第1章 世界経済の減速と金融政策の課題(第1節)

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第1節 米中貿易摩擦下の世界経済

19年後半に回復に向かうとみられていた世界経済は、米中貿易摩擦下で減速を続けている。米中両国の追加関税措置や貿易協議をめぐる不確実性は、世界的に財貿易を縮小させ、特に製造業の不振を招いている。本節では、世界全体、及びアメリカ、アジア、ヨーロッパにおける貿易や生産等各種経済指標の動向を確認し、今般の世界経済の減速局面の特徴を過去との比較により明らかにする。

1.米中貿易摩擦と減速する世界経済

(1)米中貿易摩擦の動向

18年から続く米中間の貿易摩擦は、19年6月の米中首脳会談により一時落ち着きがみられた。19年後半に入り、両国が追加関税措置第4弾を実施するなど緊張が増大する局面があったが、両国間での協議が続けられた結果、12月に第1段階合意に達し、20年1月には同合意文書署名に至った。しかしながら、既に実施されている追加関税措置の大部分が依然として残っており、その影響は継続している。ここでは、19年後半を中心に、貿易摩擦に関する両国の動きをまとめる。

(19年前半までの動き)

アメリカ政府は、18年7月以降、段階的に中国からの輸入品に対し追加関税措置を実施、中国政府もこれに応じる形で追加関税措置を実施してきた(第1-1-1表)。19年6月までの間に、米中間で相互に第1弾から第3弾までの追加関税措置が実施される中、アメリカは第4弾の実施についても言及していた。しかしながら、19年6月28日から29日に日本で開催されたG20サミット(金融・世界経済に関する首脳会合)において米中首脳会談が実現し、米中通商協議の継続が確認されるとともに、当面の間、第4弾を実施しない方針が示され、米中貿易摩擦の問題をめぐる緊張は、一時緩和した1

第1-1-1表 アメリカと中国の追加関税措置

(米中間の緊張の増大)

19年後半に入り、再び米中間の緊張は増大した。7月30日、31日に開催された米中閣僚級協議において大きな進展が見られなかったことを受け、8月1日、トランプ大統領が、中国からの輸入品3,000億ドル相当に対し、9月1日より10%の追加関税措置(第4弾)を実施する旨を表明した。

第4弾については、8月13日、アメリカ通商代表部(USTR:United States Trade Representative)が、意見公募や意見聴取2の結果を踏まえ、特定の対象項目(携帯電話、ノートパソコン、玩具等)(約1,600億ドル相当)への追加関税措置を12月15日まで延期することを決定した3。延期の理由についてトランプ大統領は、クリスマス商戦に際し、追加関税がアメリカの消費者に影響を及ぼすことがないようにするためである旨を述べている。実際、後述の通り、追加関税が延期された項目は消費財を多く含んでいるとともに、対中国輸入依存度が高いものが対象とされている。

その後、8月23日、中国国務院関税税則委員会が、アメリカの第4弾実施の発表に対する対抗措置として、石油や農産物など約750億ドル相当4のアメリカからの輸入品に対し5%または10%の追加関税を9月1日及び12月15日から賦課することを発表した。併せて、18年12月の米中首脳会談を受けて停止されていた、自動車及び同部品への追加関税賦課(5%または25%)についても、19年12月15日から復活させることも発表された。これを受けて、USTRは同日、第1弾から第3弾(25%)及び第4弾(10%)の追加関税率をそれぞれ5%引き上げることを公表した5

また、8月には、アメリカが中国を為替操作国に認定した。8月5日、人民元の対ドルレートが08年以降初めて1ドル=7元を突破したが(第1-1-2図)、これを受けて中国人民銀行は同水準を容認6するとともに、「近年、中国人民銀行は為替変動に対応する過程で、豊富な経験と政策手段を蓄積してきた。引き続き管理のための諸手段の革新・充実を進め、外国為替市場で生じる可能性のある正のフィードバックに対し必要かつ的を絞った措置を講じ、短期の投機的動きを断固として取り締まり、外国為替相場の安定を維持し、市場の期待を安定させる」とコメントした。これを受け、アメリカ財務省は同日、「1988年包括通商競争力法」に基づき、中国を為替操作国に認定するとの声明を発表した7。同国が為替操作国を認定したのは、1994年に中国が認定されて以来、25年ぶりである。為替操作国への認定は、ただちに制裁発動につながるものではない8ものの、アメリカのこの措置は米中間の対立が深まっていることを示すものとなった。なお、アメリカ財務省は、20年1月13日に公表した為替報告書において、中国を為替操作国から解除し、「監視リスト9」にとどめることとしている10

第1-1-2図 人民元の対ドルレート

(追加関税措置の概要)

アメリカによる追加関税措置を段階別にみると、第1弾から第4弾にかけて対象項目の構成や規模が異なることが分かる(第1-1-3図、第1-1-4図)。

第1弾及び第2弾は、資本財や中間財が大半を占めており、消費財の割合は低いものとなっている。また、アメリカの追加関税対象項目のうち、中国からの輸入が占める割合(対中国輸入依存度)も小さい。さらに、アメリカの中国からの輸入のうち、第1弾の対象項目は約7%、第2弾の対象項目は約3%(いずれも2018年の輸入の金額ベース)と、規模も比較的小さい。

これに対し、第3弾及び第4弾は、消費財も含めた幅広い財が対象となっている。特に、第4弾をみると、19年9月1日実施分は消費財が約60%を、19年12月15日実施予定分は消費財が約25%、携帯電話やノートパソコン(資本財の内数)が約50%を占めている。また、第4弾は対中国輸入依存度が高く、とりわけ12月15日実施予定分については87.1%となっている。さらに、アメリカの中国からの輸入のうち、第3弾の対象項目は18年の輸入金額ベースで約4割、第4弾の対象項目は同ベースで9月1日実施分が約2割、12月15日実施予定分が約3割と、規模も大きい。第4弾について、部分的に実施を12月に延期し、第1段階合意に達した後は、9月1日実施分について税率を引き下げるとともに、12月15日実施予定分については実施を見送りとした(後述)背景には、他国からの代替輸入が難しく、一般消費者に与える影響が大きくなる可能性が懸念されたこともあったと考えられる。

第1-1-3図 アメリカによる追加関税措置の対象項目の構成
第1-1-4図 中国に対するアメリカの追加関税の規模(関税収入対GDP比)

(ファーウェイとの取引制限措置等)

アメリカは中国に対し、以上のような追加関税措置に加え、ファーウェイ(華為技術)等からの製品等の調達制限やアメリカ企業からのファーウェイへの製品等の輸出制限など、中国企業との取引制限措置についても実施、検討を行っている(第1-1-5表)11

(i)アメリカ政府機関によるファーウェイ等からの製品調達禁止

18年8月13日に成立した2019年度国防権限法(National Defense Authorization Act 2019)に基づき、19年8月13日、政府機関による、中国企業5社(ファーウェイ、ZTE、ハイテラ、ハイクビジョン、ダーファ)が製造する通信機器やビデオ監視装置の調達を禁止する措置が発効となった。これは、安全保障上の容認できないリスクをもたらすことを理由としたものである。

(ii)アメリカ企業によるファーウェイ等からの製品等の調達制限

19年5月15日、トランプ大統領は、情報通信技術などに対する脅威に関する国家非常事態を宣言し、国家安全保障等に対する容認できないリスクなどをもたらす取引を禁止する権限を商務長官に委任する大統領令12に署名した。その後、11月26日、アメリカ商務省が、「外国の敵対勢力」が手掛けた通信機器が米通信網や安全保障に危険を及ぼすと商務長官が判断すれば、取引をやめるよう米企業に求める規制案を公表した。大統領令や規制案には、特定の国や企業は明示されていないが、いずれもファーウェイやZTE等を念頭に置いた措置と解釈されている。規制案については意見公募13が行われ、その結果を踏まえて施行される見込みとなっている。

(iii)補助金を受領するアメリカ通信会社による、ファーウェイ及びZTEからの製品調達禁止

19年11月22日、アメリカの連邦政府通信委員会(Federal Communications Commissions)は、連邦政府から補助金を受領するアメリカの通信会社に対し、ファーウェイ及びZTEからの製品の調達を禁止することを決定した。これも安全保障上の懸念を理由としたものであり、20年に実施される見込みとなっている。

(iv)アメリカ企業からファーウェイへの製品等の輸出制限

19年5月15日、アメリカ商務省は、ファーウェイが禁止されているイランへの金融サービスの提供等を行ったとして、輸出管理規則(EAR:The Export Administration Regulation)に基づき、掲載された企業への輸出を制限するエンティティ―(法人等)・リストにファーウェイ本社及び関連会社(68社)を追加することを発表した。これにより、米国企業がエンティティ―・リストに追加された事業者に対して製品等を輸出する際は事前に商務省の許可が必要となり14、事実上の禁輸措置が採られた。さらに、8月19日には、新たに関連企業46社がエンティティー・リストに追加されることとなった。

ただし、既存のネットワークおよび機器の継続的運用等に必要な取引については、5月20日、90日間の猶予期間が設けられた。その後、猶予期間は3回にわたり延長され、20年4月1日までとされた15

第1-1-5表 ファーウェイ等中国企業規制の動き

(第1段階合意に至る動き)

19年9月に入り、追加関税措置第4弾のうち9月1日に実施されることとなっていた衣類、テレビ等(1,200億ドル相当)に対する追加関税措置については予定どおり実施されたものの、9月下旬に米中次官級協議が、また10月上旬に米中閣僚級協議が予定される中、9月11日、トランプ大統領は、10月1日に予定されていた第1弾から第3弾の追加関税率の引上げを10月15日に延期する旨を表明した16。その後、10月10日、11日に開催された閣僚級協議において米中間で第1段階(phase one17の合意がなされたとして、トランプ大統領は、10月15日に予定されていた第1弾から第3弾の追加関税率の5%引上げを見送る旨を表明した。第1段階の合意について、トランプ大統領は、中国が400~500億ドル分のアメリカ農産物の購入の他、知的財産権の保護、為替の透明性の向上、金融サービス市場の開放等に合意したと述べたが、合意に関して書面での公表はされず、合意の文書化及び署名に向けた協議がその後も継続された。

