第1章 2022年後半の世界経済の動向(第2節)

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第2節 主要地域の経済動向

本節においては世界経済の動向を分析する上での主要な国及び地域であるアメリカ、中国及び欧州のそれぞれの経済動向を分析する。

1.アメリカ経済

(1)景気

(景気は緩やかな持ち直しが続く)

アメリカ経済は2020年半ば以降、順調に持ち直し続けてきたが、2022年以降は持ち直しのテンポが鈍化し、緩やかな持ち直しが続いている。2022年前半の実質GDPは、個人消費が持ち直す中で輸入が大幅に増加したこと等により2四半期連続で前期比マイナスとなった。2022年7-9月期及び10-12月期は政策金利引上げに伴う住宅投資の減少がみられたものの、個人消費の緩やかな持ち直しが続く中で設備投資も振幅を伴いながらも緩やかに持ち直したことにより前期比年率でそれぞれ3.2%増、2.9%増となった(第1-2-1図)。労働市場は、雇用の増加は堅調で、失業率は低水準を維持している。求人数は過去最高に近づき、需要が供給を大幅に上回っている。2022年7月以降、物価上昇率は低下しているものの、前年比でみると依然として高水準で推移している。物価安定に向けて急速な金融引締めが実施され、その影響は住宅ローン金利の上昇等に及んでいる。

第1-2-1図 実質GDP成長率

(2)雇用・賃金

(雇用は堅調さを維持)

非農業部門雇用者数は、景気の持ち直しが緩やかになる中、増加ペースは鈍化しているものの、堅調さを維持している(第1-2-2図)。労働市場は、アメリカ経済が各部門で感染症による影響から持ち直す中で、雇用者数も増加し、11月には感染症拡大時の減少分(2020年2月→4月:▲2,199万人)の104.7%が回復し、感染症拡大前の雇用水準を回復している。業種別にみると、2022年に入り、娯楽への消費需要回復に対応したレジャー・接客業の雇用者数の増加率が鈍化したものの堅調に推移している(第1-2-3図)。また、労働生産性が高い情報通信等の成長分野においては、2022年春頃から夏頃にかけては増加率が高まっていたものの、夏以降は増加率が低下している。

第1-2-2図 非農業部門雇用者数
第1-2-3図 業種別雇用者数の増加率(前月比)
(失業率は低水準で推移)

雇用者数が増加する中、失業率は低下傾向が続き、7月には3.5%と感染症拡大前の水準(2020年2月:3.5%)まで低下した(第1-2-4図)。以降も第2次オイルショック後のおおむね最低水準となる3.5~3.7%の狭い範囲内で推移しており、労働需給は引き締まった状態が続いている。

第1-2-4図 失業率
(労働参加率は持ち直すが、感染症前の水準を下回る)

労働供給の全体像を把握するために、16歳以上人口に占める労働力人口(就業者と完全失業者の合計)の比率である労働参加率をみると、2022年に入って持ち直しが進展し、11月には62.1%となった(第1-2-5図)。しかし、回復のテンポは緩慢であり、依然として感染症拡大前の水準(2020年2月:63.4%)を下回り、労働供給不足が継続しており、失業率が低水準で推移する一因となっている。

さらに、労働参加率を年齢階層別にみていくと、主な働き手の世代であるプライムエイジ(25~54歳)の労働参加率は、11月には82.4%と感染症拡大前(2020年2月:83.0%)をおおむね回復している。しかしながら、55歳以上の労働参加率は感染症拡大により約40%から2%ポイント程度低下(非労働力人口化)して以降、回復の動きがみられていない。55歳以上の労働者は労働力人口の25%程度を占めており、労働供給に与える影響は大きいが、この非労働力人口化のうち約半分が、べービーブーマー世代(1946年~64年生まれ)の年金支給開始年齢(67歳)への到達等に伴う自然低下であるとの試算もなされている40

第1-2-5図 労働参加率
(労働供給は長期的に減少)

ここで、感染症拡大以降の労働需給を長期的な視点から考察する41。以下では農業就業者の変動の影響を控除するために、労働供給として労働参加率の分子及び分母から農業就業者を除いた系列を用いるとともに、労働需要として、雇用者数と求人数の和を農業就業者を除く16歳以上人口で除した系列を用いる(第1-2-6図)。

アメリカでは、2000年代の景気拡大局面では、労働需要がピークを迎えても労働供給が需要を上回っており、労働供給は十分な状況が続いていた。しかし、2010年代の景気拡大局面においては、ベビーブーマー世代の労働市場からの退出が始まったこともあり42、労働供給が緩やかに減少傾向となる中で、2018年には需要が供給を上回るなど、感染症拡大の前から労働供給不足の状況がみられていた。その後の感染症拡大に伴い、労働供給は大きく減少した後に緩慢なテンポでしか回復していない一方、労働需要は感染症拡大前の水準を上回るまで急速に回復した。その結果、労働市場は引き締まった状況となっている。

このように、アメリカの労働市場の引締まりの背後には、長期的な労働供給の減少が背景にあると考えられることから、大幅な需要抑制が生じない限り、今後も引き続き労働市場の引締まりは続く可能性がある。

第1-2-6図 労働需要と労働供給
(賃金は上昇するも物価上昇には追いつかず)

以上のような労働市場の引締まりを背景に、時間当たり名目賃金は前年比5%程度での高い伸びが続いているが、物価上昇には追いつかず実質賃金はマイナス3%程度で推移している(第1-2-7図)。2022年後半においても、労働供給が不足する中で求人数は高水準で推移しており、また処遇改善等を目的とした転職が多いとみられることから自発的離職者数も引き続き高水準で推移している43ことが、賃金上昇圧力となっているとみられる(第1-2-8図、第1-2-9図)。

業種別にみると、2022年初はレジャー・接客業や小売業といった相対的に低賃金の業種を中心に賃金上昇率が高まっていたが、2022年後半にはこれらの業種の上昇率が低下する中で、情報通信サービスのような相対的に労働生産性が高く高賃金の業種で上昇率が高まるなど、賃金上昇の広がりがみられている(第1-2-10図)。また、賃金上昇は労働コストの上昇として財及びサービス価格に転嫁され、消費者物価の上昇に寄与しているものと考えられる。

なお、レジャー・接客業の賃金上昇率が緩和されてきているものの、2022年初では前年比13.0%、2022年11月においては同6.4%と依然として高い伸びにある。これは、飲食・宿泊サービス関連の消費が感染症拡大前の水準を回復する中にあって感染症拡大前と比べてレジャー・接客業における雇用者数が約100万人少ない88.1%しか回復しておらず、労働需給の不均衡が続いているためと考えられる。

第1-2-7図 時間当たり賃金上昇率
第1-2-8図 求人数と失業者数
第1-2-9図 自発的離職率
第1-2-10図 業種別時間当たり賃金上昇率

コラム1:UV曲線分析と失業率の見通し

アメリカでは失業率が低い水準で推移44する一方で、求人数(欠員数)の程度を示す欠員率45は歴史的に高い水準になっている。労働市場がひっ迫している背景には、労働参加率が低水準で推移し、非労働力人口が増えていること等労働の供給が需要に追い付いていないことがあげられるが、この他にも企業側と労働者側の間のミスマッチも一因となっている可能性がある。一般的に、縦軸に失業率、横軸に欠員率をとると、両者が負の相関関係にあるグラフを描ける。この曲線をUV曲線といい、労使間のミスマッチの状況の分析ができる。ここではUV曲線を用いて、アメリカの雇用状況を分析し、今後の失業率の動向について考察する。

2001年以降、アメリカでは欠員率が4%程度以下で推移してきたが、感染症拡大後に急上昇し、2022年以降は6%以上で推移している(図1)。この状況は、求人数が過去最高に近づきつつある中で46、労働需要が労働供給を大幅に上回り、労働市場が引き締まっていることを示している。

図1 欠員率の推移

失業については、構造的失業、摩擦的失業、循環的失業等、様々な種類がある。構造的失業とは、雇用主が労働者に求める技能や勤務地といった特性と、失業者の持つ特性のミスマッチによって生じる失業を指す。失業者と求人が共存しても、失業者の持つ技能と求人要件が合致しない場合、この失業者が仕事につくことはできない。また、求人企業が存在する場所と失業者が住んでいる場所が違う場合も、企業と失業者のマッチングは困難になる。一方、摩擦的失業とは、職探しに時間がかかることによって発生する失業を指す。失業中の労働者が持つ特性を求めている求人企業が存在していたとしても、失業者がその仕事に就くまでには時間がかかる。失業者は自分の能力を生かせ、良い待遇が得られる職場を探そうとするが、自分にあった求人企業を探すのには時間がかかる。また、採用までには書類選考や面接等の時間がかかり、一定期間の失業が発生する。

図2 UV曲線

これまでのUV曲線の推移をみると、2001年~2009年頃が第1曲線、2009年~2020年頃が第2曲線、2020年~現在が第3曲線と右上へシフトしてきていることが分かる(図2)。UV曲線は右上にシフトするとマッチング効率が悪化したことを表す一方、左下にシフトするとマッチング効率が改善したことを表す47。第3曲線上のコロナショックの回復局面においては、失業率が低水準でも欠員率が高い状態にあり、マッチング効率が悪化していたと考えられる。これは、労使間の技能条件等のミスマッチの拡大や、転職や再就職にかかる時間の長期化が生じている可能性を意味する。例えば、技能条件を原因とするミスマッチは運送業で確認することができる。運送業では、新型コロナウイルス感染症の影響でトラックの運転教習所が閉鎖していた時期があったことから、コロナ禍後の景気回復局面において求人が増加しても、運転手の供給が需要に追い付かず、欠員率が高い状態となったと考えられる48

また、UV曲線上の点は右下に動くと景気拡大を表す一方、左上に動くと景気後退を表す。これは、景気拡大期には企業が雇用を増加させるため失業率が低下して欠員率が上昇する一方、景気後退期には企業が雇用を減少させるため失業率が上昇して欠員率が低下するためである。こうした動きは、アメリカの景気の拡大期、後退期とおおむね連動している(図3)。

図3 景気の拡大・後退局面

続いて、UV曲線分析を踏まえた失業率の今後の見通しについて考える。Figura and Waller(2022)は、UV曲線は原点に対して凸の形状であることから、欠員率が高い場合はUV曲線の傾きがよりフラットになり、欠員率の低下幅よりも失業率の上昇幅が小さくなる点に注目している。その上で、現状は欠員率が高いことから、今回の金融引締めは失業率を少し増やすものの、欠員率を大きく減らすことができると考えており、景気悪化を伴わないソフトランディングを見込んでいる。同様の見解は2022年9月のFOMC会合参加者による見通しにも表れており、前回の7月見通しと比べて微増しているものの、2022年の失業率は3.8%に留まるとしており、失業率が3%台から大きく上昇することは見込まれていない。

