第1章 米中貿易摩擦と高付加価値化が進む中国経済(第3節)
第3節 中国輸出の高付加価値化
前節でみたように、米中貿易摩擦の影響はこれまでのところ比較的に限定的なものにとどまっている。しかしながら、アメリカと中国はGDP及び輸出入で世界第1位、第2位の地位を占める大国であることに加え、グローバル・バリュー・チェーン(GVC: Global Value Chain)51の進展により、輸出入を通じた各国経済への影響は、GVCの進展以前よりも大きく波及すると考えられ、今後の動向には注視が必要である。本節ではまず、基本的な貿易統計によりアメリカと中国の貿易構造の変化を概観した上で、付加価値貿易統計からみた世界全体のGVCの状況とアメリカや中国の位置付けの変化を確認し、米中間の貿易摩擦の観点から、こうした変化の含意について考察する。
1.アメリカ・中国の貿易構造の変化
(WTO加盟後の中国の貿易の拡大)
中国の貿易量は、01年のWTO加盟後、急速に拡大している。輸出金額では08年にアメリカを、09年にドイツを超えて世界第1位となり、輸入金額でも09年にドイツを抜き、アメリカに次ぐ世界第2位となっている(第1-3-1図、第1-3-2図)。この間、貿易収支も黒字が急拡大し、黒字幅は、2000年の241億ドルから、ピークである15年には5,939億ドルに達した。貿易黒字の大半は引き続き対アメリカや対EUで占められている52(第1-3-3図)。なお、アメリカの貿易収支赤字に占める対中赤字のシェアは、2000年には20%程度であったが、17年には約50%程度にまで上昇している(第1-3-4図)。
(輸出構造の変化)
この間の中国の輸出構造の変化を品目別にみると、労働集約型から高付加価値品目への変化がみられる。2000年には、繊維製品や玩具が最大の輸出品目であったが、03年には一般機械、電気機器がそれらのシェアを上回り、特に電気機器は16年に約4分の1のシェアを占めるに至っている(第1-3-5図)。生産段階別にみると、中国はGVCの下流から上流へと変化しているとみられ、2000年には、消費財が最大の輸出品目であったが、中間財、資本財のシェアが高まっており、06年に中間財が、12年に資本財が消費財を上回っている(第1-3-6図)。アメリカについては2000年以降、品目別にみるとシェールオイルの増産等を背景として原油・石炭類の割合が増加しているが、生産段階別にみれば、中間財が60%台、その他が20%以下で期間を通じて推移しており、大きな構造変化はみられない(第1-3-7図、第1-3-8図)。
(中国における加工貿易のシェアの低下)
中国の輸出を企業形態別にみると、2000年以降の輸出拡大を主にけん引したのは、外資企業であり、05年には、輸出に占める外資企業のシェアは約6割に達した。その後、私営企業のシェアも高まり、17年にはほぼ同等のシェアとなったが、なお、外資企業が4割強を占めている(第1-3-9図)。また、輸入においても、外資企業が約5割を占めている。これは中国において、原材料・部品を輸入して国内で加工し、海外に再輸出する加工貿易が大きな位置を占めてきたことが背景にある53。加工貿易を行う企業には輸入した原材料・部品等に対する輸入関税や増値税の免除等の優遇措置が与えられ、そうした措置が外資企業の対中投資拡大に大きな役割を果たしたとされる。ただし、06年以降、加工貿易制度の見直し54が進められたことから、05年に輸出の55%を占めていた加工貿易のシェアは、18年には32%まで低下している(第1-3-10図)。
(輸入構造の変化)
中国の輸入をみると、一般貿易(加工貿易以外の通常の貿易)のシェアも高まっており、17年時点で約6割を占めている。この背景としては、中国の経済成長やそれに伴う所得向上に加え、貿易政策が輸出促進のみならず輸入の拡大も重視するものに変化してきていることもあるとみられる。例えば、第12次5か年計画(2011~15年)においては、「輸出の質的向上を図るとともに、輸入について、マクロ経済の均衡と構造調整に対する重要な役割を発揮させ、貿易収支構造を最適化する」としている。
輸入構造の変化を品目別にみると、輸出においてシェアを高めている電気機器や一般機器は、輸入におけるシェアを低下させている(第1-3-11図)。また、生産段階別にみると、輸出でシェアを高めている中間財、資本財は、輸入ではシェアを低下させ、代わりに消費財のシェアが高まっている(第1-3-12図)。この背景としては、中間財や資本財の内製化が進展していることが考えられる。なお、原材料については、15年以降減少しているが、内訳としては、主に原油・石炭類が大きく減少しており、原油価格が14年半ば頃まで高騰した後に低下に転じた影響も考えられる。
アメリカについてはシェールオイルの増産等を背景に12年以降、石油・石炭類及び原材料の輸入が減少している様子がみられるが、その他の分類では特段大きな変化はみられない(第1-3-13図、第1-3-14図)。
2.グローバル・バリュー・チェーンにおける中国の位置付けの変化
