第1章 2023年後半の世界経済の動向(第2節)
第2節 中国の景気とバランスシート調整
中国では、2023年初の感染症収束を受けて同年前半には各種経済指標の伸び率が高まり、景気には持ち直しの動きがみられてきたが、同年後半にはその動きに足踏みがみられた。こうした景気動向の背景には、不動産市場64の問題に起因する構造問題があるとみられる。このために、中国経済の先行きについては、短期的な景気の足踏みにとどまらず、中長期的な成長の停滞が懸念される。
こうした問題意識を踏まえ、第1項では、中国の景気動向について、複数の経済指標で持ち直しの動きに足踏みがみられる背景に、不動産市場の停滞による継続的な下押しがあることを確認する。第2項では、不動産市場の停滞によるバランスシート調整や、地方政府、家計への影響を確認し、今後の構造的なリスクを展望する。
1.中国の景気動向
本項では、2023年後半の中国の景気動向を概観し、不動産市場の停滞が継続的な下押しをもたらしている状況と、政策対応の動向を整理する。
(景気は持ち直しの動きに足踏み)
中国では、2023年初に新型コロナウイルス感染症(以下「感染症」という。)の感染症分類が引き下げられ、感染症収束に伴い、鉱工業生産を始めとした各種経済指標の伸び率が高まった(第1-2-1図)。ただし、2022年は感染症の影響で経済活動が停滞していたため、2023年の経済指標は、前年比が実勢よりも高い値となることに留意が必要である。この影響を除くため、2021年の値と比べた2年前同月比(年率65)をみると、12月は+4.0%と伸び率が低下している。
2023年10-12月期の実質GDP成長率は、前年同期比+5.2%と前期(7-9月期+4.9%)から高まったものの、前期比年率では+4.1%と、前期(同+6.1%)から減速した(第1-2-2図)。2022年の感染症拡大の影響を除く2年前同期比(年率)でも+4.0%(7-9月期+4.4%)と、減速が確認される。2023年通年では+5.2%と、同年の成長率目標「+5.0%前後」を上回ったものの、2年前比(年率)では+4.1%にとどまり、依然として潜在成長率66を下回る状況が続いている。
こうした減速の背景には、不動産市場の停滞(後述)と、輸出の弱含みがある。輸出金額は、2023年5月以降は前年同月比でマイナスが続いた。同年12月には+2.3%となったものの、前年同月に感染症拡大の影響で経済活動が停滞していたことの影響も大きく、2年前同月比(年率)では▲5.5%にとどまった(第1-2-3図)。企業の景況感(PMI)をみると、製造業は、2023年4月以降は基準値の50未満でおおむね推移している(第1-2-4図)。非製造業67の景況感については、2023年初のゼロコロナ政策撤廃後に高水準となったものの、同年半ば以降は追加的な好材料が乏しい中でサービス業を中心に低下が続き、50をわずかに上回る値で推移している。
各地の消費促進策(補助金等)68を受けて2023年秋以降に自動車販売が活発化する中で、小売総額は、2023年後半は前年同月比が上昇傾向となり、同年12月には+7.4%となった(第1-2-5図)。ただし前年の感染症拡大の影響を除く2年前同月比(年率)では+2.7%にとどまっている。
消費者物価(総合)をみると、2023年半ばからはエネルギー価格の下落に加え、豚肉価格の循環的変動(いわゆる「ピッグ・サイクル」(Box参照))によるマイナス寄与が拡大しており、さらに秋以降は消費促進策を受けた自動車の値下げ販売という特殊要因が重なる中で、2024年1月には前年同月比▲0.8%となった(第1-2-6図)。こうした特殊要因(食品、交通・通信)の寄与は▲1.4%ポイントであり、これらと住居費(+0.1%ポイント)を除く「その他財・サービス」の寄与は+0.5%ポイントとなっている。このように、消費者物価は特殊要因により下落しているが、基調部分のプラス幅も大きいとは言えず、消費者の需要が供給に比べ相対的に弱いことも、2023年以降の弱い動きには反映されているとみられる。
Box.中国における豚肉価格の循環的変動(いわゆる「ピッグ・サイクル」)
