第1章 米国の通商政策による世界経済への影響(第1節)
第1節 米国の通商政策の動向
本節では、米国の通商政策について、2026年1月現在までの動向を整理する。具体的な動向を追う前に、まずは第二次トランプ政権の通商政策について、その枠組みから改めて整理する。
そもそも、トランプ大統領が今次の広範にわたる関税措置を講じた背景には、米国において多額の貿易赤字が継続していたことがあるとされる(第1-1-1図)。この構造的な要因として、2025年4月2日署名の大統領令3では、貿易相手国との二国間貿易関係における互恵性の欠如や、米国とは著しく異なる貿易相手国の関税率・非関税障壁等が指摘された。こうした状況を踏まえ、トランプ大統領は「国家緊急事態4」を宣言し、国際緊急経済権限法(International Emergency Economic Powers Act 。以下「IEEPA」という。)を根拠に相互関税を課すことが発表された。このほか、IEEPAに基づく中国等特定の国を対象とした追加関税措置や、1962年通商拡大法232条(以下「232条」という。)に基づく品目別の追加関税措置を実施するなど、広範に及ぶ措置がとられている5(第1-1-2表)。
こうした累次の各種措置を経て米国の通商政策は非常に複雑化することとなり、例えば2026年1月現在における主要国・地域別の関税措置の概況を整理すると第1-1-3表のように表せるものの、現在の措置に至るまでの経緯を振り返ると、トランプ大統領の発言や行動次第で政策内容が刻々と変化するなど、先行きの不透明感を多分に伴うものであった。実際、米国の通商政策による世界経済への影響を分析する上では、大きく揺れ動いていたそれまでの経緯についても振り返っておくことが肝要である。
そこで、これまでの通商政策の動向を一定程度体系的に整理する観点で、以後、本節では今般の米国の関税措置について、
(1)関税率の修正に至るまでの相互関税をめぐる動向
(2)品目別関税の概況
(3)主要国・地域別での関税措置の動向
(4)その他特例措置等(追加関税の累積停止措置、関税対象外品目)
の4点に大別した上で、各措置の概況について、その主な経緯を振り返りつつ整理する。



1.関税率の修正に至るまでの相互関税をめぐる動向
まずは、2025年4月2日に米国から発表された、全ての貿易相手国を対象とした相互関税について、各国・地域と米国間での交渉の主な経緯も振り返りつつ整理する。これまでの動向を詳細に振り返る前に大まかな経緯を整理すると、トランプ大統領の就任以後、相互関税の導入に向けた準備が進められた中で、4月当初に発動が発表されたことを受けて各国・地域が米国との通商協議を要求し、交渉の結果として7月末にはほとんどの国・地域が米国との間で交渉合意に至った末、8月7日以降、各国・地域との合意を踏まえ修正された関税率が適用されることとなった(第1-1-4表)。以下では、具体的な動向について概観する。

(4月2日の相互関税発表を受けて、各国が米国との通商協議に臨む)
相互関税についてはトランプ大統領の就任前からその発動が示唆されていたところ6、大統領就任当日の2025年1月20日に早速「米国第一の通商政策」と題した大統領令が定められ、4月1日を期限として貿易赤字の原因や貿易赤字に伴う影響及びリスクに関して調査するよう指示されたことから、相互関税発動に向けた準備が開始された。その後、2月13日には相互関税の導入に向けた調査を関係省庁に指示する大統領令が署名され、相互関税措置の策定に向けた動きは着実に進められることとなる。そして3月4日の米国議会での一般教書演説において、トランプ大統領が4月2日に相互関税を発表する意向を表明したことで現実に相互関税が発動されるとの蓋然性が高まったこともあり、各国・地域は関税措置の適用除外を求めて米政権への接触を図ったほか、関税率が引き上げられる前に現行税率の下で対米輸出を前倒しして増加させる、いわゆる駆け込み輸出といった対応が進められた。
そして4月2日、トランプ大統領がIEEPAを根拠に相互関税の発動を発表するに至った。その主な内容としては、以下の2点となっている。
① 全ての国に対して10%の関税を課すこと。
② 日本を含む57か国・地域に対して、別途定めた追加関税率を課すこと7。
米国の発表を受けると、即時に75の国・地域を超える貿易相手国が通商協議のために米国への接触を図った。また、国際金融市場は、前例のない関税措置による先行き不透明感の共振等から、米国株安、債券安、ドル安が同時に起こるトリプル安の様相を呈した。こうした状況の中、同月9日、トランプ大統領は中国を除いて国・地域別に設けた上乗せ分の関税率(②の措置)を一時停止し、停止期間中は一律に10%の追加関税を課すことを決定した。その停止期間は7月9日までの3か月間とされ、各国・地域は適用税率を引き下げるべく、この期限内に米国との交渉をとりまとめる必要に迫られた。
(交渉期限延長の末、7月末に主要各国・地域が米国との合意に至る)
4月以降、米国と各国との間で通商協議が続いたが、多くの主要国は米国との合意に至らないまま、当初の交渉期限とされていた7月を迎えることとなった。
こうした状況下で、トランプ大統領は7月7日以降、日本を始めとする各国・地域に向けた書簡を相次いで自身のSNSに投稿・公表した。その主な内容は、8月1日から全品目に対する一律の追加関税措置を課すことを通告すると同時に、相手国がこれまで米国に対して採ってきた関税及び非関税措置並びに貿易障壁を撤廃するのであれば、追加関税措置について調整を検討することを示したものとなっていた8。その上で、7日同日にトランプ大統領は、相互関税の上乗せ分(②の措置)の一時停止期限を7月9日から8月1日まで延長する旨を大統領令で定めたことから、相互関税をめぐる交渉期限が約3週間延長されることとなった。
その後、各国と米国との間で交渉が進められ、7月末には多くの主要国・地域が米国との合意(ディール)に至った。そして、7月31日にトランプ大統領が相互関税率の修正に係る大統領令に署名したことをもって、各国・地域との合意内容を踏まえ修正された国・地域別の上乗せ分の関税率が、8月7日以降適用されることとなった。この結果、多くの国・地域にとって4月当初予定されていた関税率が一定程度引き下げられることになった。なお、高関税を回避するための迂回輸出(transshipment)が行われたと判断された場合には、国・地域ごとに設定された相互関税率に代わり、40%の相互関税率が適用される条項も加えられた(第1-1-5図)。
なお、各国・地域における米国との合意内容をみると、子細は異なるものの、その主な共通点として、当初予定されていた関税率の引下げと引き換えに、相当額の対米投資、米国産品の購入、米国に対する市場開放といった内容を約束するものとなっており、その履行状況に問題が確認された場合には関税率の引上げ措置がとられることとされている(第1-1-6表)。