11月には、香港でのデモを受けてアメリカにおいて「香港人権・民主主義法案18」が成立するなど、米中関係の悪化が懸念される局面もあったが、12月13日、米中両政府は改めて第1段階の合意に達したと発表した。同日、USTRは中国との間で第1段階の通商合意に達したことを受け、第4弾に関し12月15日実施予定分の発動を見送るとともに、9月1日実施分の追加関税率を15%から7.5%へ引き下げることを発表した。また、中国国務院関税税則委員会も12月15日、第4弾に関し、12月15日実施予定分の発動を見送ることを発表するとともに、18年12月14日以降賦課を停止していたアメリカから輸入する自動車及び同部品への追加関税の再開も見送ることを発表した19。20年1月15日には、第1段階合意文書への署名が行われ、USTRは同日、上述の第4弾(9月1日実施分)の追加関税率の引下げを20年2月14日から適用する旨を公表した。また、中国国務院関税税則委員会も2月6日、9月1日実施分の追加関税率を5~10%から2.5~5%へ引き下げることを発表した。

合意文書では、(1)知的財産、(2)技術移転、(3)農業、(4)金融サービス、(5)マクロ経済政策・為替、(6)貿易拡大、(7)紛争解決の7分野における米中両国の取組を定めている(第1-1-6表)。このうち、(6)貿易拡大では、中国がアメリカからの財・サービスの輸入を今後2年間で少なくとも合計2,000億ドル以上増やすことで合意している(第1-1-7表)。具体的には、17年実績を基準に、少なくとも20年において767億ドル増、21年に1,233億ドル増とされており、20年、21年のアメリカの対中国貿易・サービス赤字の対GDP比(17年では-1.4%)を、17年の対GDP比でそれぞれ0.4%、0.6%縮小させる効果が見込まれる。

第2段階合意に向けた日程は未定であるが、トランプ大統領は、早期に第2段階の協議を開始し、米中両国が第2段階の合意に達した場合にはこれまで実施した追加関税措置を解除する旨を表明するとともに、第3段階合意を設けることは想定していない旨を表明している。

第1-1-6表 第1段階合意の主な内容
第1-1-7表 第1段階合意における中国の輸入拡大の内容

(2)世界経済の減速

(世界経済の動向と見通し)

19年後半に入り、世界経済の減速は一層鮮明となっている。国際通貨基金(IMF)の20年1月時点の見通しによると、17年に3.8%であった世界の実質経済成長率は、18年に3.6%と低下した後、19年には2.9%と、18年よりも更に低下することが見込まれている。世界銀行が公表している四半期ベースの成長率(前年比)をみても、18年半ば以降、成長率が急速に低下していることが確認できる(第1-1-8図)。

今回の世界経済の減速局面を過去の減速局面と比較するため、OECDの景気先行指数(CLI:Composite Leading Indicators)において、アメリカ、ユーロ圏、中国のうち2つ以上の国・地域で景気下降局面となっている期間をみると、2010年代では、11年8月~13年3月(欧州政府債務危機20後の局面)21、15年5月~16年8月(上海株急落22前後の局面)23及び18年8月~(現在の減速局面)24の3期間が該当する25。各局面について最も低い成長率はそれぞれ、1.9%(13年第1四半期)、2.3%(16年第1四半期)、2.4%(19年第2四半期)となっており、今回の減速局面の成長率の低下は、これら2010年代の減速局面とおおむね同水準となっていることがわかる。

また、世界経済の大宗を占めるG20について、全体の実質GDP成長率とその内訳を地域の実質GDP成長率(前年比)及び名目GDP(米ドルベース)を用いて試算すると、世界経済と同様、18年後半から低下傾向にあること、特に19年に入ってから、アメリカ、EU、中国、いずれの地域においても成長率が鈍化しており、G20全体の減速をもたらしていることがうかがえる(第1-1-9図)。

第1-1-8図 世界の実質経済成長率(四半期)
第1-1-9図 G20の実質GDP成長率

18年半ば以降に公表された国際機関による経済見通しでは、世界経済の成長率見通しが相次いで引き下げられており、その傾向は19年も続いている。例えば、IMFによる世界経済見通しでは、19年10月時点の経済成長率の見通しと比較して、20年1月時点の経済成長の見通しは0.1%ポイント引き下げられ2.9%、20年の見通しは0.1%ポイント引き下げられ3.3%となっている。19年、20年ともに、公表されるごとに引下げが続いており、当初想定より回復の遅れが見込まれている。OECDによる世界経済見通しでも、19年9月時点の見通しと比較して、19年11月時点の19年の見通しは2.9%で据え置かれたものの、20年の見通しは0.1%ポイント引き下げられ2.9%となり、19年と同程度の成長率が続くシナリオへと下方修正された(第1-1-10図)。

第1-1-10図 国際機関の世界経済見通しの変化
第1-1-11図 IMFの世界経済見通しの推移

IMFの世界経済見通しを用いて、過去2回の減速局面と今回局面における見通しの推移をみると、いずれの局面でも累次にわたる下方修正が行われており、世界経済の減速局面において、回復時期が当初の想定よりも遅れることは必ずしも稀なことではないことが分かる(第1-1-11図)。各局面における見通しの変化の幅や回数を比較すると、欧州政府債務危機後の局面における見通しの修正が、最も幅が大きく、回数も多い。また、回復時期となる14年の成長率も当初の見通しを大きく下回っている。一方、上海株急落前後の局面は、減速の期間が短かったこともあり、回復時期となる17年の成長率は当初の見通しを上回る結果となっている。今回の減速局面については、欧州政府債務危機後の局面を既に超える長さ26となっているほか、新型コロナウイルスの感染拡大27が中国の景気の下振れを招き、世界経済全体の下押し圧力となる可能性に留意が必要である。

(米中貿易摩擦の影響に関する試算)

IMFでは、19年10月に公表された世界経済見通しにおいて、米中間の追加関税措置が世界の実質GDPに与える影響について、モデル28を用いた試算結果を示している(第1-1-12図)。同試算では、世界の実質GDPの水準の押下げ効果を直接的な関税引上げの効果と間接的な効果に分けた上で、直接的な効果については、(1)18年に実施された米中間の追加関税措置(第1弾、第2弾、第3弾(追加関税率は10%))、(2)19年5月に実施された米中間の追加関税措置(第3弾(追加関税率を10%から25%へ引上げ))、(3)19年8月に公表された追加関税措置(第4弾(追加関税率10%)及び第1弾~第3弾(追加関税率を10%から25%へ引上げ))の3つに分けて示している。また、間接的な効果については、(4)企業マインドの悪化が設備投資を下押しした場合の影響(信頼感効果)、(5)企業収益の悪化予想により、企業の調達金利が上昇した場合の影響(金融市場効果)、(6)国内資源の再配分による生産への影響(生産性効果)の3つに分けて示している。

世界経済への影響をみると、20年の実質GDPへの下押し効果が最も大きく、合計で0.8%程度押し下げられるとされている。また、その半分以上が企業マインドや金融市場への影響によるものであり、直接的な関税の影響よりも間接的な影響の方が大きくなっている。なお、米中間の第1段階合意に向けた動きを受けて、IMFでは、20年の世界経済への影響について、シナリオ3に含まれる19年10月の関税引上げ(25%→30%)が実施されなかった場合、0.8%の押下げから0.7%の押下げに、さらに、19年12月の関税引上げ(約1,600億ドル相当に15%)が実施されなかった場合は0.6%の押下げに縮小するとしている29

アメリカ、中国への影響については、20年の実質GDPをアメリカで0.6%、中国で2.0%程度押し下げるとしている。いずれの時点においても、アメリカよりも中国で押下げ効果が大きくなっている。また、その影響の内訳をみると、中国では、追加関税措置の直接的な影響の方が大きくなっているが、アメリカでは、間接的な影響の方が大きく、時間とともにその影響が大きくなるなど、その影響経路の違いも大きい。

第1-1-12図 米中間の追加関税措置の世界の実質GDPの押下げ効果に関するIMFの試算(ベースラインからの差)

米中貿易摩擦の影響に関しては、OECDでも、19年11月に公表されたエコノミック・アウトルックにおいて、モデル30を用いた試算結果を示している。同試算では、19年12月に実施予定とされていたものも含め19年に実施された米中相互の追加関税措置及び投資リスクプレミアムが上昇することによるGDP、貿易、企業の投資への影響が示されている(第1-1-13図)。

経済的影響は21~22年までのベースラインからの差として示されており、世界の実質GDPは0.6%程度、世界貿易は1.4%程度、それぞれ押し下げられるとしている。各国・地域については、アメリカ、中国でそれぞれ実質GDPが0.7%、1.0%程度それぞれ押し下げられるほか、貿易摩擦の当事国ではない日本やユーロ圏についてもそれぞれ0.4%程度押し下げられるとしている。また、企業の投資に関する影響関する試算も示されており、中国は2.8%程度、アメリカは2.5%程度それぞれ押し下げられるとしている。

第1-1-13図 米中間の追加関税措置のGDP・貿易・企業の投資の押下げ効果に関するOECDの試算(2021~22年までのベースラインからの差)

2.世界的な財貿易の縮小

18年後半以降、米中貿易摩擦や中国経済の減速により世界の財貿易の伸びは鈍化している。本項では、世界全体や各地域の財貿易の状況を概観し、過去の局面との比較を通じて今般の局面の特徴を考察する。

(1)世界

(不確実性の高まり)

IMFスタッフ等が開発した世界貿易不確実性指数31を用いて財貿易を巡る不確実性の動向をみると、96年以降、おおむね20年程度低位で推移してきたが、米中貿易摩擦の高まりに伴い、18年後半から急激に上昇し、19年入り後は一段と上昇して高水準にとどまっていることがわかる(第1-1-14図)。

第1-1-14図 世界貿易不確実性指数
(世界の財貿易の動向と見通し)

世界の財貿易は、18年後半以降伸びが鈍化し、19年後半以降は前年比で減少している。

世界の財輸出をみると、17年から18年初にかけて高い伸びを維持していたが、18年半ば以降伸びが大きく鈍化し、19年に入ってからは多くの月で前年を下回っている(第1-1-15図)。財輸出の伸びの低下は、米中貿易摩擦の当時国であるアメリカと中国にとどまらず、ユーロ圏や中国以外の新興アジアの財輸出の低下ももたらしている。

