第1章 第4節

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中国における内製化の進展とアジア諸国への生産・投資のシフト

中国の製造業には過剰生産能力の調整を進めている業種がある一方で、内製化の進展とともに競争力を向上させている業種もみられる。また、賃金上昇によって競争力の低下した業種においては生産拠点として中国以外のアジア諸国を選択する動きもみられる。本節ではこうした動きを紹介する。

1.中国における内製化の進展

中国の製造業は原材料や部品を輸入し、これを組み立てて輸出するという加工貿易を中心に発展してきたため、輸出の付加価値生産性が低いと言われる。例えば、中国で組み立てられるアメリカ企業のスマートフォンの基幹部品の多くは他国から供給されており、中国において生み出された付加価値は極めて小さいとの分析がある1

しかし、近年こうした構造に変化が起こってきており、中国国内で部品の内製化が進み、部品から製品までを中国国内で生産できるようになってきている。

中国の輸入を加工貿易(外国から輸入した原材料・部品を国内で加工して再輸出するもの)と一般貿易(国内で消費するための輸入)に分けてみると、2008年頃から加工貿易比率の低下が鮮明になっている(第1-4-1図)。

第1-4-1図 中国の輸入構造:加工貿易比率が低下
第1-4-1図 中国の輸入構造 (備考)中国海関総署より作成。

また、OECDの付加価値貿易統計(TiVA)によると、自動車や電気機械、コンピュータその他電子部品といった高スキル業種の中には、95年時点で輸出に占める海外で生み出された付加価値の比率が70%を超える業種もあったが、同比率は近年低下しており、例えば、95年に海外で生み出された付加価値の比率が最も高かったコンピュータその他電子部品の場合、同年の74%から11年には55%に低下している(第1-4-2図)。

さらに、工業の収益構造をみると、資本集約的な業種がわずかにシェアを高めており、逆に労働集約的な業種のシェアは低下している(第1-4-3図)。加工貿易比率や海外で生み出された付加価値の比率が低下しているにもかかわらず、先にみたとおり、経済成長に占めるTFPの寄与度は低下傾向にあることから、内製化は進んでいるものの、キャッチアップ型の技術進歩の余地が少なくなってきていることが示唆される。

なお、中国では、業種によっては持ち株比率等に関する規制が課されているが2、外国企業はこのような制約条件の下でも、労働コストの低さや巨大な市場規模といった要因により投資を行い、ひいては内製化比率の向上にも寄与したとも考えられる。

第1-4-2図 輸出に占める海外で生み出された付加価値の比率:低下
第1-4-2図 輸出に占める海外で生み出された付加価値の比率 (備考)OECDより作成。
第1-4-3図 中国の工業収益構造:労働集約的な業種のシェアが低下
第1-4-3図 中国の工業収益構造 (備考)1.中国国家統計局より作成。 2.一定規模以上は年間の売上高が2,000万元以上の企業を指す。 3.労働集約的な業種は、食品加工、繊維、紙、卑金属、鉱業関連(選炭業等)、玩具製造、資本集約的な業種は、自動車、電気機械、通信、化学、鉄鋼の各業種の収益を合計したもの。 4.その他には、非鉄金属鉱物加工(セメント・ガラス)、プラスチック、造船等も含まれる。

2.アジア諸国への生産・投資のシフト

中国において賃金が上昇する中、先進国からの直接投資の相手先としてASEANの重要性が高まっている(第1-4-4図)。例えば、ヨーロッパのある大手衣料品メーカーは、生産拠点を中国からミャンマーにシフトしたと報じられている3

在中欧州商工会議所が会員向けに実施したアンケート調査によると、自社のグローバル戦略の中で中国の重要性が増していると回答した企業は、11年の79%からは低下したものの、14年は59%、15年は61%と依然として高い。現在の中国でのオペレーションを拡大させると回答した企業を産業別にみると、自動車(84%)、専門サービス(67%)、ヘルスケア(65%)となっており、縮小させると回答した産業は機械(43%)、法務(38%)、輸送(38%)であった。また、中国を将来の投資先と考える企業は、11~14年までは67~76%で推移していたが、15年には58%に低下している4

また、経団連が実施したアンケート調査(15年10月公表)によると、中国における今後のビジネス展開について、5年後においても現状維持が半数強(51.4%)、拡充が1/3強(36.5%)となっている5。さらに、ジェトロの調査によると、日本企業が国内及び国外の生産拠点を再編する際にASEANを選択する割合は、2010年度の33.6%から14年度には47.9%上昇している一方、中国を選択する割合は、同期間で32.8%から17.7%に低下している6