(ただし、一部の国・地域は、8月以降も引き続き米国との交渉を継続)
ただし、中国を始めとして7月末時点で合意に至らずその後も交渉が継続した国もあれば、日本のように米国との合意内容が7月31日署名の大統領令に必ずしも十分反映されていないことから交渉が続く動きもあるなど、一部の国・地域では相互関税をめぐる交渉が継続されることとなった。こうした動向については、主要国・地域別に別途詳述する。
2.品目別関税の概況
次に、品目別関税の概況を整理する。
まず、その法的根拠となっている232条について整理する。当該規定ではある製品の輸入が米国の安全保障を損なうおそれがあると判断された場合、当該輸入を是正するための措置を講じる権限を大統領に与える旨が定められている(前掲第1-1-2表)。その具体的なプロセスについては、基本的に以下の手続きが踏まれた上で、必要が認められた場合に大統領が関税措置等を講じることを決定するものとなっている。
(ⅰ)大統領は商務長官に対して、対象品目の輸入が米国の国家安全保障に及ぼす影響について調査するよう指示。
(ⅱ)所要の調査を経た後、商務長官は大統領に調査結果及び提言をまとめ提出。
【調査指示から270日以内】
(ⅲ)報告・提言内容を踏まえ、大統領は関税引上げ等の措置を課すかどうか決定。
【調査報告から90日以内】
(ⅳ)(ⅲ)で何らかの措置の適用が決定された場合、当該措置を実施。
【措置決定から15日以内】
こうしたプロセスを踏みながら、第二次トランプ政権は広範な品目への追加関税措置を講じていくことになった。政権発足から間もない段階で鉄鋼・アルミニウムや自動車・同部品への追加関税を課すことが決定されたことから始まり、その後も累次の関税措置が決定され、2026年1月現在もなお調査中((ⅱ)のプロセス)の品目があるなど、適用範囲の拡大が継続している9(第1-1-7表)。これらの措置は原則として全ての貿易相手国に対して一律に課せられているが、それぞれの措置による影響の度合いについては米国との貿易構造の違いから国・地域ごとに異なる(第1-1-8図)。なお、現在調査中で追加関税措置の発動に至っていない品目についても、医薬品を始め、米国の輸入総額のうち相当程度のシェアを占める品目もあることから、その動向には引き続き注視が必要である。
品目別関税についても、調査段階にもかかわらずトランプ大統領が発動を示唆する内容の発言等があったほか、発動後に更に適用範囲を拡大する動きもあるなど、その経緯は大きく揺れ動くものもあった。また、今後更なる適用範囲の拡大も見込まれており、関連の動向には引き続き注視する必要がある。以後では、米国の通商政策の主な動向を把握するに当たって、各品目別関税のうち、特筆すべき動向を整理する。


(鉄鋼・アルミニウムへの関税措置は、関税率の引上げや適用範囲の拡大が続く)
まずは、第二次トランプ政権下で発動された最初の品目別関税に当たる鉄鋼・アルミニウムへの追加関税に係る動向を整理する。
発動が決まったのは政権発足から1か月も経たない2025年2月10日、トランプ大統領が鉄鋼・アルミニウム及び同派生品の輸入に対し、25%の関税を課す大統領令に署名し、3月4日から実際に関税措置が適用されるようになった。ただし、鉄鋼・アルミニウムへの関税措置は今回新たに実施されたものではなく、既に第一次トランプ政権以降で適用されていたものを更に拡充するという位置付けとなっている。従来の措置と比較すると、今回の措置はアルミニウム製品・同派生品への関税率を引き上げた上で、対象品目を追加したほか、これまで特定の貿易相手国にとっていた例外措置を全廃したことで、関税措置の拡大が図られた(第1-1-9図(1))。その後も、6月4日以降追加関税率が50%にまで引き上げられたほか、相次いで対象品目が追加されており、関税措置の拡大が続いた10(第1-1-9図(2))。なお、9月17日には米国商務省が対象品目に係るパブリックコメントを募集しており、今後適用範囲が更に拡大する可能性も否定できないため、引き続きその動向には留意が必要である。

(自動車関税については、時限付きで追加関税の相殺制度も設けられる)
次に、鉄鋼・アルミニウム関税に続いて発動された自動車・同部品への関税について整理する。
自動車関税については、第一次トランプ政権においても適用が検討されており232条に基づく調査も実施済みとなっていたが、実際の発動には至らぬままとなっていた11。こうした第一次政権下での経緯もあり、第二次政権下における自動車関税の発動リスクが潜在的に存在していたところ、2025年2月14日にトランプ大統領が輸入自動車への追加関税を4月2日頃に公表すると発言したことから、関税措置による自動車関連産業への影響に対する懸念が高まった。そして3月26日署名の大統領令において、4月3日以降に完成車(乗用車及び小型トラック)の輸入に対して25%、5月3日以降に自動車部品の輸入に対して25%の追加関税を発動する旨が決定された(第1-1-10表)。
当該措置は日本を始め、自動車・同部品を米国向けに多く輸出している国・地域に大きな影響を及ぼしかねず、事業者の中には仕向け先を米国から他国にシフトさせたり、米国との無関税協定(USMCA、後述)を活用したメキシコやカナダを含むグローバルなサプライチェーンの見直しを検討するなど、最適と思われてきた企業行動を変更せざるを得ない例も散見された。こうした状況の中、特に追加関税による影響を受ける日本、EU、韓国においては相互関税の引下げと併せて自動車関税の引下げを米国に要求してきたところ、交渉の進捗に差はあったものの、これらの国・地域に対する追加関税率は15%(既存の関税率を含む)にまで引き下げられ、関税による影響が一定程度緩和されることとなった(詳細な経緯については国・地域ごとに後述する。)。
なお、トランプ政権における関税措置の所期の目的としては、外国での製造と輸入への依存を迅速に減らし、米国内の生産能力を拡大し、その製造を米国に移転させることを促進することとされていた。ただし、通常、米国内へのサプライチェーンの移転及び構築には相当の期間を要することから、米国内の自動車メーカーからも関税措置に対する反発が相次いでいた。こうした状況を踏まえ、サプライチェーン再構築のための時間的猶予を与える観点から、自動車部品への関税については、輸入された部品が米国内での自動車製造に使用された場合、当該部品に課された関税コストを相殺する制度が期限付きで併せて設けられた。したがって、自動車部品の関税措置が米国内への輸入に及ぼす下押し効果は短期的には一定程度緩和されていると考えられる。ただし、相殺措置の利用には所要の申請手続きを要することから手続き面での事務コストが一定程度生じることとなり、事業者にとって自動車部品への関税を相殺出来たとしても、関税引上げ前と比較して追加的な費用を負い得る点には留意する必要があるだろう。なお、同様の相殺制度は、10月以降に発動された中型トラック及び大型トラックの部品に対する関税措置でも設けられている。
このように、自動車・同部品関税については、米国内への生産移転を促し国内の自動車産業を振興する性格が強く表れている点が特徴的といえる。