世界貿易機関(WTO)によると、世界の財貿易量の伸びは、18年は3.0%であったが、最新の19年10月の見通しでは、19年は1.2%、20年は2.7%と見込まれ、18年をともに下回るとされている(第1-1-16図)。19年については、18年9月時点の見通しでは3.7%と見込まれていたが、19年4月見通しでは2.6%に引き下げられ、同年10月の見通しでは更に引き下げられて1.2%となることが見込まれている。20年については、19年からは伸びが回復することが見込まれているものの、19年4月時点の見通しでは3.0%とされていたものが、同年10月時点では2.7%と引き下げられている。

第1-1-15図 世界主要国・地域の財輸出量の伸び率
第1-1-16図 世界の財貿易量見通し

財貿易量の推移を過去の景気減速局面と比較してみると、欧州政府債務危機後の局面(11年8月~)では、伸びが鈍化したものの、水準としては横ばいまたは増加傾向が続いていた(第1-1-17図)。また、上海株急落前後の局面(15年5月~)では、伸びは鈍化しているものの、一貫して増加傾向を維持していた。これに対し、今回の減速局面では、期間を通じて減少傾向となっており、下降局面開始月から約1年が経過した段階では開始月の水準を相当程度下回る結果となっている。過去2回の減速局面に比べると、財貿易の減少幅が大きく、また回復も遅いということがいえる。

また、財輸出量の減少がみられる国・地域の数をみると、今回の減速局面においては、早い段階で多くの国・地域が前年比マイナスとなり、過去2回の減速局面における数を上回っている(第1-1-18図)。今回の減速局面では財貿易の縮小が特定の国・地域だけにとどまらず、世界的かつ同時的に広がっていることが確認できる。

第1-1-17図 世界の財貿易量の推移(景気減速局面)
第1-1-18図 財輸出量減少がみられる国・地域の数(景気減速局面)

(2)アメリカ

アメリカの財輸出は、18年半ば以降、中国向け輸出が減少するとともに、19年に入ってからは中国以外の国・地域への輸出も低調となり、19年3月以降、7か月連続で前年比マイナスとなった(第1-1-19図)。

中国向け輸出は、中国が追加関税措置を開始した18年7月頃から大きく落ち込み始めた。ただし、アメリカが中国に対しアメリカ農産品の購入について累次にわたり要請したこともあり、19年半ば以降は大豆を中心に前年比で増加に転じている(第1-1-20図)。

第1-1-19図 アメリカ財輸出の国別寄与度
第1-1-20図 アメリカの対中国輸出の財別寄与度

次に、輸入の動向をみると、16年から18年半ばにかけては前年比の伸びが上昇傾向にあったが、18年11月以降急速に落ち込み、19年7~9月期には前年比1.4%減となった(第1-1-21図)。国別でみると、19年に入ってから、最大の輸入相手国である中国からの輸入が前年比で減少に転じたことが大きくマイナスに寄与している。また、中国からの輸入を財別にみると、18年末以降、電気機器等やコンピュータ等の輸入が大きくマイナスに寄与し、対中輸入全体を押し下げている(第1-1-22図)。

第1-1-21図 アメリカの財輸入の国別寄与度
第1-1-22図 アメリカの対中国輸入の財別寄与度

アメリカと中国の追加関税措置の応酬により、アメリカの輸出入に占める中国の割合にも変化がみられる。アメリカの輸出に占める国・地域別の割合をみると、18年7~9月期の中国の比率は7.3%であったものが、19年7~9月期には6.9%に低下している。同様にアメリカの輸入に占める国・地域別の割合をみると、18年7~9月期の中国の比率は20.3%であったが、19年7~9月期には18.3%に低下し、EUとシェアが逆転した(第1-1-23図、第1-1-24図)。

第1-1-23図 アメリカの輸出に占める国・地域別シェア
第1-1-24図 アメリカの輸入に占める国・地域別シェア

(3)中国・アジア

(中国の財輸出入動向)

中国の財輸出額32は、米中貿易摩擦を背景に、18年10~12月期以降、前年比の伸び率の低下が続き、19年4~6月期及び7~9月期はマイナスとなった。その後、10~12月期には、前年が低い水準であったこともあり、前年比1.9%とプラスに転じ、下げ止まりの動きもみられる(第1-1-25図)。

相手先別にみると、アメリカ向けが大幅なマイナスとなっており、アメリカによる18年7月以降の追加関税賦課の影響によるものとみられる。他方、その他の主要輸出先向けはプラスを維持している。特に、ベトナムを始めASEAN向けの伸びが19年半ば以降一段と高まっており、企業の中国からの生産拠点の移転の影響が考えられるほか、迂回輸出が一部含まれている可能性33もあるとみられる。

アメリカ向けの輸出を品目別にみると、アメリカが18年7月6日及び8月23日から追加関税を賦課している産業機械や電子部品、集積回路等といった品目が含まれる電気機器・一般機械が最も大きくマイナスに寄与している。また、19年1~3月期以降は、18年9月24日から追加関税が賦課されている家具類をはじめ、主要品目全てでマイナスに転じ、マイナス幅も拡大傾向となっている(第1-1-26図)。

第1-1-25図 中国の相手先別輸出
第1-1-26図 中国の品目別対米輸出

次に、財輸入の動向をみると、19年1~3月期から7~9月期にかけて前年比で減少が続いた。その後、10~12月期には、前年が低い水準であったこともあり、前年比3.2%とプラスに転じ、下げ止まりの動きもみられる(第1-1-27図)。

相手先別にみると、米中貿易摩擦を背景に、アメリカからの輸入の伸びは、18年10~12月期から19年7~9月期にかけて二桁台の大幅なマイナスで推移していたが、米中間で第1段階の合意に向けた動きが進む中、10~12月期には前年比1.5%減とマイナス幅が縮小した。他の主要相手先からの輸入についても総じて弱めの動きとなっているが、10~12月期にはASEANからの輸入で持ち直しの動きがみられている。貿易形態別にみると、輸出の減速に伴い、19年1~3月期以降、加工貿易用の輸入34は前年比マイナスが続いている。内需の減速を受けて、一般貿易用の輸入も18年10~12月期から19年7~9月期にかけて前年比マイナスが続いていたが、10~12月期にプラスに転じた(第1-1-28図)。

第1-1-27図 中国の相手先別輸入
第1-1-28図 中国の貿易形態別輸入

アメリカからの輸入を品目別にみると、鉱物性製品(石油、石炭、天然ガス等)や輸送機器(自動車、航空機等)で大きく前年比マイナスとなる一方、植物性製品(大豆・果物等)は7~9月期以降はプラスに転じている(第1-1-29図)。

第1-1-29図 中国の品目別対米輸入

鉱物性製品は、輸入全体ではプラスを維持しているのに対し、アメリカからの輸入は18年10~12月期から19年7~9月期にかけてマイナスが続いた。液化天然ガス35などの鉱物性燃料、土石類や鉱物類、潤滑油36などの鉱物油などに対して継続的に追加関税を賦課している影響があるとみられる(第1-1-30図)。

第1-1-30図 鉱物性製品の輸入動向

輸送機器については、18年実績では航空機が約6割、自動車が約4割のシェアを占めているが、19年4~6月期以降、ともにマイナス幅が大きく拡大している。自動車・同部品については、18年7月に一部に追加関税が賦課され、8月、9月に対象品目が拡大されたが、その大部分は、19年1月から暫定停止37されているため、主として中国国内の自動車販売の低迷が背景とみられる38。航空機・同部品については、18年9月から一部に5%の追加関税が賦課されており、また19年6月からその一部について10%に引き上げられている。加えて、後述するように、米大手航空機メーカーのボーイング社の機体の出荷が停止されていることも影響している可能性がある。

他方、植物性製品39は、その大部分を占める大豆に対して18年8月7日から追加関税が賦課され、18年10~12月期から19年1~3月期にかけて前年比で大幅な減少となっていたが、19年4~6月期にマイナス幅が大きく縮小し、7~9月期にはプラスに転じた。農産品の輸入は、8月3日にアメリカによる3,000億ドル相当の追加関税賦課の表明を受けて一時停止されたが、10月10~11日の閣僚級協議を前に輸入が再開されており、9月26日の中国商務部の会見において、大豆と豚肉について相当な量の取引があり、その購入に当たっては追加関税を免除した旨が明らかにされている。

(その他アジア各国・地域の輸出動向)

アジア諸国・地域では、中国経済の減速に伴い、18年末以降、中国向けを中心に輸出が低調となった(第1-1-31図)。特に、中国の輸出品に使用される中間財として半導体や電子部品を中国向けに多く輸出している韓国や台湾等で対中国輸出の減少が顕著に表れていることから、背景には、米中貿易摩擦による中国の輸出の減少があると考えられる。実際、中国の輸出入を品目別にみると、18年7月及び8月からアメリカが追加関税を賦課した品目が含まれる電気機器・一般機械の輸出の寄与が18年10~12月期以降急速に低下するとともに、その生産に必要とされる半導体や電子部品等が含まれる同品目の輸入も減少に転じ、その後も輸出入ともに弱い動きが続いている(後掲第2-2-20図)。

他方、中国向けの輸出が減少し、輸出全体も低調な中で、アメリカ向けの輸出は相対的に高い伸びを維持している(第1-1-31図)。特に台湾、ベトナムにおいて、アメリカ向け輸出が顕著に増加しており、米中貿易摩擦により、中国のアメリカ向け輸出が一部代替されているとみられる。台湾では、19年1月から21年末まで、「歓迎台商回台投資行動方案」(中国大陸で事業を行う台湾企業の台湾への回帰投資を促進するプログラム)40が実施されているが、当初の通年目標であった2,500億台湾元(名目GDP比約1.4%)の申請額を4か月で達成し、目標額が上方修正されるなど、中国からの台湾企業の投資回帰が急速に進んでおり、こうした動きもアメリカ向け輸出の増加を後押ししているとみられる。