中国では、小規模な養豚業者が豚肉の供給を担う比率が高く69、価格上昇時の子豚の増産、価格下落時の廃業等の調整が一斉に行われるため、豚肉価格の値動きが大きく、価格変動を受けた需給の調整に期間を要する。結果として、供給過剰による価格下落、減産による価格上昇が繰り返され、振れが大きいことから消費者物価への影響も大きい。こうした動向は「ピッグ・サイクル」と呼称されるが、2018~19年のアフリカ豚コレラの流行、2020年以降の感染症拡大期の流通の目詰まりによる食品価格上昇を受けて、豚肉の安定供給が政策方針として重視される中、2023年後半は供給の増加による豚肉価格の下落がみられる(図1)。
2019年以降の消費者物価と豚肉価格の前年比の対応関係について、近似曲線を当てはめると、説明変数(豚肉価格前年比)の係数は0.024となり、豚肉価格が前年比1%上昇(下落)すると、消費者物価を前年比0.024%ポイント押し上げ(下げ)る傾向があることを示している70(図2)。
(不動産市場は停滞が続く)
2021年9月以来、中国では恒大集団等の主要不動産企業の資金繰りの悪化による信用不安が表面化したが71、2023年半ば以降もこうした信用不安は続いている(第1-2-7表)。これを受けて、不動産市場の停滞は継続しており、不動産開発投資は2023年の前年比は▲9.6%となり、固定資産投資(全体)は同+3.0%にとどまった(第1-2-8図)。住宅価格は、ほぼ全ての都市において下落が続いている(第1-2-9図)。
中国政府は、住宅需要の喚起や地方銀行等の金融面のリスク等への対応のため、2023年7~9月に各種の支援策を導入した(第1-2-10表)。このうち、住宅ローン金利等(頭金比率を含む)優遇要件の緩和については、従来都市部を中心に住宅需要の過熱を抑制するために用いられてきた規制を緩和するものであり、大きな方針転換となる。また、都市部の戸籍取得要件の緩和72は、都市化(都市部人口比率の上昇)ペースが頭打ち傾向となり、都市部の住宅需給に緩みがみられていることから、都市化のペースを再度引き上げ、住宅需要の再喚起を図るものとなっている73(第1-2-11図、第1-2-12図)。
2023年7~9月に各種の支援策が打ち出されたことを受けて、住宅取引件数74は、同年9~10月には底打ちの兆しがみられた75(第1-2-13図)。しかしながら、同年10月に不動産企業最大手の碧桂園にドル建て債のデフォルトが発生するなど、不動産企業の信用不安が継続する中、住宅取引件数は同年11月以降再び低下傾向となった。2024年1月半ばでは、2021年初比で35%超の減少となっている76。
(大規模な景気対策や政策方針が示される)
不動産市場の停滞が続き、景気の持ち直しに足踏みがみられる中で、中国政府は2023年10月末に自然災害対策を打ち出した(第1-2-14表)。2023年10-12月期に1兆元(約20兆円)の国債を追加発行し、同年中に5,000億元(約10兆円)を使用、残る5,000億元は2024年に使用することとしている。これらが主にインフラ投資として執行されれば、2023年及び2024年の成長率を押し上げることが見込まれる77。通年の名目GDPは約120兆元であるところ、単純計算では、2023年及び2024年のGDPをそれぞれ0.4%程度押し上げるものと試算される。ただし、実際の執行状況や工事の進捗に応じ、大部分の経済効果は2024年に発現するとみられる。
また、2023年12月11~12日に開催された中央経済工作会議においては、2023年を「感染症収束後の段階的な経済回復の1年」と位置付け、厳しい現状認識を示しつつ78、2024年の経済政策の基本方針が示された79(第1-2-15表)。2024年は、マクロ政策のカウンターシクリカル(逆周期)調節、年をまたいだ(跨周期)調節を強化するとし、景気調節を重視する方針が示されており、内需拡大のための消費・投資の好循環を形成すること等が打ち出されている。また、不動産リスクは「積極的かつ穏当に」解消するとされた。