(銅の関税措置については、対象範囲が不明瞭で、各国は発動まで不確実性に直面)
次に、銅関連の品目別関税について発動に至るまでの経緯を振り返る(第1-1-11表)。銅への関税措置については、トランプ大統領が就任から間もない段階で既に鉄鋼・アルミニウム関税に並んで発動を示唆していたところ、2025年2月25日署名の大統領令で232条に基づく調査が指示され、具体的な準備が開始された。この時点では追加関税の発動時期や税率については明らかにされておらず、また調査対象品目としては原材料の銅鉱石に限らず銅線等の派生品まで含められており、影響範囲が広範に及ぶ懸念もあるなど、先行きの不確実性を多分に伴うものとなっていた。
このように不透明な状況が数か月にわたって続く中、7月9日、トランプ大統領が自身のSNSで、銅の輸入に対して8月1日以降50%の追加関税を課す意向を表明し、関連産業への影響に対する懸念が高まった。その後、7月30日に関税措置が正式に決定され、銅の半製品及び同派生品に対して50%の追加関税が課されるに至った。なお、銅鉱石や精錬銅といった銅の原材料については結果的に関税措置の対象外となったが、貿易相手国にとってこうした詳細な措置の内容が判明するまでの間は、その発動時期に加えて関税措置の対象範囲についても不明瞭な状況下に置かれることとなり、8月以降の関税発動までの間も、米国の通商政策が関連産業に広く影響を及ぼすこととなった12。

(政権発足当初から発動が示唆されてきた半導体・医薬品関税)
半導体及び医薬品への関税は、第二次トランプ政権発足当初から発動が示唆されており、各国・地域の事業者への相当な影響が懸念されながら、いずれもいまだ本格的な発動には至っていない。他方で、これまでの間、トランプ大統領から関税措置の発動を示唆する発言が度々あったほか、米国と各国・地域のメーカーとの間で今後発動される関税措置をめぐって協議が行われるなど具体的な動きも確認されているところであり、その動向には引き続き留意を要するといえる。したがって、ここからは、両関税措置をめぐるこれまでの主な動きについて確認する。
(ⅰ)半導体関税をめぐる動き
半導体関税をめぐっては、その発動時期や税率等について示唆するようなトランプ大統領の発言が散見されるなど、当該措置に対する不確実性は高まる一方であったといえる(第1-1-12表)。その発言内容等を踏まえると、現時点で示唆される措置の特徴としては、以下の2点が挙げられる。
①高税率(100%以上の可能性を示唆)。
②米国内に生産拠点を設けている、または建設予定の事業者に対する関税は免除。
ここから分かるとおり、半導体関税については非常に高い追加関税率を課すことを通じて、米国内への関連分野の投資及び生産移転を誘発することが狙われた制度設計になることがうかがわれる。実際、既に複数の大手関連企業が今後相当額の対米投資を実施することでトランプ大統領と合意しているなど、米国内製造業の振興に向けた動きが進んでいる。
なお、主要国・地域別にみると、日本、EU、韓国等については、米国との通商協議の結果、半導体関税が課された場合の追加関税率について上限が設けられるといった内容の合意がなされている。具体的には、EUは関税率の上限が15%(既存の関税率を含む)とされることで合意が交わされており、日本及び韓国についても、他国に劣後する形で扱われないことが合意されていることから、EUと同様に、関税率は最大15%にとどまることが想定される。
また、直近の動向として、2026年1月14日署名の大統領令をもって、翌日15日以降に輸入された特定の仕様を満たす先端半導体に対して、25%の追加関税が課されることが決定された。ただし、輸入される半導体が米国内で用いられる場合は基本的に追加関税の対象外となるよう定められており、当該措置の影響は限定的と考えられる13。実際、同大統領令では、今後諸外国との交渉を実施・継続した上で、半導体、半導体製造装置及びその派生品に対する広範な関税賦課について検討することを示唆しており、今後とも関連の動向に注視する必要がある。
このように半導体関税をめぐっては、所定の条件を満たした場合の免除規定が設けられる見込みのほか、一部の主要国・地域では米国との協議の結果100%以上の高税率が課される事態をあらかじめ回避する動向も確認されており、今後広範に及ぶ関税措置が発動された場合でも、その影響は一定程度緩和されることが期待される。

(ⅱ)医薬品関税をめぐる動き
医薬品の輸入に対する関税についても同様に、これまでトランプ大統領がその発動時期や税率等について度々言及しており、追加関税の発動が示唆されてきた(第1-1-13表)。これまでの発言内容等を踏まえ現時点で想定される関税措置の特徴としては、前述の半導体関税と類似しており、100%以上の高関税が示唆されながら、米国内での生産を進める企業に対しては追加関税を免除する意向も示されてきた。
医薬品関税をめぐる背景には、米国における薬価が国際的にみて割高に設定されていることを政権が問題視していることがある14。実際、2025年5月には医薬品価格の引下げを目的に、30日以内に製薬メーカーに対して「最恵国待遇価格目標」を通知するよう大統領令で関係省庁に指示を出し、事業者に対して他の先進国での販売価格と同程度の価格設定にするよう働きかけた。加えて、当該措置をもってしても最恵国待遇価格の実現に著しい進展がみられなかった場合の対応策についても記載があり、関税引上げ等を講じる可能性を示唆したものと考えられる。
こうして事業者への価格引下げ圧力がかけられる中、7月31日、トランプ大統領は各国の大手製薬メーカー17社に対して書簡を送付し、9月25日までの間に薬価を引き下げるよう迫った。この際、要求に応じなかった場合には価格引下げに向けて断固たる措置を講じていくことを表明しており、既に医薬品に対する100%以上の関税率を予定しているとの発言も確認されていたところ、関連産業への影響に対する懸念が高まっていた。そして9月末になると、トランプ大統領は10月以降の関税措置の発動を表明したものの、実際の発動は見送られたまま2026年1月に至っている。
他方で、書簡が送付された製薬メーカーとの協議には進展がみられており、計17社のうち14社が米国との合意に至っている(第1-1-14表)。合意内容について、その子細は異なるものの、一定期間関税措置が免除される代わりに、米国向けの製品価格の引下げや投資を約束するものとなっている。なお、こうして価格が引き下げられた医薬品については、政府直営のオンライン販売サイト(TrumpRx)を通じて米国民に直接提供されることが予定されている。
また、国・地域別の動向についても、半導体関税と同様に、関税措置の緩和に向けた進展が確認されている。既に日本、EU、韓国については、将来医薬品関税が発動された場合の最恵国待遇措置について合意がなされており、半導体と同様、追加関税率の上限が15%(既存の関税率を含む)になることが見込まれ、併せてジェネリック医薬品(その原材料及び化学前駆体を含む)については追加関税の対象外となることで合意が交わされた。このほか、12月1日には英国製の医薬品に対する追加関税をゼロにする旨の発表がなされた。見返りとして英国側は自国内での新薬価格を引き上げ、英国内で活動する米国の製薬会社が収益を得やすくすることで合意がなされている。
このように、医薬品関税をめぐって米国と各メーカー及び主要国・地域との間で協議が進む中、所期目標の薬価引下げに向けた動きが進展していることも踏まえると、今後の医薬品関税の発動による輸入への直接的な下押し効果は限定的になる可能性がある。