台湾及びベトナムで、アメリカ向け輸出で増加している品目をみると、台湾では、特に情報通信機器(コンピュータや通信設備等)、ベトナムでは機械・設備や電話機、木材・木製品といった品目が増加している(第1-1-32図)。国連貿易開発会議(UNCTAD)の分析41によると、アメリカの中国に対する追加関税措置により、台湾が最も貿易代替効果の恩恵を受けているとされ、第2位としてメキシコ、第3位にEU、第4位にベトナムが挙げられている。19年1~6月期に、アメリカの中国からの輸入が35億ドル減少し、そのうち21億ドル(63%)が他国からの輸入によって代替され、うち台湾が4.2億ドル、ベトナムが2.6億ドル分であったとしている。品目としては、台湾はオフィス機器、ベトナムは通信機器及び家具の代替が大きいとしており、統計上の分類は異なるものの、前述のアメリカ向け輸出が増加している品目と類似した品目となっている。このほか、これらの国よりも代替効果は小さいながらも、アジアでは、韓国、インド、その他東南アジア諸国でも代替効果が生じていると指摘されている。ただし、ベトナムについては、先に見たように、アメリカの中国に対する追加関税措置後に中国からの輸出が増加していることから(前掲第1-1-25図)、迂回輸出が増加している可能性にも留意が必要である。

第1-1-31図 アジア諸国・地域の輸出(前年比・3MA)
第1-1-32図 台湾・ベトナムの品目別対米輸出

中国、台湾、ベトナムの対米輸出の動向はアメリカの貿易統計によっても確認することができる。

まず、アメリカの中国、台湾、ベトナムからの輸入(財全体)の動向をみると、上記でみたのと同様に、中国からの輸入が19年に入り前年比でマイナスとなる一方、台湾、ベトナムからの輸入は、19年入り後、18年に比べかなり高い伸びが続いている(第1-1-33図)。

具体的な品目をみると、中国からの輸入は、18年12月頃からコンピュータ、電気機器、家具等を中心に減少している。その一方で、台湾からの輸入は18年12月頃からコンピュータ等を中心に、ベトナムからの輸入は、19年1月頃から電気機器等を中心に増加している(第1-1-34図)。また、ベトナムからの輸入は、大きさとしては小さいながらも、19年以降、家具等が連続してプラス寄与となり、輸入全体を押し上げているという18年までにはみられなかった特徴もみられる。

第1-1-33図 アメリカ国別輸入の伸び
第1-1-34図 アメリカの中国・台湾・ベトナムからの品目別輸入

(4)ユーロ圏・ドイツ

世界的な製造業の不振や財貿易の縮小はユーロ圏の財貿易にも大きな影響を与えている。特に域内最大の経済規模を擁するドイツ42では、財輸出総額の名目GDPに占める割合が39.4%(18年)と、他の域内主要国と比較しても極めて高く43、ユーロ圏主要国の中で最も世界貿易の動向の影響を受けやすい国であると考えられる。以下では、ユーロ圏全体とドイツの輸出動向を品目別と相手国・地域別について概観し、その特徴を明らかにする。

まず、ユーロ圏全体とドイツについて輸出の品目別内訳をみると、ユーロ圏では機械類及び輸送用機器類44が輸出総額の41.8%と最も高いシェアを占めており、次いで化学工業生産品が17.9%のシェアを占めている(第1-1-35図)。ドイツにおいても、輸出総額の中で最も高いシェアを占める品目は機械類及び輸送用機器類であり49.0%と約半分を占め、次いで、化学工業生産品の16.3%となっている(第1-1-36図)。なお、輸出の前年比と品目別の寄与度をみると、ユーロ圏全体、ドイツ双方において17年における輸出の大きな伸びや18年、19年の減速の主因は機械類及び輸送用機器類であることがわかる(第1-1-35図、第1-1-36図)。また、化学工業生産品や原料別製品も機械類及び輸送用機器類と同様の動きを示している。

以上から、ユーロ圏、特にドイツの主力輸出品は自動車を中心とした輸送機器関連の工業製品であり、同製品に対する外需の動向が同国経済に多大な影響を与えていると考えられる。また、輸送機器関連産業は化学工業製品や素材等の広範な裾野産業を抱えており、上記の前年比寄与度からは輸送機器関連製品の需要動向がこれらの裾野産業の景気にも広く波及している可能性を示唆している。

第1-1-35図 ユーロ圏の輸出
第1-1-36図 ドイツの輸出

次に、同じくユーロ圏全体の域外輸出について輸出相手国・地域別にみると、輸出総額のうち、最大のシェアを占めているのはEU加盟国向け(ユーロ参加国を除く)の33.1%(18年)であり、アメリカの14.0%(同)や中国の7.5%(同)がそれに続く(第1-1-37図)。また、ドイツの国外輸出については、EU加盟国向け(ドイツを除く)が59.1%(18年)と相当部分を占め、アメリカの8.6%(同)、中国の7.1%(同)がそれに続く(第1-1-38図)。ユーロ圏全体とドイツについて、輸出の前年比と輸出相手国・地域の寄与度をみると、ユーロ圏全体は、17年中は高い伸びとなっていたが、18年以降は多少の変動はあるものの総じて伸びが鈍化している(第1-1-37図、第1-1-38図)。前年比寄与度でみると、17年は相対的に中国向け、EU加盟国向け(ユーロ参加国を除く)、その他の国・地域の寄与度が大きかったが、18年以降はこれらの国・地域の寄与度が相対的に小さくなる一方で、アメリカ向けの寄与度が大きくなっている。なお、ドイツにおいても、17年に国外輸出が大きな伸びを示した後、18年、19年と減速しているが、特にEU加盟国向け(ドイツを除く)と中国向けで大きく減速していることがうかがわれる。

第1-1-37図 ユーロ圏の輸出
第1-1-38図 ドイツの輸出

以上のとおり、ユーロ圏、ドイツともにEU加盟国向けの輸出が大きなシェアを占めていることが分かったが、例えばドイツでは、輸出入を通じて同地域と取引されている財の70%以上は中間財と資本財である(第1-1-39図)。その背景としては、EU域内では単一市場の深化とともにグローバル・バリュー・チェーンが進展し、EU加盟国間で頻繁に部品や機械等が取引されていることが挙げられる45(第1-1-40図)。サプライチェーン上の需要変動は各生産段階を経る度に変動幅が拡大するという特徴がある46ことから、ドイツを中心としたEU域内貿易の縮小が加速度的にEU域内の生産を縮小させ、19年以降のEU域内の急速な減速の要因となったと考えられる。

第1-1-39図 ドイツのEU域内向け輸出
第1-1-40図 ドイツのEU域内からの輸入

3.世界的な製造業の不振

米中貿易摩擦の継続、及びそれに伴う貿易の縮小もあり、世界的に製造業の不振がみられると同時に、非製造業が景気を一定程度下支えしている様子も確認できる。本項では、製造業を中心に世界全体や各地域の景況感、生産等への影響を確認する。

(1)世界

(低下が続く製造業の景況感)

19年の世界全体の製造業の景況感や新規輸出受注に関する景況感は、米中貿易摩擦の継続及びそれに伴う貿易の伸びの鈍化、中国経済の減速や不確実性の継続等を背景に、18年後半以降急速に低下し、19年後半以降は大半の月で改善・悪化の分岐点である50ポイントを割り込むなど、低位で推移している。

製造業の景況感(購買担当者指数(PMI: Purchasing Managers’ Index))をみると、世界全体では18年初め頃をピークとして低下していたところ、19年入り後も低下を続け、19年5月には50ポイントを割り、10月まで6か月連続で50を下回っている。ただし、7月の49.3を底に8月以降下げ止まり、11月にはわずかではあるが50を上回った。また、18年は先進国の製造業の景況感が新興国よりも高い水準が続いたが、18年後半から19年にかけて先進国で急速に低下した結果、新興国を下回っている(第1-1-41図)。

新規輸出受注指数をみると、世界では、18年初以降継続して低下し、同年後半に50を割り込んで以降、50を下回って推移している。先進国と新興国の各々の動向についてみると、まず、先進国では18年9月以降50を下回っており、8月には47.4まで低下した。その後わずかに改善はしてはいるものの、依然として50を大きく下回っている。新興国では、18年後半は50を下回っていたが、19年前半は50近辺で推移していた。しかし、19年後半に入り、先進国ほどではないにせよ連動する形で再度低下がみられ、その後幾分回復したものの11月時点ではわずかに50を下回っている。このように先進国は新興国より低下幅が大きいこと、また、19年以降継続して50を下回っていることから、世界全体の低迷は主として先進国の落ち込みによりもたらされたと考えられる。ただし、19年10月以降は底打ちの動きがみられることから、今後の回復が期待される(第1-1-42図)。

世界全体の製造業とサービス業の景況感を比較すると、18年半ば以降、製造業がサービス業よりも大きく低下し、19年に入りその差が拡大している。この背景としては、グローバル・バリュー・チェーンの進展を背景に、財貿易を対象とする追加関税措置等の通商問題の緊張に伴う貿易量の伸びの鈍化及び政策的不確実性の継続が世界全体の製造業の景況感を大きく押し下げる一方、サービス業はそうした影響を直接的には受けにくい性質であるためと考えられる。ただし、19年に入り、サービス業の景況感も緩やかな低下傾向がみられることから、急速な製造業の低迷が、ややタイムラグを伴って製造業に関連するサービス業47を中心に一定程度サービス業にも影響を及ぼしつつあるとみられ、今後も注視が必要である(第1-1-43図)。

前述の貿易量と同様に、製造業及びサービス業の景況感について、それぞれ、2010年代の過去2回の景気減速局面(欧州政府債務危機後(11年8月~)及び上海株急落前後(15年5月~))との比較を行うと、製造業の景況感は、今回の景気減速局面において、過去2回の減速局面に比べて顕著に低下していることが確認できる(第1-1-44図)。一方、サービス業の景況感については、今回の局面において低下しているものの、過去2回の減速局面と比べてそれほど大きな特徴はみられない。

第1-1-41図 製造業の景況感
第1-1-42図 製造業の新規輸出受注指数
第1-1-43図 世界の製造業とサービス業の景況感
第1-1-44図 世界の製造業とサービス業の景況感(景気減速局面での変動幅)
(低迷する鉱工業生産の伸び)