これに対し、Blanchard, et al.(2022)は、失業率の上昇を伴わずに欠員率を低下させることは難しいと反論している。景気循環ごとにみると、欠員率がピークをつけて2年後には欠員率の低下と失業率の上昇はおおむね同じ傾きで生じていることから、欠員率が高いために今後の失業率の上昇幅が小さくなるとは考えにくいと主張している。また、失業率を上昇させずに欠員率を低下させるには、労働力を再配置してマッチング効率を高める必要がある。しかし、連邦準備制度は労働力の再配置を制御できないことから、Figura and Waller(2022)の主張には根拠がないと批判している。さらに、UV曲線が右上にシフトしてマッチング効率が悪化した理由としては、新型コロナウイルスの影響で健康上の理由から労働意欲が低下したことや、労働需要に地域差があり、需要のある地域に人が集まっていないこと等を指摘している。

以上のように、欠員率の低下とともに失業率が上昇すること自体にはコンセンサスがあるものの、今般の局面におけるUV曲線の形状やシフトの度合いに対する見解の違い等を反映して失業率上昇の程度について見解が分かれているところ、今後の失業率の動向には引き続き留意が必要である。

(3)消費

(個人消費は緩やかに持ち直し)

以上の雇用及び賃金動向を踏まえ、アメリカの実質GDPの7割程度を占める個人消費の動向を確認する。個人消費は緩やかな持ち直しが続いているが、この背景には、前述の賃金上昇や、感染症拡大に伴う大規模な財政支出等よって形成された貯蓄超過ストックの取崩しが挙げられる。貯蓄超過フローは2021年7-9月期にかけて蓄積されてきたが、2022年に入り取崩しが進んでおり、物価上昇下にあっても消費の下支えに寄与していると考えられる49(第1-2-11図)。

第1-2-11図 貯蓄超過フローと消費

続いて、実質個人消費支出の内訳をみると、傾向としては財からサービスに需要のシフトが進んでいる。耐久財は、2020年5月以降は、コロナ前の水準を大きく上回り増加傾向にある。特に、PCAV機器等が堅調に増加している(第1-2-12図、第1-2-13図)。自動車・同部品は、2021年半ば以降、半導体の供給制約等を背景に生産及び自動車販売台数が減少したことを受けて弱い動きが続いていたが、2022年10月以降は、その緩和等を背景に生産や販売台数が増加したことを受けて、持ち直しの動きがみられる(第1-2-13図、第1-2-14図、第1-2-15図)。

非耐久財は2022年に入ってから減少傾向にあるものの、経済活動再開の効果が継続していることから衣料品や靴等に底堅さがみられ、2022年夏以降は持ち直しの動きが続いている。

サービスは、経済活動再開に伴う飲食・宿泊サービス等の回復を受けて2021年10月に感染症拡大前の水準を上回って以降も緩やかに持ち直し続けている。ただし、サービスの中でも輸送サービスや娯楽サービス50については回復が遅れており、2022年10月時点では感染症拡大前の水準を回復していない。

第1-2-12図 実質個人消費支出(財・サービス別)
第1-2-13図 実質個人消費支出(品目別)
第1-2-14図 ガソリン小売価格
第1-2-15図 自動車ローン金利
(住宅着工は減少し、住宅価格は急速に低下傾向)

続いて、家電や家具等の耐久消費財の需要への波及効果が大きい住宅投資の動向を確認する。住宅市場の動向を、中古住宅の価格を示すケース・シラー住宅価格指数でみると、年初から大幅な上昇が続き、4月には前年比21.3%と過去最大の伸びとなった後、上昇率は急速に低下傾向となっている(第1-2-16図)。その背景としては、2022年初以降、需要面においては、政策金利の引上げを受けて住宅ローン金利が急速に上昇したことから住宅需要が弱まり、着工件数や販売件数が減少したことが挙げられる。また、10月の地区連銀経済報告(ベージュブック、FRB(2022b))では、全地区で住宅ローンの利用減少や住宅販売の減少が報告されており、大都市のみならず地方においても住宅需要が減少したことが確認できる(第1-2-17図、第1-2-18図、第1-2-19図)51。一方でこれまでの住宅注文の受注残である着工待ち住宅件数は、2022年後半も引き続き上昇傾向で推移していることには留意が必要である(第1-2-20図)。

住宅の供給面においては、資材不足等による供給制約がおおむね緩和されたことから、木材先物価格が2022年の第2四半期頃より低下傾向となり、感染症拡大前の水準までおおむね低下したとみられる(第1-2-21図)。

このような需給状況が住宅価格上昇率の低下につながっているものと考えられる。

第1-2-16図 ケース・シラー住宅価格指数
第1-2-17図 住宅ローン金利
第1-2-18図 住宅着工件数
第1-2-19図 住宅販売件数
第1-2-20図 着工待ち住宅件数
第1-2-21図 木材先物価格

Box.住宅ローン金利の上昇がローン返済に与える影響

急速な金融引締めを受けてアメリカでは住宅ローン金利が2022年に入り急上昇している(第1-2-17図)。このような急速な金利の上昇が住宅ローン市場に与える影響について、住宅ローン市場の特徴や、延滞状況等を踏まえて考察する。

まず、アメリカの住宅ローン貸出市場の特徴について確認する。住宅ローンは固定金利型と変動金利型の2種類に大別されるが、アメリカでは住宅ローンの約99%は固定金利となっており、30年固定が中心となっている52。これは、アメリカでは、できるだけ長期で元利金償還を一定額に固定し、長期金利が低下した際には借り換えを自由にできることへのニーズが高いことから、固定金利が一般的になっているものと考えられる。また、アメリカでは商業銀行等が住宅ローンをオンバランスで保有せずに、債権を証券化することで、貸倒れ等のリスクを証券市場において分散させる仕組みが整備されている。住宅ローン債権を証券化するためには証券の表面利率を固定し、標準化する必要があることから、固定金利の中でも30年固定が住宅ローンの中心として定着した53。そのため、金利上昇前に住宅ローンを固定金利で契約している家計にとっては今般の住宅ローン金利上昇を原因とした負担の増加は生じていないと考えられ、住宅ローン延滞率(90日以上)は2022年7-9月期においても上昇していない(図1)。

図1 アメリカの住宅ローン延滞率と差押比率

また、延滞を続けた場合に行われる住宅ローン対象住宅の差押えについても、差押え比率は2022年7-9月期では2000年以降の最低水準となっているが(図1)、これは延滞が始まってから差押えが実際に行われるまでに約5か月以上かかるため、今般の住宅ローン金利上昇を受けた差押えまでは反映されていないことには留意が必要である54

なお、住宅ローンを含めた家計債務残高の可処分所得比は、2010年代半ば以降はおおむね横ばい傾向で推移した後、2021年以降は感染症拡大の影響による郊外での住宅需要の高まりを受けてやや上昇し、2022年7-9月期の住宅ローン可処分所得比は62.6%となっている(図2)。同比率は2006年の延滞率及び差押え比率の上昇時には約80%であったことから、現時点においては当時と比較して家計全体として過度な住宅ローン債務を負っている状況ではないとみられる。しかしながら、今後の景気動向等によっては、所得に比して債務が過大となり、そのために延滞率等が上昇することもあり得るところ、引き続き住宅ローン返済状況を注視する必要がある。

図2 家計債務残高(可処分所得比)

(4)物価

(物価の上昇基調は底堅い)

以上のような個人消費及び住宅投資の動向を踏まえて、物価動向について確認する。物価の足下での変化の方向性をより正確に把握するために、消費者物価指数(総合)を前月比でみると、2022年6月に1.3%増と高い伸びを示したのち、7月以降はエネルギー価格が低下する中で伸びが減速し、11月は0.1%増まで低下している(第1-2-22図)。また、コア指数の前月比をみると、2021年10月以降は0.5%増程度で推移しているが、物価の上昇要因が財からサービスへと移行55していることが確認できる。特に、財の寄与度は、2022年9月以降はマイナスに転じている。一方で、サービス業では、住宅価格の上昇を受けて住居費56の寄与度が上昇傾向で推移している(第1-2-23図)。

第1-2-22図 消費者物価指数(総合)
第1-2-23図 消費者物価指数(コア)

ここで、物価の基調を確認するために、アトランタ連銀による価格改定頻度に着目して分類した価格指数の動向をみてみる。同連銀は消費者物価指数(総合)の構成品目を、価格改定頻度57を基準にして二分割し、平均改定頻度の4.3か月を基準として、(1)サービス等の価格改定頻度が低い品目から構成される「粘着指数」、(2)エネルギーや食料品等の価格改定頻度が高い品目から構成される「柔軟指数」として公表している58。特に粘着指数は価格改定に要する期間が長いこと、また支出ウエイトが約7割と大きいことから、物価の基調を形成していると考えられる。この両者の動きをみると、2021年初から柔軟指数の前年比が大きく上昇したことを受けて消費者物価指数(総合)は上昇し始めたが、2022年後半には柔軟指数の伸び率が低下し、それを受けて消費者物価指数(総合)も伸び率が低下している。一方で2021年半ば以降、粘着指数の前年比が上昇傾向に転じて以降、緩やかな加速を続け、消費者物価指数(総合)の伸びを下支えしているところ、物価の上昇基調は底堅いものと考えられる(第1-2-24図)。

第1-2-24図 粘着指数と柔軟指数

(5)投資

(設備投資は緩やかな持ち直し)

設備投資は感染症拡大後、振幅を伴いながらも緩やかな持ち直しが続いている(第1-2-25図、第1-2-26図)。ソフトウェア、R&D等の知的財産投資が堅調に増加し続けており、2021年には民間設備投資全体(非住宅)に占める割合が約4割と大きくなっている。機械・機器投資は2021年後半には横ばい傾向にあったが、2022年に入り緩やかに持ち直している。しかしながら、内訳である輸送関連機器が感染症拡大前の水準まで持ち直しておらず、機械・機器投資全体を下押ししている。

また、機械・機器投資の先行指標であるコア資本財受注59は堅調な増加が続いているが、2021年4-6月期以降、コア資本財受注と機械・機器投資の動向に乖離がみられ始めた(第1-2-27図)。その理由は、機械・機器投資には輸送関連機器が含まれるものの、コア資本財受注には一部の輸送機器60が含まれていないためである。機械・機器投資から輸送関連機器を除いた系列と、コア資本財受注の動きを比較してみると、両者の動きはおおむね一致する。