3.主要国・地域別での関税措置の動向
ここまでは、原則として各国・地域一律の措置となっている品目別関税や、税率等は異なるもののおおむね同様の経緯をたどってきた2025年8月当初までの相互関税をめぐる動向について整理した。他方で、米国の通商政策はこれらに限らず、特定の国・地域ごとに向けた関税措置等も実施されてきた。
以後では、特筆すべき主要国・地域別の関税措置をめぐる動向について整理した上で、その影響については次節以降で論じる。
(ⅰ)中国への関税措置をめぐる動向
主要国・地域別の関税措置の動向として、まず特筆すべきは、第二次トランプ政権発足以前から関税措置の発動が示唆されていた中国をめぐる動向である。これまでの動向を振り返ると、両国間では関税措置をめぐって、一時は互いに100%以上の追加関税を課す「貿易戦争」ともいえるような事態にまで悪化する場面もありながら、結果的に2026年1月時点においては、中国に対する関税率は他の主要先進国と同程度のものとなるまでに状況は沈静化した(第1-1-15表)。この間の関税措置をめぐる動向は大きく揺れ動いており多分に不確実性を伴うものであったことから、通商政策による財貿易等への短期的な影響を把握するに当たって、その動向を振り返っておくことが重要である。以下では、現在の措置に至るまでの経緯について振り返ることとしたい。

(大統領選時から示唆されていた中国への関税措置は、政権発足後間もなく実施へ)
中国への関税措置については、第一次トランプ政権時から講じられており、その後のバイデン政権にも引き継がれているものであったが、第二次トランプ政権ではこれを更に拡張させた。今回の追加関税措置については、トランプ大統領が2024年の大統領選時点で既に掲げていたものであり、当時から政権発足後には既存の関税率に上乗せする形で相当程度の追加関税が中国に対して課されることが見込まれていた15。
そして政権発足後間もなくして、トランプ大統領は中国から流入するフェンタニル等の違法薬物がもたらす脅威をIEEPAに規定される「国家緊急事態」と認定し、その認定に基づき、2025年2月及び3月と立て続けに、違法薬物以外を含む中国からの全ての輸入品に対する関税を10%ずつ(計20%)追加するに至った(以下ではこれらの措置による追加関税及び後述するカナダ、メキシコへの追加関税措置を総称して「フェンタニル関税」という。)。その上で4月2日に発表した相互関税措置の一環として、中国からの輸入品に対して別途34%の追加関税を課すことが決定され、短期間で併せて54%もの高関税が広範な品目に課されることとなった。
これに対して中国側も対抗し、都度米国への報復措置を講じた。2月及び3月の追加関税措置に対しては、米国からの輸入品のうち特定の品目群に対して10~15%の追加関税を発動した上で、4月2日発表の相互関税措置に対しては、即座に米国からの全ての輸入品に対して同等の追加関税(34%)を課すことが決定され、併せてレアアース関連品目の輸出管理措置を即時実施した。
こうした中国側の報復措置を受けて、米国側もまた追加関税を引き上げ、それに呼応する形で中国も更に追加関税を引き上げるといった「貿易戦争」ともいえる状況が4月上旬の数日間で繰り広げられた結果、同月11日以降、米中間では互いに100%を超える追加関税措置を課し合うこととなり、両国間の貿易は著しく下押しされる事態となった。
こうした報復のエスカレーションは、5月中旬に米中間で関税率を相互に引き下げる旨の合意に至ったことで、緩和することになった。それまで100%を超えていた両国間の追加関税率は、5月14日以降、米国側計30%(フェンタニル関税計20%及び当初賦課予定としていた相互関税率34%のうち10%。)、中国側10%(2月及び3月に導入した特定の品目群に対する追加関税は別途維持。)にまで引き下げられた。ただし、米国側は当初賦課予定としていた相互関税率34%を撤回するまでには至らず、対する中国側も4月当初に設定した追加関税率34%は維持したまま、双方がうち24%分について8月12日まで適用を一時停止する扱いとした上で、両国間での通商協議継続のための枠組みが設置されることとなった。
(交渉期限の再延長を経て、10月末に首脳間での合意に至り、事態は更に沈静化)
8月の期限に向けて米中間での通商協議は継続され、6月にも閣僚級協議が行われ5月の合意内容を履行する実施枠組みについて原則合意されるといった動きもあったが、依然として一定の合意には至ることができないままであった。そこで、更なる交渉継続を図るべく、7月末に実施された米中間の閣僚級協議において、8月12日を適用期限としていた関税引上げの一時停止措置について、更に90日間延長することで合意が交わされ、その後8月11~12日にかけて両国がそれぞれ当該延長措置を正式決定したことで、交渉期限が11月10日まで再延長された。
その後も交渉は継続したが、決着はつかないまま10月に入り交渉期限が再度迫る中、事態は再度緊迫する展開を迎える。契機は10月9日、中国側がレアアースの輸出管理措置を強化することを発表し、それを受けたトランプ大統領は翌日、11月以降中国への追加関税を100%上乗せする意向を示したことで、米中間の緊張が高まった16。
ただ、その後の両国間の協議を経て事態は沈静化し、10月30日の米中首脳会談において通商協議は一定の合意に至り、関税引下げや報復措置の停止等が実施されることになった(第1-1-16表)。その後両国による合意内容の履行が進展したことで、11月10日以降、中国に対する追加関税率は30%から20%にまで引き下げられたが、依然として両国間の通商問題は完全に解消されたわけではなく、今後の動向次第では再び関係悪化に陥る可能性も懸念されるところ、引き続きその動向には注意が必要である。