2024年3月に開催される全国人民代表大会(全人代)では、新たな政府活動報告において、同年の成長率目標とともに、より具体的な経済政策方針が示されることとなる見込みである。次項で詳述するように、不動産市場の停滞という構造問題が継続する中で、一過性の景気浮揚策のみならず、過剰投資による住宅の供給過剰、人口減少・都市化の減速による需要不足、債務問題等の解決に有効な構造政策が打ち出されるかが注目されている。
(まとめ:中国の不動産市場の停滞は構造的に景気を下押し)
本項では、2023年後半の中国の景気動向と政策対応を概観した。中国では、景気は持ち直しの動きに足踏みがみられており、不動産市場の停滞が継続的な下押し要因となっている。不動産市場支援策やインフラ投資の促進策を始めとした政策対応が打ち出されているものの、2023年末時点で、不動産市場の停滞は続いており、景気の十分な改善には至っていない。政策効果の発現には一定の時間を要するものの、中国経済においては、景気循環への対応を超えた構造問題への取組が課題となっている。こうした構造問題については次項で具体的にみていきたい。また、先行きについては、2024年は、インフラ投資を始めとした政策効果が徐々に発現する中で、持ち直しに向かうことが期待される。他方で、潜在成長率については、2024年は5.0%前後と、2023年から0.2%ポイント程度低下するとの予測が中国社会科学院から示されるなど、緩やかな減速が見込まれている。不動産市場の停滞等、構造的な課題への政策面での実効性のある取組80が進まなければ、短期的な景気の足踏みにとどまらず、中長期的な成長の停滞が懸念される。
2.バランスシート調整とその波及
本項では、第1項で確認した低成長が続く背景として、不動産市場の停滞が一過性の景気要因によるものではなく、不動産企業の「バランスシート調整」を伴う構造問題であることを議論する。次に、不動産市場の停滞が、地方政府、地方融資平台、金融機関に及ぼしている影響を確認する。最後に、家計への影響を確認した上で、今後のリスクと、こうした構造問題への取組に資すると考えられる政策措置を展望する。
(不動産企業はバランスシート調整が進展)
中国の不動産企業81の経済環境は、2020年に転換点を迎えた。不動産関連貸出(対名目GDP比)は、不動産企業向け融資規制82が導入された2020年にピーク(48.9%)となった後低下し、2023年9月時点では41.8%となった(第1-2-16図)。日本においても、バブル期に不動産融資総量規制等が導入された時期に同比率が頭打ちとなっており、こうした日本の動きと類似している83。なお、中国の不動産関連貸出比率は、約3年間低下が続いた2023年9月時点でも、1990年代の日本を大幅に上回る水準となっている。こうした中国における不動産関連貸出の規模の大きさは、不動産への過剰投資の傾向、また調整局面が長期化する可能性を示唆している。
住宅価格は、2020年に不動産融資規制が導入された後、2021年には地方都市を中心にピークアウトがみられ(前掲第1-2-9図)、2022年には不動産企業の総資産・総負債の減少がみられた(第1-2-17図)。不動産企業は、資金繰りが悪化し、借入の返済等を優先する必要がある中で、新規の不動産開発投資は顕著に減少しており、2022年には前年比▲10.0%、2023年は同▲9.6%と大幅な減少が続いている。こうした資産の減少・資金繰りのひっ迫を受けて、企業が負債の圧縮を優先し、投資等の前向きな経済活動を抑制する状況を「バランスシート調整84」と呼称すると、中国の不動産セクターでは、2021年以降にこうした調整が始まった可能性がある。
Box.マクロの資産負債表からも際立つ過剰投資の構造
中国全体(内訳として家計、非金融企業、金融、政府)のバランスシートについて、直近2019年末時点の値をみると、総資産は1,695兆元(約3.4京円(うち非金融資産1.3京円、金融資産2.1京円))となっている85(表1)。日本のいわゆるバブル経済期の1989年末時点の値と比べると、総資産は4.4倍(うち非金融資産(主に固定資産)4.1倍、金融資産4.6倍)である。日本の2022年の値と比べると、総資産は2.7倍(うち非金融資産3.7倍、金融資産2.3倍)と、相対的に非金融資産の規模が大きくなっている。非金融資産/総資産比率は、2019年末時点で39.0%と、日本の2022年の値(28.3%)よりも高く、日本の1989年末時点(41.0%)と同程度となっている。日本のバブル期に匹敵する総資産対比での非金融資産比率は、不動産やインフラ等に対する過剰投資の可能性を示唆している。