なお、構築物投資は低下傾向にあり、感染症拡大前の水準を下回って推移している。内訳をみると、感染症拡大の影響を受けて商業施設の寄与が最も大きくなっており、続いて電気・通信が弱い動きとなっている(第1-2-28図)。

第1-2-25図 実質民間設備投資
第1-2-26図 実質民間設備投資の内訳寄与度
第1-2-27図 コア資本財受注と機械・機器投資の比較(名目)
第1-2-28図 実質構築物投資の内訳

(6)生産

(生産は底堅く推移)

鉱工業生産は2021年11月に感染症拡大前の水準まで持ち直し、2022年前半は緩やかに増加していたものの、2022年後半は底堅く推移している(第1-2-29図)。一方で、供給制約は緩和傾向にあるものの依然続いている61

産業別の動向をみると、2022年3月以降は、ウクライナ情勢によりアメリカ産のエネルギー資源の需要が高まり、鉱業がプラスで寄与し続けている(第1-2-30図)。また、感染症拡大以降、世界的な半導体不足等の供給制約で持ち直しが遅れていた自動車・同部品は、2022年4月に感染症拡大前の水準まで持ち直したが、鉱工業生産全体と比較すると、依然回復に弱さがみられる。

第1-2-29図 鉱工業生産指数
第1-2-30図 鉱工業生産の内訳寄与度

(7)輸出

(財輸出はおおむね横ばい)

実質財輸出は2022年3月以降、緩やかに増加していたが、このところおおむね横ばいとなっている(第1-2-31図)。品目別の動向をみると、ウクライナ情勢を受けた世界的なエネルギー需要の高まりを背景に、原油、天然ガス等の工業原材料が高い寄与を示していたが、9月以降は需要減少を背景に寄与の低下がみられる(第1-2-32図、第1-2-33図)。資本財は、民間航空機関連、通信機器及びコンピュータ・同周辺機器、消費財は、宝飾品、携帯電話等が主に増加に寄与している。自動車・同部品は引き続き軟調な動きとなっている。

また、主要輸出相手国別の動向をみると、特にEUへの輸出が増加している(第1-2-34図)。ここで工業原材料の内訳である鉱物性燃料等の輸出の国別シェアをみると、2022年3~10月は2021年と比べEUのシェアが大きく伸びていることから、ウクライナ情勢を受けた対ロシアの輸入規制等により、EUがロシアに代わりアメリカからのエネルギー輸入を増加させたことがうかがえる(第1-2-35図)。

第1-2-31図 実質財輸出(金額)
第1-2-32図 実質財輸出(指数、品目別)
第1-2-33図 実質財輸出(前月比寄与度、品目別)
第1-2-34図 名目財輸出(指数、主要国別)
第1-2-35図 鉱物性燃料等の輸出先の国別シェア

(8)今後の見通し

(プラス成長が続くと見込まれるものの、物価上昇が懸念される)

アメリカ経済の今後の見通しについては、12月のFOMC参加者による経済見通しや、1月のIMFによる経済見通しでは、2023年はプラス成長が続くと見込まれている(第1-2-36表、第1-2-37表)。一方で、物価上昇率の見通しは上方修正されており、物価上昇圧力の強さがこれまで以上に懸念されている。

第1-2-36表 FOMC参加者による経済見通し(2022年12月)
第1-2-37表 IMFによる経済見通し(2023年1月)

2.中国経済

(1)景気

(防疫措置による減速からの持ち直し)

中国では、2022年3~5月にかけて、感染拡大に対応するためのロックダウンを含む厳格な防疫措置が採られた省や周辺地域を中心に、経済活動が大幅に減速した(第1-2-38図)62。実質GDP成長率は、4-6月期は前年同期比+0.4%、上半期(1~6月)は同+2.5%にとどまり、3月の全国人民代表大会(以下「全人代」という。)で掲げられた通年の成長率目標の+5.5%を顕著に下回った(第1-2-39図)。5月末に上海市がロックダウンを解除するなど、社会経済活動の正常化が進められる中で、6月の月次指標には改善がみられた。

第1-2-38図 中国の鉱工業生産(地域別)
第1-2-39図 中国の実質GDP成長率
(政策対応を急ぐも一部の弱さが回復の重しに)
(ⅰ)不動産市場の低迷

下半期のV字回復を目指す政府は、政策対応としてインフラ投資を急ぎ、地方専項債券は6月時点で通年発行枠(3.65兆元)の93%の発行が完了した(第1-2-40図)。しかし、恒大集団を始めとした不動産ディベロッパーの債務問題が長引く中で、不動産開発投資は減速が続き、固定資産投資全体の回復の重しとなっている(第1-2-41図)。未完成物件の工事が進捗せず、代金払い済みの購入者に物件が引き渡されない状況が相次いだことで、7月には各地で住宅ローン不払運動が発生した。こうした動きは、消費者の住宅購買意欲を冷え込ませ、住宅価格の下落、不動産ディベロッパーの収入源の先細り等、各種の問題に繋がり、不動産市場の低迷を深刻化させている(本章コラム2)。

第1-2-40図 地方専項債券の発行実績
第1-2-41図 固定資産投資
(ⅱ)感染の拡大

中国における新型コロナの新規感染者数は、上海でロックダウンが行われた5月までに比して、6~9月は低位で推移した(第1-2-42図)。ただし、ゼロコロナ方針堅持の下で、感染が拡大した地域(海南省等)では局所的な活動制限が導入された。また、10月の中国共産党大会(以下「党大会」という。)を控え省を跨ぐ旅行や帰省の自粛が求められたことから、サービス部門の生産活動の持ち直しは、鉱工業に比べて緩慢なものとなった(第1-2-43図)。10月1~7日の国慶節連休においては、旅行者数は前年比▲18.2%、旅行収入は同▲26.2%にとどまった。

第1-2-42図 中国の新型コロナ新規感染者数
第1-2-43図 中国のサービス業生産

党大会(2022年10月16~22日)の記者会見では、中国の高齢者人口の多さや医療資源の相対的な不足を挙げつつ防疫措置の意義が改めて強調され63、党大会閉幕後も厳格な防疫措置が継続された64。11月に入り新規感染者数は増加テンポが加速し、11月下旬には4~5月の上海ロックダウンの時期を上回り過去最多を更新する中で、広東省(広州市)、重慶市、河南省(鄭州市)、北京市等をはじめ全国各地で感染者の増加を受け、区画や団地ごとの封鎖が相次いだ。こうした中で、11月11日に国務院は「防疫措置を最適化する20条の措置」を発表し65、全国統一基準での防疫措置を徹底し、各地方で過剰な防疫措置を行わないこととした(第1-2-44(1)表)。さらに、12月7日には国務院は「防疫措置を更に最適化する10条の措置」を発表し、封鎖・検査の対象を大幅に縮小した(第1-2-44(2)表)。12月13日には無症状感染者数の発表が停止されることとなった。2023年1月8日からは、新型コロナの感染症分類を引き下げ、隔離措置、濃厚接触者の判定、高リスク地域の設定等を取りやめるとともに、感染者数は月に一度の発表に変更することとした(第1-2-44(3)表)。

これらの3段階の防疫措置の緩和を受けて、全市レベルのロックダウンや一律の休業措置は行われないこととなり、現地企業は総じて歓迎している。他方、感染により出勤できない人々の増加を受け、工場の稼働状況に影響も一部に発生している。また、感染者数の実態把握が困難となっており、商店の自発的休業や外出自粛もみられている。各地で感染拡大が続く場合、景気の下押しやサプライチェーンの問題に発展する可能性があり、注視が必要である。

第1-2-44表 防疫措置の緩和(ポイント)
(ⅲ)猛暑の下での電力制限

経済規模の大きな6省69に含まれる四川省、隣接する重慶市では、8月中旬には猛暑と水不足を背景に電力制限が発生し70、生産活動が一時的に停滞した(第1-2-45図)。夏の観光シーズンに感染が拡大しロックダウンが導入された海南省でも経済活動の停滞がみられ、景気回復を妨げることとなった。こうした中で、5月に導入された経済安定政策パッケージ71に続いて、8月には「19項目の追加措置」が導入され、経済活動への一段のテコ入れが図られることとなった(第1-2-46表)。

第1-2-45図 鉱工業生産(地域別)
第1-2-46表 「19項目の追加措置」のポイント
(新体制への移行と難しさを増す経済の舵取り)

2022年10月には、五年に一度の党大会74が開催され、今後の展望が示されたものの、具体的な成長率目標はなく、一方で技術革新やサプライチェーンの安全保障等が強調された(第1-2-47表)。党大会は新たな中央委員205名を選出して閉幕し、翌日の中央委員会第一回全体会議(一中全会)において、習近平総書記の続投を含む新たな最高指導部75が選出された。翌日、公表が延期されていたGDP統計が発表されたところ、7-9月期は前年同期比+3.9%と、4-6月期の+0.4%からは上昇したものの、引き続き潜在成長率76を下回る水準で推移した。その後は、感染再拡大の影響を受け、10-12月期は前年同期比+2.9%と減速し、2022年通年の成長率は前年比+3.0%となり、通年の成長率目標(+5.5%)を下回る結果となった。

2022年12月15~16日には、中央経済工作会議が開催され、翌年の政策運営方針を示した(第1-2-48表)。2022年については厳しい現状認識を示した77。2023年の経済政策の基本的態度としては、「安定」を第一に、積極的な財政政策と穏健な金融政策を継続し、マクロ政策による経済調節を強化するとした。2023年の経済見通しについては、「全体的に上向く見込み」としており、(1)防疫措置の最適化、(2)内需拡大戦略の実施、(3)不動産市場の安定的発展の確保の寄与が大きいとみられる78

リーマンショックの2009年やコロナ禍の2020年においても、中国ではインフラ投資を始めとした経済のテコ入れ策によりV字回復を達成してきた。しかし、2022年は感染症対策や不動産市場の問題等の下押し要因が残る中で、政策効果が限定的にとどまり、過去約40年間79と比較して低成長となっている。2022年には総人口の減少が始まる80など、中長期的な成長率の低下要因への対処も課題となる中(本章コラム3)、2023年に新たな指導部がどのような目標と手段によって経済運営を行っていくのかが注目されている。

第1-2-47表 党大会演説のポイント(経済関連等)
第1-2-48表 中央経済工作会議のポイント(2023年の重点事項)

