第2章 主要地域の経済動向と構造変化(第3節)
第3節 ヨーロッパ経済
ヨーロッパ経済は、英国のEU離脱問題や政治に関する不確実性に伴う政策の不透明感が継続する中、ユーロ圏では緩やかな景気回復が続く一方で、英国では景気回復が緩やかになっている。ユーロ圏においては、雇用情勢の改善に支えられた個人消費や堅調な世界需要に支えられた輸出等を中心に緩やかな回復が続くことが期待される一方で、ポピュリズム勢力の台頭懸念の再燃やスペインのカタルーニャ自治州独立問題、英国のEU離脱問題等、依然として様々なリスクに直面している。また、英国においては、EU離脱に関する国民投票後、ポンド安等による物価上昇や先行き不透明感の高まりの影響が個人消費や設備投資等にみられるなど、回復がさらに緩やかになることが見込まれる。
本節では、ヨーロッパ経済の最近の動向を振り返るとともに、今後の見通しとリスクを整理する。
1.ユーロ圏と英国の経済動向
(1)ユーロ圏経済の動向
(緩やかな回復が続く)
ユーロ圏の実質経済成長率は、13年4~6月期以降、18四半期連続のプラスを維持しており、緩やかな回復が続いている。雇用情勢の改善等を背景に、個人消費が景気回復を支え続けている(第2-3-1図)。小売売上・サービス売上・自動車販売が増加しているほか、消費者信頼感指数も記録的な高水準にあるなど、個人消費は増加基調を示している(第2-3-2図、第2-3-3図)。
主要国別に見ると濃淡があり(第2-3-4図)、引き続きドイツが個人消費を中心に内需や外需に支えられユーロ圏全体をけん引し、スペインも相対的に高い伸びを維持1する一方で、イタリアでは、生産性の低下等の構造的な問題から低水準の成長率にとどまっている(スペイン及びイタリアについては後述)。
(雇用情勢の改善にも濃淡)
ユーロ圏全体の失業率は低下傾向が続いており、足下では、2000年以降の長期平均(9.6%)を下回っている。そのような中、主要国の雇用情勢には大きな違いがみられる。ドイツの失業率は90年の東西ドイツ統一後の最低記録を更新しており、3%台半ばの歴史的な低水準で推移している。スペインの失業率は、依然として高水準ながら、13年以降、低下傾向が続いている。一方、フランス及びイタリアでは失業率が高止まりし、明確な低下傾向を示していない2。特に、25歳未満の若年層の失業率は高いままであり(第2-3-5図)、これは人的資本の蓄積を阻害し、長期的にみて潜在成長力に負の影響を及ぼすことが懸念される。
(堅調な世界需要の回復を背景に輸出は持ち直し)
ユーロ圏の輸出は、15年末ごろから弱い動きもみられたが、17年初ごろより持ち直しが続いている(第2-3-6図)。世界経済は緩やかな回復が続いており、アメリカや中国向けの輸出が好調に推移している。輸出受注も17年以降、力強い伸びを示しており、引き続き輸出の持ち直しが継続するとみられる(第2-3-7図)。
幅広い世界需要の回復が引き続き輸出を支えることが見込まれる一方で、17年に入り、年初と比べるとユーロ高方向への動きがみられ、今後の輸出への影響には留意が必要である3(第2-3-8図)。
(内外需にけん引され生産は持ち直し)
ユーロ圏の生産は、16年はおおむね横ばい傾向で推移していたが、17年半ばより持ち直している(第2-3-9図)。製造業の景況感も大幅な改善をみせ、ドイツをはじめユーロ圏全体でも11年来の高水準となっている(第2-3-10図)。こうした動きは、ユーロ圏内景気の緩やかな回復による内需の拡大や、世界需要の回復を背景とした輸出の増加に支えられている。
(機械設備投資は緩やかに増加)
ユーロ圏の機械設備投資の動きをみると、世界金融危機前の水準に回復し、緩やかに増加している。国別にみると、ドイツ、フランス及びスペインがユーロ圏全体を上回る伸びを示している一方で、イタリアでは危機前を大幅に下回る水準にとどまっている(第2-3-11図)。
ユーロ圏の設備稼働率は上昇が続いており、引き続き機械設備投資の増加に寄与すると考えられる(第2-3-12図)。また、企業の18年の設備投資計画は比較的高い伸びとなっており(第2-3-13図)、緩和的な金融政策の下支えも継続していることから、機械設備投資の増加が見込まれる。
景気の緩やかな回復や継続する緩和的な金融政策の下支えもあり、建設投資も増加傾向を示しており、同様に建設業の生産も増加している(第2-3-14図)。国別に建設投資をみると、特にドイツが高い水準にあり全体をけん引しており(第2-3-15図)、建設業の景況感も世界金融危機前の水準に回復しつつある(第2-3-16図)。
(財政政策の動向)
ユーロ圏の一般政府財政収支GDP比は、08~12年平均の-4.5%から16年には-1.5%にまで縮小した。景気回復や低金利等を背景に、19年に向けて徐々に縮小することが見込まれている4(第2-3-17図)。
