●世界金融危機発生後、先進国を中心に財政赤字が大きく拡大
多くの先進諸国では、1970年代の石油ショックと景気後退を経て、80年代の長期停滞を背景に財政赤字が拡大したが、90年代には財政ルールの導入等により財政再建が図られ、財政収支に改善がみられた。2000年代に入ると、01年のITバブル崩壊による世界的な景気後退に加え、アメリカ等主要国において経済活性化を目的とする減税や重点分野への歳出増等により、財政収支はいったん悪化したものの、その後世界的な景気回復もあって改善傾向がみられた(第2-1-1図)。
しかし、08年の世界金融危機の発生後、景気後退による税収減少、大規模な財政刺激策の実施により、多くの先進国において財政赤字は急速に大きく拡大、公的債務残高も一段と増加し、景気動向をにらみつつ、財政再建に向けた取組が求められる状況となっている(第2-1-2図)。
なお、財政悪化の状況は国により差があるが、各国の財政問題が世界経済にも影響を与え得る可能性があることにも留意が必要である。例えば、10年5月にピークに達したギリシャ財政危機では、財政状況の著しい悪化に起因してソブリン・リスクが高まり、ユーロの信認に懸念を生じさせたことともあいまって、金融資本市場の動揺をもたらし、それを通じて、欧米の企業や家計のコンフィデンスも急激に悪化した。また、多くの国で国債発行が増加しており、主要先進国全体の一般政府の債務残高(グロスベース)をみると、07年の25兆ドルから09年には32兆ドルへと7兆ドルも増加している(第2-1-3図)。これらを金融市場が消化しきれるのかどうかという点も懸念される。
●先進国の財政構造の概観
このように、主要先進国で財政赤字の拡大がみられるものの、歳出及び歳入の規模や構造については、各国で違いがみられる。
まず、歳入については、租税及び社会保険料収入を合わせた規模をGDP比でみると、国により4割超から3割以下と差がみられる。また、社会保険料収入は国により大きく異なっており、フランス、ドイツではGDP比15%超の一方、カナダでは同4.5%と3分の1以下の規模となっている(3)(第2-1-4図)。
さらに、租税及び社会保険料収入の内訳をみると、消費税収については、アメリカ、日本を除き、おおむね25~30%程度の割合となっているが、所得税収や法人税収については国により大きく異なっている。所得税収については、アメリカ等4割近くを占める国がある一方、フランス等では2割以下となっている。一方、法人税収については、日本、韓国、オーストラリアでは15%を超えているが、欧米諸国ではおおむね10%未満となっており、主たる税収源とはなっていない。
次に、歳出規模をみると、フランス、イタリアのようにGDP比50%前後の国がある一方、韓国では同30%強と、国により大きく異なる(第2-1-5図)。しかし、歳出の内訳をみると、アメリカ、韓国以外の国では、失業保険、老齢年金等の社会保障費(医療を除く)が最大の支出となっていることは共通しており、さらに、イタリア以外では、医療費が次いで大きな支出となっている。また、アメリカでも、医療費に次いで社会保障費(医療除く)が大きい。この背景としては、高齢化の進展がある。社会保障支出(GDP比)の推移をみると、高齢化の進展に伴い、老齢年金及び医療支出が増加傾向にあることがみてとれる(第2-1-6図)。
このように、現在、既に社会保障支出(年金・公的医療)は、各国の歳出の中で大きな割合を占めているが、今後、高齢化が更に進展していくにつれて、一層の拡大が見込まれ、歳出拡大圧力となっていくことが予想される。特に、年金については、多くの国で財源の確保、支給開始年齢の引上げ、給付水準の引下げ等大規模な改革への取組に着手しており、今後更なる進展が見込まれるため、支出拡大は比較的緩やかなものになる一方、医療支出については、高齢化による影響に加え、新たな医療技術による一人当たりの医療支出の増加の影響を大きく受け、大きく増加していくことが見込まれている(4)(第2-1-7図)。