(ⅱ)カナダ、メキシコへの関税措置をめぐる動向
米国と隣接する2か国であり主要な貿易相手国に当たるカナダ、メキシコに対しては、第二次トランプ政権発足から間もなく関税措置が発動されたが、その後のカナダ、メキシコ側からの報復措置の表明も踏まえて追加関税を緩和する例外規定が設けられた中で、相互関税や品目別関税の発動も重なって各種の措置が交錯し、その全体像は複雑なものとなった(第1-1-17表)。以後、これまでの経緯について詳述する。

(違法薬物や不法移民への対応の一環として、政権発足後間もなく追加関税発動へ)
カナダ、メキシコへの追加関税については、トランプ大統領が就任前の2024年11月末時点で既に、両国から不法移民やフェンタニルを始めとする違法薬物が米国内に流入していることが問題として、25%の関税を課すよう就任初日に大統領令で指示する旨言及があった。そして就任後間もなく、2025年2月1日に当該措置を実施する旨がIEEPAに基づき決定され、同月4日には発効予定となった17。
これに対して即座にカナダ、メキシコは米国に対して報復措置を課すことを表明した。その後、トランプ大統領は両国首脳との電話会談を経て、追加関税発動前日の2月3日、両国への追加関税の適用を3月4日まで1か月延期することを決定した。米国側の決定を受けて、両国は報復措置の発動を見送ったほか、不法移民や違法薬物の流入への対策について米国に協力する意向を示した。
こうして一時的にカナダ、メキシコへの関税措置をめぐる事態は沈静化したものの、結果的に3月4日の期限到来をもって追加関税措置は発動された。ただし、ここでも先と同様にカナダ、メキシコ両国が報復措置を表明したことを受け、同月6日、米国は追加関税の緩和措置として、第一次トランプ政権下で合意し2020年に発効した3か国間の貿易協定である米国・メキシコ・カナダ協定(以下「USMCA」という。)に定める原産地規則を満たした製品は、例外的に関税対象から除外することを決定した18。
なお、相互関税については、カナダ、メキシコ両国に対しては前述の追加関税措置が適用されている限りにおいて、相互関税による関税率の上乗せは適用されないこととされている。また、品目別関税においても前述のとおり自動車関税等の措置においてUSMCAに係る例外規定が設けられているなど、カナダ、メキシコについては米国の関税措置における扱いが他国とは異なる点がみられる。
(カナダは米国に対して報復措置を発動するも、その後は一部停止へ)
米国側の各種関税措置に対して、カナダは実際に米国に対する報復措置を実施してきた(第1-1-18表)。3月4日に発動されたフェンタニル関税への報復関税として段階的な措置(表中No.1~2)を発表し、うち第1弾(表中No.1)は発表から即座に発動に至った。なお、米国側がUSMCAに係る特例措置を設けたことから、追加で発動予定とされていた第2弾の報復措置(表中No.2)については発動が見送られ、その後も実際の発動には至らなかった。また、カナダにとって影響の大きい鉄鋼・アルミニウム関税(3月12日発動)及び自動車関税(4月3日発動)に対しても、同様に報復措置(表中No.3~5)がとられてきた19。

トランプ大統領は、こうしたカナダによる報復措置の発動に加えて、カナダが米国への違法薬物の流入防止に対して十分な対策をとっていないことを批判し、7月に書簡であらかじめ通告した上で、8月1日以降追加関税率を35%に引き上げた。
こうして両国の関係の緊張が続く中、カナダ側は米国との貿易関係の再構築を図るべく、8月下旬、一部の報復措置を9月以降停止する旨の声明を発表した。背景として、2026年7月にUSMCAの見直しが予定されているところ、協定の継続に関して3か国間での合意に至らなかった場合の経済的影響を懸念し、米国との関係改善を図ったものと考えられる。また、米国側の追加関税措置にはUSMCAに係る特例措置が設けられたところ、カナダはその後対米輸出におけるUSMCAの適用比率を引き上げており、その比率は2025年1月までの4割程度から7月以降には8割以上に上昇した(第1-1-19図)。こうして米国側の追加関税による影響を実質的に受けにくい構造となっていたこともあり、米国との関係改善に向け、報復措置の一部停止に至ったと考えられる。

(メキシコは具体的な報復措置の発動に至らず、追加関税率は相対的に低い状況)
メキシコもカナダと同様に、3月4日に発動された25%の追加関税措置を受けて、当初は報復措置を講じる姿勢を示していた。他方で、カナダとは異なり、同月6日に定められたUSMCAに係る特例措置を受けて、報復措置の実施を見送ることとした。
その後、米国側はメキシコに対して、カナダと同様に違法薬物の流入問題への対処が不十分と指摘し、追加関税率を30%に引き上げる旨の通告を7月にしていたが、両国間での協議の結果、2026年1月現在に至るまでその発動は一時停止されており、実際に報復措置を発動したカナダとの扱いの差が見受けられる。
(ⅲ)日本への関税措置をめぐる動向
次に、関税措置をめぐって8月以降も米国との交渉が続いた代表事例として、日米間の主な動向を取り上げ、整理する(第1-1-20表)。自動車産業を国の基幹産業の1つとする日本は、米国との通商協議において自動車関税の引下げを優先課題として交渉を進めたところであった。