前項では、基本的な貿易統計によりアメリカと中国の貿易構造の変化を概観した。ここでは、グローバル・バリュー・チェーン(GVC)が進展していることから、付加価値貿易に関する統計を用いて貿易構造の変化や貿易を通じた波及経路を把握する。具体的には、世界全体のGVCの進展状況と、米中を中心とする主要国のGVCにおける位置付けの変化を確認し、さらにGVCの観点から米中間の貿易摩擦が他の国・地域に与える影響について考察する。
(1)世界のGVCの進展と停滞
はじめに、本節でみていく付加価値貿易の概念を概観した上で、世界全体のGVCの進展の状況をみていく。
(付加価値貿易統計とは)
通常の貿易統計では、当該国から輸出又は輸入された財・サービスについて、その国で創出された付加価値のみではなく、他国の付加価値も含めた全体が計上されている。例えば、ある国から輸出される財・サービスの中には、当該国以外から輸入した中間財・サービスを用いて生産されている部分もあるが、通常の貿易統計では、その中間財・サービスも含め、全て当該国からの輸出に計上されている。そのため、統計上、中間財・サービスが重複して計上される「二重計上(double count)」が存在する。GVCが進展した世界ではこの重複が何回も繰り返され、二重計上分が拡大する。
第1-3-15図の例でみると、A国で創出されB国へ輸出された付加価値「a」(=A国の総輸出55(gross exports)「a」)は、貿易統計上、B国からC国への総輸出としても計上され、更にC国からD国、D国からE国への総輸出にも複数回計上されている。
付加価値貿易統計は、こうした二重計上分を取り除き、各国で創出された付加価値のみを捉えたものである。輸出又は輸入された財・サービス全体ではなく、その付加価値部分に着目することにより、GVCの状況を分析することが可能になる56。ただし、付加価値貿易統計でも捉えきれないGVCの側面がある点には留意が必要である57。
(世界全体のGVCの進展と世界金融危機後の停滞)
前述の通り通常の貿易統計では、ある国で生産された財が他国の輸出財に含まれる形で再輸出された場合、貿易統計上、その財は世界全体でみると二重計上される。このことを考慮すると、GVCが進展するほど、総輸出と付加価値輸出の差(二重計上分)が拡大することとなる58。
第1-3-16図は、世界全体の総輸出と付加価値輸出の金額とその差の付加価値輸出額に対する割合を示している。90年以降、総輸出と付加価値輸出の差として表れる世界的なGVCは進展を続けていたが、08年の世界金融危機を契機に両者の差は横ばいから縮小に転じており、GVCの進展はこのところ停滞しているといえる。
GVCの進展は、付加価値輸出(VAX:Value-Added in eXports)の総輸出に対する比率(VAX比率:Ratio of VAX to Gross Exports)によってもみることができる59。VAX比率の分母には二重計上分が含まれるため、GVCの進展はVAX比率の低下となって表れる。
世界全体のVAX比率を確認すると、1990年以降、世界金融危機まではほぼ一貫して低下しており、GVCは進展を続けていた。しかしながら、世界金融危機後の「貿易大崩壊(Great Trade Collapse)」は、ブルウィップ効果により、特にGVCを経由する中間財貿易の大幅な落ち込みとして表れた60。GVCを経由する中間財貿易の多くは、貿易統計における二重計上分を多く含むため、VAX比率は大きく上昇し、その後、世界貿易の回復とともに再び世界金融危機前に近い水準まで戻した。しかしながら、12年頃から上昇傾向に転じており、16年以降もおおむね横ばいで推移するなど、GVCの進展は世界金融危機後に停滞している(第1-3-17図)。
なお、付加価値貿易統計は、複数の国際機関から提供されている。代表的なものとしては、UNCTAD-Eora GVC Database、OECD-WTO Trade in Value Added(TiVA)Database、World Input-Output Database(WIOD)がある。それぞれカバーする国や期間、推計方法等が異なるため、各データベースから算出される世界全体のVAX比率の大きさには違いがみられるものの、世界金融危機前までGVCが進展し、その後に進展が停滞するという大まかな傾向は、いずれのデータベースでも同様である(第1-3-18図)。また、UNCTAD-Eora GVC DatabaseとOECD-WTO TiVA Databaseでは、12年を境にVAX比率が上昇傾向(GVCの進展が後退)にある点も共通している。本節では、最も幅広い国と期間をカバーしているUNCTAD-Eora GVC Databaseを中心に、必要に応じてOECD-WTO TiVA DatabaseやWIODも併せて活用し、アメリカ・中国を中心にGVCの動向や貿易構造についての考察を行う。
(2)国別の付加価値貿易動向
世界全体のGVCの進展が近年停滞する中、GVCの中における各国の位置付けには変化がみられる。以下では、中国を中心としてGVCへの参加のこれまでの傾向と変化を確認していきたい。
(国別VAX比率)