(2)個人消費

(個人消費は弱含み)

個人消費の動向に関しては、小売総額(名目)は、2022年に入り前年同月比でおおむねマイナス傾向が続いていたが、上海で移動制限措置の解除があった6月にはプラスに転じた(第1-2-49(1)図)。その後は+3%前後で推移するなど持ち直しの動きがみられたが、国内各地の感染拡大を受けて10月以降はマイナスが続き、11月は▲5.9%となった。内訳をみると、移動制限等の措置の影響により全体を押し下げていた飲食サービスは、5月以降にはマイナス幅が縮小した。8月には9か月ぶりにプラスに転じていたが、その後は省を跨ぐ旅行や帰省の自粛、感染拡大の影響等から、9~11月にかけてマイナス幅が拡大している。

商品小売総額(名目値)の品目別の動きをみると、石油・関連製品は原油高を背景に堅調に推移している。また、5月まで感染拡大等により大きく落ち込んでいた自動車は、減税82等の消費促進策(後掲)が後押しとなり、6月にはプラスに転じたが、感染拡大を受けて11月に再びマイナス転換した83(第1-2-49(2)図)。また、不動産市場の低迷を反映して、家具や建材等の消費は前年比でマイナスが続いている(本章コラム2図7)。

第1-2-49図 小売総額(名目)

感染拡大等が引き続き消費の下押し要因となっている中で、中国政府は2022年後半も消費促進策を打ち出している。6月22日の国務院常務会議では、中古車市場の活性化を含む自動車の消費喚起を強化する方針を打ち出した。この方針を受け、商務部など17部門が7月7日に「自動車流通の活性化と自動車消費拡大のための若干の措置に関する通知」84を発表した。8月19日の国務院常務会議では、新エネルギー車の購入税免除政策を1年間延長し、2023年末までとすることが決定された85。自動車以外の分野でも政府はグリーン・スマート家電の消費喚起を強化する方針86を決めるなど販売支援策を打ち出している。11月22日の国務院常務会議では、経済安定化に向け、プラットフォーム経済の発展支援や電子商取引等の円滑化を通じ消費の安定と拡大を後押しすることが掲げられた。12月5~6日に行われた中央経済工作会議では、重点分野の一つに国内の需要拡大が据えられ、消費の回復と拡大を優先する方針が示された。具体的には、都市と農村の所得増加、住宅改善、新エネルギー車、高齢者サービス等への支援が挙げられた。この他、各地方では地方政府が特定の消費活動に使用できる消費券を配布するなど、消費振興が実施されている87

(雇用環境や所得はおおむね横ばい)

雇用情勢は、感染拡大の影響等により2022年前半に6.1%まで上昇していた都市部調査失業率88が5月以降は低下し、9月以降は5.5%程度でおおむね横ばいで推移していたが、11月に5.7%とやや上昇した(第1-2-50図)。2022年に入って上昇し続けていた若年失業率(16~24歳)89は、7月に過去最高の19.9%となった後は低下が続き、11月は17.1%となった。また、都市部新規就業者数90は、3月の全人代で高い目標91が示されたものの、前年同期の就業者数を下回って推移している。2022年1~11月累計は1,145万人と、今年の目標を前倒しで達成したものの、前年同期比▲5.1%となった。

次に、所得環境をみると、一人当たり可処分所得(実質、年初来累計値)は、2021年初に前年のベースの低さから前年同期比で高い伸びとなった後低下が続いていたが、2022年7~9月の経済の持ち直しを受けて、同年1~9月は+3.2%92と伸び率が小幅上昇した(第1-2-51図)。

第1-2-50図 都市部調査失業率
第1-2-51図 一人当たり可処分所得

(3)輸出入

(輸出は弱い動き)

中国の財輸出額93は、2020年後半以降は前年比でおおむね2桁台の伸び率で推移していたが、感染の拡大や世界経済の減速等を背景に2022年8月以降は伸び率が低下し、10月にはマイナスに転じ、11月には▲8.9%と大幅なマイナスとなった(第1-2-52図)。主要品目をみると、2022年後半は総じて寄与が低下し、11月にかけて電気機器や一般機械はマイナス寄与となった。また、不動産市況の影響を受けやすい家具は、8月以降マイナスの寄与が続いている。個別品目では、これまでリモートワーク需要等を背景に伸びてきた自動データ処理機械・ユニット(パソコン等)は、主要都市の封鎖で2022年前半にマイナスとなり、8月以降はマイナス幅が拡大している(第1-2-53(1)図)。高い伸び率を維持してきた集積回路は、世界的な半導体の需要減速94を受けて7月からマイナスが続き、11月には▲29.8%までマイナス幅が拡大した。また、防疫物資(マスク、防護服等)が含まれる織物は、各国で防疫措置の緩和が続く中で、8月以降はマイナス幅が拡大している。

財輸入額は、内需の鈍化や商品価格の下落を背景に引き続き低水準となっており、2022年半ば以降は前年比0~2%台で推移し、10月にはマイナスに転じ、11月には▲10.6%と大幅なマイナスとなった(第1-2-52図)。主要品目をみると、2021年初まで2桁台の伸び率であった鉱物性製品の寄与は低下し、一般機械と電気機器はマイナスの寄与が続いている。個別品目をみると、電気機器の中で最大の輸入品目である電子集積回路は、2022年5月以降はマイナスで推移し、11月には▲27.6%までマイナス幅が拡大した(第1-2-53(2)図)。また、鉱物性製品の中で第2位の輸入品目である原油は、国際原油価格が高水準で推移する中で2桁台の伸び率が続いているものの、輸入数量は前年比でマイナスか低い伸び率で推移している95

第1-2-52図 財輸出入(金額)
第1-2-53図 主な個別品目

(4)生産

(生産は持ち直しの動きに足踏み)

鉱工業生産は、2022年前半は感染拡大を受けた防疫措置の影響で一時的に弱い動きとなっていたが、その後は一部地域での生産再開に伴い持ち直しの動きが続いた。8月以降は猛暑の影響により一部で生産活動が抑制96されたにもかかわらず、8月は前年比で+4.2%と2021年後半と同程度の伸び率となり、9月には+6.3%と約半年ぶりの高い伸び率となった。しかしながら、10月以降は感染再拡大等により伸び率が低下傾向にある97(第1-2-54図)。

内訳をみると、前年比で高い伸び率が続いていた鉱業は、前年の反動98もあり伸び率が徐々に低下している。一方、感染拡大の影響を受けて伸び率が低下傾向にあった製造業は持ち直していたものの、9月をピークに伸び率は再び低下傾向にある。エネルギー・水供給業は、各地で猛暑により電力需要が増大したこと等から、7~8月は伸び率が顕著に上昇したが、9月以降は低下傾向となり、11月にはマイナスに転じた。

第1-2-54図 鉱工業生産(付加価値ベース、実質)

製造業の主要業種をみると、感染拡大等により4月に大幅に落ち込んでいた自動車については、生産活動の再開に伴い徐々に持ち直し、自動車減税の導入を受けて6月以降は前年比で高い伸び率で推移したが、感染再拡大を受けて11月には急速にプラス幅が縮小した。電気機械は2桁台の伸び率で推移している。また、鉄金属加工業(鉄鋼等)は国内の生産抑制策99等を背景に2022年半ば頃まではマイナスで推移していたが、インフラ投資の加速を背景に9~11月はプラスとなった。

他方、パソコンや携帯電話等の需要が頭打ちとなる中、高い伸び率が続いていたコンピュータ・通信その他電子機器は伸び率が低下している。医薬品は前年の反動もあり、マイナスから小幅なプラスで推移している(第1-2-55図)。

第1-2-55図 鉱工業生産(付加価値ベース、実質):製造業主要業種

(5)固定資産投資

(固定資産投資は弱含み)

固定資産投資は、2022年3月の感染拡大以降は伸び率の低下が続き、1~7月の累積で前年同期比+5.7%となって以降、1~10月まで同+5.8~5.9%とおおむね横ばいで推移していたが、1~11月は同+5.3%と伸び率が低下した(前掲第1-2-41図)。製造業投資は足元で伸び率が低下し、インフラ投資は伸び率の上昇が続いているが、不動産開発投資はマイナス幅の拡大が続いている。

製造業投資は、2022年3月末~5月末の感染拡大と各地の厳格な移動制限等により伸び率の低下が続いていたが、6月から社会活動の正常化が促進され、7月から9月にかけて小幅ながら伸び率が上昇し、1~9月は前年同期比+10.1%となった。しかしながら、10月以降の感染再拡大により、1~10月は前年同期比+9.7%、1~11月は同+9.3%と伸び率の低下が続いた。

インフラ投資は、移動制限等の影響を受けて減速した4月を除き、2022年は伸び率の上昇が続いており、1~10月は前年同期比+8.7%、1~11月は同+8.9%となった。2022年3月から行われている地方専項債券の発行前倒しによりプロジェクトの着工が進んだほか、政策金融機関から供給される資金100がレバレッジ効果を発揮したこと等がインフラ投資を促進したとみられている。2022年5月23日、国務院常務会議が発表した経済安定化政策パッケージ(33項目の措置)では、2022年分の地方専項債券は8月末までに発行を終えるとの方針が表明されていたところ、中国国家発展改革委員会は8月16日、7月末時点で発行額が発行予定額の95%にあたる3兆4,500億元に達したと発表した101。さらに、8月24日の国務院常務会議で発表された追加支援策(19項目の措置)では、地方専項債券の地方政府残高5,000億元を活用し、10月末までに発行を終えることが表明された。発行額は10月までに3兆9,381億元となり、通年で最多であった2020年の3兆6,019億元を上回った。

不動産開発投資は、2021年後半に恒大集団問題等を受けて伸び率が低下し、2022年も減速が続いている。2022年1~10月は前年同期比▲8.8%、1~11月は同▲9.8%となった(詳細は本章コラム2参照)。

(6)物価

(消費者物価上昇率は低下)

消費者物価上昇率(総合)は、2022年前半はウクライナ情勢や国内の移動制限の影響で燃料や生鮮野菜価格を中心に上昇が続いたものの、年央以降は、燃料は国際商品価格の下落、生鮮食品は供給増加と物流の改善により上昇傾向が落ち着き、伸び率の低下が続いた。

他方、豚肉価格は国内の防疫措置緩和後の需要増加と、一部業者の売り惜しみ等の影響で6月以降は価格の上昇が続いている。9月は国慶節に向けて豚肉を中心に食品価格が上昇して全体を押し上げ、10月に更に上昇したものの、11月には備蓄用豚肉の放出等による供給量の増加を受け低下したことから、消費者物価上昇率は10月同+2.1%、11月同+1.6%と低下した(第1-2-56(1)図)。

