第2章 主要地域の経済動向と構造変化(第4節)

[目次]  [戻る]  [次へ]

第4節 アジア経済

本節ではまず、中国経済の最近の動向を振り返るとともに、2018年の見通しとリスクを整理する。次に、中国経済において今後のけん引役として期待される個人消費について、都市部と農村部の消費動向・インターネット消費の拡大の観点から考察する。

また、17年に入り再び拡大する世界の半導体需要の動きと、韓国及び台湾における半導体等の電子部品の輸出・生産の動きについて考察する。

1.中国経済の動向

中国では、15年10月に開始された小型乗用車減税や16年以降高い伸びを続けているインフラ投資等の各種政策効果もあり、景気は持ち直しの動きが続いている。実質経済成長率は、17年1~3月期及び4~6月期前年比6.9%、7~9月期同6.8%となり、年間目標である6.5%前後の成長率を上回って推移している(第2-4-1図)。

世界経済の緩やかな回復に伴い、輸出が持ち直すとともに、所得環境が改善する中で、乗用車減税の下支え効果もあり、個人消費の伸びは堅調に推移している。他方、過剰生産能力の削減、環境汚染対策の強化など、構造改革への取組も進められる中、一部業種を中心とした生産の減少など、その影響と考えられる動きもこのところみられる。また、過熱感もみられる不動産市場については、16年末以降、随時実施されてきた価格抑制策の効果もあり、価格上昇の勢いは落ち着きつつある。

第2-4-1図 中国の実質経済成長率
第2-4-1図 中国の実質経済成長率

17年10月には、5年に一度の中国共産党第19回全国代表大会が開催され、初日に、習近平総書記による報告が行われ、20年までに「小康社会」(ややゆとりのある社会)を全面的に完成させた上で、(1)20年から35年までに「小康社会」の全面的完成を土台に、「社会主義現代化」を基本的に実現し、(2)35年から21世紀中葉までに「社会主義現代化」の基本的実現を土台に、「富強・民主・文明・調和の美しい社会主義現代化強国」を築き上げるとの目標が掲げられた。

経済政策については、前回の党大会で示されたような数値目標は示されず、中国経済が既に高速成長の段階から質の高い発展を目指す段階へと切り替わっているとの認識を示した上で、「品質第一、効率優先」の方針を堅持し、供給側構造改革を主軸として、経済の革新(イノベーション)力と競争力を高めていかなければならないとした。供給側構造改革の内容としては、過剰生産能力・過剰在庫・過剰債務の解消、コストの低減、脆弱部分の補強を堅持する一方で、「製造強国」づくりの加速、先進的製造業の育成等を促進していくとしている。今後、中国政府は、質の高い発展を目指す中で、安定を重視しながらも、構造改革への取組に向けた姿勢を強めていくものとみられる。

以下では、最近の中国経済の動向について概観し、今後の見通しとリスクを点検する。

(1)個人消費は伸びがおおむね横ばい

個人消費の動向をみると、小売総額(実質値)は、16年後半以降伸びがやや低下していたものの、17年4月ごろからは、前年比9%前後の伸びが続いている(第2-4-2図)。特に、17年に入ってからは、農村部の伸びが都市部の伸びを大きく上回っている(第2-4-3図)。この背景には、実店舗の整備が不十分な中、幹線道路の整備が進む農村部で、インターネット販売を通じて財やサービスの購入が可能となったことも一因として挙げられる。インターネット小売は17年に入ってから伸びが加速し、前年比で30%を超える増加となっている(第2-4-4図)。これを財・サービス別にみると、サービスが特に高い伸びを示しており、8月以降前年比50%を超えて増加している。

第2-4-2図 小売総額
第2-4-2図 小売総額
第2-4-3図 都市・農村別小売総額
第2-4-3図 都市・農村別小売総額
第2-4-4図 インターネット小売
第2-4-4図 インターネット小売

次に、乗用車販売の動向をみると、乗用車販売台数1は、17年1月から小型乗用車減税2の減税幅が縮小された影響を受け、17年初には前年比マイナスとなった。その後、減税幅縮小の影響も徐々にはく落していき、年半ばごろから持ち直しの動きがみられたが、当初16年末を減税期限としていたことによる駆け込み需要の影響により、16年が高水準となったこと等から、前年比では年後半以降再び伸びが低下している(第2-4-5図)。排気量別では、減税対象である1.6L以下の乗用車が、17年に入り乗用車全体の伸びを下回り、前年比マイナスが続いている(第2-4-6図)。小型乗用車減税は、17年末が減税期限であることから11月の乗用車販売台数が約259万台と高い水準になるなど、年末にかけて駆け込み需要が生じているとみられ、18年初にその反動が生じる可能性もあるため、留意が必要である。

なお、商用車3の販売台数は、16年秋ごろから伸びが高まり、17年以降前年比15%程度の増加が続いている。車種別にみると、トラックで伸びが高まっており、過積載に対する規制強化4により需要が増加しているものと考えられる。

第2-4-5図 自動車販売
第2-4-5図 自動車販売
第2-4-6図 乗用車販売(排気量別)
第2-4-6図 乗用車販売(排気量別)

また、消費者マインドをみると、消費者信頼感指数5は、16年以降上昇傾向を示しており、17年4月以降は過去10年で最も高い水準に達している(第2-4-7図)。このうち、今後6か月間の雇用情勢と世帯収入の状況に対する予測で構成される消費者期待指数は、17年9月以降120ポイントを超えており、当面消費は堅調に推移すると期待される。

第2-4-7図 消費者信頼感指数
第2-4-7図 消費者信頼感指数

こうした消費者マインド改善の背景には、堅調な所得・雇用環境が挙げられる。一人当たり可処分所得をみると16年にはやや伸びが鈍化したものの、17年に入ってからは再び伸びが高まっており、17年1~9月期は前年比7.5%となっている(第2-4-8図)。

雇用情勢をみると、都市部新規就業者数は、伸びがやや上昇しており(17年4~6月期前年比0.5%、7~9月期同3.4%6)、17年10月時点で1,191万人となり、17年の目標(年間1,100万人)を達成した。

また、1%の実質経済成長率に対して何万人の雇用が創出されるかを示す雇用弾性値をみると、17年1~9月期はやや低下しているものの、11年以来上昇を続けており、16年には成長率1%当たり、196万人の雇用が創出されている(第2-4-9図)。こうした雇用は、主に第三次産業で創出されており、全就業者に占める第三次産業のシェアは上昇傾向を示している。雇用弾性値の上昇には、雇用吸収力の高い第三次産業の発展という中国における産業構造の変化が背景にある。中国における第三次産業の発展の程度を第三次産業が名目GDP及び就業人口に占めるシェアにより主要先進国と比較すると、中国はそれぞれ50.2%、42.4%といずれについてもいまだ低い水準にとどまっている(第2-4-10図)。このため、第三次産業が成長する余地は依然大きいと考えられ、更に第三次産業への産業構造の変化が進展すれば、雇用創出による消費拡大が促され、今後の中国経済をけん引していくと期待される。

第2-4-8図 一人当たり可処分所得
第2-4-8図 一人当たり可処分所得
第2-4-9図 雇用環境
第2-4-9図 雇用環境
第2-4-10図 GDP及び就業者に占める第三次産業のシェア(16年)
第2-4-10図 GDP及び就業者に占める第三次産業のシェア(16年)

(2)生産は伸びがおおむね横ばい

(鉱工業生産の動向)

鉱工業生産は、16年は前年比6%程度で推移した後、17年に入った後はやや伸びを高め、6%台半ばから7%台で推移している。しかしながら、業種により動きに違いがみられる。

業種別に生産動向をみると、コンピュータ・通信等や自動車といった業種は高い伸びで推移する一方で、鉄鋼等の鉄金属加工、アルミ等の非鉄金属加工といった業種では伸び率が低下している(第2-4-11図)。これらには、中国政府が進める過剰生産能力の削減や環境保護対策の強化7が影響を与えているものとみられる。

第2-4-11図 鉱工業生産(付加価値ベース、実質)
第2-4-11図 鉱工業生産(付加価値ベース、実質)
(過剰生産能力の削減)

過剰生産能力の削減については、16年2月に粗鋼及び石炭の16年の削減目標が国務院より公表され、17年3月の全国人民代表大会(全人代)では、過剰生産能力の削減が引き続き重要課題として強調されるとともに、17年の削減目標が新たに掲げられた(第2-4-12表)。16年の年間削減目標は達成され、17年についても、国家統計局によれば、11月時点で削減目標以上を達成したとしている。