EU加盟国は「安定・成長協定」(SGP:Stability and Growth Pact)5により、一般政府財政赤字や債務残高GDP比を規定の範囲内に抑えることが求められている6。ユーロ圏では、フランス及びスペインが過剰財政赤字是正措置適用国として欧州委員会の監視対象となっている(第2-3-18図)。16年にはユーロ圏の多くの国で財政収支が改善する中で、金融支援を受けているギリシャも財政収支が黒字に転換し7、過剰財政赤字是正措置の適用が終了した8(第2-3-19図)。
EU及びその加盟国は、「欧州セメスター」9を通じて、財政の健全性の確保やマクロ経済不均衡の是正等に向けた取組を進めている。緩やかな景気回復が続く中で、EU加盟国は、成長に資する財政政策を目指しつつも、長期の視点に立ち、各国ごとの課題に応じた構造改革の実行が求められている10。
(ECBは緩和的な金融緩和を継続)
16年半ば以降、エネルギー及び食料品価格の上昇によりユーロ圏の消費者物価上昇率(前年比)は上昇し始め、一時は、ECBのインフレ参照値11に達する場面もあったが(第2-3-20図)、その後、エネルギー及び食料品価格の下落に伴い全体も下落した。コア物価上昇率(前年比)は、旅行関係項目等の寄与により幾分上昇したものの、おおむね横ばいで推移している(第2-3-21図)。
ECBは、デフレリスクの解消後12も緩和的な金融政策を続けてきたが、インフレ率の動向等を踏まえ、緩和的な金融政策の見直しに慎重な姿勢がみられる。
ECBは、17年10月の政策理事会において主要政策金利を据え置く13一方で、量的緩和政策の変更を決定した。非伝統的金融政策としての資産購入プログラムについて、17年12月まで月額600億ユーロとしている資産購入額を、18年1月から少なくとも18年9月までは月額300億ユーロとすること、また、2%のインフレ率に向けた持続的な物価上昇が確認できるまでは、この期限を超えて資産買入れを行うことを決定した。加えて、経済見通しや金融環境が悪化すれば、資産購入の規模・期間を拡充する用意がある旨のフォワードガイダンスを維持した14。
ECBは17年12月に公表したマクロ経済見通しにおいて、実質経済成長率の見通しを上方修正する一方で、物価上昇率については慎重な見通しを示した15。
ユーロ圏の景気は緩やかな回復が続く一方で、コア物価上昇率は伸び悩みが見込まれるなか、ECBの金融緩和の見直しに向けた判断が注目される。
(2)英国経済の動向
英国経済は、EU離脱交渉に係る不透明感が個人消費や企業の活動に影響を及ぼしつつある。ここでは、最近の英国経済の動向と、今後の英国経済の行方を大きく左右するとみられる離脱交渉の状況をみていきたい。
(i)最近の英国経済
(景気回復が緩やかになっている英国経済)
回復を続けてきた英国経済は、17年に入り個人消費や生産に弱い動きがみられるなど、景気回復が緩やかになっている。15年末からのポンド安等に起因する物価上昇が家計の購買力を低下させ、これまで英国の経済成長をけん引してきた個人消費は、伸びが緩やかになっている。一方、こうした内需の減速を受け、一時弱い動きがみられた生産は、堅調な外需により輸出向けを中心に、持ち直しの動きがみられる。また、17年入り後のポンド安一服の影響もあり、増加基調から一時横ばいとなった輸出は、17年末ごろから持ち直しの動きがみられる。
17年7~9月期の実質経済成長率は前期比年率1.6%となるなど、17年に入り1%台と、ユーロ圏主要国と比べ低い成長が続いている(第2-3-22図)。
(輸入物価上昇の消費者物価への転嫁が進む)
15年末以降の大幅なポンド安やエネルギー価格上昇により、輸入物価や生産者投入価格は、16年に入り急速に上昇し、17年初から減速はしているものの依然上昇が続いている(第2-3-23図)。生産者産出価格についても、16年半ば以降緩やかな上昇基調を示している。また、製造企業に対し、自社の全ての財の購入時及び販売時の平均価格の上昇・下落について調査を行い、その結果を指数化した投入物価指数及び産出物価指数をみても、ポンド安に伴う投入物価の上昇を、ラグを伴い産出物価へ転嫁する傾向が見て取れる(前掲第2-3-23図、第2-3-24図)。
こうした流れを受けて、消費者物価(総合)についても16年半ばごろより上昇が加速し始めている。コア消費者物価(エネルギーと非加工食品を除く)は比較的安定して推移していたが、これについても16年末ごろから上昇率が高まっている(第2-3-25図)。
このように、ポンド安やエネルギー価格上昇等を受けて、川上の生産から川下の消費へと価格転嫁が進んでいる。
(雇用情勢は改善が続くものの賃金が低迷)
雇用情勢は、改善が続いている。失業率(ILO基準)は17年7月には4.3%にまで低下し、75年以来の歴史的な低水準となっている(第2-3-26図)。労働需給の引締まりが、就業者数を増加させるとともに、非労働力人口の労働市場への参加を促し、労働力人口も拡大させている(第2-3-27図)。他方で、EU離脱交渉に係る不透明感等から、EU諸国からの純移民は減少しており16、これによる労働市場への影響17については注視していく必要がある(第2-3-28図)。