主要国の付加価値貿易を国別VAX比率でみると、国により大きな違いがみられる。国ごとの差は、1人当たり所得といった経済発展の度合いではなく、貿易構造に依存するとされる。セクター別のVAX比率は、一般に、製造業で低く、農業や資源、サービス業で高い傾向にあるが、これは、製造業では他のセクターからの投入に依存する部分が大きいためである。そのため、国別のVAX比率は、製造業を輸出セクターの中心とする国で低くなるとされる61。
主要先進国(アメリカ、ドイツ、日本)のVAX比率をみると、18年はアメリカで87%と最も高く、次いで日本が79%と8~9割を占める一方、中欧諸国等へのオフショアリングが進んでいるドイツでは64%と大幅に低くなっている62。時系列の変化をみると、90年以降、いずれの国でもVAX比率は低下傾向にあり、特に2000年以降大きく低下している。アメリカとドイツでは、10年以降はGVCの進展が停滞またはやや後退(VAX比率が上昇)している(第1-3-19図)。
中国では、世界金融危機までは、他の先進国を上回るスピードでVAX比率が低下傾向にあったが、世界全体のVAX比率と同様に、12年を境に顕著に上昇している(第1-3-19図)。輸出に占める自国付加価値の比率の高まりは、輸出産業の生産活動において海外からの中間財輸入への依存度が低下している可能性を示唆している。世界全体のVAX比率と同様の動きとなっていることからは、世界のGVCの進展をリードしてきた中国が、現在は世界全体のGVCの進展の停滞をもたらしていることもうかがえる。
日本と中国を除くアジアのうち、韓国、台湾、ASEANでは、VAX比率はおおむね6~7割であり、多くの先進国と比較して海外からの付加価値に依存している割合が高い。韓国では中国ほどではないものの、2010年代にVAX比率が上昇に転じている。台湾とASEANでは、2000年代以降、VAX比率は緩やかな上昇傾向にある。これらの国・地域では、GVCへの依存を深めるのではなく、必要な中間財を自国で生産する方向に進んでいると考えられる。インドでは、VAX比率が高水準であることから、輸出産業の他国からの輸入に対する依存度が低くなっていることがうかがえる(第1-3-19図)。
中国のVAX比率が16年時点でアメリカのVAX比率を上回っているか否かといった水準の議論に関しては、データベースにより結果が異なる面もあり、留意が必要である。第1-3-19図では、中国のVAX比率が16年にわずかながらアメリカのVAX比率を超す形となっているが、OECD-WTO TiVA Databaseを用いて作成した第1-3-20図では、16年においても中国のVAX比率がアメリカのVAX比率を超える状況にはなっていない。その要因としては、中国で活発に行われている加工貿易に関する処理の方法の違いが挙げられる63。ただし、中国のVAX比率が世界金融危機後にほぼ一貫して上昇傾向にあることや、他の国においても2010年代にGVCの停滞や後退がみられることは、いずれのデータベースでも確認できる傾向である。
次に、アメリカと中国からの個別輸出品目について、VAX比率(それぞれの製品の総輸出のうち、自国が創出した付加価値の割合)の変化をみていく。アメリカの主要な輸出品目のうち、アメリカから輸出される自動車と半導体等のVAX比率をみると、いずれも2000年代には低下し、10年以降はほぼ横ばいとなっている。10年までは海外から中間財の輸入を増加させていたが、10年以降、その動きは停滞しているといえる(第1-3-21図)。
中国の主要な輸出品目のうち、コンピュータと衣服のVAX比率を確認すると、中国から輸出される衣服のVAX比率は2000年以降、85%前後で安定している。一方でコンピュータのVAX比率は、衣服よりも水準は低いものの、2000年の53%から15年には67%まで上昇しており、特に10年以降の上昇幅が大きい(第1-3-22図)。第1-3-19図でみた通り、中国全体のVAX比率は12年以降顕著に上昇しているが、その背景には、中国が産業の高度化を進める中で、コンピュータ等の高付加価値品の生産で使用する中間財について、徐々に輸入品から自国生産のものへと切り替えつつあることがあると考えられる。
(最終組立地としての中国の役割)
本節冒頭で確認したように、中国では、2000年代半ばまで加工貿易による輸出が輸出の5割以上を占めるなど、世界における製品の最終組立地として大きな役割を担ってきた。しかしながら、世界金融危機以降、輸出に占める自国の付加価値を高めていることから、この役割も変化している可能性がある。ここでは、加工組立輸出の動向を捉えるため、中間財の付加価値輸出の動向を捉える指標である生産最終段階VAX(VAX-P: VAX for final stage production)64を取り上げ、中国の最終組立地としての役割の変化を確認する。