2025年2月以降、日本政府は米国側に対して複数回にわたって関税措置に対する申入れを実施してきたところであったが、結果的に品目別関税及び相互関税の発動に至り、米国による一方的な関税措置の影響が及ぶ事態に陥ることとなった。こうした事態を受けて、4月7日に日米首脳電話会談が行われ、双方において日米交渉の担当閣僚を指名し20、関税措置の見直しについて協議が継続されることとなった。同月8日には、日本は米国の関税措置に関し総合的な対応を図るため「米国の関税措置に関する総合対策本部」を立ち上げ、「関税より投資」との一貫した主張をしながら、米国側に対して一連の関税措置を見直すよう強く申入れを行ってきた。
そして米国との粘り強い交渉の末、7月22日に日米間で合意に至り、相互関税率及び自動車・同部品への追加関税率が引き下げられることになった一方で、日本は米国に対して5,500億ドルの投資等を約束した。ただし、同月31日の大統領令は必ずしも日米合意の内容が適切に反映されたものとはなっておらず、自動車関税の引下げも発動には至らなかった。
米国側の発表内容を受けて、直ちに日本は再度米国側への接触を図り、合意内容について再確認した上で、早急な実施を求め続けた。その結果、7月末の相互関税率の修正から約1か月遅れて、日米合意で取り決められた関税率の引下げを実施する大統領令が定められ、相互関税率については既存の関税率を含めて15%が上限とされることが明文化されたほか、自動車関税の引下げについても9月16日から実施されることになった。このように、米国の関税措置をめぐっては、7月の米国側との合意以降も、合意されていた関税措置の緩和の実現に至るまでに時間を要するケースが少なくなかった。
(ⅳ)EUへの関税措置をめぐる動向
EUについては、米国の関税措置に対して報復措置の発動を示唆する場面もありながら、2025年4月中旬以降は米国側の対応を踏まえて報復措置の実施を見送りつつ、米国との通商協議が進められた(第1-1-21表)。
2025年7月末の米EU間の合意後も、日本同様、合意内容の実現に向けて米国との交渉は継続され、8月21日には合意内容に関する共同声明を双方が公表し、関税引下げについて条件や時期を明記するなど、合意内容の実施に向けた動きが着実に進められた。そうした中、自動車・同部品関税を引き下げる要件として定められたEU側の米国に対する市場開放に向けた動きが8月末に進められたことも踏まえ、最終的な実現までには期間を要したものの、9月下旬に米国側がEUに対する関税引下げ措置を発表・発動するに至った。特に、自動車・同部品関税の引下げについては、共同声明の取り決めに基づき、8月1日に遡及して適用されることとなった。

(ⅴ)韓国への関税措置をめぐる動向
韓国についても日本、EUと同様に、対米輸出に占める自動車の割合が高いことから、米国との通商協議においては、自動車関税の引下げが1つの争点となっていた。他方で、日本、EUと比べて、大筋合意から実際の関税引下げに至るまでに時間を要した結果、韓国自動車産業は相対的に不利な状況に長く置かれることとなった。
これまでの国・地域と同様に、韓国も7月末に関税率の引下げについて米国との間で大筋合意に至ったところであった。8月からの相互関税は当初予定されていた25%から15%に引き下げられたものの、その後自動車関税引下げの実現に至るまでにはおよそ3か月の期間を要した(第1-1-22表)。争点となったのは、韓国側が行う対米投資の具体的な実施方法であった。他国と同様、韓国は関税率引下げの見返りの一環として、総額約3,500億ドル(約52兆円、2024年における韓国のGDPの約19%に相当。)の対米投資を行うことで合意がなされていたが、うち造船業分野を除く2,000億ドル分の投資について、米国側は現金による直接投資を望む一方、韓国側は短期間で巨額のドル調達を行うことによる外国為替市場への影響を懸念したことから、両国間で折り合いが付かない状況が続いた。
こうして両国間での協議が続く中、10月末に開かれた米韓首脳会談において、2,000億ドルの対米投資については現金投資により実施することとした上で、外国為替市場への影響に配慮しその年間投資上限を200億ドルとすることで合意し、自動車関税の引下げ等関税措置の緩和に向けて前進することとなった。その後、11月13日に合意に係る両国の共同ファクトシートが公表され、11月末には韓国側が対米投資に向けた具体的な準備を進めたことも受けて、米国は12月4日、韓国に対する関税率引下げの実施を発表し、自動車関税は11月1日から遡及適用される形で15%(既存の関税率を含む)に引き下げられた。また、相互関税についても、11月14日に遡及して日本、EUと同様に関税率が既存分を含めて15%となるよう緩和された。いずれにせよ、交渉の長期化により、韓国は日本、EUと比較して自動車産業等の分野において関税の影響を相対的に強く受ける状況が続いた21。

(ⅵ)その他の主な国別の関税措置(ブラジル、インド)
このほか、ブラジルとインドに対してもIEEPAを根拠とする国別の関税措置がそれぞれ課され、両国への追加関税率は他国と比べて高いものとなった。
ブラジルに対しては、ブラジル当局による米国のオンラインプラットフォームへの検閲や最高裁判事による司法権の濫用等が米国の安全保障上の脅威に当たるとして22、2025年8月6日から40%の追加関税を発動した。この関税措置は相互関税に上乗せとなるが(追加関税率計50%)、民間航空機・同部品や銑鉄、アルミナといった相互関税よりも広範な適用除外品目が設定された。
インドに対しては、インドがロシア産の原油を購入していることが米国の安全保障上の脅威に当たるとの判断により、8月27日から新たに25%の追加関税を課すこととされた。2022年に始まったロシアによるウクライナ侵略に対する制裁として、米国はロシアからの原油等の輸入を禁止してきたが、インドがロシア産原油の購入を継続していることでロシアが侵略を継続するための資金を獲得していると判断し、追加関税を賦課することでインドによるロシア産原油の輸入を停止させる狙いであった。なお、本関税措置についても相互関税に上乗せされ(追加関税率計50%)、対象品目も相互関税と同様の扱いとされたが、結果としてインドから米国へ輸出される主要品目である医薬品やスマートフォンは相互関税及び本関税措置の適用除外となっている。
なお、2026年2月2日に米印首脳間で電話会談が実施されたところ、インド側がロシア産原油の輸入を停止し米国産若しくはベネズエラ産の原油購入を増やすことに合意した。これを受けて米国側はインドへの25%の追加関税措置を撤廃し、相互関税率についても25%から18%にまで引き下げることに合意した(追加関税率は計50%から18%にまで低下。)。
4.その他特例措置等
ここからは、原則として各国・地域一律で定められている米国の関税措置の主な特例規定として、追加関税の累積停止措置及び関税措置の対象外品目について整理する。
(関税措置が大幅に累積する品目も生じたことから、累積停止の適用も)
ここまでみてきたとおり、第二次トランプ政権は、国・地域別及び品目別に様々な関税措置を課しているところであるが、こうした各種措置の発動により、複数の関税措置が上乗せで課されることで追加関税率が更に高く設定される品目もあった。例えば、自動車部品について言えば、鉄鋼・アルミニウム製品であればそれに係る追加関税(現在は50%)が課される上に、別途自動車部品に係る追加関税(同25%)も規定されていることから、これらが累積することにより対米輸出への影響が相当大きくなるおそれがあった。
こうした事態に対して、米国側は本来の政策目標を達成するために必要な程度を超えているとの判断を下し、2025年4月29日、追加関税の累積停止についての大統領令を定めた23。これにより、
① 自動車・同部品関税
② カナダ、メキシコへの追加関税
③ 鉄鋼・アルミニウム関税
の関税措置の重複が回避されるよう整備され、重複があった場合には①~③の順に優先して適用されることとなった24。その後も、新たな関税措置が相次いで適用されたが、基本的には同種の事態に陥ることのないよう整備されている25。いずれにせよ、こうした措置も含めて、第二次トランプ政権による通商政策は複雑化したといえる。
(相互関税の対象外とされた一部品目については、通商政策の直接的な影響を受けず)
第二次トランプ政権では、全ての貿易相手国を対象とする広範な相互関税措置が講じられたわけだが、例外措置として、将来的に品目別関税が課される可能性のある品目のほか、米国内産業へのサプライチェーン上の影響が及ばないよう米国内では入手不可能な資源等については相互関税の対象外とされている。具体的には、2025年4月当初から、医薬品、半導体26、原油等については対象外とされており、その後スマートフォン、パソコン、半導体製造装置といった半導体関連製品も対象外品目に含められ、米国の輸入総額のうちおよそ3割程度を占める品目が関税措置による影響を受けない構造となった(第1-1-23図)。
対象外品目は4月当初以降、複数回にわたる修正を経て増減している。9月には特定の水酸化アルミニウム、樹脂、シリコン製品等が対象外品目から削除された一方で、金関連製品27や特定の重要鉱物・医薬品等が追加された28。また、11月には相互関税をめぐる交渉の著しい進展及び特定の製品に対する国内での需要動向・生産能力等に鑑みた上で、米国では生産されていない品目を中心に特定の農産品が相互関税の対象外品目に追加された。実際、追加された代表的な対象外品目としてコーヒー及び牛肉の米国内における物価動向をみると、そもそも供給量が減少基調にあった中で関税措置がとられたこともあり、2025年以降、いずれも価格の上昇ペースが加速していた(第1-1-24図)。こうした動向への対応策として追加関税の対象外品目を拡大することで、関税措置を通じた米国内への影響の緩和を図る動きもみられてきた。
このように、第二次トランプ政権による広範な関税措置はあらゆる輸入品目に及んでいたわけではなく、こうした関税措置の対象外品目を主要な輸出品とする国・地域(例えば、先端半導体を主要輸出品とする台湾等)にとっては、米国の通商政策による世界的な経済変動の影響は受けるものの、関税による直接的な影響は相対的に限定的であった。