一方、労働需給が引き締まる中でも、賃金は伸び悩んでいる。名目賃金(週平均)はおおむね横ばいで推移しているが、先にみた消費者物価の上昇を受けて、実質賃金は17年2月以降前年比マイナスが続いており、家計の購買力を低下させている(第2-3-29図)。
(物価上昇から消費は緩やかに)
これまで英国経済を支えてきた個人消費は、ポンド安等の影響による物価上昇や、先行き不透明感の高まり等による消費者マインドの悪化を受け、17年に入り一部に弱めの動きがみられはじめ、このところ増加テンポが緩やかとなっている。17年7~9月期の個人消費は、前期比0.6%と、4~6月期から伸びがやや回復したものの、16年7~9月期以降伸び率は低下基調にある(前掲第2-3-22図)。先にみたとおり、16年後半以降の物価上昇の影響により、実質賃金の伸びがマイナスとなり、消費者の購買力が低下していることや、消費者マインドが悪化していることなどが、消費を抑制してきているものと考えられる。
物価上昇による実質賃金の低下から、16年11月以降、実質小売売上高は伸びが低下傾向となっている(第2-3-30図)。また、自動車登録台数は、17年4月からの自動車税改正18の影響等もあり、大幅な減少が続いている(第2-3-31図)。
消費者マインドは、EU離脱の是非を問う16年6月の国民投票直後の7月に大幅に悪化した後、一時持ち直したものの16年秋以降悪化傾向にあり、マイナス圏内での推移が続いている(第2-3-32図)。その理由としては、英国経済の過去12か月の状況及び今後12か月の状況について悪化とみる消費者の割合が増えており、英国経済の回復テンポの鈍化及びEU離脱に伴う先行き不透明感の高まりが、消費者マインドの悪化に影響しているものとみられる。
(生産、輸出は持ち直しの動き)
英国の企業部門の動向をみると、鉱工業生産指数は、個人消費の減速等を受け、17年半ばごろから、一時弱い動きがみられたものの、堅調な世界需要に支えられた輸出向けの生産を中心に、このところ持ち直しの動きがみられる(第2-3-33図)。
輸出については、堅調な世界需要とポンド安により17年夏ごろまでは増加基調にあったものの、ポンド安一服の影響もあり、夏以降横ばいで推移した後、17年末ごろから持ち直しの動きがみられる(第2-3-34図)。製造業PMIの新規輸出受注指数をみても、持ち直しの動きがみられる(第2-3-35図)。
設備投資については、横ばいの状況が続いている(第2-3-36図)。設備投資に大きな影響を与える企業の利益率の動向をみると、製造業では上昇傾向にあるものの、サービス業では低下傾向で推移している(第2-3-37図)。また、BOE(イングランド銀行)の企業調査では、EU残留・離脱を問う国民投票直後に急激に低下した設備投資意欲は、16年秋以降回復基調にあったものの、17年半ばから停滞している(第2-3-38図)。
17年7~9月期の設備投資は前期比0.2%と横ばい圏内の動きとなっており、今後の設備投資については、EUとの離脱交渉の難航に伴う不透明感が続く中で、企業は一層慎重な判断を行っていくものと考えられる。
(BOEは10年ぶりに利上げを実施)
BOEは、17年11月に07年7月以来、およそ10年ぶりに利上げに踏み切り、政策金利を0.25%から0.50%へ引き上げた(第2-3-39図)19。インフレ率が物価目標の2%を超えて高水準で推移していることや失業率が4.3%と歴史的な低水準にあることなどを背景としている。しかしながら、物価上昇による個人消費の鈍化等、今後数年間は緩やかな成長にとどまると見込まれる20中での利上げとなった。このため、BOEには、EU離脱交渉に係る不透明感が続くなか、景気減速と物価上昇をにらみながらの難しい金融政策のかじ取りが、今後とも求められることになる。
(ii)英国のEU離脱をめぐる動向
(英国のEU離脱交渉は難航)
16年6月に実施された英国のEU離脱の是非を問う国民投票の後、急激なポンド安等に伴う物価上昇が家計の購買力を押し下げるとともに、難航する離脱交渉による不透明感が、消費者や企業のマインドに悪影響を及ぼしている。今後の英国経済の動向をみる上で重要な要因である英国のEU離脱をめぐる動きについて、概観していく(第2-3-40表)。
19年3月29日を期限とする英国のEU離脱に向けて、英国とEUは17年6月に実施された第1回の離脱交渉において、二段階のアプローチにより交渉を進めることで合意した。すなわち、第一段階として、(1)EU市民・英国市民の権利保護、(2)未払い分担金等の清算、(3)北アイルランド(英国)とアイルランド共和国の国境管理問題、の3点を最優先課題として交渉を実施し、十分な進展が認められた場合には、第二段階として、離脱後の通商関係の交渉に移行することとされた。