VAX-Pは、輸出された国内付加価値のうち、海外で最終財の生産に使われた付加価値額を示す。第1-3-23図でみると、A国で創出された付加価値「a1」「a2」「a3」のうち、「a1」及び「a2」はB国へ輸出された後、C国及びD国で最終財生産に使用されているが、「a3」はA国内で最終財の生産に使われて、B国へ輸出された後、B国内で国内消費されている(若しくは国内投資に用いられている)。この場合、A国のC国及びD国に対するVAX-Pはそれぞれ、「a1」及び「a2」となり、A国のVAX-Pはその合計である「a1+a2」となる。A国の付加価値輸出額(VAX)は「a1+a2+a3」であるが、国内で最終財の生産に用いられた「a3」はVAX-Pには含まれない。
このように、VAX-Pは当該国の付加価値輸出のうち、中間財の付加価値輸出のみを捉え、最終財の付加価値輸出は含まれない。例えば、中国からアメリカへの輸出のうち、中国がアメリカへ最終財としての家具を輸出した場合は中国のアメリカに対するVAX-Pとして計上されないが、中国がアメリカへ電子部品を輸出し、アメリカがその部品を使って最終財としてのコンピュータを製造した場合には、中国のアメリカに対するVAX-Pに計上される。
以下では、VAX-Pの付加価値輸出額(VAX)に対する割合を示すVAX-P対VAX比をみていく。上述のとおり、VAX-Pは中間財の付加価値輸出のみを捉えた指標であるため、付加価値輸出において最終財の付加価値輸出の割合が高い国ほど、VAX-P対VAX比は低くなる。
国別のVAX-P対VAX比をみると入手できる最新値である14年時点で、中国では47%と、アメリカ、ドイツ、日本、韓国、台湾と比較して低いものとなっている65(第1-3-24図)。このことは、中国では、付加価値輸出に占める最終財付加価値輸出の割合がこれらの国と比較して高いことを示しており、中国が引き続きGVCの中で製品の最終組立地として機能していることを示唆している。
VAX-P対VAX比が最も低かった中国について時系列の推移をみると、世界金融危機後、引き続き50%以下という比較的低い水準にとどまってはいるものの、上昇傾向にある。このことは、中国の付加価値輸出に占める最終製品輸出の割合の減少傾向を示している(第1-3-25図)。
中国のアメリカ、日本、ドイツに対するVAX-P対VAX比をみると(第1-3-26図)、いずれの国に対しても50%を下回っており、中国からの輸出の過半が最終製品の輸出であることが確認できる。つまり、中国はアメリカ、ドイツ及び日本にとって引き続き製品の最終組立地としての役割を担っている。ただし、その時系列の変化をみると、日本との関係ではおおむね横ばいの傾向にあるものの、アメリカやドイツとの関係では、2000年代後半から緩やかな上昇傾向にあり、中国が両国に対して、中間財の付加価値輸出を増加させていることが分かる。このことは、アメリカやドイツから世界への輸出品に含まれる中国の付加価値の高まりを意味しており、両国の輸出産業が中国からの輸入に支えられる側面が徐々に強まっていることを示唆している。
(アメリカ、中国、ドイツ、日本のGVCへの参加状況)
GVCへの参加には二つの側面がある(第1-3-27図)。一つは、自国の輸出財に含まれる海外からの付加価値という側面である。これは、自国が国外から中間投入の提供を受けて財を輸出していることを意味し、GVCの「後方への参加(backward participation)」と呼ばれる。例えば、ドイツが東欧諸国から部品を輸入し、自動車を輸出している場合、部品の輸入はドイツのGVCへの後方参加にあたる。もう一つは、他国の輸出財に含まれる自国の付加価値という側面である。これは、第三国の輸出に自国が中間投入を提供する形での参加であり、GVCの「前方への参加(forward participation)」呼ばれる。例えば、韓国が電子部品を中国に輸出し、中国がその電子部品を用いて自国でスマートフォンを生産し、それを輸出している場合、韓国の電子部品の輸出は韓国のGVCへの前方参加にあたる。
これらのGVCへの参加の二つの側面をみることで、国外からの中間投入の使用者としてのGVCへの参加(後方への参加)と、自国外への中間投入の供給者としてのGVCへの参加(前方への参加)を包括的に確認することができる66。自国の輸出に含まれる国外からの付加価値(国外から輸入した中間投入)の総輸出に占める割合は「後方への参加率」、第三国の輸出に含まれる自国の付加価値(自国が輸出した中間投入)の自国の総輸出に占める割合は「前方への参加率」を表し、前方への参加率と後方への参加率の合計は、GVC参加率(GVC participation rate)と呼ばれる67。
第1-3-27図の例でみると、C国の「後方への参加率」は他国からの付加価値輸入による中間投入(「a+b」)が自国の付加価値輸出(「a+b+c1+c2」)に占める割合として算出される。一方、C国の「前方への参加率」は、自国の付加価値輸出による中間投入(「c2」)が自国の付加価値輸出に占める割合として算出される。なお、この例では、D国に輸出されたC国の付加価値「c1」及び「c2」のうち、「c1」は、D国において国内消費される(若しくは国内投資に用いられる)としているため、自国の付加価値輸出による中間投入にはあたらないものとなる。