食品・エネルギーを除くコアCPIは、9月は前年同月比+0.6%(前月から0.2ポイント低下)、前月比+0.0%(前月から横ばい)、10月は前年同月比+0.6%、前月比+0.1%、11月は前年同月比+0.6%、前月比▲0.2%となった102(第1-2-56(2)図)。

生産者物価上昇率は、2021年後半から伸びの低下が続いており、2022年前半は高い水準を維持していたものの、国際商品価格が下落傾向となる中で国内関連業種の生産価格が押し下げられ、8月は前年同月比+2.3%、9月は同+0.9%と伸び率の低下が続き、10月は同▲1.3%、11月は同▲1.3%とマイナスが続いた(第1-2-57図)。

第1-2-56図 物価上昇率
第1-2-57図 生産者物価上昇率

コラム2:中国の不動産問題の動向

中国では従来、人口成長、都市化、経済成長等を背景に、各地で大規模な不動産開発が進められ、大手の不動産開発業者(ディベロッパー)は、過剰債務状態でも新規プロジェクトを次々に実施し、多角化経営を進めてきた。2017年から民間債務削減(デレバレッジ)が本格化され、2020年8月に更に厳格な「3つのレッドライン103」政策が導入されて以降、新規借入が規制されたディベロッパーは、資金繰りが急速に悪化することとなった。

代表的な例として、物件販売総額で中国2位のディベロッパーである恒大集団は、2021年9月に信用不安が表面化し、同年12月には猶予期間内にドル建て債の利払いを実行できず、一部デフォルト認定が行われた。以来、恒大集団は再建を目指しつつ累次の債務返済期限の延期交渉を進めている。2022年7月末に予定されていた債務再編計画の公表は年内公表予定と延期された。広東省政府は2021年12月に関与を強化し、恒大集団に作業チームを派遣した。金融当局104は、本件は個別事案で金融環境や関連業界への影響は無いと指摘したものの、中央銀行105は短期資金供給や利下げを実施した(後掲図10)。

2022年には、恒大集団以外の複数のディベロッパーも資金繰りの悪化が進行した。利払いと債務返済を優先することで建設資金が枯渇し、未完成のまま工事が停止されたプロジェクトが多発し106、同年7月には未完成物件購入者の住宅ローン不払運動が拡大した。中国では、物件が未完成の段階で住宅購入者がディベロッパーに全額を払い込む方式が主流である中、未完成物件の工事停滞が多発する事態は、住宅購入者が住宅の引き渡しを受けられないリスクを意識させ、購入意欲を大きく減退させ得る(図1)。このことが一層の住宅需要低下を招き、新規プロジェクトの販売停滞、更には建設資金に充てるべき現金収入が先細りとなる悪循環が懸念されている。不払対象住宅ローンの規模は1,000億ドルを超えるとの試算も出されている(表2)。

図1 中国の住宅販売のプロセス(未完成物件の予約販売のイメージ)
表2 不払対象住宅ローンの規模

これまで恒大集団を含む大手ディベロッパーのハードランディングは避けられてきたが、抜本的な改善策はみられていない。厳格な防疫措置の継続とも相まって、不動産市況の悪化が進み、実体経済への影響は着々と顕在化している。

主な指標をみると、不動産開発投資は、恒大集団問題が表面化した2021年後半から減速し始めた。2022年初には一旦反転の兆しがみられたが、同年3~5月の各地のロックダウン以降改めて減速し、同年1~11月累計で前年同期比▲9.8%となった(前掲第1-2-41図参照)107。住宅価格は、1級都市を除いた多くの都市で前月比での下落が継続しており、特に3級都市での住宅価格の下落が大きくなっている(図3)。不動産販売面積は、11月は前年同月比▲33.3%となった(図4)。金融面をみると、不動産関連融資は伸びが大幅に低下しており、不動産開発向け、家計の住宅ローン向け資金需要の低下が反映されている(図5)。

図3 住宅価格
図4 不動産販売面積
図5 不動産関連融資残高

不動産セクターは、関連業界、波及効果を含め中国経済の約3割を占めるとされる108。2022年は住宅市場の低迷に伴い、家具・建材も前年比マイナスで推移し、消費・生産の押下げ要因となっている(図6、7)。金融機関の新規貸出は、家計向け、企業向け(中長期)が減少しており、金融機関の不動産関連貸出の慎重化がうかがえる(図8)。また、土地成約が低迷する中で、土地使用権譲渡収入は大幅なマイナスで推移しており、地方政府の財政にも影響することが懸念されている(図9)。

図6 家具・建材の小売
図7 家具・建材の生産
図8 金融機関の家計向け・非金融会社等向け貸出
図9 土地使用権譲渡収入の減少

2022年7月、党中央政治局会議は、「住宅は住むためのもので投機対象ではない」「都市ごとの政策ツールを活用して、住宅の実需を支援する」との方針を改めて強調するとともに、住宅ローン不払問題への対処を地方政府に促した。以来、各種の問題に政策対応が図られている。

(1)融資の減少に対しては、政策金利の引下げが断続的に実施されている。特に、住宅ローン金利の参照値とされる最優遇金利(LPR)5年物については、1年物よりも大幅な引下げが実施されている(図10)。

図10 政策金利の引下げ

(2)住宅需要の低迷に対しては、各地で住宅購入支援策(住宅ローン金利・頭金比率の引下げ、購入件数制限の緩和、補助金の支給等)が導入されている。

(3)住宅ローン不払問題については、対市民では、地方政府の責任で、ディベロッパーに建設再開、住宅引き渡しを履行させることとしており、各地で対策が講じられている(表11)。対ディベロッパーでは、2022年9月の発表によれば、中国住宅都市農村建設部、中国財政部、中国人民銀行は、8月から未完成物件の引き渡しを促進する都市を支援する特別措置として、政策銀行からの特別融資を開始した。9月17日、河南省鄭州市は、未完成物件の工事再開のために2,000億円相当の基金を活用するとした109

表11 各地方の住宅ローン不払問題対応策の例

(4)システミックリスクの防止については、対地方中小銀行では、地方専項債券による資本補充を行うこととし、7月には、規模を6兆円とする旨を決定した。対重大金融リスクでは、「金融安定法」による金融リスク処理プロセスの整備、「金融安定保障基金112」を創設することとしている(表12)。

表12 金融リスク処理のプロセスの整備:金融安定法(草案)

2022年10月の党大会演説では、住宅政策は「住宅は住むためのもので投機対象ではない」「多様な供給と保障を進め、賃貸と購入両方を奨励する住宅制度を確立する」と、中長期的に不動産市場を健全化していく方針が強調された(前掲第1-2-47表)。他方で、現下の不動産市場の問題については、ディベロッパーの救済などのより抜本的な政策がなければ好転は困難との見方が市場関係者の間では拡がっている。

2022年11月、中国の金融当局は、不動産市場に対する支援策を発表した(表13)。中央政府としてディベロッパーへの支援を明示的に打ち出した政策として、金融市場では一部のディベロッパーの株価が急上昇するなど好感された。1~10月の不動産開発投資は前年同期比▲8.8%とマイナス幅が拡大するなど悪化が続いているところ、こうした政策がディベロッパーの苦境を緩和し、住宅引き渡しを円滑化し、消費者の住宅購入マインドを好転させることが期待されている。他方で、感染再拡大を受けて各地で封鎖措置が拡がる中で、1級都市を含めて住宅価格の下落も続く中で、不動産市場の先行きは引き続き不透明なものとなっている。

表13 不動産市場に対する支援策(ポイント)

コラム3:中国の長期経済見通しと人口問題

中国では、累次の五か年計画において対象期間の成長率目標が設定され、例年の政府活動報告において当該年の成長率目標が設定されてきた(表1)。成長率の実績は、第11次(2006~10年)及び第12次(2011~15年)五か年計画期間中においては、成長率目標を上回ってきた。しかし、第13次(2016~20年)五か年計画期間の成長率目標(6.5%以上)の達成状況については、第14次(2021~25年)五か年計画において明記されなかった。また、第14次計画においては2021~25年の成長率目標値それ自体が設定されず、「合理的な範囲に維持し、各年の状況に基づき設定する」こととされた。この方針を踏まえ、2022年の成長率目標は同年の政府活動報告において「+5.5%前後」と設定された。しかし、国内外の経済の下押し要因が重なる中で、2022年通年の前年比成長率は+3.0%にとどまり、同年の目標は達成されなかった。なお2010年代には、従来の高成長(2桁成長)から中高速成長(+7%程度)への転換を「新常態」への移行と位置づけ、成長率のみではなく構造改革やイノベーションを重視する「質の高い発展」が目指されることとなった。2020年代はコロナ禍や不動産市場の問題等の要因も重なって、成長率の低下が更に顕著になっている。中期的課題と目されてきた低成長段階への移行が、従来想定よりも前倒しされ、短期的課題として対応すべき状況となる可能性がある113

表1 中国の五か年計画における平均成長率目標と実績値

中国の成長率目標は、潜在成長率も踏まえ設定されると従来から説明されているものの、潜在成長率の具体的な値は公式に文書においては発表されていない。一方で2022年7月の記者会見において国家統計局報道官は「現段階での中国経済の潜在成長率は5.5~6.5%程度が大方の結論である」と述べており、政府としての潜在成長率の想定についての示唆を与えている。なお、中国政府のシンクタンクである中国社会科学院は、2018~2022年の潜在成長率を+6.45%114、2022年の潜在成長率を約+5.5%115と予測しており、同報道官の発言は本予測と整合的となっている(表2)。

表2 中国の潜在成長率

国際機関による長期成長見通しについてみると、OECDが2018年に発表した長期推計(Guillemette and Turner (2018)、以下「OECD2018」という。)では、2030年までに中国のGDPが米国を上回り世界一の規模となるが、人口減少等の要因で中国の成長率が中長期的には逓減することから、2060年までにアメリカが再逆転すると見込んでいた。しかし、コロナ禍以降の状況を反映し再推計を行った2021年時点の推計(Guillemette and Turner (2021)、以下「OECD2021」という。)では、中国がアメリカを上回る時期は2030年以降に後ずれし、アメリカが再逆転する時期は2050年前までに前倒しされる見通しとなっている(図3)。