5.小括
本節では、米国の通商政策の動向を整理してきたが、その内容は多岐にわたるとともに、非常に複雑化してきた。こうした動向を、これまでの関税率等の推移とともに改めて総括する。
(米国の実効関税率は大幅に上昇し、GATT発足前の水準に回帰)
これまでみてきたように、第二次トランプ政権の関税措置は多岐にわたっているが、それらを総合的にみるため、米国が輸入全体に対して課している実効関税率の動向を確認する。バイデン政権下の2024年から第二次トランプ政権発足直後の2025年初頭にかけては、米国の実効関税率は2%台前半で安定的に推移してきた。その後、中国、カナダ、メキシコへの関税措置が本格化した3月頃から明確に上昇し始め、相互関税や自動車関税が導入され、米中間で相互に100%を超えるまで関税が引き上げられた5月には8.8%まで急激に上昇した。その後も関税率の引上げや対象品目の拡大が続いたが、米中間の関税が引き下げられたこともあり、実効関税率の上昇ペースは緩やかとなり、11月時点では10.0%となっている。それでも、一連の関税措置が導入される以前のバイデン政権末期の水準と比較すると4倍強という大幅な上昇となっており、歴史的にみれば第二次世界大戦の無視できない要因が関税や輸入制限による保護主義・ブロック経済化にあったとの反省の下、その後の世界的な貿易自由化の推進力となったGATT発足前の1946年頃と同程度の水準まで後戻りすることとなった(第1-1-25図)。

(米国が広範な関税措置を講じるも、世界全体の財貿易量の縮小は現時点で確認されず)
このように、第二次トランプ政権の広範な関税措置により、米国の実効関税率は大幅に上昇したが、一般論で言えば、関税率の上昇は財貿易に抑制的な効果を持つと考えられる。ここで世界全体の財貿易量の動向を概観すると、特に米国の相互関税等の発表前後である2025年3月以降、各国の駆け込み輸出及びそのはく落による変動がみられたものの、夏以降に財貿易量は再び増加基調に復している(第1-1-26図)。したがって、少なくとも現時点においては、米国の広範な関税措置によって世界の財貿易量が縮小するような状況とはなっていない。足下にかけても財貿易量が堅調に増加している要因については、次節以降で詳しくみていく。

(通商政策をめぐる動向を背景に、先行きの政策不確実性は非常に高まった)
米国の通商政策をめぐっては、各国が米国との合意に達し事態が落ち着くまでの間、高関税が課される懸念が拭われなかったこと等から、経済政策に対する不確実性は非常に高まっていた。その動向を、米国の大学教授らが開発・公表している経済政策不確実性指数でみると、2025年の急騰は感染症拡大期を始めとする過去の経済ショックと比較しても突出していることが分かる(第1-1-27図(1))。さらに、貿易政策に関する指数をみると、相互関税が発動されたほか米中間での通商関係が非常に悪化していた2025年4月に過去最高水準に至るまで急騰しており、その水準はかつて米中貿易摩擦が激化した2019年8月のピークの約4倍に達したほどである(第1-1-27図(2))。その後、ピーク時からは低下したものの、2024年対比でみると依然として通商政策をめぐる不確実性は高い状況が続いてきたといえる。
また、米国の通商政策をめぐる足下での新たな動向として、2026年以降、トランプ大統領は自身のSNSで、イラン情勢をめぐり同国と貿易関係のある国に対して25%の追加関税を課す意向を表明したほか、グリーンランドの取得をめぐり欧州8か国29に対して10%の追加関税を課す意向を表明した後、数日後にはその発動の見送りを表明するといった動きがみられた。依然として米国の通商政策に伴う不透明感は続いており、今後とも関連の動向には注視していく必要がある。
このように不確実性を多分に伴いつつ広範に及んだ米国の通商政策が世界経済にどのような影響を及ぼしたのか、次節以降、主要国・地域別に詳述することとする。