第2-4-12表 設備削減の目標
第2-4-12表 設備削減の目標

なお、削減目標の対象外ではあるが、16年以降、政府が取締りを強化してきた地条鋼8(既定の品質を満たさない違法鋼材)についても、17年11月時点で1.4億トンの生産能力を削減したとしている9

(環境汚染対策の強化)

中国では、近年、大気、水質、土壌等の環境汚染が深刻な問題となっており、環境汚染対策が強化されている。14年に「環境保護法」が大幅に改正され、地方政府の環境保護の責任と権限が強化されるとともに、違反企業に対する厳しい罰則等が規定された(15年施行)。さらに、環境保護の実効性を高めるため、16年から、2年ごとに各省に中央政府の環境監査チームが派遣され、地方政府による環境保護の取組への監視・監督が実施されており、今年8月に実施された4回目の監査で全省を一巡している。こうした取組により、環境保護法の罰則適用件数(5類型総計)は、17年1~9月累計で2万8,000件を超え、昨年の2倍以上の件数となっている10

さらに、大気汚染、水質汚染、土壌汚染等の分野について、個別の行動計画が設けられている。17年については、大気汚染防止行動計画の目標最終年にあたり、環境保護部により、8月に北京、天津及び周辺26都市を対象とした冬季(17年10月~18年3月)の行動計画が公表されている。同計画では、PM2.5の平均濃度及び重度汚染の発生日をそれぞれ前年比15%以上削減するとの数値目標が設けられている。当局は、目標達成のため、大気汚染の監視体制を強化するとともに、石炭の消費を厳しく抑制し、鉄鋼、コークス、セメント、ガラス等の製造企業については、排出基準の遵守状況等を重点的に検査し、基準に満たない違法企業を厳しく取り締まるとしている。

10月に行われた第19回共産党大会では、供給側構造改革を更に深化するとされており、先進的製造業を発展させる一方で、過剰生産能力の解消については堅持するとされた。また、環境問題への取組についても一節が割かれ、20年までの間に取り組むべき特に重要な課題の一つとして、汚染対策が挙げられている。今後も過剰生産能力削減及び環境保護への対応は継続して進めていくものとみられ、こうした動きは、当面、生産の動向に影響を与えるものと考えられる。

(企業利益の改善)

上述のとおり、石炭、鉄鋼、非鉄金属等の産業は、過剰生産能力の削減及び環境汚染対策の双方から影響を受けているとみられる。石炭、鉄金属加工等の業種を中心に、16年後半から生産者価格(PPI)が上昇しているが、内需が堅調な中、上記のような規制強化により、供給が減少した影響等を受けているものとみられる(第2-4-13図)。

第2-4-13図 生産者価格の推移
第2-4-13図 生産者価格の推移

また、こうした価格上昇の影響は、企業利益にも及んでいる。鉱工業部門全体の企業利益の動向をみると、国内景気や輸出の持ち直しの動きを受け、16年後半から増加傾向を示している。業種別にみると、生産が好調な自動車及びコンピュータ・通信等で一貫して利益が増加している一方で、過剰生産業種・環境汚染業種である鉄金属加工及び石炭では、15年ごろまでは低下傾向をたどっていたが、16年に入り急速に回復している。この利益の急回復は、過剰生産や環境汚染への規制により生産が減少する一方で、16年後半から生産者価格が大幅に上昇した影響と考えられる(第2-4-14図)。

第2-4-14図 鉱工業部門の企業利益(業種別)
第2-4-14図 鉱工業部門の企業利益(業種別)

(3)固定資産投資は伸びがやや低下

固定資産投資は、17年後半以降、伸びに鈍化がみられている。16年以降、固定資産投資をけん引してきたインフラ関連投資は、引き続き20%近傍の高い伸びを続けており、不動産開発投資についても比較的堅調に推移する一方で、製造業投資は、17年始めにはおおむね前年比7%台で推移していたが、その後徐々に伸びが鈍化し、秋ごろには1%台となった(第2-4-15図)。

第2-4-15図 固定資産投資
第2-4-15図 固定資産投資

インフラ関連投資については、習近平総書記が党大会報告において、「水利、鉄道、自動車道路、水運、航空、パイプライン、電力網、情報、物流等のインフラ網の整備を強化する」と述べており、また、「一帯一路」の推進も引き続き重要課題とされていることから、今後も引き続き政策に支えられ、堅調に推移することが見込まれる。

また、財政以外の資金調達手段として、近年、官民連携(PPP::Public Private Partnership)が活用されており、インフラ投資の下支えとして期待する見方もある。中国政府は、14年12月にPPPの適用範囲の明確化や利用促進策を盛り込んだ指導意見を公表し11、以降、PPPは地方政府の資金調達手段の一つとなっている。PPPの計画投資額をみると、17年9月時点で17.8兆元となっている。また、投資実施額も少しずつではあるが増加している。(第2-4-16図)。ただし、投資主体別に成約件数をみると、国有資本によるものが17年上半期の件数の約6割を占めており、現段階で民間資本の活用が進んでいるとは言い難い。

第2-4-16図 PPP計画・実施額の推移
第2-4-16図 PPP計画・実施額の推移

こうした中、政府はPPPのリスクも重視しつつ、慎重に進めるべきとの姿勢を示している。財政部は、17年11月に、PPPが新たな融資プラットフォームと化し、隠れた債務リスクを増大させることを防止するとして、「PPPの総合情報管理の規範化に関する通知」を地方政府に対し発出し、PPPの趣旨や基準に合致しない事業を除外するため、各地のPPPを点検し18年3月までに報告を行うことを求めた。こうしたこともあり、PPPの先行きには不透明な点もある。

次に、製造業投資の動向をみると、コンピュータ・通信等で高い伸びが続けているほか、自動車についても堅調に推移している。他方、鉄金属加工、非鉄金属加工、化学原料・製品等については、マイナスの伸びとなるなど、弱い動きとなっている(第2-4-17図)。前述のとおり、中国政府は、過剰生産業種に対する生産設備の削減を進めるとともに、環境汚染企業に対する規制を強めており、これらの業種での投資減少が製造業投資の下押し圧力となっているものとみられる。

第2-4-17図 固定資産投資(業種別)
第2-4-17図 固定資産投資(業種別)

(4)輸出は持ち直し

輸出額(ドルベース)は、世界経済の回復に伴い、17年初に伸びが前年比プラスに転じ、その後も堅調に推移している(第2-4-18図)。また、14年後半から減少が続いていた輸入額(ドルベース)は、16年末ごろからプラスに転じ、輸出の伸びを上回って推移している。

第2-4-18図 輸出入
第2-4-18図 輸出入

輸出を品目別にみると、16年には、主要品目すべてで、前年比マイナスで推移していたが、17年に入り、輸出全体がプラスに転じ、特に、シェアの大きい電気機器・一般機械の伸びが高まっている(第2-4-19図)。

第2-4-19図 品目別輸出額
第2-4-19図 品目別輸出額

また、輸入額を貿易形態別にみると、原油をはじめとする資源価格の上昇の影響も一部あるとみられるものの、一般貿易12の増加が大きく寄与しており、堅調な内需を反映しているものとみられる(第2-4-20図)。

第2-4-20図 貿易形態別輸入額
第2-4-20図 貿易形態別輸入額

(5)不動産市場の動向

(不動産価格抑制策と不動産市場の動向)

不動産価格は、16年後半以降、不動産価格抑制策が実施されてきたことにより、一級都市ではおおむね横ばいとなっているが、二級、三級都市では、水準は比較的低いものの、依然として上昇が続いている(第2-4-21図)。それに伴い、不動産価格抑制策は、一級都市から二級、三級都市に広がっており、17年9月には重慶等の二級都市や三級都市で、住宅購入後一定期間内での再販売禁止や、1軒目の購入後一定期間内での2軒目の住宅購入の禁止といった規制が導入された。

第2-4-21図 不動産価格
第2-4-21図 不動産価格

こうした不動産価格抑制策の効果が徐々に発現しつつあるとみられ、不動産販売面積は、16年1~3月期をピークに前年比伸び率が低下し、17年7~9月期には、前年比1.1%となっている(第2-4-22図)。これにやや遅れて不動産新規着工面積も、17年半ばごろから伸びが鈍化し、1~3月期前年比11.6%から7~9月期には同0.4%にまで低下している(第2-4-23図)。

第2-4-22図 不動産販売面積
第2-4-22図 不動産販売面積
第2-4-23図 不動産新規着工面積
第2-4-23図 不動産新規着工面積
(賃貸住宅市場の整備)

