第1章 世界金融危機の発生と拡大 |
第4節 金融危機再発防止に向けて
3.金融イノベーションと規制・監督
1980年代以降、金融分野における規制緩和とICT技術の発展を背景に、新しい金融商品、金融手法のイノベーションが次々と生み出されてきた。それ自体は、透明性確保と適切なリスク管理がなされていれば、資金調達コストの低減やリスク分散の効率化につながり、究極的には経済全体の資源配分の効率化、経済厚生の増大をもたらすものとして評価すべきである。例えば、住宅ローンについても、証券化手法を取り入れることによりリスクを広範な投資家に分散することができ、これまで住宅を購入することが難しかった所得層も購入が可能になったが、住宅ローン貸付けから証券化商品組成、販売に至るまでの一連の過程で十分なリスク管理がなされていなかったことが、今回の危機の引き金になった。
問題は、こうした金融イノベーションに対応して、金融機関の側に適切なリスク管理体制が構築され、また、当局の側にこれに対応する金融規制・監督体制ができているかということである。第2節でも論じたように、格付機関が発行体との利益相反問題を有しているにもかかわらず、リスク管理や監督が格付け機関に過度に依存している場合、十分なリスク管理や監督が行われているとはい言い難い。また、グローバル化もあいまって、レバレッジの急拡大など金融システム全体のリスクが増大するスピードが速くなっているが、こうしたシステミックなリスクを抑止する体制も十分ではない(54) 。
活発な金融資本市場では、「自由と規律」のバランスの中で、新たな金融商品やイノベーションが日々生まれながらダイナミックに発展していく。しかし、金融機関内外における一定の規律が欠如した場合、例えば、金融機関内でのリスク管理が機能していないような場合には、異常なブームや過剰なリスク・テイクを引き起こし、危機に至る場合があることを今回の危機は示した。「自由と規律」のバランスのとれた市場環境は、金融資本市場が健全に発展していく上で重要な基盤である(55) 。「規律」には、当局の規制だけではなく、金融機関自らのリスク管理も含まれる。
金融イノベーションは、金融資本市場の発展の鍵でもある。今回の危機により、単に規制を強化するのではなく、新たな金融イノベーションを阻害せず、かつ適切にリスクを管理できるような「より良い規制」(ベター・レギュレーション)を構築し、金融イノベーションに対応した規律付けが的確に行われる体制づくりが切に望まれる。