基準値の引上げもあり、2024年11月以降にみられていた人民元の取引基準値と市場レートのかい離は、2025年5月頃にはおおむね解消し、その後、取引基準値及び市場レートは対ドルで元高に進んでいる(第2-2-27図)。取引基準値の引上げに加えて米国での利下げの進展、さらに、中国の2025年1月から11月までの累計の貿易黒字は1兆758億ドルとなり、初めて1兆ドルを超える貿易黒字となったこと等が元高の背景にあるとみられる。

(まとめ)
以上のように、2025年後半の中国は、消費財買換え支援など政策支援による買換え需要が一巡し、政策効果がはく落する中で、消費は弱含み、固定資産投資についても、不動産開発投資の減少だけでなく、インフラ投資も減少に転じ、投資全体の1-12月期の年初来累計では前年比マイナスとなる等弱い動きとなった。内需が伸び悩む中、国内物価の下落は続いている。輸出総額は、ASEAN、アフリカや中南米等への輸出増加がけん引することで、増加が維持されているものの、中国経済全体でみると、景気は緩やかに減速している。
通商関係については、2025年10月末の米中首脳会談によりフェンタニル関税は20%から10%に引き下げられ、相互関税は2026年11月まで10%となったが、米国向けの財輸出はマイナスが続いており、米中間の通商問題の影響には引き続き注意が必要である。
内需拡大や不動産市場の安定化、物価の安定が課題とされる中、2026年3月の全人代での「第15次五カ年計画」の策定や、今後の政策の具体化について注視する必要がある。