アメリカ、中国、ドイツ、日本のGVC参加率を比較すると(第1-3-28図)、いずれの国においても95年以降、GVC参加率が上昇する傾向がみられたが、10年頃を境におおむね横ばい又はやや下落している。VAX比率でみた場合と同じく、世界的にGVCの進展が停滞またはやや後退している様子が確認できる。
アメリカについては、同国の輸出において半導体等高付加価値品目のシェアが高いことを反映して前方への参加率が比較的高い。ただし、後方への参加率も徐々に高まっており、自動車産業等においてメキシコ等周辺国へのオフショアリングが進んでいることが背景にあると考えられる68。
中国については、アメリカよりも後方への参加率が高いものとなっているが69、10年から18年にかけては、前方への参加率が高まる一方、後方への参加率は低下している。これまでみたように、中国では世界金融危機後に高付加価値品の生産で利用される中間財輸出を増やしているとみられ、そうした傾向を反映したものと思われる。
ドイツでは、4か国中、後方への参加率が最も高くなっているが、これは同国が中東欧諸国等へのオフショアリングを進め、欧州域内で生産工程を分散させていることが背景にあると考えられる70。日本については、アメリカと同様に前方への参加率が後方への参加率に比べて高かったが、近年は後方への参加率も高まっており、オフショアリングを活用している様子がうかがえる。
(3)貿易弾性値の変化にみる中国輸出の高付加価値化
米中貿易摩擦が米中両国の輸出に与える影響は、貿易弾性値(輸出(輸入)の価格弾性値および所得弾性値)の大きさに依存するが、これまでみてきたようなGVCへの参加状況の変化は、両国の貿易弾性値を変化させてきた可能性がある。以下では、両国の貿易弾性値の変化を確認し、米中貿易摩擦が両国の輸出に与える影響、また両国の輸出構造の変化について考察する。
(GVCへの参加と貿易弾性値)
追加関税措置の目的は、輸入品(追加関税措置を課された国にとっての輸出品)に対する関税率を引き上げることで、当該輸入品の国内販売価格を高め、その価格競争力を低下させることにある。追加関税措置を課された国は、輸出が減少すればその分、経済にマイナスの影響を受けることになる。ある国の輸出が価格要因によってどの程度変化するかは、輸出の価格弾性値(輸出価格が1%変化したときに輸出が何%変化するか)71を推計することによって知ることができるが、この値はGVCへの参加状況等輸出構造によって変化すると考えられる。輸出は海外の需要要因にも影響を受けるが、その影響の受けやすさを示す輸出の所得弾性値(海外需要(所得)が1%変化したときに輸出が何%変化するか)も、GVCへの参加状況等輸出構造によって変化すると考えられる。
前項では、アメリカと中国がともにGVCへの参加を進めてきたこと、中国ではアメリカに比べて後方への参加を中心としてきたが、世界金融危機後の2010年代以降は前方への参加も進めていること、を確認した。こうした動きは貿易弾性値の変化としても表れると考えられる。
一般に、GVCへの参加の進展は、輸出の価格(為替)弾性値を低下させ、所得弾性値を高めるとされる。価格弾性値の低下は、特に後方への参加の場合に、例えば自国通貨の減価が国外からの中間投入を輸入する際のコスト増要因となり、自国通貨安による価格競争力の高まりが一部減殺される72場合に生じると考えられている。また、所得弾性値の上昇は、サプライチェーン上の企業の在庫調整活動によって、海外需要の変動が輸出に与える影響が増幅されるブルウィップ効果によって生じると考えられている73。
この他にも、GVCの進展により所得弾性値の高い耐久財が輸出品目に占める割合が高まることで所得弾性値が高まる、といった構成効果(Composition Effect)の存在が指摘されている74ほか、高付加価値品ほど所得弾性値は大きく、価格弾性値は小さいことから、輸出品目構成に着目すべき、との指摘もある75。したがって、特に国別にGVCの進展が貿易弾性値に与える影響をみる場合は、その進展が比較的高付加価値品の輸出の割合を高める前方への参加を中心にしたものかどうかなど、当該国のGVCへの参加状況等を総合的に評価する必要がある。
GVCの進展と貿易弾性値の変化に関する先行研究の多くは、クロスカントリーデータを使ったものが多く、国別の前方・後方への参加状況との関係を考慮したものは少ないが、中国におけるGVCの進展と輸出の貿易弾性値の関係をみた先行研究として、Gangnes et al.(2014)、Kruger et al.(2017)がある。Gangnes et al.(2014)は中国の耐久財輸出の所得弾性値が高いことを示し、GVCの進展が所得弾性値を高めた可能性、すなわち構成効果が支持される可能性を主張したものであるが、所得弾性値そのものの時系列変化を捉えたものではない。また、Kruger et al.(2017)は02~11年期から07~16年期にかけての価格弾性値の低下を報告76しているものであるが、上述したような2010年代以降の中国におけるGVCへの参加状況の変化が価格弾性値に与えた影響を必ずしも捉えられていない。このため、以下ではアメリカと中国における輸出の貿易弾性値の時系列変化を推計し、米中間相互の追加関税措置の効果と時系列変化の背景について考察を試みる。