また、有利子負債の対名目GDP比率86は、2019年末時点では国全体87で247%(家計56%、非金融企業152%、政府39%)であったが、直近の2023年9月末時点では国全体で287%(家計64%、非金融企業169%、政府54%)まで上昇した(図2)。2020年から約3年にわたった感染症の影響、また2022年から不動産市場の停滞が続く中で、非金融企業と政府部門の有利子負債の増加が目立っている。今後、金融機関も含めた各経済主体が負債の圧縮を進める調整局面となる場合には、経済成長に対する下押し圧力が継続することが懸念される。
(不動産市場の停滞により地方政府の財政状況が悪化)
不動産市場の停滞は、土地使用権譲渡収入の減少を通じて、地方政府の財政収入を下押ししている。2023年の土地使用権譲渡収入は前年比▲13.2%と、前年に続き2桁の減少となっている(第1-2-18図)。
中国では、地方政府の財政収入に占める土地使用権譲渡収入のシェアが高い。北京や上海といった大都市は3割程度であるが、その周辺の都市開発の盛んな地方では更に同シェアが高い傾向がある。地価の低い地方では同シェアは相対的に低いが、同シェアが10%以下の地方は31省・直轄都市・自治区のうち7つにとどまる(第1-2-19表)。土地使用権譲渡収入の大幅な減少が続くと、財政基盤の弱い地方では、経常経費も十分に賄えないこととなり得る88。加えて、新規の都市開発を始めとした景気浮揚策を実施する余力が不足することとなるため、マクロ経済にも影響が生じ得る。
(不動産市場の停滞により地方融資平台は資金繰りが悪化)
地方政府の土地使用権譲渡収入の急減の背景には、不動産市場の停滞の中、不動産企業に加え、地方融資平台(都市開発の資金調達のために地方政府が出資した特別目的会社)も資金繰りがひっ迫し、新規プロジェクトが停滞していることがある。地方融資平台は、債券89の発行や地方銀行からの融資を通じて資金調達を行っており、その返済には最終的には地方政府が責任を持つという「暗黙の保証」が機能してきた(第1-2-20図)。しかしながら、2020年以降は感染症拡大と不動産企業の信用不安が重なる中で新規プロジェクトが滞り、投融資の回収も滞っている。
こうして資金繰りが悪化した地方融資平台の発行する債券金利は上昇傾向となり、相対的に低所得である地方においてその傾向が顕著となっている(第1-2-21図)。このように地方融資平台の資金調達コストが上昇し、収支構造が悪化したことから、新たな土地使用権に対する需要が低下しているとみられる。
(地方政府や地方融資平台の抱えるリスクが金融機関にしわ寄せされる懸念)
金融当局(中国人民銀行、金融監督管理総局、証券監督管理委員会)は、2023年11月に開催した「金融機関座談会」において、地方債務リスクを解消するため、金融機関は地方政府や地方融資平台と協力・協議し、融資や債券の借換えに応じるべきとの方針を示した(第1-2-22表)。
結果として、地方政府や地方融資平台の抱えるリスクが金融機関にしわ寄せされ、特に地方の中小銀行において経営破綻や預金流出のリスクが高まる可能性がある。2023年12月の中央経済工作会議が示した「不動産、地方債務、中小金融機関のリスクを統一的に防止・解消する」との方針(前掲第1-2-15表)は、こうした状況を踏まえて打ち出されたものとみられるが、実効性のある具体策の発表・実施が待たれる。
(不良債権問題は公表値以上に悪化している可能性)