中国では、投資としての需要に加え、都市部への人口流入に伴う需給のひっ迫が、不動産価格を上昇させるとともに、一部に住宅難をもたらす要因となっている。政府は、従来から、住宅難の問題を解消すべく低中所得者向けの保障性住宅13の拡充を図ってきたが、さらに、賃貸住宅の育成に向けた取組をこのところ進めている。不動産価格抑制策は主に投機の抑制を主眼としているとみられるが、他方で、住宅供給の増加につながる取組を実施していくことは、中長期的な住宅市場の安定化に資すると考えられる。具体的には、17年7月には住宅都市農村建設部等9部門により、「人口純流入の大中都市での賃貸住宅市場の発展加速に関する通知」が公表され、不動産賃貸業の発展、標準的な契約の雛形の普及や、住宅賃貸関連情報の標準化と信ぴょう性の向上、賃借人の権益保護の強化、国有企業が保有する遊休不動産等の転用等を通じた賃貸住宅の供給拡大等の方針が打ち出された。また、人口が流入している北京、上海等の13都市で試験的に規制を緩和し、集団建設用地14を利用した賃貸住宅の建設を認めるといったプログラムが開始されている。

10月の共産党大会における習近平総書記の報告でも、改めて、「『住宅は住むためのものであり、投機の対象ではない』という不動産に対する位置付けを堅持する」とした上で、「供給主体・ルートの多様化、リース方式・買上げ方式の並行を旨とする住宅保証制度の確立を急ぎ、全人民はみな住むところがあるようにする」とされた。

このように不動産市場においては、不動産価格抑制策とともに、賃貸住宅市場の整備などの中長期的な取組も行われており、現状では緩やかな価格調整が進んでいるところである。しかし、仮に不動産価格が急落した場合には、不動産開発投資の低迷や資産価値の減少による消費の停滞等の実体経済への悪影響に加え、地方財政の悪化や銀行の不良債権の増大といった問題も予想され、引き続き注視していく必要がある。

(6)企業部門の過剰債務問題

中国では、4兆元の景気対策により実施された大規模なインフラ投資等を契機に企業の債務が急拡大し、その後の景気減速により、過剰債務問題が顕在化することとなった。景気は持ち直しの動きが続いているが、この問題は、引き続きリスク要因の一つとなっている15。政府は、企業のレバレッジ比率の引下げを最重要課題として取り組んでおり、17年7月に開催された第5回全国金融工作会議16でも、この問題について言及された。以下では、過剰債務問題を企業の財務面及び銀行の不良債権比率から確認していく。

まず、経済主体別に債務残高(GDP比)をみると、企業部門(非金融企業)が大きなシェアを占めており、16年4~6月期の166.8%をピークに若干の低下がみられるものの、17年4~6月期は163.4%と、依然として高水準にある17(第2-4-24図)。

第2-4-24図 債務残高(経済主体別)
第2-4-24図 債務残高(経済主体別)

企業部門の債務については、その多くが国有企業によるものとみられる18。政府は、企業の合併・再編、デット・エクイティ・スワップ等、国有企業の債務削減に向けて取り組んでいる。国家発展改革委員会によれば、17年9月時点で77社の企業が1.3兆元を超えるデット・エクイティ・スワップの契約を締結したとしている。また、中国政府は、企業の合併・再編に加えて、混合所有制改革を進めている。これは国有企業に民間資本を受け入れる取組であり、16年12月の中央経済工作会議においても、国有企業改革の「重要な突破口」として位置付けられた。民間資本の受入れにより、コーポレートガバナンスや経営効率の改善を通じた債務の削減が期待されている。

上記のような取組が進められるとともに、先に述べたとおり(前掲第2-4-14図)、景気の持ち直しもあり、鉱工業部門の企業の利益は全体としては改善傾向にある。これが国有企業を中心とした過剰債務問題の改善につながっているかを確認するため、ROA(総資産利益率)を売上高利益率と総資本回転率に分解してみていきたい。総資本回転率は売上高を総資産で除して計算され、資本がどれだけ効率的に活用されたのかを示す指標である。過剰債務の改善は、総資本回転率の上昇につながると考えられることから、以下では、総資本回転率に着目していく。

まず、ROAの動きを鉱工業部門の企業全体と国有企業の別にみると、中国経済の緩やかな減速にともない15年初以降16年半ばまで低下し、その後、回復してきている(第2-4-25図)。この間、売上高利益率は、鉱工業部門の企業全体、国有企業ともに、15年初から16年半ばに低下した後、回復しており、国有企業が比較的大きく回復している。他方、総資本回転率は、鉱工業部門の企業全体では、15年初の1.23から16年半ばの1.13まで約9%低下した後、横ばい圏内の動きとなり、国有企業では、15年初の0.72から16年6月の0.61にまで約16%低下した後、横ばい圏内の動きとなっている。

第2-4-25図 鉱工業部門の企業の収益性指標
第2-4-25図 鉱工業部門の企業の収益性指標

この結果から、売上高利益率の回復により、国有企業においても利益改善が図られているものの、総資本回転率は、鉱工業部門の企業全体と比較して低く、かつ、15年から16年にかけての低下率が大きいことがみてとれる。前者の総資本回転率の相対的な低さは、国有企業にインフラ等、そもそも総資本回転率の低い業種が多いことが影響しているとみられる。後者の15年から16年にかけての総資本回転率の低下は、16年に民間企業の投資が大幅に減速する一方で、国有企業による固定資産投資が大きく伸びており、これが影響していると考えられる(第2-4-26図)。低下した総資本回転率が17年以降、横ばい圏内での推移となっていることから、国有企業における過剰債務問題の解消は、いまだ道半ばであることが示唆される。

第2-4-26図 固定資産投資(実施主体別)
第2-4-26図 固定資産投資(実施主体別)

次に、過剰債務問題を貸手側の銀行からみた不良債権の動向について簡単に確認していく。商業銀行全体の不良債権比率19は、17年7~9月期で1.74%と16年以後横ばいとなっている(第2-4-27図)。また、要注意債権(「関注」)加算後の不良債権比率をみると、16年7~9月期の5.38%をピークに幾分低下している。この背景としては、上述の過剰債務問題への取組や、景気の持ち直しに伴う企業業績の回復が挙げられる。

第2-4-27図 商業銀行の不良債権比率
第2-4-27図 商業銀行の不良債権比率

以上のように、過剰債務問題への取組は進められており、不良債権比率の上昇にも歯止めがかかっているところであるが、過剰債務問題の解消前に急激に企業の経営状況が悪化した場合には、経済を下押しする可能性もあることから留意を要する。

(7)金融市場の動向及び金融政策

(金融市場の動向)

17年に入り、中国政府は、金融リスクの防止に向けた動きを強めている。17年7月の全国金融工作会議では、金融の実体経済への貢献や金融リスクの防止の重要性等が強調された。その中で、人民銀行の金融システミック・リスクの防止における役割が強化されるとともに、規制当局間の連携と協力の向上を目的とした国務院金融安定発展委員会の設置が決定された。さらに、10月の共産党大会における習近平総書記の報告においても、「金融体制の改革」について触れられ、金融政策とマクロプルーデンス政策を二本柱とするコントロールの仕組みを十分なものとするとし、金融システミック・リスクを生じさせない旨が強調された。

具体的な動きとしては、理財商品20等、いわゆるシャドーバンキングについての規制の強化が相次いでいる。中国では、間接金融が主体となってきたが、比較的厳格な銀行規制を回避するために銀行貸出以外の形で行われる金融仲介が発達した。これが、理財商品をはじめとするシャドーバンキングである。シャドーバンキングの統一的な定義はないが、社会融資総量統計からその一端をうかがうことができる。社会融資総量(残高)は、17年11月末現在で174兆元となっており、そのうち銀行貸出が約119兆元、銀行貸出以外の貸付等(委託貸付、信託貸付、銀行引受手形)21が約27兆元となっている(第2-4-28図)。

第2-4-28図 社会融資総量(残高)
第2-4-28図 社会融資総量(残高)

理財商品の多くは、銀行のバランスシートから切り離されており、実態を把握し難く、販売元の銀行が暗黙の元本保証(「剛性兌付」)を行っているケースが多い上に、集められた資金の多くが不動産開発やインフラ等比較的リスクの高い投資に向かっているとみられることなどから、政府が規制に取り組んできた。さらに、銀行が、他の金融機関が発行した理財商品等に投資し、資産運用手段とすることなども行われるようになり、資金の流れがますます複雑化し、レバレッジの高まりも懸念されるようになってきた。