(米中輸出の貿易弾性値の時系列変化)
ここでは、時変ベクトル自己回帰(TVP-VAR: Time-Varying Parameter)モデル77を用いて、アメリカと中国における輸出の所得弾性値と価格弾性値の時系列変化を推定する。推定には、世界鉱工業生産(海外需要の代理変数、自国鉱工業生産を除いたもの)、実質実効為替レート、輸出の3変数(月次ベース、推定期間は1998年1月~2018年7月)を用いた78。Iwaisako and Nakata(2017)に従い、ショックの識別にあたっては世界鉱工業生産、実質実効為替レート、輸出の順に外生性が高いと仮定し、ラグ数を12とした。輸出の価格弾性値・所得弾性値は、輸出及び実質実効為替レート(価格)あるいは世界鉱工業生産(所得)について、価格あるいは所得へのショックから1年後までの各変数の変化を用いて算出した(第1-3-29図)79。なお、価格弾性値については、所得弾性値と比較しやすくするため、絶対値を示している。
まず、直近のアメリカと中国の輸出の貿易弾性値から、米中間相互の追加関税措置の効果について考察する。米中両国の輸出の価格弾性値を比較すると、中国の方がやや大きい値となっており、仮に全輸出品目に対して米中両国が相互に同率の関税率の引上げを行った場合、中国の対米輸出の方がアメリカの対中輸出に比べて若干減少しやすい可能性がある。また、中国の所得弾性値は、アメリカに比べ相当程度に高いものとなっている。米中貿易摩擦は、先行きの不透明感から世界的な景況感の悪化をもたらしているが、今後、世界経済全体の需要低迷といった事態に至るような場合は、中国の方が輸出の減少につながりやすい構造にあるといえる。
中国は輸出への依存度を近年低下させているが、アメリカと比べると輸出動向が経済に与える影響は引き続き大きい80。加えて、上述の米中輸出の貿易弾性値の推計結果は、中国がアメリカに比べて、貿易摩擦が価格競争力に与える影響や外需の低迷につながった場合の影響をより受けやすい輸出構造を有していることを示唆している。
次に、推定期間中のアメリカと中国の輸出の貿易弾性値の時系列変化をみると、アメリカでは、価格弾性値と所得弾性値はいずれも緩やかな低下傾向にある。前項では、アメリカがGVCにおける後方への参加を徐々に進めていることを確認したが、後方への参加の進展が、自国通貨の変動が中間投入の輸入コストに与える影響を高め、価格弾性値を低下させたと思われる。また、アメリカでは、2000年代に輸送機器業で粗付加価値率が低下したことが知られており、自動車等の輸出品の付加価値が低下し、所得弾性値の低下につながった可能性もある81。なお、2000年代初頭のITバブル崩壊、07年に始まった世界金融危機、12年頃からの世界的な貿易停滞(「スロー・トレード」)の時期に所得弾性値が上昇する傾向もみてとれるが、これらは、外需の変動以上に輸出が変動するブルウィップ効果が表れたものと考えられる。中国については、2000年代後半に、それまでにみられた価格弾性値の上昇と所得弾性値の低下が、価格弾性値の低下と所得弾性値の上昇へと転じていることが確認できるが、これはこの時期に中国が自国の付加価値輸出を高めたことが背景としてあると考えられる。実際、中国の付加価値輸出の総輸出に対する比率(VAX比率)の上昇が一服82したとみられる16年以降については、価格弾性値・所得弾性値とも横ばいの動きとなっている。
3.グローバル・バリュー・チェーンを通じた貿易摩擦の波及可能性
以下では、付加価値貿易統計を用いて、米中間の通商問題の激化によりアメリカと中国の輸出量が減少した場合に、その影響を受けやすいと考えられる国・地域を検証していく。
(アメリカの輸出の付加価値構造)
アメリカの輸出(18年83)のうち、約87%は自国の付加価値、約13%は海外からの付加価値で構成されている。海外からの付加価値の国・地域別シェアをみると、日本、EU、カナダの合計は95年時点では約6割を占めていたが、18年には約45%まで低下しており、新興国の占める割合が高まっている(第1-3-30図)。特に中国は、95年以降急速にシェアを拡大させている。海外からの付加価値に占める中国のシェアは、95年には3%に過ぎなかったが、18年には12%と約4倍に拡大している(第1-3-30図)。このことは、中国がアメリカの輸出品に必要な中間財の供給を増やしていることを意味し、世界における製品の最終組立地から脱却する方向に進んでいるとした前述の分析と整合的である。輸出に占める海外からの付加価値比率自体は低いものの、海外からの付加価値に占める中国のシェアの拡大は、アメリカの輸出産業が中国からの輸入財への依存度を高めていることを意味する。つまり、アメリカの対中輸入に対する関税率引上げのアメリカの輸出産業への影響が年々大きくなっていることが示唆される。