不動産市場の停滞を受け、不良債権問題が懸念されている。民間非金融部門の債務残高は、2023年4-6月期時点で、対GDP比228%まで上昇した(第1-2-23図(1))。金融当局の発表によれば、2023年7-9月期の不良債権比率は1.6%と低位にとどまっているが、2019年時点の民間推計ではより高い値が示唆されている(第1-2-23図(2))。貸倒引当金比率(対融資残高)は2.9%と、不良債権比率を大幅に上回る水準で推移しており、銀行が公式統計の不良債権規模を上回るリスクに備えていることが示唆されている。
さらに、2023年には、銀行の不良債権90を証券化した金融商品の販売が増加している91(第1-2-24図)。この背景には、金融当局による銀行の不良債権に対する引当金比率の厳格化に伴い、銀行が引当金の大幅な積増しを避けるために、不良債権をオフバランス化する動きが活発になったことが考えられる。そして、このようにオフバランス化された不良債権を組み合わせて証券化している可能性がある92。資本市場の発展とともに、リスクが適切に分散された金融商品が増加することは望ましいこととも考えられるが、こうした商品の増加が銀行にとっての不良債権の増加を反映したものか93、金融市場に過度にリスクを移す状況となっていないかについて、引き続き注視する必要がある94。
Box.企業部門の債務問題と収支構造
企業部門全体では債務がどのような状況か、2010年代後半以降の動向をみていく。2015年の株価急落(いわゆる「チャイナ・ショック」)の後、過大な企業債務が問題視され、2017年から民間債務削減政策(いわゆる「デレバレッジ政策」)の推進が本格化した。主な取組としては、(1)企業の合併再編の推進、債務構成の改善、(2)銀行債権の株式化(デット・エクイティ・スワップ)、(3)銀行のオフバランス理財商品(シャドーバンキング)に対する規制強化が挙げられる95、96。これらを受けて、企業債務比率の上昇には歯止めが掛かったが、企業がバランスシート調整を優先することで、製造業投資の対名目GDP比は継続的な低下に転じた(図1)。さらに、デレバレッジ政策推進が本格化した後、米中貿易摩擦の高まり(2018年)、感染症拡大(2020年)、不動産市場の停滞(2022年以降)等の下押し要因が重なりマクロ経済環境が悪化する中で、企業は更にバランスシート調整を進める必要性に迫られているとみられる。しかしながら、2022年から、企業債務比率が改めて上昇傾向に転じている。
このように企業債務問題が続く背景として、企業の収支構造の変化が考えられる。2017年のデレバレッジ政策推進以降、2018年(米中貿易摩擦の高まり)から2020年(感染症拡大)までの間、鉱工業企業の営業収入は2017年を下回る10兆元台半ばとなった(図2(1))。この間、営業費用(逆符号)は約9兆元で横ばいとなったため、営業収支は1.8兆元程度で推移した。他方、営業外費用(特別損失97を含む)が徐々に拡大したため、利潤総額は緩やかな減少傾向となった(図2(2))。
なお、2021年は、感染症の影響が国内では相対的に小さく、輸出も顕著に増加した時期であり、営業収入が増加に転じた。資源高で営業費用も増加したものの、営業収支、利潤総額は高い伸びとなった。
しかしながら、2023年は、営業収入の減少と、営業外収支赤字の高止まりが続いたことで、利潤総額は前年比で大幅な減少(▲8.5%)、利益率(利潤総額/営業収入)は2017年以降で最も低い値となった(図2(3))。この背景としては、営業費用は前年比で減少していたことを踏まえれば、不動産市場の停滞の下での特別損失の拡大を含む営業外収支の赤字幅の拡大が考えられる。
このため、2023年には感染症が収束し、資源価格が低下する下でも、企業利潤が減少しており、企業債務問題の解消を困難にするとともに、生産・投資活動の伸び悩みの要因となっているとみられる。
(不動産市場の停滞は家計部門に波及)
不動産市場の停滞は、家計部門にはどのように波及しているだろうか。その分析に先立ち、まず2020年以降の家計部門に対する感染症拡大の影響について確認する。