図3 OECD2021における米中GDP規模の比較

ただし、OECD2021における長期経済推計は、その前提として国連が2019年に発表した人口推計(United Nations (2019)、以下「国連2019」という。)を用いており、中国の2020年の人口センサス(2021年5月公表)の結果を織り込んでいない点に留意が必要である116。人口センサスにおいては、コロナ禍の影響もあり、出生率の大幅な低下が確認された。こうした動向も織り込んで国連が2022年に発表した人口推計(United Nations (2022)、以下「国連2022」という。)においては、出生率の見通しを2019年時点の想定から大幅に下方修正し、2022年にも人口減少が始まる見通しになっている(図4、図5、図6)。実際に、2023年1月に中国国家統計局から発表された中国の2022年の総人口は14億1,175万人であり、前年から85万人の減少となった。一方、OECD2021では、2030年頃まで人口が増加する想定となっている。OECDの人口想定が国連の最新の推計を反映する場合には、中国の成長率見通しが下方修正される可能性がある。

図4 中国の総人口の見通しの比較

中国では、1979年の一人っ子政策の導入以降、出生率117が低下傾向となり、都市化や住宅価格・教育コストの高騰等の要因も重なって顕著な下落が続いた。2013年には産児制限が一部緩和され118、2016年には全ての夫婦に第2子を認める「二人っ子政策」が導入されたものの、出生率の上昇は一時的なものにとどまり、感染症が拡大した2020年は1.3となった。2021年には全ての夫婦に第3子を認める「三人っ子政策」が導入されたが、出生率の大幅な反転は困難とみられている。

図5 中国の出生率(国連人口推計)
図6 中国の総人口・生産年齢人口(国連人口推計)

国連2022で示された中国の人口ピラミッドをみると、2018年以降の出生率の大幅な低下を反映して、2022年時点の0~4歳世代の人口規模の顕著な縮小がみられる(図7)。以降も前述の低い出生率により、各世代人口が小規模にとどまって推移することで、2050年時点の総人口は13億1,264万人と推計されており、これはOECD2021の想定(13億7,071万人)を3.9%下回っている。中国の生産年齢人口(15~59歳)は、2011年の9.3億人をピークに減少が始まっている(2020年は9.1億人)。国連2022によれば、生産年齢人口は、2020年代は年率平均で▲0.6%、2030年代は同▲1.0%、2040年代は同▲1.8%と減少が加速する見通しであり、これは不動産需要や消費を押し下げるとともに、中長期的な潜在成長率を押し下げることが懸念されている。

図7 国連人口推計2022(中国の人口ピラミッド)

2022年10月16日に行われた党大会演説では、成長率目標は示されず、質の高い発展に取り組むとしつつ、人口発展戦略の改善と、国家戦略として高齢化対策に取り組むことが強調された(前掲第1-2-47表)。感染症の拡大を経て、成長率と出生率の低下がかつての想定よりも顕著に早まる中で、人口問題への対応と中長期的な成長の姿をどのように具体化していくのかが注目される。

3.ヨーロッパ経済

ユーロ圏経済は、景気は緩やかに持ち直している。ウクライナ情勢の長期化に伴うエネルギー危機が懸念される中で10-12月期の実質GDP成長率はプラス成長を堅持している。英国経済は、景気は足踏み状態にある。物価高騰が経済活動を下押しする動きがみられ、7-9月期の実質GDP成長率は6期ぶりのマイナス成長となった。本項では、2022年後半の欧州経済の動向に焦点を当ててみていく。

(1)景気

(ユーロ圏は緩やかな持ち直しが続くが、英国は足踏み状態)

ユーロ圏経済は、2022年10-12月期の実質GDP成長率が前期比年率+0.5%となるなど、7期連続でプラスとなった(第1-2-58図)。ただし、需要項目別の内訳が公表されているのは7-9月期の値までであるため、同期の需要項目内訳をみると、特に総固定資本形成と個人消費が押し上げに寄与した。輸出も前期から増加し、押上げに寄与したものの、輸入の伸びが輸出を上回った。総固定資本形成については、知的財産生産物による押上げが大きくけん引した形となった(第1-2-59図)119

個人消費と輸出についてユーロ圏の最大構成員であるドイツの動向から確認してみる。ドイツの10-12月期の実質GDP成長率は、前期比年率▲1.0%となった(第1-2-60図)。需要項目別の内訳は公表されていないが、ドイツ連邦統計局によれば、個人消費が主たる押下げ要因とされている。需要項目別の内訳が公表されている7-9月期をみると、個人消費は、記録的な物価高やエネルギー価格高騰の中ではあったものの、感染症関連の制限の大半が解除されたことで、バカンス需要等を背景に増加した。なお、他のユーロ圏主要国では、スペインにおいて、同様にバカンス需要を背景とした個人消費の伸びがGDPをけん引した。

次に、ドイツの輸出入について、財・サービス別についてみると、世界的なサプライチェーンの制約が緩和する中で財は輸出入共に増加するものの、ドイツ人の国外消費が訪独外国人のドイツ国内での消費を上回ったことを受けて、純輸出の前期比はマイナスとなった。

英国経済は、2022年7-9月期の実質GDP成長率が前期比年率▲1.2%となるなど、6四半期ぶりにマイナスとなった(第1-2-61図)。個人消費がマイナスとなり、全体を押し下げた。衣類・履物、家庭用品、食料、輸送等の幅広い品目で減少した。これに対して、政府消費は、ウクライナ情勢を受けた国防関連の支出増加により前期比でプラス、輸出入は輸出が非貨幣用金をはじめ、機械・輸送機器、燃料等で増加したことにより、純輸出で増加となった。

第1-2-58図 ユーロ圏実質GDP
第1-2-59図 ユーロ圏における固定資本形成の内訳
第1-2-60図 ドイツ実質GDP
第1-2-61図 英国実質GDP
(先行きは2023年にかけて減速が見込まれる)

一方、先行きについてみると、ユーロ圏、英国経済共にエネルギー価格高騰を背景とした物価上昇圧力の高まりや、これを抑制するための速いテンポでの金融引締めの影響を受けて、経済見通しが下方修正されている。

IMFの見通しを確認すると、ユーロ圏、英国経済は2022年後半から2023年にかけて減速すると見込まれている(第1-2-62図)。2023年の見通しについてみると、ユーロ圏は前回より上方修正されているが、その背景として、前年からの堅調な国内需要のキャリーオーバー効果、エネルギー価格の低下、エネルギー価格抑制策や現金給付等の追加的な財政効果の影響が、ECBによる利上げテンポの加速や実質所得の落ち込みを相殺するとしている。他方、英国については、財政及び金融政策、資金調達環境の引締め、エネルギー卸売価格の高止まりによる個人消費の抑制を要因として下方修正されている。

第1-2-62表 IMFGDP見通し

(2)個人消費

(ユーロ圏は持ち直しに足踏み、英国は弱含み)

次に、物価高騰の影響が懸念される個人消費について、財、サービス別にみていく。

財消費の動向について、実質小売売上高で確認してみる。ユーロ圏、英国共に夏以降低下傾向にあり、特に英国については前月比(3か月移動平均)が13か月連続でマイナスとなるなど低迷している(第1-2-63図)。これらの背景を品目別の動きから確認してみる(第1-2-64図、第1-2-65図)。ユーロ圏、英国共に物価高騰の影響(後述「(5)物価」参照)から数量が減り食料品等の売上が低迷している。自動車燃料の売上については英国では低迷している一方で、ユーロ圏では2022年8月にかけてコロナ前の2019年水準へと回復しているが、これはドイツにおいて当該期間に燃料価格高騰に対応した家計支援策等の効果120によるものと考えられる。

次にサービス消費の動向について、欧州委員会サービス業マインド調査で確認してみる。サービス消費に関連する旅行代理店、宿泊業、飲食サービス業の景況感は、2022年春先からの行動制限の緩和を受けてサービス業の改善が続いていたが、5、6月頃をピークとし、その後改善のテンポが鈍化している(前掲第1-1-15図)。その背景としては、挽回需要のはく落や物価高騰による実質可処分所得の減少によるサービス需要の低迷があるものと考えられる。

上記のようにユーロ圏の消費は、夏季まではサービス消費を中心に底堅さをみせていた。しかし、冬季に向けたエネルギーの安定的な確保に迫られていたほか、物価高騰及びその抑制に向けた金融引締めが進展する中で、経済の先行きに対する不透明感が増している。これらが消費マインドを更に冷え込ませ、消費を下押しするリスクとなるため、今後ともその影響を注視する必要がある。

第1-2-63図 実質小売売上高
第1-2-64図 ユーロ圏の実質小売売上高
第1-2-65図 英国の小売売上高

(3)生産

(ユーロ圏は横ばい、英国は弱含み)

生産の動向について、鉱工業生産で確認してみる。ユーロ圏は2022年初から横ばいとなっている。ユーロ圏最大の製造業部門をもつドイツの生産は、3月にロシアのウクライナ侵攻に伴うサプライチェーンの混乱の影響から大きく減少しており、その後も侵攻前の水準に回復することなく横ばいとなっている(第1-2-66図)。業種別でみると、エネルギー集約産業である化学工業や金属工業等において、10月は前年同月比▲12.6%と大きく減少しており、エネルギー価格の高騰による影響を大きく受けているものとみられる。

また、ユーロ圏製造業への供給制約の影響を確認してみる。ユーロ圏の製造業企業に生産活動の制約となる主要因を質問し、そのうち「材料・機器不足」を挙げた企業の割合を示した結果をみると、ユーロ圏及びドイツ共に、2022年1-3月期にピークをつけた後、緩やかに低下しており、供給制約が緩和しているものと考えられる(第1-2-67図)。

次に、英国の鉱工業生産をみると、2022年春からほぼ横ばいとなっていたが、10月に前月比(3か月移動平均)が5か月連続でマイナスとなるなど弱含んでいる。内訳をみると、変動の大きい基礎的医薬品等一部の業種が押し上げに寄与していたものの、金属製品等を始めとして、13セクターのうち9セクターで前月を下回った(3か月移動平均)。

また、供給制約の影響を製造業PMIのサプライヤー納期指数から確認すると、依然として中立水準は下回り、材料不足やサプライチェーンの問題があるとの回答もみられているものの、2021年冬頃からおおむね改善傾向にある(第1-2-68図)。

第1-2-66図 欧州の鉱工業生産
第1-2-67図 ユーロ圏の生産制約
第1-2-68図 英国のサプライヤー納期指数

(4)雇用・賃金

(雇用は堅調さを維持)