アメリカの輸出品のうち、高付加価値製品において中国の付加価値比率(各製品のアメリカからの総輸出額に占める中国からの付加価値の割合)が高まっているかを確認するため、自動車と半導体等について、中国、日本、ドイツの付加価値比率をみていく。アメリカから輸出される自動車、半導体等ともに、付加価値比率は、2000年以降日本では低下、ドイツではおおむね横ばいである中、中国では急速に伸びている。15年には自動車、半導体ともに中国の付加価値比率が日本とドイツを上回っている(第1-3-31図)。アメリカは高付加価値製品についても、中国からの輸入財・サービスへの依存度を高めているとみられ、仮にアメリカの中国に対する追加関税措置によって、こうした製品の中国の付加価値輸出が減少した場合、アメリカの自動車や半導体等輸出にも影響が及ぶ可能性を示唆している。
次に、アメリカの輸出に付加価値を供給している各国・地域の中で、米中間の通商問題によりアメリカの輸出量が大きく減少した場合に受ける影響が大きいとみられる国を検証するため、アメリカの輸出に占める海外からの付加価値の対各国・地域GDP比をみていく。各国・地域の対GDP比をみることで、各国・地域の経済規模を調整した形で、アメリカへの各輸出国・地域の付加価値輸出の規模をみることができる。上述のとおり84、UNCTAD-Eora GVC Databaseでは、加工貿易で輸出される財について、海外からの付加価値が過小評価されている可能性があるため、ここでは OECD-WTO TiVA Databaseを用いて試算した数値(両データベースで示すことができる直近年である15年)と併せて示すこととする。
アメリカの輸出に含まれる海外付加価値額の対各国・地域GDP比をみると、北米自由貿易協定(NAFTA)によりアメリカとの貿易上の結びつきが強いカナダとメキシコで高くなっており、アメリカの輸出が減少した場合、これら両国へのGVCを通じた経済への影響が懸念される。それ以外の国・地域については、EUと日本ではいずれのデータベースでも、対GDP比で0.2~0.3%と低い。経済規模を反映して、韓国、台湾、タイ、マレーシア、シンガポールといったアジア地域でやや高くなっているものの、対GDP比で1.0%未満と低い水準にとどまっている(第1-3-32図)。
(中国の輸出の付加価値構造)
18年の中国の輸出に占める国内付加価値は約87%、海外からの付加価値は約13%となっている。中国の輸出に占める海外からの付加価値の国・地域別シェアをみると、アメリカのシェアは低下傾向にあり、95年の約13%から、18年の10%弱へと下落している。95年時点では、アメリカ、日本、EUで62%を占めていたが、18年にはその割合は約45%まで低下しており、アメリカの輸出構造と同様に、新興国のシェアの高まりがみられる。また、ASEANからの付加価値の割合が高まっており、95年の約6%から、18年の12%まで上昇している。その結果18年には日本を除くアジア(韓国、台湾、インド、ASEAN)で4分の1以上を占めている(第1-3-33図)。アメリカ、日本、EUといった先進国のシェアの低下は、中国が高付加価値の財を輸入するのではなく、自ら生産する方向に進んでいることの表れであると考えられる。また、ASEANのシェアの高まりは、中国とASEAN諸国とのGVCの中での経済的結びつきが強まっていることを示唆している。
中国の主要な輸出品のうち、コンピュータと衣服について、アメリカ、日本、ドイツの付加価値比率をみると(第1-3-34図)、いずれの財についてもアメリカと日本の低下傾向がみてとれるが、特にコンピュータでは顕著な低下が確認できる。また10年まではわずかに増加していたドイツも、15年にかけては低下を示している。これは、中国がコンピュータ等の高付加価値品の生産で使用する中間財について、徐々に海外への依存度を低下させていることを反映したものであり、仮に中国のアメリカに対する追加関税措置85によって、こうした製品のアメリカの付加価値輸出が減少した場合でも、中国のコンピュータ輸出は以前よりは影響を受けにくくなっているといえる。
次に、米中間の通商問題により中国の輸出量が減少した場合に影響を受けやすい国・地域を検証するため、中国の輸出に占める海外からの付加価値の対各国・地域GDP比をみる。中国については、加工貿易で輸出する財の割合が高いことから、ほとんどの国・地域でUNCTAD-Eora GVC Database を用いて試算した数値はOECD-WTO TiVA Databaseで試算したものよりも低い水準となっている86。特に台湾については、中国の加工貿易で輸出する財への付加価値輸出の割合が突出して高いものと考えられ、両者の差が顕著に表れているが、その他の国・地域については、両データベースを用いて試算した順位の結果はおおむね同様となっている(第1-3-34図)。
中国の輸出に含まれる海外からの付加価値額の対各国・地域GDP比は、韓国、台湾、東南アジアで高く、アメリカやEUでは低い。日本は対GDP比で0.8%程度となっており、アメリカやEUよりは高い。中国の輸出が減少した場合のGVCを通じた影響は、アジア地域で大きくなると考えられる。