世界の鉱工業生産の伸び(前年比)をみると、18年以降低下傾向にあったものが、19年に入ってからは低下テンポが加速し、10月には減少に転じている(第1-1-45図)。欧州政府債務危機後の局面や上海株急落前後の局面においても伸びの鈍化は観察されるが、減少には転じていないこと、また、実質経済成長率の比較では、今回の減速局面と過去2回の減速局面との間に大きな違いがみられなかったこと(前掲第1-1-8図)、を考え合わせると、今回の減速局面では特に鉱工業生産への影響が大きい、ということができる。

第1-1-45図 世界の鉱工業生産

鉱工業生産の水準の変化について、前述の貿易量や景況感と同様に、直近2回の減速局面と比較すると、欧州政府債務危機後(11年8月~)、上海株急落前後(15年5月~)のいずれの局面においても、下降局面開始月入り後も緩やかに増加しているのに対し、今回の減速局面では概ね横ばいで推移しており(第1-1-46図)、鉱工業生産の伸び悩みが今回の減速局面の特徴の一つとなっている。

第1-1-46図 世界の鉱工業生産の推移(景気減速局面)

(2)アメリカ

アメリカでは、米中貿易摩擦を背景に、製造業を中心として、企業のマインドが悪化し、生産、設備投資、雇用にも影響が及んでいる。

企業による景況感をISM製造業景況指数48でみると、米中間の貿易摩擦等を背景に、18年後半から低下し、19年8月には中立水準である50を割り込み、同年9月には、09年6月以来、10年3か月ぶりの低水準まで下落した(第1-1-47図)。特に輸出受注の指数においては、一時40台前半まで低下していることから、輸出を中心に企業のマインドが大きく低下していることが分かる。また、製造業と比べ比較的高い水準を維持していた非製造業の同景況指数も19年に入り低下傾向にあり、19年9月には、中立水準である50は割り込んではいないものの、16年8月以来、3年1か月ぶりの低水準を記録するなど、非製造業にも景況感の悪化が波及し始めている(第1-1-48図)。

第1-1-47図 ISM製造業景況指数
第1-1-48図 ISM非製造業景況指数

次に、鉱工業生産の動きをみると、19年入り後、製造業を中心に全体としても弱い動きが続いており(第1-1-49図)、輸出の減少が実際の生産活動にも影響を与えている様子がうかがえる49

第1-1-49図 鉱工業生産指数

また、民間設備投資も弱い動きとなっている(第1-1-50図)。民間設備投資は、17年、18年と高い伸びを記録していたが、19年4~6月期には前期比年率1.0%減と、16年1~3月期以来、13期ぶりの減少となった後、続く7~9月期も前期比年率2.3%減と、更に大きな減少となった。19年9月公表のアメリカ地区連銀経済報告(ベージュブック)では、製造業を中心として、貿易政策の不確実性や世界経済の減速を背景に設備投資を控えているといった企業のコメントがみられ、不確実性の高まりによる企業の投資マインドの低下や世界的な需要の減少が設備投資の減少につながっていることが示唆される50

第1-1-50図 民間設備投資

新規雇用者数の動きをみると、全体としては増加が続いているものの(第1-1-51図)、部門別では、製造業において、18年中は増加していたが、19年に入ってからはおおむね横ばいとなっている51(第1-1-52図)。製造業の不振が同部門における雇用の抑制に波及しつつあることがうかがえる。

第1-1-51図 雇用者数
第1-1-52図 部門別民間部門雇用者数

(3)中国

中国では、米中貿易摩擦の影響が、製造業部門を中心に、生産のみならず、企業のマインドや設備投資にも及んでいる。鉱工業生産は、製造業を中心に伸びは低下傾向となっている(第1-1-53図)。電気機器やコンピュータといった輸出関連産業の伸びが低下しているほか、中国国内の需要の鈍化を受け、自動車では19年半ばまで前年比で減少が続いた(詳細は、第2章第2節1.中国経済 を参照)。

製造業企業の景況感指数 (PMI)をみると、18年後半から大きく低下し、18年12月から19年11月にかけて、一時的な上昇はあったものの、おおむね改善・悪化の分岐点である50ポイント以下での推移が続いた(第1-1-54図)。特に、PMIの関連指数である新規輸出受注指数及び輸入指数は低下幅が大きく、米中貿易摩擦の影響を強く受けていることがうかがえる(第1-1-55図)。ただし、12月に米中両国政府が第1段階の合意に達したことを発表し、12月15日から実施予定であった追加関税の発動を見送るといった進展もあり、12月以降、製造業PMIは50ポイントを上回り、新規輸出受注指数と輸入指数にも改善がみられる。他方、非製造業のPMIは、景気減速に伴って19年半ば以降やや低下傾向がみられたが、50ポイント台前半の高めの水準で推移している。

第1-1-53図 鉱工業生産(付加価値ベース、実質)
第1-1-54図 購買担当者指数(PMI)
第1-1-55図 PMI関連指数 新規輸出受注指数・輸入指数

また、製造業投資の伸びも、19年に入り急速に低下し、低迷が続いている(後掲第2-2-23図)。これは米中貿易摩擦を背景とした輸出の減少や先行き不透明感の高まりが、企業の設備投資に影響を与えているためと考えられる(詳細は、第2章第2節1.中国経済 を参照)。

雇用情勢について、PMIの雇用指数をみると、製造業、非製造業ともに18年秋頃から大幅に低下し、19年中はいずれも中立水準である50を下回って推移しているが、特に製造業の低下幅が大きくなっている(第1-1-56図)。生産の鈍化や製造業企業の景況感の悪化が、製造業部門の雇用にも影響を与えているものとみられる。

第1-1-56図 製造業購買担当者指数(雇用指数)

(4)ユーロ圏・ドイツ

ユーロ圏の主要国の中でGDPに占める製造業のウェイトが最も高く52、世界的な製造業の動向の影響を大きく受けると考えられる国はドイツである。そのため、以下ではユーロ圏の中でも特にドイツに焦点を当ててみていく。

ドイツでは、米中貿易摩擦の継続に伴う世界貿易の縮小、中国経済の減速、世界的な自動車生産の停滞により、輸出の低下を通じて製造業に大きな影響が生じている。先述のように、ドイツは域内主要国の中でも輸出依存度が高い国であり、外需が景気に大きな影響を与えやすい経済構造となっている。特に、同国の主力輸出品である輸送機器は、中国における自動車販売の低迷、CO2やディーゼル車の排出ガス規制などの世界的な環境規制の影響により、外需を押し下げる主要な要因となっている53

ドイツの景況感を製造業及びサービス業PMIで確認すると、製造業は19年1月に中立水準である50を割って以降、更に低下を続けている。一方、サービス業では大きく変動を繰り返しつつも50を上回って推移している(第1-1-57図)。また、同じく製造業PMIの新規受注指数及び新規輸出受注指数によって今後の受注動向を確認すると、新規輸出受注は18年9月に、新規受注は18年10月に50を割って以降更に低下し、歴史的な低水準で推移している(第1-1-58図)。

第1-1-57図 ドイツの製造業・サービス業PMI
第1-1-58図 ドイツの製造業PMI 新規受注・新規輸出受注指数

ドイツの鉱工業生産の動向を前年比でみると、17年末をピークに減速し始め、18年半ば以降は前年を下回っており、その減少幅は月を追うごとに大きくなっている(第1-1-59図)。品目別にみると、輸送機器での減少幅が大きく、ドイツの主力産業である輸送機器輸出の低迷に伴い、鉱工業生産全体が縮小していることがうかがえる。輸送機器分野は一般機械、化学、金属などの素材等の広範な裾野産業を抱えていることから、輸送機器の生産減少がそれらの産業にも波及している可能性がある。

第1-1-59図 ドイツの鉱工業生産

次に、ドイツにおける機械設備投資の動向をみると、18年以降、特殊要因による一時的な上昇を除き、低調に推移している54(第1-1-60図)。ドイツでは、17年後半以降、経済成長の制約要因として労働力不足や設備・原材料不足などの供給制約が指摘されてきたことから、民間企業による新規機械設備投資の増加が期待されていた55。しかし、18年半ばは国際調和排出ガス・燃費試験法56の導入に伴い鉱工業生産が低下し、さらに18年後半以降は外需の低迷を受けて供給制約よりも需要不足が顕在化しつつある(第1-1-61図)。また、後述するように、設備稼働率も特に18年半ば以降急速に低下しつつあることから、今後、企業が機械設備投資を大幅に拡張するインセンティブは弱くなっていると考えられる。

第1-1-60図 ドイツの機械設備投資
第1-1-61図 ドイツにおける供給制約

低調な輸出や鉱工業生産、機械設備投資の動向が雇用に与える影響についてみるため、失業率で確認すると、19年半ば以降横ばいで推移しているものの、その他の域内主要国と比較すれば低位で推移している(第1-1-62図)。ただし、19年以降求人数が減少しつつあることや、労働力の面からの供給制約がやや緩みつつあることから、求人は頭打ちとなっており、企業の雇用意欲は減退しつつあると考えられる(第1-1-63図)。就業者数(全体)の前年比をみると、18年以降傾向的に伸びが低下している(第1-1-64図)。産業別に就業者数の前年比伸びを確認すると、製造業が大半を占める鉱工業における就業者数の伸びは17年、18年と加速していたが、19年に入り減速を続けている。17年、18年に伸びが加速していた理由としては、製造業における労働力面からの供給制約がタイトであったことから、企業が積極的に採用していたと考えられる。また、19年以降の就業者数の伸びの減速は輸出や生産の減速が製造業の雇用環境に波及してきたからとみられる。一方、サービス業での就業者の伸びは17年、18年に減速しているが、19年に入ってからはほぼ安定的に推移している。先行きについて製造業、サービス業PMIの雇用指数をみると、製造業では19年3月以降中立水準である50を下回って推移しているが、サービス業では50を上回って比較的堅調に推移していることから(第1-1-65図)、ドイツの低失業率はサービス業における雇用が支えているものとみられる。ただし、製造業がドイツ経済に占める割合はGDPベースで20%強、雇用者数ベースでも20%弱と、アメリカの約2倍程度57となっており、サービス業への波及可能性には一層の留意が必要である。

