第 I 部 第1章のポイント
1. 1990年代以降の先進諸国の財政動向
●先進各国で90年代には、各種の財政ルールの効果もあり、財政健全化の大きな進展があったが、2000年代に入ってからは再び財政状況が悪化した国が少なくない。ただし、04年頃より各国の財政状況はやや改善をみせている。 ●アメリカの90年代の改善は、歳入面では個人所得税の累進性の強化等、歳出面では国防費等の削減が大きかった。2000年代に入ってからは減税と国防費の拡大等により悪化したが、近年は景気拡大等によりやや改善している。中期的には、一層改善する可能性もあるが、減税が恒久化され、裁量的支出がこれまでのペースで増加することなどにより、財政赤字が拡大する可能性もある。 ●ヨーロッパ各国では、90年代に財政健全化が図られたが、2000年代に入って過剰財政赤字手続が通貨統合参加12か国中6か国に対し発動されるなど収支悪化した国が少なくない。ドイツ及びフランスでは減税の寄与が、英国では教育、医療、社会保障等の歳出増の寄与が大きかった。ただし、これら各国では、04〜05年頃より緩やかに改善している。 ●90年代に財政赤字削減を行った20か国についてみると、極めて多様だが、傾向としては、財政の健全性を維持している国では、財政健全化に際して歳入増よりも歳出削減に重きをおき、また、歳出の中では社会保障等が抑制されていることなどがうかがわれる。
2. 財政政策と景気変動・経済成長
●財政の景気循環に対する自動安定化機能の大きさをみると、先進国平均でGDPギャップの1%の変化に対して、GDP比で0.44%程度循環的収支が変動するとの試算もあり、かなりの程度の景気下支え効果を持つと考えられる。 ●自動安定化機能を発揮するためには、財政健全化を進める上でも配慮が必要である。例えば、循環的収支の振れに対応する余裕を持って財政運営を行うことや景気後退の場合の例外規定を設けたりすることが考えられる。また、景気後退期には財政健全化のペースを抑制し景気拡張期には加速すれば、実質的に自動安定化機能を機能させつつ財政健全化を進めることができると考えられる。 ●近年の金融政策の進歩も、財政政策について中期的な安定性を重視すべき理由となる。景気との関係では、金融政策の役割が高まっていると考えられる。 ●2000年代の初頭、アメリカ、ヨーロッパ双方で、財政が拡張的に運営され01年以降の世界的な景気後退を緩和する上で金融緩和とあいまって大きな効果を持ったと考えられる。しかし、裁量的な政策が計画的に実施されたというよりは、ほかの事情で行われた政策がそうした効果をも発揮した面があり、各国の財政事情からも今後の財政運営は自動安定化機能を活用すべきと考えられる。 ●経済政策としての財政の役割は自動安定化機能にとどまらず、経済成長の促進や経済の効率化といった重要課題がある。経済を活性化するための税制改革や、歳出の重点化・効率化等成長促進に向けた取組が多くの国で進められている。
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