アジア地域について、アメリカの輸出と中国の輸出に占める付加価値の対各国・地域GDP比と比較すると、いずれの国・地域でも中国の輸出の方が高い水準となっており、アメリカの輸出減少よりも、中国の輸出減少がGVCを通じて各国・地域に波及する影響が懸念される。
(米中の国内最終需要における海外からの付加価値構造)
ここまで、GVCの中での財の供給国(輸出国)としてのアメリカ及び中国をみてきたが、以下では財の需要者(輸入国)としての側面をみていきたい。そのため、国内最終需要(国内で消費や固定資本形成等に用いられた財)の国別付加価値構成を確認する87。
15年時点のアメリカの国内最終需要は、約88%は自国付加価値、残りの約12%が海外からの付加価値で構成されている。海外からの付加価値の国・地域別内訳では、EUが最大のシェア(約24%)を占めている。ただし、EUも含めた先進国のシェアは低下する傾向にある。05年以降シェアを拡大させているのが中国であり、05年時点では約10%であったが、15年には約20%とシェアが10年間で2倍になっている(第1-3-36図)。アメリカからの輸出財のみならず、アメリカ国内で消費・投資される財についても、中国の付加価値の比重が高まっている。
中国の国内最終需要をみると、15年時点での自国付加価値の割合は約86%、海外からの付加価値の割合は約14%とアメリカとほぼ同じ水準である。主要国・地域の中でEUが最大のシェア(約18%)を占めている点もアメリカと同様である。ただし、中国では、05年から15年までの10年間の各国・地域のシェアには大きな変化がみられない。また、韓国、台湾、ASEANが国内最終需要に占める付加価値のシェアは、中国の方がアメリカよりも高い。アメリカの付加価値のシェアは、05年時点の約11%から15年には約15%となっており、緩やかにではあるが上昇している(第1-3-36図)。
アメリカ、中国ともに国内最終需要面からみると、自国の付加価値が大半を占めているため、米中の貿易制限措置による影響は短期的には限られたものとなると考えられる。ただし、米中の付加価値輸出がお互いの国内最終需要のうちの海外からの付加価値に占めるシェアをみると、いずれも高まる傾向にある。また、シェアの拡大のスピードには差があり、中国の国内最終需要に占めるアメリカの付加価値に比べ、アメリカの国内最終需要に占める中国の付加価値のシェアは急速に拡大している。需要面からみても、アメリカは中国への依存度を着実に高めている。
(4)GVCと米中貿易:まとめ
世界全体でみると、2010年代にはGVCの停滞がみられる。そうした中、主要国の中でも中国は、GVCにおける位置付けに変化がみられる。中国は現在でも、先進国にとって重要な製品の最終組立地であることに変わりはないが、少しずつGVCの中で先進国の位置付けに近づいている。つまり、高付加価値の財を輸入に頼るのではなく、自国で生産する方向にシフトしている。これに伴いGVCへの参加も、かつては国外から中間財を輸入し加工した上で輸出する形での参加が主であったが、現在では自らが第三国に中間財を供給する形での参加も活発になっている。このことは、アメリカを始めとする先進国からみても、自国の輸出に含まれる中国からの付加価値の割合が上昇していること、そして中国からの輸入が先進国の輸出産業を支えている側面が強まっていることを意味する。
米中貿易をみると、輸出に含まれる海外からの付加価値のうち1割前後は、お互いの国から輸入した付加価値である。特に、アメリカの輸出に含まれる中国から輸入された付加価値は急速に高まっており、中国との結びつきがGVCの中で深まっている。米中間の追加関税といった貿易制限措置により米中間で互いの輸入量が減少すれば、それは自国の輸出の減少につながる可能性もある。
また、米中の輸出には、幅広い先進国及び新興国等の付加価値が含まれている。このため、米中間の貿易摩擦はGVCを通じてこれらの国にも波及すること、また、これらの国では、一般に経済の開放度が高く、また経済規模も小さいため、その影響がより大きいものとなることが見込まれる。特に韓国、台湾や東南アジアでは、アメリカの輸出よりも中国の輸出が減少した場合のGVCを通じた波及効果が大きいとみられる。
米中間の貿易摩擦は、当事者であるアメリカと中国のみならず、中国の産業の高付加価値化に伴い、自国の輸出産業が中国への依存度を高めている先進国や、中国の輸出産業を通じて結びつきを深めているアジア新興国等の貿易にも広く影響する可能性があるといえる。
(参考)付加価値貿易統計で捉えられるGVCの範囲について
典型的なGVCにおいては、部品の製造、製品の組立といった生産工程以外にも、研究開発やマーケティング等生産の前段階、後段階で付加価値が創造されている。こうした生産工程の前後の段階のサービス産業の付加価値は、生産工程で生み出される付加価値よりも高いとされているが、付加価値貿易統計では十分に捉えられていない88。また、ある国が他国から輸入した資本財を用いて製品を生産し、それを第三国に輸出した場合、その輸出の付加価値の一部は資本財を輸出した国に帰属すると考えられるが、付加価値貿易統計では、全て製品を生産した国が創出した付加価値として計上されている。