第2章 先進国同時景気後退と今後の世界経済 |
第2節 ヨーロッパの景気は後退
2.ユーロ圏の景気は後退
ユーロ圏にはアメリカや日本のように景気基準日付を公式に公表している機関は存在しないが、経済成長率が2四半期連続してマイナスとなること(いわゆるテクニカル・リセッション)を判断基準とすれば、ユーロ圏の経済成長率は08年4〜6月期に前期比年率▲0.7%(99年のユーロ圏創設以来初のマイナス成長)、7〜9月期に同▲0.8%と2四半期連続のマイナスとなっており、ユーロ圏の景気は既に後退していると考えられる。
また、仮にアメリカNBER(National Bureau of Economic Research)と同様の基準を用いて、4つの重要・参照指標((1)実質所得、(2)雇用者数、(3)鉱工業生産、(4)、実質総売上(ここでは小売売上で代用))を指数化してその指標の動きをみると、これら4つの指標のうち、3つは07年7〜9月期にピークをつけ、その後減少に転じている(第2-2-19図)。このことから、ユーロ圏の景気は07年秋を山として後退局面入りした可能性があるといえよう。
なお、景気基準日付の判定ではないものの、ユーロスタットは、景気循環時計(BCC:Business Cycle Clock)を公表している(13) 。これは、GDPや消費、投資、輸出等様々な指標を比較可能な形で同一の座標平面に並べ、景気循環を4局面に分割するものである。この方式を参考に、GDP、生産、小売といった主な指標の動きをみると、いずれの指標も07年のピークから急速に悪化し、足元で左下の第3象限に入っている(第2-2-20図)。この領域は、過去の平均を下回る水準で、かつ、前年同期よりも減少していることを意味する。短期的な統計の振れなどもあることから、各象限間の移動をもって直ちに景気循環を判定することには慎重である必要があるが、このBCCの観点からもユーロ圏の後退局面入りがうかがわれるところである。
●ユーロ圏(ドイツ・フランス)の財政規律と景気対策
08年9月のアメリカにおけるリーマン・ブラザーズ破綻以降、ヨーロッパでも銀行間金利や信用リスクが上昇し、短期金融市場における資金調達困難等から、経営が悪化する金融機関が相次いだ。これを受け、各国政府は金融機関の救済策や経済対策を発表している(第2-2-21表)。
10月半ばには、金融危機の深刻化を受けて、ドイツ、フランス政府は、金融機関への資本注入、金融機関の資金調達に関する政府保証等を発表した。その後、金融危機による景気の急速な悪化に対応するため、企業の投資促進や家計の負担を緩和するための税制優遇等を盛り込んだ経済対策を発表した。
なお、欧州委員会は、11月26日に「欧州経済回復計画」(案)を加盟国に提示した。この計画はEU全体を対象に、3つのT(適時の(timely)、目標を定めた(targeted)、一時的な(temporary))の原則に基づく財政出動により、総額2,000億ユーロ規模(約25兆円)の経済対策を行うものである。なお、2,000億ユーロの内訳は、各国予算で行うものが1,700億ユーロ、EU予算で行うものが300億ユーロとなっている。
こうした金融危機対応により、各国で今後財政支出が膨らむことが予想されるため、安定成長協定に基づく財政規律は、10月15日、16日の欧州理事会において、「現在の例外的な状況(exceptional circumstance)」を反映した形で適用されることが確認されている。
金融政策の面でも、インフレ懸念の緩和や金融危機による景気の急速な悪化等を受けて、ECBは、08年10月、11月に2ヶ月連続で0.5%の利下げを行った後、12月4日には更に0.75%の引下げを行い、政策金利は2.50%にまで低下した。