第 I 部 海外経済の動向・政策分析 |
第1章 先進各国の財政政策の動向
3.2000年代の初頭、財政金融政策とも拡張的に
以上を踏まえた上で、90年代から2000年代の景気循環と財政金融政策の関係をみてみよう(第1-2-6図) (40)。
アメリカでは、92年以降安定的な成長が続く中で構造的財政収支が傾向的に改善されてきた。しかし、2000年代に入ってからは、景気が悪化した01年、景気が回復に転じたもののその足取りが緩やかなためにGDPギャップが拡大していった02年と構造的収支が大幅に悪化しており、財政政策が景気を下支えする効果を持ったと考えられる。しかし、第1節でみたように、この期間における財政収支悪化の主因であるブッシュ減税は、元来は財政黒字を国民に還元し経済を活性化するという目的で説明されており、また、例えば10年といった中長期にわたる措置として行われている。したがって、その後景気下支えという説明もなされるようになったとはいえ、当初の意図は、景気循環に即応した裁量的政策とは異なるものであったと考えられる。財政赤字拡大のもう一つの主因である軍事費等の裁量的歳出の拡大も、イラク・アフガン紛争等への対応が目的であるが、景気を下支えする効果も持ったと考えられる。
ユーロ圏については、90年代の始めから、92〜93年の景気低迷期を含め傾向的に構造的財政赤字が縮小されてきた。しかし、2000年からドイツの減税等により構造的収支が大きく悪化している。2000年当時は景気循環のピークにあったため、こうした財政拡張は景気循環増幅的な効果を持ったと考えられる。成長率が低下した01年の財政スタンスもなお拡張的であり、景気を下支えする効果を持ったと考えられる。より低い成長にとどまった02〜03年は、構造的収支でみればほぼ中立的な財政運営がとられ、自動安定化機能が作用して循環的赤字が拡大することにより景気を支えた形になっている。
このように、アメリカ、そしてある程度はヨーロッパにおいても、この期間に財政が景気を下支えした面があり、これが世界的な景気後退を緩和する上で大きな効果を持ったと考えられる。ただし、これは、裁量的な政策が当初から計画的に実施されたというよりは、他の事情で行われつつあった政策がそうした効果をも発揮した面があることに留意すべきであろう。また、アメリカ及びヨーロッパ双方においてそうした拡張的な財政政策が可能となったのは、この時期、両地域において財政収支が相当に改善されていたためであり、同程度に拡張的な財政政策を再び行うことは容易ではないと考えられる。したがって、こうした2000年代初頭の各国の経験は、必ずしも裁量的財政政策の成功例ととらえられるべきではなく、また、現実の各国の財政事情から考えても今後は財政の中期的な安定性と健全性を重視し、自動安定化機能を活用すべきと考えられる。。
なお、実質政策金利を指標に金融政策の動向をみてみると、01年頃から各国で金融緩和が行われ、特にアメリカにおいては、デフレ懸念に対応して02、03年と引き続き非常に緩和されている(41)。ユーロ圏の金融政策も02年から03年にかけてさらに緩和されている。両地域の景気の動きをみると、アメリカでは、04年以降景気が力強いものとなってきており、ユーロ圏でも、04年、05年と景気が緩やかに回復しているところ、アメリカ及びヨーロッパとも金融政策が景気を下支えする効果も強かったと考えられる。