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第 I 部 第2章のポイント

1.2000年代の中国の経済の高成長: 投資・輸出主導の成長と拡大する不均衡

●経済成長率は03年以降二桁成長を続けている。その結果、世界全体に占める名目GDPや貿易額のシェアは高まっており、それぞれ5.1%、6.7%を占めるに至った。東アジア各国では、特に電気機器等の分野において分業体制が深化するなど、中国への輸出の増加を通じて周辺諸国の成長にも好影響となっている。
●この高成長をけん引してきた大きな要因は旺盛な投資と輸出の拡大であったが、一方で、投資の過剰や貿易黒字の急拡大といった不均衡を生じさせている。複数の業種で過剰な投資による余剰生産能力が指摘され、アメリカ、EUに対する貿易黒字の急拡大は貿易摩擦を生み出している。

2.拡大する不均衡への対処と課題:過剰投資、過剰流動性、過剰貯蓄の解消

●過剰投資による供給過剰は、デフレの発生ひいては不良債権の問題等につながることも懸念される。政府は供給過剰業種の構造調整、銀行への指導、金利引上げ等の「マクロコントロール」政策を実施しており、足元では効果の兆しもみられるが、今後も過剰投資抑制の流れを継続し、将来的な中国経済の体質強化にもつなげることが期待される。
●過剰投資を招く一因として外貨流入による過剰流動性の問題が指摘され、その背景として中央銀行による過度の人民元増価の回避と不十分とも指摘される不胎化介入が考えられる。不胎化の持続が難しくなればインフレリスクとなるなど人民元の問題は中国自身の問題でもある。人民元レートの柔軟性拡大は過剰投資や貿易黒字の解消の一つの手段となり得る。それに必要な国内金融システムの安定化等はまだ途上にあるなど、急速な柔軟性拡大を直ちに行うことには難しい面もあると考えられるが、少なくとも柔軟性拡大への備えとなる各種改革により迅速に取り組むことが重要であろう。
●貯蓄率の高さが過剰な投資を誘発している面もあり、継続する貯蓄超過は結果的に経常黒字に結びつくため、消費の拡大が重要となる。社会保障制度の問題が消費性向の低下につながっていると指摘されるなど、政策による消費環境の改善の余地はまだ多いと考えられる。

3.調和のとれた持続可能な発展に向けて:第11次5か年計画による改革の推進

●経済の高成長の下で、所得格差、環境破壊、経済構造の不均衡等の様々な矛盾や問題が生じている。これらに対処するため、03年より発足した新政権はこれまでの成長至上主義から人を主体とした立場に基づき、調和のとれた持続可能な社会を目指す「科学的発展観」の理念に基づいた第11次5か年計画(06〜10年)を策定した。
●中国はこれまで労働集約型の成長を遂げてきたが、一部地域・職種で労働コストの優位性が失われつつあるなど、産業の高度化が課題となる。そのため計画では、ハイテク産業の発展、非効率な分野の再編・淘汰等のほか、サービス業の発展やイノベーションの強化等が重要とされている。
●中国のエネルギー効率は他国と比較して非効率であるため、将来のエネルギー価格及び経済成長等への影響が懸念される。計画にも資源節約型社会の建設が掲げられているものの、さらなる努力が必要となっている。
●現状の不均衡への対処は、産業高度化、金融システムの安定、社会保障制度の整備等、中長期の成長に必要な構造的な問題にもつながっている。改革は徐々に進んではいるが、今後はさらに着実かつより迅速に改革を実行していくことにより、未来への成長、ひいては東アジアの成長にも好影響を与えていくことが期待される。


第 I 部 海外経済の動向・政策分析

第2章 高成長が続く中国経済の現状と展望

 中国経済は、1978年末の「改革・開放」以降、計画経済から市場経済への流れを徐々に推進しながらほぼ一貫して高い経済成長を達成してきた。特に、92年のトウ小平によるいわゆる「南巡講話」によって改革は加速され、外国資本の導入を積極的に行い、低い労働コストを基盤とした輸出の拡大というアジアの多くの国が経験してきた経済発展型の基礎が築かれた。2000年代には、他の東アジア諸国との分業体制の深化とともに、輸出はさらに大きく拡大し、投資・輸出主導の高成長が続いている。
 一方、高成長の中で不均衡も生み出されてきた。国内では投資の過熱感、とりわけ採算性の低い部門等での過剰な投資が問題となっている。また、世界最大の人口を抱える中国経済の発展は、その規模の大きさもあり、対外的な注目や影響も小さくなかった。2000年代初頭には、東アジアにおいて「中国脅威論」が高まりをみせ、最近は、中国輸出の大消費地であるアメリカ、EUに対する貿易黒字の急拡大により貿易摩擦が生じている。
 両者は、単に「国内的」、「対外的」といった枠組みにとどまるものではなく、翻って中国自身にとって、将来の持続的な成長のための構造的な問題とつながっている。本章では、投資・輸出主導による2000年代の経済成長を概観しつつ、その中で生じている不均衡への対処、そして、将来のさらなる成長へ向けた展望について検討する。


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