コラム1 IEEPAに基づく関税措置をめぐる米国内での裁判の動向
本節では、米国の通商政策の概況について整理してきたが、各種関税措置のうちIEEPAに基づく措置(相互関税等)については、その合法性ないし合憲性をめぐって2025年4月以降裁判所で係争中となっている。既に下級審においては違法判決が下されており、11月からは連邦最高裁で審理が開始された。本裁判の動向如何によっては、例えば一部の関税措置が過去に遡及して無効となりそれまで徴収された関税額の払い戻しも生じ得るなど、実体経済にも相当な影響が及ぶことが想定される。本コラムでは、こうした関税措置をめぐる裁判の動向についてフォローする。
まずは提訴に至るまでの主な経緯を振り返る。第二次トランプ政権では大統領令によって複数の関税措置をこれまで発動してきたところであったが、本来、憲法の規定上、関税を課す権限は連邦議会に属している30。ただし、貿易相手国による不公平な慣行への対処等、特定の場合に限り関税を課す権限を大統領に委任する法律が複数制定されており、これらを根拠として大統領による関税措置の発動が決定されてきた。今般の関税訴訟の対象となったのは、第二次トランプ政権が発動してきた関税措置のうち、2025年2~4月にかけて実施された相互関税を含むIEEPAに基づく措置となっている(表1)。IEEPAは他の根拠法と異なり条文上「関税を課すこと」が大統領に付与される権限として明記されておらず、IEEPAに基づく追加関税の発動は前例のない措置であったところ、4月に米国の12州31等が当該措置の違法性を主張し米国国際貿易裁判所(CIT)に提訴するに至った。

次に審理の状況について整理する(図2)。第一審では「IEEPAが、世界中のほぼ全ての国からの輸入に対し無制限に関税を課す権限を大統領に委任しているか否か。」が最大の争点となったが、判決では「IEEPAが大統領に無制限に関税を課す権限を付与しているとは解釈できず、同法に基づき課された関税は無効である。」として、原告の主張を認め違法と判断された。続く連邦巡回区控訴裁判所での第二審においても争点は同様であり、8月29日の二審判決では判事11名中7名が第一審での判決を支持した。そして審理は連邦最高裁判所に移ったところ、緊急性の高い案件と判断されたことから審理が迅速に進められるよう取り扱われ、11月5日には口頭弁論が行われるに至った32。主要な論点は以下の3点となっている。
① IEEPAが認める「貿易の制限」に「関税の発動」が含まれるか。
② IEEPAを根拠とした関税は議会が権限を持つ「税金」と大統領に裁量がある「外交政策」の手段のいずれに該当するのか。
③ IEEPAを根拠とした関税の発動が「重要問題法理(Major Questions Doctrine)」に抵触するか。
①については、下級審と同様の争点であり、下級審ではこれを否定する判決が下されていた。②については、今般の措置を実施する権限は本来議会に属するのか大統領に属するのかを争点とするものとなっている。前者に当たれば今般の関税措置は違憲となる。そして③について、「重要問題法理」とは、行政機関が「経済的・政治的に重大な意義」を持つ問題を決定しようとする際、「明確な議会の承認」が必要であるとする米国の法理33であるが、今般のIEEPAに基づく一連の措置がこれに抵触しないか否かを争点とするものである。実際、バイデン前政権が大統領令で実施を決定した学生ローン免除措置についても、当該法理に準じていないことから最高裁において大統領権限が否定された事例もあった。
これらの争点をめぐって口頭弁論が実施されたわけだが、最高裁の判事からはおおむねIEEPAに基づく関税措置への厳しい態度が示された。また、現在の最高裁判事は保守派6名とリベラル派3名の計9名と保守派優位で構成されているが、実際の審理に当たってはその主義・思想を問わず政権に対する厳しい追及が続いた。
本稿執筆時点の2026年1月現在においてまだ判決は示されていない。

こうして最高裁判決が待たれる状況が続いているが、仮に最高裁でIEEPAを根拠とした関税措置が無効と判断された場合、その経済的影響は相当なものになることが予想される。以下では、無効判決が出された場合に想定される影響について整理する。
IEEPAに基づく関税措置が無効となった場合、表1でも示したとおり、これまでの第二次トランプ政権による関税措置のうち、相互関税及びフェンタニル関税等の措置が無効となることが想定される。このうち相互関税について言えば、米国の輸入総額に占める対象品目の割合は概算で4割程度となっており、その割合は既に発動済となっている主な品目別関税の対象範囲よりも広範なものとなっている(図3)。また、主要国別に言えば、特にIEEPAに基づく関税措置が重複することで高関税が課されていた中国については実効関税率の上昇が他国と比べて著しかったところ、無効判決が仮に出された場合には、これが相当程度低下することが見込まれる。なお、カナダ、メキシコもIEEPAに基づきフェンタニル関税が課せられた米国の主要貿易相手国ではあるが、前述のとおりこれら両国に対してはUSMCAに係る特例措置が設けられていたことから、追加関税以降の実効関税率の上昇は限定的であった(図4)。


このように広範に及んでいたIEEPAに基づく関税措置が無効となった場合、これまで徴収されていた多額の関税の還付が、関税支払い義務のある米国輸入企業を中心に生じることが想定される34。米国財務省の公表データによれば、2025年以降、第二次トランプ政権の追加関税措置による関税収入の増加分は累計で既に約1,760億ドル程度と見込まれる。これに対して、別途米国税関・国境取締局から公表されているIEEPAに基づく措置による関税収入額は、2025年12月中旬までの累計で約1,330億ドル程度となっている35(図5)。これらのデータを比較すると、これまでの追加関税措置による関税収入の増収分のうち大部分がIEEPAに基づく措置に由来すると考えられることから、仮に最高裁での無効判決が出た場合、米国政府はこれまで追加関税により得られた関税収入の大部分を米国輸入企業に還付する必要に迫られる可能性がある。還付される企業にとってはキャッシュフローの大幅な増加であり、その影響を財政収支の面からみると、仮にIEEPAに基づく関税措置が無効になった場合、そうでなかった場合と比較して2025~2035年度の財政赤字縮小額(累計)が約3分の1にまで減少するとの米国民間機関の推計もある(図6)。
関税措置に関する最高裁判決については、今後の経済的影響も含め、その内容と政府の対応を注視していく必要がある。また、仮に最高裁で無効判決が出された場合であっても、他の根拠法に基づく代替的な新たな関税措置を発動するリスクも指摘されており、関連の動向を含めた注視が必要である36。


「米国は世界人口の5%未満を占めるにすぎないにもかかわらず、世界の製薬業界における利益の約4分の3を支えている。この著しい不均衡は、製薬企業が海外市場に進出するために自社製品を大幅に値引きし、米国では非常に高い価格にすることでその値引き分を補填するという意図的な仕組みによってもたされている。」