こうしたことを背景に、人民銀行は、17年以降、マクロプルーデンス評価の際にオフバランスの理財商品についても評価対象に含めることを決定した。また、銀行業監督管理委員会は、理財商品の業務運営や資産運用の適正化等を目的とした規制を17年3月・4月を中心に相次ぎ発出している。

このような中、理財商品の残高をみると、依然高水準ではあるものの、17年4月の30.3兆元をピークに減少し始めている(第2-4-29図)。銀行の分類別にみると、預金基盤が比較的弱い中小の金融機関を中心に理財商品等を通じた資金調達が積極的に行われてきたとみられ、株式制商業銀行、都市商業銀行といった中規模の銀行22の理財商品残高が特に顕著に増加してきた。前述のような、銀行が理財商品の募集で集めた資金について、その運用を別の金融機関の理財商品等で行う、入れ子構造について当局も問題視しているが、特に、資産運用能力が相対的に低い中小銀行において、この入れ子構造が顕著であるとの指摘もある。このように理財商品の残高は全体では減少傾向にあるものの、引き続き留意を要すると言える。

第2-4-29図 理財商品残高(銀行分類別)
第2-4-29図 理財商品残高(銀行分類別)

また、政府は、これまで、シャドーバンキングに対する規制・監督を進めてきたが、規制が包括的なものとなっていない中で、金融機関による多様な形態の資金調達手法が出現してきた。様々な金融機関が資産管理業務(金融機関が投資家の委託を受けて、受託した資産の運用・管理を行う金融サービス)を行っており、中でも銀行が発行する理財商品の規模が最も大きく23、その他にも、信託会社、ファンド、証券会社等による資産管理商品がある。(第2-4-30図)24

また、金融機関間の取引が拡大する中で、万一、流動性リスクが発現した場合には、金融システム全体が目詰まりを起こし、影響がより拡大する可能性も考えられる。

第2-4-30図 金融機関による資産管理業務の規模(16年末)
第2-4-30図 金融機関による資産管理業務の規模(16年末)

こうしたことを背景に、金融機関の資産管理業務を全般的に規制するため、共産党大会後の11月、人民銀行、銀行業監督管理委員会、証券監督管理委員会、保険監督管理委員会、国家外貨管理局の連名で、「金融機関の資産管理業務の規範化に対する指導意見」(案)25がパブリックコメントのため公表された。本意見(案)には、銀行、信託、証券等の金融機関による理財商品等の資産管理商品への暗黙の元本保証に該当する要件を明確化し、処罰の対象とすることや、運用手数料の10%をリスク準備金として計上することなどを義務付けるなどの内容が盛り込まれている。また、資産管理商品による、他の資産管理商品への投資を一階層までとするなどの規定も設けられている。本意見は、施行後、金融機関における完全実施までに、19年6月までの移行期を設けることとされている。

システミック・リスク防止に向けては、こうした包括的な規制に向けた取組が着実に進められることが必要となろう。

(金融政策)

次に、17年の金融政策についてみると、人民銀行は「穏健中立」な政策を維持し、各種規制によりバブルの抑制を意識しながらも、おおむね流動性を維持する運営を行ってきたものとみられる。

中国の金融政策については、いわゆる「国際金融のトリレンマ」から、その持続性を懸念する声も聞かれる。「国際金融のトリレンマ」では、(1)金融政策の自律性、(2)為替相場の安定(固定相場制)、(3)自由な資本移動の3つの目標を同時にすべて満たすことは不可能であり、いずれか1つの目標を放棄しなければならないとされる。このため、金融政策の独立性を維持する場合には、為替相場の安定か自由な資本移動のどちらかを放棄せざるを得ない。以下では、この観点から、中国における為替相場と資本移動について、最近の状況と規制の動向を簡単に確認していきたい。

まず、為替相場については、中国では、管理変動相場制がとられており、各営業日に、主要通貨に対する人民元為替レートの取引基準値が発表され、対ドルでは一日あたり±2%以内の変動を許容している。人民元の対ドルレートをみると、15年8月の人民元切下げ26以降、中国経済に対する不透明感等から、減価傾向で推移し、アメリカの利上げ観測等を機に16年末には一段と減価したものの、17年に入りアメリカの物価の伸び悩み等を背景にドルが減価基調にあるなか、元高基調となっている(第2-4-31図)。こうした中で、当局は17年9月に外貨リスク準備金を実質的に撤廃した27。本制度は、15年8月の人民元切下げ後に導入され、金融機関に人民元先物取引に際して予約取引額の20%を外貨リスク準備金として人民銀行に無利息で1年間預け入れるもので、金融機関にとっては為替先物取引コスト上昇となることから、人民元売りを抑制する方向に機能していたとみられている。

第2-4-31図 人民元
第2-4-31図 人民元

次に、資本移動の状況を国際収支でみると(第2-4-32図)、経常黒字が続く中、16年までは投資マネーの流出もあり流出超であった金融収支が、17年に入り流入超に転じている28。金融収支の内訳をみると主に現預金の流入が寄与しており、資金流出に対する当局の監視強化29の影響が考えられる。これに伴い、14年から16年にかけて減少が懸念されていた外貨準備高についても、17年2月以降増加している。

第2-4-32図 国際収支統計
第2-4-32図 国際収支統計

以上のとおり、中国経済に対する不透明感のなか、14年から16年にかけてみられた資本流出については、資本規制を強化することなどにより、これを抑制することで為替相場は一定程度の安定が達成されたとみられる。すなわち、「国際金融のトリレンマ」の観点では、金融政策の自律性を保ち、為替相場を一定程度安定させるため、自由な資本移動を抑制してきたといえる。

17年に入ってからは、中国経済が持ち直しの動きを続けるなかで、中国政府は、資本規制の緩和を進めてきている。例えば、17年7月から海外投資家が香港経由で中国本土の債券を売買できる「債券通」が開始されたほか、金融業等における資本規制の緩和の方針が示されている。また、10月の共産党大会における習近平総書記の報告においても、「高いレベルの貿易・投資自由化・円滑化政策を実行する」との方針が示されている。

このような資本規制の緩和を推進していく中で、金融政策の自律性を維持していくとするならば、今後、外国為替の変動を許容していくことが、一層求められることになろう。

2.中国経済の見通しと主なリスク

(政策効果もあり持ち直しの動きが続く)

中国経済は、インフラ関連投資等の各種政策効果もあり、当面は持ち直しの動きが続くものと見込まれる。

小型乗用車減税は17年末に終了したものの、所得環境の改善もあり、当面、民間消費は堅調に推移することが見込まれ、投資も引き続きインフラ関連投資に下支えされていくものとみられることから、内需は今後とも底堅く推移すると見込まれる。

他方、共産党大会において示されたように、質の高い成長を目指していく中で、安定を重視しつつも、政策の重点がより構造改革に移されるとみられ、環境汚染対策等の強化により、短期的に景気への下押し圧力が強まることも考えられる。

国際機関の見通しをみると、18年の成長率は、6%台半ばへと鈍化が見込まれている(第2-4-33表)。

第2-4-33表 国際機関の見通し
第2-4-33表 国際機関の見通し

(主なリスク)

中国経済は、不動産価格や過剰債務問題を含む金融市場の動向等によっては、景気が下振れするリスクがある。

不動産価格については、一級都市ではおおむね横ばいとなっているものの、二級や三級都市では上昇が続いており、今後も一定程度の価格調整が行われていくものと見込まれる。また、過剰債務問題については、今後も政府による取組が進められていくとみられるが、解決に向けては長期的な対応が必要との指摘もある。不動産価格の大幅な変動や過剰債務問題は、銀行のバランスシートの毀損や銀行の融資態度の慎重化につながるなど、様々な経路を通じて経済成長を阻害する可能性も否定できない。他方、リスクを抑えるべく金融規制が過剰となった場合には、銀行の融資態度の慎重化や金利上昇等を通じて実体経済を下押しする可能性がある。こうしたことから、金融市場の動向については、引き続き注視していく必要がある。

