歴史をひもとくと、財政政策運営の失敗事例は枚挙にいとまがない。19世紀以降のソブリン・デフォルト(1)だけでも310件以上存在するとされており(2)、その中にはデフォルトを繰り返している国もある。例えば、ギリシャは、19世紀以来5回のソブリン・デフォルト(3)を経験しており、独立以来、約半分の期間はデフォルトしていた。ポルトガルも19世紀以降6回デフォルトを経験している。また、世界のデフォルトをみると、10~20年周期で多く発生しており、19世紀初頭のナポレオン戦争期、1820年代から1840年代、1870年代から1890年代、20世紀に入ってからは、大恐慌後の1930年代から50年代初め、そして80年代から90年代には新興国を中心にデフォルトが多く発生した。こうしたソブリン・デフォルトの大量発生の波は、世界的な金融危機の後に起こることが多いとされている。これは、金融危機に伴う世界的な景気後退により貿易が収縮し、新興国経済が落ち込むことに加え、金融危機により新興国への資金の流れが突然止まったり(sudden stop)、投資家のリスク回避姿勢が強まったりすることにより新興国政府の資金調達が難しくなることなど、一般に世界的な金融危機が新興国経済に与える影響が大きいことが理由として考えられている。
近年のソブリン・デフォルト事例としては、01年のアルゼンチン国債のデフォルトが記憶に新しい。本件の債務再編は現在も続いており、我が国の投資家も含め多大な損失を被っている(4)。また、通貨の減価による輸出増加にけん引されてアルゼンチン経済は回復したものの、アルゼンチンのソブリンCDSは700bps前後と現在のギリシャと同水準で推移しており、デフォルトの将来にわたる影響の大きさを物語っている。
戦後のソブリン・デフォルトは、発展途上国や新興国で発生しており、先進国では見当たらない。しかし、デフォルトには至らなかったものの、財政政策運営の失敗が危機を招いた事例はある。そこで、以下では、こうした事例として英国のIMF危機(76年)を取り上げる。また、新興国ではあるが比較的成熟した経済であるロシアのデフォルト(98年)は、当時の国際金融市場に大きな影響を与えたことから、これについても検証する。これらの事例では、長年の構造改革の遅れに何らかのショックが加わったことにより、財政状況が急激に悪化した結果、危機に陥っており、こうした危機は先進国においても起こる可能性があることを示している。