上記方針に従い、これまで計6回にわたる交渉が実施されてきたが、EU市民・英国市民の権利については一定の進展がみられたものの、未払い分担金等の清算について英国から具体的な金額が示されないなど交渉が難航し、17年10月の欧州理事会では第二段階への移行の決定に至らず、12月の欧州理事会において、第一段階での十分な進展が認定され、第二段階への移行が決定された。第二段階における交渉では、移行期間に係る交渉や通商関係に係る予備的議論のほか、第一段階で大筋合意した上記3点の最優先課題の具体的内容に係る交渉21が残されており、時間的制約も踏まえると22、EU離脱問題の行方には依然として不透明感が存在する。
2.ユーロ圏及び英国経済の見通し・先行きリスク
(ユーロ圏では緩やかな回復が続く一方、英国では回復が緩やかに)
ユーロ圏の景気は、雇用・所得環境の改善に支えられた個人消費の増加や世界経済の回復による輸出の増加に支えられ、引き続き緩やかな回復が続くことが期待される。
英国では、EU離脱問題の交渉難航を踏まえ不透明感が継続している影響から、回復がさらに緩やかになることが見込まれる。
国際機関等による経済見通しでは、ユーロ圏では緩やかな回復が続き、英国では回復が緩やかになると見込まれている(第2-3-41図、第2-3-42表)。
(主なリスク)
ユーロ圏及び英国における当面の主なリスクとして、以下が考えられる。
(1)英国のEU離脱問題と政策に関する不確実性
英国のEU離脱については、17年11月までに計6回の交渉が行われ、第一段階の交渉は難航したが、12月の欧州理事会で離脱後の通商関係を含む第二段階の交渉への移行が決定された(前掲第2-3-40表)。EU離脱交渉の不透明感から、企業・消費者のマインド悪化のほか、企業の設備投資の抑制や拠点の移転、移民の流出等の具体的な動きもみられている。第二段階交渉も限られた時間でまとめる必要があるなど、EU離脱問題の行方には依然として不透明感が存在する。
また、スペインのカタルーニャ自治州独立問題23をはじめとする分離独立問題24が経済に与える影響にも注意が必要である。
17年3月のオランダ総選挙、5月のフランス大統領選挙では、EU離脱等を掲げる急進右派候補の得票は伸びず、大きな混乱をもたらす結果には至らなかったものの、9月のドイツ総選挙や10月のオーストリア総選挙では反移民を掲げる政党が躍進した25。今後もイタリア総選挙(18年5月までに実施)が予定されており、政策に関する不確実性の影響に留意する必要がある。
(2)地政学的リスク
ヨーロッパでは、英国、フランス、ドイツなどで依然としてテロが頻発しており、イスラム過激派組織(ISIL)との関係も指摘されている。テロのリスクは企業・消費者のマインドの悪化、観光客の減少等を通じて、景気を下押しする可能性がある。
(3)その他のリスク
外国為替市場の動向、特にユーロ高により輸出等を通じて経済全体に与える影響に注意が必要である。
また、一部の銀行の不良債権問題に起因する金融市場の変動に引き続き注意が必要である。16年7月にEBA(欧州銀行監督機構)が主要51行を対象にストレステストを実施し、EU内の銀行部門全体としては健全であるものの、個別行の結果には大きなばらつきがあるとの結果を公表している。イタリアでは依然不良債権比率は高止まりしている。
3.スペインとイタリアの経済成長に違いをもたらした要因
(最近の経済動向)
ユーロ圏経済は、18四半期連続のプラス成長が続き、緩やかな景気回復が続いている。一方、圏内主要国間では回復の程度に差異がみられ、南欧諸国のスペインとイタリアの実質経済成長率(前期比年率)についてみると、スペインはドイツを上回る3%台の成長が続いているのに対し、イタリアでは1%台の成長にとどまっており、両国間でおよそ2%ポイントのひらきがみられる(第2-3-43図)。
このように両国の近年の成長が異なり、その水準自体にも違いがみられる要因について、需要項目別で見た成長のけん引役の確認に加え、長期の成長に影響を及ぼす潜在力についても幅広くみていく必要がある26。
需要項目別の寄与度を確認すると、スペインでは、14年以降、個人消費とともに固定資本形成がプラスに寄与しており、消費の寄与が特に大きい。内需が経済をけん引する一方で、外需も高い成長率に寄与している(第2-3-44図)。
イタリアでは、個人消費及び固定資本形成はおおむねプラスに寄与しているが、寄与度は相対的に低く、かつ安定的な寄与となっていない。また、外需も安定したけん引役となっておらず、全体として相対的に低い成長率にとどまっている状況である(第2-3-45図)。
