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第2章 財政再建と経済成長、金融システム

  2008年秋に発生した世界金融危機とそれに伴う世界的な景気後退を背景に、現在、先進国を中心に世界的に財政赤字が拡大しており、国債発行も急増している。
  こうした中で、10年5月にピークに達したギリシャ財政危機は、経済の安定的な発展のためには、財政の持続可能性を確保することが重要であることを各国に改めて認識させた。翌6月に開催されたG20トロント・サミットにおいては、財政再建の重要性が強調され、13年までに日本を除く先進国は財政赤字を半減させることが合意された。しかし、その後、10年の夏にかけて、今回の欧米諸国における景気回復のペースが金融危機の後遺症もあって過去に比べて非常に緩やかであることが様々な経済指標から確認されることとなった。先進各国は、景気回復ペースが緩やかで高失業が続く中、財政再建と成長の両立という難しい課題に直面することとなった。
  また、ギリシャ財政危機により、財政と金融システムの密接な関係が改めて認識されることとなった。ギリシャのみならずドイツやフランスの金融機関がギリシャ国債を大量に保有していたことから、ギリシャ財政危機はヨーロッパの金融システム全体への懸念につながり、EU各国の金融監督当局は、7月には、市場の不安を払拭するため、EU全体で協調して金融機関のストレステストを実施するに至った。
  さらに、ギリシャ財政危機は、こうした危機が先進国においても起こり得ること、グローバル化により資金の流れが急速かつ大規模になっている中で、危機が時として突如かつ制御不能な形で起こり得ることも示した(1)。財政の持続可能性を確保することは、市場の信認、金融システムの安定性を維持する上でも極めて重要であることが明らかになった。
  翻って、我が国は、一般政府債務残高GDP比がほぼ200%まで上昇し、財政状況は深刻であるが、豊富な家計貯蓄を背景に、国債残高の95%が国内、特に金融機関を中心に保有されており、現時点では国債利回りも1%台前半と諸外国に比べて大幅に低い。しかしながら、高齢化の更なる進行により、こうした状況を将来にわたって維持することは難しいのではないかとの懸念から、我が国の財政の持続可能性や金融システムとの関係について不安視する意見もある(2)
  こうした状況と問題意識を踏まえ、本章では、先進国の財政赤字拡大の現状、財政と経済成長、財政と金融システムの関係について整理した後、過去の各国の経験から、財政再建の成功例、そして失敗して危機に至った例について検討し、教訓を探る。


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