第1章 中国経済が世界経済に与える影響(第3節)

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第3節 まとめ

本章では、中長期的な視点から中国経済の構造を概観した上で、2024年後半の中国の景気動向を確認し、足下で特に課題と考えられる住宅価格の下落に伴う負の資産効果や、欧米から指摘されている一部の財に関する「過剰供給」問題について、試算を含めて掘り下げた分析を行った。

第1節では、中国は2010年以降経済規模が世界第2位となっている一方、足下でも一人当たり名目GDPは日本の3分の1程度であり、所得水準は高中所得国に位置付けられていること、産業構成も日本の1980年頃と同程度に製造業の割合が高く、経済のサービス化を進展させる余地があることを確認した。他方、中国は既に人口減少と高齢化が進展する局面、いわゆる人口オーナス期に入っており、今後の経済成長や不動産需要に対して下押し圧力が継続する見通しとなっている。また、中国は世界最大の貿易黒字国であり、先進国中心から新興国・途上国へ貿易相手国・地域の多角化も進めている中、電気機械や鉄鋼製品、更に近年は自動車等の輸出を通じて世界経済に大きな影響を与える存在となっている。

次に、第2節では、2024年後半の中国の景気動向と政策対応について確認した。生産設備の更新に対する補助等の政策支援によって製造業投資や生産が堅調に推移する一方、住宅価格の下落が継続する中で雇用・所得環境の明確な改善はみられず、政府の買換え支援策を受ける一部の耐久財を除けば消費の伸びは力強さを欠いている状態にある。このうち、住宅価格の下落が家計消費に与える負の資産効果については、幅を持って理解する必要があるものの、住宅価格が本格的に下落する前の2021年頃と比較すると2024年前半には0.9~6.7%程度の消費の下押し効果が働いている可能性があることが示された。不動産市場の先行きについては、不動産需要は人口動態に左右されることや我が国のバブル崩壊後の経験を踏まえると、人口減少局面での不動産市場の停滞を政策対応によって迅速に解消することは容易ではないと考えられ、当面不動産市場の停滞は継続することが想定される。国内において供給が増加する一方、内需が伸び悩む中で国内物価は下落基調で推移するとともに、輸出価格が低下する中で輸出数量は増加基調にある。内需の低迷を受けて9月の中央政治局会議前後から政策金利の引下げ等の追加政策が相次いで打ち出されたが、本格的な景気浮揚には至らない中で、11月には対中関税の引上げ等を主張するトランプ候補がアメリカ大統領選挙に当選するなど先行きの外的環境の厳しさが深まり、12月の中央経済工作会議では2025年の財政・金融政策のスタンスをより景気刺激的な方向に転換する方針が示された。

続いて、こうした不動産市場の停滞に伴って内需が伸び悩む中で、国内需要を上回って生産された財が安価に輸出され輸入国側の経済や雇用に影響を与えているという「過剰供給」問題について、鉄鋼と自動車に関する供給関数と需要関数の同時方程式を推計し、一定の仮定の下で、中国の不動産市場の停滞がこれらの財の価格低下と輸出量の拡大を生じさせることを確認した。特に、自動車については供給関数が価格に対して有意に弾力的であるという推計結果とはならず、価格メカニズムを通じた生産量の調整が十分機能していないことが示唆された。

その上で、鉄鋼を例に、中国で過剰供給された財を輸出することによる世界経済への影響についてGTAPモデルを用いて試算したところ、一部の国・地域では実質GDPや国内投資の増加につながるものの、競合する製造業が立地する国・地域においては輸入の増加や国際市場での競争の激化に伴う鉄鋼の価格下落、当該産業への負の影響による国内投資の減少による実質GDPの低下という負の影響を与える可能性があることも確認した。なお、中国の実質GDPは増加するものの、不動産市場の停滞による経済全体への負の影響を補う程度のものではないと考えられる。

以上の結果を踏まえると、中国には不動産市場の下げ止まり・安定化をできるだけ早期に実現し、国内の需給ギャップを解消していくことが求められるほか、中長期的には、製造業への依存度を低下させ、経済のサービス化を通じて内需主導型の経済への転換を図っていく必要があることが示唆される。

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