3.中国の都市部と農村部の消費動向・インターネット消費の拡大

中国では投資主導型経済から消費主導型経済への構造転換が図られており、名目GDPの需要項目別寄与率をみると、11年以降は最終消費の寄与率が資本形成を上回っており、10年代半ばから急上昇している(第2-4-34図)。そうした中で、都市部と農村部の家計消費の伸びをみると、2000年代後半ごろからそれらの差は縮小しているものの、依然として農村部の家計消費は都市部よりも低い(第2-4-35図)。しかし、第2章第4節第1項で述べたように、農村部の潜在需要の掘り起こしがインターネット小売を通して行われており、中国における消費拡大の要因の一つになっていると考えられる。本項では、消費の潜在力が比較的大きいと考えられる農村部に焦点を当てて、都市部と比較しながら所得の動向を整理するとともに、インターネットを通じた消費拡大の状況とその背景についてみていきたい。

第2-4-34図 名目GDPの需要項目別寄与率
第2-4-34図 名目GDPの需要項目別寄与率
第2-4-35図 家計消費(名目GDPベース)
第2-4-35図 家計消費(名目GDPベース)

(都市部と農村部の消費・所得の動向)

まず、一人当たり消費支出30をみると、都市部、農村部ともに増加しており、16年には都市部が約2.3万元(13年比1.2倍)、農村部が約1.0万元(同1.4倍)となり、都市部と農村部の消費支出の格差(都市部の消費支出/農村部の消費支出)も徐々に縮小しつつある(第2-4-36図)。

第2-4-36図 一人当たり消費支出
第2-4-36図 一人当たり消費支出

一人当たり可処分所得をみると、都市部、農村部ともに増加傾向31を示している。16年の一人当たり可処分所得は、都市部が約3.4万元(12年比1.4倍)、農村部が約1.2万元(同1.5倍)となっており、所得の増加が消費支出の増加につながっていることが分かる。また、所得格差(都市部の可処分所得/農村部の可処分所得)も13年以降わずかながら縮小している(第2-4-37図)。

第2-4-37図 一人当たり可処分所得
第2-4-37図 一人当たり可処分所得

この都市部と農村部の所得格差縮小の要因をみると、都市部では05~16年に所得に占める財産収入の割合がやや上昇したものの、賃金が所得の6割以上を占める安定的な構成が続いている32(第2-4-38図)。なお、財産収入が上昇している背景には、不動産価格等の資産価格上昇の影響もあると考えられる。他方、農村部では所得に占める経営収入の割合が低下する一方で、賃金の割合が上昇している。これは、経営収入は主に農業収入とみられることから、沿海部の賃金上昇を受け内陸部に進出する企業が増加したため、地方の雇用が拡大していることなどにより、労働者が第一次産業から第二次・第三次産業へ移動していることが背景にあると考えられる。加えて、都市部の賃金上昇により、農民工(出稼ぎ労働者)の賃金が上昇していることも影響しているとみられる。

第2-4-38図 所得構成
第2-4-38図 所得構成

このように、農村部での賃金の増加が、都市部・農村部間の所得格差縮小に寄与してきた。また、所得に占める賃金の割合は都市部の水準には達していないものの、農村部でも16年に4割を超えた。農村部における賃金の増加や、比較的安定した収入源となる賃金比率の上昇は、消費拡大につながると考えられることから、今後の消費主導型経済を支える要因となり得よう。

(インターネット小売の拡大)

都市部・農村部別の消費支出と所得をみたが、以下では、消費拡大に寄与していると考えられるインターネット小売について述べる。インターネット小売は16年に約5.1兆元の市場規模となり、前年比30%を超えて拡大しており、16年には小売総額全体に占めるシェア33が15.5%となっている(第2-4-39図)。

中国で本格的にインターネット小売が開始されたのは90年代終盤と言われており、インターネット小売が誕生したアメリカで学んだ留学生を中心としてビジネスが立ち上がり、そこに中国国内の創業者も加わることで発展してきたと言われている。インターネット小売開始当初はインターネット利用者が少なかったことや、システムが未熟だったことなどからなかなか発展しなかったが、03年に流行したSARS(重症急性呼吸器症候群)により外出が控えられ、インターネット小売の需要が高まったことが一つの契機となったことに加え、インターネット利用者が急速に増加したこと(後述)などから、インターネット小売は急拡大した。

第2-4-39図 インターネット小売売上高
第2-4-39図 インターネット小売売上高

インターネット小売増加の背景には、インターネット利用者の急増のほか、物流網の整備が挙げられる。これらを基盤に実店舗が少ない農村部における需要の掘り起こし等が進んでいる。以下では、これらの動向についてみていく。

まず、インターネット利用者の急増についてみると、中国は国土が広大なため遠隔地間のコミュニケーション・ツールとしてインターネットが普及しやすいという環境の中で、政府によりインターネットのインフラ整備が進められたことなどが、利用者急増の背景にあると言われている。その結果、06年に約1.4億人だったインターネット利用者34が、17年6月には約7.5億人にまで増加し、インターネット普及率は15年に50%を超え、17年6月時点で54.3%に上昇している(第2-4-40図)。特に、インターネット利用者に占めるモバイル・インターネット利用者35の割合が急拡大しており、17年6月時点で96.3%に達している(第2-4-41図)。モバイル・インターネット利用者が急拡大した要因の一つとして挙げられているのが、中国ではパソコンが普及する前に、スマートフォンが普及したことである。このことが、スマートフォンを用いたモバイル決済の発展を後押しし、インターネット小売増加の一因となったとみられる。実際、モバイルを用いたオンラインショッピング利用が増加している(第2-4-42図)。

第2-4-40図 インターネット利用者と普及率
第2-4-40図 インターネット利用者と普及率
第2-4-41図 モバイル・インターネット利用者
第2-4-41図 モバイル・インターネット利用者
第2-4-42図 モバイルを用いたオンラインショッピング
第2-4-42図 モバイルを用いたオンラインショッピング

次に、インターネット小売に不可欠な物流関係のインフラ整備についてみると、これまで政府により積極的に進められてきた道路投資は、近年でも前年比10%前後の伸びを維持している。特に、12年以降は農村部の道路への投資が増加している。面積1万平方キロメートル当たりの道路延長(キロメートル)を表す道路密度も年々高まっており、16年は1万平方キロメートルあたり約4,900キロメートル(前年比2.6%)となっている(第2-4-43図)。宅配件数をみると、11年以降前年比50%近い伸びが続き、16年には約313億件(一日当たり約0.9億件)に達しており、この急増はインターネット小売の増加が一因と考えられる(第2-4-44図)。また、中国国家発展改革委員会の「国道ネットワーク計画」では、30年までに中国全土に国道を張り巡らす計画であり、これによりインターネット小売の利便性がより高められ、市場の拡大に寄与すると見込まれる(第2-4-45図)。

第2-4-43図 道路投資額と道路密度
第2-4-43図 道路投資額と道路密度
第2-4-44図 宅配件数
第2-4-44図 宅配件数
第2-4-45図 道路ネットワーク計画
第2-4-45図 道路ネットワーク計画

最後に、今後のインターネット小売の発展に向けた課題をみると、インターネット普及率が都市部と比べ農村部で依然低いことが挙げられる。インターネット小売による農村部の潜在需要の掘り起こしが進められているが、インターネット普及率を都市部・農村部別にみると、17年6月時点で都市部が69.4%であるのに対し、農村部は34.0%にとどまっている。また、統計を取り始めた07年より普及率の差は拡大している(第2-4-46図)。農村部でインターネットが普及しない背景には、所得水準の低さや情報インフラの未整備などのほか、インターネット・リテラシーの低さが影響していると考えられる。中国インターネット情報センターによるアンケート調査36によれば、インターネットを使わない理由として、「パソコン・インターネットへの理解不足」と回答した割合が52.6%、「ピンイン37等の知識水準が低い」と回答した割合が26.9%となっている。インターネットを使わない者の6割以上(15年末)は農村部に集中していることから、特に農村部において、インフラ整備等の取組に加え、インターネット・リテラシーを向上させ、利用者サイドからの普及阻害要因を解決していくことも求められる。

第2-4-46図 インターネット普及率
第2-4-46図 インターネット普及率

農村部におけるインターネット普及には、上で見たような課題はあるものの、その余地は依然大きく、政府主導の更なる物流インフラ整備も計画されていることなどから、引き続きインターネット小売は増加していくものとみられる。インターネット小売の規模は、16年の4.7兆元から19年には7.3兆元に拡大すると見込まれている38(第2-4-47図)。

第2-4-47図 インターネット小売市場の見通し
第2-4-47図 インターネット小売市場の見通し

以上のように、農村部における賃金所得の増加や賃金所得比率の上昇は、都市部・農村部間の所得格差縮小に寄与するとともに、農村部の消費支出の増加につながることが見込まれる。また、政府主導の物流関係のインフラ整備の進展に加え、農村部を中心としたインターネット普及率の上昇が実現すれば、インターネット小売の拡大が後押しされることが見込まれる。これらのことから、今後も中国の消費は堅調に推移することが期待される。