第1-1-62図 ドイツの失業率(ILO基準)
第1-1-63図 ドイツの求人数
第1-1-64図 ドイツの就業者数
第1-1-65図 ドイツのPMI雇用指数

4.世界経済のリスク要因

世界経済は、今後も全体としては緩やかな回復が続くと見込まれるが、留意すべき下方リスク要因が存在する。

(1)通商問題の動向

18年以降、米中間を始めとしてアメリカと多くの国・地域との間で貿易制限措置が採られている。米中両国のGDPは合算して世界のGDPの約4割を占めており、既に見たように、米中貿易摩擦は世界の貿易量の伸びを鈍化させ、製造業を中心に景況感や生産を低下させるなど、米中のみならずユーロ圏を含む世界経済全体にマイナスの影響を与えている。19年12月に第1段階合意に達し、20年1月には文書への署名も行われるなど、緊張は緩和される方向にあるものの、引き続き追加関税措置の大部分が残されたことから、第2段階の合意に向けた協議の進捗状況については、注視が必要である。また、アメリカは、大手航空機メーカーへの補助金等を理由とした欧州諸国に対する追加関税措置の実施や、デジタルサービス課税を理由とした欧州諸国に対する追加関税措置の検討を表明しているほか、通貨安を理由としたブラジル、アルゼンチンへの追加関税措置の可能性も示唆するなど、米中間以外の通商問題の動向についても留意が必要である58

こうした通商問題の世界経済全体に対する影響として、貿易量の減少といった直接的な影響のみならず、企業マインドの悪化やそれに伴う投資の抑制、金融資本市場の混乱等も懸念される。さらには、企業が複雑なグローバル・バリュー・チェーンを構築する現在の世界経済にあっては、二国間の通商問題であっても、その影響が従前以上に他国に波及、増幅されて世界経済全体に影響を与える可能性がある。

(2)中国経済の先行き

 中国は世界第2位の経済規模を有しており、その減速は貿易等を通じて世界経済全体に大きな影響を与える可能性がある。中国経済は緩やかに減速しているが、今後、通商問題の動向や過剰債務問題への対応等によっては、景気が下振れするリスクがある。現在、中国政府は企業の資金調達環境の改善のための対応を進めるなど、景気安定に配慮する姿勢を強めているが、他方で、金融リスク防止も重視している。また、17年より本格的に取り組んでいる過剰債務削減に関しても、未だ道半ばであり、引き続き取り組まれると期待されるものの、折からの景気減速との関係もあり、その実施のペース及びタイミング、規模に関して難しい舵取りが求められている。このほか、20年1月下旬以降、新型コロナウイルスの感染が急速に拡大していることから、事態の収拾が長引いた場合に、消費や生産活動に与える影響も懸念される。

仮に中国の景気が更に下振れた場合、日本を含め中国との貿易上の結びつきが強い国を中心に、世界経済全体の下押し圧力が高まるおそれがある。中でも、中国をグローバル・バリュー・チェーンに組み込んでいる国においては、その影響は一段と大きなものとなることが見込まれる。特に、コロナウイルスの感染拡大による中国の生産活動の停止が、他国において部品供給網の寸断につながるような場合は、当該国の生産停止を招くなど直接的な影響が及ぶ点にも留意が必要である。

(3)英国のEU離脱

19年12月12日の英国議会下院総選挙において、保守党が単独で総議席の過半数を獲得した結果、20年1月には、20年末までの移行期間を延長しない方針を盛り込んだEU離脱関連法案が成立し、英国は20年1月末にEUを離脱した。これまで英国企業の設備投資意欲を低下させてきたEU離脱そのものへの不確実性はほぼ解消されることとなったものの、離脱後、20年末までの移行期間中にEUとのFTA締結に至らない場合、「合意なき離脱」と同じ状態に陥る可能性があり、英国・EU間の経済関係をめぐる不確実性は継続している。英国・EU間の通商交渉をめぐる不確実性が英国の投資・生産活動に与える影響に引き続き注意するとともに、英国・EU間の経済関係の変化がもたらす長期的な影響にも留意が必要である。

英国は金融サービスを始め、EU内外の国にとってヨーロッパにおける拠点的な役割を担っている面もあり、将来の英国とEUの経済関係に関する不透明感が続くことは、ヨーロッパのみならず、金融資本市場等を通じより広い国・地域において企業や消費者マインドの悪化をもたらし、設備投資や消費を始め、経済活動全般を抑制するおそれがある。

(4)金融資本市場等における変動

 金融資本市場が短期間に大きく変動した場合、その影響は世界各国の実体経済に波及し、相互に増幅し合う可能性がある。例えば、19年10月の初めには、アメリカの各種指標の弱さ等から、主要国で株価が下落した。その後は、株価は落ち着きを取り戻し、NYダウは過去最高値を記録するなど、堅調に推移しているが、市場は米中貿易摩擦を始め、中国で発生した新型コロナウイルスの他国への感染拡大への懸念等、世界経済のリスクを意識して変動している。今後も金融資本市場の動向を十分に注視していく必要がある。

原油市場59では、19年9月にサウジアラビアの石油施設が攻撃されたことで供給不安が高まり、原油価格が一時的に大きく上昇するということがあったが、その後は世界経済の減速懸念等から比較的落ち着いて推移している。しかしながら、19年末から20年初めにかけてアメリカとイランの対立が緊迫化する場面もあるなど、イランを含む中東情勢の変化によっては、原油価格が大きく変動するリスクがあり、注視が必要である。

また、各国・地域の政治情勢が株価や為替へ与える影響についても留意が必要である。香港では、19年4月以降、「逃亡犯条例」改正案に対する反政府デモが広がり、大規模なストライキにより航空便が多数欠航した8月には、株価が急落するなどの影響がみられた。また、インドでは、19年12月に「国籍法改正案」がインド議会上院で可決されたことに対するデモが広がり、一時的に通貨安となるなどの影響が出ている。中南米諸国においても、ブラジルでは政策金利の引下げを契機として、また、アルゼンチンでは19年12月に発足した新政権の財政運営がデフォルト懸念につながったことから、それぞれ通貨安が生じている。

このほか、世界金融危機後、主要国の中央銀行による長期にわたる金融緩和を受け、民間債務(家計部門・企業部門)が積み上がっており、金融安定性のリスク、更には経済成長へのリスクとなるおそれもある。

主要国・地域の家計部門の債務残高対GDP比をみると、アメリカではもともと水準はユーロ圏や中国と比較して高いが、世界金融危機発生時に上昇した後、危機後に大きく低下している。ユーロ圏、日本でも10年以降、緩やかに低下している。一方、中国では上昇が続いており、19年初にはユーロ圏や日本に迫る水準となっている(第1-1-66図)。

企業部門の債務をみると、中国での拡大が顕著であり、アメリカ、ユーロ圏、日本を大きく上回る水準となっている。中国の企業債務は、世界金融危機後の景気対策で実施された大規模インフラ投資等により急速に増加した後高止まっている。ユーロ圏では、2000年以降ほぼ一貫して増加していたが、16年以降は緩やかに低下している。日本では16年以降緩やかに上昇しているが、18年末時点で世界金融危機発生時の水準には達していない。アメリカでは水準こそ他の主要国・地域より低いものの、長期にわたり景気の回復が続いていることから、19年初には世界金融危機時を上回る高水準となっており、FRBでもその動向が注視されている60

第1-1-66図 家計部門・企業部門の債務残高対GDP比

コラム1-1:2019年後半以降の原油市場

(1)原油価格の動向

19年後半の原油価格は、米中貿易摩擦を背景とする世界経済の減速懸念の下押し要因と、イランなど中東地域をめぐる地政学的リスクやOPECプラス(注1)による協調減産拡大の押上げ要因の双方が影響する中、比較的落ち着いた動きとなった。20年1月下旬以降は、新型コロナウイルスの感染拡大による世界経済減速への懸念から下落している(図1)。

図1 原油先物市場の推移(2019年1月以降)

19年前半の原油価格は、1月に開始されたOPECプラスによる協調減産を背景に上昇していたものの、5月以降6月半ばにかけてアメリカによる中国への追加関税措置の表明等をきっかけに下落に転じていた(注2)。6月13日にホルムズ海峡で日本及びノルウェーのタンカーが攻撃を受けて以降は、地政学的リスクの高まりを背景に上昇に転じたが、その後は比較的安定して推移した。9月14日、サウジアラビアの石油関連施設が無人機による攻撃を受けたことで、サウジアラビアの原油生産が日量570万バレル減少したと報じられ(注3)、原油供給不足懸念が高まったことから、WTI原油先物価格は、前日13日の終値54.85ドルから、週明けの16日の終値62.90ドルまで急上昇した。しかし、早期の供給力回復見通しが示されたことや攻撃への関与が疑われたイランと米国との緊張が過度に高まらなかったことから、原油価格は落ち着きを取り戻し、30日には施設攻撃前の価格水準を下回った。その後、12月のOPECプラス総会において、協調減産規模の拡大が合意されたこと(後述)に加え、米中間で通商協議の第1段階合意に達した旨の発表があったことから、原油価格は上昇した。19年末から20年初にかけて、アメリカとイランの対立激化を背景に、原油価格は更に上昇したものの、武力衝突懸念が和らいで以降は落ち着きを取り戻し、その後も、新型コロナウイルスの感染拡大による世界経済減速への懸念から原油価格は下落している。

(2)主要国・地域別の原油生産の動向

世界全体の原油生産量は、18年10月以降減少していたが、19年4月を底に下げ止まった後、6月以降は増加傾向にある。このうち、OPECの生産量をみると、OPECプラスで日量120万バレルの協調減産が開始された19年1月以降、減少が続いているものの、19年後半に入り、石油施設攻撃という特殊事情があった9月を除き、減少のペースが緩やかになっている。国別にみると、OPEC加盟国であるイランは減少、サウジアラビアは横ばい、協調減産に参加するOPEC非加盟であるロシアでは横ばいとなっている。一方、そのいずれでもないアメリカの原油生産量は増加基調にある(図2)。アメリカは2018年時点で石油消費量が世界第1位であるが、国内における生産増加を背景に輸出も増加しており、12月2日、統計を開始した1949年以来初めて原油の純輸出国となった(注4)。なお、アメリカの原油在庫は、世界経済の減速を受け、19年は18年に比べ総じて高めの水準で推移しており、これが原油価格を一定程度下押しした可能性がある。(図3)。