雇用情勢について、失業率、欠員率、求人数の動向で確認する。ユーロ圏失業率は2021年初来低下傾向にあり、コロナ前の水準(2020年3月の7.2%)を下回って推移した後、2022年春頃からほぼ横ばいとなっている(第1-2-69図)。欠員率についてみると、2020年7-9月期に上昇傾向に転じたのち、2022年7-9月期では、鉱工業及び建設業で2.8%、サービス業3.6%、民間セクター(除く農林水産業)全体3.3%といずれも同年4-6月期から低下した。ただし、感染症拡大前の2019年10-12月期の水準(鉱工業及び建設業は2.3%、サービス業は2.5%、民間セクター(除く農林水産業)全体は2.3%)は大きく上回っている(第1-2-70図)。特に、行動制限の緩和を背景にサービス業の欠員率は依然として高水準であり、労働需要は引き続き堅調と考えられる。

英国失業率も同様に、感染症拡大前の水準(2020年3月の4%)を下回って推移した後、2022年春頃から横ばいとなっている。ただし、求人数についてみると、英国の2022年9-11月期では、6万5千人減と2022年5-7月期以来5期連続の減少となった(第1-2-71図)。また、2022年8-10月期の経済不活発率は、前期比で0.2ポイント減少したものの、2019年以降上昇傾向にあり非労働者が増加している(英国の経済不活発率は2019年以降上昇傾向にあり、その背景についてはBox参照)。このように、英国の雇用情勢には需給の両面から変調の兆しがみられることから、引き続き今後の動向を注視する必要がある。

第1-2-69図 欧州の失業率
第1-2-70図 ユーロ圏の欠員率
第1-2-71図 英国の求人数
(賃金は上昇するも物価上昇には追いついていない)

次に、賃金動向を確認する。ユーロ圏の名目賃金上昇率は上昇傾向にあるが、2022年7-9月期は、前年同期比+2.0%と前期から伸びが鈍化している(第1-2-72図)。一方で実質ベースでは、前年同期比でマイナスとなっている。ユーロ圏は労働需給が引き締まる中で賃金は上昇しているが、物価高騰を上回るほどの賃金上昇には至っていない。なお、ドイツは2022年10月に最低賃金の引上げ(10.45ユーロ→12ユーロ)を決定しているが、9月に公表されたifo経済研究所見通しによると、最低賃金の引上げが幅広い所得階層における水準の引上げをもたらし、2023年半ばにかけて実質家計所得が増加し、個人消費を押し上げる可能性があると予測している121

英国の名目賃金上昇率はこのところ横ばい傾向にあり、2022年10月は前年比+6.4%となっている。ただし、実質ベースでみると、前年同期比でマイナスとなっている(第1-2-73図)。しかしながら、2022年11月公表のBOE金融政策委員会は、年末にかけて名目賃金上昇率は更に加速すると予測している122

第1-2-72図 ユーロ圏の賃金上昇率123
第1-2-73図 英国の賃金上昇率

Box.英国における経済不活性率の上昇

英国国家統計局(以下「ONS」)の分析(ONS(2022))によると、2019~2022年の経済不活発率(16~64歳で過去4週間求職活動をしていない、および/または今後2週間以内に仕事を開始することができない無職の人の割合)は上昇しており、その主な理由に長期疾病が挙げられている(図1)。

図1 英国における経済不活発率の要因別件数

ONSは、感染症の後遺症といった直接的な影響のほか、在宅勤務の増加による背中や首への慢性疾患、精神疾患の増加といった感染症の拡大に伴う健康への広範な影響が、長期疾病を理由とする経済不活発化率の上昇をもたらした可能性があると指摘している。また、原則無料で提供される国民保険サービス(NHS)の待機時間の長期化や労働力人口の高齢化による影響も考慮される必要があるとしている。

ここで、ONSが実施した年齢層別の調査結果をみると、長期疾病を理由として経済不活発状態にある者の半分以上が50歳~64歳であった。ただし、増加のテンポをみると、2019年から2022年にかけて増加率が最も高かったのは25歳~34歳の若者で、50歳~64歳が同期間において16%の上昇を示したのに対し、42%の上昇となっており、特に感染症拡大以降の増加が顕著で、また精神疾患の増加が多かったととしている。

この他、ONSでは、2021年4月から2022年3月の間、長期疾病を理由とした経済不活発率の上昇について業種や職業別の分析も行っている。業種別では「小売業」が最も多く、次いで「運輸・倉庫業」、「飲食・宿泊業」、「健康」、「建設業」、「製造業」といった他者に接する必要がある業種において英国平均より多く、在宅勤務が浸透している「情報・通信」、「行政」、「専門・科学技術」で少なかったとし、対人接触機会の多寡による影響の可能性を指摘している(図2)。職業別では、単純労働職で多く専門職や管理職で少なく、相対的に低賃金の職業で多いと分析している。

図2 英国における業種別の長期疾病を事由とした経済不活発率の上昇

(5)物価

(物価上昇にはエネルギーと食料が大きく寄与)

ユーロ圏と英国の消費者物価上昇率は、2022年11月にはそれぞれ前年同月比+10.1%、+10.7%といずれも高い水準となっている(第1-2-74図)。生鮮食品及びエネルギーを除いたコア物価上昇率についてもユーロ圏、英国それぞれ同+6.6%、+7.0%と引き続き高水準である(第1-2-75図)。物価上昇の要因をみるために11月の総合指数に対する品目別寄与度をみると、エネルギーと食料品がユーロ圏ではそれぞれ3.8%ポイント、2.7%ポイント、英国ではそれぞれ3.7%ポイント、1.9%ポイントとなっており、両経済の消費者物価上昇率の押上げに大きく寄与している。ユーロ圏のエネルギー価格の前年同月比は、3月以降、35~44%前後の高水準で推移しており、総合指数に対する寄与度も3.7%ポイント~4.4%ポイントと大きい。エネルギーの内訳項目をみると、ガソリン代の寄与度が低下傾向にある一方で、ガス代の寄与度は引き続き上昇傾向にある。エネルギーは前年からのベース効果が減衰していたものの、ロシアによる欧州へのガス供給制限によってガス卸売価格が高水準にあり、引き続きエネルギーの寄与度が高水準で推移していると考えられる。

先行きについてみると、EU及びその加盟国は、今冬に向けて物価高騰対策を実施していることから、エネルギー価格の上昇は一定程度抑制されるものと考えられる(詳細は第1節第5項参照)。ただし、欧州委員会の秋期見通しによれば、今後の物価動向について、ガスの先物価格がピークに達するのは2023年初頭であり、小売価格への転嫁は更に長引くと見込まれている。そのために2022年におけるベース効果を考慮しても、エネルギー価格の上昇率は高止まりすると見込まれている。

英国では、公共料金の改定により、エネルギー価格上昇率がピークを迎えると見込まれていた10月に、家計向けエネルギー料金に上限(エネルギー価格保証:EPG)が設定された(詳細は第1節第5項)。その効果についてONSは、10月の消費者物価指数(CPIH124)の前年比における「電気・ガス・その他燃料」の寄与度は2.6%ポイントであったが、EPGがなければ4.8%ポイントまで上昇していたと推計している。

