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第 I 部 海外経済の動向・政策分析

第2章 高成長が続く中国経済の現状と展望

第1節 2000年代の中国経済の高成長

2.高成長の一方で拡大する不均衡

●投資の過剰
 前述のように、投資の伸びは中国経済成長の大きな原動力となってきたが、他方で「過熱」といわれる状況にもある。固定資産投資(都市部)の伸びをみると、近年前年比30%近くの高い伸びが続く中、中国政府は06年の目標を同18%としたものの、同年1〜6月期は同31.3%と非常に高い伸びとなった。
 GDPベースの固定資産投資額を活用した中国の資本ストック循環を推計してみると、90年代前半の高インフレを伴う過熱から、90年代後半にかけての調整等、ある程度の循環がみてとれる(第2-1-9(1)図)。2000年代をみると、03年にかけて投資が加速していった(右上方向への動き)後、引締め策がとられたことから04年以降は投資の伸びがやや鈍化したものの、十分な調整であったとは言い難い。また、06年1〜9月期の投資の伸びを推計してみると(2)再び加速しているものとみられる。あくまで推計ではあるが、期待成長率を10%とした場合の適正水準を上回る投資が続いており投資の過熱感がうかがえる。
 特に問題となるのは、こうした量的な面以上に投資の質の問題である。マクロ的に限界資本係数(3)の推移をみると、2000年代は高い成長にもかかわらず緩やかに上昇し05年には4.6となっている(4) (第2-1-9(2)図)。需要に応じて投資が増えていく分には適正な経済成長をもたらすことになるが、複数の業種で過剰な投資による余剰な生産能力が指摘されている(第2-1-10表)。例えば鉄鋼については、4.7億トンの供給能力のうち約4分の1にあたる1.2億トン程度が余剰能力であるといわれ、さらに、建設中、計画中のものも含めればさらなる余剰能力の発生が懸念される。自動車についても、一方で国内市場の拡大は期待されるものの、同様に余剰能力の拡大が懸念される。

●急拡大する貿易黒字
 もう一つのけん引役である輸出に関していえば、貿易黒字の拡大が続き05年には過去最高の1,020億ドル(名目GDP比4.6%)となり、さらに06年は9月までの累計で既にそれを上回り約1,100億ドルとなっている。地域別にみると、日本、韓国、台湾、ASEANといった東アジア諸国に対する貿易収支は中国の輸入超過となっている一方、アメリカ、EUについては中国の輸出超過となっている(第2-1-11図)。この傾向は、2000年代に入りより顕著に現れており、東アジア各国から中国での加工を経てアメリカ、EUの大消費地へ輸出するという東アジアの分業体制の深化を背景とした動きとなっている。とりわけ、アメリカ、EUに対する貿易黒字の拡大については、人民元レートのさらなる柔軟性を求める声が高まるなど、貿易摩擦を生み出している。


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