図2 各国の原油生産と輸出
図3 アメリカの原油在庫

OPECプラスは、17年1月より協調減産を実施しており、19年7月1日のOPEC総会及び翌2日のOPECプラス閣僚会合では、19年6月末までとされていた協調減産を20年3月末まで延長することが合意された。

協調減産のOPECプラス全体での遵守率(注5)をみると、19年初は、減産目標の遵守率が100%を下回っていたものの、サウジアラビアによる割当分を上回る減産を背景に3月以降は100%を連続して超える状況が続いており、1~8月までの平均遵守率は134%と高水準を維持している(図4)。こうした高い減産目標遵守率が、原油価格を下支えしたと考えられる。ただし、遵守率には国による違いが大きく、遵守率が100%を下回る参加国もある。こうした状況を受け、サウジアラビアは、9月に開催された合同閣僚監視委員会(JMMC:Joint Ministerial Monitoring Committee)において、全ての協調減産参加国が減産を遵守し、協調減産参加国の結束を示すべきであると述べるなど、減産遵守強化を呼び掛けている(注6)

OPECプラスは、19年12月5、6日に開催された総会において、20年3月末までの協調減産規模を、20年1月以降は、従来の日量120万バレルから日量170万バレルに拡大することで合意している。また、12月6日、サウジアラビアは他のOPEC加盟国がそれぞれの生産目標を完全に履行することを条件に、OPECプラスでの減産とは別に、日量40万バレルの自発的減産を行うことを明らかにし、原油価格下支えを率先して行う姿勢を示している。

図4 OPECプラス全体の減産目標遵守率

(3)中東地域をめぐる地政学的リスクの動向

18年5月8日にアメリカのトランプ大統領がイランとの核合意から離脱を表明し、8月7日にイランへの特定の経済制裁の再発動(注7)を行って以降、中東地域において地政学的リスクの高まりがみられる。

アメリカとイランの関係は19年後半に入り、一層悪化している(注8)。7月1日、イランは、低濃縮ウランの貯蔵量が15年の核合意で規定した制限量を上回ったことを公表し、8日にウランの濃縮度が核合意規定で定められた上限を超えたことを公表するなど中東情勢の緊張は更に高まりをみせた。

9月5日、アメリカは、イランの原油輸送ネットワークに係る個人・団体を制裁対象に指定した。これに対し、イランは6日、研究開発が制限されていた高性能の遠心分離機の部分的な稼働を公表した。さらに、9月14日にサウジアラビアの石油関連施設が無人航空機により攻撃された際は、イランの関与が疑われたことから緊張が高まり、原油価格も一時的に上昇した。

11月4日、アメリカ財務省は、隣国武装勢力の支援や深刻な人権侵害を理由にイランのハメネイ師の側近9名を経済制裁の対象に指定し、アメリカ国内における資産を凍結した。これに対しイランは5日、核合意で禁止されていた施設においてウラン濃縮再開(遠心分離機の再稼働)の準備に着手したことを公表した。18日、国際原子力機関(IAEA)はイランの原子炉の稼働に用いられる重水の貯蔵量が核合意で定められた規定を超えたことを公表した。さらに、12月6日に行われたイラン核合意の当事国(注9)協議において、イランはIAEAによる査察受け入れの一部停止を警告した(注10)

12月27日に米軍が駐留するイラク軍施設がロケット砲による攻撃を受けたことから、29日、米軍はイラクにあるカタイブ・ヒズボラの拠点を空爆し、31日には空爆に抗議するシーア派の群衆・民兵により在イラク米大使館が襲撃された。20年1月2日、米軍は、過去数か月のイラクの米軍施設への攻撃指揮や米大使館襲撃の承認を行ったとして、イラン革命防衛隊のソレイマニ司令官を空爆で殺害した。これを受けて、イランのハメネイ師がアメリカへの報復攻撃を警告する一方、アメリカのトランプ大統領はイランがアメリカ人やアメリカの資産を攻撃した場合のイランに対する追加攻撃を警告するなど、緊張が高まった。イランは、5日にウラン濃縮に関する一切の制限を撤廃することを表明したほか、7日に司令官殺害の対抗措置を採る方針を表明し、弾道ミサイルによる在イラク米軍基地への攻撃を実施するなどしたことから、アメリカとイランの間のさらなる武力衝突も懸念された。しかしながら、8日にトランプ大統領がイランに対する追加経済制裁を表明する一方で、軍事力の行使を否定し、報復攻撃に慎重な立場を示したことから、さらなる武力衝突という事態には至らなかった。

(注1)20年2月現在、OPEC13か国(エクアドルは20年1月に脱退)、非OPEC10か国の合計23か国。

(注2)内閣府(2019)を参照。

(注3)19年8月のサウジアラビアの原油生産量は日量975万バレルであった。

(注4)18年時点で、アメリカは石油生産量世界1位、石油輸出額世界8位、石油輸入額世界2位となっている。

(注5)減産目標遵守率=(各月の減産量)/(合意された減産量=約120万バレル/日)

(注6)サウジアラビアは、19年12月11日に国内証券取引所において行ったサウジアラムコの新規株式公開を控え、原油価格を支えたかった思惑もあったとの指摘もある。

(注7)ドルの取得等の制裁。16年1月16日、核合意締結と同日に制裁が解除されていた。

(注8)19年7月以降、イランは英国とも対立を深めている。7月4日、英国海兵隊が、EUの制裁(EUは11年5月より、反政府勢力に対する弾圧を行ったシリアに対し経済制裁を科し、原油及び石油製品や武器の輸送等を禁止)に反してシリアに原油を輸送していたとみられるイラン所有のタンカーを拿捕した。これに対し、イランは7月19日、国際的航行規則に従わなかったとして、英国船籍の石油タンカーを拿捕するなど、両国の間で緊張が高まった。こうした状況を受けて、25日には英国政府が、ホルムズ海峡を通過する英国船舶は英国海軍が護衛する旨を公表した。

(注9)イギリス、ドイツ、フランス、ロシア、中国。アメリカは18年5月に離脱。

(注10)その後、イランは一旦IAEAへの協力を継続する旨を表明したが、20年1月19日に英国、ドイツ、フランスが国連による制裁の再開につながる「紛争解決メカニズム(DRM)」を発動したことを受け、再度IAEAへの協力を見直す考えを示している。


