第 I 部 第1章のポイント
1. サブプライム住宅ローン問題の背景
●アメリカでは、2004年以降、サブプライム住宅ローンの貸出しが大幅に増加した。大半は、預金機能を持たないモーゲージカンパニーによる貸出しで、貸出しから2〜3年後に変動金利へ移行するハイブリッド型の金利構造が主流となっている。 2. サブプライム住宅ローン問題の発生とその影響
●06年後半以降、サブプライム住宅ローンの延滞率は急速に高まった。特に、05〜06年に貸付機関の融資基準が弛緩し、高リスクな貸出しが増加したことも寄与した。07〜09年にかけて金利のリセット時期を迎えるものが多く、今後延滞率がさらに上昇する可能性は高い。 3. 主要国の住宅ブームの動向とリスク
●アメリカ以外の国でも、2000年代に住宅価格の上昇が加速した国が多くみられる。スペイン、アイルランド、英国、オランダ、オーストラリア等では、アメリカ以上に過去のトレンドからの乖離が大きく今後の調整リスクに留意が必要である。 |
第 I 部 海外経済の動向・政策分析 |
第1章 サブプライム住宅ローン問題の背景と影響
アメリカでは、2000年代にかつてない住宅ブームが到来し、住宅投資の高い伸びに加え、良好な雇用・所得環境と住宅価格の上昇等に支えられた消費拡大によって堅調な経済成長を続けてきた。しかし、06年に入ると、住宅投資は減少に転じるとともに、住宅価格の上昇も鈍化し始めた。こうした住宅部門の調整をさらに長期化・深刻化させる要因として現れたのが、サブプライム住宅ローン問題である。
サブプライム住宅ローンとは信用力の比較的低い者に対する住宅ローン(1)のことであるが、その規模は住宅ローン残高の1割強(2)に過ぎない。しかし、06年後半以降に加速したサブプライム住宅ローンの延滞率、差押率の急上昇は、住宅部門の調整を遅らせる要因となるだけでなく、証券化という新たな金融技術を通して国境を越えた金融資本市場の変動にまで発展した。
本章では、サブプライム住宅ローンが普及した背景を住宅ブームや証券化の進展、国際金融環境の観点から整理するとともに、サブプライム住宅ローン問題が金融資本市場や実体経済に与える影響について考察する。また、アメリカ以外の主要国でも進展している住宅ブームの動向とそのリスクについても検討する。