家計部門における一人当たりの可処分所得と消費支出は、2020年1~3月の感染症拡大以降、従来のトレンド(2018年1-3月期~2019年10-12月期の平均伸び率)から下方に屈折しており、また可処分所得の減少以上に消費支出の減少が大きい傾向がみられる(第1-2-25図(1))。結果として、一人当たり貯蓄は、従来のトレンドを上回って推移した(いわゆる「超過貯蓄」)(第1-2-25図(2))。感染症の影響が相対的に小さかった2021年には、可処分所得、消費支出ともに持ち直してトレンドに近づき、貯蓄水準もトレンド近傍まで低下した。しかし2022年4~6月の上海ロックダウンの時期以降には、再び所得・消費がトレンドより下方にかい離する傾向となった。
感染症が収束した2023年1-3月期以降は、消費支出はトレンドを下回ったままの水準で、傾き(増加ペース)はトレンドと同程度となっている。可処分所得の傾きはトレンドを下回ったままであり、2023年10-12月期までかい離幅の拡大が続いている。結果として、2023年10-12月期の貯蓄水準はトレンドを下回り、いわゆる「超過貯蓄の取崩し」に相当する状況となっている。この取崩しは消費支出の増加ではなく、可処分所得の伸び鈍化によって生じている。
続いて、このような可処分所得の伸びの鈍化と不動産市場の停滞の関係について確認する。2023年の一人当たり可処分所得は前年同期比+6.3%であるが、所得分類ごとにみると、給与所得+7.1%、経営所得(個人事業主の所得)+6.0%、財産所得+4.2%、移転所得+5.4%であり、財産所得の伸び率が低いことが分かる。さらに、寄与度分解をすると、財産所得の寄与度は、2014~2021年には平均で+0.82%ポイントであったが、2022年は+0.43%ポイント、2023年は+0.37%ポイントと低下が続いており、可処分所得全体の伸びを抑制する要因となっている(第1-2-26図)。このように、2022年以降の不動産市場の停滞は、資産価格の経路からも家計の可処分所得に影響し、感染症収束後も消費の伸びを抑制する一因となっていると考えられる。
(まとめ:不動産市場の停滞に対する抜本的な措置が早急に必要)
本項では、2020年の融資規制導入以降、不動産企業はバランスシート調整を進めており、現下の不動産市場の停滞が長期化する可能性を指摘した。また、地方政府は土地使用権譲渡収入の減少、地方融資平台は資金繰り悪化に直面しており、不良債権問題の悪化が懸念されることを確認した。さらに、不動産市場の停滞は、感染症収束後も消費の伸びを抑制する一因となっていることを確認した。
政策対応として、不動産企業や地方融資平台に対する借換え融資等が金融機関に奨励されている。ただし、経済成長率の低下に伴い期待収益率が低下している局面での追加融資には、将来的な不良債権化のリスクが伴っており、金融機関のバランスシートの毀損が懸念される。また、金融機関の不良債権を証券化した金融商品の販売増加の動きも注視する必要がある。
こうした金融機関のバランスシート悪化や金融商品販売等がもたらす金融システム全体が不安定化するリスクを具現化させないためには、不動産市場の停滞に対する抜本的な措置を早急に打ち出す必要があり、例えば、不動産企業のプロジェクト単位の政策的支援、不良債権の処理、金融機関の資本増強、及び地方政府の財政基盤の強化98(税源移譲)等が考えられる99。さらに、現状のように、不動産市場の高度成長から安定発展への移行が図られている段階100においては、土地使用権譲渡収入の増加が続く状況に戻ることを前提とせず、税制改革等の対応が待たれている101。今後開催予定の三中全会や全人代で発表される政府活動報告において、どのような政策方針が発表されるかが注目される。
(1)各地の地方政府が具体策を実施。例としては、(a)江蘇省蘇州市:新車購入に補助金を支給。車両本体価格10~30万元(約200~600万円)には3,000元(約6万円)、30万元(約600万円)以上には5,000元(約10万円)。(b)広東省深セン市:環境基準「国4」以下の乗用車を、2023年末までに条件に合う新エネ車に買い換える場合、補助金を支給(最高で1台1万元(約20万円))。
(2)地方政府の具体策を踏まえ、民間企業各社は2023年8月以降値下げによる販促活動を活発化、値下げ幅は2~3万元(約40~60万円)等。