1 米中貿易摩擦に関する19年6月までの動きの詳細については、内閣府(2019a)、内閣府(2019b)を参照。
2 USTRが19年5月13日に公表した対象項目リスト案に関し、6月17日まで意見公募が行われ、6月17~25日に意見聴取が実施された。
3 USTRは、健康や安全、国の安全保障等に照らし、特定品目を追加関税の対象から除外する旨についても、併せて公表した。なお、12月13日に米中間で第1段階合意に達したことを受けて、12月15日に実施予定であった追加関税措置は見送られることとなった。
4 品目ベースで、第2弾と約4%、第3弾と6割弱が重複しており、最高で税率は35%となる。
5 その後、第1弾から第3弾の税率引上げ(25%→30%)は10月の米中閣僚級協議の結果を踏まえて見送り、第4弾の税率引上げ(10%→15%)は9月1日に実施されたものの、12月13日に米中間で第1段階合意に達したことを受けて、2月14日以降税率引下げ(15%→7.5%)となった(本節 第1段階合意に至る動き を参照)。
6 中国人民銀行「人民元為替レートは完全に合理的で均衡が採れた水準で基本的安定を保つことが可能(人民元為替レート問題についての中国人民銀行責任者へのインタビュー)」(19年8月5日)。具体的には、「アメリカの一国主義と保護貿易主義及び対中追加関税予想等の影響を受けて、1ドル=7元を突破したが、バスケット通貨に対しては引き続き安定と堅調を維持しており、市場の需給と国際為替市場の変動を反映したものである。」、「過去20年の人民元為替レートの変化をみると、1ドル=8元台だった時もあれば、7元台や6元台だった時もあり、再び7元台に戻ったということである。」などと述べた。
7 1988年包括通商競争力法において、各国が、国際収支の効果的な調整を阻害したり、国際貿易における不公正な競争上の優位を獲得したりすることを目的に、自国通貨と米ドルとの為替レートを操作しているかについて、財務長官が検討しなければならないとされているが、その明確な基準は示されていない。なお、オバマ政権時代に成立した「2015年貿易円滑化・貿易執行法(The Trade Facilitation and Trade Enforcement Act of 2015)」においては、為替操作国の認定に当たり、(1)大幅な対米貿易黒字、(2)実質的な経常黒字、(3)持続的かつ一方的な為替市場への介入という3つの基準が示されている。19年5月にアメリカ財務省が公表した「為替政策報告書」において、それら3つの基準について、(1)対米財貿易黒字が200億ドル以上、(2)経常収支黒字の対GDP比が2%以上、(3)過去12か月間に6か月以上為替介入が実施され、介入総額の対GDP比が2%以上と定量化されており、同報告書では、中国は(1)の基準にのみ該当するとされていた。
8 アメリカ財務省は、中国に対し、為替レートや外貨準備高に関する透明性の向上を引き続き促すとともに、IMFとも協調し、中国の直近の措置が作り出した不公正な競争上の優位を是正することとしているが、是正がなされなかった場合の制裁の内容については明示されていない。なお、2015年貿易円滑化・貿易執行法においては、上記脚注7の(1)~(3)に該当する国について、アメリカと当該国とで二国間交渉を開始して1年が経過しても当該国により是正措置が採られない場合には、当該国に対し、海外民間投資会社による新規融資等の禁止や、連邦政府の当該国からの財・サービスの調達・契約停止の禁止といった制裁措置を1つ以上課さなければならないとしている。
9 監視リストに挙げられた国は、少なくとも向こう2回分の報告書において対象国として取り上げられることとなる。20年1月の報告書においては、中国の他、日本、韓国、ドイツなど、計10か国が監視リストに上げられている。
10 その後、20年2月4日、アメリカ商務省は、外国政府による為替操作を特定企業への補助金とみなし、輸入品に相殺関税を課すことができる規則を公表した(20年4月6日より施行予定)。
11 ファーウェイ等をめぐる動きに加え、アメリカ政府は、中国政府によるウイグル人弾圧を理由として、19年10月7日、ハイクビジョン、ダーファや、自治区政府の公安部門など、28団体・企業をエンティティー・リストに追加したほか、10月8日には、同じく中国政府によるウイグル人弾圧を理由として、中国政府高官や中国共産党幹部への査証発給を制限する旨を公表した。
12 大統領令「情報通信技術及びサービスのサプライチェーンの保護」は、国家安全保障等に対する容認できないリスクなどをもたらす取引を禁止する権限を商務長官に委任するもの。商務長官は、150日以内に関係機関の長と協議の上、詳細な規則を公表することとされた。国際緊急経済権限法(International Emergency Economic Powers Act)等を根拠とする。
13 意見公募期間は当初、19年12月27日までの30日間とされていたが、その後、20年1月10日までに延長された。
14 19年11月20日、商務省は、ファーウェイへの輸出許可を申請した企業に対して審査結果の伝達を開始した旨を発表した。エンティティー・リストには引き続き掲載されるものの、一部の企業においてファーウェイへの輸出が許可されたとみられる。
15 具体的には、19年8月19日に一部取引の猶予期間を90日間延長(11月18日まで)、11月18日に90日間再延長し(19年2月16日まで)、20年2月13日には更に45日間延長した(4月1日まで)。
16 延期に関して、トランプ大統領は、中国が10月1日に建国70周年の記念日を迎えるに当たっての善意の意思表示であると述べている。
17 トランプ大統領は、第1段階合意に署名がなされた後に、第2段階の交渉を開始する旨を発言し、さらに、第3段階の交渉もあり得る点について含みを持たせた。
18 香港の「一国二制度」が機能しているかについて米政府に毎年の検証を義務付け、「一国二制度」が損なわれている場合に、(1)香港に対し中国とは別に特別に付与している関税や査証発給等の優遇措置の停止、(2)「一国二制度」を損なう中国政府関係者に対する制裁の発動を可能とする法律。
19 米中首脳会談後の18年12月14日、中国は、アメリカから輸入する自動車及び同部品への追加関税(第1弾の全てと第2弾及び第3弾の一部)を19年1~3月の間停止することとし、19年3月末に4月以降も同措置を継続することを公表していたが、8月23日に、12月15日から追加関税を再開することを公表していた。
20 09年のギリシャ財政危機に端を発した欧州政府債務危機は、11年後半以降、イタリアやスペインに波及するなど深刻化した。ヨーロッパ諸国の内需の低迷は中国を始めとするアジア諸国の輸出を減少させ、さらに12年半ば以降は、アメリカでも企業マインドの悪化から設備投資が減少に転じるなど広がりを見せるようになった(内閣府(2012a)、内閣府(2012b)を参照)。
21 11年8月から12年4月はユーロ圏と中国の2地域が、12年5月から12年11月は3地域が、12年12月から13年3月はアメリカとユーロ圏の2地域が、それぞれ景気下降局面の期間。
22 中国では12年以降、消費主導型経済に向けた取組を進める中で、政府の成長率目標が段階的に引き下げられる一方、14年11月の金融緩和策等から上海総合株価指数が15年半ばにかけて急激に上昇するなど、バブル的状況が生じていた。同株価指数は、中国政府による投機的投資の抑制を契機に6月に大幅に下落した後、8月の人民元切下げを受けて再度大幅に下落、世界的な株安にまで波及した。なお、世界的な株安の背景には、14年後半以降のアメリカのシェールオイルの増産を受けた原油価格の大幅な下落もあったことが指摘されているが、アメリカでは、この時期の原油価格の下落が鉱工業生産全体の減少につながり、さらには設備投資全体の大きな下押し要因にもなった(内閣府(2015a)、内閣府(2015b)、内閣府(2016)を参照)。
23 15年5月から16年8月はアメリカと中国の2地域が、景気下降局面の期間。
24 18年8月から19年3月はアメリカと中国の2地域が、19年4月以降は、3地域が、それぞれ景気下降局面の期間。
25 非常に短い期間(14年1月~2月)については対象外とした。
26 OECDの景気先行指数において、アメリカ、ユーロ圏、中国の3地域とも景気下降局面となっている期間は19年4月以降11月までで8か月となっている(欧州政府債務危機後の局面は12年5~11月の7か月)。
27 第2章第2節2.中国経済の見通しと主なリスク要因 を参照。
28 IMFの多国間マクロ経済モデルであるGIMF(Global Integrated Monetary and Fiscal model)を利用。
29 世界経済見通し(19年10月)公表時の記者会見において言及。
30 英国立経済社会研究所(NIESR)のNiGEM (National institute Global Macro Econometric Model)を利用。
31 世界貿易不確実性指数(World Trade Uncertainty Index)は、Economist Intelligence Unit (EIU) の四半期ごとの国別報告書において、貿易に関連する単語の近くで不確実性について言及された頻度等に基づき、世界貿易の不確実性を数値化したもので、数値が高いほど不確実性が高いことを示す。Economic Policy Uncertaintyホームページ(http://www.policyuncertainty.com)を参照。
32 輸出入額は、断りのない限り全てドルベース。
33 ベトナムでは、税関総局が、19年6月9日、アメリカの対中制裁の余波を避けるため、一部の中国製品が「ベトナム製」と偽ってアメリカに輸出されているとして、取り締まりを強化することを表明したとされる(19年7月16日ジェトロ「ビジネス短信」による)。
34 中国では、通常の貿易(一般貿易)のほかに、原材料・部品を輸入して国内で加工し、海外に再輸出する加工貿易が大きな位置を占めている(輸入では、18年で全体の22%)。
35 液化天然ガスについては、18年9月24日時点では10%、19年6月以降は25%の追加関税が賦課されている。
36 潤滑油については、18年9月24日時点では10%、19年6月以降は25%の追加関税が賦課されたが、同9月17日から1年間は適用除外となっている。
37 18年12月1日の米中首脳会談を受け、19年1~3月の間、自動車及び同部品に対して発動されていた追加関税措置の一部(第1弾の全てと第2弾及び第3弾の一部)が暫定的に停止され、3月末に4月以降も同措置が継続されることが公表された。なお、8月23日に、12月15日から追加関税を再開することを公表したが、アメリカとの「第1段階」の合意を受け、12月15日に再開の見送りが発表された。
38 第2章第2節 中国経済 を参照。
39 18年の植物性製品の輸入金額のうち、大豆が61%を占める。大豆については25%の追加関税が賦課されている。
40 「米中貿易摩擦の影響を受けている」、「中国大陸に投資して2年以上経過している」など、一定条件を満たした台湾企業に対して、申請に基づき、低利率での融資や土地確保の支援といった優遇措置を実施。
41 UNCTAD(2019)
42 ユーロ圏の名目GDPに占める主要参加国のシェア(18年)は、ドイツで29.2%、フランスで20.3%、イタリアで15.2%、スペインで10.4%。
43 その他の主要国について、フランスでは20.9%、イタリアでは26.3%、スペインでは23.7%である。
44 機械類には機械設備投資用の器材や部品が含まれる。また、輸送用機器類には自動車やエンジン、部品が含まれる。
45 ドイツにおけるグローバル・バリュー・チェーンの進展については内閣府(2017)を参照。
46 ブルウィップ効果と呼ばれる現象。同効果については内閣府(2019)を参照。
47 例えば、物流・在庫管理、コンサルティング、会計監査、法務などの企業向け専門サービスが挙げられる。
48 ISM製造業(非製造業)景況指数は、製造業(非製造業)の購買・供給担当者に対する調査を基に作成される月次の景況感指数。製造業総合指数は、「生産・新規受注・入荷遅延・雇用・在庫」の5項目につき、「先月に比べて良い・同じ・悪い」の回答結果を基に算出される。非製造業総合指数は、「事業活動・新規受注・雇用・入荷遅延」の4項目につき同様に算出される。
49 19年9月、10月の製造業の生産低下の背景には、ボーイング社の新型機が運航停止処分となったことを受け出荷停止が続いていることや、大手自動車メーカーのストライキといった一時的な要因もあると考えられる。これらの詳細については第2章第1節 アメリカ経済 を参照。
50 設備投資が減少している要因としては、世界経済の減速や貿易政策の不確実性以外にも、ボーイング社の新型機が運航停止処分となったことを受け出荷停止が続いていることや、原油価格の下落により鉱業関連投資が減少していることなどがある。これらの詳細については第2章第1節 アメリカ経済 を参照。
51 19年10月の製造業雇用者数の減少の要因としては、大手自動車メーカーのストライキといった一時的な要因もあると考えられる。この詳細については第2章第1節 アメリカ経済 を参照。
52 ユーロ圏の主要国におけるGDPに占める製造業のウェイト(2018年)は、ドイツで22.7%、フランスで10.9%、イタリアで16.8%、スペインで12.4%である。
53 IMF(2019a)は、17年から18年にかけて世界の財・サービス輸出は1.6%低下したが、そのうち0.5%分の低下は自動車部品等の中間財への波及も含めた自動車関連製品の輸出の低下によるものと試算している。
54 ドイツの機械設備投資には公的部門によるものが含まれている。欧州委員会(2019)によると、19年4~6月期にドイツの一般政府部門で巨額の輸送機器関連の設備投資が実施されており、同時期の機械設備投資の統計値が上振れしていることが指摘されている。
55 ドイツにおける供給制約については内閣府(2019)参照。
56 WLTP(World harmonized Light vehicles Test Procedure)。内閣府(2019)を参照。
57 アメリカ経済において製造業が占める割合は、GDPベース、雇用者数ベースともに10%程度。
58 米中貿易摩擦以外のアメリカの通商政策については、第2章第1節 アメリカ経済 を参照。
59 19年後半の原油価格の動向については、第1章コラム1-1 2019年後半以降の原油市場 を参照。
60 第2章第1節2.アメリカ経済の見通しと主なリスク要因 を参照。

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