第1-4-4図 日本から中国及びASEANへの直接投資:ASEAN向けが増加傾向
第1-4-4図 日本から中国及びASEANへの直接投資 (備考)1.ジェトロより作成。 2.国際収支、ネット、フローベース。 3.ASEANは、タイ、インドネシア、マレーシア、フィリピン、ベトナムの5か国。

在中アメリカ商工会議所のアンケート(15年5~6月に調査)によると、ASEANへの貿易/投資を今後増やす理由として、顧客ベースの多様化(41%)に続いて、地域統合(34%)、インフラの改善(33%)が挙げられている(第1-4-5図)。

消費地としての中国の重要性の高まりを受け、海外からの直接投資のうち、製造業は12年頃から低下しているのに対し、サービス業は増加傾向にある(第1-4-6図)。

第1-4-5図 ASEANへの貿易/投資を増やす理由:顧客ベースの多様化、地域統合等が挙げられる
第1-4-5図 ASEANへの貿易/投資を増やす理由 (備考)アメリカ商工会議所 ”ASEAN Business Outlook Survey 2016”より作成。
第1-4-6図 中国への直接投資:サービスにシフト
第1-4-6図 中国への直接投資 (備考)中国国家統計局より作成。

ASEANへの投資シフトの動きは、ASEANの比較優位を向上させると考えられる。顕示比較優位指数(RCA:Revealed Comparative Advantage)7をみると、紡績製品については、中国の比較優位は横ばいである一方、ベトナムは既に中国を超えており、比較優位の差は拡大している。玩具製品についても中国の比較優位は低下傾向にあり、他のアジア諸国との差が縮小している。また、電気機器や一般機械では中国の比較優位は緩やかな上昇傾向にある。他のアジア諸国ではばらつきが大きく、マレーシアでは緩やかな低下傾向にあるもののベトナムは比較優位の向上が著しい(第1-4-7図)。

第1-4-7図 顕示比較優位指数:中国の比較優位は玩具製品では低下傾向
第1-4-7図 顕示比較優位指数 (備考)UN“Comtrade”より作成。

ASEAN諸国で軽工業品の比較優位が向上してきていることもあり、先進国の軽工業品の輸入先は、中国からアジア諸国に移行する動きがみられる。例えば、アメリカ及び日本の繊維製品やバッグ類の輸入においては、中国のシェアが高水準ながら緩やかに低下する一方、アジア諸国のシェアは緩やかに上昇している。同時に、一般機械や電気機器の輸入先において中国のシェアが大幅に上昇している(第1-4-8図)。

第1-4-8図 アメリカや日本の軽工業品輸入に占める中国及びASEANの割合:ASEANのシェアが上昇傾向
第1-4-8図 アメリカや日本の軽工業品輸入に占める中国及びASEANの割合 (備考)1.UN“Comtrade”より作成。 2.ASEANは現加盟10カ国の合計。

なお、WEF(世界経済フォーラム)の「国際競争力レポート 2015-16」によると、アジア諸国でビジネスを行う上で阻害となる要因としては、腐敗、金融へのアクセス、非効率な官僚制、不十分なインフラ等が挙げられている(第1-4-9表)。アジア各国が引き続き投資を呼び込むに当たり、これらが阻害要因にならないよう対処する必要がある。

第1-4-9表 ビジネスを行う上で阻害となる要因(上位5位)
第1-4-9表 ビジネスを行う上で阻害となる要因(上位5位) バングラデシュ 腐敗 不十分なインフラ 政府の不安定性 非効率な官僚制 金融へのアクセス 中国 不十分なイノベーション能力 金融へのアクセス 非効率な官僚制 不十分なインフラ 税率 インド 腐敗 政策の不安定性 インフレ 金融へのアクセス 政府の不安定性 インドネシア 腐敗 非効率な官僚制 不十分なインフラ 政策の不安定性 金融へのアクセス マレーシア 非効率な官僚制 金融へのアクセス 不十分なイノベーション能力 腐敗 労働者の教育が不十分 ミャンマー 金融へのアクセス 労働者の教育が不十分 政策の不安定性 腐敗 複雑な税規制 ベトナム 金融へのアクセス 政策の不安定性 労働者の教育が不十分 勤労意欲の低さ 腐敗 (備考)World Eonomic Forum (2015) より作成。

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