4.韓国及び台湾における電子部品の輸出・生産動向

韓国及び台湾経済は、輸出の寄与が大きく、中でも電気機器等のシェアが最も高く、そのうち半導体等が最も多い39。輸出全体のうち、半導体等は、韓国では11.7%、台湾では30.7%を占めている(16年時点)。このため、世界の半導体需要に国内経済が大きく影響を受ける点で共通している。世界の半導体需要は、17年に入り急速に拡大しており、韓国と台湾ではともに、このところ半導体や電子部品を中心に、輸出が増加するとともに、生産にも持ち直しの動きがみられるなど、景気が回復しつつある。ここでは、世界の半導体市況と、韓国及び台湾における半導体等の電子部品の輸出・生産の動きについて考察する。

(1) 世界の半導体市場の最近の動向

世界の半導体売上高をみると、16年末から急激な回復をみせており、特に、17年4月以降は、前年比20%を超える伸びとなっている。地域別にみると、中国、アメリカ、その他アジアがこの急回復に大きく寄与している(第2-4-48図)。

第2-4-48図 世界の半導体売上高の地域別成長率
第2-4-48図 世界の半導体売上高の地域別成長率
(半導体の最終製品別動向)

半導体の動向を最終製品別にみると、15年後半から16年末にかけてコンピュータ・タブレット等の売上高が減少していたが、17年に入ってからは、それらがプラスに転じるとともに、携帯電話及びサーバー・ストレージの売上高が市場をけん引している(第2-4-49図)。

世界全体の携帯電話の売上高をみると、中国を含むアジア圏を中心に、16年末から伸びが再び高まっている(第2-4-50図)。中国では、外資系企業の携帯電話の最終組立が行われるとともに、中国製スマートフォンの市場シェアの拡大もあり40、携帯電話向けの半導体を中心に売上高が増加しているものと考えられる。

第2-4-49図 最終製品別半導体売上高
第2-4-49図 最終製品別半導体売上高
第2-4-50図 地域別の携帯電話売上高
第2-4-50図 地域別の携帯電話売上高

また、サーバー・ストレージの売上増の背景としては、ビッグデータやクラウド時代の到来により、流通するデータ量の増加にともない、データセンター等を構築する需要が拡大していることが挙げられる。また、サーバーの記憶装置として、HDDに替わり読み書きの速度に優れるSSD(フラッシュメモリが使用される)の導入が進んでいることも指摘されている。

(半導体の種類別動向)

次に、半導体の売上高を種類別にみると、17年に入ってから、DRAM及びフラッシュメモリが需要をけん引している41(第2-4-51図)。前述のとおり、携帯電話の売上の伸びが再び高まる中で、その大容量化や高機能化も進んでいること、また、サーバー向けの需要が旺盛であることが背景にあると考えられる。

第2-4-51図 種類別半導体売上高
第2-4-51図 種類別半導体売上高

DRAM及びフラッシュメモリの需給状況をみると、16年半ばにかけて供給過剰となっていたが、16年末から足下にかけての需給はひっ迫しており、これらの価格を高騰させている(第2-4-52図、第2-4-53図)。

第2-4-52図 DRAMの需給ギャップ
第2-4-52図 DRAMの需給ギャップ
第2-4-53図 フラッシュメモリの需給ギャップ
第2-4-53図 フラッシュメモリの需給ギャップ

(2)韓国・台湾の半導体等の輸出・生産動向

17年入り後の世界的な半導体市場の拡大は、先にみたとおり、主に携帯電話やサーバー・ストレージ向けのDRAMやフラッシュメモリといった一部の半導体の需要増によるところが大きい。

韓国、台湾では、半導体を含む電子部品産業が国内経済において大きな位置を占めている点で共通しており、全産業の付加価値のうち、コンピュータ・電子・光学製品製造業は、韓国で約7%、台湾で約15%を占めている(第2-4-54図)。また、全世界のIC(集積回路)及び半導体デバイス等の輸出においても、韓国が約10%、台湾が約14%のシェアを占めている(第2-4-55図)。

第2-4-54図 産業に占めるコンピュータ・電子・光学製品製造業(付加価値)
第2-4-54図 産業に占めるコンピュータ・電子・光学製品製造業(付加価値)
第2-4-55図 世界の半導体等の輸出額(16年)
第2-4-55図 世界の半導体等の輸出額(16年)

しかしながら、韓国、台湾が主とする事業形態は大きく異なっている。半導体メーカーの形態としては、IDM42(自社で製造設備を有し、設計、製造、販売、サポートまでを一貫して行う垂直統合型メーカー)、ファブレス(自社で製造工程を持たず、マーケティング、開発、セールスのみを行うメーカー)、ファウンドリ(前工程の受託製造を行うメーカー)、OSAT43(後工程の組立・検査工程を受託するメーカー)の4つの形態がある。韓国は、IDMの形態が多く、他方、台湾は、受託製造やファブレスの形態が多くとられている(第2-4-56図)。

第2-4-56図 半導体売上高の国別シェア(事業形態別)
第2-4-56図 半導体売上高の国別シェア(事業形態別)

これは、韓国と台湾の半導体等の輸出における品目構成の違いにも現れている。IC及び半導体デバイス等の輸出の内訳をみると、ICが多いことは共通しているものの、韓国では、「記憶素子」(DRAM、フラッシュメモリが含まれる)が大きく、また、近年その割合を高めており、16年で5割強となっている一方、台湾では、「その他のもの」が16年で約8割を占めている(第2-4-57図)。このことから、特に韓国が、このところのメモリを中心とする半導体市況回復の恩恵を受けているものと考えられる。以下では、この輸出構造の違いを踏まえ、韓国、台湾の輸出・生産の動向をみていく。

第2-4-57図 半導体等の輸出品目内訳
第2-4-57図 半導体等の輸出品目内訳
(半導体等の輸出動向)

韓国及び台湾の輸出動向をみると、17年に入ってから持ち直しの動きがみられ、年後半から回復が一層鮮明になっている。主力製品である電子部品の輸出の回復が寄与しており、生産の持ち直しにも波及しているが、韓国と台湾で動きに差もみられる。

韓国における電子部品・製品の輸出金額は、16年半ばから緩やかに増加している。内訳をみると、17年に入り、半導体の輸出が急激に増加している(第2-4-58図)。半導体の輸出は、金額・数量ともに伸びているが、特に金額が数量の伸びを上回っており、半導体価格上昇の影響を受けたものとみられる。電子部品・製品全体(金額)でも、17年半ば以降、直近のピークである15年末を上回っている。

台湾では、電子部品の輸出は、16年末にかけて金額・数量ともに増加した後、17年に入り一時減少傾向となったが、年半ばから再び増加し、直近のピークである16年末を超える水準となっている。また、韓国とは異なり、金額と数量は同様の動きとなっている。

第2-4-58図 半導体・電子部品等の輸出金額と輸出数量
第2-4-58図 半導体・電子部品等の輸出金額と輸出数量

半導体等の最大の輸出先である、中国(香港含む)向けの輸出をみると、韓国、台湾ともに増加しており、17年に入り、特に韓国の輸出の増加が顕著となっている(第2-4-59図)。

第2-4-59図 中国・香港向け輸出
第2-4-59図 中国・香港向け輸出
(半導体等の生産動向)

韓国では、「半導体」の生産は、16年半ばから高い水準で推移しており、17年に入り一時的な減少もみられたものの、秋ごろから再び持ち直してきている(第2-4-60図)。足下では、「半導体・電子部品」についても、輸出が好調な「半導体44」にけん引されて増加しており、「半導体・電子部品」は直近のピークである16年半ばを超える水準となっている。出荷・在庫バランスをみると、「半導体」は足下でプラス幅が縮小しているものの、16年半ばから製造業全体を上回り、プラス圏内での推移となっている(第2-4-61図)。

台湾では、「集積回路(IC)」の生産は、輸出と同様の動きとなっており、17年半ばから増加傾向にあるが、「電子部品45」の出荷・在庫バランスをみると、17年半ばからマイナスとなっている。