本節では、(1)成長のけん引役の一つとしての固定資本形成の伸びの違いを、両国共通の問題としての不良債権処理の違い等を踏まえ概観した上で、(2)潜在成長率の違いをもたらした要因を成長会計を用いて探っていきたい。さらに、(3)両国のパフォーマンスの違いを競争力指数を見ることで、議論を振り返ることとしたい。
(i)スペイン・イタリアの設備投資動向と不良債権処理
(固定資本形成の動向)
スペインの固定資本形成は、欧州債務危機時の落ち込みから早期に回復し、13年後半から回復基調が続いている(第2-3-46図)。他方、イタリアの固定資本形成の回復は遅れ、14年後半からようやくプラスに転じている(第2-3-47図)。さらに、生産に大きな影響を与える機械設備投資をみると、イタリアは危機前の水準に依然として達しておらず、ユーロ圏主要国からも大きく下方にかい離している(第2-3-48図)。
これから詳しくみていくように、スペインに比べ、イタリアで不良債権処理が遅れたことが、イタリア企業の設備投資を抑制したと考えられる。そこで、以下では、まず銀行の不良債権処理について概観した上で、設備投資が伸びない要因についてみていく。
(銀行の不良債権処理)
世界金融危機以降、スペインとイタリアの銀行では不良債権比率27が上昇していったが、スペインでは13年をピークに低下し始めた一方で、イタリアでは依然として高水準のまま横ばいとなっている(第2-3-49図(1))。17年4~6月期のイタリアの銀行の不良債権比率は12%であり、ユーロ圏全体の約25%を占める28(第2-3-49図(2))。
スペインでは、02年のユーロ導入後、低金利と移民流入による建設ラッシュにより、03年から07年の住宅バブル崩壊までの5年間に住宅価格は1.5倍に上昇し、住宅ローン残高はピーク時で約6,500億ユーロにまで膨らんだ(第2-3-50図(1))。住宅バブル崩壊による悪影響は、建設・不動産業にとどまらず、国内経済の広範囲におよび、多くの銀行が不良債権の増大に直面した。翌08年には世界金融危機、さらに11年後半以降の欧州債務危機の深刻化と続き、2度の景気後退により企業の経営状態が長期にわたり悪化し、債務負担が増大(後掲第2-3-60図)する一方で、ソブリン・リスクの高まりとともに国債価格の下落が銀行の収益を圧迫し(第2-3-51図、第2-3-52図)、不良債権問題はさらに深刻化していった。この状況に対し、スペイン政府は、12年7月にESM(欧州安定メカニズム)29に債務支援を申請し、銀行への積極的な公的資本注入や資産管理会社30の創設等の対応を行い、不良債権比率を引き下げていった(第2-3-49図(1))。
一方、イタリアでは、低金利による住宅需要はスペインほど過熱しなかったが(第2-3-50図(2))、企業の債務負担は世界金融危機から増大し、近年、緩やかに低下してはいるものの、高水準の状態が続いている(後掲第2-3-60図)。また、イタリアでは、企業セクターが高レバレッジや低収益性により脆弱であった中、元来、銀行数31が多く競争が激しいため貸出審査が甘かったことが加わり、持続的な不良債権の増加につながったことが指摘されている32。不良債権比率は世界金融危機以前から高く、ユーロ圏平均の2倍以上であったところに、世界金融危機と欧州債務危機によりさらに拡大していった(第2-3-49図(1)、(2))。しかし、イタリアが官民をあげて不良債権問題に対応し始めたのは、14年のECBによる「包括アセスメント」33の結果発表後であった。銀行再編の促進、債権回収の迅速化、不良債権スキームの構築といった取組が行われてきた34が抜本的な解決には至らず、17年6月には地方銀行2行が破たん処理されるなど35、不良債権問題の解消に向けた取組は依然として続けられている。イタリアの不良債権処理がスペイン等と比べて遅れた背景として、イタリアの会計・税制等の制度的な要因が指摘されている36。
(設備投資伸び悩みの要因)
次に、イタリアにおける設備投資の伸び悩みの要因と考えられる、(1)企業マインド、(2)設備投資稼働率、(3)資金調達コスト、(4)銀行の貸出条件と企業の資金需要についてみていく。
企業マインド:
企業マインドを製造業PMIでみると、12年以降、両国とも上昇トレンドにあり、世界金融危機前の水準までおおむね回復している。イタリアについては、一時的に落ち込む時期もあったが、両国とも景況感の改善と悪化の基準である50ポイントを上回って推移しており、マインド面で両国に大きな差はみられない(第2-3-53図)。
設備稼働率:
製造業の設備稼働率をみると、イタリアは世界金融危機前の水準にようやく戻り始めているが、スペインはいまだ金融危機前の水準にいたっていない(第2-3-54図)。しかしながら、両国とも稼働率は上昇傾向にあり、水準的にもほぼ同レベルであることから、稼働率の面でも大差はない。
資金調達コスト:
資金調達コストについてみると、企業の設備投資判断に重要な影響を与える貸出金利は、14年以降、ECBの緩和的な金融政策により低下し、ユーロ圏主要国でほぼ同水準となっている。ユーロ圏の資金調達環境は総じて良好であり、この点でも両国に差はみられない(第2-3-55図)。