なお、上記の上限設定を含む英国の物価対策については、トラス首相の退陣を受けて修正がなされていることから、今後の効果については再度評価が必要である。

第1-2-74図 欧州の消費者物価上昇率の寄与度の推移
第1-2-75図 欧州の消費者物価上昇率

40 FRB (2022a)は、2022年5月時点における感染拡大前との差分(1.1%ポイント)のうち約半分が、べビーブーマー世代の定年退職に伴う自然低下であると試算している。
41 Bernstein(2022)
42 Fry (2020)によると、2011年以降、毎年平均200万人のベビーブーマー世代が労働市場から退出している。なお、ベビーブーマー世代とは、1946年~1964年に生まれた世代であると定義されている。
43 Carpenter, J. (2022) ”THE WALL STREET JOURNAL”の記事(2022年7月25日)において、米イエール大学のジェニファー・ダナルズ助教授(組織行動学)は、従来は現在の職務に不満があるために転職する人が多かったが、現在はより高い給与を求めて転職する人が増えていると指摘している。
44 アメリカの失業率については第1-2-4図を参照。
45 アメリカ労働省が公表している欠員率(求人率)。求人数/(雇用者数+求人数)で定義される。
46 アメリカの求人数については第1-2-8図を参照。
47 宮本(2015)によれば、欠員と関係が深いのは主に構造的失業と摩擦的失業。
48 Bhattacharjee, et al.(2021)
49 Aladangady, et al.(2022)
50 インターネットよりダウンロードする画像及び音楽サービスのうち、無期限でダウンロードできるもの(映画のデジタルセル版や、オンラインで楽曲を購入してダウンロードするもの等)は耐久財に含まれる。一方、受信料契約に近いようなものは娯楽サービスに含まれる。
51 このほか、全米ホームビルダー協会(NAHB (2022))は、2022年の新築住宅販売の減少要因に住宅ローン金利の上昇による購入コストの増加を指摘している。また、全米不動産業協会(NAR (2022))も、2022年の中古住宅販売の減少要因に住宅ローン金利の上昇を挙げている。さらに、パウエルFRB議長も、9月のFOMC後の記者会見で、住宅市場は住宅ローン金利の上昇により大幅に弱体化していることを指摘している。
52 米連邦住宅金融庁(FHFA)によると、2022年1-3月期の住宅ローン債務残高は固定金利型が99.4%、変動金利型が0.4%となっており、このうち16年以上(主に30年固定)が84.2%を占めている。また、ローン年数の平均は26.9年となっている。
53 室屋(2003)
54 アメリカでは、延滞開始から120日以上経過するまでは差押え手続きを開始することが連邦法によって禁じられており、差押えを行う30日以上前に最初の通告がなされることが州法によって定められていることが多い。
55 輸送サービスは航空運賃の変動が大きいものの、自動車保険料等が安定して上昇に寄与している。
56 家賃及び持ち家の帰属家賃。
57 出典はBils and Klenow (2004), Some Evidence on the Importance of Sticky Prices, Journal of Political Economy.
58 粘着指数の構成品目は主に住居費、サービス関連品目等、柔軟指数の構成品目はエネルギー、食料品、衣料品、宝飾品等。
59 耐久財受注統計の一系列で、非国防資本財のうち航空機を除く品目の新規受注額を示す。
60 航空機及び一般自動車。
61 FRB (2022b)では、全国的に製造業のサプライチェーンの混乱が緩和されたことが指摘されている一方、引き続きサプライチェーンの混乱が課題となっている地区もあることが指摘されている。
62 内閣府(2022a
63 概要は以下のとおり:(1)中国は人口大国であり、高齢者人口が多く、地域の発展が不均衡で、医療資源の総量が相対的に不足している。動的ゼロコロナを堅持してきたからこそ、極めて低い感染率、死亡率を保証してきた。(2)総合的に計算すると、中国の防疫措置は最も経済的で効果的である。
64 広東省広州市では2022年10月24日から、湖北省武漢市では同年10月26日から店内飲食を禁止し、一部地域で封鎖措置を開始。11月2日、河南省鄭州市の一部地域(フォックスコン社のiPhone工場周辺)が封鎖措置を開始。
65 2022年11月10日に党中央政治局常務委員会(最高指導部の7人)会議において審議・手配された。
66 5日間感染者なしの場合、低リスク地域に移行し、速やかに封鎖を解除。
67 「7日間の集中隔離+3日間の在宅健康観察」から「5日間の集中隔離+3日間の自宅隔離」に変更。
68 介護施設、医療機関、学校等を除く。
69 広東省、江蘇省、浙江省、四川省、山東省、河南省:全国GDPの45%に相当。
70 2022年7月以来「60年に一度」とされる猛暑が続き、冷房用の電力需要が急増。水不足で水力発電も低下したため、長江流域各地で工業向け電力供給の制限が行われ、工場の操業停止(四川省成都市8月15~25日、重慶市8月17~29日)、稼働率低下(江蘇省、浙江省、安徽省等)が発生した。
71 「6分野33項目の措置」、詳細は内閣府(2022a)参照。
72 最優遇金利(ローンプライムレート、LPR)。中国人民銀行が設定する中期貸出ファシリティ(MLF)金利を参照し、市中銀行が設定、報告。
73 5月の経済安定政策パッケージにおいて300億元を支給済み。
74 第20回党大会、会期は10月16~22日。
75 7名の中央政治局常務委員、24名の中央政治局員。
76 中国社会科学院の推計(2021年末時点)では、約+5.5%(本章コラム3表2)。
77 需要の収縮、供給ショック、期待の弱体化の「三重の圧力」が依然として大きいとした。
78 特に(3)において、恒大集団に代表される不動産ディベロッパーの問題の解決を明示的に中央の政策目標として掲げたのは大きな転換(従来金融当局は「個別企業の問題」と説明)。
79 比較可能なGDP統計のある1978年以来、中国の通年の実質経済成長率が+6.0%未満となった年は、1981年(+5.1%)、1989年(+4.2%)、1990年(+3.9%)、2020年(+2.2%)のみ。
80 中国国家統計局、United Nations (2022)。詳細は本章コラム3参照。
81 新エネ・AI・バイオ製造・グリーン低炭素・量子計算等。
82 5月31日、財政部と税務総局は乗用車購入税を6~12月まで、10%から5%に引き下げる(販売価格が30万元未満で排気量2,000cc以下の車両)と発表。また同日、工業情報化部等4部門は新エネルギー車普及のため、5~12月を対象期間とする「新エネルギー車下郷に関する通知」を発表。2021年と比較すると対象企業や対象車種が増加。
83 中国汽車工業協会によると、乗用車の販売台数は4月に大幅なマイナスに落ち込んだもののその後は持ち直し、6月以降は高い伸びで推移していたが、11月には▲7%となった。
84 6分野12項目の措置:(1)新エネルギー車の購入及び利用の支援、(2)中古車市場の活性化、(3)自動車の買い替え消費促進、(4)自動車の並行輸入促進、(5)自動車利用環境の改善、(6)自動車金融サービスの充実等。
85 中国財政部と税務総局、工業情報化部は2022年9月26日、新エネルギー車の車両取得税免除期間の延長に関する公告を発表。2014年の導入以来、3回目の延長となる。
86 2022年7月13日国務院常務会議。新型家電への買い替えや農村部での家電普及を促す方針が示された。
87 例えば7月に北京市が外食やデリバリー等のため1億元の消費券を発行したほか、上海市は8~11月の間に3回に分けて小売りや飲食等の消費券を配布。また、10以上の省区市が文化・観光の消費券を発行しており、発行額は合計で数十億元規模とみられる。そのほか、広東省や浙江省等が自動車や家電の消費促進策を打ち出した。
88 都市部調査失業率は、ILO基準に沿って調査され、都市戸籍を持たない農民工も含む都市部常住人口を対象としたもの。2018年3月の全人代で初めて目標に取り入れられ、2018年4月から定期公表が開始された。
89 中国国家統計局は、感染症の影響で企業の雇用吸収能力が低下したことや、2022年の大卒者の総数が過去最高(1,076万人)に達していることから、若者の雇用圧力は依然として高いと言及。
90 都市部新規就業者数は、一定の期間における、都市部の企業等の新規就業人数から離退職者や死傷による減員等の自然減分を引いた人数。
91 2022年の目標は1,100万人以上と、2021年と同水準に設定されたが、李克強・国務院総理は、全人代閉幕後の記者会見で、1,300万人以上の実現が望ましいと言及。
92 可処分所得の内訳をみると、移転収入と財産収入は全体を上回る伸びとなった一方、自営収入と賃金収入は相対的に低い伸びとなった。
93 輸出入額は、断りのない限り全てドルベース。
94 世界半導体市場統計(WSTS)によると、7月の半導体の世界の出荷額は、2年8か月ぶりに前年同月比でマイナスとなった。
95 原油の輸入数量は2021年4月以降、前年比でマイナス傾向が続いていた。10月にはプラスに転じたが、金額と比較すると数量は相対的に低い伸びとなっている。
96 四川省、重慶市、江蘇省、浙江省、安徽省では、猛暑による空調需要の増大と長江流域の降雨不足による水力発電量の減少により電力需給が逼迫したため、8月に工場の操業停止や稼働時間の短縮が実施された。その後は気温低下に伴い、制限が緩和された。
97 国家統計局の製造業購買担当者指数(PMI)は、2022年7月以降に改善・悪化の分岐点である50を下回って推移していたが、9月は50.1とやや上昇した。国家統計局は猛暑の影響が一服したことから、製造業が一部回復したと指摘。10~11月は感染の拡大の影響等から生産と需要が減速し、再び50を下回った。
98 2021年後半にはオーストラリアの石炭輸入停止を受けた石炭の国内生産増加がみられた。
99 中国政府は、2030年までに二酸化炭素の排出量を2005年比で65%以上削減することや、2030年までのカーボンピークアウト及び2060年までのカーボンニュートラル実現を目標として掲げている。国家発展改革委員会は2022年4月、大気汚染防止重点地域の生産量削減等により、同年の粗鋼生産量を前年比でマイナスにするとしている。2022年1~11月の粗鋼生産量は前年同期比▲1.4%。
100 国家開発銀行や中国農業発展銀行といった政策金融機関が債券を発行して資金を調達し、新型インフラなど重要なプロジェクトの資本金として充当するもの。5月の経済安定化政策パッケージ(33項目の措置)では3,000億元が投入され、8月の追加支援策(19項目の措置)では更に3,000億元を投入するとされた。
101 3月の全人代では、2022年の地方専項債券の発行枠を3兆6,500億元としている。
102 市場関係者は、ゼロコロナ政策の堅持により、企業の先行き不安が強まり、家計は節約志向を常態化させつつあることから、食品などを除くと物価の下落圧力が強まる可能性があると指摘している。
103 (1)総資産に対する負債の比率が70%超、(2)自己資本に対する純負債の比率が100%超、(3)現預金に対する短期負債の比率が100%超のいずれかに該当する場合に、借入規制を適用。
104 中国銀行保険監督管理委員会。
105 中国人民銀行。
106 全国で300件以上。
107 なお、不動産開発投資は10月単月では前年同月比▲16%程度(民間調査機関試算値)。
108 Rogoff and Yang (2021) は、産業連関表を用いた分析により、中国の不動産関連の経済活動(建設、部品、付加価値)をGDPの28.7%(2016年時点)と推計。
109 支援基金(6兆円)の設立、建設再開向け融資(20兆円)の計画が進行中との報道も出ている。
110 対象プロジェクトは106以上、影響を受けている関係者は60万人以上とされる。
111 恒大集団、華僑城、富力地産、融創、遠大等。
112 2022年3月の全人代で同基金の創設が宣言され、4月に中国人民銀行等が「金融安定化法(草案)」のパブコメを実施。同法は未施行なるも、同基金については6月時点で「金融機関から既に646億元(約1兆2800億円)を調達し、9月までに数兆~十数兆円規模に増やす方針」との報道あり。9月下旬、中国人民銀行は党大会前に発表した文章にて、「金融安定法の起草を主導しパブコメを実施した」「現在、金融安定保障基金の基礎的枠組は初歩的に構築され、既に一定の資金が蓄積されている」と言及。
113 2020年11月の五中全会では、習近平総書記は「関係部署の試算によれば、2035年までに2020年比でGDPを倍増させることは十分可能」と発言しており、当時はコロナ禍による成長率の低下は一過性のものと捉えられていたとみられる。なお、15年間でGDPを倍増させるためには、1年あたりの成長率が+4.73%以上となる必要があるものの、IMFの直近の予測(2022年10月)では2022年+3.2%、2023年+4.4%といずれも下回っている。
114 中国社会科学院(2017)
115 中国社会科学院(2021)
116 OECD 2021では、人口は推計対象ではなく、国連2019の予測値が前提値として活用されている。
117 合計特殊出生率。
118 2013年には、夫婦のいずれかが一人っ子の場合には第2子の出産を認めることとされた。
119 2022年7-9月期のユーロ圏の総固定資本形成の高い伸びは、アイルランドにユーロ圏外から巨額の知的財産が移されたことにより、GDPの構成項目である知的財産生産物をその一部として含む総固定資本形成が大きく上振れしたことによるものとみられる。同国における巨額な知的財産生産物の移転に伴うユーロ圏GDPの押上げは過去にもあり、翌期にその反動で大きな下振れを引き起こしている(内閣府(2021))。
120 ドイツは2022年6月1日~8月31日の期間中、エネルギー税の引き下げを実施。1リットル当たりガソリンは約30セント(約42円)、ディーゼルは約14セント(約20円)の価格引き下げ効果。
121 Ifo (2022)
122 BOE (2022)
123 一時間当たり労働コストのうち、 雇用主が現金または現物で従業員に支払った直接報酬のほか、ボーナス及び諸手当、財形への支払い、休業手当を含む。
124 CPIHとは、英国のCPIが帰属家賃を含まないの対し、これを含むもの。

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