台湾のIC産業は、主にファウンドリ産業を中心として発展してきており、TSIA(台湾半導体産業協会)によると、台湾のIC産業において、ファウンドリ生産は売上高の約5割を占めており、世界のファウンドリ市場のシェアも約7割を占めている。また、台湾のファウンドリ産業では、主にロジックICやシステムLSIを中心に受託製造が行われてきた46。WSTS(世界半導体市場統計)によれば、世界のIC市場は、16年に前年比0.8%の後、17年は同22.9%の伸びが見込まれている(17年11月時点)。他方、TSIAでは、台湾のIC産業の売上高見込みを、16年に前年比8.2%の後、17年には全体で同0.5%、主力のファウンドリ産業でも同3.8%と予測しており(17年11月時点)、メモリを中心とする今般の世界の半導体市場の好況は、台湾のIC産業には、韓国ほど大きくは及んでいないものと考えられる。

第2-4-60図 半導体・電子部品の生産動向
第2-4-60図 半導体・電子部品の生産動向
第2-4-61図 半導体・電子部品の出荷・在庫の動き
第2-4-61図 半導体・電子部品の出荷・在庫の動き

(3)今後の見通し

WSTSの予測によると、世界の半導体市場は、17年に前年比20.6%と大幅に拡大した後、18年には同7.0%と伸びが低下する見込みとなっている。半導体の種類別にみると、足下の需要をけん引しているDRAMやフラッシュメモリが含まれるメモリICの寄与が特に大きく縮小している(第2-4-62図)。このメモリICの売上高減少の背景として、増産に伴う価格下落の可能性が指摘されている。

第2-4-62図 カテゴリごとの半導体売上高予測
第2-4-62図 カテゴリごとの半導体売上高予測

まず、半導体業界全体について、半導体製造装置の売上から設備投資の動向をみると、世界全体で16年半ばから増加傾向となっているが、17年に入り、台湾は減少傾向にある一方で、韓国が急増していることがみてとれる(第2-4-63図)。先に述べたとおり、韓国の輸出はメモリICが多いため、今後のメモリIC供給の増加要因となりえる。

第2-4-63図 半導体製造装置の地域別売上高
第2-4-63図 半導体製造装置の地域別売上高

また、メモリICのうちフラッシュメモリの一つであるNAND型フラッシュメモリの多層化(3次元化)が進んでいる。これまでは、平面型が主流であったが、扱われるデータ量の増大により、より大容量に対応することができる3次元型への需要が高まっているとみられる。これに伴い、17年には3次元型の製造能力の増強が進められたが(第2-4-64図)、なお需要が供給を上回り(前掲第2-4-53図)、メモリIC価格が高騰したとの指摘がなされている。18年には製造能力の増強も一定の水準に達するとみられており、これに伴う需給の緩みから、メモリIC価格が下落する可能性が指摘されている。

第2-4-64図 世界のDRAM及びNAND型フラッシュメモリの製造能力予測
第2-4-64図 世界のDRAM及びNAND型フラッシュメモリの製造能力予測

以上のように、世界の半導体市場は、メモリICの需給ひっ迫を背景とした価格上昇に伴う売上高の急増がみられたが、18年には伸びは低下していくものと予想されている。他方、中期的にみると、近年IoTデバイスが急速に増加しつつあり47、IoT向けの多様な用途に応じ、メモリICだけではなく、アナログIC、ロジックIC、周辺機器等その他の半導体需要についてもプラス要因となっていくものとみられ、韓国、台湾の電子部品全体の成長にも寄与すると考えられる。

最後に、中国の動きについて指摘しておく。15年に中国政府は、製造業の高度化を目指す10年間の行動計画「中国製造2025」を発表し、速やかに発展させるべき10分野の重点産業の一つとして、次世代情報技術産業を挙げ、集積回路と専用設備の国産化を進めようとしている。こうした中、前掲第2-4-63図のとおり、中国における半導体製造装置の売上高は増加傾向にあり、17年7~9月期には、韓国、台湾に次いで第3位となっている。今後、中国のメーカーが半導体市場で台頭してきた場合、供給過剰から価格が下落する可能性もあり、留意が必要である。

コラム2-3:インドにおけるGSTの導入

(1)GSTの概要

インドでは、2017年7月から、物品・サービス税(GST:Goods and Services Tax)が導入された。従来、インドの間接税は、中央政府、州政府それぞれに課税権があり、多数の種類や税率等が併存する複雑な体系となっていた。GSTはそれを全国で統一し簡素化を図るもので、2006年度予算案以降、10年以上にわたる議論の末、導入に至ったものであり、歴史的な改革とも言われている。

従来、間接税として、中央政府が課す「中央物品税」、「サービス税」など8種類の中央税(注1)と、州政府が課す「州付加価値税」(州内の物品取引に課せられる)、「中央売上税」(州をまたいだ物品取引に課せられる)など9種類の州税(注2)が存在しており、州税については、州により税率も異なっていた。GSTでは、州内の取引は、中央GST(CGST: Central GST)及び州GST(SGST: State GST)に、州をまたぐ取引は、統合GST(IGST: Integrated GST)に集約され、基本税率は、物品やサービスの種類によって、5%、12%、18%、28%の4段階に設定された。例えば、物品では、米・小麦等の穀物類や生鮮野菜等は免税、その他の基本的な食品などは低税率とされる一方、家電や自動車等は28%などとなっている。なお、一部の奢侈品については、基本税率に加えて追加税が課せられる。また、アルコール、石油・エネルギー製品、電力、土地・不動産など、一部GSTの適用外となっているものもある。

また、州付加価値税については、仕入時に支払った税と販売時に受け取った税を相殺し、差額分を納付することができたが、中央売上税の場合は、相殺することができず、負担が重くなっているなどの問題があったが、GSTの導入により、こうした重複課税の問題も解消されることとなった。また、課税のタイミングを物品・サービスの供給時に統一したほか、電子申請のシステム(GSTネットワーク)導入なども行われた。

(2)導入後の経済への影響

16年8月に、GST導入のために必要な憲法改正案が可決された後、GST評議会の下での制度の詳細の決定、GST関連法案の成立など、導入に向けた準備が進められていったが、品目により異なる税率の決定が導入直前の17年5月となったことや、電子申請への移行の対応などにより、導入に伴う混乱も生じている模様である。当局は、申告期限の延長、申告が遅れた場合の罰金の免除などの負担軽減措置も随時行っている。なお、導入から4か月が経過した10月末にも期限延長措置が発表されており、混乱が長引いているものとみられる。また、導入後も、一部品目の税率の見直し等の調整が続けられている。安定的な運用に至るまでには、しばらく時間を要するものとみられる。

こうした中、製造業の生産動向をみると、GST導入直前の17年6月と直後の7月に前年比マイナスとなるなど、企業の生産活動にも影響を与えたものとみられる。

図 鉱工業生産
図 鉱工業生産

このように、GST導入に伴う混乱もみられるものの、複雑な税制が従来に比べ簡素化されたことや、州をまたぐ取引に掛かる重複課税が解消されたことなどにより、企業の負担が低減され、ビジネス環境の改善につながることが見込まれる。また、電子申請の導入は、中小企業を中心に浸透にやや時間を要するとみられるものの、課税ベースの拡大にも資すると考えられる。今後、GSTの導入により、中期的にインド経済の底上げにつながっていくことが期待される。

(注1)中央物品税、医療・トイレ整備に係る物品税、特別重要物品に係る追加物品税、繊維・繊維製品に係る追加物品税、追加関税、特別追加関税、サービス税、物品・サービスの提供に関するサーチャージ・特別目的税

(注2)州付加価値税(State VAT)、中央売上税(CST)、購買税、奢侈税、入境税、遊興税、広告税、宝くじ・賭博税、物品・サービスの提供に関するサーチャージ・特別目的税