銀行の貸出条件と企業の資金需要:
ユーロ圏主要国の銀行の貸出条件をみると、世界金融危機が生じた07~08年ごろと欧州債務危機が深刻化した11年後半から12年初にかけて厳格化しており、特にイタリアで顕著となっている。その一方で、設備投資等に向けた企業の資金需要も減少し、供給・需要双方の要因から設備投資の抑制へとつながったと考えられる(第2-3-56図(1)・(2)、前掲第2-3-48図)。
供給側の要因としての銀行の貸出条件の厳格化には、不良債権の存在が大きく影響したと考えられる。スペインとイタリアの貸出条件の推移の違いをみると、11年以降、終始スペインが落ちついた動きを示している一方で、イタリアの貸出条件は、11年末から14年初にかけて大幅に厳格化され、逆に15年初から16年末にかけて大幅に緩和されている(第2-3-56図(1))。スペインでは、銀行の資産規模(名目GDP比)が大きく(第2-3-57図)、財政収支が悪化していく中で不良債権処理に対する国の追加的な財政負担への懸念もあり(第2-3-58図)、早期に不良債権処理に着手されることとなった。他方、イタリアでは、前述のとおり14年のECBによる包括アセスメントの結果を待って、政府と銀行の対応が本格化した。
イタリアの貸出条件の厳格・緩和の要因37をみると、イタリアでの11年末から14年初の大幅な厳格化と15年初から16年末にかけての大幅な緩和の理由として、「リスク認識」や「競争圧力」38に加えて、「銀行の資本コスト及びバランスシート制約」が挙げられている(第2-3-59図)。これは不良債権の存在が銀行のバランスシートを制約した影響の現れと考えられ、不良債権問題への対応のタイムラグが、銀行の貸出条件と設備投資につながる企業への貸出に影響を与えたとみられる。
また、需要側の要因として企業債務39をみると、スペインは07年にかけて住宅バブルの影響から急増した後、減少が続き16年にはユーロ圏の平均水準にまで低下したのに対し、イタリアは増加傾向で推移し、12年に減少に転じたもののスペインを上回る水準が続いている(第2-3-60図)。こうした企業の債務負担も企業の投資判断に影響を及ぼし40、設備投資を抑制する一因になったと考えられる41。
以上みてきた通り、スペインは住宅バブルから財政危機に見舞われたが、ESMによる金融支援を得て不良債権処理に早期に着手するなど構造改革を進め、以降13四半期連続で高い経済成長率を維持している。これに対し、イタリアは、政府・民間の債務に問題はあったが(前掲第2-3-51図、第2-3-60図)、ユーロ圏内では総じて深刻な緊急性はなく、更に政局が不安定42で大胆な政策をもって改革が進められなかったこともあり、構造改革が遅れ、相対的に低い成長率にとどまったと考えられる。
(ii)スペイン・イタリアの潜在力の違い
OECDの試算43する18年の潜在成長率(前年比)は、スペイン0.9%、イタリア0.2%と両国ともOECD平均の1.7%より低いが、スペインの方が相対的に高い伸びとなっている。以下では、両国の成長率が異なるその他の要因を探るため、成長率を労働、資本及び全要素生産性の3要素に分け、成長会計により両国を比較することとしたい。
(労働投入)
まず、労働投入について、これを労働時間の要因と労働力構成の変化を示す労働の質要因に分割して成長への寄与をみると、時間要因については、09年の世界金融危機までは、両国の水準に差はあるものの、いずれもプラス寄与が続いている。その後、世界金融危機及び欧州債務危機により、13年までは両国ともおおむねマイナスに寄与したが、14年の回復局面では、スペインがプラス寄与に転じたのに対し、イタリアはマイナス寄与にとどまっている(第2-3-61図)。他方、教育で測った労働の質要因についてみると、スペインでは、金融危機、欧州債務危機時においてもプラスに寄与しており、かつ、比較的高い寄与となっている。これに対し、イタリアではわずかなプラス寄与にとどまり、両国の労働力構成の差が示唆される。
労働力構成の差をみるために、両国の雇用者を学歴別にみると、スペインでは大卒者の比率が相対的に高く、かつ増加傾向にある。一方、イタリアでは大卒者の比率が約2割強で横ばいとなっている(第2-3-62図)。人的資本の面ではスペインの方が高度であり、成長率に対する労働投入の寄与の差となって現れていると考えられる。両国の労働力構成の推移は、今後の長期の成長力にも影響すると考えられる。
また、両国の長期人口推計によると、スペインでは緩やかな人口増加が見込まれるのに対し、イタリアでは出生率の低下44等により緩やかな減少が見込まれている(第2-3-63図)。今後の労働投入の寄与の面からは、特にイタリアについては、労働の質の高度化が求められると言える。
