第1章 2023年後半の世界経済の動向(第3節)

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第3節 世界経済のリスク要因

これまで、1節で欧米の景気について、2節で中国の景気とバランスシート調整について分析した。本節では、前節までの分析結果を踏まえた先行きのリスク要因について整理する。

(欧米における金融引締めの継続による需要の一層の下押し)

欧米の消費者物価上昇率は低下傾向にあることを受けて、政策金利は2023年秋以降は据置きとなっており、長期金利は2023年秋のピーク時から低下した。これらの動きは、特にアメリカにおいては耐久消費財への需要に加え設備投資や住宅投資を喚起し景気を下支えする一方で、需要の増加を受けて消費者物価上昇率は低下傾向が鈍化ないしは高止まりする可能性もある。一方で、欧州においては、協約賃金改定に伴う賃金上昇圧力が今後も続くことが見込まれ102、労働費用の面からの消費者物価上昇圧力が続く可能性がある。その結果、欧米ともに金融引締めが相当の期間にわたり続く可能性がある。

このため、金融引締めの効果が時間差を伴って耐久消費財、設備投資や住宅投資等の需要を一層下押しする可能性が継続すると考えられる。欧米諸国では、景気動向は引き続き高い変動のリスクを伴ったままであると考えるべきであり、景気動向を丁寧に確認しながらの慎重な金融政策運営が引き続き求められる。

(中国の不動産市場の停滞に起因する中国の成長率の構造的な下押し)

中国では、不動産市場の停滞が続く中で、不動産企業のバランスシート調整がみられており、地方政府の土地使用権譲渡収入の大幅な減少、地方融資平台の資金繰り悪化が続いている。また、不動産部門にとどまらず、鉱工業企業にもバランスシート調整がみられており、製造業投資、家計の消費の伸び悩みにつながっている(1章2節2項)。不動産市場の停滞が長引く場合には、バランスシート調整も長期化し、潜在成長率に対する下押しが起こる可能性がある。また、不動産市場の停滞に起因するとみられる金融機関の不良債権について、証券化が進行していることは、リスクが非金融機関に広がる可能性があり103、今後の動向を注視する必要がある。

(欧州におけるエネルギー情勢)

欧州においては、ウクライナ侵略が長期化しており、これを受けたエネルギー供給制約及び価格高騰が生産活動を停滞させ、特にドイツやイタリア等のエネルギーのロシア依存が高かった国においては、その影響が顕著である。ウクライナ侵略の今後の見通しは不透明であり、欧州のエネルギー供給制約が引き続き生産活動に影響する可能性も残る。このように、欧州におけるエネルギー情勢は厳しさが続くが、短期的なエネルギー源確保の観点のみではなく、中長期的な脱炭素化に向けて、再生可能エネルギーを中心としたエネルギー源の多様化に持続的に取り組むことが必要である。このためには、費用対効果の検証も十分に踏まえた、各国による脱炭素化支援の継続が求められる。

(金融資本市場の変動)

2023年3月のアメリカの地方銀行の経営破綻を受けて地方銀行株式相場は大幅に下落したのち、2024年2月半ば時点でも下落前の水準以下でとどまっている(第1-3-1図)。また、2024年2月には破綻行の一部資産を引き継いだ銀行が多額の貸倒引当金を計上し大幅に利益が減少したこと等を受けて同行の株価が急落するなど、不安定な状況もみられた。この背景には金融引締めを受けた商業用不動産の価格下落が挙げられるが(第1-3-2図)、金融引締めが相当の期間にわたり続く可能性がある中、商業用不動産価格の下落が続けば、商業用不動産ローンの債務延滞、不履行が増加し、中小銀行の資産を毀損することが考えられる。さらに、銀行与信の収縮を通して、経済活動に負の影響を与える可能性があるところ、商業用不動産の動向には今後も注視が必要である。

第1-3-1図 米銀行等の株価の推移
第1-3-2図 商業用不動産価格指数

(中東地域をめぐる情勢)

2023年10月中旬にはイスラエル及びパレスチナ武装勢力間の衝突が起こるとともに、同年11月にはイエメン国内の武装勢力であるホーシー派による同国沖の紅海を航行する船舶への攻撃がなされ、中東地域の緊迫が続いている。これを受け、原油価格が一時的ではあるが上昇するとともに、欧州とアジア間の海運がスエズ運河を回避し、喜望峰周りとなる動きが増えるなど、航路変更に伴う物流コストの上昇圧力がみられる(第1-3-3図)。また、欧州の一部工場では、物流の停滞に伴う操業停止等の動きもみられている。このように、中東地域をめぐる情勢は、世界経済、特にユーロ圏と英国に対する景気の下振れリスクにまで発展するかは不透明ではあるものの、今後の情勢を注視する必要がある。

第1-3-3図 スエズ運河と喜望峰を通過する積載量

(国際政治情勢の変化)

2024年は、世界の主要国等で大統領選挙や総選挙等が予定されている(第1-3-4表)。選挙によって政権が交代したり議会の多数派が変わる場合、経済政策の方針が大きく変更される可能性がある。こうした政策方針の変更は、政権が交代するなどした国の経済だけでなく、貿易・投資を通じて世界各国の経済に影響を与える可能性がある。このような国際政治情勢の変化が、世界経済に与える潜在的なリスクについては、引き続き注視する必要がある。

第1-3-4表 2024年の世界各国の主な選挙関連日程

102 ドイツにおいては2022年11月に金属労組が電気、自動車、機械産業分野で今後2年間(2024年まで)で計8.5%の賃上げ等で労使で合意している。
103 2023年の発行額は前年比+45.6%の466億元(約9,320億円)となり、銀行の不良債権規模(2023年9月末時点で3.2兆元)に占める比率は1.5%。

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