1 16年の乗用車販売台数は2,438万台(前年比14.9%増)となった。
2 排気量1.6L以下の小型エンジン搭載車に対する車両購入税を10%から5%に引き下げる優遇策であり、15年10月1日~16年12月末日まで実施。17年は7.5%とし、18年に10%に戻した。
3 全自動車販売に占める乗用車と商用車の比率は、16年時点でそれぞれ87.0%と13.0%。
4 16年8月18日、交通運輸省等が合同で「貨物車の違法改造と過積載の取締り強化に関する意見文書」を発表した。過積載車両等による事故への対応として、これまで地方ごとに異なり多様だった制限値基準を全国で統一することにより抜本的改善を図るもの。
5 消費者信頼感指数は、期待指数と満足度指数から構成される総合指数。期待指数は、今後6か月間の雇用情勢、世帯収入の状況に対する消費者の予測を総合した指数。満足度指数は、当面の雇用情勢、世帯収入の状況、購入時期に対する消費者の判断を総合した指数。
6 都市部新規就業者数は年初来累計で公表されるため、単四半期に換算した後、前年比を計算している。
7 国務院は、「過剰生産能力の解消に関する指導意見」(13年10月15日)において、過剰生産業種として、鉄鋼、セメント、板ガラス、電解アルミニウム、造船を挙げている。
また、国務院は、「第13次五か年計画におけるエネルギー節減・排出削減の総合工作計画」(17年1月5日)において、環境汚染物排出削減強化の重点業種として、鉄鋼、セメント、板ガラス、製紙、印刷、化学工業、コークス、農産食品加工、医薬原料製造、メッキ等を挙げている。
8 鉄スクラップ等の廃材を電炉で溶かして製造した粗悪な品質の違法鋼材。生産自体が違法なため、生産能力削減目標の対象外とされる。詳細は「世界経済の潮流2017I、コラム2-2」を参照。
9 中国国家統計局「10月の国民経済運行状況」(17年11月14日)
10 環境保護部「環境保護法執行状況通知」(17年11月9日)による。環境保護法の罰則は5類型に分かれており、罰金処分、設備の差押え処分、減産・生産停止処分、拘留処分、汚染犯罪としての刑事訴追がある。
11 国家発展改革委員会「PPPの展開に関する国家発展改革委員会の指導意見」(14年12月4日)
12 中国の貿易形態の分類は、主に「加工貿易」と「一般貿易」からなる。加工貿易は、海外から輸入した原材料・部品を中国国内で加工し再輸出する形態を、一般貿易とは通常の貿易形態をいう。
13 政府が低中所得世帯に提供する、分譲価格や賃貸料に上限が設けられている住宅。いくつかの種類があり、それぞれに所得や戸籍などの要件が定められている。
14 農民等の使用する集団所有の土地のこと。中国では土地管理法により、都市部の土地は国が所有し、農村の土地及び郊外地区の土地は、法律の規定により国の所有に属する場合を除き、農民集団所有に属すると定められている。農民は集団契約により、農地・居住用として利用することができる。建物も土地の一部として扱われる。
15 IMF(2017)は、中国の過剰債務問題を中国経済の下振れリスクとして指摘し、本問題への取組強化の必要性を述べている。また、同様の理由から、17年5月・9月にアメリカの大手格付け会社2社が中国の格付けを引き下げた。
16 通常5年に一度開催される中国の金融改革を協議する会議。過去の会議は首相が開催し、銀行の不良債権処理や銀行の株式会社化改革が決定された。今回の会議は習近平国家主席が初めて開催した。
17 なお、家計部門の債務残高GDP比は、17年1~3月期に45.5%と上昇基調が続いている。この背景として不動産規制に伴う駆け込み需要等が指摘されている。
18 非金融企業の債務残高が、17年1~3月期で126兆元(BIS)であるのに対し、データの出所は異なるが、国有(地方政府の管轄下を含む)非金融企業による負債残高は90兆元(中国財政部)となっている。
19 中国の債権分類は、正常、関注(especially)、次級(substandard)、可疑(doubtful)、損失(loss)の5つがあり、次級以下3分類が不良債権として計上される。
20 理財商品は、銀行が組成・販売する集団投資スキーム。元本非保証であれば銀行のバランスシートから切り離せるものとみられ、オフバランス資産の増加や暗黙の元本保証(「剛性兌付」)が懸念されている。
21 これらは狭義のシャドーバンキングであり、人民銀行(2017)では、社会融資総量統計に捕捉されていない部分も多くあるとされている。
22 中国の商業銀行は、「大型」、「株式制」等に分類される。
23 銀行においては、理財商品のほかにも、新たな資金調達手段として、譲渡性預金(NCD)が急拡大している。NCDは、13年末に金融機関向けの発行が許可され、その後、15年に企業、個人向けの発行が解禁され、その残高は、15年の約1兆元から17年11月末には約8兆元に増加している。中国人民銀行は、17年9月から期間1年を超えるNCDの発行を禁止するとともに、18年から、資産規模5,000億元以上の銀行が発行する期間1年以内の銀行間で保有するNCDについて、銀行のMPA(マクロプルーデンス評価)の負債比率指標に含める旨を公表した。なお、人民銀行等の監督部門が14年5月に通達した通称「127号文」においては、インターバンクの負債が総負債の3分の1を超えないことが規定されている。
24 17年に入り、理財商品の残高に減少がみられる一方で、公募投資信託残高が増勢を強めている。中でも、収益率が高まりつつある、MMF(マネー・マーケット・ファンド)に資金が流入している。MMFは、債券、譲渡性預金等の短期金融商品を中心に運用がなされており、この急速な拡大は、金融市場に影響を与え得るものとみられる。
25 本指導意見(案)においては、銀行、信託、証券、基金、先物、保険といった金融機関が、投資家からの委託を受け、受託された資産を用いて投資・管理を行う金融サービスを「資産管理業務」とし、銀行の非元本保証の理財商品だけでなく、証券会社、基金管理会社、先物会社、保険会社が発行する資産管理商品等を含めて、「資産管理商品」としている。
26 15年8月11~13日に、対元の基準値のある11通貨に対して、3日間連続で切下げが実施された。累計の切下げ率は対ドルで▲4.6%。切下げの理由について、人民銀行は、基準値を市場実態に合わせた算出方法(前日終値等を参考に決定)に変更するものであるとした。従来は、銀行間為替取引の開始前に、マーケットメーカー(値付業者)に人民元の対ドルレートの気配値を確認し、それをもとに基準値を決めていた。
27 このほか、5月には人民元の対ドル中間レート(取引基準値)の計算に「逆周期因子」を導入した。人民銀行は、これにより為替市場の短期ボラティリティを抑え、ファンダメンタルズに沿ったものにするとしている。
28 捕捉できていない誤差脱漏等が大きいとの指摘もある。
29 例えば、海外での1,000元以上の決済について、金融機関の当局への報告が求められていることや、海外M&Aを旺盛に行っていた企業への信用調査等。
30 消費支出については、13年から調査方法が変更されているため、12年までの数値とは厳密には接続しない。
31 一人当たり可処分所得については、12年から調査方法が変更されているため、11年までの数値とは厳密には接続しない。
32 一人当たり可処分所得の所得構成については、13年から調査方法が変更されているため、12年までの数値とは厳密には接続しない。
33 インターネット小売の小売総額に占めるシェアは、「インターネット小売総額(中国インターネット情報センター)/小売総額(中国国家統計局)」。
34 「インターネット利用者」は、「過去6か月間にインターネットを利用した6歳以上の中国人」を指す。
35 モバイル・インターネットは、スマートフォン等によるインターネット利用を指す。「モバイル・インターネット利用者」は、「過去6か月間にモバイルでインターネットを利用した6歳以上の中国人」を指す。
36 中国インターネット情報センター(CNNIC)(2017)
37 アルファベットで表記される中国語の発音記号で、パソコン等の入力に必要となる。
38 iResearchによる。
39 輸出に占める電気機器等(HSコード85)の割合は、韓国27.1%、台湾44.2%。電気機器等に占める集積回路(IC)及び半導体デバイス等(HSコード8541及び8542)の割合は、韓国43.2%、台湾69.3%(16年、UN Comtrade)。なお、UN Comtradeには、台湾自体の数値が存在しないため、台湾が含まれるその他アジアの数値で代替している。
40 ICインサイト(17年6月15日発表)によれば、16年に世界のスマートフォン市場に占める中国上位10社のスマートフォン出荷数のシェアは約39%となっている(14年時点では約32%)。
41 集積回路(IC)は、主に次の3つのカテゴリに分けられる。ロジックIC(コンピュータやスマートフォン等のデバイスに使われるマイクロプロセッサ、CPU等)、メモリIC(PC等に使われるDRAM、USBメモリやSSDに使われるフラッシュメモリ等)、アナログIC(アナログ情報をデジタルフォーマットに変換)。
42 Integrated Device Manufacturer
43 Outsourced Assembly and Test
44 「半導体」が「半導体・電子部品」に占める割合は38%(10年=100基準)。
45 「集積回路(IC)」が「電子部品」に占める割合は36%(11年=100基準)。
46 公益財団法人アジア成長研究所(2015)
47 総務省(2017)によれば、通信、コンシューマ、コンピュータ、産業用途、医療、自動車、軍事・宇宙・航空の分野におけるIoTデバイス数は、16年の173億個から21年に328億個まで拡大する見通しとなっている。

[目次]  [戻る]  [次へ]