08年の世界金融危機発生後、市場の流動性や安定性を確保するため、先進国を中心に、中長期国債やよりリスクの高い資産の買取り等、いわゆる非伝統的な金融政策や流動性供給策が大規模に実施されてきた。その結果、中央銀行のバランスシートの規模は急拡大し、主要な中央銀行の資産規模の合計額をみると、世界金融危機発生前(08年8月時点)の4.3兆ドルから10年10月末時点では6.8兆ドルと、1.6倍になっている(第1-1-5図)。さらに、緩慢な景気回復を背景に、アメリカでは、10年11月に追加金融緩和が実施され、11年前半にかけて中央銀行のバランスシートの規模拡大が続く見込みである。
こうした先進国における緩和的な金融政策は、市場に大量の資金を供給し、世界的な流動性の拡大をもたらしている。そして、先進国と比較して成長見通しが良好であり、また、既に金融政策を引締め方向に転じ、相対的に高金利であることなどを背景に、新興国や資源国の金融市場への資金流入が増加しており、一部で過熱感もみられる状況となっている。新興国や資源国の株価をみると、インドネシアでは史上最高値を更新し、10年10月末現在で年初来40%超、タイでも年初来30%超の上昇等となっている(第1-1-6図)。不動産価格も、インド、シンガポール、台湾等で上昇がみられ、一部でバブルの懸念もみられる。また、為替についても、タイやオーストラリアにおいて年初来10%前後の大幅な増価がみられる(第1-1-7図)。急激な資金流入は、資産価格の上昇や通貨高による輸出への影響への懸念をもたらすとともに、その多くは短期資金であるため、将来、急速な流出が起きた場合には、金融システムの安定性を脅かす可能性もある。こうしたことから、新興国では警戒感を強めており、韓国やタイ等一部の国・地域において、短期的な資金の流入抑制策や不動産関連規制の強化等の動きが相次いでいる(第1-1-8表)。
また、金価格についても、金融緩和を背景としたドル安の動きの中で、上昇傾向を一段と強めており、10年11月には史上最高値を更新している(第1-1-9図)。