この点、スペイン、イタリア両国とも失業率が高く、特にスペインはユーロ圏でギリシャに次ぐ高い水準にある中、若年層の失業率の高さも問題となっている(第2-3-64図(1)、(2))45。若年層の失業状態が継続することにより、長期的な人的資本の蓄積・高度化が阻害され、労働投入の面から長期の成長力にも悪影響を及ぼすと考えられる。長期の成長力を高めるため、人的資本の蓄積・高度化を進める観点から、若年層の失業率を引き下げる政策が求められる。
(資本投入)
次に資本投入について、IT資本と非IT資本に分けてみると、両国とも非ITを中心に09年の世界金融危機までは、水準の差はあるものの、おおむねプラスの寄与が続いている(前掲第2-3-61図)。世界金融危機後は、スペインでは水準を下げながらもわずかにプラスに寄与している一方で、イタリアではおおむねマイナスの寄与となっている。14年の回復局面においては、スペインでは資本投入がプラス寄与、イタリアではマイナス寄与となっており、資本蓄積の差が現れたと考えられる。
GDPに占める固定資本形成(住宅投資を除く)の割合をみると、03年以降、スペインがイタリアを超え、世界金融危機から13年までは両国とも低下しているが、14年以降イタリアが低下を続けているのに対し、スペインは再び上昇している(第2-3-65図)。
また、固定資本形成46のうち、長期的な産業競争力の向上に資すると考えられる研究開発投資の割合は両国に差はないものの、生産性・効率性を高めると考えられるIT、通信、教育を含めた投資でみると、06年以降、スペインがイタリアを上回っている(第2-3-66図)。固定投資の量のみならず質の面でもスペインの優位が示唆され、資本投入そのものの成長率への寄与の一方で、全要素生産性を通じた長期的な成長力の向上にも寄与している可能性がある。
加えて、企業が債務を有する状況下で固定投資が進まない要因として、企業規模の影響も考えられる。Vermeulen (2000)は、企業の資産構成が企業の投資活動に対し負の影響を増幅する47フィナンシャル・アクセラレータ仮説48に基づき、ドイツ、フランス、イタリア及びスペインの企業を対象に、脆弱なバランスシート(資産構成)が、特に小規模企業の投資活動を制約し、その効果は景気後退局面で強いことを実証的に論じている。企業が小規模になるほど、特に債務を有する場合には、投資に対する余力が相対的に小さくなる可能性がある。この観点から、スペイン及びイタリアの企業規模を従業員数別にみると、両国の中小企業の割合はほぼ同じながら、小規模企業の割合についてはイタリアの方が幾分高くなっている(第2-3-67表)。また、1企業当たりの労働力人口を見ても、イタリアの方が小規模であることが分かる49(第2-3-68表)。
(全要素生産性)
労働・資本の投入量では説明できない残差であり、広義の技術力を示す全要素生産性の伸びの推移をみていきたい。全産業ベースでは、07年までは両国ともに低下傾向で推移し、世界金融危機時には、スペインがさほど低下していないのに対し、イタリアは大きく低下した。11年以降はイタリアがスペインの伸びを上回っている(第2-3-69図)。
ただし、製造業でみると、07年までは、スペインは上昇傾向であるのに対し、イタリアはおおむね横ばい圏内で推移している。世界金融危機時には、両国とも低下しており、特にイタリアが09年に大きく低下している。その後、両国とも回復する中、13年以降、スペインが急上昇する一方で、イタリアは緩やかな伸びにとどまっている(第2-3-69図)。
世界金融危機後の推移を産業別にみると50、スペインでは、12年ごろから電気・ガス・水道、金融・保険等いくつかの産業で全要素生産性が大幅に低下しており、これらが全体を押し下げたものと考えられる(第2-3-70図)。
顕著な伸びの違いがみられた製造業のほか、金融・保険については、スペインが低下の一方で、イタリアはやや上昇といった違いがみられる(第2-3-71図)。また、スペインでは、宿泊・外食が低下する一方で、情報通信、卸売・小売、運輸・倉庫、不動産が上昇している。これに対しイタリアでは、卸売・小売が上昇する一方で、宿泊・外食、不動産は横ばい、情報通信、運輸・倉庫は低下している。
このように全要素生産性については、まず、製造業で異なる動きがみられる。すなわち、世界金融危機以前のトレンドが異なること(スペイン:上昇、イタリア:おおむね横ばい)、世界金融危機による影響の度合いが異なること(スペイン:小、イタリア:大)、また、近年の回復期の伸びが異なること(スペイン:急上昇、イタリア:緩やかな伸び)が分かる。製造業のうち、スペインでは主要な輸出品目51の輸送機器、一般機械・機器の生産性の伸びが顕著な一方で、イタリアの主要輸出品目52の一般機械・機器、繊維・衣類・皮革、輸送機器は低い伸びにとどまっている(第2-3-72図)。製造業の全要素生産性の伸びの違いは、両国の輸出競争力の差を示唆しているものと考えられ、外需を通じた成長率の水準の差にも影響している可能性がある(前掲第2-3-44図、第2-3-45図)。
OECD (2015)は、生産性の伸びが鈍化する中で、各国は、大幅かつ確実な改善の可能性がある生産性の伸びの源泉に注目すべきとし、主要な源泉として、高生産性企業から他企業への知識の伝播力の活用、雇用のスキル・ミスマッチの削減による高生産性企業の成長促進の2点を挙げている。また、イタリアやスペイン等、スキル・ミスマッチの割合が極めて高い国々53では、人材をより有効に利用することで生産性を高めることができるとしている。加えて、スキル・ミスマッチが起こる割合が高いのは、小企業や古い企業が数多く存在する場合であるとしている54。
これらの観点から、産業別の1企業当たりの雇用者数をみると、製造業、卸売・小売、宿泊・外食、情報通信、不動産等でイタリアの方が相対的に小規模の企業が多いことが分かる(第2-3-73表)。また、産業別の高成長企業55の割合をみると、おおむねイタリアの方が低く、前述の産業では特に大きな差がみられる。さらに、若い高成長企業を意味する「ガゼル企業」56の割合も、同様にイタリアの方が低くなっている。
また、OECD (2017)は、「ゾンビ企業」57は投資を直接抑制するだけでなく、資源の効率的な配分を妨げることで他企業の投資も抑制し、生産性の高い企業の市場シェア拡大を妨げることで全要素生産性の伸びを抑制し得るとしている。この点、McGowan et al. (2017)は、効率的な破産制度は、市場による企業淘汰の強化及び既存企業の資源再配分を通じてゾンビ企業による「資本の埋没」58を減らし、生産性全体の伸びを高めるとしている。両国企業の廃業率をみると、イタリアが緩やかに上昇する一方で、スペインは低下しており、かつ、小規模企業が相対的に低く、イタリアのみならずスペインにおいても低生産性企業の残存の可能性が示唆されている(第2-3-74図)。
イタリアでは小規模ながらも高い付加価値を生み出す競争力の高い企業が存在59する一方で、小規模企業数の多さに加え、低生産性企業の残存や、高成長企業及び新しい成長企業の割合の低さが、イタリアにおける全要素生産性成長率の相対的な低さにつながっている可能性がある。
(iii)競争力の差
ここでの最後に、世界経済フォーラムの2017年版国際競争力ランキングを見ることで、これまでの議論を振り返ってみよう。このランキングによれば、08年と比較してイタリア及びスペインともに順位を上げているが、イタリアはスペインより相対的に下位に甘んじている(第2-3-75表)。ランキングを構成する12の柱60のうち、高等教育、労働市場の効率性、技術進歩のいずれの面でも、イタリアがスペインに遅れる結果となっている。
先の議論でみてきたように、スペイン及びイタリアは、労働・資本面での構造的な潜在力の差が存在しており、IT投資等を通じて全要素生産性経由でも成長への寄与度に差が出ている。すなわち、両国を比較すると、労働及び資本の質の両面でスペインが相対的に有利とみられる。また、小規模企業、高成長企業及び新しい成長企業の割合の違いが生産性に一定程度影響している可能性もある。これらの両国の差が、短期の経済成長のみならず、長期的な潜在成長力の差にもつながり得ると考えられる。
なお、OECDの試算61によると、18年の構造的失業率は、スペイン15.0%、イタリア9.1%と共にOECD平均の6.1%を大きく上回っており、両国ともに特に若年層の失業による損失が人的資本を劣化させ、労働の質の面から潜在成長力を抑制する可能性がある62。また、同年の生産的資本ストック(Productive capital stock)の伸び63は、イタリアが-0.3%とマイナスであるのに対し、スペインはOECD平均の1.4%を上回る2.0%となっており、資本蓄積の違いも見て取れる。
このように、国際競争力ランキングは、これまで見てきた両国の差を別の指標から裏打ちする結果となっている。労働市場の効率性については、両国とも低位にあり、先に見たように両国の失業率は高い水準にある。しかしながら、スペインでは高水準ながらも13年以降は改善が続いている一方で、イタリアは依然として高止まりしているという差が生じている。特に、若年層の失業は長期的な蓄積の観点から大きな損失となっており、労働市場の効率性を高めることで、構造的な若年層失業率を低下させることが望ましいと考えられる64。
12の柱のうち金融市場については、不良債権問題を反映して両国とも大きく順位を落としているが、イタリアは137か国中126位と、最低位のレベルとなっている。設備投資が短期的な経済成長のみならず、長期の経済成長にも影響を及ぼすことを考えると、不良債権問題の解消を通じた金融システムの健全化、企業の負債処理プロセス(レバレッジ解消)の促進は、喫緊の課題であり、その早期解決が望まれる。